特許第6211290号(P6211290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6211290-密封装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211290
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20171002BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-82686(P2013-82686)
(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公開番号】特開2014-206187(P2014-206187A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143307
【氏名又は名称】株式会社荒井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100089381
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】財津 勝志郎
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−292160(JP,A)
【文献】 特開2007−146096(JP,A)
【文献】 特開2000−161497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の環境と他方の環境とに亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に介在され、双方の環境を互いに密封する密封装置であって、
一方の部材に固定される固定部と、他方の部材に摺動自在に接触する接触部とを有し、補強金具を埋設してなる密封装置本体を備えており、
前記接触部には、一方の環境に封入されたものが他方の環境に漏洩するのを防止するシールリップと共に、他方の環境に存するものが一方の環境に浸入するのを防止するダストリップが設けられ、
前記密封装置本体は、弾性を有するフッ素ゴムで成形されていると共に前記シールリップの先端から前記ダストリップの先端までの全範囲に亘って、他方の部材との摩擦力を低減させるフリクション低減被膜が設けられ、
さらに、前記密封装置本体は、前記補強金具の端部領域が厚肉状に形成されるとともに、前記シールリップと前記ダストリップとの分岐部領域が薄肉状に形成され、かつ前記分岐部領域は、前記補強金具の端部から離間した位置に設けられており、
前記フリクション低減被膜は、前記密封装置本体の弾性変形に追従するように、フッ素ゴム中に樹脂粒体から成る固体潤滑剤を分散させて構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
一方の環境と他方の環境とに亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に介在され、双方の環境を互いに密封する密封装置であって、
一方の部材に固定される固定部と、他方の部材に摺動自在に接触する接触部とを有し、補強金具を埋設してなる密封装置本体を備えており、
前記接触部には、一方の環境に封入されたものが他方の環境に漏洩するのを防止するシールリップと共に、他方の環境に存するものが一方の環境に浸入するのを防止するダストリップが設けられ、
前記密封装置本体は、弾性を有するアクリルゴムで成形されていると共に前記シールリップの先端から前記ダストリップの先端までの全範囲に亘って、他方の部材との摩擦力を低減させるフリクション低減被膜が設けられ、
さらに、前記密封装置本体は、前記補強金具の端部領域が厚肉状に形成されるとともに、前記シールリップと前記ダストリップとの分岐部領域が薄肉状に形成され、かつ前記分岐部領域は、前記補強金具の端部から離間した位置に設けられており、
前記フリクション低減被膜は、前記密封装置本体の弾性変形に追従するように、アクリルゴム中に樹脂粒体から成る固体潤滑剤を分散させて構成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の環境から他方の環境に亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に設けられ、双方の環境を互いに密封するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車をはじめ各種車両には、相対回転可能に対向する部材として、例えばエンジンからの動力を伝達するための回転軸(例えば、ドライブシャフト、クランクシャフトなど)と、これに対向するハウジングとの間に、種々の密封装置が設けられており、当該密封装置によって、一方の環境と他方の環境とが互いに密封されている。
【0003】
その一例として、特許文献1,2に示された密封装置(文献中では、オイルシールと称する)は、弾性を有する材料で形成されていると共に、回転軸に摺動自在に接触する接触部を有しており、これにより、当該接触部を境にして、その両側の環境が互いに密封された状態に維持されている。
【0004】
ここで、密封性について考察すると、回転軸に対する接触部の接触圧を高く(強く)すれば、密封性を向上させることができるが、反対に、回転軸と接触部との間の摩擦力(摩擦抵抗)が増加し、その結果、回転軸を円滑(スムーズ)に回転させること(即ち、潤滑性を一定に維持すること)が困難になってしまう。これに対して、回転軸に対する接触部の接触圧を低く(弱く)すれば、回転軸と接触部との間の摩擦力(摩擦抵抗)が低減し、その結果、回転軸を円滑(スムーズ)に回転させること(即ち、潤滑性を一定に維持すること)はできるが、反対に、密封性を向上させることができなくなってしまう。
【0005】
そこで、特許文献1,2には、接触部(即ち、回転軸に接触する部分)の表面に、樹脂製の被膜をコーティング(例えば、塗布、噴霧)することで、密封性の向上と共に摩擦力の低減(潤滑性の維持)を図るための技術が示されている。この場合、かかる被膜は、バインダー(結合剤)としての樹脂材料中に、樹脂粒体から成る固体潤滑剤を分散させて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−274533号公報
【特許文献2】特許4873120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記したような樹脂製の被膜は、その表面の平滑性により、回転軸に接触する部分における摩擦力の低減(潤滑性の維持)を図ることができるものの、それ自体の柔軟性に欠けるため、以下のような不具合が発生する虞がある。
【0008】
例えば、回転軸が偏心したり振動したりすると、このときの回転軸の挙動は、回転軸に接触する部分(接触部)を介して密封装置に作用し、弾性を有する材料で形成された当該密封装置が弾性変形(例えば、伸縮、屈曲)する場合がある。しかしながら、それ自体の柔軟性に欠ける樹脂製の被膜は、密封装置の弾性変形に追従することができないため、かかる密封装置の弾性変形の程度によっては、当該被膜に割れ(クラック)が生じる虞がある。そして、割れ(クラック)を生じた状態で使用を継続した場合、当該被膜が剥がれてしまう虞もある。そうなると、長期に亘って密封性の向上と共に摩擦力の低減(潤滑性の維持)を図ることができなくなってしまう。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、長期に亘って
密封性の向上と共に摩擦力の低減(潤滑性の維持)を同時に図ることが可能な密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、第1の発明は、一方の環境と他方の環境とに亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に介在され、双方の環境を互いに密封する密封装置であって、一方の部材に固定される固定部と、他方の部材に摺動自在に接触する接触部とを有し、補強金具を埋設してなる密封装置本体を備えており、前記接触部には、一方の環境に封入されたものが他方の環境に漏洩するのを防止するシールリップと共に、他方の環境に存するものが一方の環境に浸入するのを防止するダストリップが設けられ、前記密封装置本体は、弾性を有するフッ素ゴムで成形されていると共に前記シールリップの先端から前記ダストリップの先端までの全範囲に亘って、他方の部材との摩擦力を低減させるフリクション低減被膜が設けられ、さらに、前記密封装置本体は、前記補強金具の端部領域が厚肉状に形成されるとともに、前記シールリップと前記ダストリップとの分岐部領域が薄肉状に形成され、かつ前記分岐部領域は、前記補強金具の端部から離間した位置に設けられており、前記フリクション低減被膜は、前記密封装置本体の弾性変形に追従するように、フッ素ゴム中に樹脂粒体から成る固体潤滑剤を分散させて構成されている。
第2の発明は、一方の環境と他方の環境とに亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に介在され、双方の環境を互いに密封する密封装置であって、一方の部材に固定される固定部と、他方の部材に摺動自在に接触する接触部とを有し、補強金具を埋設してなる密封装置本体を備えており、前記接触部には、一方の環境に封入されたものが他方の環境に漏洩するのを防止するシールリップと共に、他方の環境に存するものが一方の環境に浸入するのを防止するダストリップが設けられ、前記密封装置本体は、弾性を有するアクリルゴムで成形されていると共に前記シールリップの先端から前記ダストリップの先端までの全範囲に亘って、他方の部材との摩擦力を低減させるフリクション低減被膜が設けられ、さらに、前記密封装置本体は、前記補強金具の端部領域が厚肉状に形成されるとともに、前記シールリップと前記ダストリップとの分岐部領域が薄肉状に形成され、かつ前記分岐部領域は、前記補強金具の端部から離間した位置に設けられており、前記フリクション低減被膜は、前記密封装置本体の弾性変形に追従するように、アクリルゴム中に樹脂粒体から成る固体潤滑剤を分散させて構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期に亘って密封性の向上と共に摩擦力の低減(潤滑性の維持)を同時に図ることが可能な密封装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る密封装置の構成を示す断面図、(b)は、同図(a)に示されたリフレクション低減被膜を一部拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る密封装置及びその製造方法について、添付図面を参照して説明する。
本実施形態において、密封装置は、一方の環境と他方の環境とに亘って相対回転可能に対向して延在する部材相互間に介在され、双方の環境を互いに密封することができるように構成されている。
【0014】
ここでは、例えば自動車のエンジンにおいて相対回転可能に対向して延在する部材が、潤滑剤(例えば、オイル)が封入された一方の環境(潤滑剤封入環境)から外部に露出した他方の環境(外部環境)に亘って延在した状態において、当該対向する部材として(図1参照)、回転中心軸Axを中心に矢印L方向に回転する回転軸2と、これを囲繞しつつ非回転状態に維持されたハウジング4とを想定する。なお、外部環境には、ダスト(例えば、ちり、ほこり)や液状物(例えば、水)などの異物が存在しているものとする。
【0015】
図1(a)に示すように、本実施形態の密封装置は、一方の部材(以下、ハウジング4という)に固定される固定部6と、他方の部材(以下、回転軸2という)に摺動自在に接触する接触部8とを有する密封装置本体10を備えている。密封装置本体10は、周方向に連続した中空円環状を成しており、固定部6及び接触部8は、当該密封装置本体10に沿って周方向に連続して構成されている。
【0016】
密封装置本体10の固定部6には、当該固定部6に沿って連続し、かつ、その一部が接触部8に向けて延出した断面L字状の補強金具(芯金)12が埋設されている。これにより、固定部6の剛性が一定に維持されることで、当該固定部6をハウジング4に対して堅牢に固定させることができる。この結果、上記した接触部8を常時安定して回転軸に接触(摺接)させることが可能となり、回転軸2が高速回転する環境下における密封性の維持向上を図ることができる。
【0017】
また、密封装置本体10の接触部8には、一方の環境(潤滑剤封入環境)に封入されたもの(上記した潤滑剤)が他方の環境(外部環境)に漏洩するのを防止すると共に、他方の環境(外部環境)に存するもの(上記した異物)が一方の環境(潤滑剤封入環境)に浸入するのを防止するリップ8a,8bが設けられている。これにより、接触部8(リップ8a,8b)を境界にして、その一方側に潤滑剤封入環境が規定され、その他方側に外部環境が規定されている。
【0018】
具体的に説明すると、接触部8のうち一方の環境(潤滑剤封入環境)寄りにシールリップ8aが設けられており、当該接触部8(シールリップ8a)の外周に、無端状のガータースプリング14が巻回されている。これにより、接触部8(シールリップ8a)が、常時一定の緊迫力で回転軸2に接触(摺接)した状態に維持され、一方の環境(潤滑剤封入環境)に封入された潤滑剤(オイル)の漏洩防止が図られている。
【0019】
また、接触部8のうち他方の環境(外部環境)寄りにダストリップ8bが設けられており、当該接触部8(ダストリップ8b)は、他方の環境(外部環境)に向けて薄肉化させつつ傾斜した姿勢で突出し、その突出端が回転軸2に対して接触状態(或いは、僅かな隙間を隔てた非接触状態)に位置決めされている。これにより、他方の環境(外部環境)に存する異物(ダストや液状物など)の浸入防止が図られている。
【0020】
ところで、本実施形態の密封装置において、密封装置本体10は、弾性を有する材料で形成されていると共に、少なくとも接触部8には、回転軸2との摩擦力を低減させるフリクション低減被膜16が設けられている。ここで、フリクション低減被膜16は、上記したリップ8a,8bを含めた接触部8のうち少なくとも回転軸2に接触する部分に亘って設けることが好ましい。なお、図面では一例として、フリクション低減被膜16は、接触部8のうちリップ8a,8b相互間(換言すると、シールリップ8aの先端からダストリップ8bの先端に亘る範囲)において回転軸2に対向して延在する円環状の周面8sに沿って連続して設けられている。
【0021】
また、図1(b)に示すように、フリクション低減被膜16は、ゴム材料16a中に樹脂粒体から成る固体潤滑剤16bを分散させて構成されている。この場合、ゴム材料16aは、当該フリクション低減被膜16を上記した接触部8の周面8sに設ける際のバインダー(即ち、接合剤)として機能するものであり、例えばフッ素ゴムやアクリルゴムなどを適用することができる。一方、樹脂粒体から成る固体潤滑剤16bとしては、例えばフッ素樹脂を適用することができるが、特に耐熱性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を適用することが好ましい。
【0022】
ここで、フリクション低減被膜16において、ゴム材料16a中における固体潤滑剤16bの分散割合は、平均粒径が0.1μm〜1μmの固体潤滑剤16bを用いた場合、ゴム材料16aを含めた単位体積中における固体潤滑剤16bの含有率として規定することができるが、かかる含有率(分散割合)は、例えば密封装置の使用目的や使用環境に応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0023】
なお、本実施形態において、密封装置本体10は、自身の弾性力によってその接触部8を回転軸2に接触させるべく、弾性を有する材料で成形されている。ここで、密封装置本体10が、弾性を有するゴム材料で成形されている場合、フリクション低減被膜16は、密封装置本体10の弾性変形に追従するように、当該密封装置本体10と同質のゴム材料をバインダー(接合剤)とし、これに固体潤滑剤16bを分散させて構成することが好ましい。
【0024】
例えば、密封装置本体10がフッ素ゴムで成形されている場合、これと同質のフッ素ゴムをゴム材料16aとしてフリクション低減被膜16を構成すればよい。また、密封装置本体10がアクリルゴムで成形されている場合、これと同質のアクリルゴムをゴム材料16aとしてフリクション低減被膜16を構成すればよい。
【0025】
次に、上記したような密封装置の製造方法について説明する。
本実施形態において、密封装置の製造方法は、所定の加硫条件の下、ゴム材料に対して加硫処理を施すことによって密封装置本体10を成形する第1工程と、第1工程を経て成形された密封装置本体10のうち、少なくとも接触部8にフリクション低減被膜16を設けるために、未加硫のゴム材料をバインダーとして配合させたコーティング剤を被覆する第2工程と、第1工程とは異なる加硫条件の下、第2工程を介してコーティング剤が被覆された密封装置本体10に対して加硫処理を施すことにより、コーティング剤を乾燥させると同時に、バインダーとしての未加硫のゴム材料を熱硬化させて密封装置本体10のゴム材料と密着させることで、前記接触部にフリクション低減被膜16を隙間無く一体化させる第3工程とを有する。
【0026】
なお、このような製造方法において、密封装置本体10を成形するためのゴム材料としては、上記したフッ素ゴム及びアクリルゴムのほか、各種のゴム材料のいずれかを適用することができるが、ここでは一例として、フッ素ゴムを適用した場合を想定する。この場合、コーティング剤に配合させるバインダー(即ち、接合剤)は、密封装置本体10と同質のゴム材料(具体的には、未加硫のフッ素ゴム)を適用する。
【0027】
ここで、第1工程において、金型を用いた一般的な成形方法(例えば、コンプレッション成形法)に基づいて、一次加硫条件として所定温度F1の雰囲気中で所定時間T1に亘って、ゴム材料(フッ素ゴム)に対して加硫処理を施して密封装置本体10を一体成形する際、そのときの温度F1及び時間T1は、
180℃≦F1≦190℃、かつ、5分≦T1≦6分
なる関係(より好ましくは、F1=185℃、かつ、T1=5分)を満足するように設定される。
【0028】
次に、第2工程において、接触部8に対して、未加硫のゴム材料(即ち、フッ素ゴム)をバインダーとして配合させたコーティング剤を被覆する方法としては、例えばスプレーコーティングや塗布コーティングなどを適用することができるが、いずれの方法でも、コーティング剤の厚さTは、2μm≦T≦15μmなる範囲に設定することが好ましい。この場合、コーティング剤としては、フッ素ゴム、加硫剤、固体潤滑剤、溶剤を所定の割合で配合したものを用意し、これを接触部8に対してスプレー(塗布)コーティングする処理が行われる。
【0029】
なお、コーティング剤は、溶剤にバインダー(接合剤)となる未加硫のフッ素ゴムを溶解したフッ素ゴム溶液を用意し、これに加硫剤を添加して、そこに樹脂粒体(平均粒径:0.1μm〜1μm)から成る固体潤滑剤を分散させることで形成することができる。このとき、固体潤滑剤の樹脂粒体としては、例えばフッ素樹脂を適用することができるが、特に耐熱性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を適用することが好ましい。
【0030】
そして、第3工程において、第1工程とは異なる加硫条件として所定温度F2の雰囲気中で所定時間T2に亘って、コーティング剤が被覆された密封装置本体10に対して二次加硫処理を施す際、そのときの温度F2及び時間T2は、
195℃≦F2≦205℃、かつ、20時間≦T2≦21時間
なる関係(より好ましくは、F2=200℃、かつ、T2=20時間)を満足するように設定される。
【0031】
この場合、二次加硫処理は、コーティング剤を含めて密封装置本体10の全体を二次加硫雰囲気中に晒すことで行われる。このとき、コーティング剤が乾燥すると同時に、バインダー(接合剤)としての未加硫のゴム材料(即ち、フッ素ゴム)が熱硬化して密封装置本体10のゴム材料と密着する。これにより、上記した接触部8の周面8sにフリクション低減被膜16が隙間無く一体化する。
【0032】
以上、本実施形態によれば、密封装置本来の効果として長期に亘る密封性の維持向上を図ることができると同時に、当該密封装置の密封装置本体10(具体的には、接触部8)にフリクション低減被膜16を設けたことで、長期に亘り回転軸2との摩擦力を低減させる(換言すると、回転軸2との潤滑性を維持する)ことができる。
【0033】
更に、本実施形態によれば、樹脂粒体から成る固体潤滑剤16bを分散させるバインダー(接合剤)として、密封装置本体10と同質の弾性を有するゴム材料16aを適用してフリクション低減被膜16を構成したことで、当該フリクション低減被膜16自身に、密封装置本体10の弾性変形に追従するような弾性力(柔軟性)を持たせることができる。
【0034】
これにより、密封装置本体10(具体的には、フリクション低減被膜16が設けられた接触部8)が弾性変形して、例えば伸縮したり、屈曲したりするようなことがあっても、それに追従してフリクション低減被膜16自身が弾性変形するため、当該フリクション低減被膜16に割れ(クラック)が生じるのを未然に防止することができる。
【0035】
この場合、密封装置本体10(接触部8)とフリクション低減被膜16の構成材料として互いに同質のゴム材料(即ち、フッ素ゴム)を適用したことで、両者10,16の密着性を飛躍的に向上させることが可能となり、その結果、密封装置本体10(接触部8)からフリクション低減被膜16が早期に剥がれるようなことはなく、長期に亘ってフリクション低減効果を持続させることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、フリクション低減被膜16をダストリップ8bの先端に亘る範囲に設けたことで、薄肉化させたダストリップ8bを補強することが可能となり、その結果、当該ダストリップ8b自体のゴム割れ等の不具合の発生を未然に防止することができる。なお、例えばフリクション低減被膜16を密封装置本体10の全体(表面全体)に亘って設けるようにすれば、当該密封装置本体10自体のゴム割れ等の不具合の発生を未然に防止することができることは言うまでもない。
【0037】
更に、本実施形態によれば、回転軸2の回転稼働時において、接触部8におけるシールリップ8a及びダストリップ8bは、その厚さや形状の違いから、その弾性変形の程度が互いに異なる場合が想定されるが、これに合わせて、フリクション低減被膜16は、柔軟に弾性変形することができるため、割れ(クラック)や剥れ等が生じることはない。
【0038】
ここで、上記した本実施形態の効果を実証するために、評価試験(1)〜(3)を行った結果について説明する。
(1)フリクション測定試験
図1(a)に示された仕様において、本発明に係るフリクション低減被膜16を設けたもの(被膜有発明品)と、そうでないもの(被膜無対象品)について、同一条件の下で回転摩擦試験を行った。
同一条件については、回転軸2の回転数を2000rpm、一方の環境に封入された潤滑剤(オイル)の温度を100℃、試験時間を30分とした。
<試験結果>
被膜無対象品に対して被膜有発明品は、軸回転起動時の摩擦力(摩擦抵抗)が約30%軽減し、軸回転中の摩擦力(摩擦抵抗)が約20%軽減した。これにより、上記した本実施形態の効果が実証された。
【0039】
(2)フリクション低減被膜の割れ(クラック)測定試験
本発明に係るゴム製被膜をコーティングした試験片(ゴム被膜発明品)、及び、樹脂製の被膜をコーティングした試験片(樹脂被膜対象品)を用意し、同一条件の下で引っ張り試験を行った。
同一条件については、双方の試験片は同一材質(ゴム材料)で、同一形態(大きさ、形状、厚さ等)とし、コーティング厚は5μm、同一の引張り力とした。
<試験結果>
樹脂被膜対象品は、5%の伸長で割れ(クラック)が発生したのに対して、ゴム被膜発明品は、30%の伸長を超えても割れ(クラック)が発生しなかった。これにより、上記した本実施形態の効果が実証された。
【0040】
(3)フリクション低減被膜の剥がれ測定試験
図1(a)に示された仕様において、本発明に係るゴム製のフリクション低減被膜を設けたもの(ゴム被膜発明品)と、樹脂製のフリクション低減被膜を設けたもの(樹脂被膜対象品)について、同一条件の下で剥れ試験を行った。
同一条件については、回転軸2の回転数を2000rpm、一方の環境に封入された潤滑剤(オイル)の温度を100℃、試験時間を30分とした。また、被膜の厚さは5μmとした。
<試験結果>
樹脂被膜対象品は、約2時間で剥がれが発生したのに対して、ゴム被膜発明品は、10時間を超えても剥がれが発生しなかった。これにより、上記した本実施形態の効果が実証された。
【符号の説明】
【0041】
2 回転軸
4 ハウジング
6 固定部
8 接触部
10 密封装置本体
12 補強金具(芯金)
14 ガータースプリング
16 フリクション低減被膜
16a ゴム材料
16b 固体潤滑剤
図1