(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属粉末または合金粉末を原料粉末とし、該原料粉末にバインダーを配合し、混練、粉砕してコンパウンドとし、該コンパウンドを金属粉末射出成形装置に装入し金型に射出成形して所定形状の成形体とする、金属粉末射出成形体の製造方法において、
前記バインダーを、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、前記ワックス成分および/または潤滑性付与成分を30〜45体積%と、前記プラスチックス成分を30〜45体積%と、さらに前記植物油を5〜40体積%と、を配合したものとし、
さらに、前記バインダーの前記植物油を、落花生油、オリーブ油、サラダ油のうちの1種または2種以上と、ひまし油との混合物とし、
前記射出成形に際し、
加熱媒体または冷却媒体により前記金型のキャビティ表面を加熱または冷却可能とした金型を使用し、該金型のキャビティ表面を、加熱媒体として蒸気を使用して前記コンパウンドに配合した前記バインダーのプラスチックス成分の荷重たわみ温度以上かつ熱分解温度以下の加熱温度に加熱し、
ついで、該加熱された前記キャビティに、可塑化された前記コンパウンドを所定量、射出し、該キャビティを充填し、
前記充填が完了したのち、前記金型のキャビティ表面を、冷却媒体として水を使用して前記バインダーのプラスチックス成分の荷重たわみ温度未満に冷却し、
前記コンパウンドを固化したのち前記成形体を取り出すこと
からなるヒートサイクル法を適用し、前記成形体を、重量で100g以上の大型の金属粉末射出成形体とすることを特徴とする大型金属粉末射出成形体の製造方法。
前記バインダーの前記プラスチック成分を、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂のうちの1種とすることを特徴とする請求項1に記載の大型金属粉末射出成形体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
粉末射出成形法は、従来から、製品の寸法精度に優れていること、またニアネットシェイプ形状を安定して確保でき、生産性が高いこと等の利点があり、とくに、自動車、精密機械等の分野では、部品の製造方法として金属粉末射出成形法を利用している。金属粉末射出成形法では、金属、合金等の粉末を原料として、有機バインダー等を配合し、混合・混練して混合混練物(コンパウンド)としたのち、この混合混練物(コンパウンド)を射出成形して、所望の形状の成形体とし、得られた成形体から有機バインダーを抽出したのち、焼結して所定形状の焼結体としている。しかし、金属粉末射出成形法を利用して、大型の部品を製造すると、未充填や内部欠陥などの成形不良が発生しやすく、とくに薄肉部がある大型部品では、充填不能となる場合が通常であった。また、充填できた場合でも、成形体表面に、しわ、ウェルド等の表面欠陥が発生しやすく、生産性が非常に低くなるなどの問題があるため、最近では大型製品は鋳造法で製造することが多くなり、金属粉末射出成形法は、小型の部品への適用に限定される傾向が強くなっていた。
【0003】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、焼結体原料の1種または2種以上の混合物にカップリング剤を添加して混合し、さらに全体を混合してスラリー状コンパウンドを形成し、得られたスラリー状コンパウンドを冷却した金型に注入して凍結成形体を形成し、その凍結成形体を真空、減圧または常圧にて昇温し、有機溶剤を昇華し、成形体を焼結して、高精度な無機焼結体を得る方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、焼結原料にカップリング剤を使用したことにより成形体の粉末充填量を高くでき、大型の無機焼結体を高精度に製造できるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、無機粉末にカップリング剤、水および添加材の1種または2種以上を加えて混合し、スラリー状コンパウンドを形成し、該スラリー状コンパウンドを冷却した金型に注入して凍結成形体を形成し、その凍結成形体を真空、減圧または常圧にて昇温し、低沸点成分を昇華し、ついで成形体を焼結して、高精度な無機焼結体を製造する方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、無機粉末にカップリング剤を使用したことにより成形体の粉末充填量を高くでき、大型の無機焼結体を高精度に製造できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された技術では、金型を低温に冷却し、スラリー状コンパウンドを凍結する必要があり、さらに凍結したのち、有機溶剤を昇華させるために昇温する。このため、凍結できる金型、凍結するための冷却装置や加熱装置を必要とし、複雑な製造設備となり、製造コストが高騰する原因となる。さらに、特許文献2に記載された技術では、コンパウンドに水溶液を使用するため、金属粉末等の無機粉末が酸化され、所定の焼結体強度を確保できにくくなるという問題もある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、バインダーとして水溶液を使用することもなく、また、凍結できる金型や、凍結するための冷却装置を必要とせずに、しわ、ウェルドなどの表面欠陥がなく、高精度の大型の金属粉末射出成形体を、生産性高く製造できる、大型金属粉末射出成形体の製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「大型」とは、製品重量が100g以上1000g以下程度までの場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、大型の金属粉末射出成形体に特有の欠陥である、しわ、ウェルドなどの表面欠陥、とくに肉厚が薄い大型製品における材料の充填不足、内部欠陥などの発生に及ぼす各種要因について鋭意研究した。
通常の金属粉末射出成形法では、冷却水が循環し常に低い温度に保たれた金型内に、射出成形機内で可塑化されたコンパウンドを射出し、固化させて所望形状の成形体を得ている。そのため、熱伝導率が高い金属粉末を含むコンパウンドは、金型内に射出されると、冷却されやすい。しかも製品が大型化すると、射出に要する時間も長くなり、金型内でのコンパウンドの流動が停止し、金型全体への金属粉末の充填が不足し、充填不良の製品となる。また、大型厚肉製品では、コンパウンドの流動中に生じる内部欠陥を、コンパウンドを充填する圧力によって押し潰すことができないため、多数の内部欠陥が存在する成形体となる。
【0009】
そこで、本発明者らは、射出時には、コンパウンドの流動性が高くなるような温度まで金型温度を急速昇温し、さらに射出後には、成形体が冷却され固化して取り出し可能な低い温度まで、金型を急速冷却することにより、大型の金属射出成形体においても上記したような欠陥の発生を回避できるものと考え、射出成形に際して、金型のキャビティ表面に近い位置に、加熱媒体、冷却媒体により交互に加熱冷却される流路を設けた金型を使用したヒートサイクルを付与するヒートサイクル法を適用することに想到した。
【0010】
そしてさらに、本発明者らは、大型の金属粉末射出成形体を高精度に製造するには、使用するバインダーを、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油とを配合したものとし、配合するプラスチックス成分をポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂のうちの1種または2種以上とし、さらに配合する植物油をひまし油に加えて、落花生油、オリーブ油、サラダ油のうちの1種または2種以上とすること、がよいことを見出した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)金属粉末または合金粉末を原料粉末とし、該原料粉末にバインダーを配合し、混練、粉砕してコンパウンドとし、該コンパウンドを金属粉末射出成形装置に装入し金型に射出成形して所定形状の成形体とする、金属粉末射出成形体の製造方法において、前記バインダーを、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、前記ワックス成分および/または潤滑性付与成分を30〜45体積%と、前記プラスチックス成分を30〜45体積%と、さらに前記植物油を5〜40体積%と、を配合したものとし、さらに、前記バインダーの前記植物油を
、落花生油、オリーブ油、サラダ油のうちの1種または2種以上と
、ひまし油との混合物とし、前記射出成形に際し、加熱媒体または冷却媒体により前記金型のキャビティ表面を加熱または冷却可能とした金型を使用し、該金型のキャビティ表面を、加熱媒体として蒸気を使用して前記コンパウンドに配合した前記バインダーのプラスチックス成分の荷重たわみ温度以上かつ熱分解温度以下の加熱温度に加熱し、ついで該加熱された前記キャビティに、可塑化された前記コンパウンドを所定量、射出し、該キャビティを充填し、前記充填が完了したのち、前記金型のキャビティ表面を、冷却媒体として水を使用して前記バインダーのプラスチックス成分の荷重たわみ温度未満に冷却し、前記コンパウンドを固化したのち前記成形体を取り出すことからなるヒートサイクル法を適用し、前記成形体を、重量で100g以上の大型の金属粉末射出成形体とすることを特徴とする大型金属粉末射出成形体の製造方法。
(2)(1)において、前記バインダーの前記プラスチック成分を、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂のうちの1種とすることを特徴とする大型金属粉末射出成形体の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載の大型金属粉末射出成形体の製造方法で製造されてなる大型金属粉末射出成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、しわ、ウェルドなどの表面欠陥や、金型内でのコンパウンドの流動停止等による充填不足などの欠陥がなく、しかも高精度の大型の金属粉末射出成形体を、生産性高く製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、大型の金属粉末射出成形体の製造方法である。本発明が対象とする金属粉末射出成形体は、重量で100g以上1000g程度以下の大型の金属粉末射出成形体である。
金属粉末射出成形体の製造工程の一例を
図3に示す。
本発明では、まず、原料粉末を用意する。原料粉末は、金属粉末あるいは合金粉末とする。用途に応じて、金属粉末としては、純鉄粉、純チタン粉、純Ni等の純金属粉末が、合金粉末としては、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、超合金等の粉末が例示できる。原料粉末は、流動性と焼結密度の観点から、平均粒径:15μm以下の水アトマイズ粉とすることが好ましい。なお、粉末の平均粒径は、マイクロトラック法を用いて測定した値を用いるものとする。
【0015】
所望量の原料粉末に、バインダーを配合し、好ましくは適正な温度、適正な圧力で加熱しながら混練し、冷却して固化させたのち、粉砕して混練生成物(コンパウンド)とする。
なお、バインダーの配合量は、原料粉末とバインダーの合計量に対する体積率で、30〜60%とすることが好ましい。バインダーの配合量が30%未満では、熱伝導率が低下しすぎて成形困難となり、一方、60%を超えて多量になると、焼結後の変形量が大きくなる。このようなことから、配合するバインダーは、原料粉末とバインダーの合計量に対する体積%で、30〜60%とする。
【0016】
なお、本発明で使用するバインダーとしては、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、前記ワックス成分および/または潤滑性付与成分を30〜45体積%と、前記プラスチックス成分を30〜50体積%と、さらに前記植物油を5〜40体積%と、を配合したものとすることが好ましい。
ワックス成分は、脱脂処理時に主として抽出される成分であり、脱脂処理時に抽出可能な成分であればその種類を限定する必要はない。好ましいワックス成分としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が例示でき、とくにパラフィンワックスとすることが脱脂性の観点から好ましい。
【0017】
また、本発明では、脱脂後の成形体の強度を確保するため、ワックス成分の配合量を可能なかぎり低減し、ワックス成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、30〜45体積%とすることが好ましい。ワックス成分が、30体積%未満では、脱脂処理により抽出されるバインダーが少なくなる。また、射出成形時に流動性が低下し、成形体の充填不足等の欠陥が生じる。一方、ワックス成分が、45体積%を超えて配合されると、結果的にプラスチックス成分の配合量が少なくなり、脱脂処理後の成形体の強度が低下し、成形体の変形や、ハンドリング時の破損等の不具合が生じる。このようなことから、ワックス成分の配合量を、ワックス成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、30〜45体積%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは30〜40体積%である。
【0018】
また、本発明では、ワックス成分の一部または全部に代えて、潤滑性付与成分としてもよい。ここでいう「潤滑性付与成分」は、粉末射出成形体の原料粉である金属粉末あるいは合金粉末に潤滑性を付与し、流動性を向上させるために添加するもので、射出成形が容易となり、成形体の強度も増加させることができ、必要に応じてワックス成分の一部または全部に代えて配合できる。なお、潤滑性付与成分としては、ステアリン酸またはステアリン酸の金属塩とすることが好ましい。ステアリン酸の金属塩としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ステアリル等が例示できる。
【0019】
また、配合するプラスチックス成分としては、射出成形体内に残留して、成形体の強度を確保できるものであればよく、その種類は特に限定されないが、大型の金属粉末射出成形体の製造においては、所望の成形体の強度を確保するという観点から、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂とすることが好ましい。なかでもポリプロピレン樹脂とすることが脱脂性の観点から好ましい。
【0020】
なお、プラスチックス成分の配合量は、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、30〜50体積%とすることが好ましい。プラスチックス成分の配合量が、30%未満では、脱脂後の成形体の強度が不足し、変形、破損等の不具合が生じる。一方、50%を超えて多量に配合すると、成形性が低下し、加えてワックス成分等の減少により脱脂率が低下する。このようなことから、プラスチックス成分の配合量を30〜50体積%の範囲に限定した。なお、より好ましくは35〜50体積%である。
【0021】
また、配合する植物油としては、不乾性の植物油とすることが好ましい。不乾性の植物油としては、落花生油、ひまし油、オリーブ油、サラダ油が例示できるが、それらのうちから選ばれた1種または2種以上とすることが好ましい。なお、植物油を2種以上とする場合には、ひまし油と、それ以外の落花生油、オリーブ油、サラダ油のうちから選ばれた1種または2種以上の組合せとすることが好ましい。バインダーに植物油を配合することにより、バインダーの凝固点が低下して、バインダーの流動性が向上し、金属粉末やプラスチックス粉末へのバインダーのなじみ性等が向上するとともに、冷却時の収縮量が低減して、成形体の割れの発生が抑制され、さらには金型からの離脱性が向上する。
【0022】
なお、植物油の配合量は、ワックス成分および/または潤滑性付与成分とプラスチックス成分と植物油の合計量100体積%に対し、5〜40体積%とすることが好ましい。植物油の配合量が、5%未満では、流動性が低下するため、成形性が低下する。一方、40%を超えて配合すると、結果としてワックス成分やプラスチックス成分の配合量が少なくなり、脱脂後の成形体の強度が低下し、変形、破損等の不具合が増加し、また、高温金型に射出した際、油分が分離するという問題がある。このため、植物油の配合量は、5〜40体積%に限定することが好ましい。なお、より好ましくは10〜35体積%である。
【0023】
本発明では、上記したように混練、粉砕工程を経た混練生成物(コンパウンド)を、金属粉末射出成形装置に装入し、可塑化したのち、射出成形し、所定形状の成形体とする。
まず、本発明で使用する、金属粉末射出成形装置の好ましい構成について説明する。
図1に、本発明で使用する金属粉末射出成形装置の構成の一例を示す。
図1に示す金属粉末射出成形装置では、金型として、固定側金型1と移動側金型2を有する。移動側金型2は、固定側金型1に対して接近、後退などの移動が可能なように構成される。固定側金型1と移動側金型2とは、接合時(型締め時)に固定側金型1と移動側金型2との間にキャビティ3を形成できる形状に構成される。なお、キャビティ3は、所望の製品形状に対応する形状に形成されることはいうまでもない。
【0024】
また、固定側金型1および移動側金型2には、キャビティ3の表面1aおよび表面2aの近傍に、複数の流路6がそれぞれ設けられる。流路6は、弁9を介して加熱媒体供給源7および冷却媒体供給源8に接続され、弁9により加熱媒体(例えば蒸気)または冷却媒体(例えば水)を選択的に流される。これにより、キャビティ3の表面1aおよび表面2aが急速加熱または急速冷却される。
【0025】
なお、固定側金型1には、ゲート4が設けられ、金属粉末射出成形装置10が接続される。可塑化されたコンパウンドが、金属粉末射出成形装置10によりゲート4を介して、キャビティ3内に射出される。
本発明では、金属粉末または合金粉末を原料粉末とし、該原料粉末にバインダーを配合し、混練、粉砕してコンパウンドとし、該コンパウンドを、好ましくは上記した構成の金属粉末射出成形装置に装入し、下記のような手順のヒートサイクル法を適用して、所定形状の大型金属粉末射出成形体を得る。
【0026】
本発明の大型金属粉末射出成形体の製造方法の基本的なフローを
図2に示す。以下、
図2を参照しながら、本発明の大型金属粉末射出成形体の製造方法について説明する。
まず、固定側金型1と移動側金型2とを密着させ、固定側金型1と移動側金型2とを所定の型締め力で型締めする(ステップ21)。これにより、固定側金型1と移動側金型2との間にキャビティ3が形成される。つぎに、弁9を介して加熱媒体供給源7から加熱媒体を流路6に流し、金型表面(キャビティ3表面)を加熱する金型加熱を行う(ステップ22)。なお、加熱媒体としては、蒸気、または高温の水(湯)あるいは高温の油気とすることが好ましい。
【0027】
ついで、温度センサー(図示せず)でキャビティ3表面1a,2aの温度を測定し、キャビティ表面1a,2aの温度が所定の温度に到達しているか確認する(ステップ23)。キャビティ3表面1a,2aの温度が所定の温度に到達している場合には、次のステップに進む。所定の温度に到達していない場合には、さらに金型表面の加熱を継続する。なお、ここでいう「所定の温度」とは、コンパウンドに配合されたプラスチック成分の荷重たわみ温度以上、熱分解温度以下とすることが好ましい。ここで「荷重たわみ温度」は、国際規格ISO 75(JIS 7191)の規定に準拠して荷重1.8MPaで測定した温度である。
【0028】
キャビティ3表面1a,2aの温度が所定の温度に到達していることを確認したのち、可塑化されたコンパウンドを、金属粉末射出成形装置10によりゲート4を介し、キャビティ3内に射出し、キャビティ3を充填し所定形状の成形体とする、射出を行う(ステップ24)。
このコンパウンドをキャビティ3内に所定量だけ射出し、所定量のコンパウンドがキャビティ3内に充填されているかを確認する(ステップ25)。所定量のコンパウンドがキャビティ3内に充填されている場合は、次のステップに進む。所定量のコンパウンドがキャビティ3内に充填されていない場合には、金属粉末射出成形装置10により、さらにコンパウンドの射出を継続する。なお、好ましくはコンパウンドを射出したのち、所定の圧力を一定時間保持する保圧を施すことが好ましい。
【0029】
所定量のコンパウンドがキャビティ3内に充填されている場合には、所定量のコンパウンドが射出されたことを知らせる信号が、金属粉末射出成形装置10から送出される(ステップ26)。この信号を検知すると、弁9が作動し、加熱媒体供給源9から流路6への加熱媒体の供給が停止し、冷却媒体供給源8から、流路6への冷却媒体の供給を開始し金型冷却を行う(ステップ27)。これにより、流路6の近傍、すなわちキャビティ3表面1a,2a近傍が急激に冷却され、成形体の温度が低下し、コンパウンドが変形しない温度まで冷却される。さらに冷却されてコンパウンドが固化したのち、移動側金型2を移動させて金型を開く型開きを行い、成形体を取り出す(ステップ28)。
【0030】
好ましくは上記したコンパウンドを使用し射出成形するに際し、上記したヒートサイクル法を適用することにより、高精度の大型の金属粉末射出成形体を製造できる。なお、本発明ではとくに限定しないが、上記した製造方法で得られた大型の金属粉末射出成形体を、バインダーの一部を脱脂したのち、適切な条件で焼結し所望の特性を有する大型の金属粉末射出成形製焼結体とすることができる。
【実施例】
【0031】
表1に示す合金粉末を原料粉末として用いた。また、表2に示す配合のバインダー原料を混合し、温度:170〜240℃で溶融撹拌し、各種バインダーとした。原料粉末と各種バインダーと原料粉末とを表3に示す配合量で混合し、温度:170〜240℃の条件下で混練し混合混練物(コンパウンド)とした。
さらに、冷却し固化した混合混練物(コンパウンド)を粉砕して、射出成形用コンパウンドとし、金属粉末射出成形装置のホッパー内に投入して、シリンダ温度:160〜230℃で可塑化したのち、所定の圧力(60MPa)で金型のキャビティ内に射出し、所定形状の金属粉末射出成形体とした。
【0032】
射出成形に際しては、加熱媒体供給源、冷却媒体供給源等を有する小野産業(株)製「高速ヒートサイクル成形ユニット」を取り付けた東芝機械(株)製「EC100N II−2Y 成形機」を使用した。使用した金型は、
図1に示すようなキャビティ表面近傍に流路6を有する金型とし、キャビティ形状は、(ア)重量260gの植木鉢状製品(底面:80mmφ、上面:120mmφ、高さ:100mm、肉厚:3mm)、(イ)重量200gのファン形状製品(ファン形状:120mmφ、最大肉厚3mm、薄肉部2mm)、(ウ)は重量220gの箱型製品(肉厚:3.0mm、大きさ:80×120×15mm)の3種とした。
【0033】
まず、流路6に加熱媒体として蒸気を流し、金型のキャビティ表面1a,2aを所定の温度に加熱する「金型加熱」を行った。なお、所定の温度(加熱温度)は、コンパウンドに配合したバインダーのプラスチック成分であるポリプロピレン樹脂の荷重たわみ温度以上熱分解温度以下の60〜120℃とした。キャビティ表面1a,2aが所定の温度に到達したのち、可塑化したコンパウンドを金属粉末射出成形装置10から、ゲート4を介してキャビティ3内に所定量、射出し、充填する「射出」を行った。その後、所定の圧力で一定時間保持する「保圧」を施したのち、流路6に冷却媒体として水を流し、キャビティ表面1a,2aの温度を成形体が変形しない温度である30〜40℃に冷却する「金型冷却」を施した。ついで、移動側金型2を移動して金型を開く「型開き」を行ったのち、成形体を取り出した。このような金型加熱、射出、保圧、金型冷却、型開き、取り出しの工程1サイクルの時間を表3に示す。なお、一部では、金型に加熱媒体を供給せず、冷却媒体のみとした。
【0034】
得られた金属粉末射出成形体について、表面外観性状検査、内部欠陥検査を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)表面外観性状検査
得られた成形体について、外観を目視で観察し、しわ、ウェルドなどの表面欠陥、充填不足などの形状欠陥、割れ(欠陥)の有無を調査した。これらの欠陥が1つ以上存在した場合に、×と評価し、全く欠陥が存在しない場合を○として外観性状を評価した。
(2)内部性状検査
得られた成形体について、X線透過検査で内部性状を調査し、欠陥の有無を調べた。欠陥が存在する場合を×とし、それ以外を○とし、内部性状を評価した。
【0035】
得られた結果を表3に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
本発明例はいずれも、表面欠陥、内部欠陥ともに存在せず、外観性状、内部性状ともに良好な大型の金属粉末射出成形体となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は表面欠陥が存在し外観性状が低下しているか、あるいは内部欠陥が存在し内部性状が低下している。