(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211903
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】タイヤ、タイヤグリップ力制御装置、及び、タイヤグリップ力制御方法
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20171002BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20171002BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C9/22 A
B60C19/00 F
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-235781(P2013-235781)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93642(P2015-93642A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山口 健
(72)【発明者】
【氏名】三舛 洋平
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0314404(US,A1)
【文献】
特開2012−076590(JP,A)
【文献】
特開2010−173516(JP,A)
【文献】
特開平5−247255(JP,A)
【文献】
特開2009−241918(JP,A)
【文献】
特開2006−044595(JP,A)
【文献】
特開2007−083746(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0300191(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 9/22
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加によりグリップ力が制御可能なタイヤであって、
少なくとも一部が、ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成されたトレッドと、
前記トレッドのタイヤ径方向内側に配設される導電体と、
を備えるタイヤ。
【請求項2】
前記電気応答弾性体の弾性率が3〜8×106 dyn/cm2である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドが、タイヤ踏面側に配置される表面層と、前記電気応答弾性体から構成されて前記表面層のタイヤ径方向内側に配置される内部層とを備える請求項1または請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
少なくとも一部が、ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成されたトレッドと、
前記トレッドのタイヤ径方向内側に配設される導電体とを備えたタイヤと、
前記導電体に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えるタイヤグリップ力制御装置。
【請求項5】
前記導電体は、スチールコードによって構成される補強ベルトである請求項4に記載のタイヤグリップ力制御装置。
【請求項6】
前記補強ベルトは、タイヤの円周方向に螺旋状に形成される請求項5に記載のタイヤグリップ力制御装置。
【請求項7】
前記電圧印加手段は、
前記タイヤに取付けられた帯電ブラシと、
車両バネ下部の非回転部材もしくは車体に取付けられて前記帯電ブラシと接触する接触部材と、
前記導電体に電気的に接続されて、前記帯電ブラシに発生した電荷を蓄積するコンデンサーと、
を備える請求項4〜請求項6のいずれかに記載のタイヤグリップ力制御装置。
【請求項8】
タイヤのトレッドの少なくとも一部を、ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成するとともに、前記トレッドのタイヤ径方向内側に導電体を配設し、電圧印加手段にて、前記導電体に電圧を印加して前記トレッドの粘弾性率を変化させて前記タイヤのグリップ力を制御するタイヤグリップ力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加によりグリップ力が制御可能なタイヤと、このタイヤのグリップ力を制御する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのグリップ力を向上させる方法として、トレッドと路面との間に電流を流すことでトレッドと路面との間の摩擦力を増大させ、タイヤのグリップ力を向上させる方法が開示されている。具体的には、トレッドの半径方向内側にスチールコードからなる補強ベルトを配設するとともに、補強ベルトに電圧を印加することで、路面と導電体である補強ベルトとの間のトレッドに電流を流して、トレッドにジョンセンラーベック力を生じさせる。ジョンセンラーベック力の生じたトレッドには吸着力が作用するので、路面に対するトレッドの摩擦力が大きくなり、タイヤのグリップ力が向上する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記のようにトレッドにジョンセンラーベック力を発現させるためには、十分な量の電流を通電する必要があるため、電流の供給手段である車載バッテリーの消耗が大きくなってしまうといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−76590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、少ない電力で十分なグリップ力を得ることのできるタイヤ、及び、タイヤのグリップ力を制御する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電圧の印加によりグリップ力が制御可能なタイヤであって、少なくとも一部が、
ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成されたトレッドと、前記トレッドのタイヤ径方向内側に配設される導電体と、を備えることを特徴とする。
電気応答性弾性体は、接地部分に通電することなく、電圧を印加するだけで粘弾性率Gが変化する(貯蔵弾性率G’が増大し、損失正接tanδが減少する)ので、わずかな帯電量でトレッドの発熱を効果的に抑制することができる。したがって、本発明のタイヤを用いれば、高速走行時やコーナリング時におけるタイヤのグリップ力を効果的に高めることができるので、タイヤの操縦安定性能を向上させることができる。
また、前記電気応答弾性体の弾性率を3〜8×106 dyn/cm2とした。
また、前記トレッドを、タイヤ踏面側に配置される表面層と、前記電気応答弾性体から構成されて前記表面層のタイヤ径方向内側に配置される内部層とから構成した。
【0007】
また、本発明は、タイヤのグリップ力を制御する装置であって、少なくとも一部が、
ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成されたトレッドと、前記トレッドのタイヤ径方向内側に配設される導電体とを備えたタイヤと、前記導電体に電圧を印加する電圧印加手段と、を備えることを特徴とする。
このような構成を採ることにより、少ない電力で、タイヤのグリップ力を効果的に高めることのできる装置を得ることができる。
また、本発明は、前記導電体を、タイヤの構造部材であるスチールコードによって構成される補強ベルトとしたことを特徴とする。
これにより、タイヤに別途導電体を設けることなく、電気応答性弾性体に電圧を印加できるので、タイヤの重量が増加することを防ぐことができる。
また、本発明は、前記補強ベルトを、タイヤの円周方向に螺旋状に形成したことを特徴とする。
これにより、補強ベルトの端部から電圧を印加することでタイヤの全周に亘り電圧を印加することができるので、電気応答性弾性体の粘弾性率を効果的に変化させることができる。
また、本発明は、前記電圧印加手段は、前記タイヤに取付けられた帯電ブラシと、車両バネ下部の非回転部材もしくは車体に取付けられて前記帯電ブラシと接触する接触部材と、前記導電体に電気的に接続されて、前記帯電ブラシに発生した電荷を蓄積するコンデンサーと、を備えることを特徴とする。
これにより、車載バッテリーを用いることなく、電気応答性弾性体に電圧を印加できるので、バッテリーの消耗を低減できる。
【0008】
また、本発明は、タイヤのグリップ力を制御する方法であって、タイヤのトレッドの少なくとも一部を、
ゴム弾性体中に、電場の作用により分極する、粒径が0.01〜1μmの炭素質粉体を分散させて成る、炭素質粉体を分散させて成る、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成するとともに、前記トレッドのタイヤ径方向内側に導電体を配設し、電圧印加手段にて、前記導電体に電圧を印加して前記トレッドの粘弾性率を変化させて前記タイヤのグリップ力を制御することを特徴とする。
これにより、少ない電力で、タイヤのグリップ力を効果的に高めることができるので、タイヤの操縦安定性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係るグリップ力制御装置の構成を示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る螺旋状ベルトを示す図である。
【
図3】グリップ力制御装置がタイヤに電圧を印加する状況の概念図である。
【
図4】本発明による電気応答性弾性体の他の配置を示す図である。
【
図5】本発明による電気応答性弾性体の他の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、タイヤのグリップ力制御装置1を示す図で、グリップ力制御装置1は、電圧の印加によりグリップ力が制御可能なタイヤ(以下、タイヤという)2と、電圧印加手段3とを備える。
タイヤ2は、左右一対のビードコア21,21と、左右のビードコア21,21にトロイド状をなして跨るように設けられたカーカス22と、ビードコア21を中心として内側から外側に折り返されたカーカス22の間に配置されるビードフィラー23と、カーカス22のタイヤ径方向外側に配置された第1及び第2のベルト24a,24bと、第2のベルト24bのタイヤ径方向外側に配置された補強ベルトとしての螺旋状ベルト25と、螺旋状ベルト25のタイヤ径方向外側に配置されるトレッド26と、トレッド26の幅方向端部からカーカス22の端部近傍までを保護するサイドウォール27と、カーカス22の端部よりもタイヤ幅方向外側に配置され、ビード部をホイール4のリムから保護するリムクッションゴム28と、左右のリムクッションゴム28と連続するようにカーカス22の内面側に配置されるインナーライナー29とを備える。
【0011】
トレッド26は、表面層26aと内部層26bとから構成される。表面層26aは、例えば、スチレン−ブタジエンゴムなどのゴム弾性体から構成されて、タイヤ踏面側に配置される。内部層26bは電気応答性弾性体から構成されて、表面層26aのタイヤ径方向内側に配置される。本例では、表面層26aと内部層26bの体積抵抗率を、いずれも、10
5Ω・m以上としている。
電気応答性弾性体は、スチレン−ブタジエンゴムなどのゴム弾性体中に、炭素質粉体などの電場の作用によって電気分極する粒径が0.01〜1μmの微粉体を分散させたもので、弾性率は3〜8×10
6 dyn/cm
2である。電気応答性弾性体の弾性率は、例えば、20kV/cmの電場中では、無電場時に比較して、貯蔵弾性率G’が2〜6倍に増大し、損失正接tanδが40〜80%減少する。
電気応答性弾性体の一配合例を以下の表1に示す(なお、表の数値は質量部である)。
【表1】
配合した微粉体は、フェノール樹脂を500℃で1時間熱処理して得られた炭素質球状粉体で、得られた炭素質球状粉体の体積平均粒径(D50)は、粒度分布測定装置(BECKMAN COULTER 社 LS230)にて測定したところ0.5μmであった。
その後、得られた炭素質球状粉体、スチレン−ブタジエンゴム(SBR),ZnO,ステアリン酸,酸化防止剤,イオウ,促進剤を、表1に示す割合で配合したゴム組成物を公知の方法で調整した。
なお、スチレン−ブタジエンゴムとしては、E−SBR 1712(JSR(株)製)を用いた。また、酸化防止剤としては、N−1,3−ジメチルブチル−N−フェニルパラフェニレンジアミンを用い、促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドを用いた。
また、調整されたゴム組成物を145°で33分硬化させた特性を以下の表2に示す。
【表2】
【0012】
電圧印加手段3は、ホイール4に取付けられてタイヤ2の回転に伴って回転する回転側リング31と、回転側リング31に取付けられる帯電ブラシ32と、帯電ブラシ33と接触する接触部材としての固定側リング33と、回転側リング41上に取付けられて帯電ブラシ32で発生した電荷を蓄積するコンデンサー34とを備える。
回転側リング31は、詳細には、導電体から成るリング状の部材で、例えば、絶縁性両面テープなどの絶縁性を有する接着手段35によりホイール4のリムの車体側の端面に、ホイール4と同心円となるように固定される。
帯電ブラシ32は多数の導電性繊維から成り、一端が回転側リング31に固定され、他端が固定側リング33に接触する。
固定側リング33は、エポキシ樹脂などの絶縁性の材料から成るリング状の部材で、ナックルやブレーキなどの車両バネ下部の非回転部材36に、回転側リング31と同心円となるように取付けられる。
【0013】
螺旋状ベルト25は、
図1,2に示すような、一本のスチールコードを螺旋状に巻回して形成したもので、一方(車体側)の側部25Aは、サイドウォール27及びリムクッションゴム28側に纏められて、先端25aがコンデンサー34の高圧側に接続される。コンデンサー34の他端(低圧側)は、図示しない絶縁性を有する接着手段(例えば、絶縁性両面テープ)の一点に設けられた貫通孔を通してホイール4と接続される。一方、螺旋状ベルト25の他方の側部25Bは、他方のサイドウォール27及びリムクッションゴム28側に纏められて、他方のリムクッションゴム28内に配置される。なお、他方の側部25Bの先端25bについても、被覆導線を介して、コンデンサー34の高圧側に接続してもよい。
当該タイヤ2は、乗用車であれば、例えば、4輪に対して装着される。
これにより、タイヤ2が回転すると、帯電ブラシ32には摩擦により帯電し、この帯電された電荷は、回転側リング31からコンデンサー34の高圧側に蓄積されるとともに、導電体である螺旋状ベルト25に電圧が印加される。
【0014】
上記のように、トレッド26の体積抵抗率は10
5Ω・m以上と高いので、螺旋状ベルト25に印加される電圧では、トレッド26を介した路面への通電は殆どない。したがって、螺旋状ベルト25に電圧を印加するための電荷が、トレッド26を通電する電流として路面に流れ出る量が非常に少ないため、摩擦静電気による僅かな電荷量でも、導電体である螺旋状ベルト25へ、必要な高電圧を印加して保持することができる。すなわち、タイヤの転動中に帯電ブラシ32に帯電された電荷はその殆どがコンデンサー34に蓄積されるので、走行中には、トレッド26への印加電圧は容易に数kVの高電圧に達するとともに、トレッド26には常時高電圧が印加されることになる。
なお、トレッド26を介して路面に漏出する電流量は僅かではあっても完全にゼロではないので、車両が停止した状態ではコンデンサー34の蓄積電荷は徐々に路面に放電され、それに伴い、トレッド26に印加される電圧は安全上十分に小さいレベルまで低減する。
また、走行中でも、蓄電電圧による電界が空気の絶縁破壊電界(約30kV/cm)を超えると自然に放電されるため、際限なく摩擦電荷が蓄積され続けることはない。したがって、トレッド26に印加される電圧も自然放電に対応する電圧をほぼ上限として、それを著しく超えることはない。
【0015】
上記グリップ力制御装置1によるタイヤ2のグリップ力の向上を検証するため、タイヤ2に3kVの直流電圧を印加したときと、電圧を印加しないときとで、トレッド26と路面との摩擦力がどのように変化するかを調べた。
ドラム試験装置は、タイヤ2と接触する回転ドラムの表面を実際の舗装路面として擬装したものである。実験条件は、タイヤサイズが155/65R13、タイヤの内圧が210kPa、タイヤにかかる負荷荷重が2.6kN、タイヤの回転速度が60km/hとなるように設定した。実験は、タイヤが回転ドラムに対してスリップ角がゼロから微操舵された状態においてタイヤ2に電圧を印加したときと、電圧を印加しないときのコーナリングパワーの測定を5回繰り返し行った。
コーナリングパワーの測定を5回繰り返し行ったときの電圧を印加しないときの平均値を指標100として電圧を印加したときの指標と比較した結果を以下の表3に示す。
【表3】
表3に示すように、タイヤ2に電圧を印加することによりコーナリングパワーが3%増加することが分かった。すなわち、スリップ角がゼロから微操舵された状態において、タイヤ2にはほとんど横滑りが生じておらず、路面に対してタイヤが粘着している状態となっている。
当該事実は、螺旋状ベルト25に印加した電圧により、トレッド26に採用した電気応答性弾性体の粘弾性率が変化して、路面に対する摩擦力が大きくなり、タイヤ2のグリップ力が向上したことを示している。よって、本実験により、タイヤ2の螺旋状ベルト25に電圧を印加することにより、タイヤの操縦安定性が向上することが検証された。
【0016】
図3は、グリップ力制御装置1がタイヤ2に電圧を印加する状況を概念的に示したものである。以下、同図を参照して、車両の操縦安定性について説明する。
グリップ力制御装置1は、タイヤ2の走行開始(運転開始)と同時に起動する。帯電ブラシ32は、タイヤ2の回転に伴って、固定側リング33と接触しながら回転して摩擦帯電による電荷を発生する。発生した電荷は、コンデンサー34に速やかに蓄積される。
コンデンサー34に蓄積された電荷は、螺旋状ベルト25に出力され、トレッド26の内部層26bを構成する電気応答性弾性体と、電気応答性弾性体に直列に接続される表面層26aを構成するゴム弾性体とに印加される。
トレッド26への印加電圧は、車両の走行に伴って上昇し、走行中に蓄電電圧による電界が上限値である空気の絶縁破壊電界(約30kV/cm)を超えると自然に放電されるので、トレッド26に印加される電圧もほぼ一定の値となる。
次に、車両が一時停止すると、帯電ブラシ32の摩擦帯電による電荷は発生せず、コンデンサー34への電荷の蓄積はなくなる。一方、コンデンサー34の蓄積電荷は、タイヤ外周面のうちの最も電気抵抗の少ない路面との接触面からトレッド26を通して路面に徐々に放電されるので、トレッド26に印加される電圧も徐々に低下する。
また、車両が走行を再開すると、帯電ブラシ32には、再び摩擦帯電による電荷が発生するので、コンデンサー34へ蓄電される電荷は増加し、その結果、トレッド26への印加電圧も上昇し、上限値である空気の絶縁破壊電界(約30kV/cm)に達し、その後、ほぼ一定の値となる。
車両の運転を終了すると、コンデンサー34の蓄積電荷は徐々に路面に放電され、それに伴い、トレッド26に印加される電圧は安全上十分に小さいレベルまで低減する。
【0017】
このように、トレッド26の一部である内部層26bを、電圧の印加により粘弾性率が変化する電気応答性弾性体から構成するとともに、トレッド26のタイヤ径方向内側に、導電体としての螺旋状ベルト25を配置し、この螺旋状ベルト25に、電圧印加手段3にて電圧を印加して、前記電気応答性弾性体の弾性率(貯蔵弾性率G’)を高めるようにしたので、トレッド26の変形を抑制して十分なグリップ力を生じさせることができる。また、電圧の印加により、電気応答性弾性体の損失正接(tan δ)が低減するので、トレッド26の発熱を抑制することができ、転がり抵抗を低減できる。
このとき、電圧印加手段3を、タイヤ2に装着された回転側リング31に取付けられた帯電ブラシ32と、車両バネ下部の非回転部材36に取付けられて帯電ブラシ32と接触する固定側リング33と、螺旋状ベルト25に電気的に接続されて、帯電ブラシ32に発生した電荷を蓄積するコンデンサー34とから構成したので、タイヤ2に印加する電源として、車体に搭載されたバッテリーを用いることなく、トレッド26に必要な高電圧を印加することができる。
【0018】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0019】
例えば、前記実施の形態では、トレッド26の内部層26bを電気応答性弾性体から構成したが、
図4(a)に示すように、トレッド26全体を電気応答性弾性体26Pから構成してもよい。また、電気応答性弾性体は、必ずしも、タイヤ周方向もしくはタイヤ幅方向に連続して配置する必要はなく、例えば、
図4(b)に示すように、複数の電気応答性弾性体片26Qを互いに離隔するように配置してもよい。
また、旋回時のグリップ性能を重視する場合には、
図5(a)に示すように、トレッド26のショルダー部側の内部層26bの厚さをタイヤセンター部の内部層26bの厚さよりも厚くするか、もしくは、ショルダー部側の内部層26bのみを電気応答性弾性体とすればよい。また、直進時に高速走行性能を重視する場合には、
図5(b)に示すように、タイヤセンター部の内部層26bの厚さをショルダー部側の内部層26bの厚さよりも厚くするか、もしくは、タイヤセンター部の内部層26bのみを電気応答性弾性体とすればよい。
また、電気応答性弾性体は、導電体である螺旋状ベルト25からの電界中に位置していればよいので、電気応答性弾性体と螺旋状ベルト25との間にゴム弾性体が配置されていてもよい。
【0020】
また、前記実施の形態では、導電体として螺旋状ベルト25を用いたが、金属板などの導電部材を用いてもよい。この場合には、補強ベルトとしてスチールコードをゴム部材で被覆したものを用いるか、ナイロン等の繊維から成るコードからなる補強ベルトを用いればよい。
また、前記実施の形態では、電圧印加手段3を用いた螺旋状ベルト25に電圧を印加する構成としたが、車載バッテリーから螺旋状ベルト25に電圧を印加する構成であってもよい。これは、本願発明における電圧の印加は、通電を要さない電圧のみの印加であるので、電源として車載バッテリーを用いても、車載バッテリーの消耗が大きくなってしまうことはないからである。
なお、従来のジョンセンラーベック力を利用した発明では、螺旋状ベルト25に高電圧を印加する必要があるので、バッテリーの電圧(直流電圧12V)を昇圧する昇圧回路を設ける必要があったが、本願発明では、僅かな帯電量でも高電圧を得られるので、昇圧回路は不要であるという利点も有する。
【0021】
また、前記実施の形態では、電圧印加手段3の固定側リング33を、車両バネ下部の非回転部材36に取付けたが、例えば、タイヤハウスに、路面側に延長するリング取付部材を取付け、このリング取付部材に固定側リング33を取付けるなど、固定側リング33を車体側に取付ける構成としてもよい。
また、固定側リング33に代えて、円弧状の固定片を用いてもよい。この場合、タイヤ1回転での発生電荷は減少するが、帯電ブラシ32の受け部材を小さくできるので、装置を軽量化できるとともに、車両バネ下部への取付けが容易であるという利点がある。なお、回転側リング31を円弧状とし、固定側リング33をリング状としてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 グリップ力制御装置、2 タイヤ、4 ホイール、
21 ビードコア、22 カーカス、23 ビードフィラー、
24a 第1のベルト、24b 第2のベルト、
25 螺旋状ベルト、25A,25B 側部、25a,25b 先端、
26 トレッド、26a 表面層、26b 内部層(電気応答性弾性体)、
27 サイドウォール、28 リムクッションゴム、29 インナーライナー、
3 電圧印加手段、31 回転側リング、32 帯電ブラシ、33 固定側リング、
34 コンデンサー、35 接着手段、36 非回転部材。