(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように第1実施形態に係るイオン源10は、真空容器11に収容されプラズマ14を生じさせるターゲット12と、この真空容器11に設けられプラズマ14から引き出されるイオンビームが通過する通過孔15と、真空容器11に設けられイオンビームの主軸Xに対しターゲット12から角度をなす方向に放出されるイオンを通過させる分岐孔21と、この分岐孔21を通過したイオンの飛行軌道22上に配置される検出部23と、この検出部23よりも手前の飛行軌道22上に配置されイオンの通過断面を絞るスリット24と、を備えている。
【0012】
図1に示すようにイオン源10は、真空容器11の内部にターゲット12が収容され、この真空容器11の電位はこのターゲット12と同レベルに設定されている。
このイオン源10の外部には、レーザ発振部(図示略)が配置され、透明窓を通過してその内部に入射したレーザ13は、ターゲット12の表面に照射する。
【0013】
照射したレーザのエネルギーによりターゲット12の元素が蒸発しイオン化してプラズマ14を生成する。
このプラズマ14は、蒸発したターゲット12の元素が陽イオンと電子に電離した状態となっており、全体として電気的に中性になっている。
ターゲット12として、炭素系の板状部材を用いた場合、このプラズマ14には、目的とする多価の炭素イオンの他に、不純物元素のイオン、水分由来の水素イオンや酸素イオン、真空容器11内の残留ガス成分のイオンが不純物イオンとして混入している。
【0014】
このプラズマ14は、レーザ13がターゲット12に入射した入射点から垂直方向に延びるイオンビームの主軸Xに沿って、真空容器11の内部を放射状に拡散する。
イオンビームの主軸Xが交わる真空容器11の壁には、プラズマ14の通過孔15が設けられている。
【0015】
このような、プラズマ14の発生方法として、実施形態ではレーザ13をターゲット12に照射する方法を開示しているが、これに限定されることはなく、例えば、マイクロ波や電子ビームによりガス中で放電をおこす方法等がある。
【0016】
そして、この通過孔15を開口端とするプラズマ輸送管19が、イオンビームの主軸Xが同心軸となるように、さらに真空容器11と同電位になるように設けられている。
このプラズマ輸送管19により、プラズマ14は、拡散することなく線形加速器17の内部に導かれる。
【0017】
真空容器11と線形加速器17とは、絶縁体である連通路16により連結され、この連通路16の中心軸にプラズマ輸送管19が一致するように配置されている。
このようにして、イオン源10で発生したプラズマ14は、連通路16を通過して線形加速器17に導入される。
【0018】
イオン源10と線形加速器17は電位が異なるため、線形加速器17に導入されたプラズマ14から電子が分離した陽イオンは、加速チャンネル(図示略)に導入され加速されて、イオンビームとなる。
このようにイオン源10を出発して高エネルギー化されたイオンビームは、例えば、がん治療に利用される重粒子線照射装置に利用される。
【0019】
真空容器11には、イオンビームの主軸Xに対しターゲット12から角度をなす方向に放出されるイオンを通過させる分岐孔21が設けられている。
この分岐孔21は、真空容器11の内部に拡散したプラズマ14をその外部に導く。そして、分岐孔21から真空容器11の外部に導かれたイオンは、イオン種の定性・定量分析を実施する分析部20に案内される。
【0020】
分岐孔21から引き出されるイオンのイオン種の組成は、通過孔15から引き出されるイオンビームのイオン種の組成と同様であるため、分析部20によりイオンビームに含まれるイオン種をリアルタイムで監視することが可能となる。
【0021】
放射状に拡散するプラズマ14は、イオンビームの主軸Xに対する角度が広がるにつれ、イオン電流密度が低くなる。
このため、イオン種の定性・定量分析の精度を確保するには、通過孔15に近い位置に分岐孔21を設けるのが望ましい。
【0022】
しかし、分析部20の電位は真空容器11と同じで高電位に設定されており、これに対し線形加速器17等の周辺機器の電位はグランドレベルに設定されている。
このため、通過孔15と分岐孔21の位置が近いと、分析部20と周辺機器(線形加速器17等)とが電気的に短絡するおそれがある。
このような様々な制約条件の下、分岐孔21の位置及び分析部20のレイアウトは、最適化して決定される。
【0023】
分析部20は、分岐孔21を開口端としてイオンの飛行軌道22が中心軸に一致するように真空容器11と一体成型されているポート25と、ポート25からの飛行軌道22を確保してイオンを誘導する誘導管26と、検出部23を支持するとともにその電装系統(図示略)が収容されているカートリッジ27と、誘導管26及びカートリッジ27を着脱自在に連結するとともに各々の内部空間を真空遮断する遮断部28と、検出部23よりも手前の飛行軌道22上に配置されイオンの通過断面を絞るスリット24と、から構成されている。
【0024】
なお、誘導管26及び遮断部28を省略して、真空容器11のポート25に、カートリッジ27を直接接続させる構造も取り得る。
また、誘導管26、遮断部28及びカートリッジ27の電位レベルは、真空容器11(及びポート25)と同じ電位レベルに設定される。
もしくは、誘導管26及び遮断部28の少なくとも一部を絶縁材料で構成し、それよりも下流をグランドレベルに設定する場合もある。
【0025】
検出部23としては、ファラデーカップ、Q−Mass、ウィーンフィルター、電場または磁場によるq/m分析などが挙げられる。
もしくは、検出部23としてマイクロチャンネルプレート、二次電子増倍管 、光電子増倍管等のように信号増幅機能を有するものを用いることもできる。
【0026】
マイクロチャンネルプレートや二次電子増倍管では、イオン電流をそのまま増幅させて信号として出力する。また、光電子増倍管を用いる場合は、イオンをシンチレータに入射させ、その蛍光または燐光をこの光電子増倍管で電気信号に変換し増幅して出力する。
このような信号増幅機能を有する検出部23を用いることにより、到達したイオンの数が少ない場合であっても、検出感度を向上させることができる。
【0027】
図2(A)の平面図が示すように、スリット24は、分岐孔21(又はポート25)におけるイオンの通過断面よりも、面積の小さな円形の開口29a(29)が設けられている。このスリット24の開口29の形状は特に限定はなく、
図2(B)に示すように矩形形状の開口29b(29)である場合もある。
【0028】
プラズマ14(
図1)からイオンが引き出されると、同一の荷電粒子の集団運動になるため、空間電荷効果によりイオンが発散する。
スリット24を開口29がイオンの飛行軌道22(
図1)を貫通するように配置することにより、イオン集団を部分的に通過させ、検出部23(
図1)に向かわせるイオン集団の総電荷量を減少させることで、空間電荷効果を抑制し、イオンの発散を抑えることができる。
これにより、この飛行軌道22を外れて飛行するイオンは、スリット24により抑制され、検出部23に到達する確率が小さくなる。
【0029】
図3に基づいて、スリット24(
図1)の効果について説明する。
分析部20(
図1)は、飛行軌道22に沿って飛行するイオンの飛行時間を計測することにより、プラズマ14を構成するイオン種の組成の定性・定量を行う。
具体的には、質量電荷比(q/m)が大きいイオン種ほど、飛行時間が短くなり、検出部23から信号が早いタイミングで出力されることになる。
【0030】
従って、
図3(A)の比較例1に示すように、質量電荷比(q/m)がお互いに近いイオン種の検出ピークは、互いに時間的に近接して分離が困難になる場合がある。
このような場合、
図3(B)の比較例2に示すように、飛行軌道22の距離を延長することで、検出ピークを時間的に離間させることができる。
【0031】
しかし、飛行軌道22の距離が伸びても、飛行軌道22の中心を外れて飛行して検出されるイオンの数が増えてピーク形状がブロードとなるため、検出ピークの分解能は期待するほど向上しない。
飛行軌道22の中心を外れて飛行するイオンは、飛行時間がずれてしまう。飛行軌道22の距離が伸びると、そのようなイオンの飛行時間の分布が広がるために、検出ピークの形状がブロードになってしまう。
【0032】
そこで、
図3(C)の実施例に示すように、スリット24を導入することで、飛行軌道22を外れて飛行して検出されるイオンの数を減らし、ピーク形状をシャープにすることができる。これにより、検出ピークの分解能を向上させることができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に
図4に基づいて本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態のイオン源10は、飛行軌道22上に、イオンが飛来する以前に到達する発光を開閉動作により遮断するシャッター30を備えている。
図4においてシャッター30は、スリット24に近接して設けられる態様を示しているが、シャッター30の設けられる位置は、特に限定されることはなく、飛行軌道22上であればポート25、誘導管26、カートリッジ27のうちいずれかに設けることができる。
なお、
図4において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0034】
図5のタイミングチャートは、レーザ発振とシャッタ動作との関係を示している。
図5の上段に示すように、レーザ13は、一定の周期間隔で断続的に発振されるレーザパルス13a,13b,13cから構成される。
一つのレーザパルス13aがターゲット12に照射されると、次のレーザパルス13bが照射されるまでの期間に、ターゲット12から放出されたイオンが飛行軌道22に沿って飛行して、検出部23に検出される。
したがって、レーザ発振の発振周期Tと同じ時間間隔で、
図3に示されるグラフが更新されることになる。
【0035】
ところで、レーザパルス13aがターゲット12に照射されると、イオン放出のみではなくアブレーション光が発光する。
このアブレーション光が検出部23に入射すると、
図3のグラフの波形にノイズを生じさせ、検出ピークのS/N比が低下してしまう。
【0036】
そこで、
図5の下段に示すように、レーザパルス13a,13b,13cが照射されてからイオンが検出部23に飛来するまでの期間、シャッター30を閉状態にして、アブレーション光を遮断する。その後、シャッター30を開状態にして、質量電荷比(q/m)の相違する全てのイオンの飛来が終了したところで、再びシャッター30を閉状態に戻す。
【0037】
このシャッター30の開閉動作は、レーザパルス13a,13b,13cの発振周期Tに同期させて行うか、アブレーション光の検出値に対して設けた閾値に基づいて行うことができる。
これにより、ピークのS/N比を向上させることができ、イオン種を高感度で検出することが可能となる。
【0038】
図6(A)の平面図に示すように、実施例に係るシャッター30には、回転軸32を中心にする回転運動により、スリット24の開口29に、順番に一致するウインドウ31(31a,31b,31c)が、設けられている。
この回転軸32の回転速度及び位相を適宜調整することにより、レーザパルス13a,13b,13cの発振周期Tに同期させて、シャッター30を開閉動作させることができる。
【0039】
図6(B)の縦断面図に示すように、他の実施例に係るシャッター30は、スリット24の開口29を通過したアブレーション光の拡散を遮蔽する筒体33と、この筒体33の内部で飛行軌道22に対して略直交する回転軸において回転する弁体34と、から構成されている。
この弁体34の回転速度及び位相を適宜調整することにより、レーザ13の発振周期Tに同期させて、シャッター30を開閉動作させることができる。
【0040】
なお、シャッター30の駆動方式としては、実施例として示した形態に限定されることはなく、例えば、遮蔽体(図示略)を直線的に往復運動させることにより実現することも可能である。
また、上述したアブレーション光の影響を排除するために、真空容器11、ポート25、誘導管26、カートリッジ27及び遮断部28のうち少なくとも一部の内表面に、アブレーション光を吸収する塗料を塗布してもよい。もしくは、これら部材の内表面の構成材料にアブレーション光の吸収特性を有する材料を用いてもよい。
これにより、ターゲット12で発生したアブレーション光のうち、反射を繰り返して検出部23に到達するアブレーション光の割合を低下させることができるので、信号波形に重畳するノイズを低減させることができる。
【0041】
(第3実施形態)
次に
図7に基づいて本発明の第3実施形態を説明する。
第3実施形態のイオン源10は、スリット24(24a,24b)が、飛行軌道22上に複数配置されている。
図7においてスリット24(24a,24b)の各々は、誘導管26の内部に設けられる態様を示しているが、特に限定されることはなく、飛行軌道22上であれば少なくとも一方を、遮断部28及びカートリッジ27のうちいずれかに設けることができる。
【0042】
また、
図7においてスリット24(24a,24b)の各々は、下流側と上流側に二つ配置されているが、その個数は特に限定されない。
なお、
図7において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0043】
これにより、この飛行軌道22を外れて飛行するイオンは、スリット24により抑制され、検出部23に到達する確率がさらに小さくなる。
よって、ピーク形状をシャープにすることができ、検出ピークの分解能をさらに向上させることができる。
【0044】
図8は、第3実施形態に係るイオン源の他の実施例を示すブロック図である。
この実施例においては、二枚のスリット24a,24bの間に、イオンが入射するとシンチレーション光を発光するシンチレータ41とこのシンチレーション光を検出する光電子増倍管42とから構成される第1検出部23aが設けられ、さらに下流に第2検出部23bが設けられている。
【0045】
このシンチレータ41の厚みがイオンの飛程よりも薄い場合、イオンはこのシンチレータ41を通過して、さらに下流に輸送される。
シンチレータ41を通過したイオンは、発散して下流の第2検出部23bに向かうが、後段のスリット24bの存在により、イオンの通過が絞られて発散が抑制される。
これにより、第1検出部23a及び第2検出部23bともに、分解能に優れる検出ピークを出力することができる。
【0046】
(第4実施形態)
次に
図9に基づいて本発明の第4実施形態を説明する。
第4実施形態のイオン源10は、分岐孔21を通過したイオンの飛行軌道22に曲率を付与する静電デフレクタ43をさらに備えている。
なお、
図9において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0047】
静電デフレクタ43は、分岐孔21から引き出されるイオンの飛行軌道22に電場をかけてこの飛行軌道22を偏向させるものである。
曲率を有する飛行軌道22に沿って飛行したイオンは、検出部23に入射する。
【0048】
このように構成されることにより、分析部20のレイアウトに自由度が広がり、分析部20に対し低電位に設定されている周辺機器(線形加速器17等)と電気的に短絡しにくい構成をとることができる。
また、飛行軌道22に曲率を持たせることにより、イオン源10の設置面積を広げずに、飛行軌道22を長くとることができる。
【0049】
(第5実施形態)
次に
図10に基づいて本発明の第5実施形態を説明する。
第5実施形態のイオン源10は、分岐孔21を通過したイオンの飛行軌道22を延長させる延長機構44をさらに備えている。
なお、
図10において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0050】
延長機構44として、ベローズを採用することにより、真空状態を維持したまま長さ可変とすることも可能である。
このように、イオンの飛行軌道22を延長することにより、イオンの空間電荷効果を抑制し、さらにイオンの飛行距離の延長により検出ピークを時間的に離間させることができる。
【0051】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のイオン源によれば、イオンの飛行軌道上に通過断面を絞るスリットを配置することにより、不純物イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。