特許第6211982号(P6211982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6211982
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】遮水シート
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20171002BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20171002BHJP
【FI】
   E02D17/20 103B
   E02B3/12
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-79505(P2014-79505)
(22)【出願日】2014年4月8日
(65)【公開番号】特開2015-200107(P2015-200107A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】316014283
【氏名又は名称】株式会社田中
(73)【特許権者】
【識別番号】000002923
【氏名又は名称】ダイワボウホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306024090
【氏名又は名称】ダイワボウプログレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠二
(72)【発明者】
【氏名】今川 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】西村 繁治
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−254271(JP,A)
【文献】 特開2005−023690(JP,A)
【文献】 特開2005−155317(JP,A)
【文献】 特開2008−265036(JP,A)
【文献】 特開2005−194772(JP,A)
【文献】 実公昭43−003104(JP,Y1)
【文献】 特開昭56−044649(JP,A)
【文献】 特開2011−042983(JP,A)
【文献】 実開平03−002021(JP,U)
【文献】 実開平02−006729(JP,U)
【文献】 実開昭50−045032(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00〜 17/20
E02B 3/04〜 3/14
D03D 1/00〜 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に設置する表蓆(むしろ)張り工法用遮水シートであって、
前記遮水シートは織物の両面に樹脂層が形成されており、
前記織物は合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる経糸及び合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる緯糸で構成されており、
樹脂層の表面が凹凸であることを特徴とする遮水シート。
【請求項2】
前記表面凹凸は、凸部の数が面積10mm2あたり2個以上である請求項1に記載の遮水シート。
【請求項3】
前記表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値と最小値との比(厚み最大値/厚み最小値)1.1〜3.0である請求項1又は2に記載の遮水シート。
【請求項4】
前記遮水シートの動摩擦係数が0.40以上である請求項1〜3のいずれかに記載の遮水シート。
【請求項5】
前記樹脂層の表面に前記紡績糸の毛羽が露出している請求項1〜4のいずれかに記載の遮水シート。
【請求項6】
前記樹脂層の表面において、塊状樹脂が樹脂層を突き抜けて露出している毛羽に付着している請求項5に記載の遮水シート。
【請求項7】
前記遮水シートは、空気を排出する手段を設けている請求項1〜6のいずれかに記載の遮水シート。
【請求項8】
前記遮水シートは、堤防の法面の表蓆張り工用である請求項1〜7のいずれかに記載の遮水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防や山の斜面など、水の浸透や降雨および流水による侵食を防ぐために地面に設置する遮水シートに関する。特に、堤防の法面の表蓆張り工に使用するのに好適な遮水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
堤防などの盛り土斜面(法面)、山間部の崖等は、多量の降雨により地盤中に雨水や増水した河川水がしみ込み、堤防や地盤が軟弱となり崩壊し、破堤、地すべり、山崩れ等が発生し、洪水や土石流が下方に滑落する場合がある。このような災害の発生を防止するため、法面を複数のハトメが端部に設置された各種の遮水シートで覆い、ハトメに土嚢をぶら下げ重しとする提案がある(特許文献1)。このような工法で使用される遮水シートとしては一般的にはいわゆるブルーシートやターポリンと言われているものなどが使用されている。ブルーシートはスリットされたフィルムの平織物の両面にフィルムラミネート加工されているシートであり、また、ターポリンはフィラメント糸(長繊維糸)の織物の両面にフィルムラミネート加工されているシートであり、両方とも表面は比較的平滑である。別な遮水シートとして、紡績糸を使用した織物を平滑加工してポリ塩化ビニル樹脂をコーティングしたシートが提案されている(特許文献2)。
【0003】
しかし、従来の遮水シートは表面が平滑で、堤防などの法面などに敷設したときに、作業者が遮蔽シートの上に載って作業する場合、滑りやすく作業しにくいという問題があった。場合によっては、作業者が滑落して怪我をする危険性があった。とくに堤防の法面の表蓆張り工の場合、荒天時に作業することが多いため、遮水シートが濡れて滑りやすいという問題があった。遮水シートが滑りやすいと短時間で敷設工事をすることができず、破堤、地すべり、山崩れ等の重要な問題につながる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-036603号公報
【特許文献2】特開2003-082582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、雨水で濡れても滑りにくく、斜面に敷設して作業しても作業効率が低下しにくい遮水シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の遮水シートは、地面に設置する表蓆(むしろ)張り工法用遮水シートであって、前記遮水シートは織物の両面に樹脂層が形成されており、前記織物は合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる経糸及び合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる緯糸で構成されており、樹脂層の表面が凹凸であることを特徴とする。

【発明の効果】
【0007】
本発明の遮水シートは、織物の両面に樹脂層が形成されており、前記織物は合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる経糸及び合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる緯糸で構成されており、樹脂層の表面に前記紡績糸の毛羽が露出しており、樹脂層の表面が凹凸であることにより、雨水で濡れても滑りにくく、斜面に敷設して作業しても作業効率が低下しにくい。加えて、凹凸があると水の逃げ道になり、表面は滑りにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明における一実施例の堤防の法面の表蓆張り工法を示す模式的斜視図である。
図2図2は本発明における一実施例の遮水シートの模式的断面図である。
図3図3は本発明における別の実施例の遮水シートの模式的断面図である。
図4図4は本発明における一実施例の遮水シートの断面写真である。
図5図5は本発明における別の実施例の遮水シートの断面写真である。
図6図6は従来例のターポリンの断面写真である。
図7図7は従来例のブルーシートの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の遮水シートは、堤防や山の斜面など、水の浸透や降雨および流水による侵食を防ぐための地面に設置する遮水シートである。特に法面に設置するのに好適である。この遮水シートは織物の両面に樹脂層が形成されており、織物は合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる経糸及び合成繊維を主成分として含む紡績糸からなる緯糸で構成されている。ここで主成分とは50〜100質量%をいう。合成繊維が前記の範囲であれば、強度と耐久性が高く、好ましい。また経糸及び緯糸に紡績糸を使用するのは、樹脂層の表面に紡績糸の毛羽を出すためである。紡績糸を使用すること、及び毛羽を出すことにより、遮水シートの表面を相乗的に凹凸とすることができる。紡績糸は撚りによって断面が円形であり、織物になっても変形しないことから、織物表面には凹凸ができ、加えて毛羽により樹脂層の厚みが不均一になるからと思われる。
【0010】
本発明の遮水シートは、表面凹凸において凸部の数は面積10mm2あたり2個以上が好ましい。これにより表面の摩擦抵抗が高く、雨水により濡れても滑りにくくなる。なお、凸部とは凹部(すなわち一番厚みが薄い所)から厚みが増えていく一連の過程において極大点を表す。また、遮水シートの表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値と最小値との比(厚み最大値/厚み最小値)が1.1〜3.0であるのが好ましく、より好ましくは1.1〜1.9であり、さらに好ましくは1.2〜1.8であり、特に好ましくは1.3〜1.8である。これにより、表面の摩擦抵抗が高く、雨水により濡れても滑りにくくなる。
【0011】
遮水シートのISO13287に準じて測定される、動摩擦係数は、0.40以上であることが好ましい。より好ましくは、0.80以上であり、さらに好ましくは0.90以上である。動摩擦係数が高いと雨水により濡れても滑りにくくなり、特にシートの上を歩く場合に滑りにくくなるため好ましい。また、動摩擦係数は2.0以下であることが好ましい。
【0012】
遮水シートは、樹脂層の表面に前記紡績糸の毛羽が露出していることが好ましい。毛羽が露出していることにより、遮水シートの表面を相乗的に凹凸とすることができる。
【0013】
樹脂層の表面には塊状樹脂が含まれていても良い。塊状樹脂はゲルやゾルを含む。塊状樹脂が含まれていると好ましい凹凸が形成される。樹脂層は塩化ビニル樹脂であるのが好ましい。塩化ビニル樹脂は強度、耐水性、耐久性、耐光性が高く、土木材料として優れている。また、塊状樹脂は樹脂層を突き抜けて露出している毛羽に付着していると、より凹凸による滑り止め効果を発揮できるため好ましい。
【0014】
樹脂層表面に粒状の固形物が含まれていても良い。樹脂表面に粒状固形物が現れる事により、さらに滑りを抑制できるからである。粒状固形物の素材は限定されないが、好ましくは砂、石、酸化アルミニウムなどに代表される砥粒が好ましい。
【0015】
遮水シートの表面に袋部を設けておいても良い。これは袋内に土砂は水などを入れることにより重しとして利用でき、表蓆張り工に有用である。
【0016】
本発明の遮水シートは、たとえば、河川法面に設置するときに、遮水シート同士をつなぎあわせ、大きい1枚の遮水シートとしても良い。つなぎあわせる方向はシートに対して幅方向、長さ方向のいずれでも実施される。つなぎあわせる方法は特に限定されないが、シートの端部同士を熱により接着する方法、接着剤などの糊材で貼り合わせる方法、面ファスナーで貼り合わせる方法、シート同士を重ねあわせおもりを置く方法、端部同士をひもで結ぶ方法、シート端部に連結治具(装置)を設け連結する方法などがある。
【0017】
遮水シートを施工したときに、地面と遮水シートに空気がたまることがあり、空気がたまると地面と遮水シートの間に空間が生じ、遮水シート本来の性能を発揮することや、遮水シートが破れやすくなる恐れがある。そのため、本発明の遮水シートは地面と遮水シート間にたまる、空気を排出する手段を設けても良い。空気を排出する手段としては、排気弁を遮水シート上適当な箇所1箇所以上に設けること、あるいは遮水シート自体に通気性を持たせて空気を排出する構造としてもよい。遮水シート上に排気弁や通気性を持たせる場所としては、遮水シート同士を接合させる部分に設けると好ましい。
【0018】
本発明の遮水シートの織物の経糸密度は使用する糸の番手にもよるが、40〜70本/25mmであることが好ましく、52〜60本/25mmであることがより好ましい。また、織物の緯糸密度は35〜65本/25mmであるのが好ましく、47〜55本/25mmであることがより好ましい。糸密度が前記の範囲であれば、織物としての強度を高く維持でき、遮水シートの強度も高くできる。また、密度を高くすることにより、織物に凹凸ができやすくなるため好ましい。また、経糸及び緯糸は単糸使いでも良いし、双糸使いでもよいが、双糸にする方が、樹脂層の表面に毛羽を露出しやすくできるため好ましい。
【0019】
遮水シートは、堤防の法面の表蓆(むしろ)張り工用であるのが好ましい。ここで表蓆張り工を、図面を用いて説明する。図1は本発明における一実施例の堤防の法面の表蓆張り工法を示す模式的斜視図である。堤防の法面(斜面)1に、留杭3a〜3cからロープ4a〜4cにつながる遮水シート2と、骨竹(支持棒)8a〜8fを敷設し、遮水シートの下部に重し5a〜5cを載せる。遮水シートの中間にもロープ6を介して重し7を載せる。重しはシート面積や水流により、重しの重量、数を任意に変更できる。表蓆張り工法は、台風や大水が近づいているさなかに実施することもあり、時間との競争で実施する場合もある。したがって、作業者は遮水シート2の上に乗って作業することもあり、シート表面の摩擦抵抗が高く、雨水により濡れても滑りにくい性質は重要である。
【0020】
図2は本発明における一実施例の遮水シート10の模式的断面図である。この遮水シート10は経糸12が合成繊維の紡績糸の双糸、緯糸11a,11bが合成繊維の紡績糸の双糸使いの平織物であり、樹脂13が含浸されている。そして経糸12及び緯糸11a,11bからは樹脂層13を突き抜けて毛羽14が露出している。加えて樹脂層13の表面は凹凸である。
【0021】
図3は本発明における別の実施例の遮水シート15の模式的断面図である。この遮水シート15は経糸17が合成繊維の紡績糸の単糸、緯糸16が合成繊維の紡績糸の単糸使いの平織物であり、樹脂18が含浸されている。そして経糸17及び緯糸16からは樹脂層18を突き抜けて毛羽19が露出している。加えて樹脂層18の表面は凹凸である。
【0022】
本発明の遮水シートを構成する織物は、熱可塑性樹脂を用いて製造された合成繊維を主成分とするのが好ましい。具体的には合成繊維が50質量%以上、好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。もちろん100質量%であっても良い。混紡できる繊維としては、コットン、および麻などの天然繊維、シルクおよびウールなどの蛋白質繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維を含んでもよいが、屋外で使用される場合の耐久性、耐候性を考慮すると、天然繊維や再生繊維を使用していない、合成繊維からなる織物が最も好ましい。
【0023】
前記合成繊維は、熱可塑性樹脂からなる繊維であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエチレン(高密度、低密度、直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリブタジエン、エチレン系共重合体(例えば、エチレン−αオレフィン共重合体)、プロピレン系共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体)、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、またはエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体などのポリエステル樹脂、ナイロン66、ナイロン12、およびナイロン6などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、それらの混合物、ならびにそれらのエラストマー系樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂を用いて製造した合成繊維からなる不織布が、耐候性、耐久性、および製造時のコストから好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂からなる繊維が特に好ましい。
【0024】
前記合成繊維は、いずれの形態のものであってよく、例えば、1つの樹脂または複数の樹脂の混合物から成る単一繊維であってよく、あるいは2以上の成分から成る複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、および柑橘類の房状の樹脂成分が交互に配置されている分割型複合繊維であってよい。また、合成繊維の断面形状もいずれの形状のものであってよい。合成繊維は、通常得られる円形(真円)断面の合成繊維であってよく、あるいは繊維の断面形状が非円形の合成繊維、いわゆる異形断面の繊維であってもよい。異形断面の繊維の断面は、例えば、多角型形状、楕円型形状、扁平型形状、繊維表面に多数の枝状部を有する、いわゆる多葉型形状(具体的には3葉から32葉の多葉型形状)、星型形状、C字型形状、Y字型形状、W字型形状、十字型形状、および井型形状等である。さらに、合成繊維は前記のように、単一繊維および複合繊維であるか否かにかかわらず、および/または繊維断面形状が円形であるか異形であるにかかわらず、繊維断面に長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空繊維であってもよい。
【0025】
前記合成繊維の繊度は、耐久性を有する繊度であれば特に限定されないが、0.1〜100dtexであることが好ましい。合成繊維の繊度が0.1dtex未満であると製造コストが高くなるおそれがあるだけでなく、合成繊維の繊維径が小さくなりすぎるため、織物にするには困難となる。合成繊維の繊度が100dtexを超えると合成繊維の繊維径が大きくなりすぎるため、合成繊維一本一本の剛性が高くなり、やはり織物にするには困難となる。前記合成繊維の繊度は0.3〜50dtexであるとより好ましく、0.5〜30dtexであると特に好ましく、0.5〜20dtexであると最も好ましい。
【0026】
紡績糸の太さ(繊度)は、英式綿番手で5〜20番(繊度で300〜1200dtex)が好ましい。なお、前述した番手は単糸または単糸に換算した場合に好ましい数値であり、双糸の場合は、双糸を構成する個々の紡績糸1本あたり15〜22番であると好ましい。織物の目付は、60〜600g/m2が好ましい。織物の目付が前記範囲であれば、遮水シートとして十分な強度と耐久性を発揮する。また鋭利な金属片や突起物の貫通を阻止できる。加えて、遮水シートの上に土嚢などを置いた場合も安定性が良い。また、土嚢などの上を覆うカバーシートとして使用する場合は、風で簡単に吹き飛ぶことはなく、安定して覆うことが可能となる。織物の目付は100〜550g/m2であることがより好ましく、150〜450g/m2であることが特に好ましく、220〜350g/m2であることが最も好ましい。
【0027】
織物組織は、平織、綾織、朱子織、ハニカム織、緯糸2重織り、経糸2重織り、その他の変化織等どのような組織であっても良い。好ましくは強度が高く、コストも安い平織である。
【0028】
次に、本発明の遮水シートは遮水性と併せて柔軟性・可撓性を有するシートであれば特に限定されない。遮水性はJIS L 1092(2009)『繊維製品の防水性試験方法』に記載されている耐水度試験(静水圧法)A法(低水圧法)で測定される耐水度が200mm以上のものが好ましい。遮水シートが有する耐水度は、JIS L 1092(2009)『繊維製品の防水性試験方法』に記載されている耐水度試験(静水圧法)A法(低水圧法)で測定される耐水度が500mm以上であると好ましく、800mm以上であるとより好ましく、1000mm以上であると特に好ましく、1200mm以上であると最も好ましい。
【0029】
また、本発明の遮水シートの遮水性について、JIS−L1099(A−1法)より測定される透湿度から算出される、透水係数が1×10-5cm/s以下であるものが好ましい。遮水シートが透水係数を満足する手段として、撥水加工を遮水シートに施すことにより透水係数が満足されても良い。撥水等の加工を施すことにより、樹脂の使用量を減らすことが出来るため好ましい。
【0030】
前記織物に対して、樹脂シートをラミネートしたり、樹脂を含浸させたりして、本発明の遮水シートを得る。含浸、ラミネート(熱融着)、接着等により一体化させる樹脂は特に限定されず、公知の樹脂であって、遮水性の層として用いられている樹脂を使用することができる。その例としては、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系エラストマー樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、ポリアミド系エラストマー樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ポリプロピレン系樹脂、リアクタ−PPアロイ樹脂、および熱可塑性ゴムが挙げられる。この中でも、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系エラストマー樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリプロピレン系樹脂が入手しやすく、織物への一体化も容易であること、また、これらの熱可塑性樹脂またはエラストマー樹脂であれば、所定幅(例えば2m幅)の長尺ロールを製造し、この長尺ロールを施工現場、敷設現場で溶着加工を行なって接合することで、広い面積(例えば20m四方)に施工する場合であっても、長尺ロールをつなぎ合わせることで施工できるだけでなく、かつ施工する面積にあったサイズに容易に調整できること、また、接合時に行う溶着処理も容易に行えることから好ましく用いられる。前記の熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂の中でも、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系エラストマー樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリプロピレン系樹脂を用いることがより好ましく、耐候性を考慮すると塩化ビニル樹脂を用いることが特に好ましい。前記塩化ビニル樹脂とは、ポリ塩化ビニル樹脂、および塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマー、例えばエチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマーとの共重合体樹脂、その他、ウレタングラフトポリ塩化ビニル樹脂などを指す。
【0031】
繊維織物に対して樹脂を一体化させる方法は特に限定されず、公知の方法で一体化させることができる。織物に対して樹脂を含浸させる方法としては、i).熱可塑性樹脂又はエラストマー樹脂、好ましくは前記熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂の1種以上を含む組成物を用い、ナイフ法またはロール法を用いたコーターによって織物に熱可塑性樹脂又はエラストマー樹脂をコーティングする方法、ii).熱可塑性樹脂又はエラストマー樹脂、好ましくは前記熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂の1種以上を含む組成物を用い、前記組成物の中に織物を含浸させた後、マングルロールで絞った後、乾燥させるディッピング法(パディング法)、iii).熱可塑性樹脂又はエラストマー樹脂、好ましくは前記熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂の1種以上を含む組成物を用意し、この組成物をカレンダー法、T−ダイ法、インフレーション法などで溶融成形した樹脂フィルムを前記織物に対して熱ラミネートする、熱ラミネート法、iv).熱可塑性樹脂又はエラストマー樹脂、好ましくは前記熱可塑性樹脂やエラストマー樹脂の1種以上を含む樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルムを、接着剤を用いたドライ法またはウェット法で前記織物に貼り合わせた後、乾燥させて一体化させるラミネート法、v).前記i)〜iv)に記載された方法を併用する方法が挙げられる。
【0032】
前記織物に対し、前記熱可塑性樹脂および/またはエラストマー樹脂を一体化、あるいは含浸させて、遮水性を有する樹脂補強織物が得られる。本発明の遮水性積層シートにおいて、樹脂補強織物に含まれる樹脂(織物に一体化あるいは含浸させた熱可塑性樹脂および/またはエラストマー樹脂)の割合は特に限定されないが、織物の質量に対し20〜500質量%の樹脂が一体化あるいは含浸されていることが好ましい。織物に対して一体化あるいは含浸されている樹脂の割合が前記範囲を満たすことで本発明の遮水シートの耐久性や遮水性が優れるだけでなく、十分な柔軟性・可撓性および敷設性・取り扱い性を有するものとなる。織物の質量に対し、樹脂の割合が20質量%未満であると、織物に対して一体化あるいは含浸された樹脂の量が少ないために樹脂補強織物の力学的特性(例えば引っ張り強度)が低下し、耐久性が十分ではなくなるおそれがあるだけでなく、遮水性も十分ではなくなるおそれがある。織物の質量に対し、樹脂の割合が500質量%を超えると、樹脂補強織物の耐久性や遮水性は高められるものの、樹脂補強織物の質量が増加し、取り扱い性が低下するだけでなく、樹脂補強織物の柔軟性も低下し、敷設性、施工性が低下するおそれがある。さらに、樹脂の割合が多いと、紡績糸表面にある毛羽からなる凹凸が樹脂に埋もれるおそれがある。樹脂補強織物に含まれる樹脂の割合は、織物の質量に対し30〜300質量%の樹脂が一体化あるいは含浸されていることがより好ましく、40〜200質量%の樹脂が一体化あるいは含浸されていることが特に好ましく、50〜100質量%の樹脂が一体化あるいは含浸されていることが最も好ましい。
【0033】
前記樹脂補強織物は、前記の諸条件を満たす樹脂補強織物を製造したものを用いることができるし、市販されている樹脂補強織物も用いることができる。市販されている樹脂補強織物であって、前記諸条件を満たすものであれば特に限定されないが、好ましい樹脂補強織物としては、織物が短繊維紡績糸を用いた織物であり、これに樹脂含浸、樹脂のコーティング、樹脂のラミネートを行った合繊帆布(重布、キャンバス、カンバス)が好ましい。これに対して、マルチフィラメント・ヤーン(長繊維糸)を用いた織物に、樹脂含浸、樹脂のコーティング、樹脂のラミネートを行ったターポリンやブルーシートは、表面が平滑であり、雨水に濡れると滑りやすく好ましくない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<測定方法>
(1)目付(単位面積あたりの質量)
JIS−L1096 8.3.2に準拠して、試料200mm×200mmに調整し標準状態時(JIS−L0105.6による)の質量を求め、単位面積あたりの質量に換算した。
(2)厚さ
JIS−L1096 8.4 A法に準拠して、試料中異なる5箇所について、厚さ測定器(加重200g)を用い厚さを測定しその平均値を求めた。
(3)剛軟度
JIS−L1096 8.21.5 E法ハンドルオメータ法に準拠して、試料を100mm×100mmに調整したものを3枚用意し、スロット幅10mmに設定したハンドルオメーターに試料幅方向の1/3の位置(すなわち33mm)に測定方向がスロットと直角になるようブレード直下に試料を置き、ブレードが降下した際の最大応力(N)を測定し平均を求めた。測定は試料のタテ方向およびヨコ方向共に実施した。
(4)最大強度、最大伸度
JIS−L1096 8.14.1 A法ストリップ法に準拠して、試料を幅50mm×長さ200mmに調整したものをタテ方向とヨコ方向各々3枚用意し、ゲージ間距離100mm、ヘッド速度200mm/minに設定した定速伸長型力学試験機にて測定し、それぞれについて最大応力(N)伸度(%)を測定し平均を求めた。
(5)引裂強力
JIS−L1096 8.17.1 A法シングルタング法に準拠して、試料を幅50mm×長さ200mmに調整したものをタテ方向とヨコ方向各々3枚用意し、幅方向中央部(すなわち幅25mm部分)に短辺と直角に100mmの切れ目を入れ、各舌辺を上下のクランプにはさみ、ゲージ間距離100mm、ヘッド速度200mm/minに設定した定速伸長型力学試験機にて測定し、それぞれについて引裂最大応力(N)を測定し平均を求めた。
(6)貫入抵抗
ASTM D4833に準拠して測定した。
(7)摩擦抵抗(動摩擦係数)
ISO13287に準拠して、耐滑試験機上面に試料を取り付けた後、鉛直方向に500Nの荷重をかけ、0.3m/sの速度で床面を水平方向に移動させ、試料の滑り始めから0.3〜0.6秒の間の動摩擦係数を測定した。試料は幅10cm×長さ18cmとし、床面にはステンレス板を用いた。
【0036】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート短繊維を使用した紡績糸、綿番手20番(繊度265.7dtex)の双糸を経糸と緯糸に使い、経糸密度56本/インチ、緯糸密度50本/インチ、平織組織の織物を製造した。織物の目付は280g/m2であった。この織物に塩化ビニル樹脂を含浸させ、マングルで絞り、乾燥して遮水シートを作製した。得られた遮水シートは、織物の両面に樹脂層があり、樹脂層の表面に紡績糸の毛羽が露出しており、樹脂層の表面が凹凸であった(図4)。図4からも明らかな通り、凹凸はギザギザしており、急峻である。前記表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値と0.65mm,最小値0.39mm、厚み最大値/厚み最小値の比は1.67であり、面積10mm2あたりにおける凸部の数は2以上であった。動摩擦係数は1.01であった。また表面には繊維の毛羽が露出していることがわかる。詳しい結果は表1にまとめて示す。
【0037】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート短繊維を使用した紡績糸、綿番手10番(繊度265.7dtex)の単糸を経糸と緯糸に使い、経糸密度46本/インチ、緯糸密度43本/インチ、平織組織の織物を製造した。織物の目付は230g/m2であった。この織物に塩化ビニル樹脂を含浸させ、マングルで絞り、乾燥して遮水シートを作製した。得られた遮水シートは、織物の両面に樹脂層があり、樹脂層の表面に紡績糸の毛羽が露出しており、樹脂層の表面が凹凸であった(図5)。前記表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値0.48mm,最小値0.43mm、厚み最大値/厚み最小値の比は1.12であり、面積10mm2あたりにおける凸部の数は2以上であった。動摩擦係数は0.51であった。また表面には繊維の毛羽が露出していることがわかる。詳しい結果は表1にまとめて示す。
【0038】
(比較例1)
市販のターポリンを使用した。このターポリンはポリエチレンテレフタレートのフィラメント(長繊維)を経糸と緯糸に使用した織物の両表面に塩化ビニル樹脂フィルムをラミネートしたものである。樹脂層の表面は平坦であった(図6)。前記表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値0.37mm,最小値0.35mm、厚み最大値/厚み最小値の比は1.06であり、面積10mm2あたりにおける凸部の数は無かった。詳しい結果は表1にまとめて示す。
【0039】
(比較例2)
市販のブルーシートを使用した。このブルーシートは#3000と規格される市販品であり、ポリエチレンのスリットヤーン(長繊維)を経糸と緯糸に使用した織物の両表面にポリエチレンフィルムをラミネートしたものである。樹脂層の表面は平坦であった(図7)。前記表面凹凸は、面積1mm2あたりにおける厚みの最大値0.30mm,最小値0.13mm、厚み最大値/厚み最小値の比は2.31であり、面積10mm2あたりにおける凸部の数は1であった。図7の断面写真からも明らかなとおり、凹凸は大きいが基布表面から出ている凸部の数が1個であるため滑らかである。詳しい結果は表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から明らかなとおり、実施例1〜2品は水で濡れても滑りにくいことが確認できた。さらに水平線からの傾斜度約27°(2割勾配)の斜面に前記シートを固定し、前記シートの表面に水を掛けながらゴム製長靴(アキレス社製、商品名“ワークマスター”、サイズ27cm)を履いた作業者に作業してもらった。その結果次のことが確認できた。
(1)実施例1の遮水シート(合繊帆布)は注意しなくても滑らず、作業効率の低下は認められなかった。
(2)実施例2の遮水シート(合繊帆布)は少し注意すると滑らなかったが、作業効率はやや低下した。
(3)比較例1の遮水シート(ターポリン)はよく注意しないと滑り、作業効率は低下した。
(4)比較例2の遮水シート(ブルーシート)もよく注意しないと滑り、作業効率は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のシートは、堤防、道路、鉄道などの盛り土斜面の法面、山間部の崖、建築物の屋根等様々な斜面の滑りやすい場所に敷設して作業するのに好適である。加えて強度も高いので、堤防の法面の表蓆張り工用などにも好適である。
【符号の説明】
【0043】
1 堤防の法面(斜面)
2,10,15 遮水シート
3a〜3c 留杭
4a〜4c,6 ロープ
5a〜5c,7 重し
8a〜8f 骨竹(支持棒)
11a,11b,16 緯糸
12,17 経糸
13,18 樹脂
14,19 毛羽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7