(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陽極が配置される陽極室と陰極が配置される陰極室とがイオン交換膜により区画された電解漕を用い、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することで四塩化チタンから三塩化チタン溶液を製造する方法であって、
上記イオン交換膜が水素イオンを透過させる陽イオン交換膜であり、
上記陽極室が水素イオン源を含む液体を収容し、
上記陰極室が四塩化チタン溶液を収容することを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。
上記酸化抑制剤が、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、又はそれらの2以上の組み合わせである請求項5に記載の三塩化チタン溶液の製造方法。
上記酸化抑制剤のモル濃度が上記陰極室の溶液中の三価のチタンイオン及び四価のチタンイオンの合計モル濃度に対し0.1倍以上である請求項4、請求項5又は請求項6に記載の三塩化チタン溶液の製造方法。
上記浸透圧調整剤が、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、又はそれらの2以上の組み合わせである請求項9に記載の三塩化チタン溶液の製造方法。
上記陽極又は上記イオン交換膜が、上記水素イオン生成反応において上記水素イオンと共に生成された気体を透過させる気体通路を有している請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の三塩化チタン溶液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
上記課題を解決するためになされた本発明は、
陽極が配置される陽極室と陰極が配置される陰極室とがイオン交換膜により区画された電解漕を用い、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することで四塩化チタンから三塩化チタン溶液を製造する方法であって、
上記イオン交換膜が水素イオンを透過させる陽イオン交換膜であり、
上記陽極室が水素イオン源を含む液体を収容し、
上記陰極室が四塩化チタン溶液を収容することを特徴とする。
【0013】
当該製造方法では、陽極と陰極との間に電圧を印加することで、陰極室において四価のチタンイオンが三価のチタンイオンに還元され塩化物イオンが過剰となる。一方、電圧印加より、陽極室では、水素イオン源から水素イオンが生成する。この水素イオンは、陽イオン交換膜を透過して陰極室に移動する。その結果、陰極室では、三価のチタンイオンと塩酸(水素イオンと塩化物イオン)とが共存する。ここで、塩酸は、三価のチタンイオンが四価のチタンイオンに酸化されることを抑制する。そのため、当該製造方法によれば、三塩化チタン溶液が塩酸と共存したものとして得られるので、塩酸により酸化劣化が抑制された三塩化チタン溶液を得ることができる。
【0014】
また、当該製造方法では、陽イオン交換膜によって電解槽を陽極室と陰極室とに区画しているため、陽極室から陰極室への水素イオンの移動が許容される一方で、陰極室から陽極室への塩化物イオンの移動が制限される。そのため、陽極反応において塩素ガスが発生することを抑制できるため、塩素ガスの除去装置を必要としない。その結果、当該製造方法によれば、塩素ガスの除去が不要な分だけ製造コストを抑制でき、また三塩化チタン溶液の製造装置が不必要に大型化することもない。
【0015】
上記陽極の陰極側表面と上記陽イオン交換膜の陽極側表面との間に水素イオン生成反応のための触媒が固定されているとよい。このように陽極と陽イオン交換膜との間に触媒が固定されることで、触媒に対して効率良く水素イオン源が供給される共に、陽極反応によって生成した水素イオンが効率良く陽イオン交換膜を透過する。触媒に対して効率良く水素イオン源が供給されることで、陽極が水素イオン源から効率良く電子を受け取りその電子を陰極に供給できる。そのため、陰極において四価のチタンイオンを効率良く還元できる。一方、水素イオンが効率良く陽イオン交換膜を透過することで、陰極反応によって生成される三価のチタンイオンの酸化劣化を効果的に抑制できる。
【0016】
上記陽極が多孔質体であるとよい。このように陽極が多孔質体であることで、陽極室から触媒に対して効率良く水素イオン源を供給することができると共に、陽極反応において生成した気体を効率良く触媒表面から排除することができる。そのため、陽極反応を促進でき、その結果陰極反応により効率良く三塩化チタンを生成できる。
【0017】
上記陰極室の溶液が、三価のチタンイオンの酸化を抑制する酸化抑制剤を含有するとよい。このように酸化抑制剤を含んでいることにより、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0018】
上記酸化抑制剤としては2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はこのカルボン酸塩が好ましい。このような酸化抑制剤を使用することで、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0019】
上記酸化抑制剤としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、又はそれらの2以上の組み合わせが好ましい。これらのカルボン酸又はカルボン酸塩は、三価のチタンイオンに配位しチタン錯体を形成する。これにより、三価のチタンイオンと酸素とが接近する頻度を少なくし、三価のチタンイオンの酸化を効果的に抑制できる。
【0020】
上記酸化抑制剤のモル濃度としては、上記陰極室の溶液中の三価のチタンイオン及び四価のチタンイオンの合計モル濃度に対し0.1倍以上が好ましい。このように酸化抑制剤の濃度を適正化することで、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0021】
上記水素イオン源としては水が好ましい。このように水素イオン源として水を使用することで、材料コストを抑制でき、その結果製造コストを抑制できる。
【0022】
上記陽極室の溶液が上記陰極室との浸透圧を調整する浸透圧調整剤を含有するとよい。このように陽極室が浸透圧調整剤を含有することで、触媒表面から陰極室への水素イオンの移動を促進できる。そのため、触媒表面での水素イオンの滞留を抑制できるために触媒反応を活性化でき三価のチタンイオンを効率良く生成できる。また、陰極室への水素イオンの移動が促進されることで、陰極室での水素イオン濃度が高まるので三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0023】
上記浸透圧調整剤としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、又はそれらの2以上の組み合わせが好ましい。このような浸透圧調整剤を用いることで、三価のチタンイオンをより効率良く生成し、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0024】
上記陽極又は上記イオン交換膜が、上記水素イオン生成反応において上記水素イオンと共に生成された気体を透過させる気体通路を有しているとよい。気体通路を設けることで陽極反応によって生成した気体がこの気体通路を通過する。そのため、触媒表面での上記気体の滞留を抑制し、触媒表面へ水素イオン供給源を効果的に供給することができる。これにより、水素イオン供給源から陽極が受け取った電子を効率良く陰極に供給できるため、陰極反応を促進することができる。その結果、陰極において効率良く三塩化チタンを生成できる。
【0025】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、
三塩化チタン、塩酸及び酸化抑制剤を含み、
上記酸化抑制剤が2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はこのカルボン酸塩である三塩化チタン溶液である。
【0026】
当該三塩化チタン溶液によれば、塩酸及び酸化抑制剤を含むことで、三塩化チタンの酸化劣化を効果的に抑制できる。特に、酸化抑制剤として2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はその塩を用いることで、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。その結果、当該三塩化チタン溶液は保存性に優れたものとなる。
【0027】
上記塩酸の濃度としては0mol/L超2mol/L以下が好ましい。このように塩酸の濃度を上記範囲とすることで三価のチタンイオンの酸化劣化がより効果的に抑制され、当該三塩化チタン溶液の保存性がより優れたものとなる。
【0028】
上記酸化抑制剤の濃度としては0.1mol/L以上2mol/L以下が好ましい。このように酸化抑制剤の濃度を上記範囲とすることで、三価のチタンイオンの酸化劣化がより効果的に抑制され、当該三塩化チタン溶液の保存性がより優れたものとなる。
【0029】
[本発明の実施形態の詳細]
以下に図面を参照しつつ発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等な意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【0030】
図1の電解還元装置1は、本発明の三塩化チタン溶液の製造方法を実現するための装置である。この電解還元装置1は、電解槽2、陰極3、陽極4、陽イオン交換膜5、触媒層6及び直流電源7を備えている。
【0031】
<電解槽>
電解槽2は、電解対象液を収容するものである。この電解槽2は、陽イオン交換膜5により陰極室20と陽極室21とに区画されている。
【0032】
(陰極室)
陰極室20には、陰極3が配置され、四塩化チタン溶液が収容されている。この陰極室20は、供給口20A及び排出口20Bを有している。供給口20Aは、四塩化チタン溶液を供給するものであり、陰極室20の下方側に設けられている。排出口20Bは、三塩化チタン溶液を排出するものであり、陰極室20の上方側に設けられている。すなわち、電解還元装置1は、連続的に四塩化チタン溶液を供給し連続的に三塩化チタン溶液を製造することができる。
【0033】
ここで、当該製造方法において、「四塩化チタン溶液」とは、陰極室20に供給されるチタン溶液、及び陰極室20に存在するチタン溶液(四塩化チタンと三塩化チタンとの共存溶液)を含む。「三塩化チタン溶液」とは、電解槽2(陰極室20)の排出口20Bから排出される三価のチタンイオンを含有する溶液をいう。
【0034】
(陽極室)
陽極室21には、陽極4が配置されている。この陽極室21には、水素イオン源が収容されている。水素イオン源としては、後述するように電気分解により水素イオン及び電子を生成できるものであれば特に制限はなく、コスト的及び環境的な観点からは水が好ましい。
【0035】
<陰極>
陰極3は、陽極4から供給される電子を利用した電極反応によって、四価のチタンイオンを三価のチタンイオンに還元するものである。この陰極3は、例えば板状に形成されている。陰極3は、下端部が電解槽2の供給口20Aの正面に位置するように配置される。このように陰極3を配置することで、陰極3の下端部に向けて供給口20Aから四塩化チタン溶液が供給される。一方、排出口20Bは、供給口20Aの上方に配置されている。そのため、陰極室20には、陰極3の表面に沿って陰極3の下端部から上端部に向けた流れが生じ、陰極反応によって生成した三塩化チタンを排出口20Bに効率良く導くことができる。
【0036】
この陰極3としては、導電性及び塩酸に対する耐腐食性を有すれば特に制限はなく、鉄等の導電性金属、合金、黒鉛等が用いられる。また、陰極3としては、導電性金属の表面を耐腐食性の高い金属、例えば白金、金、ロジウム等で被覆したものを用いることもできる。
【0037】
<陽極>
陽極4は、電圧印加によって水等の水素イオン供給源を電気分解するものである。陽極4は、板状に形成されている。この陽極4は、導電性物質を含む多孔質体として形成することができる。導電性物質としては、電極材料として公知のものを使用でき、例えばチタン、導電性カーボン、ニッケル等が挙げられ、中でもチタンが好ましい。また、陽極4としては、導電物質の表面を耐腐食性の高い金属、例えば白金、金、ロジウム等で被覆したものを用いることもできる。
【0038】
陽極4を多孔質体に形成することで、陽極室21から触媒層6に対して効率良く水素イオン源を供給することができると共に陽極反応において生成した気体を効率良く触媒層6の表面から排除することができる。そのため、陽極反応を促進でき、その結果陰極反応を促進して効率良く三塩化チタンを生成できる。
【0039】
多孔質体は、公知の方法により形成することができる。例えば、導電化した発泡ウレタンフォーム等にメッキを施した後に焼成する方法、接着剤を塗着した発泡ウレタンフォーム等に金属粉末を付着させた後に焼成する方法、金属繊維を型枠内に充填した後に成形体を焼結する方法等により形成できる。
【0040】
多孔質体の気孔率としては、触媒層6に水を効率良く供給でき、触媒層6において生成した酸素等の気体を効率良く透過させるために、30%〜99%が好ましい。ここで、気孔率は、JIS Z2501(2000)「焼結金属材料−密度、含油率及び開放気孔率試験方法」に準じて測定した値である。
【0041】
陽極4の厚みの上限としては、20mmが好ましく、10mmがより好ましい。陽極4の厚みが上記上限を超えると、陽極4における分子の移動距離が大きくなり陽極反応の効率が低下するおそれがある。一方、陽極4の厚みの下限としては、1mmが好ましく、5mmがより好ましい。陽極4の厚みが上記下限未満であると、陽極4の電気抵抗値が大きくなり陰極3に供給される電子が少なくなるおそれがある。
【0042】
<陽イオン交換膜>
陽イオン交換膜5は触媒層6で生成した水素イオンを選択的に透過させるものである。この陽イオン交換膜5としては、公知のものを使用でき、例えば、炭化水素系イオン交換膜、ポリマーパーフルオロカーボン系イオン交換膜等が挙げられる。炭化水素系イオン交換膜は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等の炭化水素系重合体に陽イオン交換基を導入したものである。ポリマーパーフルオロカーボン系イオン交換膜は、パーフルオロアルキレン基を主鎖骨格とすると共に、その側鎖の一部としてパーフルオロビニルエーテルを有し、この側鎖の末端に陽イオン交換基を導入したものである。陽イオン交換基としては、例えばスルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられる。
【0043】
陽イオン交換膜5の厚みの上限としては、2mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。陽イオン交換膜5の厚みが上記上限を超えると水素イオンの透過性が低下し触媒層6の表面での水素イオンの滞留時間が長くなり触媒層6での反応を阻害するおそれがある。一方、陽イオン交換膜5の厚みの下限としては、0.02mmが好ましく、0.05mmがより好ましい。陽イオン交換膜5の厚みが上記下限未満であると、陽イオン交換膜5の強度を十分に確保できず、また陽イオン選択性(イオン交換容量)が低下するおそれがある。
【0044】
<触媒層>
触媒層6は、水素イオン源の電気分解の反応速度を増加させるものである。この触媒層6は、陽極4の陰極側表面と陽イオン交換膜5の陽極側表面との間に固定されており、陽極4及び陽イオン交換膜5の双方に接触している。
【0045】
このように、触媒層6が陽極4と陽イオン交換膜5との間に固定されることで、触媒層6に対して効率良く水素イオン源が供給される共に陽極反応によって生成した水素イオンが効率良く陽イオン交換膜5を透過する。そのため、陽極4において水素イオン源から効率良く電子を受け取ってそれを陰極3に供給できるため、四塩化チタンを効率良く還元できる。一方、陰極室20において、陰極反応によって生成した塩化物イオンと水素イオンとが共存するため、陰極反応によって生成される三塩化チタンの酸化劣化を効果的に抑制できる。
【0046】
触媒層6は、例えば触媒用イオンを含む溶液を陽極4又は陽イオン交換膜5に含浸させた後に陽極4と陽イオン交換膜5とを積層し、触媒用イオンを還元することで形成することができる。触媒層6を構成するとしては、白金、ロジウム等の貴金属が挙げられる。
【0047】
<直流電源>
直流電源7は、陽極4と陰極3との間に直流電圧を印加するためのものである。この直流電源7としては、所定の電圧を印加できるものであれば特に限定はなく、公知の直流電源を使用することができる。
【0048】
[三塩化チタンの製造方法]
本発明の三塩化チタンの製造方法では、陽極室21に水素イオン源を含む液体を収容すると共に陰極室20に四塩化チタン溶液を収容し、陽極4と陰極3との間に電圧を印加することで四塩化チタンを電気還元して三塩化チタン溶液が製造される。
【0049】
<水素イオン源を含む液体>
水素イオン源を含む液体は、触媒層6での反応によって水素イオンと共に陽極4に供給する電子を生成するものである。水素イオン源を含む液体としては、電圧印加によって水素イオンと電子を生成できるものであれば特に制限はなく、水が好ましい。水素イオン源を含む液体として水を用いることにより、材料コストを低減し製造コストを低減することが可能となる。水素イオン源を含む液体は、必要に応じて浸透圧調整剤を含んでいてもよい。
【0050】
(浸透圧調整剤)
浸透圧調整剤は、陽極室21と陰極室20との浸透圧差を調整するものである。浸透圧調整剤としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、それらの2以上の組み合わせが挙げられる。浸透圧調整剤の添加量は、目的とする浸透圧差、使用する浸透圧調整剤の種類等に応じて決定され、例えば0mol/L超2mol/L以下とされる。浸透圧調整剤の添加量が2mol/Lを超えると、チタン以外のイオンの増加によりチタンへの電子授受が阻害されるおそれがある。
【0051】
陽極室21に浸透圧調整剤を含有させることで、触媒層6の表面から陰極室20への水素イオンの移動を促進できる。そのため、触媒層6の表面での水素イオンの滞留を抑制することで触媒反応を活性化でき三塩化チタンを効率良く生成できる。また、陰極室20への水素イオンの移動が促進されることで、陰極室20での水素イオン濃度が高まるので三塩化チタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制できる。
【0052】
<四塩化チタン溶液>
四塩化チタン溶液は、電解槽2の供給口20Aから陰極室20に供給される。四塩化チタン溶液は、四塩化チタンを含み、必要に応じて酸化抑制剤を含んでいてもよい。電解槽2(陰極室20)への四塩化チタン溶液の供給流量は、例えば排出口20Bでの三価のチタンイオンの濃度が、三価のチタンイオン及び四価のチタンイオン全体(以下、「合計チタンイオンmol量」ともいう)に対する比率で90mol%以上、好ましくは略100mol%となるように設定される。
【0053】
(酸化抑制剤)
酸化抑制剤は、電気還元により生成した三価のチタンイオンが四価のチタンイオンに酸化されることを抑制するものである。
【0054】
酸化抑制剤としては、2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はこのカルボン酸塩が好ましい。これらのカルボン酸又はカルボン酸塩は、三価のチタンイオンに配位し、チタン錯体を形成する。これにより、三価のチタンイオンと酸素とが接近する頻度を少なくし、三価のチタンイオンの酸化を効果的に抑制する。
【0055】
酸化抑制剤としては、例えばクエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの塩、それらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0056】
酸化抑制剤のモル濃度の下限としては、陰極室20の溶液中の三価のチタンイオン及び四価のチタンイオンの合計モル濃度に対し、0.1倍が好ましく、0.2倍がより好ましい。酸化抑制剤のモル濃度が上記下限未満であると、三価のチタンイオンの酸化を十分に抑制できないおそれがある。一方、酸化抑制剤のモル濃度の上限としては、2倍が好ましく、1.5倍がより好ましい。酸化抑制剤のモル濃度が上記上限を超えると、四価のチタンイオンの還元及び陰極室21からの水素イオンの移動を阻害するおそれがある。
【0057】
<電圧の印加>
電圧の印加は、直流電源7により行われる。印加電圧は、水素イオン源として水を使用する場合、1.3V〜3Vが好ましく、典型的には2Vとされる。電流密度は、4mA/cm
2〜10mA/cm
2が好ましく、典型的には6mA/cm
2とされる。尚、以下においては、水素イオン源として水を使用する場合について説明する。
【0058】
陽極4と陰極3との間に電圧を印加することにより、陽極4及び陰極3では以下の反応が生じる。
【0060】
<陽極反応>
陽極室21では、陽極4が多孔質体に形成されていることから陽極4に水が含浸され、触媒層6に水が供給される。上記式(1)に示すように、触媒層6に供給された水は、酸素ガス、水素イオン及び電子に電気分解される。酸素ガスは、陽極4を透過して陰極室20外に排出される。水素イオンは、陽イオン交換膜5を透過して陰極室20に移動する。このとき、陽極室21に浸透圧調整剤を含ませておくことで、陽極室21から陰極室20への水素イオンの移動が促進される。電子は、陽極4に移動した後、陰極3に移動する。
【0061】
<陰極反応>
陰極室20には供給口20Aから四塩化チタン溶液が供給される一方で、陰極3から電子が供給される。そのため、上記式(2)に示すように、四価のチタンイオンが三価のチタンイオンに還元される。このとき、陰極室20には、四価のチタンイオンが三価のチタンイオンに還元されることで過剰な塩化物イオンが存在する一方で、触媒層6(陽極室21)から水素イオンが移動する。上記式(1)及び式(2)から理解できるように、過剰な塩化物イオンと触媒層6から移動した水素イオンとのmol比は、1:1であり塩酸の化学量論比と等しい。そのため、陰極室20には、四価のチタンイオン、三価のチタンイオン及び塩酸が含まれる。また、陰極室20には、上述のように必要に応じて酸化抑制剤が含まれる。陰極室20に酸化抑制剤が含まれることで、三価のチタンイオンが四価のチタンイオンに酸化されることを抑制することができる。
【0062】
排出口20Bからは、陰極室20の四塩化チタン溶液が三塩化チタン溶液として排出される。ここで、陰極室20には、上述のように陰極3の表面に沿って陰極3の下端部から上端部に向けた流れが生じ、陰極反応によって生成した三塩化チタンが排出口20Bに効率良く導かれる。そのため、陰極室20では下方側は四価のチタンイオンの濃度が高く、上方に向かうほど三価のチタンイオンの濃度が高くなっている。特に、排出口20Bの近傍では、供給口20Aへの四塩化チタン溶液の供給流量を調整することで、三価のチタンイオンの濃度が合計チタンイオンmol量に対して90mol%以上、好ましくは略100mol%とされている。従って、排出口20Bから排出される三塩化チタン溶液は、高濃度(合計チタンイオンmol量に対する濃度が90mol%以上、好ましくは略100mol%)の三価のチタンイオン、塩酸、必要に応じて酸化抑制剤を含んでいる。
【0063】
このように、三塩化チタン溶液は、塩酸を含み、必要に応じて酸化抑制剤を含むことから、三価のチタンイオンの酸化が抑制されているため、そのまま保存することも可能である。
【0064】
<三塩化チタン溶液>
本発明の三塩化チタン溶液は、三塩化チタン、塩酸及び酸化抑制剤を含む。酸化抑制剤としては、2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はこのカルボン酸塩を含む。2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸又はこのカルボン酸塩としては、陰極室20の四塩化チタン溶液に必要に応じて含まれる酸化抑制剤と同様のものが挙げられる。
【0065】
塩酸の濃度としては0mol/L超2mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下がより好ましい。当該三塩化チタン溶液は、塩酸を上記濃度で含むことで、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制でき保存性に優れたものとなる。
【0066】
酸化抑制剤の濃度としては0.1mol/L以上2mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下がより好ましい。当該三塩化チタン溶液は、酸化抑制剤を上記濃度で含むことで、三価のチタンイオンの酸化劣化をより効果的に抑制でき保存性に優れたものとなる。
【0067】
<利点>
当該製造方法では、電圧印加により、陰極室20に三価のチタンイオンと塩酸とが共存する。塩酸は、三価のチタンイオンが四価のチタンイオンに酸化されることを抑制する。そのため、当該製造方法によれば、酸化劣化の少ない三塩化チタン溶液を得ることができる。
【0068】
また、当該製造方法では、電解槽2が陽イオン交換膜5によって区画されているため、陽極室21から陰極室20への水素イオンの透過が許容される一方で、陰極室20から陽極室21への塩化物イオンの透過が制限される。そのため、陽極反応によって塩素ガスが発生することを抑制できるため、塩素ガスの除去装置を必要としない。その結果、当該製造方法は、三塩化チタン溶液の製造装置が大型化してしまうことがないため製造コストに優れる。
【0069】
当該三塩化チタン溶液によれば、酸化抑制剤及び塩酸を含むことで三塩化チタンの酸化が抑制されるため、空気雰囲気でも用いることができる。従って、三塩化チタン溶液を用いるときに反応系を不活性ガス雰囲気にする必要もなく、金属ナノ粒子等の製造工程を簡略化できる。
【0070】
<他の実施形態>
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。本発明の実施態様は、例えば以下に示すように変更して実施することもできる。
【0071】
上記実施形態では、触媒層が陽極及び陽イオン交換膜の片面の全体に固定されている場合を説明したが、触媒層は陽極及び陽イオン交換膜の双方に少なくとも一部で接触していればよい。また、触媒は、必ずしも層状に固定する必要はなく、触媒粒として陽極又は陽イオン交換膜の表面に担持させることで固定してもよい。さらに、触媒は、陽極反応の反応速度を十分に確保できる場合には必須ではないが、三塩化チタン溶液の製造効率の観点等から、陽極と陽イオン交換膜との間に固定しておくことが好ましい。
【0072】
陽極は、水素イオン生成反応において水素イオンと共に生成される酸素等の気体を透過させる気体通路を有していてもよい。気体通路を形成した陽極を
図2及び
図3に示した。これらの図は陽極の水平断面を示している。
【0073】
例えば
図2の陽極4Aは、陰極側の表面に複数の気体通路40Aが設けられたものである。気体通路40Aは、矩形断面を有し、
図1の上下方向に延びている。この気体通路40Aは、陽極4A、触媒層6A及び陽イオン交換膜5Aを重ね併せた状態で上方及び下方に開放している。
【0074】
このように陽極5Aに複数の気体通路40Aを設けることで、陽極反応によって生成した酸素等の気体を気体通路40Aから外部に排出することができる。そのため、触媒表面での気体の滞留を抑制し触媒表面へ水素イオン供給源を効果的に供給することができる。これにより、水素イオン供給源から陽極4Aが受け取った電子を効率良く陰極に供給できる。そのため、陰極反応を促進することができ、その結果陰極において効率良く三塩化チタンを生成させることができる。
【0075】
図3の陽極4Bは、陰極側表面の断面を波状とすることで気体通路40Bを設けたものである。気体通路40Bは、
図1の上下方向に延び、上方及び下方に開放している。このような気体通路40Bを設けることで、陽極4Aが受け取った電子を効率良く陰極に供給し効率良く三塩化チタンを生成させることができる。また、陰極側表面の断面が波状であることで、陽極4Bと触媒層6Bとの接触面積を小さくできる。そのため、より効果的に触媒層6Bで発生した気体を排出できる。
【0076】
上記気体通路は、陽極に限らず、陽イオン交換膜に設けてもよく、また陽極及び陽イオン交換膜の双方に設けてもよい。
【0077】
上記実施形態では、電解槽には四塩化チタン溶液が連続的に供給される場合を説明したが、回分式で四塩化チタン溶液から三塩化チタン溶液を製造するようにしてもよい。