特許第6213979号(P6213979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6213979-磁気デバイス 図000002
  • 特許6213979-磁気デバイス 図000003
  • 特許6213979-磁気デバイス 図000004
  • 特許6213979-磁気デバイス 図000005
  • 特許6213979-磁気デバイス 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6213979
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】磁気デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/08 20060101AFI20171005BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20171005BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20171005BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20171005BHJP
   H01F 27/22 20060101ALI20171005BHJP
【FI】
   H01F15/06
   H01F17/00 D
   H01F17/04 A
   H01F17/04 F
   H01F27/28 G
   H01F27/28 K
   H01F27/22
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-51286(P2013-51286)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-179401(P2014-179401A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】古井 崇介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊之
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆志
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−183106(JP,A)
【文献】 特開平7−86755(JP,A)
【文献】 特開2007−59839(JP,A)
【文献】 特開2007−59845(JP,A)
【文献】 特開2008−300734(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/010491(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/08
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 27/22
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアが挿入される開口部、ならびに表面にある一の層および複数の他の層を有する多層の基板と、
前記基板の複数の層に設けられ、前記コアの周囲に巻回されるコイルパターンと、
前記基板に設けられ、異なる層にある前記コイルパターン同士を接続する通電用接続部と、を備え、
前記コイルパターンが設けられた複数の前記他の層に、前記各コイルパターンの一部を拡張することにより当該コイルパターンより幅の広い放熱部を設け、
前記各放熱部のうち所定の放熱部同士は、前記基板の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の一部または全域で重ならないように配置されており、
前記基板に設けられ、前記各放熱部を前記一の層に接続する放熱用接続部をさらに備えた磁気デバイスにおいて、
前記基板の前記一の層に、前記他の層にある前記放熱部に対応させて、平面的な広がりを持った放熱パターンを設け、かつ該放熱パターン同士を別体にし、
対応する前記放熱部と前記放熱パターンとを、前記放熱用接続部によりそれぞれ接続した、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気デバイスにおいて、
前記基板の前記一の層側に、放熱器を設けた、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の磁気デバイスにおいて、
前記コアは、前記基板の板面方向と平行な一直線上に並ぶ複数の凸部を有し、
前記基板の板面方向と平行でかつ前記一直線に対して垂直な方向にある、前記基板の一方側に前記通電用接続部を設け、他方側に前記放熱部を設けた、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項4】
請求項に記載の磁気デバイスにおいて、
前記コイルパターンに対して電力を入出力する端子部をさらに備え、
前記端子部は、前記基板の前記一方側に設けられている、ことを特徴とする磁気デバイス。
【請求項5】
請求項または請求項に記載の磁気デバイスにおいて、
前記コアは、3つの凸部を有し、
前記基板の前記開口部は、前記3つの凸部のうち少なくとも中央にある凸部が挿入される貫通孔を含み、
前記コイルパターンは、前記基板の各層で前記中央の凸部の周囲に複数回巻回されている、ことを特徴とする磁気デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体から成るコアと、コイルパターンが形成された基板とを備えた、チョークコイルやトランスなどの磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、高電圧の直流をスイッチングして交流に変換した後、低電圧の直流に変換する、直流−直流変換装置(DC−DCコンバータ)のようなスイッチング電源装置がある。このスイッチング電源装置には、チョークコイルやトランスなどの磁気デバイスが使用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1〜6には、コイルの巻線が基板に形成されたコイルパターンから成る、磁気デバイスが開示されている。
【0004】
特許文献1〜5では、コアの凸部が、基板に設けられた開口部に挿入されている。基板は、複数の層を有し、各層には、コアの周囲に巻回されるように、コイルパターンが形成されている。異なる層のコイルパターン同士は、スルーホールなどで接続されている。
【0005】
特許文献6では、基板が、一対の絶縁層と、該絶縁層に挟持された磁性体層とから構成されている。磁性体層には、コイルパターンが形成されている。コイルパターンは、基板の板面や厚み方向に複数回巻回されている。
【0006】
コイルパターンに電流が流れると、コイルパターンから発熱し、基板の温度が上昇する。放熱対策として、特許文献1では、コイルパターンを基板の各層のほぼ全域に広げている。また、基板の端部に放熱器を取り付けている。
【0007】
特許文献3では、基板の所定の層のコイルパターンの一部の幅を広げて、放熱パターン部を設けている。また、上方の基板より下方の基板を突出させ、該突出部に放熱パターン部を設けて、外気に直接触れるようにしている。さらに、各層の放熱パターン部の面方向位置を異ならせている。
【0008】
特許文献6では、コイルパターンの内側に、磁性体層と下方の絶縁層とを貫通する伝熱用貫通導体を設け、基板の下面に伝熱用貫通導体と接続された放熱用導体層を設けている。伝熱用貫通導体と放熱用導体層は、コイルパターンに接続されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−205350号公報
【特許文献2】特開平7−38262号公報
【特許文献3】特開平7−86755号公報
【特許文献4】再公表特許WO2010/026690号
【特許文献5】特開平8−69935号公報
【特許文献6】特開2008−177516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コイルの所定の性能を達成するため、3層以上の多層基板の複数の層にコイルパターンを形成すると、コイルの巻き数を増やすことができる。しかし、コイルパターンの数が多いほど発熱量が多く、基板の層数が多いほど熱が基板にこもり易く、基板の温度が上昇する。
【0011】
特に、大電流が流れるDC−DCコンバータで使用される磁気デバイスでは、コイルパターンに大電流が流れるため、各コイルパターンでの発熱量が多くなり、基板の温度が高くなる。そして、この結果、磁気デバイスの特性の変動や性能の劣化を生じるおそれがある。また、同一基板上に他のICチップなどの電子部品が実装されている場合、電子部品の誤動作や破壊を生じるおそれがある。
【0012】
本発明の課題は、複数の層にコイルパターンが設けられた多層の基板の放熱性能を高めることができる磁気デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による磁気デバイスは、コアと、コアが挿入される開口部、ならびに表面にある一の層および複数の他の層を有する多層の基板と、基板の複数の層に設けられ、コアの周囲に巻回されるコイルパターンと、基板に設けられ、異なる層にあるコイルパターン同士を接続する通電用接続部とを備える。コイルパターンが設けられた複数の他の層に、各コイルパターンの一部を拡張することにより当該コイルパターンより幅の広い放熱部が設けられ、各放熱部のうち所定の放熱部同士は、基板の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の一部または全域で重ならないように配置されている。また、基板に設けられ、各放熱部を一の層に接続する放熱用接続部をさらに備える。基板の一の層には、他の層にある放熱部に対応させて、平面的な広がりを持った放熱パターンが設けられ、放熱パターン同士は別体となっている。そして、対応する放熱部と放熱パターンとが、放熱用接続部によりそれぞれ接続される。なお、多層の基板とは、3つ以上の層を有する基板のことである。
【0014】
これにより、基板の複数の他の層において、コイルパターンで発生した熱を、基板の板面上で重ならないように配置された各放熱部に拡散させて、基板に広く分散させることができる。そして、その熱を各放熱部から各放熱用接続部により表面にある一の層に伝えて、放熱させることができる。よって、複数の層にコイルパターンが設けられた多層の基板の放熱性能を高めることが可能となる。
【0017】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、基板の一の層側に、放熱器を設けてもよい。
【0018】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、コアは、基板の板面方向と平行な一直線上に並ぶ複数の凸部を有し、基板の板面方向と平行でかつ前記一直線に対して垂直な方向にある、基板の一方側に通電用接続部が設けられ、他方側に放熱部が設けられていてもよい。
【0019】
また、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、コイルパターンに対して電力を入出力する端子部をさらに備え、この端子部は、基板の上記一方側(通電用接続部側)に設けられていてもよい。
【0020】
さらに、本発明では、上記磁気デバイスにおいて、コアは、3つの凸部を有し、基板の開口部は、3つの凸部のうち少なくとも中央にある凸部が挿入される貫通孔を含み、コイルパターンは、基板の各層で中央の凸部の周囲に複数回巻回されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の層にコイルパターンが設けられた多層の基板の放熱性能を高めることができる磁気デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】スイッチング電源装置の構成図である。
図2】本発明の実施形態による磁気デバイスの分解斜視図である。
図3図2の基板の各層の平面図である。
図4図3のY−Y断面図である。
図5図3のZ−Z断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0024】
図1は、スイッチング電源装置100の構成図である。スイッチング電源装置100は、電気自動車(またはハイブリッドカー)用のDC−DCコンバータであり、高電圧の直流をスイッチングして交流に変換した後、低電圧の直流に変換する。以下で詳述する。
【0025】
スイッチング電源装置100の入力端子T1、T2には、高電圧バッテリ50が接続されている。高電圧バッテリ50の電圧は、たとえばDC220V〜DC400Vである。入力端子T1、T2へ入力される高電圧バッテリ50の直流電圧Viは、フィルタ回路51でノイズが除去された後、スイッチング回路52へ与えられる。
【0026】
スイッチング回路52は、たとえばFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)を有する公知の回路からなる。スイッチング回路52では、PWM駆動部58からのPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号に基づいて、FETをオンオフさせて、直流電圧に対してスイッチング動作を行う。これにより、直流電圧が高周波のパルス電圧に変換される。
【0027】
そのパルス電圧は、トランス53を介して、整流回路54へ与えられる。整流回路54は、一対のダイオードD1、D2によりパルス電圧を整流する。整流回路54で整流された電圧は、平滑回路55へ入力される。平滑回路55は、チョークコイルLおよびコンデンサCのフィルタ作用により整流電圧を平滑し、低電圧の直流電圧として出力端子T3、T4へ出力する。この直流電圧により、出力端子T3、T4に接続された低圧バッテリ60が、たとえばDC12Vに充電される。低圧バッテリ60の直流電圧は、図示しない各種の車載電装品へ供給される。
【0028】
また、平滑回路55の出力電圧Voは、出力電圧検出回路59により検出された後、PWM駆動部58へ出力される。PWM駆動部58は、出力電圧Voに基づいてPWM信号のデューティ比を演算し、該デューティ比に応じたPWM信号を生成して、スイッチング回路52のFETのゲートへ出力する。これにより、出力電圧を一定に保つためのフィードバック制御が行なわれる。
【0029】
制御部57は、PWM駆動部58の動作を制御する。フィルタ回路51の出力側には、電源56が接続されている。電源56は、高電圧バッテリ50の電圧を降圧し、制御部57に電源電圧(たとえばDC12V)を供給する。
【0030】
上記のスイッチング電源装置100において、平滑回路55のチョークコイルLとして、後述する磁気デバイス1が用いられる。チョークコイルLには、たとえばDC150Aの大電流が流れる。チョークコイルLの両端には、電力入出力用の端子6i、6oが設けられている。
【0031】
次に、磁気デバイス1の構造を、図2図5を参照しながら説明する。
【0032】
図2は、磁気デバイス1の分解斜視図である。図3は、磁気デバイス1の基板3の各層の平面図である。図4および図5は、磁気デバイス1の断面図であって、図4図3のY−Y断面を示し、図5図3のZ−Z断面を示している。
【0033】
図2に示すように、コア2a、2bは、E字形の上コア2aとI字形の下コア2bの、2個1対で構成されている。コア2a、2bは、フェライトまたはアモルファス金属などの磁性体から成る。
【0034】
上コア2aは、下方へ突出するように、3つの凸部2m、2L、2rを有している。凸部2m、2L、2rは、図3に示すように、一直線Q上に並んでいる。図2に示すように、中央の凸部2mに対して、左右の凸部2L、2rの方が、突出量が多くなっている。
【0035】
図4に示すように、上コア2aの左右の凸部2L、2rの下端を、下コア2bの上面に密着させて、該コア2a、2bは組み合わされる。この状態では、直流重畳特性を高めるため、上コア2aの凸部2mと下コア2bの上面には所定の大きさの隙間が設けられている。これにより、磁気デバイス1(チョークコイルL)に大電流を流したときでも、所定のインダクタンスを実現することができる。コア2a、2b同士は、図示しないねじや金具などの固定手段により固定される。
【0036】
下コア2bは、ヒートシンク10の上側に設けられた凹部10k(図2)に嵌め込まれる。ヒートシンク10の下側には、フィン10fが設けられている。ヒートシンク10は、金属製であり、本発明の「放熱器」の一例である。
【0037】
基板3は、絶縁体から成る薄板状の基材の各層に、厚みの厚い銅箔(導体)でパターンが形成された厚銅箔基板から構成されている。本実施形態では、基板3に他の電子部品や回路が設けられていないが、実際に磁気デバイス1を図1のスイッチング電源装置100で使用する場合、同一基板上に磁気デバイス1とスイッチング電源装置100の他の電子部品や回路が設けられる。
【0038】
基板3の上側の表面(図2図4、および図5で上面)には、図3(a)に示すような第1層L1が設けられている。基板3の下側の表面(図2図4、および図5で下面)には、図3(c)に示すような第3層L3が設けられている。図4および図5に示すように、第1層L1と第3層L3の間には、図3(b)に示すような第2層L2が設けられている。
【0039】
つまり、基板3は、回路を形成可能な2つの表層L1、L3と、1つの内層L2の、計3つの層L1、L2、L3を有した、多層の基板である。なお、多層の基板とは、3つ以上の層を有する基板のことである。第3層L3は、本発明の「一の層」の一例であり、第1層L1および第2層L2は、本発明の「他の層」の一例である。
【0040】
基板3には、複数の開口部3m、3L、3rが設けられている。開口部3mは大径の円形の貫通孔から成り、開口部3L、3rは切欠きから成る。図2図4に示すように、中央にある1つの開口部3mには、コア2aの中央の凸部2mが挿入され、左右にある開口部3L、3rには、コア2aの左右の凸部2L、2rがそれぞれ挿入される。
【0041】
また、基板3には、小径で円形の貫通孔3aが2つ設けられている。各貫通孔3aには、図2に示すように、各ねじ11が挿入される。基板3の第3層L3側をヒートシンク10の上面(フィン10fと反対の面)と対向させる。そして、各ねじ11を基板3の第1層L1側から各貫通孔3aに貫通させて、ヒートシンク10の各ねじ孔10aに螺合する。これにより、図4に示すように、基板3の第3層L3側にヒートシンク10が近接状態で固定される。
【0042】
基板3とヒートシンク10の間には、伝熱性を有する絶縁シート12が挟み込まれる。絶縁シート12は可撓性を有しているため、基板3やヒートシンク10と隙間なく密着する。
【0043】
図3に示すように、基板3には、スルーホール8a、8d、9a、9b、パッド8b、8c、端子6i、6o、パターン4a〜4d、4t〜4t、5s〜5s、およびピン7a〜7dといった導体が設けられている。
【0044】
一対の大径のスルーホール8aのうち、一方のスルーホール8aには、端子6iが埋設され、他方のスルーホール8aには、端子6oが埋設されている。一対の端子6i、6oは、銅ピンから成る。第1層L1と第3層L3の端子6i、6oの周囲には、スルーホール8aのパッド8bが設けられている。パッド8bは、銅箔から成る。端子6i、6oやパッド8bの表面には、銅めっきが施されている。端子6i、6oの下端は、絶縁シート12と接触している(図示省略)。端子6i、6oは、本発明の「端子部」の一例である。
【0045】
基板3の各層L1〜L3には、コイルパターン4a〜4cと放熱パターン5s〜5sが設けられている。各パターン4a〜4d、5s〜5sは、銅箔から成る。第1層L1の各パターン4a、5s〜5sの表面には、絶縁加工が施されている。コイルパターン4a〜4cの幅や厚みや断面積は、コイルの所定の性能を達成しつつ、所定の大電流(たとえばDC150A)を流しても、コイルパターン4a〜4cでの発熱量をある程度に抑えて、しかもコイルパターン4a〜4cの表面から放熱できるように設定されている。
【0046】
図3に示すように、各コイルパターン4a〜4cは、各層L1〜L3で中央の凸部2mの周囲に2回巻回されている。第1層L1のコイルパターン4aの一端と、第2層L2のコイルパターン4bの一端とは、スルーホール9aにより接続されている。第2層L2のコイルパターン4bの他端と、第3層L3のコイルパターン4cの一端とは、スルーホール9bにより接続されている。
【0047】
つまり、スルーホール9a、9bは、異なる層L1、L2、L3にあるコイルパターン4a〜4c同士を接続する。各スルーホール9a、9bの表面には、銅めっきが施されている。各スルーホール9a、9bの内側は、銅などで埋められていてもよい。スルーホール9a、9bは、本発明の「通電用接続部」の一例である。
【0048】
第1層L1のスルーホール9bの周辺と、第3層L3のスルーホール9aの周辺には、スルーホール9a、9bを形成し易くするため、小パターン4dがそれぞれ設けられている。それぞれのスルーホール9a、9bと小パターン4dは接続されている。小パターン4dは、銅箔から成る。第1層L1の小パターン4dの表面には、絶縁加工が施されている。
【0049】
図3(a)に示すように、第1層L1のコイルパターン4aの他端は、パッド8bとスルーホール8aを介して端子6oと接続されている。図3(c)に示すように、第3層L3のコイルパターン4cの他端は、パッド8bとスルーホール8aを介して端子6iと接続されている。
【0050】
端子6i、6o、スルーホール8a、9a、9b、および小パターン4dは、基板3の板面方向と平行でかつ、コア2aの凸部2L、2m、2rが並ぶ一直線Qに対して垂直な方向にある、基板3の一方側(図3で直線Qより上側)に設けられている。
【0051】
上記により、基板3のコイルパターン4a〜4cは、第3層L3で、起点である端子6iから、凸部2mの周囲に1回目と2回目が巻かれた後、スルーホール9bを経由して、第2層L2に接続される。次に、コイルパターン4a〜4cは、第2層L2で、凸部2mの周囲に3回目と4回目が巻かれた後、スルーホール9aを経由して、第1層L1に接続される。そして、コイルパターン4a〜4cは、第1層L1で、凸部2mの周囲に5回目と6回目が巻かれた後、終点である端子6oに接続される。
【0052】
磁気デバイス1に流れる電流も、上記のように、端子6i、コイルパターン4c、スルーホール9b、コイルパターン4b、スルーホール9a、コイルパターン4a、および端子6oの順番で流れる。
【0053】
図3に示すように、基板3の各層L1〜L3の空き領域には、各コイルパターン4a〜4cの一部を巻回周の外側へ拡張することにより、コイルパターン4a〜4cより幅の広い放熱部4t〜4tがそれぞれ設けられている。各放熱部4t〜4tは、コイルパターン4a〜4cと同様に銅箔から成る。また、第1層L1の放熱部4t〜4tの表面には、絶縁加工が施されている。
【0054】
図3(a)に示すように、第1層L1において、放熱部4t〜4tは、それぞれ基板3の板面内に配置されている。図3(b)に示すように、第2層L2において、放熱部4t、4tは、それぞれ基板3の板面内に配置されている。図3(c)に示すように、第3層L3において、放熱部4t、4tは、それぞれ基板3の板面内に配置されている。
【0055】
また、図3でコア2aより上側にある、第1層L1の放熱部4tと第2層L2の放熱部4tとは、基板3の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の全域で重ならないように配置されている。
【0056】
また、図3でコア2aより上側にある、第1層L1の放熱部4tと第3層L3の放熱部4tとは、基板3の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の一部で重ならないように配置されている。第2層L2の放熱部4tと第3層L3の放熱部4tとは、基板3の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の全域で重ならないように配置されている。
【0057】
また、図3でコア2aより下側にある、第1層L1の放熱部4tと第2層L2の放熱部4tとは、基板3の板厚方向から板面に投影した場合に、投影領域の全域で重ならないように配置されている。
【0058】
放熱部4t、4tは、一直線Qに対して、端子6i、6oやスルーホール8a、9a、9bなどと反対側に設けられている。すなわち、放熱部4t、4tは、一直線Qに対して垂直な方向にある、基板3の他方側(図3で直線Qより下側)に設けられている。
【0059】
また、基板3の各層L1〜L3において、コイルパターン4a〜4dおよび放熱部4t〜4tの周辺にある空き領域には、これらと別体で平面的な広がりを持った放熱パターン5s〜5sが設けられている。放熱パターン5s〜5s同士も、別体になっている。
【0060】
第3層L3にある放熱パターン5s〜5sは、他の層L1、L2にある放熱部4t〜4tに対応させて設けられている。詳しくは、第3層L3の放熱パターン5sは、第1層L1の放熱部4tに対応し、第3層L3の放熱パターン5sは、第1層L1の放熱部4tに対応し、第3層L3の放熱パターン5sは、第1層L1の放熱部4tに対応している。また、第3層L3の放熱パターン5sは、第2層L2の放熱部4tに対応し、第3層L3の放熱パターン5sは、第2層L2の放熱部4tに対応している。
【0061】
また、第1層L1および第2層L2にある放熱パターン5s〜5sは、異なる層L1〜L3にある放熱部4t、4t、4t、4tに対応させて設けられている。詳しくは、第1層L1の放熱パターン5sは、第2層L2の放熱部4tに対応し、第1層L1の放熱パターン5sは、第2層L2の放熱部4tに対応している。また、第2層L2の放熱パターン5sは、第1層L1の放熱部4tに対応し、第2層L2の放熱パターン5sは、第1層L1の放熱部4tに対応している。
【0062】
複数の大径のスルーホール8dには、放熱ピン7a〜7dがそれぞれ埋め込まれている。放熱ピン7a〜7dは、銅ピンから成る。第1層L1と第3層L3の放熱ピン7a〜7dの周囲には、スルーホール8dのパッド8cが設けられている。パッド8cは、銅箔から成る。放熱ピン7a〜7dやパッド8cの表面には、銅めっきが施されている。放熱ピン7a〜7dの下端は、絶縁シート12と接触している(図5参照)。放熱ピン7a〜7dとスルーホール8dは、本発明の「放熱用接続部」の一例である。
【0063】
放熱ピン7aとこの周囲のスルーホール8dは、第1層L1の放熱部4t、第2層L2の放熱パターン5s、および第3層L3の放熱パターン5sを貫通している。放熱部4tと放熱パターン5s、5sは、放熱ピン7aとこの周囲のスルーホール8dおよびパッド8cにより接続されている。
【0064】
放熱ピン7bとこの周囲のスルーホール8dは、第1層L1の放熱パターン5s、第2層L2の放熱部4t、および第3層L3の放熱パターン5sを貫通している。放熱部4tと放熱パターン5s、5sは、放熱ピン7bとこの周囲のスルーホール8dおよびパッド8cにより接続されている。
【0065】
放熱ピン7cとこの周囲のスルーホール8dは、第1層L1の放熱部4t、第2層L2の放熱パターン5s、および第3層L3の放熱パターン5sを貫通している。放熱部4tと放熱パターン5s、5sは、放熱ピン7cとこの周囲のスルーホール8dおよびパッド8cにより接続されている。
【0066】
放熱ピン7dとこの周囲のスルーホール8dは、第1層L1の放熱パターン5s、第2層L2の放熱部4t、および第3層L3の放熱パターン5sを貫通している。放熱部4tと放熱パターン5s、5sは、放熱ピン7dとこの周囲のスルーホール8dおよびパッド8cにより接続されている。
【0067】
第1層L1の放熱部4tと、第3層L3の放熱パターン5sとは、端子6oとこの周囲のスルーホール8aおよびパッド8bにより接続されている。端子6oとこの周囲のスルーホール8aおよびパッド8bは、その他の放熱部4t、4t、4t〜4tや放熱パターン5s〜5sに対して絶縁されている。端子6iとこの周囲のスルーホール8aおよびパッド8bは、第3層L3の放熱部4tに接続され、その他の放熱部4t〜4t、4tや放熱パターン5s〜5sに対して絶縁されている。
【0068】
ねじ11は、パターン4a〜4d、5s〜5sや放熱部4t〜4tに対して絶縁されている。図3(b)および(c)に示すように、第2層L2や第3層L3の貫通孔3aの周囲の最短絶縁領域より、第1層L1の貫通孔3aの周囲の最短絶縁領域の方が大きくなっている。これは、ねじ11の軸部11bより径の大きな頭部11aが基板3の第1層L1側に配置されるので、第1層L1で頭部11aとこの近傍のパターン4a、4d、5sや放熱部4t〜4tを絶縁するためである。
【0069】
コイルパターン4a〜4cには大電流が流れるため、コイルパターン4a〜4cが発熱源となって、基板3の温度が上昇する。
【0070】
第1層L1では、基板3の熱は、たとえば、放熱部4t〜4tや放熱パターン5s〜5sなどの導体に拡散され、該導体の表面から放熱される。また、基板3の熱は、たとえば、放熱ピン7a〜7dやスルーホール8d、8a、9a、9bなどの基板3を貫通する導体を伝って、絶縁シート12を介してヒートシンク10で放熱される。スルーホール9a、9bは、サーマルビアとしても機能する。
【0071】
また、第1層L1のコイルパターン4aの発熱は、放熱ピン7a、7c、端子6o、およびこれらの周囲のスルーホール8d、8aを伝って、他の層L2、L3の放熱パターン5s〜5s、5sに拡散される。そして、この拡散された熱は、第3層L3の放熱パターン5s、5s、5sの表面や放熱ピン7a、7cの下面から絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わって、ヒートシンク10で放熱される。
【0072】
第2層L2では、基板3の熱は、たとえば、放熱部4t、4tや放熱パターン5s、5sなどの導体に拡散され、放熱ピン7a〜7dやスルーホール8d、9a、9bなどの基板3を貫通する導体を伝って、絶縁シート12を介してヒートシンク10で放熱される。
【0073】
また、第2層L2のコイルパターン4bの発熱は、放熱ピン7b、7dおよびこれらの周囲のスルーホール8dを伝って、他の層L1、L3の放熱パターン5s、5s、5s、5sに拡散される。そして、この拡散された熱は、第1層L1の放熱パターン5s、5sの表面から放熱されたり、第3層L3の放熱パターン5s、5sの表面や放熱ピン7b、7dの下面から絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わって、ヒートシンク10で放熱されたりする。
【0074】
第3層L3では、基板3の熱は、たとえば、放熱部4t、4tや放熱パターン5s〜5sや放熱ピン7a〜7dなどの導体に拡散され、該導体から絶縁シート12を伝って、ヒートシンク10で放熱される。また、基板3の熱は、コイルパターン4cの発熱は、コイルパターン4cの表面や放熱部4t、4tから絶縁シート12を介してヒートシンク10に伝わって、ヒートシンク10で放熱される。
【0075】
上記実施形態によると、基板3の第1層L1と第2層L2において、コイルパターン4a、4bで発生した熱を、基板3の板面上で重ならないように配置された各放熱部4t〜4tに拡散させて、基板3に広く分散させることできる。そして、その熱を各放熱部4t〜4tから放熱ピン7a〜7dやスルーホール8dにより第3層L3に伝えて、該層L3に近接するヒートシンク10を介して放熱させることができる。また、第3層L3のコイルパターン4cで発生した熱も、ヒートシンク10を介して放熱させることができる。
【0076】
よって、複数の層L1〜L3にコイルパターン4a〜4cが設けられた多層の基板3の放熱性能を高めることが可能となる。本例では、3層にコイルパターンを6巻した基板3の放熱性能を高めることが可能となる。
【0077】
また、第1層L1と第2層L2にある放熱部4t、4tを、基板3の板厚方向から板面に投影した場合に投影領域の全域で重ならないように配置している。このため、コイルパターン4a、4bで発生した熱を、放熱部4t、4tに拡散させて、基板3に熱をより広く分散させることできる。そして、その熱を放熱部4t、4tから放熱ピン7c、7dにより第3層L3にそれぞれ伝えて、放熱させることができる。つまり、第1層L1と第2層L2のコイルパターン4a、4bの放熱経路を分けて、効率良く放熱させることができる。
【0078】
また、基板3の板面方向と平行でかつコア2aの凸部2L、2m、2rが並ぶ一直線Qに対して垂直な方向にある、基板3の一方側にスルーホール9a、9bや端子6i、6oが設けられ、他方側に放熱部4t、4tが設けられている。このため、基板3の他方側に、放熱部4t、4tを板面上で重ならないようにしつつ広くなるように、容易に設けることができる。
【0079】
また、スルーホール9a、9bや端子6i、6oは、電力とともに熱も、異なる層L1〜L3に伝えるので、これらと反対側の基板3の領域では、熱がこもり易くなる。然るに、そこに放熱部4t、4tと放熱ピン7c、7dを設けることで、熱を放熱部4t、4tに拡散させて、放熱ピン7c、7dなどにより第3層L3に伝えて、ヒートシンク10を介して放熱させることができる。
【0080】
さらに、第3層L3に、他の層L1、L2にある放熱部4t〜4tに対応させて放熱パターン5s〜5sを別体で設けて、対応する放熱部4t〜4tと放熱パターン5s〜5sとを、各放熱ピン7a〜7dやスルーホール8dによりそれぞれ接続している。このため、第1層L1と第2層L2の各コイルパターン4a、4bで発生した熱を、放熱部4t〜4tと放熱パターン5s〜5sで拡散させて、放熱パターン5s〜5sからヒートシンク10などを介して効率よく放熱させることができる。
【0081】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、以上の実施形態では、基板3の全ての層L1〜L3にコイルパターン4a〜4c、放熱部4t〜4t、および放熱パターン5s〜5sを設けた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。複数の層を有する多層の基板において、少なくとも表面にある一の層に放熱パターンを設け、少なくとも2つの他の層にコイルパターンや放熱部を設ければよい。また、コイルパターンは、コア2aの中央の凸部2mのみに巻回されるものに限らず、コアの複数の凸部に巻回されるものであってもよい。
【0082】
また、以上の実施形態では、基板3の開口部3mが貫通孔から成り、開口部3L、3rが切欠きから成る例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、基板の開口部を全て貫通孔から構成してもよいし、溝やくぼみから構成してもよい。また、開口部は基板に1つだけ設けてもよい。
【0083】
また、以上の実施形態では、異なる層L1〜L3のコイルパターン4a〜4c同士をスルーホール9a、9bにより接続した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば端子やピンなどの他の通電用接続部を基板に設けて、異なる層のコイルパターン同士を接続するようにしてもよい。
【0084】
また、以上の実施形態では、異なる層L1〜L3の放熱部4t〜4tと放熱パターン5s〜5sを、放熱ピン7a〜7dとスルーホール8dまたは端子6i、6oとスルーホール8aにより接続した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば端子、ピン、およびスルーホールのうち、少なくとも1つを基板に設けて、異なる層の放熱部を表層に接続したり、異なる層の放熱部と放熱パターンを接続したりしてもよい。
【0085】
また、以上の実施形態では、端子部として端子6i、6oを基板3に設けた例を示したが、端子6i、6oを省略して、スルーホール8aおよびパッド8bを端子部としてもよい。そして、これらの端子部8a、8bに、電子部品や回路を直接接続してもよい。たとえば、図1に示したスイッチング電源装置100の場合、コイルパターン4aの端子部8a、8b(入力側)に、整流回路54のダイオードD1、D2のカソードを半田付けで接続し、コイルパターン4bの端子部8a、8b(出力側)に、平滑回路55のコンデンサCの一端や、出力電圧検出回路59および出力端子T3につながるラインの一端を半田付けで接続すればよい。
【0086】
また、以上の実施形態では、放熱器として、ヒートシンク10を用いた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、これ以外の、空冷式や水冷式の放熱器、または冷媒を用いた放熱器などを用いてもよい。また、金属製の放熱器だけでなく、たとえば熱伝導性の高い樹脂で形成された放熱器を用いてもよい。この場合、放熱器と基板との間に絶縁シート12を設ける必要はなく、絶縁シート12を省略することができる。さらに、放熱器を基板の両面に設けたり、省略したりしてもよい。
【0087】
また、以上の実施形態では、厚銅箔基板を用いた例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、一般的な樹脂製のプリント基板や金属製の基板などのような、他の基板を用いてもよい。金属製の基板の場合は、基材とコイルパターンとの間に絶縁体を設ければよい。
【0088】
また、以上の実施形態では、E字形の上コア2aにI字形の下コア2bを組み合わせた例を示したが、本発明は、2つのE字形コアを組み合わせた磁気デバイスにも適用することができる。
【0089】
さらに、以上の実施形態では、車両用のスイッチング電源装置100における、平滑回路55のチョークコイルLとして使用される磁気デバイス1に本発明を適用した例を挙げたが、トランス53(図1)として使用される磁気デバイスに対しても、本発明を適用することは可能である。また、車両以外の、たとえば電子機器用のスイッチング電源装置で使用される磁気デバイスにも本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 磁気デバイス
2a 上コア
2b 下コア
2m、2L、2r 凸部
3 基板
3m、3L、3r 開口部
4a〜4c コイルパターン
4t〜4t 放熱部
5s〜5s 放熱パターン
6i、6o 端子
7a〜7d 放熱ピン
8d スルーホール
9a、9b スルーホール
10 ヒートシンク
L1 第1層
L2 第2層
L3 第3層
Q 凸部が並ぶ一直線
図1
図2
図3
図4
図5