(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素吸蔵工程において、前記水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程は、前記不活性ガス雰囲気下から前記水素雰囲気下に切り替える加工温度と同じ温度で行われることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のチタン合金の製造方法。
前記水素吸蔵工程において、前記不活性ガス雰囲気下から前記水素雰囲気下に切り替える加工温度、及び、前記水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程の温度のうち少なくともいずれかは、前記チタン合金のβ変態点以下の温度であること、を特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のチタン合金の製造方法。
前記熱間圧延工程は、大気中で前記チタン合金をβ変態点以下かつ常温以上の温度に加熱して、前記チタン合金を圧延し、前記チタン合金のマルテンサイトを粉砕して高密度転移領域を形成させ、水素化物を析出させる処理を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のチタン合金の製造方法。
前記脱水素工程は、前記熱間圧延工程で処理された後の前記チタン合金表面の酸化被膜を除去する処理と、酸化皮膜を除去された前記チタン合金を真空中で少なくとも823K以上973K以下の範囲に設定された加工温度以上に加熱して、所定時間保持する処理と、を含むことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のチタン合金の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チタン合金としては、上述したニアーα型の他に、α+β型(α−β型と表記されることもある)及びニアーα+β型のチタンが知られている。α+β型及びニアーα+β型のチタン合金は、強度においてより優れているため、様々な分野における活用が期待されている。しかしながら、α+β型及びニアーα+β型のチタンは、ニアーα型のチタンとは結晶構造が異なることから、特許文献1に記載の方法を適用しても望ましい結果が得られない。このため、α+β型及びニアーα+β型のチタンの加工性の向上が強く望まれていた。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、チタンの加工性を高めることにより、強度と加工性に優れた材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明は、α+β型のチタン合金
であるTi−6Al−6V−2Snに、水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、前記水素吸蔵工程で水素を吸蔵した前記チタン合金を加熱する溶体化工程と、前記チタン合金を冷却してマルテンサイト変態させる冷却工程と、マルテンサイト変態した前記チタン合金を所定の変態点以下の温度に加熱して圧延する熱間圧延工程と、圧延された前記チタン合金から脱水素する脱水素工程と、
前記チタン合金を、を923K以上1073K以下の温度で、初期ひずみ速度0.001s−1以上0.05s−1以下の速度で変形させる超塑性加工工程と、を含み、前記水素吸蔵工程は、不活性ガス雰囲気下において前記チタン合金を加熱する工程と、823K以上
1223K以下の温度範囲に設定された加工温度に達してから前記不活性ガス雰囲気下から水素雰囲気下に切り替える工程と、前記水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程と、前記水素雰囲気下から前記不活性ガス雰囲気下に切り替える工程と、前記チタン合金を冷却する工程とを含
むことを特徴とする。
本発明によれば、チタン合金に水素を吸蔵させてマルテンサイト化し、熱間圧延することにより、結晶粒を微細化して、超塑性特性を付与できる。これにより、チタン合金の超塑性成形を可能とし、加工性を高めることができる。
また、塑性形成によってチタン合金を材料とした様々な製品を製造可能できる。例えば、耐薬品性及び耐食性に優れ、軽量化が可能な輸送機器用部品、機械部品、衛生器具類を製造できる。
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記超塑性加工工程において、前記チタン合金を、初期ひずみ速度0.005s−1以上0.05s−1以下の速度で変形させることを特徴とする。
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記超塑性加工工程において、前記チタン合金を、初期ひずみ速度0.01s−1以上0.05s−1以下の速度で変形させることを特徴とする。
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記超塑性加工工程において、前記チタン合金を、973K以上1073K以下の温度で変形させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記水素吸蔵工程において、前記水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程は、前記不活性ガス雰囲気下から前記水素雰囲気下に切り替える加工温度と同じ温度で行われることを特徴とする。
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記水素吸蔵工程において、前記不活性ガス雰囲気下から前記水素雰囲気下に切り替える加工温度、及び、前記水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程の温度のうち少なくともいずれかは、前記チタン合金のβ変態点以下の温度であること、を特徴とする。
また、本発明は、上記チタン合金
の製造方法において、前記チタン合金
の前記脱水素工程後の結晶粒の平均粒径が3.0μm以下であることを特徴とする。
本発明によれば、熱間圧延を施して結晶粒の平均粒径が3.0μm以下となるように結晶を微細化するので、優れた超塑性特性を付与できる。このチタン合金を輸送機器用部品や機械部品として用いる場合、塑性形成により例えばタンクや圧力容器を製造できる。従って、耐薬品性及び耐食性に優れ、軽量化を実現可能な材料を提供できる。
【0010】
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記チタン合金の前記脱水素工程後の結晶粒の最大粒径が3.0μm以下であることを特徴とする。
また、本発明は、上記チタン合金の製造方法において、前記チタン合金の前記脱水素工程後の結晶粒の平均粒径が1.0μm以下であることを特徴とする
。
【0011】
また、本発明は、上記チタン合金
の製造方法において、前記溶体化工程は、大気中で前記チタン合金をβ変態点以上の温度に加熱し、前記β変態点以上の温度で所定時間以上保持する処理を含むことを特徴とする。
本発明によれば、水素を吸蔵したチタン合金において確実にマルテンサイト化を進行させることができる。また、大気中で加熱するためにチタン合金の表面に酸化皮膜が形成されるので、チタン合金に吸蔵された水素の放出を防ぎ、より確実にマルテンサイト化を進行させることができる。
【0012】
また、本発明は、上記チタン合金
の製造方法において、前記熱間圧延工程は、大気中で前記チタン合金をβ変態点以下かつ常温以上の温度に加熱して、前記チタン合金を圧延し、前記チタン合金のマルテンサイトを粉砕して高密度転移領域を形成させ、水素化物を析出させる処理を含むことを特徴とする。
本発明によれば、マルテンサイト化したチタン合金の結晶をより確実に微細化できる。また、大気中で熱間圧延を行うためチタン合金に吸蔵された水素の放出を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明は、上記チタン合金
の製造方法において、前記脱水素工程は、前記熱間圧延工程で処理された後の前記チタン合金表面の酸化被膜を除去する処理と、酸化皮膜を除去された前記チタン合金を真空中で少なくとも823K(550℃)以上973K(700℃)以下の範囲に設定された加工温度以上に加熱して、所定時間保持する処理と、を含むことを特徴とする。
本発明によれば、チタン合金から水素を除去して、確実に再結晶粒を形成させることにより、超塑性特性を有するチタン合金を得ることができる。
【0016】
また、本発明は、上記チタン合金の加工方法において、前記チタン合金を850K以上1150K以下の温度で変形させることを特徴とする。
本発明によれば、高い伸び率で塑性成形を施すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チタン合金の結晶粒を小さくすることにより超塑性特性を発現させることができ、超塑性成形を可能とする。これにより、α+β
型のチタン合金の加工性を大幅に高めることができる。
また、チタン合金の超塑性特性をより一層高めることができる。
また、比強度が高く耐食性に優れた材料として広く利用されているチタン合金を処理して、超塑性特性を発現させることにより、汎用的なチタン合金による超塑性成形を実現できる。
また、チタン合金の結晶粒を微細化して、超塑性特性を付与できる。これにより、チタン合金の超塑性成形を可能とし、加工性を高めることができる。
また、チタン合金に優れた超塑性特性を付与できる。このチタン合金を輸送機器用部品や機械部品として用いる場合、塑性形成により例えばタンクや圧力容器を製造できる。従って、耐薬品性及び耐食性に優れ、軽量化を実現可能な材料を提供できる。
また、水素吸蔵工程で吸蔵される水素量を適切にコントロールすることが可能となり、安定した品質のチタン合金を得ることが可能である。
【0018】
また、本発明によれば、水素を吸蔵したチタン合金において確実にマルテンサイト化を進行させることができる。また、大気中で加熱するためにチタン合金の表面に酸化皮膜が形成されるので、チタン合金に吸蔵された水素の放出を防ぎ、より確実にマルテンサイト化を進行させることができる。
また、マルテンサイト化したチタン合金の結晶をより確実に微細化できる。また、大気中で熱間圧延を行うためチタン合金に吸蔵された水素の放出を防ぐことができる。
また、チタン合金から水素を除去して、確実に再結晶粒を形成させることにより、超塑性特性を有するチタン合金を得ることができる。
また、塑性形成によってチタン合金を材料とした様々な製品を製造可能できる。例えば、耐薬品性及び耐食性に優れ、軽量化が可能な輸送機器用部品、機械部品、衛生器具類を製造できる。
また、高い伸び率で塑性成形を施すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した実施形態について説明する。
発明者らは、チタン合金の塑性加工を可能とするため、チタン合金の結晶粒を微細化することに着目した。結晶粒が微細化されたチタン合金は、一般的に知られる純チタンやチタン合金に比べて、後述するように極めて高い塑性加工性(超塑性加工性)を有し、例えばプレス加工により様々な形状に成形できる。また、チタン合金に特有の、比強度が高く耐食性に優れるといった有利な特性は、結晶粒を微細化しても維持されるので、二輪車や四輪車等の車両用の部品、航空・宇宙分野で使用される部品、医療用の素材等として有用である。
結晶粒が微細化されたチタン合金の好ましいものとして、水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、水素吸蔵工程で水素を吸蔵したチタン合金を加熱する溶体化工程と、チタン合金を冷却してマルテンサイト変態させる冷却工程と、マルテンサイト変態したチタン合金を所定の変態点以下の温度に加熱して圧延する熱間圧延工程と、圧延されたチタン合金から脱水素する脱水素工程と、を含む処理を施して超塑性特性を付与したチタン合金が挙げられる。
このチタン合金は、原料であるチタン合金に水素を吸蔵させてマルテンサイト化し、熱間圧延することにより、結晶粒が効果的に微細化される。
【0021】
また、水素吸蔵工程では、不活性ガス雰囲気下においてチタン合金を加熱する工程と、823K(550℃)以上1023K(950℃)以下の温度範囲に設定された加工温度に達してから、上記チタン合金を不活性ガス雰囲気下から水素雰囲気下に置く工程と、上記温度範囲において水素雰囲気下で所定時間を経過させる工程と、上記チタン合金を水素雰囲気下から不活性ガス雰囲気下に置く工程と、チタン合金を冷却する工程とを含む処理を含むことが好ましい。
より好ましくは、不活性ガス気流下においてチタン合金を加熱する工程と、823K以上1023K以下の温度範囲に設定された加工温度に達してから不活性ガス気流を水素ガス気流に切り替える工程と、上記温度範囲において設定された温度で、水素ガス気流下で所定時間を経過させる工程と、水素ガス気流を不活性ガス気流に切り替える工程と、チタン合金を冷却する工程とを含む処理を行う。さらに、水素ガス気流下で所定時間を経過させることによりチタン合金に水素を吸蔵させる工程は、823K以上1023K以下の範囲に設定された温度で行われる。この工程の温度は、不活性ガス気流を水素ガス気流に切り替える加工温度と同一であってもよいし、異なる温度であってもよい。
この水素吸蔵工程の後、いったんチタン合金を室温まで放冷(空冷)すると、より好ましい。
また、吸蔵させる水素量は、0.1重量%以上0.5重量%以下とすることが好ましく、0.3重量%とすることがより好ましい。
水素吸蔵工程で用いる不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム、窒素等を用いることができる。不活性ガス気流の圧力は、例えば0.005MPaとすることができ、水素ガス気流の圧力は、例えば0.005MPaとすることができる。
【0022】
このように、チタン合金を、823K以上1023K以下の範囲に設定された温度で、不活性ガス雰囲気下から水素雰囲気下に置くことで、チタン合金に水素を確実に、かつ十分に吸蔵させることが可能である。また、原料のチタン合金を不活性ガス気流下で加熱することにより、確実に水素が吸蔵される温度に達してからチタン合金を水素に晒すことになるので、不確実な水素吸蔵の発生を防止し、チタン合金に吸蔵される水素の量を確実に、適切な量に制御できる。また、不活性ガス気流と水素ガス気流とを切り換えることで、水素吸蔵の開始および終了を容易に制御できる。これにより、安定した品質のチタン合金を得ることが可能である。
さらに、チタン合金を不活性ガス雰囲気下から水素雰囲気下に置く際の温度、及び、水素雰囲気下で所定時間を経過させる温度は、上記チタン合金のβ変態点以下とすることが、より好ましい。この場合、チタン合金に水素を吸蔵させる間の溶体化の進行が促進されない。このため、チタン合金のマルテンサイト化を確実にコントロールできる。この温度のさらに好ましい例は、水素の吸蔵の速度及び効率が高まることから1073K(800℃)以上であり、最も好ましい温度としては1073Kが挙げられる。
【0023】
溶体化工程では、大気中でチタン合金をβ変態点以上の温度に加熱し、β変態点以上の温度で所定時間以上保持する処理を含むことが好ましい。水素を吸蔵したチタン合金をβ変態点以上の温度で保持することにより、確実に、かつ十分にマルテンサイト化を進行させることができる。また、溶体化工程では大気中においてチタン合金を加熱するので、チタン合金の表面に酸化皮膜が形成される。このため、溶体化工程でチタン合金に吸蔵された水素の放出を防ぎ、より確実にマルテンサイト化を進行させることができる。溶体化工程の後、チタン合金を、空冷または水冷によりいったん室温まで冷却すると、より好ましい。
【0024】
熱間圧延工程では、大気中でチタン合金をβ変態点以下かつ常温以上の温度に加熱して、チタン合金を圧延し、チタン合金のマルテンサイトを粉砕して高密度転移領域を形成させ、水素化物を析出させる処理を含むことが好ましい。この熱間圧延工程では、溶体化工程においてマルテンサイト化したチタン合金の結晶をより確実に微細化できる。また、大気中で熱間圧延を行うため、チタン合金の表面の酸化皮膜が維持される。このため、チタン合金に吸蔵された水素の放出を防いで、結晶粒を微細化できる。熱間圧延工程の温度条件は、より好ましくは、773K(500℃)以上923K(650℃)以下である。773K未満の温度では圧下率を高めることが困難であり、773K以上とすることで、例えば圧下率を80%以上とすることができ、結晶粒をより微細にすることが可能となる。また、923K以下とすることで、結晶粒の粗大化を防ぐことができる。
熱間圧延工程の後、チタン合金を、空冷によりいったん室温まで冷却すると、より好ましい。
【0025】
脱水素工程では、熱間圧延工程で処理された後のチタン合金表面の酸化被膜を除去する処理と、酸化皮膜を除去されたチタン合金を真空中で少なくとも823K(550℃)以上973K(700℃)以下の範囲に設定された加工温度以上に加熱して、所定時間保持する処理を含むことが好ましい。この処理により、チタン合金から水素を除去して、確実に再結晶粒を形成させることができる。また、脱水素工程の温度条件を973K以下とすることで、結晶粒の粗大化を防止できる。さらに、脱水素工程の温度条件を873K以上とすれば、チタン合金からより確実に水素を除去することができるので、最も好ましい。脱水素工程では、チタン合金を上記温度に所定時間保持した後、873K未満の温度まで、より好ましくは室温まで、真空の炉内で放冷する。
【0026】
上記の処理により結晶粒を微細化したチタン合金を得るための材料としては、チタン合金としてα+β型またはニアーα+β型のチタン合金が挙げられる。
より具体的には、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V(JIS60種、JIS60E種及び同組成の他の合金を含む)、Ti−6Al−6V−2Sn(AMS4918,AMS4936,AMS4937,AMS4971,AMS4978,AMS4979及び同組成の他の合金を含む)、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo合金(AMS4981及び同組成の他の合金を含む)、及び、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Fe(AMS4964及び同組成の他の合金を含む)の中から選択されたチタン合金を処理して、結晶粒が微細化された上記チタン合金を得ることができる。
これらのα+β型またはニアーα+β型のチタン合金は、上記の熱間圧延工程において、圧下率を80%以上とすることが可能である。この高い圧下率で圧延することによって、結晶粒をより微細にすることが可能になる。
【0027】
そして、脱水素工程後の結晶粒の平均粒径が3.0μm以下であることが好ましく、結晶粒の最大粒径が3.0μm以下であることがより好ましく、結晶粒の平均粒径が1.0μm以下であることが最も好ましい。
【0028】
図1は、本発明を適用したチタン合金の例について、結晶状態を示すTEM(Transmission Electron Microscope)写真である。
図1に示すチタン合金は、α+β型のチタン合金の一例としてTi−6Al−6V−2Sn合金を用い、後述する実施例1の処理により得られたものである。
図1に示すチタン合金の結晶粒は、図中のスケールと比較して明らかなように、多くの結晶粒の粒径は0.3〜0.5μm程度であり、大きいもので粒径が1μm程度である。平均粒径は1.0μm以下である。
【0029】
図2は、本発明を適用したチタン合金の別の例について、結晶状態を示すTEM写真である。
図2に示すチタン合金は、α+β型のチタン合金の一例としてTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金を用い、後述する実施例2の処理により得られたものである。
図2に示すチタン合金の結晶粒は、図中のスケールと比較して明らかなように、多くの結晶粒の粒径は0.3〜0.5μm程度であり、大きいものであっても粒径が1μm未満である。
【0030】
Ti−6Al−6V−2Sn合金やTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金等のチタン合金を単に圧延しただけでは、平均粒径が1.0μmとなるまで結晶粒を微細化することはできない。
例えば、比較例1で得られたTi−6Al−6V−2Sn合金は、大気中において温度923K(650℃)、圧下率80%で熱間圧延加工を行った後で、TEM写真に基づく目視により計測した結晶粒の平均粒径は、約10μmであった。同様に、比較例2で得られたTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金は、実施例3と同様の熱間圧延加工を行った後で、TEM写真に基づく目視により計測した結晶粒の平均粒径は、約10μmであった。
従って、
図1及び
図2に示したような結晶粒の微細化は、α+β型及びニアーα+β型のチタン合金に本発明に係る処理を施した場合に可能となる。
【0031】
図3は、チタン合金の特性を示す図表であり、縦軸を公称応力δ[MPa]、横軸を公称ひずみεとした応力−ひずみ線図である。
図3中の(1)及び(2)は実施例1で得られたチタン合金の特性を示し、(1)は結晶粒の平均粒径が0.40μmのチタン合金であり、(2)は結晶粒の平均粒径が2.1μmのチタン合金である。この
図4の応力−ひずみ線図は後述する実施例3により得られたものである。
(1)及び(2)はいずれもTi−6Al−6V−2Sn合金であるが、上述したように結晶粒の粒径が異なっており、(1)は微細粒、(2)は粗粒ということができる。(1)に示すチタン合金の降伏点は(2)に示すチタン合金に比べて有意に高いが、(1)及び(2)ともに1000MPaを超えている。
【0032】
図4も同様に、チタン合金の特性を示す図表であり、縦軸を公称応力δ[MPa]、横軸を公称ひずみεとした応力−ひずみ線図である。
図4中の(1)及び(2)は実施例2で得られたチタン合金の特性を示し、(1)は結晶粒の平均粒径が0.26μmのチタン合金であり、(2)は結晶粒の平均粒径が0.58μmのチタン合金である。この
図4の応力−ひずみ線図は後述する実施例4により得られたものである。
(1)及び(2)はいずれもTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金であるが、上述したように結晶粒の粒径が異なっており、(1)は微細粒、(2)は粗粒ということができる。(1)に示すチタン合金の降伏点は(2)に示すチタン合金に比べて有意に高いが、(1)及び(2)ともに1000MPaを超えている。
【0033】
図3及び
図4から明らかなように、α+β型チタン合金に対し、上述した水素吸蔵工程、溶体化工程と、冷却工程、熱間圧延工程、及び脱水素工程を含む処理を施して得られたチタン合金は、粒径が異なっていても、当該処理を施していない一般的なα+β型チタン合金と同等以上の比強度を有する。つまり、上記処理による比強度の低下はなく、後述するように超塑性特性が付与されたことにより、材料としての有用性が高められたといえる。
【0034】
図5及び
図6は、チタン合金の結晶粒径と降伏強度との相関を示す図表であり、縦軸を降伏強度δ
y[MPa]とし、横軸を結晶粒径d
-1/2[μm
-1/2]としている。
図5は実施例1と同様の操作により得られるTi−6Al−6V−2Sn合金の平均粒径と降伏強度とをプロットしたものである。この降伏強度は、実施例5と同様の操作により計測された。結晶粒径は、熱間圧延工程における圧下率を調整することにより変化させることができる。また、
図6は、実施例2と同様の操作により得られるTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金の平均粒径と、実施例5と同様の操作により計測される降伏強度とをプロットしたものである。
【0035】
図5にはA(平均粒径0.40μm)、B(平均粒径0.70μm)、C(平均粒径1.0μm)、D(平均粒径1.2μm)、及びE(平均粒径2.1μm)の各粒径について降伏強度をプロットした。降伏強度δyの近似曲線は、δ
y=227.69・d
-1/2+915 であった。
また、
図6にはA(平均粒径0.26μm)、B(平均粒径0.58μm)、C(平均粒径0.87μm)、D(平均粒径1.9μm)、及びE(平均粒径2.5μm)の各粒径について降伏強度をプロットした。降伏強度δyの近似曲線は、δ
y=210d
-1/2+793 であった。
【0036】
図5及び
図6に明らかなように、チタン合金の結晶粒径が微細化するほど、降伏強度が高くなる傾向にある。
図3及び
図4に示した各例が、いずれも結晶粒の平均粒径が1.0μm未満であったことから、結晶粒の粒径を小さくするほど比強度が高い材料を得ることができ、好ましい範囲は平均粒径が1.0μm以下であるということができる。
【0037】
続いて、上記のチタン合金の超塑性成形について説明する。
本発明に係るチタン合金の加工方法では、α+β型またはニアーα+β型のチタン合金を、初期ひずみ速度10
-3s
-1以上10
-1s
-1以下の速度で変形させる。
さらに、チタン合金を850K以上1150K以下の温度で変形させてもよい。
この加工方法を用いれば、チタン合金の超塑性特性を生かして、伸びが2000%程度、またはそれ以上となる超塑性加工を行い、様々な形状に加工できる。
【0038】
図7〜
図12は、チタン合金の引張試験における初期ひずみ速度[s
-1]と伸び[%]または変形応力[MPa]との相関を温度別に示す図表である。また、
図13及び
図14は、伸びと変形応力に対する温度の影響を示す図表である。これら
図7〜
図14では、実施例1により得られた試験片の結果を(1)、比較例1の試験片の結果を(2)として示す。
【0039】
図7には、温度を973K(700℃)とした場合の初期ひずみ速度と伸びとの相関を示し、
図8には温度を973Kとした場合の初期ひずみ速度と変形応力との相関を示す。
(1)に示す実施例1の試験片は、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-1s
-1以下の範囲において2000%以上の伸びを示し、特に初期ひずみ速度が10
-2s
-1の場合には6000%以上の高い伸びを示した。変形応力は初期ひずみ速度が早いほど高い傾向にあるが、初期ひずみ速度が10
-1s
-1の場合であっても151MPaに止まる。従って、初期ひずみ速度を10
-1s
-1に高速化しても、容易に超塑性加工を行えることが明らかになった。また、(2)に示す比較例1の試験片も、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-2s
-1の範囲においては2000%以上の高い伸びを示し、この範囲における変形応力は低いといえる。
【0040】
図9には、温度を1023K(750℃)とした場合の初期ひずみ速度と伸びとの相関を示し、
図10には温度を1023Kとした場合の初期ひずみ速度と変形応力との相関を示す。
(1)に示す実施例1の試験片は、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-1s
-1以下の範囲においてほぼ2000%以上の伸びを示し、特に初期ひずみ速度が10
-2s
-1の場合には8000%以上の極めて高い伸びを示した。変形応力は初期ひずみ速度が早いほど高い傾向にあるが、初期ひずみ速度が10
-1s
-1の場合であっても108MPaに止まり、容易に超塑性加工を行えることが明らかになった。また、(2)に示す比較例1の試験片も、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-2s
-1の範囲においては2000%以上の高い伸びを示し、この範囲における変形応力は低いといえる。
【0041】
図11には、温度を1073K(800℃)とした場合の初期ひずみ速度と伸びとの相関を示し、
図12には温度を1073Kとした場合の初期ひずみ速度と変形応力との相関を示す。
(1)に示す実施例1の試験片は、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-1s
-1以下の範囲においてほぼ2000%以上の伸びを示し、特に初期ひずみ速度が10
-2s
-1の場合には6000%以上の極めて高い伸びを示した。変形応力は初期ひずみ速度が早いほど高い傾向にあるが、初期ひずみ速度が10
-1s
-1であっても84.2MPaに止まり、容易に超塑性加工を行えることが明らかになった。また、(2)に示す比較例1の試験片も、初期ひずみ速度が10
-3s
-1以上10
-2s
-1の範囲においては2000%以上の高い伸びを示し、この範囲における変形応力は低いといえる。
上記の結果をまとめて表1に示す。表中、初期ひずみ速度の単位は[s
-1]、伸びの単位は[%]、変形応力の単位は[MPa]である。
【0043】
表1中の「微細粒チタン合金」は、実施例1で得られた試験片を指し、図中の(1)に対応する。「粗粒チタン合金」は、比較例1で得られた試験片を指し、図中の(2)に対応する。
この表1に明らかなように、実施例1で得られた試験片はほぼ全ての条件で2000%以上の高い伸びを示し、ひずみ速度感受性指数(m値)は超塑性の基準とされる0.3を大きく超える値となっており、超塑性特性が現れている。
また、比較例1で得られた粗粒チタン合金についても、初期ひずみ速度が10
-3以上10
-1以下の範囲においては1000%を超える伸びを示し、ひずみ速度感受性指数(m値)が0.3を大きく超える値となっている。従って、粗粒チタン合金を加工した場合にも超塑性特性が得られたといえる。
【0044】
また、
図13に示すように、(1)の実施例1の試験片はほぼ850Kから1150Kの範囲において概ね2000%以上の伸びを示している。特に、923K以上1100K以下の範囲においては4000%以上の伸びを示しており、950K以上1073K以下の範囲では6000%以上の高い伸びを示している。(2)に示す比較例1の試験片も、940K以上では2000%以上の伸びを示し、1000K以上1100K以下の範囲では4000%以上の高い伸びを示している。
【0045】
図14に示すように、変形応力は温度が高いほど低下する傾向を示したが、最も低い試験条件である873Kにおいて、比較例1の試験片の変形応力は400未満である。従って、変形応力は
図14に示す全温度体で良好であった。
図13及び
図14に示した結果を表2にまとめて示す。
【0047】
従来知られている、いわゆる超塑性加工は伸びが500%〜1000%程度である。表1及び表2に示した結果のうち、2000%程度の伸びが得られたケースは、明らかに従来技術と比較して優れている。従って、2000%以上の伸びが得られた加工条件は、好ましい条件ということができる。
さらに、市販されているα+β型チタン合金の伸びは最大で2500%程度であることが知られているので、これを超える伸び、例えば4000%以上の伸びが得られた加工条件は、より好ましい条件といえる。さらに、6000%以上の優れた伸びが得られた加工条件を、最も好ましい条件ということができる。
【0048】
この観点から、
図7〜
図12及び表1に示した結果から、初期ひずみ速度を10
-3s
-1以上10
-1s
-1以下とすれば、実施例1の試験片においてほぼ2000%またはそれ以上の伸びが得られ、比較例1の試験片によっても高い伸びが得られたことから、好ましい条件であるといえる。
また、初期ひずみ速度を10
-3s
-1以上10
-2s
-1以下とすれば、実施例1の試験片においてほぼ4000%またはそれ以上の伸びを示し、比較例1の試験片においても3000%以上の伸びが得られたため、より好ましい条件であるといえる。
さらに、初期ひずみ速度を5×10
-3s
-1以上1×10
-2s
-1以下とすれば、実施例1の試験片は6000%以上の高い伸びを得ることができるので、最も好ましい条件ということができる。
【0049】
図13及び
図14と表2に示した結果から、超塑性加工の温度条件は、850K以上1150K以下とすれば、実施例1の試験片により2000%以上の伸びを得られるので好ましい。
また、温度を923K以上1100K以下とすれば、実施例1の試験片において4000%以上の伸びが得られたことから、より好ましい。940K以上とすれば比較例1の試験片においても2000%以上の伸びが得られたことから、さらに好ましい。
そして、温度条件を950K以上1073K以下とすれば、実施例1の試験片において6000%以上の高い伸びが得られたことから、最も好ましい。
また、温度条件を923K以上とした場合には、変形応力が実施例1の試験片において90MPa以下、比較例1の試験片において200MPa以下となるため、加工容易性の面でも好ましい。
【0050】
このように、本発明を適用した実施形態によれば、α+β型またはニアーα+β型のチタン合金に超塑性特性を与えることができ、比強度と耐食性とともに加工性に優れたチタン合金、及びその加工方法を提供できる。
なお、上記実施形態は本発明を適用した一例に過ぎず、例えば、チタン合金としてはα+β型またはニアーα+β型のチタン合金を用いることが可能である。また、引張試験の温度条件等も上記に示したものはあくまで一例であって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0051】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は実施例の構成に限定されない。
【0052】
実施例1:チタン合金の水素処理
α+β型チタン合金であるTi−6Al−6V−2Sn合金の試験片(12.5mm×25mm×50mmの直方体)に対し、(1)水素吸蔵工程、(2)溶体化工程、(3)熱間圧延工程、(4)脱水素工程の処理を施した。
(1)水素吸蔵工程
チタン合金の試験片をアルゴンガス気流(圧力:0.005MPa)中で室温から加熱した。温度が1073Kに達した後に、アルゴンガス気流を水素ガス気流(0.005MPa)に切り換えて、5分間保持した。その後、水素ガス気流を再びアルゴンガス気流(圧力:0.005MPa)に切り換えて、室温まで冷却した。この結果、試験片の0.3重量%の水素を吸蔵した水素吸蔵チタン合金を得た。
(2)溶体化工程
水素吸蔵工程(1)で得た水素吸蔵チタン合金の試験片を、大気中で1273K(1000℃)に加熱して30分間保持し、その後、室温まで水冷した。
(3)熱間圧延工程
溶体化工程(2)後の試験片に対し、大気中において、温度923K(650℃)、圧下率80%で熱間圧延加工を行った。加工後の試験片は室温まで放冷した。
(4)脱水素工程
熱間圧延工程(3)で処理された試験片を真空中で加熱し、873K(600℃)で2時間保持した。その後、加熱を停止して炉内で放冷した。
【0053】
実施例2:チタン合金の水素処理
α+β型チタン合金であるTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金の試験片(形状及びサイズは実施例1と同様)を用い、実施例1と同様の処理を施した。
【0054】
比較例1:チタン合金の熱間圧延処理
α+β型チタン合金であるTi−6Al−6V−2Sn合金の試験片(形状及びサイズは実施例1と同様)に対し、大気中において、温度923K(650℃)、圧下率80%で熱間圧延加工を行った。加工後の試験片は放冷した。
【0055】
比較例2:チタン合金の熱間圧延処理
α+β型チタン合金であるTi−4.5Al−3V−2Mo−2Fe合金の試験片(形状及びサイズは実施例1と同様)を用い、比較例1と同様の処理を施した。
【0056】
実施例3:引張試験
実施例1、2及び比較例1、2で得られたチタン合金の試験片から、引張試験用の板状の試験片(板厚2mm、幅5mm、標点間距離4mm)を作成し、引張試験機に装着して真空(10
-6Torr)中において試験を行った。試験後の標点間距離を測定し、試験前の標点間距離(4mm)に基づいて伸び[%]を算出した。また、塑性変形時の引張荷重[N]と初期断面積(20mm
2)から変形応力[MPa]を算出した。さらに、試験結果に基づき、応力−ひずみ曲線を作成するとともに、速度感受性指数(m値)を算出した。
【0057】
上記各試験片を用い、温度条件を、873K(600℃)、923K(650℃)、973K(700℃)、1023K(750℃)、1073K(800℃)の5通りとして上記要領で引張試験を行った。初期ひずみ速度は、0.001s
-1、0.001s
-1、0.005s
-1、0.01s
-1、0.05s
-1、0.1s
-1の6通りとした。
試験の結果は表1に示した。また、応力−ひずみ線図を
図3、
図4に示し、初期ひずみ速度と伸びとの相関、および、初期ひずみ速度と変形応力との相関を、温度別に
図7〜
図12に示した。また、温度と伸びとの相関を
図13に示し、温度と変形応力との相関を
図14に示した。