特許第6214510号(P6214510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6214510
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】化学蓄熱材及び化学蓄熱材形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20171005BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20171005BHJP
【FI】
   C09K5/16
   F28D20/00 G
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-210907(P2014-210907)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-98582(P2015-98582A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-215590(P2013-215590)
(32)【優先日】2013年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小山 俊隆
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正樹
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118736(WO,A1)
【文献】 特開2012−082292(JP,A)
【文献】 特開2009−256517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00−5/20
F28D20/00
F25B17/08
F25B35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2族元素化合物と、
アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種が縮合したシリコーンポリマーと、を含有する化学蓄熱材。
【請求項2】
前記第2族元素化合物として、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を含有する請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
前記第2族元素化合物は、酸化カルシウムであり、
化学蓄熱材の含有する、カルシウム原子、ケイ素原子及び酸素原子の合計中において、カルシウム原子の含有量は12〜65質量%であり、ケイ素原子の含有量は6〜39質量%であり、酸素原子の含有量は29〜49質量%である請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項4】
第2族元素化合物と、
アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種と、
樹脂と、を含有する化学蓄熱材形成用組成物。
【請求項5】
更に、炭素からなる物質及び炭化水素のうち少なくとも一方を含有する請求項4に記載の化学蓄熱材形成用組成物。
【請求項6】
前記樹脂として、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、水酸基含有アクリル樹脂及びブチラール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有する請求項4又は5に記載の化学蓄熱材形成用組成物。
【請求項7】
前記第2族元素化合物として、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を含有する請求項4から6のいずれかに記載の化学蓄熱材形成用組成物。
【請求項8】
前記アルコキシシランは、トリエトキシシランである請求項4から7のいずれかに記載の化学蓄熱材形成用組成物。
【請求項9】
請求項4から8のいずれかに記載の化学蓄熱材形成用組成物を金属基材表面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後に、前記金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物を680℃〜1200℃で30〜120分間焼成する焼成工程と、を含む化学蓄熱材の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材及び化学蓄熱材形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の消費量を減少させて省エネルギー化を達成するために、工場や発電所における排熱を蓄えて利用する、蓄熱技術の開発が進められている。このような蓄熱技術としては、例えば水の氷への変化に代表されるような、物質の相転移を伴って熱を蓄える技術(潜熱蓄熱)が知られている。
【0003】
潜熱蓄熱では、一般的に熱を蓄えておくことが可能な時間が短い傾向にある。また、潜熱蓄熱は、単位体積当たりに蓄熱可能な熱量(蓄熱密度)が低い傾向にある。従って、潜熱蓄熱では、長時間に渡る蓄熱や熱の輸送は難しい。
このような状況に鑑みて、蓄熱技術の中でも、長時間の蓄熱が可能で、且つ、蓄熱密度が高いことから、熱の輸送を容易にすることができる化学蓄熱材に注目が集まっている。
【0004】
化学蓄熱について、より具体的に説明する。例えば、酸化カルシウム/水系の化学蓄熱であれば、化学蓄熱材中の酸化カルシウムが水和する際に発生する熱を放出することができ、逆に、酸化カルシウムが水和することで生成した水酸化カルシウムを加熱して脱水することにより化学蓄熱材に蓄熱することができる。このように、化学蓄熱材を用いれば、物質の化学的変化に伴う発熱と吸熱を利用して、熱の放出と蓄熱を繰り返すことが可能になる。
【0005】
化学蓄熱材は、例えば熱交換器に充填され、熱回収される。酸化カルシウム等の無機粉体を化学蓄熱材とする熱交換器(以下、熱交換型反応器とも言う)で熱回収を行う場合、化学蓄熱材は粉末状では熱伝導率が低いことから、熱交換面から離れている場所からの熱の回収が難しく、熱の回収効率が低くなってしまう傾向にある。また、粉末状の化学蓄熱材では、充填時に隙間ができてしまうこともあり、取り扱いが難しい。
【0006】
このような問題に対して、粉末状に比べて熱伝導性が高く、取り扱いが容易なペレット状の化学蓄熱材を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、熱交換型反応器の熱交換効率を向上させるために、熱交換面に化学蓄熱材からなる層を形成する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−227772号公報
【特許文献2】特開2012−127588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、化学蓄熱材に用いられる、酸化カルシウム等の無機粉体は、水和することで体積が増大し、逆に脱水されることにより体積が減少する。特許文献1で開示された技術では、ペレット状の化学蓄熱材に粘土鉱物を含有させることで、化学蓄熱材の体積の増大や減少による微粉化を防ぐことを目的としている。しかし、特許文献1で開示された技術は、化学蓄熱材の微粉化を防ぐ技術としては十分満足できるものではない。また、特許文献2で開示された技術では、熱交換面に形成された化学蓄熱材の体積の増大や減少については考慮されていない。
【0009】
このように、未だに、微粉化され難く、熱伝導率が高い化学蓄熱材については見出されていないのが現状である。更には、そのような化学蓄熱材を任意の形状に成形することのできる化学蓄熱材形成用組成物についても見出されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、微粉化され難く、熱伝導率が高い化学蓄熱材や、そのような化学蓄熱材を任意の形状に成形することのできる化学蓄熱材形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第2族元素化合物と、シリコーンポリマーと、を含有する化学蓄熱材に関する。
【0012】
また、前記第2族元素化合物として、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0013】
また、前記第2族元素化合物は、酸化カルシウムであり、化学蓄熱材の含有する、カルシウム原子、ケイ素原子及び酸素原子の合計中において、カルシウム原子の含有量は12〜65質量%であり、ケイ素原子の含有量は6〜39質量%であり、酸素原子の含有量は29〜49質量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、第2族元素化合物と、アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種と、樹脂と、を含有する化学蓄熱材形成用組成物に関する。
【0015】
また、更に、炭素からなる物質及び炭化水素のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0016】
また、前記樹脂として、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、水酸基含有アクリル樹脂及びブチラール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0017】
また、前記第2族元素化合物として、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0018】
また、前記アルコキシシランは、トリエトキシシランであることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記化学蓄熱材形成用組成物を金属基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後に、前記金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物を680℃〜1200℃で30〜120分間焼成する焼成工程と、を含む化学蓄熱材の形成方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微粉化され難く、熱伝導率が高い化学蓄熱材や、そのような化学蓄熱材を任意の形状に成形することのできる化学蓄熱材形成用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<化学蓄熱材>
本実施形態に係る化学蓄熱材は、第2族元素化合物と、シリコーンポリマーと、を含有する。
【0023】
化学蓄熱材の含有する第2族元素化合物は、可逆的な化学反応を行うことができるものであれば特に限定されない。第2族元素化合物とは、第2族元素である、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選択されるいずれかの金属を含む化合物である。第2族元素化合物としては、水和することによって発熱し、水和した後に、逆に脱水することによって吸熱するものであることが好ましい。
水和することによって発熱し、水和した後に、逆に脱水することによって吸熱する第2族元素化合物としては、表1に記載した化合物を例示することができる。表1の「蓄熱操作温度」は、示された化合物が発熱反応している際の温度であり、「蓄熱密度」は、示された化合物の単位体積当たりの放出される熱エネルギー量である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に挙げた第2族元素化合物の中でも、蓄熱操作温度及び蓄熱密度が高いことから、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を化学蓄熱材に含有させることが好ましい。また、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムは、安価に入手することが可能である。
【0026】
化学蓄熱材における第2族元素化合物の含有量は、17〜88質量%であることが好ましい。化学蓄熱材における第2族元素化合物の含有量が、17質量%未満であると、化学蓄熱材の放出できる熱量が少なくなってしまう傾向にあり、88質量%よりも多いと、化学蓄熱材が崩壊しやすくなってしまう傾向にある。
【0027】
化学蓄熱材の含有するシリコーンポリマーは、後述する化学蓄熱材形成用組成物の含有する、アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、アルコキシシラン等と言う場合がある)が縮合したシリコーンポリマーである。アルコキシシラン等が縮合したシリコーンポリマーは、後述する焼成工程で、ケイ素に結合したアルコキシ基が全て脱離した構造になるのが好ましい。シリコーンポリマーは、緻密な三次元構造を形成しており、化学蓄熱材が崩壊するのを防ぐ。また、シリコーンポリマーは、緻密な三次元構造の内部に第2族元素化合物を保持することができる。
【0028】
シリコーンポリマーとしては、トリエトキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種が縮合したシリコーンポリマーが、より緻密な三次元構造を形成することができることから好ましい。
また、化学蓄熱材におけるシリコーンポリマーの含有量は、12〜83質量%であることが好ましい。化学蓄熱材におけるシリコーンポリマーの含有量が、12質量%未満であると、化学蓄熱材が崩壊しやすくなってしまう傾向にあり、83質量%よりも多いと、化学蓄熱材の放出できる熱量が少なくなってしまう傾向にある。
【0029】
第2族元素化合物は、酸化カルシウムであり、化学蓄熱材の含有する、カルシウム原子、ケイ素原子及び酸素原子の合計中おいて、カルシウム原子の含有量は12〜65質量%であり、ケイ素原子の含有量は6〜39質量%であり、酸素原子の含有量は29〜49質量%であることが好ましい。化学蓄熱材の含有する、カルシウム原子は酸化カルシウムに、ケイ素原子及び酸素原子はシリコーンポリマーに、それぞれ由来する。
【0030】
化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中におけるカルシウム原子の含有量が、12質量%未満である場合には、酸化カルシウムが少ないことから化学蓄熱材の放出できる熱量が少なくなってしまう傾向にある。化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中におけるカルシウム原子の含有量が、65質量%よりも多い場合には、シリコーンポリマーが少ないことから化学蓄熱材が崩壊しやすくなってしまう傾向にある。
【0031】
化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中におけるケイ素原子の含有量が、6質量%未満である場合には、シリコーンポリマーが少ないことから化学蓄熱材が崩壊しやすくなってしまう傾向にある。化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中におけるケイ素原子の含有量が、39質量%よりも多い場合には、酸化カルシウムが少ないことから化学蓄熱材の放出できる熱量が少なくなってしまう傾向にある。
【0032】
化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中における酸素原子の含有量が、29質量%未満である場合には、シリコーンポリマーが少ないことから化学蓄熱材が崩壊しやすくなってしまう傾向にある。化学蓄熱材の含有する、これらの原子(Ca、Si及びO)の合計中における酸素原子の含有量が、49質量%よりも多い場合には、酸化カルシウムが少ないことから化学蓄熱材の放出できる熱量が少なくなってしまう傾向にある。
【0033】
なお、化学蓄熱材における、これらの原子(Ca、Si及びO)の含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)等による質量分析により求めることができる。
化学蓄熱材は、必要に応じて第2族元素化合物やシリコーンポリマー以外の成分を含有してもよい。
【0034】
化学蓄熱材は、後述する化学蓄熱材形成用組成物を原料にして形成されることで、多孔質材料となる。
また、化学蓄熱材は、後述する化学蓄熱材形成用組成物を原料にして、任意の形状に成形することが可能である。例えば、化学蓄熱材は熱交換器の熱交換面に形成してもよいし、ペレット状に成形してもよい。化学蓄熱材から放出された熱は、例えば、熱交換器によって外部に移動させて使用することができる。
【0035】
続いて、化学蓄熱材の動作について説明する。化学蓄熱材は、放熱と、蓄熱と、を繰り返すことができる。
まず、化学蓄熱材からの放熱が行われる放熱工程においては、化学蓄熱材に水蒸気を接触させる。この際には、化学蓄熱材の含有する酸化カルシウム等の第2族元素化合物のモル量の1.2倍以下のモル量の水(水蒸気)を接触させるのが好ましい。化学蓄熱材に接触した水は、化学蓄熱材に形成された細孔内に浸透して、化学蓄熱材の内部でも良好に熱が発生する。化学蓄熱材に接触させる水が多すぎる場合、化学蓄熱材の形状の維持が難しくなる。化学蓄熱材から発生した熱は、熱交換器の熱媒体等によって回収される。化学蓄熱材に水蒸気を接触させる方法は限定されず、化学蓄熱材への水蒸気の噴霧、化学蓄熱材の液体水への浸漬、化学蓄熱材への液体水の添加(滴下、散布等)のいずれであってもよい。なかでも、化学蓄熱材へ均一に接触させやすいことから、水蒸気の噴霧によって化学蓄熱材に水蒸気を接触させることが好ましい。
【0036】
一方、化学蓄熱材への蓄熱が行われる蓄熱工程においては、酸化カルシウムが水和することによって生成する水酸化カルシウム等の第2族元素化合物を含有する化学蓄熱材を加熱する。化学蓄熱材が加熱されることで、化学蓄熱材中の第2族元素化合物の水酸化物は脱水されて、放熱工程前の状態(例えば、酸化カルシウム)に戻る。蓄熱工程において発生する水蒸気は、必要に応じて回収される。
【0037】
放熱工程においては、化学蓄熱材の体積は増大する。より具体的には、化学蓄熱材中の第2族元素化合物の体積は、化学蓄熱材が水和して放熱することで約20%増大する。逆に、蓄熱工程においては、化学蓄熱材中の第2族元素化合物は脱水して蓄熱することに伴って体積が減少する。化学蓄熱材の体積の増大と減少の繰り返しは、所望の形状に形成された化学蓄熱材が崩壊して微粉化してしまう原因になる。
本実施形態に係る化学蓄熱材は、多孔質であるので、それ自体が、体積の増大と減少によって生じる形状の歪を吸収することができる。従って、本実施形態に係る化学蓄熱材は、放熱と蓄熱を繰り返しても崩壊し難く、微粉化もされ難い。
【0038】
<化学蓄熱材形成用組成物>
本実施形態に係る化学蓄熱材形成用組成物は、第2族元素化合物と、アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種と、樹脂と、を含有する。本実施形態に係る化学蓄熱材形成用組成物を用いて、上記の化学蓄熱材が形成される。
【0039】
化学蓄熱材形成用組成物の含有する第2族元素化合物は、上記の化学蓄熱材の含有する第2族元素化合物と同様である。
しかし、化学蓄熱材形成用組成物の含有する第2族元素化合物は、水和した第2族元素化合物を用いることが好ましい。化学蓄熱材形成用組成物に水和した第2族元素化合物を含有させれば、後述する化学蓄熱材の形成における焼成工程において、第2族元素化合物は脱水して体積が減少する。従って、このように、水和した第2族元素化合物を含有させた化学蓄熱材形成用組成物を用いて形成した化学蓄熱材であれば、体積が膨張したとしても歪は生じ難いので、崩壊し難くなる傾向にある。
【0040】
特に、化学蓄熱材形成用組成物は、第2族元素化合物として、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムのうち少なくとも一方を含有することがより好ましい。水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムは、表1に示すように、蓄熱操作温度及び蓄熱密度が高い。
【0041】
化学蓄熱材形成用組成物の含有するアルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種は、化学蓄熱材においてシリコーンポリマーとなり、緻密な三次元構造を形成する。
アルコキシシラン等としては、例えば、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルアルコキシシラン、及びこれらの部分縮合物等を挙げることができる。より具体的には、テトラアルキルシランの部分縮合物としては、MKCシリケートMS51(三菱化学株式会社製テトラアルコキシシランの縮合物)、エチルシリケート40(コルコート株式会社製テトラエトキシシランの縮合物)等を挙げることができる。
【0042】
化学蓄熱材形成用組成物の含有するアルコキシシラン等としては、シリコーンポリマーが緻密な三次元構造を形成することができることから、トリエトキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0043】
化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂は、増粘剤としての役割を果たし、更に、化学蓄熱材の形状を維持するために必要である。
化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂としては、上記の役割を果たすものであれば限定されず、天然樹脂と合成樹脂のいずれであってもよく、セルロース等の多糖類、たんぱく質、ポリフェノール、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等から一種を選択して、もしくは複数種を組み合わせて用いることができる。化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂としては、第2族元素化合物及びアルコキシシラン等との親和性の観点から、水酸基含有樹脂であることが好ましい。水酸基含有樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、水酸基含有アクリル樹脂、ブチラール樹脂等を挙げることができるが、化学蓄熱材の形状を安定させることができることから、水酸基含有アクリル樹脂又はブチラール樹脂を含有させるのが好ましい。
化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂としては、体積平均分子量が100〜5,000,000であることが好ましい。化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂の体積平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定することができる。
【0044】
ブチラール樹脂として、より具体的には、エスレックBシリーズ及びKシリーズ(いずれも積水化学工業株式会社製)等を挙げることができる。また、水酸基含有アクリル樹脂として、より具体的には、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の2級水酸基モノマーや、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート等の3級水酸基モノマーと、その他のモノマーとを含んだモノマー混合液を常法によって重合して得ることができる重合体を挙げることができる。
なお、化学蓄熱材形成用組成物の含有する樹脂は、後述する化学蓄熱材の形成方法の焼成工程において除去される。
【0045】
更に、化学蓄熱材形成用組成物は、炭素からなる物質及び炭化水素のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。化学蓄熱材形成用組成物が、炭素からなる物質及び炭化水素のうち少なくとも一方を含有することで、化学蓄熱材の内部や表面により多くの細孔が形成され、化学蓄熱材の形状を安定させることができる。
炭素からなる物質としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノファイバー等を挙げることができ、炭化水素としては、パラフィン、オレフィン、シクロアルカン等を挙げることができる。
【0046】
より好ましくは、化学蓄熱材の内部や表面に、より細かい孔が形成され、化学蓄熱材の形状をより安定化させることができることから、化学蓄熱材形成用組成物には、カーボンブラックを含有させることが好ましい。
なお、化学蓄熱材形成用組成物の含有する炭素からなる物質や炭化水素は、後述する化学蓄熱材の形成方法の焼成工程において除去される。
【0047】
化学蓄熱材形成用組成物は、上記成分を分散させるために溶剤を含有することが好ましい。溶剤としては、有機溶剤及び水の少なくとも一方を用いることができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類等が挙げられる。
【0048】
化学蓄熱材形成用組成物は、必要に応じて上記成分以外の成分を含有してもよい。
【0049】
<化学蓄熱材の形成方法>
本実施形態に係る化学蓄熱材の形成方法は、塗布工程と、焼成工程と、を含む。
塗布工程では、上記の化学蓄熱材形成用組成物を金属基材表面に塗布する。化学蓄熱材形成用組成物を塗布する金属材料は、特に限定されない。金属材料としては、熱交換器の熱交換面に用いられる金属材料が好ましく、例えば、アルミニウム、銅、鋼材、ステンレス等が挙げられる。塗布工程において、塗布される、化学蓄熱材形成用組成物の量は15,000〜60,000g/mであることが好ましい。化学蓄熱材形成用組成物の量が、15,000g/m未満だと、形成される化学蓄熱材から放出できる熱量が少なくなる傾向にあり、60,000g/mよりも多いと、形成される化学蓄熱材が崩壊しやすくなる傾向にある。
【0050】
焼成工程では、塗布工程後に、金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物を焼成する。焼成工程は、電気炉等により行うことができるが、焼成する装置については特に限定されない。
化学蓄熱材形成用組成物は、焼成工程において焼成されることで、樹脂や、炭素からなる物質、炭化水素は気化されて、化学蓄熱材からは除去される。化学蓄熱材は、樹脂や、炭素からなる物質、炭化水素等が除去されることにより形成される細孔を有する。
【0051】
焼成工程において、金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物は、680℃〜1200℃で焼成される。焼成工程において、金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物が、680℃未満の温度で焼成された場合には、焼成不足により化学蓄熱材が崩壊しやすくなる傾向にあり、1200℃よりも高い温度で焼成された場合には、化学蓄熱材の内部に気泡が発生して、やはり化学蓄熱材が崩壊しやすくなる傾向にある。
【0052】
焼成工程において、金属基材表面の化学蓄熱材形成用組成物は、30〜120分間焼成される。焼成工程における、焼成時間が、30分未満の場合には、焼成不足により化学蓄熱材が崩壊しやすくなる傾向にあり、120分よりも長い場合には、化学蓄熱材の内部に気泡が発生して、やはり化学蓄熱材が崩壊しやすくなる傾向にある。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、全て質量基準である。
【0054】
[実施例1]
表2に示す量の、ブチラール樹脂(株式会社クラレ製、商品名「MowitalB20H」)とエチルシリケートの低縮合物(コルコート株式会社製、商品名「エチルシリケート28」)と、有機溶媒(日本乳化剤株式会社製、商品名「MPG−130」、ポリエチレングリコールメチルエーテル)と、を混合し、エチルシリケート樹脂を得た。このエチルシリケート樹脂に、表2に示す量の水酸化カルシウムとカーボンブラック(東海カーボン株式会社製、商品名「カーボンブラック Aqua−Black(登録商標) 162」)を加えて、よく混合し、化学蓄熱材形成用組成物を得た。この化学蓄熱材形成用組成物をペレット状(略球状、直径約2cm)に成形した。この成形した化学蓄熱材形成用組成物を電気炉に入れて1000℃で1時間焼成し、ペレット状の化学蓄熱材を得た。なお、水酸化カルシウムは焼成されることで脱水し、酸化カルシウムに変換される。
【0055】
[実施例2〜5及び比較例1]
化学蓄熱材形成用組成物の成分を表2に示した量に変更した以外は実施例1と同様の工程により、化学蓄熱材形成用組成物及び化学蓄熱材を得た。
【0056】
[化学蓄熱材の原子含有量]
化学蓄熱材の含有する、カルシウム原子、ケイ素原子及び酸素原子の合計中における、それぞれの原子の含有量(質量%)を「化学蓄熱材中の原子含有量」として表2に示した。「化学蓄熱材中の原子含有量」は、化学蓄熱材を蛍光X線分析装置(XRF)によって元素分析することで求めた。なお、実施例1〜4の化学蓄熱材は、酸化カルシウム及びシリコーンポリマーのみを含有しているとみなすことができる。表2に示した、化学蓄熱材中の、酸化カルシウム及びシリコーンポリマーの含有量は、「化学蓄熱材中の原子含有量」から、酸化カルシウムの分子量等を用いて求めた。
【0057】
[形状評価]
電気炉にて焼成した直後の化学蓄熱材の形状(表2の「焼成後」)、及び、焼成後に化学蓄熱材の含有する酸化カルシウムのモル当量以上の水を霧吹きでかけて発熱させた後の化学蓄熱材の形状(表2の「発熱後」)について、目視にて評価した。ペレットの形状を保ち、ひび割れも生じない場合には「A」、微細なひび割れが生じるが、ペレットの形状を保っていた場合には「B」、著しい割れが生じた場合や、粉体状になってしまった場合には「C」とした。結果を表2に示す。比較例1に係る化学蓄熱材は、発熱後に形状が崩れペレットの形状を維持することができなかった。従って、表2においては、比較例1に係る化学蓄熱材の発熱後の形状評価を「評価不可」とした。
【0058】
【表2】
【0059】
[発熱性能評価]
実施例のペレット状の化学蓄熱材について、発熱量を測定した。発熱量の測定は下記の手順で行った。
まず、断熱材によって覆われた容器に所定量の水を入れ、その水に実施例の化学蓄熱材を所定量(例えば5g)投入した。容器中の水はマグネチックスターラーによって攪拌し、その温度の上昇をシース型熱電対によって追跡した。そして、実施例の化学蓄熱材が投入された水の、シース型熱電対によって測定される温度は大きく上昇した。なお、化学蓄熱材の発熱量Q(単位:J)は、下記の式(1)によって求めることができる。式(1)中のΔTは、化学蓄熱材の投入後の水の最高温度から、化学蓄熱材を投入する直前の水の温度を差し引いた値(単位:K)である。また、Wは、カップ内の水の質量(単位:g)であり、Cpは水の比熱(J/g・K)である。
[数1]
Q=ΔT×W×Cp ・・・(1)
【0060】
表2の実施例1〜5から、酸化カルシウムと、ブチラール樹脂と、エチルシリケートの低縮合物と、を含有する化学蓄熱材形成用組成物を用いて形成された化学蓄熱材は、焼成後も発熱後も形状が保持されていることが分かった。一方、表2の比較例1から、エチルシリケートの低縮合物を含有しない化学蓄熱材形成用組成物を用いて形成された化学蓄熱材は、シリコーンポリマーを含有せず、ペレットの形状を維持できないことが分かった。
これらの結果から、第2族元素化合物と、アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種と、樹脂と、を含有する化学蓄熱材形成用組成物を用いて形成された化学蓄熱材は、第2族元素化合物からなる粒子同士が結着することで、微粉化され難いことが確認された。
【0061】
また、上記のように、実施例の化学蓄熱材が投入された水は温度が大きく上昇した。この結果から、実施例のペレット状の化学蓄熱材は、発熱性能を有することが確認された。
なお、第2族元素化合物と、アルコキシシラン、その加水分解物及びその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種と、樹脂と、を含有する化学蓄熱材形成用組成物を用いて形成された化学蓄熱材は、上記のように粒子同士が結着していることから、粘土鉱物を含有するペレット状の化学蓄熱材(例えば、上記の特許文献1に記載された化学蓄熱材)に比べて、ペレットの内部まで水が浸漬しやすいと考えられる。内部まで水が浸漬しやすい、実施例の化学蓄熱材は、発熱性能(上記の「発熱性能評価」において、水の温度を上昇させる能力)が高いと予想される。