特許第6215025号(P6215025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6215025
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】伝熱ろう付方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 3/04 20060101AFI20171005BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20171005BHJP
【FI】
   B23K3/04 B
   B23K3/04 X
   B23K1/00 330H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-249202(P2013-249202)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-104752(P2015-104752A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】長野 喜隆
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/070264(WO,A1)
【文献】 特開2008−027954(JP,A)
【文献】 特開2012−159218(JP,A)
【文献】 実開昭58−137568(JP,U)
【文献】 特開2001−319999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 3/04
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材の接合界面にろう材を介在させて組み立てた仮組体に、ヒータと熱的に結合されることによって加熱された加熱用金型の授熱面を接触させるとともに、前記加熱用金型の周端近傍において、該加熱用金型内に導入した加熱用ガスを金型側面に開口するガス流通路に流通させ、ろう材を溶融して被接合部材をろう付すること特徴とする伝熱ろう付方法。
【請求項2】
前記加熱用ガスはろう付温度よりも高温のガスである請求項1に記載の伝熱ろう付方法。
【請求項3】
前記加熱用金型は平面視角形であり、該加熱用金型の隅部近傍に導入した加熱用ガスを、隅部に至るガス流通路に流通させる請求項1または2に記載の伝熱ろう付方法。
【請求項4】
前記仮組体が、対向配置した2つの部材の間にフィンを挟んでろう付する熱交換器である請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の伝熱ろう付方法。
【請求項5】
ヒータと熱的に結合されることによって加熱され、被接合部材の接合界面にろう材を介在させて組み立てた仮組体に接触させる加熱用金型であって、該加熱用金型の周端近傍において側面に排出口を有するガス流通路が設けられていることを特徴とする伝熱ろう付の加熱用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合界面にろう材を介在させた被接合部材に加熱した金型を接触させて接合部を加熱する伝熱ろう付方法およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムのろう付方法はフラックスの使用の有無、加熱方法、加熱雰囲気等によって種々分類される(非特許文献1参照)。
【0003】
また、重ね継ぎ手のろう付方法としては、被接合部材間にろう材を介在させ、加圧しながら加熱した金型を接触させて接合部を加熱する伝熱ろう付法が知られている。伝熱ろう付法は接触による熱伝導を利用した加熱方法であるから接合部が急速に加熱されて短時間でろう付できるというメリットがあり、抵抗スポット溶接法、トーチろう付法、高周波ろう付法に代わるろう付法として注目されている(特許文献1参照)。
【0004】
伝熱ろう付には被接合部材の形状やろう付面積に応じた加熱用金型が用いられる。例えば、特許文献1の図面に記載されている加熱用金型はスポット溶接に代わる部分接合用であり、被接合部材への授熱面の面積は小さい。また、インナーフィンを有する熱交換器のろう付は、冷媒室の外殻となるアルミニウム板と波形のフィンとの接合であるから、アルミニウム板の面積相当の授熱面を有する加熱用金型を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−9124号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】川瀬寛、アルミニウムのろう付、軽金属、1986年8月号、514〜524頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伝熱ろう付において、良好なろう付を達成するための条件の一つに接合部の均一加熱があり、加熱用金型の授熱面の温度が均一であることが求められる。
【0008】
しかし、図3の等温線図に示すように、加熱用金型(50)は周端部から放熱されるために、授熱面(51)の温度は中央部で高く端部に行くほど低くなる。このため、図4に参照されるように、仮組体(1)の接合部を均一に加熱するには、接合部の寸法(W×L)よりもの大きい金型(50)を使用し、授熱面(51)の周縁部の温度低下領域が接合部から外れるように組み付ける必要がある。特に、前記熱交換器のろう付に使用する授熱面の面積の大きい金型においては、授熱面の中心部と周縁部とで温度差が大きくなる傾向がある。また、不活性ガス雰囲気のろう付炉内で伝熱ろう付を行う場合は、加熱用金型の寸法拡大に伴ってろう付炉の寸法を拡大しなければならず、設備コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述した技術背景に鑑み、伝熱ろう付において、放熱によって低下する授熱面周縁部に接触する仮組体の部分を加熱し、実質的に授熱面の好適温度領域を拡大する方法およびその関連技術を提供するものである。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[5]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]被接合部材の接合界面にろう材を介在させて組み立てた仮組体に、加熱用金型の授熱面を接触させるとともに、前記加熱用金型の周端近傍において、該加熱用金型内に導入した加熱用ガスを金型側面に開口するガス流通路に流通させ、ろう材を溶融して被接合部材をろう付すること特徴とする伝熱ろう付方法。
【0012】
[2]前記加熱用ガスはろう付温度よりも高温のガスである前項1に記載の伝熱ろう付方法。
【0013】
[3]前記加熱用金型は平面視角形であり、該加熱用金型の隅部近傍に導入した加熱用ガスを、隅部に至るガス流通路に流通させる前項1または2に記載の伝熱ろう付方法。
【0014】
[4]前記仮組体が、対向配置した2つの部材の間にフィンを挟んでろう付する熱交換器である前項1〜3のうちのいずれか1項に記載の伝熱ろう付方法。
【0015】
[5]被接合部材の接合界面にろう材を介在させて組み立てた仮組体に接触させる加熱用金型であって、該加熱用金型の周端近傍において側面に排出口を有するガス流通路が設けられていることを特徴とする伝熱ろう付の加熱用金型。
【発明の効果】
【0016】
[1]に記載の伝熱ろう付方法によれば、ガス流通路を流通する加熱用ガスが金型を加熱する。前記ガス流通路は金型の周端近傍において金型側面に開口して設けられており、ガス流通路の位置は放熱によって授熱面温度が低下する周縁の領域に該当する。従って、授熱面の温度低下領域が加熱用ガスで加熱され、仮組体の接合部は授熱面の中央部に接触する部分と周縁部に接触する部分との温度差が小さくなり、授熱面における伝熱ろう付の好適温度領域が実質的に拡大される。そして、授熱面の好適温度領域が拡大されることで金型を小型化することができる。また、金型の小型化によってろう付炉も小型化できる。
【0017】
[2]に記載の伝熱ろう付方法によれば、加熱用ガスの温度がろう付温度よりも高温であるから仮組体の実体温度を確実に昇温できる。
【0018】
[3]に記載の伝熱ろう付方法によれば、平面視四角形の金型において特に温度が低下し易い隅部近傍に加熱用ガスを流通させて好適温度領域を拡大することができる。
【0019】
[4]に記載の伝熱ろう付方法によれば、フィンをろう付する熱交換器のろう付において上記効果を奏することができる。
【0020】
[5]に記載の伝熱ろう付用金型によれば、ガス流通路に加熱用ガスを流通させることによって金型を加熱することができる。前記ガス流通路は金型の周端近傍において金型側面に排出口が設けられており、ガス流通路の位置は放熱によって授熱面温度が低下する周縁の領域に該当するので、授熱面の温度低下領域を加熱することができる。従って、仮組体の接合部は授熱面の中央部に接触する部分と周縁部に接触する部分との温度差が小さくなり、授熱面における伝熱ろう付の好適温度領域を実質的に拡大することができる。そして、授熱面の好適温度領域が拡大されることで金型を小型化することができる。また、金型の小型化によってろう付炉も小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の伝熱ろう付方法の一例を示す断面図である。
図2A】本発明で使用する加熱用金型の平面図である。
図2B図2Aの2B−2B線断面図である。
図3】従来の加熱用金型の授熱面における等温線図である。
図4】従来の加熱用金型を用いた伝熱ろう付方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明の伝熱ろう付方法を模式的に示す断面図である。
【0023】
図1に示す熱交換器の仮組体(1)は、底板となる角形の下板(11)と、中央に膨出部(13)を有する上板(12)とを対向させて波形のフィン(15)を挟むことにより、下板(11)と上板(12)との間に形成される冷媒室(14)の内部にフィン(15)を装填したものである。前記仮組体は(1)は、下板(11)と上板(13)の周縁部(16)をろう付するとともに、フィン(15)の上端部および下端部を冷媒室(14)の内面にろう付することにより作製される。前記仮組体(1)において、ろう材の供給方法は限定されない。例えば、下板(11)および上板(13)を心材にろう材をクラッドしたブレージングシートで構成することによって接合部に供給することができる。また、さらにフィン(15)を両面にブレージングシートで構成してもよい。
【0024】
なお、本発明はろう材の供給方法をブレージングシートに限定するものではない。他のろう材供給方法として、ろう材箔や粉末ろう材のスプレーを例示できる。
【0025】
前記冷媒室(14)におけるフィン(15)の接合部はライン状であるが、フィン(15)は波形であり多数の上端部および下端部を有しているので、下板(11)および上板(13)のフィン側の面の全域に所定間隔で複数の接合部が存在している。このような仮組体(1)を伝熱ろう付においては、前記下板(11)および上板(13)の全面を加熱する。
【0026】
図1〜2Bに示すように、加熱用金型(2)は平面視長方形の厚板からなる同形の下金型(20)および上金型(30)で構成されて、それぞれのヒータ(図示省略)と熱的に結合されることによって加熱される。
【0027】
図2Aおよび2Bに示すように、前記下金型(20)および上金型(30)は、四隅の近傍において、授熱面(21)(31)の対向面(26)(36)に開口する有底の円形孔(22)(32)と、これらの円形孔(22)(32)の底部で連通して金型側面に開口するガス流通路(24)(34)とを有している。前記ガス流通路(24)(34)は授熱面(21)(31)と略平行に延び、平面視長方形の金型の隅部に開口することによってガス排出口(25)(35)を形成している。また、前記円形孔(22)(32)の開口部はガス流通路(24)(34)への導入口(23)(33)を形成している。さらに、前記円形孔(22)(32)の導入口(23)(33)はパイプを介して図外のガス供給部に接続され、該ガス供給部においてガスの供給および停止の切り換え、ガスの流速調節が行われる。
【0028】
前記仮組体(1)の伝熱ろう付は、前記下金型(20)の授熱面(21)を下板(11)に接触させるとともに、上金型(30)の授熱面(31)を上板(12)の膨出部(13)に接触させ、仮組体(1)を上下方向に金型で挟み付けるように組み立てて行う。
【0029】
伝熱ろう付用金型は加熱されているが、周縁部から放熱するので授熱面の温度は均一ではなく周縁部は中央部よりも温度が低い。図3は四角形の金型(50)の中央部にヒータを接続したときの授熱面(51)における等温線図の例であり、中心は温度が高く端部に行くほど温度が低いことを示している。図示例の授熱面(51)は四角形であるから、特に隅部(52)の温度が低くなっている。このような温度分布をもつ金型を用いて良好なろう付を達成するには、授熱面温度が所定温度(55)を下回る周縁部の温度低下領域(53)を避けて中央部の好適温度領域(54)だけが仮組体(1)の接合部に接触するようにしなければならない。このため、授熱面(51)の温度低下領域(53)を見込んだ寸法の大きい金型を使用することになる。例えば、図4図1の仮組体(1)の上下を前記金型(50)で挟んで伝熱ろう付する場合、接合部の寸法がW×Lの下板(11)に対して授熱面(51)の寸法が1.2W×1.2L程度の大きい金型(50)が必要となる。また、金型(50)が大きくなることでろう付炉も大型化する。
【0030】
本発明は、放熱による授熱面(21)(31)の温度低下領域に該当する部分において、金型(20)(30)内に加熱用ガス(G)を流通させることにより金型を加熱し、授熱面温度を均一化する。
【0031】
図1に示すように、下金型(20)において、導入口(23)から加熱用ガス(G)を供給すると、加熱用ガス(G)は円形孔(22)を通じてガス流通路(24)に入り、ガス排出口(25)から排出される。加熱用ガス(G)がガス流通路(24)を通る間に授熱面(21)の周縁部の温度低下領域を加熱し、低下した授熱面温度を回復させる。前記作用によって、仮組体(1)の下板(11)側の接合部は授熱面(21)の中央部に接触する部分と周縁部に接触する部分との温度差が小さくなり、授熱面(21)の温度差による不均一加熱が解消されて均等に加熱される。即ち、授熱面(21)における伝熱ろう付の好適温度領域が実質的に広がることになる。そして、授熱面(21)の好適温度領域が拡大されることで金型を小型化することができる。例えば、仮組体(1)の下板(11)において均熱が必要な領域(接合部)がW×Lの四角形である場合、加熱用ガス(G)を流通させなければ1.2W×1.2Lの授熱面(21)が必要であるが、4つの隅部に加熱用ガスを流通させることによって授熱面(21)を1.1W×1.1Lに小型化することができる。また、金型が小型化されればろう付炉も小型化できる。
【0032】
なお、上金型(30)についても、下金型(20)と同じく加熱用ガス(G)を導入できるが、上板(12)側の接合部は下板(11)側よりも小さく接合部がガス流通路(34)の内側に収まるので、本例では加熱用ガス(G)は導入していない。図示例の仮組体(1)の伝熱ろう付においては、上板(12)側の接合部寸法に合わせて上金型(30)を小型化することができ、小型化によって狭くなった好適温度領域は、下金型(20)と同じく、ガス流通路を設けて加熱用ガス(G)の導入によって拡大することができる。
【0033】
本発明において、ガス流通路の形成位置は隅部に限定されるものではない。加熱用金型の平面形状、即ち授熱面の形状や寸法に応じて温度が低下しやすい位置に任意の数のガス流通路を設けて授熱面の好適温度領域を拡大することができる。角形、特に四角形の授熱面は隅部の温度が低下しやすいので、隅部にガス流通路を設けて加熱用ガスを流通させることによって好適温度領域を拡大することができる。
【0034】
また、前記ガス流通路に加熱用ガスを供給するための導入口の位置は限定されないが、図示例のように授熱面の対向面に開口する孔を穿設すればガス流通路への連通が容易であり、このような態様が望ましい。また、ガス流通路は授熱面に平行であることにも限定されず、金型の側面と授熱面の対向面とに開口する斜孔であってもよい。
【0035】
加熱用ガス(G)の温度は仮組体(1)の実体温度を昇温できる限り限定されない。ただし、確実に仮組体の(1)実体温度をろう付温度にまで昇温するには、ろう付温度よりも高温であることが好ましい。具体的には、ろう付温度よりも5〜30℃高いガスを流通させることが好ましい。前記加熱用ガス(G)を得る方法として、金型(20)(30)との接触時間が長くなるようなガス供給路を設定したり、ヒータの近傍を通るガス供給路を設定する方法を例示できる。また、予め加熱したガスを供給しても良い。予め加熱したガスを用いれば、金型の形状やヒータの位置や種類等に左右されることなくガス温度を制御できる。
【0036】
前記ガス(G)の種類は限定されないが、接合部の酸化を抑制して良好なろう付を達成するために、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを使用することが好ましい。また仮組体(1)および加熱用金型(20)を不活性ガス雰囲気中に配置して伝熱ろう付を不活性ガス雰囲気中で行うことも好ましい。
【0037】
本発明の伝熱ろう付方法は仮組体の対向する2面に加熱用金型を接触させる場合に限定されない。加熱用金型の個数や接触位置は接合部の位置や形状に対応して任意に設定することができる。また、複数個の加熱用金型を用いる伝熱ろう付において、少なくとも1個の金型の周端近傍において側面の排出口に通じるガス流通路に加熱用ガスを流通させるろう付は本発明に含まれる。
【0038】
本発明の伝熱ろう付方法は、接合面積の大きいろう付品や複数の接合部が広い領域に分散しているろう付品のように、授熱面積の大きい加熱用金型を用いるろう付に適している。授熱面積の大きい加熱用金型は中心部と周縁部とで温度差が生じやすいので、本発明の方法を適用する意義が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、接合面積が大きく、授熱面の面積の大きい加熱用金型を用いる伝熱ろう付品の製造に適し、特に熱交換器のろう付に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1…仮組体
2…加熱用金型
11…下板(被接合部材)
12…上板(被接合部材)
15…フィン(被接合部材)
20…下金型
30…上金型
21、31…授熱面
22、32…円形孔
23、33…ガス導入口
24、34…ガス流通路
25、35…ガス排出口
26、36…対向面
G…加熱用ガス
図1
図2A
図2B
図3
図4