(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電化区間を走行する鉄道車両には、パンタグラフが搭載される。パンタグラフは、集電舟を架空電車線(架線)に接触して集電する。パンタグラフは、集電舟を昇降自在に支持するための枠組を有する。枠組は、パンタグラフの台枠に対して集電舟が垂直運動をするための機構である(非特許文献1の3.2.1参照)。
図8に示されるように、枠組3は、リンク機構となっており、複数のリンクが回転対偶による平面連鎖を構成している。パンタグラフ1は、シングルアーム型の場合、枠組3として、上枠32、下枠33、釣合棒34、平衡棒36、及び舟支え35等を有する。上枠32及び下枠33は、集電舟2を支持する。上枠32及び下枠33の交差角θが変化することによって、集電舟2が昇降する。釣合棒34は、下枠33と並んで台枠4上に設けられ、釣合棒34の長さ設定によって、集電舟2の昇降軌跡が台枠4に対して垂直になるように調整される。平衡棒36、及び集電舟2と上枠との間に設けらる舟支え35によって、集電舟2の昇降(垂直運動)にかかわらず、集電舟2の姿勢が一定に保たれ、集電舟2の上面が水平に維持される。他の形状のパンタグラフ、例えば、菱形パンタグラフにおいても、枠組の動作によって、集電舟が台枠に対して垂直運動をする(非特許文献1の附属書A備考2参照)。
【0003】
パンタグラフは、かぎ装置(鉤装置)を有する(非特許文献1の3.2.2A参照)。かぎ装置は、折り畳んだ状態のパンタグラフに対して、集電舟が上昇しないように、その状態を保持しておくための装置である。かぎ装置によって、枠組が折り畳まれた状態に保持される。
【0004】
従来から、パンタグラフのかぎ装置として、かぎ(鉤)を有するものがある(例えば、特許文献1の
図1参照)。このかぎ装置を有するパンタグラフは、枠組の一部に、かぎが掛合する被掛合部(掛け止め部)が設けられる。このような位置に設けられた被掛合部は、車両走行時に気流を受ける。被掛合部は、かぎが掛合できるように、かぎに直交する部分を有するので、その部分が、気流に対して直交し、空力音(空気力学的騒音)の発生原因となる。
【0005】
パンタグラフは、かぎ装置のかぎを解放して、集電舟を上昇させるためのかぎ外し装置を有する(非特許文献1の3.2.2B参照)。スイッチ、電磁弁、空気シリンダ等を用い、スイッチが操作されることによって、圧縮空気の力でかぎ装置のかぎを解放するかぎ外し装置がある(例えば、特許文献2参照)。このようなスイッチは、車両の運転台に設けられる。かぎ装置を運転台から遠隔操作するためには、車両において、制御用の電源や圧縮空気が利用できる状態であること等のパンタグラフ上昇条件が満たされる必要がある。パンタグラフの保守作業においては、このようなパンタグラフ上昇条件にかかわらず、集電舟を上昇させる必要が生じる。このため、かぎ装置のかぎは、手動でも解放される。
【0006】
かぎ装置からの空力音の発生を防ぐため、かぎ装置は、台枠を覆っている風防内に設けられる。このため、風防内にあるかぎ装置のかぎを手動で解放できるように、風防には手が通る大きさの開口部が設けられる。しかしながら、このような風防の開口部は、空力音の発生原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するものであり、空気音が小さいパンタグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパンタグラフは、集電舟を台枠に対して昇降自在に支持するための枠組と、前記台枠を覆う風防とを有するものであって、前記枠組が折り畳まれた状態を保持するためのかぎ装置を前記風防内に備え、前記風防は、開口部と、前記開口部を閉じるための蓋部とを有し、前記蓋部は、前記風防外から押されていないとき、前記開口部を閉じ、前記風防外から押されることによって、風防内側に変位し、前記蓋部が風防内側に変位することによって、前記かぎ装置は、前記枠組が折り畳まれた状態を解除することを特徴とする。
【0011】
このパンタグラフにおいて、前記蓋部は、前記開口部を閉じる方向に付勢する付勢部材を有することが好ましい。
【0012】
このパンタグラフにおいて、前記枠組は、かぎを有し、前記かぎ装置は、前記がきが掛合する被掛合部を有し、前記被掛合部は、前記蓋部の風防内側への変位に連動して、前記かぎとの掛合が解除されることが好ましい。
【0013】
このパンタグラフにおいて、前記枠組が折り畳まれた状態において、前記かぎは、前記風防内に収納されることが好ましい。
【0014】
このパンタグラフにおいて、前記風防は、前記枠組に押されることによって下方に変位する収納カバーを有し、前記枠組におけるかぎが設けられた部分は、前記収納カバーが下方に変位することによって前記風防内に収納されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパンタグラフによれば、蓋部を風防外から押すことによって、枠組が折り畳まれた状態を手動で解除することができる。パンタグラフの集電中に、人が蓋部を押すことはなく、風防の開口部は、蓋部によって閉じられるので、空力音を発生しない。したがって、パンタグラフの空力音が小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るパンタグラフを
図1乃至
図8を参照して説明する。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のパンタグラフ1は、シングルアーム型のパンタグラフである。パンタグラフ1は、集電舟2と、枠組3と、台枠4と、風防5とを有する。枠組3は、集電舟2を台枠4に対して昇降自在に支持する。風防5は、台枠4を覆う。なお、
図1及び
図2は、標準作用高さにおけるパンタグラフ1を示す。
【0018】
図3に示されるように、折り畳み高さにおけるパンタグラフ1において、枠組3は、折り畳まれた状態になる。
【0019】
図4に示されるように、パンタグラフ1は、かぎ装置6を風防5内に備える。かぎ装置6は、枠組3が折り畳まれた状態を保持するための装置である。
【0020】
枠組3は、かぎ31を有する。かぎ装置6は、かぎ31が掛合する被掛合部61を有する。
【0021】
枠組3が折り畳まれた状態において、かぎ31は、風防5内に収納される(
図3参照)。
【0022】
風防5は、枠組3に押されることによって下方に変位する収納カバー52を有する。枠組3におけるかぎ31が設けられた部分は、収納カバー52が下方に変位することによって、風防5内に収納される。
【0023】
風防5は、開口部51と、開口部51を閉じるための蓋部7とを有する(
図4参照)。蓋部7は、風防5外から押されていないとき、開口部51を閉じる。
【0024】
図5に示されるように、蓋部7は、開口部51を閉じる方向に付勢する付勢部材71を有する。
【0025】
図6に示されるように、蓋部7は、風防5外から押されることによって、風防5内側に変位する(二点鎖線参照)。
【0026】
被掛合部61は、蓋部7の風防5内側への変位に連動して、かぎ31との掛合が解除される(
図4の二点鎖線参照)。
【0027】
すなわち、蓋部7が風防5内側に変位することによって、かぎ装置6は、枠組3が折り畳まれた状態を解除する。
【0028】
パンタグラフ1について、さらに詳述する。本実施形態のパンタグラフ1は、従来のパンタグラフと同様のリンク機構を有する(
図2及び
図8参照)。枠組3は、上枠32、下枠33、釣合棒34、舟支え35及び平衡棒36を、リンク機構におけるリンクとして有する。上枠32及び下枠33は、集電舟2を昇降自在に支持する。釣合棒34は、下枠33と並べて設けられる。下枠33及び釣合棒34は、台枠4に起倒自在に支持される。集電舟2は、舟支え35を介して上枠32に支持される。平衡棒36は、中空の上枠32に内蔵される。平衡棒36及び舟支え35によって、集電舟2の昇降にかかわらず集電舟2の姿勢が一定に保たれ、集電舟2の上面が水平に維持される。釣合棒34の長さ設定によって、集電舟2の昇降軌跡が調整される。
【0029】
集電舟2の形状は、限定されるものではないが、空力音が小さい形状が望ましい。本実施形態では、集電舟2に、いわゆる翼型の舟体を用いている(
図1参照)。上枠32の上端部、すなわち枠組3の頂点部は、空力音を低減するため、滑らかな形状の頂点カバー37で覆われる。
【0030】
台枠4は、碍子8によって、鉄道車両の屋根上に支持され、屋根から絶縁される(
図2参照)。台枠4は、風防5に覆われる。
【0031】
風防5は、台枠4以外に、下枠33と、釣合棒34とを覆う。風防5は、中空であり、滑らかな外形を有する。本実施形態では、風防5は、上下に扁平で前後方向に延びる楕円体に似た外形を有し、上部中央付近が滑らかに盛り上がっている。風防5は、複数の曲面部材で構成され、例えば、FRPを成形して作られる。風防5は、碍子8によって鉄道車両の屋根から絶縁されるので、絶縁物である必要は無く、例えば、金属板を成形して作ってもよい。なお、パンタグラフ1において前後方向とは、鉄道車両の長手方向である。
【0032】
碍子8の形状は、限定されるものではないが、本実施形態では、空力音及び空気抵抗を低減するため、前後方向の長径を有する楕円柱形であり、沿面放電を防ぐため、ヒダを有する。
【0033】
パンタグラフ1は、集電時の架線の高さ変化に追従するため、集電舟2が昇降する。パンタグラフが集電装置として機能するときのレールから集電舟の上面までの高さを、パンタグラフの作用高さという。例えば、新幹線鉄道(全国新幹線整備法第二条で定義されている新幹線鉄道)において、パンタグラフの最高作用高さは5300mm、標準作用高さは5000mm、最低作用高さは4800mmである。標準作用高さの5000mmは、架線の標準高さと同じである。パンタグラフ1の集電時において、集電舟2は、最低作用高さから最高作用高さまでの範囲内で昇降する。
【0034】
集電舟2が昇降可能な範囲は、最低作用高さから最高作用高さまでの範囲よりも広い。パンタグラフ1を折り畳むとき、集電舟2は、最低作用高さよりも低くなり、折り畳み高さになる(
図3参照)。かぎ装置6は、枠組3が折り畳まれた状態を保持することによって、パンタグラフ1を折り畳み高さに保持する(
図4参照)。
【0035】
図7に示されるように、枠組3が折り畳まれた状態は、かぎ31が被掛合部61と掛合することによって保持される。かぎ31は、側面視で曲がった部分を先端部に有する金属部材である。かぎ31の基端部は、枠組3の上枠32に溶接等によって固定される。かぎ31は、上枠32に固定されるので、パンタグラフ1が作用高さの時に風防5外に位置し、車両が走行すると、気流を受ける。かぎ31は、平板状であり、その中心面がパンタグラフ1の前後方向と平行になるように向きが設定される。このため、かぎ31は、気流を受けても、気流をほとんど乱さないので、発生する空力音が小さい。
【0036】
被掛合部61は、本実施形態では、金属製の棒状部材をU字形に成形したものである。もし、この形状の被掛合部61が気流を受けると、気流を乱し、空力音を発生することになる。本実施形態では、被掛合部61は、かぎ装置6に設けられ、かぎ装置6は、風防5内に設けられる(
図4参照)。枠組3が折り畳まれた状態において、かぎ31は、風防5内に収納される。したがって、かぎ装置6の構成部分である被掛合部61は、かぎ31との掛合のために風防5から外に突出する必要はなく、風防5内に完全に収納されるので、気流を受けず、形状にかかわらず、空力音を発生しない。
【0037】
かぎ装置6は、被掛合部61以外に、回動軸62、ばね63、駆動アーム64、シリンダ65、及び解放腕66を有する。被掛合部61、駆動アーム64及び解放腕66は、回動軸62の周りに回動自在に支持され、回動にかかわらず、相互角度は一定である。回動軸62の軸方向は、水平かつ、パンタグラフ1の前後方向に直交する。被掛合部61の回動によって、かぎ31が被掛合部61と掛合した状態(
図4の実線参照)と、その掛合が解除された状態(
図4の二点鎖線)とが切り替えられる。ばね63は、一端が駆動アーム64に取り付けられ、他端が固定され、被掛合部61をかぎ31と掛合する方向に付勢する。
【0038】
駆動アーム64は、被掛合部61を動力で回動するためのてことして機能する長尺状部材であり、先端部がシリンダ65によって駆動される。運転台からの遠隔操作でパンタグラフ1を上昇するとき、シリンダ65が動作し、被掛合部61とかぎ31との掛合が解除される。
【0039】
解放腕66は、被掛合部61を手動で回動するためのてことして機能する長尺状部材である。解放腕66の先端部が押し下げられると、被掛合部61とかぎ31との掛合が解除される。解放腕66の先端部は、蓋部7が風防5内側に変位することによって、押し下げられる。解放腕66は、先端部に回転自在に取り付けられたローラ67を有する。ローラ67は、蓋部7に押される時の、解放腕66と蓋部7との間の摩擦を緩和する。
【0040】
蓋部7は、風防5に設けられた開口部51をカバーするとともに、かぎ装置6の解放に用いられるので、「かぎカバー」とも呼ばれる。
図5は、蓋部7が風防5に取り付けられていないときの上から見た状態を示している。蓋部7は、開口部51から露出する露出部72と、その周囲に延出するフランジ73とを有し、風防5の内面に取り付けられる。蓋部7が開口部51を閉じているとき、露出部72の外表面は、開口部51の周縁と面一になる。蓋部7は、フランジ73が開口部51の周縁に係止されることにより、風防5外側には変位しない。
【0041】
蓋部7は、解放腕66と接触可能な大きさに設定され、露出部72は、人の手指で押すことができる大きさに設定される。開口部51の大きさは、露出部72とほぼ同じ大きさであり、人の手が通る大きさにする必要はない。このため、本実施形態のパンタグラフ1における風防5の開口部51は、従来のパンタグラフにおけるかぎを手動で解放するための開口部よりも小さい。
【0042】
蓋部7は、アーム74を介して回動軸75に支持される。回動軸75は、フレーム76に取り付けられる。フレーム76は、風防5の内側に固定される。付勢部材71によって、蓋部7は、開口部51を閉じる方向に付勢される。付勢部材71は、例えば、コイルばねである。蓋部7が風防5外から押されると、アーム74の先端部が下がるように回動し、蓋部7が風防5内側に変位する(
図6参照)。車両の走行中に蓋部7が受ける空気力では蓋部7が変位せず、人が蓋部7を押すことによって蓋部7が変位するように、付勢部材71の力の大きさが設定される。なお、風防5外の気流によって、風防5の内側よりも外側の方が空気圧が平均的には低くなるので、蓋部7は、平均的には上向き、すなわち、開口部51を閉じる方向の空気力を受ける。車両の走行中に蓋部7が空気力の変動によって変位しないように、付勢部材71の力の大きさが設定される。
【0043】
蓋部7が風防5内側に変位すると、その変位に連動して、被掛合部61は、かぎ31との掛合が解除される(
図4参照)。被掛合部61とかぎ31との掛合の解除により、かぎ装置6は、枠組3が折り畳まれた状態を解除する。枠組3が折り畳まれた状態が解除されると、パンタグラフ1の集電舟2が上昇可能となる。例えば、新幹線車両の場合、パンタグラフ1は、ばね上昇式であり、集電舟2は、ばねの弾性力によって上昇する。
【0044】
パンタグラフ1が折り畳まれる時、側面視では、枠組3の一部が、風防5と干渉する位置関係となる(
図3参照)。このような折り畳み時の干渉を回避するため、本実施形態のパンタグラフ1では、風防5は、枠組3の上枠32に押されることによって下方に変位する収納カバー52を有する。収納カバー52は、下向きに開く片開き扉のように構成され、集電舟2が作用高さにあるとき、上方に付勢されて閉じており、周囲の面と同一面を成す。パンタグラフ1を折り畳む時、上枠32の下部が収納カバー52を下に押す。収納カバー52は、上枠32に押されると、集電舟2に近い側(
図3における右側)を中心に回動し、集電舟2から遠い側(
図3における左側)が下方に変位する。枠組3におけるかぎ31が設けられた部分は、風防5内に収納される。したがって、パンタグラフ1が折り畳み状態の時、かぎ31は、風防5内に収納され、風防5内で、被掛合部61と掛合する。
【0045】
以上、本実施形態に係るパンタグラフ1によれば、蓋部7を風防5外から押すことによって、枠組3が折り畳まれた状態を手動で解除することができる。パンタグラフ1の集電中に、人が蓋部7を押すことはなく、風防5の開口部51は、蓋部7によって閉じられるので、空力音を発生しない。したがって、パンタグラフ1の空力音が小さくなる。
【0046】
蓋部7は、風防5の開口部51を閉じる方向に付勢する付勢部材71を有するので、蓋部7が風防5外から押されないとき、開口部51は、蓋部7によって閉じられ、空力音を発生しない。
【0047】
パンタグラフ1は、枠組3に設けられたかぎ31がかぎ装置6の被掛合部61と掛合することによって、枠組3が折り畳まれた状態が保持され、蓋部7を風防5内側へ変位させることにより、枠組3が折り畳まれた状態を解除することができる。
【0048】
枠組3が折り畳まれた状態において、かぎ31は、風防5内に収納されるので、被掛合部61は、かぎ6との掛合のために風防5から外に突出する必要はなく、風防5内に完全に収納されるので、気流を受けず、形状にかかわらず、空力音を発生しない。
【0049】
風防5は、枠組3に押されることによって下方に変位する収納カバー52を有し、枠組3におけるかぎ31が設けられた部分は、収納カバー52が下方に変位することによって風防5内に収納されるので、収納カバー52によって風防5からの空力音の発生が低減される。
【0050】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、被掛合部61を空力音が発生し難い形状とすることにより、被掛合部61を枠組3に設け、かぎ31をかぎ装置6に設けてもよい。また、収納カバー52を設けず、枠組3が折り畳まれた時のみ風防5が開放して風防5内に収納されたかぎが露出し、かぎが被掛合部と掛合可能になるように構成してもよい。