【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェライト磁粉の充填量を増やして磁力向上を図る場合、配合する樹脂等のつなぎ材の量が低減するため材料強度の低下が起こる。磁気エンコーダに求められる環境試験をクリアする組成バランスとしては、既に限界となっており、これ以上に磁粉添加量を増やすことは困難である。
【0007】
また、磁力の高い希土類系磁粉(サマリウムSm−鉄Fe−窒素N系、ネオジウムNd−鉄Fe−ボロンB系)の添加も考えられるが、大幅な原料コストの上昇を招くため、実際にはほとんど採用されないのが実情である。
【0008】
そこで、本発明者等は、磁粉添加量を増やすことなく検出精度を向上させる構成を考えたところ、互いに隣合う磁極S,N間の磁界の打消し合いによる磁力低下があり、この磁力低下を抑えることで、磁粉添加量を増やすことなく、磁力向上を向上させ、検出精度を向上させることができるという考えに至った。しかし、各磁極間に磁気シールド部材を介在させるのでは、製造が困難となる。
【0009】
この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、材料強度を低下させることなく、磁力の向上を図ることができ、製造が簡単で比較的低コストで製造可能であり、高い回転検出精度を長期にわたって維持することができる磁気エンコーダ、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の磁気エンコーダは、環状の芯金に、円周方向に交互に磁極S,Nが形成された多極磁石を設けた磁気エンコーダであって、
前記芯金に磁石材料のインサート成形によって前記多極磁石が一体成形され、
前記多極磁石は、前記互いに隣合う磁極S,Nの境界部に、これら互いに隣合う磁極S,N間の磁界の打消し合いによる磁力低下を抑える磁力低下抑制手段が、前記磁石材料の成形の形態によって形成されたことを特徴とする。
【0011】
この構成によると、多極磁石が、隣合う磁極S,N間の打消し合いによる磁力低下を抑える磁力低下抑制手段を有するため、上記打ち消しあいによる磁力低下が抑えられ、多極磁石の表面磁束密度が向上する。このため、磁石材料の磁粉添加量を増やすことなく、高い回転検出精度が得られ、その高い回転検出精度を長期にわたって維持され、かつ多極磁石の材料強度の低下が抑えられる。
前記磁力低下抑制手段は、磁石材料の成形の形態によって形成されるものであるため、別部材の磁気シールド部材を追加するものと異なり、製造が簡単で比較的低コストで製造可能である。
【0012】
この発明において、前記磁力低下抑制手段は、前記多極磁石のそれぞれの磁極S,Nに相当する箇所のゲートから磁石材料を充填して着磁前の前記多極磁石を成形することによって前記互いに隣合う磁極S,Nの境界部に形成されたウェルドであっても良い。
それぞれの磁極S,Nに相当する箇所のゲートから磁石材料を充填すると、各ゲートから充填された磁石材料が磁極Sとなる箇所と磁極Nとなる箇所の境界部でぶつかり合い、この境界部にウェルドが形成される。このウェルドが介在することで、後で多極磁石に着磁した場合、互いに隣合う磁極S,N間の打消し合いによる磁力低下が抑えられる。
【0013】
また、前記磁力低下抑制手段は、前記磁力低下抑制手段は、前記多極磁石の各磁極S,NにおけるS極部とN極部とで時間差をあけて磁石材料を充填して着磁前の前記多極磁石を成形することによって前記互いに隣合う磁極S,Nの境界部に形成された境界層であっても良い。この場合に、前記S極部の成形に使用される磁石材料と前記N極部の成形に使用される磁石材料の種類が互いに異なっていても良い。
S極部とN極部とで時間差をあけて磁石材料を充填すると、先に磁石材料が充填された磁極部と、後で磁石材料が充填された磁極部の境界部に境界層が形成される。この境界層が介在することで、後で多極磁石に着磁した場合、互いに隣合う磁極S,N間の打消し合いによる磁力低下が抑えられる。
S極部の成形に使用される磁石材料とN極部の成形に使用される磁石材料の種類が互いに異なっていれば、前記境界層がより顕著なものとなり、磁力低下を抑制する効果が大きくなる。
【0014】
さらに、前記磁力低下抑制手段は、前記多極磁石の各磁極S,NにおけるS極部の着磁面とN極部の着磁面とを隔てる溝であっても良い。この溝は、インサート成形により形成することが可能であるが、場合によっては、インサート成形後に切削加工等により形成しても良い。
S−Nの着磁面を同一の連続したフラット面ではなく、S極部の着磁面とN極部の着磁面とを隔てる溝を有すると、磁力線を集中させて表面磁束密度を向上させることができ、互いに隣合う磁極S,N間の打消し合いによる磁力低下が抑えられる。
【0015】
この発明において、前記多極磁石は、磁性体粉と熱可塑性樹脂とが混合されたプラマグであっても良い。
磁性体粉を高充填したプラマグは、線膨張係数を小さくすることができるため、プラマグの線膨張係数と、芯金に使用される金属系材料の線膨張係数との差を少なくすることができる。多極磁石は高温環境下で膨張し低温環境下で収縮するが、前記のように多極磁石と芯金の線膨張係数の差を少なくできるため、多極磁石と芯金との膨張量および収縮量の差を少なくすることができる。したがって、多極磁石が高温膨張時にこの多極磁石に過度の負荷がかかることはなく不具合を防止し得る。また多極磁石の低温収縮時のガタつきも僅かとなる。
【0016】
この発明において、前記多極磁石には磁性体粉が混入され、この磁性体粉は、少なくともストロンチウムフェライトを含有するものであっても良い。フェライト系磁性粉は、コストおよび耐候性の面で優位を示すため、好ましい。特にストロンチウムフェライト、この利点に優れる。
【0017】
前記多極磁石は、磁性体粉と熱可塑性樹脂とが混合され、前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される1以上の化合物を含むものであっても良い。熱可塑性樹脂としては、吸水による多極磁石の磁気特性の低下を極力抑制するため、吸水性の少ないものが望ましい。熱可塑性樹脂は、前記1以上の化合物を含むものとすることで吸水性を少なくし、多極磁石の磁気特性の低下を極力抑制することができる。なお、ポリフェニレンサルファイドは、線膨張係数が前記他の化合物よりも小さく、芯金と同等の線膨張係数を達成しやすいため、より望ましい。
【0018】
この発明において、前記芯金は、内径円筒部と、この内径円筒部の一端から外径側へ延びる立板部と、この立板部の外径側端から軸方向に延びる外径円筒部とを有し、前記芯金における、前記立板部および前記外径円筒部にわたる環状部分に、前記多極磁石を、前記外径円筒部の先端面が埋まるように、インサート成形によって一体成形しても良い。
芯金の外径円筒部の先端面が埋まるように多極磁石が成形されていると、先端面が露出している物と比べて、多極磁石の被検出面の径方向の有効長さを長くすることが可能となり、磁気検出範囲を広くすることができる。
【0019】
この発明の磁気エンコーダの製造方法は、環状の芯金に、円周方向に交互に磁極S,Nが形成された多極磁石を設けた磁気エンコーダの製造方法であって、
前記芯金に磁石材料のインサート成形によって前記多極磁石を一体成形し、
このインサート成形を、個々の磁極S,Nとなる部分毎に前記磁石材料を充填することによって、前記互いに隣合う磁極S,Nの境界部に、これら互いに隣合う磁極S,N間の磁界の打消し合いによる磁力低下を抑える磁力低下抑制手段となるウェルドまたは境界層を形成することを特徴とする。前記ウェルドは、磁石材料を同時充填するときに磁石材料の衝突によって生じる層状の部分であり、前記境界層は、時間差を開けて磁石材料を充填したときにその境界に生じる層である。
【0020】
この製造方法によると、着磁後に互いに隣合う磁極S,Nの境界部に、隣合う磁極S,N間の打消し合いによる磁力低下を抑える磁力低下抑制手段が形成されるため、上記打ち消しあいによる磁力低下が抑えられ、多極磁石の表面磁束密度向上が可能である。このため、製造された磁気エンコーダは、高い回転検出精度が得られ、従来品よりも高い磁気エンコーダリングを達成することができる。多極磁石に磁力低下抑制手段が形成されることで、表面磁束密度の向上のために磁石材料の磁粉添加量を増やさなくてもよくなり、多極磁石の材料強度を高めることができる。前記磁力低下抑制手段は、磁石材料の成形の形態により形成されるものであり、磁石材料以外の材料を必要とせず、かつインサート成形により形成することが可能であるため、製造コストの向上をほとんど招かない。