特許第6215074号(P6215074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6215074スッポン用飼料及び養殖スッポンの生産方法ならびにスッポン身肉のアミノ酸増加方法
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  • 特許6215074-スッポン用飼料及び養殖スッポンの生産方法ならびにスッポン身肉のアミノ酸増加方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6215074
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】スッポン用飼料及び養殖スッポンの生産方法ならびにスッポン身肉のアミノ酸増加方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20171005BHJP
   A23K 10/26 20160101ALI20171005BHJP
【FI】
   A23K50/80
   A23K10/26
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-17507(P2014-17507)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-142541(P2015-142541A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】517274420
【氏名又は名称】株式会社出海水産
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】日野 美貴
(72)【発明者】
【氏名】井口 浩一
【審査官】 瀬川 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188151(JP,A)
【文献】 特開2000−333616(JP,A)
【文献】 特開2013−176337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/80
A23K 10/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャコ由来原料であるシャコ類の頭部を、配合飼料に添加してなることを特徴とするスッポン用飼料。
【請求項2】
前記シャコ類由来原料及び前記配合飼料それぞれの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、前記シャコ類由来原料が、5重量%以上45重量%以下含有される請求項1記載のスッポン用飼料。
【請求項3】
前記配合飼料が、魚粉を主成分とする配合飼料である請求項1または2に記載のスッポン用飼料。
【請求項4】
前記スッポン用飼料が、さらに乳酸菌を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のスッポン用飼料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスッポン用飼料を、摂餌させることを特徴とする養殖スッポンの生産方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のスッポン用飼料をスッポンに摂餌させ、スッポン身肉に含まれるアミノ酸を増加させることを特徴とするスッポン身肉のアミノ酸増加方法。
【請求項7】
増加するアミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン及びセリンから選ばれる1種以上のアミノ酸である請求項6記載のスッポン身肉のアミノ酸増加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖されるスッポンの味が優れたものとなるスッポン用飼料に関するものである。さらには、当該スッポン用飼料を用いた養殖スッポンの生産方法並びに、スッポン身肉のアミノ酸増加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スッポンは、爬虫綱カメ目スッポン科キョクトウスッポン属のカメであり、古くから日本や中国で食されてきた。日本で食用とされるスッポンの多くは養殖されたものであり、野生のスッポン同様に冬眠させて行う露地養殖や、工場の排熱や温泉などを利用した加温養殖等の養殖がおこなわれている。
【0003】
スッポンは、動物食の強い雑食であり、魚類、両生類を中心に様々なものを食べるが、養殖しようとする場合、その餌は安定供給されることや、生育効率が良いこと、コストなどの観点から、一般的には、練り餌として利用される、魚粉を主たる成分としα−デンプンや栄養効率を考慮したビタミン、ミネラル、ビール酵母等が混合された配合飼料が提供されている。また、身肉や脂質の色揚げのために、スピルリナや野菜果物由来のルティン等を添加することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
スッポン用の餌に関連する技術として、例えば特許文献1には、デンプン含有原料とタンパク質含有原料を含む原料混合物に少なくとも水を加え混練して餅状の養魚用飼料を製造する方法が開示されており、ここでは、原料混合物の少なくとも一部をエクストルーダにより加熱加圧処理することが開示されている。しかしながら、これは適度な伸び、弾力性および滑らかさを併せ持つ餅状の性状を示すようにするための製造方法に関するものであり、そこに用いられる配合飼料の原料は、従来公知のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−188151号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】隆島 史夫・村井 衛 (編集)、「水産増養殖システム<2>―淡水魚」pp.309−328、恒星社厚生閣、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スッポンは、露地養殖の場合4〜5年、加温養殖の場合でも約1.5〜2年と出荷できるサイズに成長するまで比較的長期間かかる食品である。このスッポン養殖においては、餌が合わないとスッポンの成長が遅くなり生育期間がさらに長期化することや、餌によって養殖されたスッポンの味が変わることが問題となる。そのため、スッポンの食いつきがよく、また得られたスッポンの味や脂付き、栄養価が良くなる等の、優れた効果を有する餌が求められている。本発明の目的は、このような課題を解決するスッポン用飼料を提供することである。また、本発明は、栄養価、味の観点から、スッポンの身肉において、それらに影響を与える種々のアミノ酸を増加させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1>シャコ由来原料であるシャコ類の頭部を、配合飼料に添加してなるスッポン用飼料。
<2>前記シャコ類由来原料及び前記配合飼料それぞれの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、前記シャコ類由来原料が、5重量%以上45重量%以下含有される前記<1>記載のスッポン用飼料。
<3>前記配合飼料が、魚粉を主成分とする配合飼料である前記<1>または<2>に記載のスッポン用飼料。
<4>前記スッポン用飼料が、さらに乳酸菌を含有する前記<1>〜<3>のいずれかに記載のスッポン用飼料。
<5>前記<1>〜<4>のいずれかに記載のスッポン用飼料を、摂餌させる養殖スッポンの生産方法。
<6>前記<1>〜<4>のいずれかに記載のスッポン用飼料をスッポンに摂餌させ、スッポン身肉に含まれるアミノ酸を増加させることを特徴とするスッポン身肉のアミノ酸増加方法。
<7>増加するアミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン及びセリンから選ばれる1種以上のアミノ酸である前記<6>記載のスッポン身肉のアミノ酸増加方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、養殖スッポンを良好に生育させることができるスッポン用飼料が提供される。該スッポン用飼料を摂餌させて養殖することにより、味や脂付きが優れた養殖スッポンを得ることができる。また、該スッポン用飼料を摂餌させることにより、スッポン身肉のアミノ酸量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のスッポン用飼料を用いて養殖したスッポンのアミノ酸増加量を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0013】
本発明のスッポン用飼料は、シャコ類由来原料であるシャコ類の頭部を、配合飼料に添加してなることを特徴とする。このスッポン用飼料を餌とすることで、飼育されるスッポンの成長が促進され、かつ、優れた味、脂付きのスッポンを得ることができる。
【0014】
本発明は、スッポン用飼料に関する。ここでスッポンとは、前述のように爬虫綱カメ目スッポン科キョクトウスッポン属のカメであり、和名ではキョクトウスッポンやシナスッポン、スッポン(鼈)、ニホンスッポン等とも呼ばれることがある。スッポンは、日本や、中国などを中心に食用されており、厳密な種の区別はされていない点もあるが、スッポン科のゴブクビスッポンやマルスッポン等も併せて単にスッポンと呼ばれることが多い。本発明の飼料は、これら食用され一般にスッポンと呼ばれるスッポン科の亀を総称する意味でのスッポン用の飼料として用いることができる。
【0015】
「シャコ類由来原料」とは、シャコ類に由来する原料であり、シャコ類の甲殻、頭部内容物、身肉等を生のまま、あるいは冷凍、加熱、乾燥させたものである。これらは、通常、細断、粉砕、圧搾またはすりおろして使用される。シャコ類由来原料は、具体的には、シャコ類を甲殻、頭部、身肉等を含んだまま丸ごと粉砕し、ミンチ状にしたもの、シャコ類の甲殻、頭部、身肉に分離した後、必要部分を粉砕し混合したもの、等が挙げられる。特に本発明においては、後述するようにシャコ類の頭部を用いることが好ましい。
【0016】
原料となるシャコ類としては、シャコ科のシャコ(Oratosquilla oratoria)、スジオシャコ(Anchisquilla fasciata)、ヨーロッパシャコ(Squilla mantis)、トゲシャコ科のトゲシャコ(Harpiosquilla harpax)、オキシャコ科のシリブトシャコ(Bathysquilla crassispinosa)、アナジャコ科のアナジャコ(Upogebia major)、オキナワアナジャコ科のオキナワアナジャコ(Thalassina)などが挙げられる。この中でも、シャコ(Oratosquilla oratoria)、アナジャゴ(Upogebia major)が好ましい。
【0017】
本発明のスッポン用飼料は、シャコ類由来原料としてシャコ類の頭部を含むことを特徴とする。ここでいう、「シャコ類の頭部」は、頭部甲殻及び頭部内容物を含む。また、シャコ類の身肉を含んでいてもよい。シャコ類由来原料における頭部や身肉の割合は、スッポンの種類、成長具合を考慮して養殖魚独特の臭みが十分に抑制できる範囲で適宜決定される。本発明のスッポン用飼料としては、シャコ類の頭部を主たる原料として含む、シャコ由来原料とすることが好ましい。シャコ類の頭部は、様々な酵素を含んでいることが知られており、また、硬い甲殻部も含むため、養殖用の飼料として適さない魚類もいるが、スッポンの場合はこれらの酵素、甲殻部が含まれていることで優れた飼料となる。
【0018】
また、シャコ類由来原料は、シャコ類の甲殻を含んでいてもよい。シャコの甲殻は、実施例で後述するように、単位重量当たりの炭水化物量やエネルギーが頭部内容物や身肉と比較して高い。さらに、シャコの甲殻は、通常、残渣となる部分であるため、廃棄物の有効利用という点でも優れている。シャコ類由来原料における甲殻の割合は、スッポンの種類、成長具合を考慮して養殖スッポン独特の臭みが十分に抑制できる範囲で適宜決定される。
【0019】
シャコ類由来原料の好適な具体例を挙げると、シャコ類の尾部のみを取り除いた、頭部(頭部甲殻及び内容物)及び胴体部(甲殻及び身肉)からなる、いわゆる有頭シャコが挙げられる。また、頭部を主とすることが好ましく、スッポン用飼料に用いられるシャコ類由来原料におけるシャコ類の頭部の含有量(シャコ類の頭部/シャコ類由来原料)が60重量%以上であるシャコ類由来原料となるようにシャコ類の頭部が用いられることが好ましい。このシャコ類頭部の含有量は、80重量%以上がより好ましい。
【0020】
本発明のスッポン用飼料の原料となる配合飼料は、スッポン生育のための必要な栄養分を十分まかなえるようにいろいろな原料を適切な割合で混合したものである。具体的には魚粉と他の成分を混合した公知の養殖魚用飼料を使用できる。配合飼料の他の成分としては、例えば、デンプン、ビタミン、ミネラル、リン酸カルシウム、食塩、酵母、薬草エキス等が挙げられる。また、スッポンの生育を効率化させるために使用されているコーンオイルやサラダ油等を加えてもよい。さらに魚粉の代替としての添加が検討されている大豆たんぱくなどを用いてもよい。
【0021】
配合飼料に用いられる魚粉の原料としては、例えば、イワシ、サバ、ニシン、アジ等の魚を加工して得られる粉末が挙げられるが、これ以外の魚類を原料としてもよい。魚粉の原料となる魚介は、単独でも2種類以上を混合してもよく、スッポンの種類や、生育状態、コスト等を考慮して適宜選択される。
【0022】
本発明のスッポン用飼料において、配合飼料は魚粉を主成分とすることが好ましい。ここで、配合飼料において「主成分とする」とは、配合飼料の少なくとも50重量%以上が、魚粉であることを意味する。配合飼料中の魚粉の割合が少なすぎると、飼料の栄養価が不足して、スッポンの生育が悪くなる場合がある。
【0023】
本発明のスッポン用飼料は、シャコ類由来原料(特にシャコ類頭部)及び配合飼料以外の成分を含んでいてもよい。好適な他の成分としては、シジミ、アサリ、ハマグリ等の貝類が挙げられる。上述のシャコ類由来原料を含むため、魚粉ベースの配合飼料を使用しても養殖魚独特の匂いが抑制されるが、さらに貝類を添加することで、より匂いの少ない養殖スッポンを得ることができる。
【0024】
また、乾燥野菜(特に粉末化したものが好ましい)や、乳酸菌、酪酸菌、糖化菌等の活性生菌や、タンパク・脂肪分解酵素等の消化酵素等を添加しても良い。乾燥野菜類は、主に栄養補助的効果を発揮することでスッポンの健康促進効果が得られる。また、活性生菌や消化酵素等により、スッポン自身の生体内および生育環境である養殖槽内での悪玉菌や感染性細菌等の増殖防止効果により、各種病気を抑制することができる。これらを添加することで、より生育効率、収率を高めたスッポン養殖が可能となる。
【0025】
本発明のスッポン用飼料は、シャコ類由来原料に対して、配合飼料(さらには必要に応じて他の成分)を混合することによって製造することができる。また、練餌とするために必要に応じて、水や油等を加えてもよい。
スッポン用飼料に含まれるシャコ類由来原料の割合は、生産される養殖スッポンの匂い、味、食感、脂付きを向上させ、また、成長の抑制、病気の発生を生ずることがない範囲で決定され、スッポンの生育状態を考慮して適宜選択されるが、特にシャコ類由来原料及び配合飼料それぞれの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、前記シャコ類由来原料を、5重量%以上45重量%以下含有することが好ましく、より好ましくは10重量%以上30重量%以下であり、より好ましくは12重量%以上25重量%以下である。シャコ類由来原料が5重量%未満では、シャコ類由来原料によるスッポン生育向上効果が認められないおそれがあり、45重量%を超えると飼料の粘度が低すぎてまとまりづらくなり、給餌の際に水中で飼料が分散して水が汚れる場合がある。
【0026】
以下、本発明の養殖スッポンの生産方法について説明する。
本発明の養殖スッポンの生産方法は、上述の本発明のスッポン用飼料を養殖スッポンに摂餌させることに特徴がある。上述のようにシャコ類由来原料を含む本発明のスッポン用飼料を与えて養殖することにより、養殖魚独特の臭みが減少し、味、食感も改善される。
【0027】
養殖対象のスッポンは孵化直後の稚亀から、食用として出荷される成亀およびスッポンの産卵・受精用の親亀のいずれもが対象となるが、特に、孵化後一定期間が経過して30g程度の大きさ以上が好適である。養殖対象のスッポン稚亀は、人工孵化させたもの、天然のもののいずれでもよいが、通常、産卵・孵化用の親亀を用いた人工孵化によるものが用いられる。
【0028】
本発明のスッポン用飼料は、生育したスッポンのみならず、スッポン稚亀に対する嗜好性もよい。該飼料を養殖スッポンに摂餌させる本発明の養殖スッポンの生産方法によれば、スッポン稚亀が成長途中で病気になったり、死ぬ確率が減少し、歩留まりよくスッポン成亀まで育てることができる。また、本発明のスッポン用飼料を摂餌させることで生育速度が高くなり、より短期間で出荷サイズ等の大きさに養殖することができる。
そして、スッポン成亀に本発明のスッポン用飼料を摂餌させて養殖することにより従来の養殖スッポンより優れた味、脂付きの養殖スッポンを得ることができる。
【0029】
本発明の養殖スッポンの生産方法において、本発明のスッポン用飼料を、生育期間の短縮化、健康増進効果から、スッポン稚亀がスッポン成亀になるまでの全飼育期間に与えることが好ましい。一方で、本発明のスッポン用飼料を死亡率の高いスッポン稚亀の期間や、生産される養殖スッポンの味、脂付きに特に影響する出荷60日前(好ましくは90日前)から出荷までの期間に限定して与えてもよい。
【0030】
また、現段階では詳細な理由は明らかでないが、本発明のスッポン用飼料をスッポンに摂餌させる方法により、スッポン身肉のアミノ酸を増加させることができる。
増加するアミノ酸は、少なくともイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン(トレオニン)、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリンが挙げられる。
【0031】
スッポン身肉におけるアミノ酸の中でも、特にイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン及びセリンが増加することで、栄養価に優れた身肉のスッポンを生産することができる。また、増加量の多いものの中でもイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、アルギニンは適度な苦味との関連があり、アスパラギン酸、グルタミン酸は酸味やうま味との関連があり、セリンは甘味やうま味との関連があり、それぞれにより嗜好性が向上する。すなわち、これらのアミノ酸がバランスよく増加することにより、適度な甘味、うま味、苦みおよび酸味を有する嗜好性の高いスッポン身肉を得ることができる。中でも、甘味やうま味に影響を与えるセリンの増加が著しく、これによると考えられる嗜好性の向上効果が顕著である。
【0032】
本発明の生産方法で生産される養殖スッポンは、スッポン身肉のうま味成分等に係るアミノ酸量を増加し、従来の養殖スッポンよりも優れた味(嗜好性)を有する。また、アミノ酸は単離されたアミノ酸として身肉に存在する量が増える為、従来の養殖スッポンよりも、栄養価が高いスッポンを得ることができる。さらに、アミノ酸が増加していることで、本発明の飼料を摂餌させたスッポンは、各種栄養ドリンクや、粉末、健康食品の原料としても優れている。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(1)スッポン用飼料の製造
「実施例1のスッポン用飼料(シャコ由来原料20重量%添加飼料)」
実施例1のスッポン用飼料は以下のように製造した。
シャコ類由来原料として、冷凍シャコを解凍して使用した。当該冷凍シャコは、シャコの尾部を除き、頭部(甲殻部分及び内容物)を主とするものであり、一部胴体(甲殻部分及び身肉)を含むものである(以下、「有頭シャコ」と記載する場合がある。)。配合飼料として、魚粉(74重量%)、α化デンプン(23重量%)、残部(3重量%)がリン酸カルシウム、食塩、飼料用酵母及び甘草抽出物からなる、配合飼料を使用した。
【0035】
(シャコ由来原料20%添加飼料の標準組成)
まず、前述の冷凍された有頭シャコ80g(乾燥重量約20g)に水90gを加え、ミキサーでミキシングして、シャコミンチを得た。得られたシャコミンチ全量と、配合飼料70g(乾燥重量)及び水30gを所定の容器で均一になるまで十分に混練して、さらに、乾燥野菜0.1g、乳酸菌等を含む水溶性トーアラーゼ(登録商標、東亜薬品工業株式会社製)0.20g及び植物油0.05gを加えて混練することで実施例1のスッポン用飼料を得た。なお、実施例1のスッポン用飼料は、シャコ類由来原料の乾燥重量基準で、以下、「20%添加飼料」と呼ぶ場合がある。また、この標準組成を基礎として同様の重量比率で、適宜、必要量のスッポン用飼料を調製した。
【0036】
(2)評価
(2−1)シャコ類由来原料、配合飼料及び実施例のスッポン用飼料の成分組成
表1に、有頭シャコ(冷凍シャコの頭部及び胴体)及び有頭シャコから頭部内容物及び身肉を取り除いた有頭シャコの甲殻のみの成分組成を示す。なお、表中の数値は、それぞれ試料100gに対する重量(g)及びエネルギー(kcal)である。
【0037】
【表1】
【0038】
表2、表3に配合飼料及び実施例1のスッポン用飼料の成分組成を示す。表2は水分を含んだ値であり、表3は乾燥重量基準での値である。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
(2−2)スッポン用飼料の形状保持性
実施例1のスッポン用飼料は、混練時に適度の粘性があり、スッポン用飼料として十分な成形性を示した。次いで、スッポン用飼料のシャコ類由来原料の配合比率を変えてスッポン用飼料を調製し、それを水中に入れ、飼料の形状安定性を観察した。その結果、シャコ類由来原料を45重量%(シャコ類由来原料及び配合飼料それぞれの乾燥重量の合計)を超える飼料は、水中にいれて、しばらくして分裂し始めた。よって、45重量%(シャコ類由来原料及び配合飼料それぞれの乾燥重量の合計)以下を、スッポン用飼料が優れた形状保持性を示す上限値と判断した。なお、分裂しやすく、形状安定性が低い飼料は、養殖槽の水質汚濁の原因となりやすく、かつ、スッポンが摂餌しにくくなる場合があるため、一定の形状安定性を有することが求められる。
【0042】
「養殖試験1」
実施例1のスッポン用飼料(20%添加飼料)を用いて、スッポンの養殖試験を行い、スッポン身肉に含有されるアミノ酸成分等の評価を行い、従来の配合飼料により養殖されたスッポンと比較した。
養殖試験は、試験区としてスッポン用養殖池2面を用いた。また、養殖試験中の水温は、スッポンが最も生育効率がよいとされる約30℃となるように温度を調節し加温養殖を行った。評価対象のスッポンとして、佐賀産、糸田産の養殖スッポンを養殖した。また、餌を与えた環境のスッポンは30g〜出荷サイズ(約1kg)までのスッポンであり、従来の餌により養殖されている環境のスッポンに与えていた餌を、実施例1の餌に切り替えて養殖を行った。なお、スッポン用養殖池は、稚亀(約20〜30g頃)からおよそ300gまでは40〜50匹/m2となるように養殖し、およそ300g〜800g(出荷サイズ)までは8〜10匹/m2となるように養殖するように使い分けた。また、養殖池はため池式のものであり、適宜、水質を維持するために水の入れ替えを行った。
【0043】
本発明である実施例1のスッポン用飼料を与えたところ、各養殖池の稚亀〜成亀まで、いずれも食いつきが良く、そのまま直ちに餌として利用することができた。また、実施例1のスッポン用飼料を与えて養殖したスッポンは、従来の飼料により養殖したスッポンよりも成長速度が速く、稚亀から約8か月養殖したスッポンに本発明のスッポン用飼料を5か月給餌したところ、およそ4〜5割がその5か月で出荷サイズとなった。すなわち、稚亀から出荷サイズまでの飼育期間がおよそ13月程度のものがみられた。ここで、従来の飼料によりスッポンを養殖した場合の飼育期間は、1.5〜2年(18〜24月)程度であるため、本発明の配合飼料を5か月間給餌することによって、およそ4〜8月程度飼育期間を短縮することができた。
【0044】
なお、飼育期間中の特徴をさらにあげると、従来、定期的に池あたり5kg程度の給餌を行っていた期間であっても、実施例1のスッポン用飼料に切り替えてからは食いつきが良く、給餌料を8kg程度に増加させても十分に摂食していた。さらに、餌切換えから5か月養殖後の成亀のスッポンの脂付きを確認したところ、優れた脂付きであった。また、実施例1のスッポン用飼料による養殖期間中、目立った病気の発生もなく健康に養殖することができた。
【0045】
上記方法で、実施例1のスッポン用飼料を給餌開始してから5か月後、およそ800gまで生育した成亀のスッポン身肉100gに含まれるアミノ酸の分析を行った。また、参考例として従来の配合飼料を用いて養殖された養殖スッポン(佐賀県産)についても、同様のアミノ酸分析を行った。なお、評価したアミノ酸は、スッポンの身肉においてアミノ酸として存在するアミノ酸である。
【0046】
表4および図1に養殖試験1における5ヶ月養殖後のスッポン身肉のアミノ酸評価の結果をまとめて示す。なお、数値はスッポン身肉100gに含まれるアミノ酸量(mg)である。表4に示されるように、実施例1のスッポン用飼料(20%添加飼料)を用いて養殖したスッポンは、従来の養殖スッポンよりも多量のアミノ酸量を有していることがわかる。
コントロール群(配合飼料のみ)で養殖したスッポンのアミノ酸量を100%としたときの実施例1のスッポン用飼料(20%添加飼料)を用いて養殖したスッポンのアミノ酸増加割合(実施例1によるスッポンのアミノ酸量/養殖によるスッポンのアミノ酸量)は、特に増加効果が大きいものを列挙すると、イソロイシン122%、ロイシン118%、リジン118%、メチオニン117%、フェニルアラニン121%、ヒスチジン122%、アスパラギン酸115%、グルタミン酸115%、アルギニン135%及びセリン159%であった。
【0047】
【表4】
【0048】
養殖試験1で養殖したスッポン及び従来の養殖スッポンを刺身として調理し、味、脂付きを評価したところ、実施例1のスッポン用飼料(20%添加飼料)を用いて養殖したスッポンは、従来の養殖スッポンよりも優れた味、脂付きであった。
この結果から、本発明のスッポン用飼料により養殖することで、従来より短期間で、味、脂付き等に優れたスッポンを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のスッポン用飼料を摂餌させることで、養殖されるスッポンの食いつきがよく、また、良好に生育させることができる。また、該スッポン用飼料を摂餌させることにより、スッポン身肉のアミノ酸量を増加させることができ、栄養価、味に優れたスッポンを得ることができる。
図1