【文献】
CALINGAERT, George, et al.,Journal of the American Chemical Society,1942年,Vol. 64,pp.392-397
【文献】
BREUNIG, Hans Joachim, et al.,Zeitschrift fur Naturforschung, B: A Journal of Chemical Sciences ,2009年,Vol. 64, Issue. 10,pp. 1213-1214
【文献】
WIEBER, Von M. , et al.,Zeitschrift fur Anorganische und Allgemeine Chemie ,1976年,Vol. 423, Isuue. 1,pp. 40-46
【文献】
ANDREWS, Philip C. , et al.,Dalton Transactions ,2008年,Issue. 19,pp. 2557-2568
【文献】
DEACON, Glen B. , et al.,Australian Journal of Chemistry,1984年,Vol. 37, No. 3,pp. 527-535
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(8)で表されるフッ素化アルコールが、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2,3−ビス(トリフルオロメチル)−2,3−ブタンジオール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノールまたは2,2,2−トリフルオロエタノールである請求項11に記載のアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造方法。
前記一般式(7)で表されるトリアルキルビスマス化合物が、トリメチルビスマスである請求項11または12に記載のアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<一般式(1)の化合物>
一般式(1)中:R
1およびR
2は、各々独立に、直鎖、分枝若しくは環状の、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
1およびR
2を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R
1およびR
2で表されるアルキル基は、対応するアルキルリチウムの入手が比較的容易であるという観点から好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基からなる群から選ばれるアルキル基である。
【0025】
R
4およびR
5は、各々独立に、フッ素原子、塩素原子およびヒドロキシル基からなる群から選ばれる置換基で置換された、若しくは未置換の直鎖、分枝若しくは環状の炭素数1〜10のアルキル基を表すか、フッ素原子、塩素原子およびヒドロキシル基からなる群から選ばれる置換基で置換された、若しくは未置換のアリール基を表すか、または水素原子を表す。
【0026】
R
4およびR
5を具体的に例示すると、水素原子、トリフルオロメチル基、フェニル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基、1−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル基等が挙げられる。
【0027】
nは1〜10の整数を表し、好ましくは1〜3の整数である。kは1、2または3を表し、好ましくは2である。kが2であるときは、xが1、yが0である。より好ましくはnが1〜3であり、xが1、yが0、kが2である。kが2である化合物は、kが1である化合物に比べ、酸素原子近傍のフッ素原子の数が多くなることから、その電子求引性にて酸素原子上が電子不足になり、反応を促進するという観点で好ましい。
【0028】
一般式(1)で表されるアルキルビスマスアルコキシドの具体例を以下に示す。
【0029】
R
1および/またはR
2=メチル基:
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジメチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチル-エトキシド、
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0030】
R
1および/またはR
2=エチル基:
ジエチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジエチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジエチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジエチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジエチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0031】
R
1および/またはR
2=n−プロピル基
ジn−プロピルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジn−プロピルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジn−プロピルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジn−プロピルビスマス(2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド)、
ジn−プロピルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0032】
R
1および/またはR
2=イソプロピル基
ジイソプロピルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジイソプロピルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジイソプロピルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジイソプロピルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジイソプロピルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0033】
R
1および/またはR
2=n−ブチル基
ジn−ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジn−ブチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジn−ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジn−ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジn−ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0034】
R
1および/またはR
2=sec−ブチル基
ジsec-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジsec-ブチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジsec-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジsec-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジsec-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0035】
R
1および/またはR
2=tert−ブチル基
ジtert-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジtert-ブチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジtert-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジtert-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジtert-ブチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0036】
R
1および/またはR
2=イソブチル基
ジイソブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド、
ジイソブチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド、
ジイソブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド、
ジイソブチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1,1-ビストリフルオロメチルエトキシド、
ジイソブチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド、
【0037】
<一般式(2)の化合物>
一般式(2)中:R
1は、直鎖、分枝若しくは環状の、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
1を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R
1で表されるアルキル基は、対応するアルキルリチウムの入手が比較的容易であるという観点から好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基からなる群から選ばれるアルキル基である。
【0038】
一般式(2)で表されるアルキルビスマスアルコキシドの具体例を以下に示す。
【0039】
1-メチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-エチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-n−プロピル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-イソプロピル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-n-ブチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-イソブチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-sec-ブチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン、
1-tert-ブチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン。
【0040】
<一般式(7)の化合物>
R
1、R
2及びBiは、前記定義に同じである。R
3は炭素数1〜10の直鎖、分枝若しくは環状のアルキル基を表す。R
3を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0041】
一般式(7)で表されるトリアルキルビスマス化合物を具体的に例示すると、トリメチルビスマス、トリエチルビスマス、トリn−プロピルビスマス、トリイソプロピルビスマス、トリシクロプロピルビスマス、トリn−ブチルビスマス、トリイソブチルビスマス、トリsec−ブチルビスマス、トリtert−ブチルビスマス、トリシクロブチルビスマス、トリn−ペンチルビスマス、トリシクロペンチルビスマス、トリネオペンチルビスマス、トリ1−メチルブチルビスマス、トリ2−メチルブチルビスマス、トリイソペンチルビスマス、トリtert−ペンチルビスマス、トリ1−エチルプロピルビスマス、トリヘキシルビスマス、トリシクロヘキシルビスマス等が挙げられる。これらの化合物は、市販品として入手可能な物、あるいは市販の原料を反応させて得られる物がある。好ましくはトリメチルビスマス、トリエチルビスマスである。好ましい理由は市販の有機リチウム試薬ないしは有機マグネシウム試薬と、臭化ビスマスないしは塩化ビスマスから調製でき、蒸留精製可能、すなわち高純度のものが入手しやすいからである。例えば、トリメチルビスマスは、市販のメチルリチウムと臭化ビスマスとから合成することができる。
【0042】
参考例2に示すように、この反応はトリフェニルビスマスからは進行しない。その理由は、フェニル基のような電子求引性の置換基がビスマス原子に結合すると、ビスマス原子上の非共有電子対がフェニル基との間で非局在化するため、ビスマス―炭素結合が強固になり、同結合のビスマス―酸素結合への置き換えが進行しにくいためと考えられる。
【0043】
<一般式(8)の化合物>
R
4、R
5は前記定義に同じである。一般式(8)で表されるフッ素化アルコール化合物を具体的に例示すると、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2-トリフルオロメチル-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-トリフルオロメチル-2-プロパノール、1-エチル-1-トリフルオロメチル-1-プロパノール、1-メチル-1-トリフルオロメチル-1-プロパノール、1,1-ビストリフルオロメチル-1-プロパノール、1-イソプロピル-1-トリフルオロメチル-2-メチル-1-プロパノール、1-メチル-1-トリフルオロメチル-2-メチル-1-プロパノール、1-エチル-1-トリフルオロメチル-2-メチル-1-プロパノール、1,1-ビストリフルオロメチル-2-メチル-1-プロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール、1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1-メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1-エチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1-トリフルオロメチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1,1-ジメチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1-メチル-1-エチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-1-メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ‐1-プロパノール、1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-1-エチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ‐1-プロパノール、1,1-ビス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2,2,3,3,3-ペンタフルオロ‐1-プロパノール、2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1,1-ビス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-1-プロパノール、1-メチル-1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2-メチル-1-プロパノール、1-エチル-1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2-メチル-1-プロパノール、1,1-ビス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2-メチル-1-プロパノール、1,1,1,4,4,4-へキサフルオロ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)-2,3-ブタンジオール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−シクロヘキシル−2−プロパノールなどが挙げられる。
【0044】
一般式(8)で表されるフッ素化アルコール化合物は、好ましくは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1,1,1,4,4,4-へキサフルオロ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)-2,3-ブタンジオール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-トリフルオロメチル-2-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノールなどである。好ましい理由はヒドロキシ基に近い位置にフッ素原子が多くあり、フッ素原子の電子求引性によりヒドロキシ基の水素原子が水素イオンとして解離しやすくなり、トリアルキルビスマスの孤立電子対が解離した水素イオンに作用しやすくなることにより反応が進行しやすくなるためである。一般式(8)で表されるフッ素化アルコール化合物も市販品として入手可能な物が多い。
【0045】
アルキルビスマス化合物に混合するフッ素化アルコール化合物の混合比は、アルキルビスマス化合物1モルに対してフッ素化アルコール化合物が、例えば、0.01〜30モルの範囲であることができる。この範囲は、好ましくは0.5〜5モルである。この好ましい範囲であることで、目的物に対する残存原料の割合が低くなり、目的物を容易に取得することができる。
【0046】
参考例1に示すようにこの反応においてアルコール化合物としてメタノールを用いると、目的生成物は得られなかった。その理由は、メタノール分子中の酸素原子上の水素と、フッ素化アルコール分子中の酸素原子上の水素との解離のしやすさの違いによるものと考えられる。即ち、実施例1〜3に示す反応は、反応の前後でアルコール分子の酸素―水素結合が、酸素−ビスマス結合に置き換わっており、反応の途中でアルコール分子の酸素―水素結合が解離すると考えられる。アルコール分子の酸素原子とそれに結合した水素原子との解離のしやすさを表す数値(大きいほど解離しにくいことを表す)は酸解離定数(pKa)として知られているが、この定数によれば、参考例1のメタノールは15.5、実施例1の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールは9.3であることから、酸素―水素結合の解離しにくいメタノールでは反応が進行しなかったものと推察される。
【0047】
本発明の反応では、溶媒を用いることができる。使用できる溶媒は、非プロトン性溶媒であれば、特に限定されるものではない。例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、ジクロロメタン、ジブロモメタン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類を用いることができる。またこれらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、好ましい溶媒は、入手容易であり、留去が容易であるという観点からヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタンである。
【0048】
本発明の反応で用いる溶媒は脱水(モレキュラーシーブ4Aで1日)および脱酸素(約2kPaで3秒減圧後窒素で常圧に戻す操作を5回繰り返す)したものが好ましい。参考例3に示すように、脱水および脱酸素を行わないとこの反応は進行しない場合がある。その理由は、酸素が存在するとアルキルビスマス化合物は直ちに酸化され、水が存在するとアルキルビスマス化合物は直ちに加水分解を受けるためと考えられる。
【0049】
本発明におけるアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造方法としては、(a)アルキルビスマス化合物を、アルコール化合物に対して作用させる方法と、(b)アルコール化合物を、アルキルビスマス化合物に対して作用させる方法とが挙げられる。この際、アルキルビスマス化合物およびアルコール化合物は溶剤に溶解したものも用いることができる。仕込む順序は特に限定されるものではなく、使用する薬剤をどの順序で仕込んでも良い。
【0050】
本発明におけるアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造の際に、アルキルビスマス化合物とアルコール化合物を混合する際の温度としては、−80〜50℃であればよく、より好ましくは0〜30℃である。
【0051】
本発明におけるアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造の際の反応温度としては、−10〜130℃であればよく、より好ましくは0〜100℃であり、さらに好ましくは20〜50℃である。
【0052】
本発明におけるアルキルビスマスアルコキシド化合物の製造の際の反応時間としては、1〜120時間であればよく、より好ましくは4〜24時間である。
【0053】
本発明の製造方法で得られたアルキルビスマスアルコキシド化合物は、所望により精製することもできる。例えば、再結晶または分取用HPLCなどを用いて高純度化することができる。特にCVD用材料として用いるアルキルビスマスアルコキシド化合物は、蒸留または昇華などによりさらに高純度に精製することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
以下の反応は乾燥窒素ガス雰囲気下に行った。ヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド-d6は脱水(モレキュラーシーブ4Aで1日)、脱酸素(約2kPaで3秒減圧後窒素で常圧に戻す操作を5回繰り返した)したものを用いた。アルコール化合物は市販のものを脱水(モレキュラーシーブ3Aで1日)したものを用いた。トリメチルビスマスはジエチルエーテル‐テトラヒドロフラン混合溶媒中ビスマストリブロマイドとメチルリチウムから合成し、蒸留したものを用いた。このようにして得られた化合物の化学構造は
1H-NMR,
13C-NMR,
19F-NMR(NMRは日本電子製JNM-ECA500)により確認した。用いたNMRサンプルチューブはガラス製外径5mm、内径4mm、
1H-NMRと
13C-NMRの基準はテトラメチルシラン((CH
3)
4Si)をそれぞれ0ppmとし、
19F-NMRの基準はトリクロロフルオロメタン(CFCl
3) を0ppmとした。
【0056】
得られた化合物の質量分析はブルカー社製ダルトニクスmicro TOFにて、ESIイオン化でネガティブモード(一価陰イオンを検出)にて行った。
【0057】
得られた化合物の熱安定性は、セイコーインスツルメント(株)製DSC-6200を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で、30〜500℃の範囲において示差走査熱量測定を行うことによって確認した。測定用容器はステンレス製で外径5.5mm、内径3.5mmであり、空容器をリファレンスとした。なお、トリメチルビスマスのDSCにおける分解発熱開始温度は231℃、発熱ピーク時温度は315℃であった。
【0058】
得られた化合物の気化特性は、セイコーインスツルメント(株)製TG/DTA‐6200を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で、30〜500℃の範囲において熱重量測定を行うことによって確認した。測定用容器はアルミニウム製で外径5mm、内径4.8mmであり、空容器をリファレンスとした。気化開始点は当該サンプルの10%が気化する温度とした。なお、トリフェニルビスマスのTGにおける気化開始温度は230℃(特許文献1)である。
【0059】
実施例1
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシドの合成(式14)
【化16】
【0060】
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス76.0mg(0.30mmol)に対し1,1,1,3,3,3‐ヘキサフルオロ‐2-プロパノール(和光純薬工業製)153mg(0.90mmol)およびヘキサン8mlを加えた。その後室温で18時間、さらに50℃にて1時間撹拌後、溶媒及び未反応の原料を減圧下留去することにより表題化合物(白色固体)78.4mg(収率64%)を得た。
【0061】
以下に、実施例1で得られた化合物の解析結果を示す。
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルエトキシド
1H-NMR(500 MHz,(CD
3)
2SO): 1.16(s, 6H), 4.83(br s, 1H)
13C-NMR(126 MHz, (CD
3)
2SO): 35.6, 72.5-73.8(m), 124.2(q, J
CF = 292Hz)
19F-NMR(471 MHz, (CD
3)
2SO): -74.3(s, 6F)
DSCにおける分解発熱開始温度:258℃、発熱ピーク時温度:315℃
TGにおける気化開始温度:190℃
【0062】
実施例2
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシドの合成(式15)
【化17】
【0063】
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス54.0mg(0.21mmol)に対し1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール (東京化成工業製)156mg(0.64mmol)およびヘキサン8mlを加えた。その後50℃にて5時間撹拌後、室温に冷却し生成した白色個体を濾別しヘキサンで洗浄、その後個体を減圧乾燥することにより表題化合物12.3mg(収率12%)を得た。
【0064】
以下に、実施例2で得られた化合物の解析結果を示す。
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシド
1H-NMR(500 MHz,(CD
3)
2SO): 1.32(s,6H), 7.43-7.53(m,3H), 7.67-7.77(m,2H)
13C-NMR(126 MHz,(CD
3)
2SO): 37.2, 82.6(hept, J
CF = 28 Hz), 122.4(q,J
CF = 292 Hz), 126.7, 127.9, 129.8, 130.8
19F-NMR(471 MHz,(CD
3)
2SO): -70.4(s,6F)
DSCにおける分解発熱開始温度:254℃、発熱ピーク時温度:316℃
TGにおける気化開始温度:200℃
【0065】
実施例3
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシドの合成(式16)
【化18】
【0066】
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス0.20g(0.79mmol)に対し2,2,2-トリフルオロエタノール(和光純薬工業製)0.22g(2.2mmol)およびヘキサン10mlを加えた。その後50℃にて5時間撹拌後、室温に冷却し、溶媒のおよそ半分を減圧下留去することにより固体(白色)を析出させた。生成した白色個体を濾別しヘキサンで洗浄、その後個体を減圧乾燥することにより表題化合物24.2mg(収率9.1%)を得た。
【0067】
以下に、実施例3で得られた化合物の解析結果を示す。
ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロエトキシド
1H-NMR(500 MHz, (CD
3)
2SO): 1.11(s, 6H), 4.10(q,2H, J
HF = 10Hz)
13C-NMR(126 MHz, (CD
3)
2SO): 32.5, 63.5-66.0(m), 127.0(q,J
CF = 282Hz)
19F-NMR(471 MHz, (CD
3)
2SO): -74.9(br s,3F)
DSCにおける分解発熱開始温度:246℃、発熱ピーク時温度:323℃
TGにおける気化開始温度:185℃
【0068】
実施例4
1-メチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソランおよびジメチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシドの合成(式17)
【化19】
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス50.7mg(0.20mmol)に対し1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)-2,3-ブタンジオール(東京化成工業製)66.8mg(0.20mmol)およびヘキサン10mlを加えた。その後室温にて18時間撹拌後、溶媒および未反応の原料を減圧下留去することにより表題化合物の2:1(モル比)混合物(白色固体)60.6mg(それぞれ収率36%、収率18%)を得た。また、HSQC-NMRおよびHMBC-NMRにより、この混合物の
1H-NMR,
13C-NMRのピークがそれぞれどちらの成分に由来するかを決定した。
【0069】
以下に、実施例4で得られた化合物の解析結果を示す。
1-メチル-3,3,4,4-テトラキストリフルオロメチル-1-ビスマ-2,5-ジオキソラン
1H-NMR(500 MHz, (CD
3)
2SO): 2.22(s, 3H)
13C-NMR(126 MHz, (CD
3)
2SO): 10.6, 82.1-82.8(m), 122.8(q,J
CF = 298Hz)
19F-NMR(471 MHz, (CD
3)
2SO): -68.7(s,12F)
TOF/MS m/z(当該化合物からメチルカチオンが脱離した1価の陰イオン(ESIネガティブモード)の精密質量)= 540.957(C
6BiF
12O
2) 理論値540.951
【0070】
ジメチルビスマス1,1,2-トリストリフルオロメチル-3,3,3−トリフルオロ-2-ヒドロキシプロポキシド
1H-NMR(500 MHz,(CD
3)
2SO): 1.09(s,6H), 8.91(br s,1H)
13C-NMR(126 MHz,(CD
3)
2SO): 75.6, 86.8-87.3(m),
87.3-87.8(m),124.8(q, J
CF = 294Hz), 126.1(q,J
CF = 295Hz)
19F-NMR(471 MHz,(CD
3)
2SO): -69.1(s, 6F), -69.1(s, 6F)
TOF/MS m/z(当該化合物からプロトンが脱離した1価の陰イオン(ESIネガティブモード)の精密質量) = 571.004(C
8H
6BiF
12O
2) 理論値571.998
【0071】
参考例1
メタノールを用いた場合
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス254mg(1.0mmol)およびジエチルエーテル68mgの混合物に対しメタノール32mg(1.0mmol)ヘキサン5mlを加えた。その後室温にて18時間撹拌後、反応液の
1H-NMRを測定したが、トリメチルビスマス、メタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン以外のものは観測されなかった。
【0072】
参考例2
トリフェニルビスマスを用いた場合
室温にて窒素雰囲気下、トリフェニルビスマス126mg(0.3mmol)に対し1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール210mg(0.9mmol)、ヘキサン5mlを加えた。その後40℃にて7時間撹拌後、反応液の
1H-NMRおよび
19F-NMRを測定したが、トリフェニルビスマス、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール、ヘキサン以外のものは観測されなかった。また、溶媒をジクロロメタンおよびトルエンに変え、それぞれ大気圧下沸点温度まで加熱還流を行ったが、同様に
1H-NMRおよび
19F-NMRにて、トリフェニルビスマス、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール、溶媒以外のものは観測されなかった。
【0073】
参考例3
脱水および脱酸素を行わない溶媒を用いた場合
室温にて窒素雰囲気下、トリメチルビスマス54.0mg(0.2mmol)に対し1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フェニル-2-プロパノール (東京化成工業製)156mg(0.6mmol)および脱水・脱酸素を行っていないヘキサン8mlを加えた。その後50℃にて5時間撹拌後、反応溶液を濃縮し
19F-NMRを測定したが、ジメチルビスマス2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロメチル-1-フェニルエトキシドのピークは観測されなかった。