(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スキャニング式の荷電粒子線治療装置では、被照射体に対して設定された同一の層において荷電粒子線を複数回照射する場合がある。複数回の照射を行う場合において、荷電粒子線の瞬間的な位置変動(以下、「照射位置誤差」という)が生じると、その近傍での投与線量が変化する。つまり、線量分布が局所的に変動する。従って、同一のスキャニングパターン中において偶然同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じると、線量分布の局所的な変動が照射毎に重複されるので、その変動量が照射毎に倍加されて許容値を超えるおそれがある。その結果、線量分布の均一性が悪化するという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、荷電粒子線の照射位置誤差が生じる場合であっても、線量分布の均一性の悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る荷電粒子線治療装置は、スキャニング法を用いて荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線治療装置であって、スキャニングパターンに従って荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部と、スキャニングパターンに基づいて照射部を制御する制御部と、を備え、制御部は、被照射体に対して設定された同一の層内で照射部による荷電粒子線の照射が少なくとも2回行われる場合、照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部を制御することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る荷電粒子線治療装置では、被照射体に対して設定された同一の層内で照射部による荷電粒子線の照射が少なくとも2回行われる場合、制御部によって照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部が制御される。これにより、各照射において照射位置誤差が生じた場合であっても、各スキャニングパターンがずれているので、各スキャニングパターン中で当該照射位置誤差が生じる位置が偶然同じ位置となる可能性を低減することができる。よって、照射位置誤差によって生じる線量分布の局所的な変動が照射毎に重複する可能性を低減することができる。その結果、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。以上より、荷電粒子線の照射位置誤差が生じる場合であっても、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る荷電粒子線治療装置では、制御部は、照射毎に半ピッチずれたスキャニングパターンに基づいて照射部を制御してもよい。この場合、各スキャニングパターンが半ピッチずれているので、照射時に荷電粒子線の線量率が最も高い部分が、照射毎に均等な間隔で並ぶ。従って、線量分布の均一性の悪化を抑制するのに好適である。
【0009】
また、本発明に係る荷電粒子線治療装置の制御方法は、スキャニング法を用いて照射部により荷電粒子線をスキャニングパターンに従って被照射体へ照射する荷電粒子線治療装置の制御方法であって、制御部により照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部を制御する工程を含み、照射部を制御する工程において、制御部は、被照射体に対して設定された同一の層内で荷電粒子線の照射が少なくとも2回行われる場合、照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて、照射部を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る荷電粒子線治療装置の制御方法では、照射部を制御する工程において、被照射体に対して設定された同一の層内で照射部による荷電粒子線の照射が少なくとも2回行われる場合、制御部によって照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて、照射部が制御される。これにより、各照射において照射位置誤差が生じた場合であっても、各スキャニングパターンがずれているので、各スキャニングパターン中で当該照射位置誤差が生じる位置が偶然同じ位置となる可能性を低減することができる。よって、照射位置誤差によって生じる線量分布の局所的な変動が照射毎に重複する可能性を低減することができる。その結果、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。以上より、荷電粒子線の照射位置誤差が生じる場合であっても、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電粒子線の照射位置誤差が生じる場合であっても、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置1は、荷電粒子線を照射する照射部2を備える。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りに回転可能とされている。なお、
図1に示される照射部2は、患者の体内の腫瘍の治療を行うためのものである。
【0015】
図2は、
図1の荷電粒子線治療装置1の照射部2及び制御部7の概略構成図である。
図2に示されるように、照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。
【0016】
なお、以下の説明においては、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」という語を用いて説明する。「Z方向」とは、荷電粒子線Bの基軸AXが延びる方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石6で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。
図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X方向」とは、Z方向と直交する平面内における一の方向である。「Y方向」とは、Z方向と直交する平面内においてX方向と直交する方向である。
【0017】
まず、
図2を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の概略構成について説明する。荷電粒子線治療装置1は、スキャニング法に係る照射装置である。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。
図2に示されるように、荷電粒子線治療装置1は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射された荷電粒子線Bを照射する装置であり、走査電磁石6、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、フラットネスモニタ13a,13b、ディグレーダ30及び制御部7を備えている。走査電磁石6、各モニタ11,12,13a,13b、四極電磁石8、及びディグレーダ30は、照射ノズル9に収容されている。制御部7は、照射ノズル9の外部に設けられている。
【0018】
加速器3は、荷電粒子を加速させて、荷電粒子線Bを連続的に発生させる発生源である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送系41によって照射ノズル9へ輸送される。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。
【0019】
走査電磁石6は、X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bを含む。X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御部7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Bを走査する。X方向走査電磁石6aは、X方向に荷電粒子線Bを走査し、Y方向走査電磁石6bは、Y方向に荷電粒子線Bを走査する。これらの走査電磁石6は、基軸AX上であって、加速器3よりも荷電粒子線Bの下流側にこの順で配置されている。
【0020】
四極電磁石8は、X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bを含む。X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X方向四極電磁石8aは、X方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y方向四極電磁石8bは、Y方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石6との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、後述のビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0021】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8と走査電磁石6との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの強度を検出する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって走査電磁石6に対して下流側に配置されている。フラットネスモニタ13a,13bは、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出監視する。フラットネスモニタ13a,13bは、基軸AX上であって、ドーズモニタ12よりも荷電粒子線Bの下流側に配置されている。各モニタ11,12,13a,13bは、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0022】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bの飛程を調整する。なお、飛程の調整は、加速器3の直後に設けられたディグレーダ(不図示)によって荒調整が行われ、照射ノズル9内のディグレーダ30で微調整が行われる。ディグレーダ30は、基軸AX上であって、走査電磁石6よりも荷電粒子線Bの下流側に設けられ、患者15の体内における荷電粒子線Bの最大到達深さを調整する。本実施形態では、ディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。
【0023】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、各モニタ11,12,13a,13bから出力された検出結果に基づいて、加速器3、走査電磁石6及び四極電磁石8を制御する。また、制御部7は、スキャニングパターンに基づいて照射部2を制御する。この具体的な制御方法は、後述する。
【0024】
図2に示す荷電粒子線治療装置1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、所定の飛程に調整可能なディグレーダ30をセットすると共に、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0025】
続いて、加速器3から荷電粒子線Bを出射する。出射された荷電粒子線Bは、走査電磁石6の制御によって走査されると共に、ディグレーダ30で荷電粒子線Bの飛程距離が調整される。これにより、荷電粒子線Bは、腫瘍14に対してZ方向に設定された一の層における照射範囲内を走査されつつ照射されることとなる。一の層に対する照射が完了したら、次の層へ荷電粒子線Bを照射する。
【0026】
次に、制御部7が、スキャニングパターンに基づいて照射部2を制御する方法を具体的に説明する。制御部7は、腫瘍14(被照射体)に対して設定された同一の層内で照射部2による荷電粒子線Bの照射が少なくとも2回行われる場合、照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部2を制御する。「照射毎にずれたスキャニングパターン」とは、1回の照射に対するスキャニングパターンが、照射の回数毎にずれたスキャニングパターンであることをいう。「1回の照射」とは、1つのスキャニングパターンに従った照射部2による荷電粒子線Bの照射であり、荷電粒子線Bが1つのスキャニングパターンの軌跡を照射開始位置から照射停止位置まで辿ることをいう。また、「ずれたスキャニングパターン」とは、例えば、スキャニングパターンのスキャンライン位置がX方向(スキャンラインのピッチ方向)及びY方向の少なくとも一方の方向で互いに重なり合わない部分を有するスキャニングパターンをいう。即ち、「ずれたスキャニングパターン」とは、それぞれのスキャニングパターンの軌跡が完全には重なり合わないスキャニングパターンである。「ずれたスキャニングパターン」は、例えばスキャンラインの位置が半ピッチずれたスキャニングパターンでもよい。
【0027】
制御部7には、荷電粒子線治療計画装置100が接続されている。荷電粒子線治療装置1が治療を行う際、事前に荷電粒子線治療計画装置100で治療計画を作成し、当該治療計画を制御部7へ送信する。制御部7は、受信した治療計画に基づいて荷電粒子線Bの照射を行う。
【0028】
荷電粒子線治療計画装置100は、腫瘍(被照射体)14の各層におけるスキャニングパターンを治療計画として作成する。荷電粒子線治療計画装置100は、腫瘍14に対して設定された同一の層内における荷電粒子線Bの照射の回数に対応するスキャニングパターンを作成する。
【0029】
以下、一例として、腫瘍14に対して設定された同一の第N層内で照射部2による荷電粒子線Bの照射が2回行われる場合について、具体的に説明する。荷電粒子線治療計画装置100は、例えば、第N層内における1回目の荷電粒子線Bの照射に対応する第1スキャニングパターンと、1回目の荷電粒子線Bの照射と同一の層である第N層内における2回目の荷電粒子線Bの照射に対応する第2スキャニングパターンとを作成する。第1スキャニングパターンと第2スキャニングパターンとは、互いにずれたスキャニングパターンである。
【0030】
制御部7は、第N層内における1回目の照射を行う場合には、荷電粒子線治療計画装置100によって作成された第1スキャニングパターンを走査電磁石6に実行させる。制御部7は、第N層内における2回目の照射を行う場合には、荷電粒子線治療計画装置100によって作成された第2スキャニングパターンを走査電磁石6に実行させる。つまり、制御部7は、同一の第N層内において照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部2を制御する。
【0031】
次に、
図3を参照して、第1スキャニングパターン及び第2スキャニングパターンの一例を説明する。
図3は、第N層における第1スキャニングパターン及び第2スキャニングパターンの一例を示す図である。
図3の(a)は、第1スキャニングパターンを示し、
図3の(b)は、第2スキャニングパターンを示す。
【0032】
図3に示されるように、第N層における照射範囲Sにおいて、1回目の照射のときの第1スキャニングパターンSP1と2回目の照射のときの第2スキャニングパターンSP2とは、Y軸方向へ延伸するスキャンラインのX軸方向の位置がピッチ方向で平行にずれている。第1スキャニングパターンSP1の軌跡と、第2スキャニングパターンSP2の軌跡とは、一致していない。第1スキャニングパターンSP1における、Y軸方向へ延伸するスキャンラインのX軸方向の位置と、第2スキャニングパターンSP2における、Y軸方向へ延伸するスキャンラインのX軸方向の位置とのずれは、略半ピッチである。つまり、1回目の照射時における荷電粒子線Bの線量率が最も高い部分と、2回目の照射時における荷電粒子線Bの線量率が最も高い部分とが、照射毎に略均等な間隔で並ぶ。なお、第1スキャニングパターンSP1と第2スキャニングパターンSP2とのずれは、略半ピッチでなくてもよい。
【0033】
続いて、
図4を参照して、荷電粒子線治療装置1で照射位置誤差が生じる場合における、荷電粒子線Bの線量分布の変動の一例について説明する。
図4は、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1において、照射位置誤差が生じる場合における荷電粒子線Bの線量分布を照射位置毎に重ね合わせた結果を示すグラフである。
図4の横軸は照射位置を示し、
図4の縦軸は線量分布を示す。
図4の(a)は、1回目の照射によって得られる線量分布10aと、2回目の照射によって得られる線量分布10bとをそれぞれ示す。
図4の(b)は、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布10cを示す。ただし、
図4は、第1スキャニングパターンSP1と第2スキャニングパターンSP2とがずれていることにより、1回目の照射における照射位置誤差と2回目の照射における照射位置誤差とが同じ位置となっていない状態を示している。
【0034】
図4の(a)に示されるように、線量分布10a及び線量分布10bは、照射位置誤差に起因してそれぞれ局所的に変動する。上記のとおり、1回目の照射における照射位置誤差と2回目の照射における照射位置誤差とが同じ位置でないので、線量分布10aの局所的な変動と線量分布10bの局所的な変動とは、重複されない。従って、
図4の(b)に示されるように、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布10cにおける変動量は、各照射における線量分布10a,10bの各変動量の単純な倍加とはならない。つまり、同一のスキャニングパターン中において偶然同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じる場合(
図9の(b)参照)よりも、線量分布10cの変動量が抑制されている。なお、同一のスキャニングパターン中において偶然同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じる場合と比較した、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の作用及び効果の詳細は、後述する。
【0035】
次に、第N層内で荷電粒子線Bの照射が2回行われる場合の、荷電粒子線治療装置1の制御方法の一例について説明する。荷電粒子線治療装置1の制御方法は、腫瘍14に対して設定された同一の第N層内で荷電粒子線Bの照射が少なくとも2回行われる場合、制御部7によって照射毎にずれたスキャニングパターンに基づいて照射部2を制御する工程を含む。以下、
図5を参照して、同一の第N層内で荷電粒子線Bの照射が2回行われる場合の例を具体的に説明する。
図5は、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の制御方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下の制御方法は、一例に過ぎず、本発明の課題を達成できる限り、どのような制御方法を採用してもよい。例えば、以下の制御方法では、全ての層において2回の照射が行われる場合を想定しているが、これに限られない。照射が行われる層には、1回の照射のみ行われる層、2回の照射が行われる層、及び、2回よりも多くの照射が行われる層等が含まれていてもよい。
【0036】
図5に示されるように、スキャンを開始すると、制御部7は、第N層内における1回目の照射時に、第1スキャニングパターンSP1を走査電磁石6に実行させる(ステップS1)。続いて、制御部7は、第N層内における2回目の照射時に、第2スキャニングパターンSP2を走査電磁石6に実行させる(ステップS2)。第N層内における2回目の照射が完了したら、全ての層のスキャンが終了したかどうかを判定する(ステップS3)。全ての層のスキャンが終了したと判定されない場合(ステップS3;No)には、次の層へと移行して、ステップS1及びステップS2を再度繰り返す。全ての層のスキャンが終了したと判定される(ステップS3;Yes)と、スキャンを終了する。
【0037】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1及び荷電粒子線治療装置1の制御方法の作用効果について説明する。
【0038】
一般に、荷電粒子線Bの線量位置誤差が生じると、その近傍での投与線量が変化する。つまり、荷電粒子線Bの線量分布の局所的な変動が生じる。従って、同一の層内において照射を複数回行う場合には、照射毎の照射位置誤差が同一のスキャニングパターン中において偶然同じ位置で生じると、線量分布の局所的な変動が照射毎に重複されるので、その変動量が照射毎に倍加されて許容値を超えるおそれがあった。その結果、線量分布の均一性が悪化するという問題があった。以下、この問題について、詳細に説明する。
【0039】
まず、荷電粒子線Bの線量位置誤差が生じない場合の正常な線量分布と、荷電粒子線Bの線量位置誤差が生じる場合の線量分布とを比較して説明する。
図6は、照射位置誤差が生じない場合における、照射位置毎の線量分布を示すグラフである。
図6の横軸は照射位置を示し、
図6の縦軸は荷電粒子線Bの線量分布を示す。
【0040】
図7は、
図6における各線量分布を照射位置毎に重ね合わせた結果を示すグラフである。
図7の横軸は照射位置を示し、
図7の縦軸は重ね合わせた線量分布を示す。
図7の(a)は、1回目の照射によって得られる線量分布40aを示し、
図7の(b)は、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布40cを示す。
図7の(a)に示されるように、照射位置誤差が生じない場合には、線量分布40aは局所的に変動することなく一定である。また、
図7の(b)に示されるように、照射位置誤差が生じない場合には、1回目及び2回目の照射が積算されても、線量分布40cは局所的に変動することなく一定である。すなわち、照射位置誤差が生じない場合には、線量分布40は均一性が保たれている。
【0041】
図8は、照射位置誤差が生じる場合における、照射位置毎の各線量分布を示すグラフである。
図8の横軸は照射位置を示し、
図8の縦軸は荷電粒子線Bの線量分布を示す。
【0042】
図9は、同一のスキャニングパターン中において同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じる場合における、
図8における各線量分布を照射位置毎に重ね合わせた結果を示すグラフである。
図9の横軸は照射位置を示し、
図9の縦軸は重ね合わせた線量分布を示す。
図9の(a)は、1回目の照射によって得られる線量分布50aを示し、
図9の(b)は、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布50cを示す。
図9の(a)に示されるように、照射位置誤差が生じる場合には、線量分布50aは局所的に変動する。また、
図9の(b)に示されるように、1回目の照射位置誤差と2回目の照射位置誤差とが同一のスキャニングパターン中の同じ位置で生じる場合には、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布50cは、局所的な変動が重複されるので、その変動量が倍加されて許容値を超えるおそれがある。つまり、同一の層内において照射を複数回行う場合には、同一のスキャニングパターン中の同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じると、線量分布50cの均一性の悪化を抑制できなかった。
【0043】
これに対し、本実施形態においては、第1スキャニングパターンと第2スキャニングパターンとがずれているので、1回目の照射における照射位置誤差と2回目の照射における照射位置誤差とが、同じ位置となる可能性を低減することができる。1回目の照射における照射位置誤差と2回目の照射における照射位置誤差とが同じ位置でない場合には、線量分布10aの局所的な変動と、線量分布10bの局所的な変動とが重複されない(
図4参照)。従って、1回目及び2回目の照射を積算して得られる線量分布10cにおける変動量は、各照射における線量分布10a,10bの各変動量の単純な倍加とはならない。これにより、同一のスキャニングパターン中において同じ位置で照射毎の照射位置誤差が生じる場合よりも、線量分布10cの変動量が抑制されている。
【0044】
以上、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1及び荷電粒子線治療装置1の制御方法によれば、腫瘍14(被照射体)に対して設定された同一の層内で照射部2による荷電粒子線Bの照射が少なくとも2回行われる場合、制御部7によって照射毎にずれた第1スキャニングパターンSP1及び第2スキャニングパターンに基づいて照射部が制御される。これにより、各照射において照射位置誤差が生じた場合であっても、第1スキャニングパターンSP1と第2スキャニングパターンSP2とがずれているので、第1スキャニングパターンSP1で照射位置誤差が生じる位置と、第2スキャニングパターンSP2中で照射位置誤差が生じる位置とが偶然同じ位置となる可能性を低減することができる。よって、照射位置誤差によって生じる線量分布の局所的な変動が照射毎に重複する可能性を低減することができる。その結果、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。以上より、荷電粒子線Bの照射位置誤差が生じる場合であっても、線量分布の均一性の悪化を抑制することができる。
【0045】
以上、本実施形態の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0046】
例えば、上記実施形態では、腫瘍14に対して設定された同一の層内で照射部2による荷電粒子線の照射が2回行われる場合を一例として説明したが、照射の回数は2回に限られず、2回以上であってもよい。
【0047】
制御部7は、照射毎に半ピッチずれたスキャニングパターンに基づいて照射部2を制御してもよい。この場合、各スキャニングパターンが半ピッチずれているので、照射時に荷電粒子線Bの線量率が最も高い部分が、照射毎に均等な間隔で並ぶ。従って、線量分布の均一性の悪化を抑制するのに好適である。なお、照射の回数が2回よりも多い場合には、照射毎に等ピッチ(例えば、照射の回数が3回の場合には、照射毎に1/3ピッチ)ずれたスキャニングパターンに基づいて照射部2を制御してもよい。
【0048】
図3に示す例は、荷電粒子線Bを連続的に走査するラインスキャニングであるが、断続的(スポット状)に荷電粒子線Bを照射するスポットスキャニングを行うようなスキャニングパターンを作成してもよい。