(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の動力伝達装置では、摩擦係合機構の温度が所定温度以上である場合、摩擦係合機構の係合を禁止していたため、摩擦係合機構の熱害から保護できるものの、現状の変速段が維持されることにより運転者の運転操作に対する車両の応答性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、摩擦係合機構を熱害から保護すると共に、運転者の運転操作に対する応答性の向上を図ることができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
筐体内に回転自在に軸支されると共に車両に搭載される駆動源からの駆動力が伝達されることにより回転する入力軸と、
出力部材と、
サンギヤ、キャリア及びリングギヤの3つの要素を有する複数の遊星歯車機構と、
前記
複数の遊星歯車機構の複数の
要素の何れか2つを連結する連結状態若しくは
前記複数の
要素の何れか1つを前記筐体に固定する固定状態、又は前記連結若しくは前記固定を解除する解放状態に切換自在な
複数の摩擦係合機構と、
前記車両の走行状態を検出する走行状態検出部と、
前記
複数の摩擦係合機構の温度を検出する摩擦温度検出部と、
前記
複数の摩擦係合機構を制御する制御部とを備える動力伝達装置であって、
前記制御部は、複数の前記摩擦係合機構を
前記連結状態又は
前記固定状態とすることにより
前記複数の変速段を確立するものであり、且つ、前記走行状態検出部で検出された
前記走行状態に基いて
前記複数の変速段の何れか1つを選択して前記出力部材から駆動力を出力し、
前記制御部が前記走行状態検出部で検出された
前記走行状態に基いて現在の変速段とは異なる他の変速段である第1目標変速段に変更する必要があると判断した場合、
前記制御部は、
前記現在の変速段から第1目標変速段に変更するときに、
前記連結状態もしくは
前記固定状態から
前記解放状態へ又は
前記解放状態から
前記連結状態もしくは
前記固定状態へ切り換えられる摩擦係合機構の前記摩擦温度検出部で検出される温度が第1所定温度以上であるときには、
前記第1目標変速段への変速段の変更を禁止すると共に、
前記走行状態に基いて
前記現在の変速段及び
前記第1目標変速段を除く他の変速段である第2目標変速段への変更が適切であるか否かを判定する第2目標判定処理を実行し、
前記第2目標判定処理で、
前記第2目標変速段への変更が適切でないと判定した場合には、
前記現在の変速段を維持するホールド処理を実行し、
前記第2目標判定処理で、
前記第2目標変速段への変更が適切であると判定した場合には、
前記現在の変速段から
前記第2目標変速段に変更するときに、
前記連結状態もしくは
前記固定状態から
前記解放状態へ又は
前記解放状態から
前記連結状態もしくは
前記固定状態へ切り換えられる
前記摩擦係合機構の前記摩擦温度検出部で検出される温度が前記第1所定温度よりも低く設定された第2所定温度以上であるときには、
前記第2目標変速段への変更を禁止して、
前記現在の変速段での走行を維持させる前記ホールド処理を実行し、
検出される温度が第2所定温度未満であるときには、
前記第2目標変速段への変更を許可する第2目標変速処理を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、第1目標変速段への変更が禁止される状態であっても、第2目標変速段への変更が許可されれば、変速段を第2目標変速段へ変更することができる。従って、摩擦係合機構を熱害から保護すると共に、運転者の運転操作に対する応答性の向上を図ることができる。なお、第1所定温度は、摩擦係合機構の温度がこれ以上上昇すると熱害からの保護の観点から好ましくないと想定される温度である。第2所定温度は、摩擦係合機構の温度がこれ以上上昇すると、摩擦係合機構の状態を解放状態または連結状態もしくは固定状態の何れかに変更したときに第1所定温度以上になる虞がある温度である。
【0010】
[2]また、本発明においては、
前記第2目標判定処理で、
第2目標変速段への変更が適切であると判定した場合において、
現在の変速段から第2目標変速段に変更するときに、連結状態もしくは固定状態から解放状態へ切り換えられる摩擦係合機構の前記摩擦温度検出部で検出される温度が前記第1所定温度よりも低く設定された第2所定温度以上であるときには、
現在の変速段から第2目標変速段への変速がダウンシフトであるか否かを判定するダウンシフト処理を実行し、
前記ダウンシフト処理でダウンシフトでないと判定された場合には、前記ホールド処理を実行し、
前記ダウンシフト処理でダウンシフトであると判定された場合には、現在の変速段から第2目標変速段に変更するときに、連結状態もしくは固定状態から解放状態へ切り換えられる摩擦係合機構の前記摩擦温度検出部で検出される温度が前記第1所定温度よりも低く設定され且つ第2所定温度よりも高く設定された第3所定温度以上であるか否かを判定し、
第3所定温度以上であるときには、第2目標変速段への変更を禁止して、現在の変速段での走行を維持させる前記ホールド処理を実行し、
第3所定温度未満である時には、第2目標変速段への変更を許可するようにしてもよい。
【0011】
ダウンシフトの場合には、アップシフトの場合と比較して、摩擦係合機構が連結状態もしくは固定状態から解放状態へ切り換えられても摩擦係合機構の温度上昇が比較的低い。従って、ダウンシフトの場合であり、且つ摩擦係合機構が解放状態に切り換えられる場合にあっては変速を禁止する温度を第2所定温度よりも緩和した第3所定温度とすることで、摩擦係合機構を熱害から保護すると共に、運転者の運転操作に対する応答性の更なる向上を図ることができる。
【0012】
[3]また、本発明においては、
前記複数の遊星歯車機構は、第1から第4の4つの遊星歯車機構で構成され、
前記第1遊星歯車機構の3つの要素を、相対回転速度比を直線で表すことができる共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、
前記第2遊星歯車機構の3つの要素を、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、
前記第3遊星歯車機構の3つの要素を、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とし、
前記第4遊星歯車機構の3つの要素を、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に一方から夫々第10要素、第11要素及び第12要素として、
前記第1要素が前記入力軸に連結され、前記第10要素が前記出力部材に連結され、前記第2要素と前記第5要素と前記第9要素とを連結して第1連結体が構成され、前記第3要素と前記第12要素とを連結して第2連結体が構成され、前記第8要素と前記第11要素とを連結して第3連結体が構成され、
係合機構として、第1から第3の3つのクラッチと、第1から第4の4つのブレーキとを備え、
前記第1クラッチは、前記第1要素と前記第3連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成され、
前記第2クラッチは、前記第1要素と前記第4要素とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成され、
前記第3クラッチは、前記第6要素と前記第2連結体とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成され、
前記第1ブレーキは、前記第3連結体を前記筐体に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成され、
前記第2ブレーキは、前記第7要素を前記筐体に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成され、
前記第3ブレーキは、前記第6要素を前記筐体に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成され、
前記第4ブレーキは、前記第4要素を前記筐体に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成され、
前記第1から第3の3つのクラッチと前記第1から第4の4つのブレーキの合計7つの係合機構のうち、少なくとも3つの係合機構を連結状態又は固定状態とすることにより、前進9段以上の各変速段を確立する動力伝達装置に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び
図2は、本発明の動力伝達装置の実施形態を示している。動力伝達装置は、筐体1内に回転自在に軸支した、内燃機関(エンジン)等の駆動源ENGが出力する駆動力がロックアップクラッチLC及びダンパDAを有するトルクコンバータTCを介して伝達される入力部としての入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力ギヤからなる出力部3とを備えている。
【0015】
出力部3の回転は、図外のデファレンシャルギヤ、またはプロペラシャフトを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。尚、トルクコンバータTCに代えて、摩擦係合自在に構成される単板型、または多板型の発進クラッチを設けてもよい。
【0016】
筐体1内には、第1〜第4の4つの遊星歯車機構PGS1〜4が入力軸2と同心に配置されている。第1遊星歯車機構PGS1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSaとリングギヤRaとに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構(キャリアを固定してサンギヤを回転させると、リングギヤがサンギヤと異なる方向に回転するため、マイナス遊星歯車機構、またはネガティブ遊星歯車機構ともいう。尚、リングギヤを固定してサンギヤを回転させると、キャリアがサンギヤと同一方向に回転する。)で構成されている。
【0017】
図3に第1から第4の4つの遊星歯車機構PGS1〜PGS4の共線図を示す。本明細書において、共線図は、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの要素の相対回転速度の比を直線(速度線)で表すことができる図と定義する。共線図において、3つの要素は、ギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)に対応する間隔で並ぶ。
【0018】
図3の上から2段目に示す第1遊星歯車機構PGS1の共線図を参照して、第1遊星歯車機構PGS1の3つの要素Sa,Ca,Raを、共線図の並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はサンギヤSa、第2要素はキャリアCa、第3要素はリングギヤRaになる。
【0019】
ここで、サンギヤSaとキャリアCa間の間隔とキャリアCaとリングギヤRa間の間隔との比は、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比をhとして、h:1に設定される。尚、共線図において、下の横線と上の横線(4th及び6thと重なる線)は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸2と同じ回転速度)であることを示している。
【0020】
第2遊星歯車機構PGS2も、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSb及びリングギヤRbに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0021】
図3の上から1段目(最上段)に示す第2遊星歯車機構PGS2の共線図を参照して、第2遊星歯車機構PGS2の3つの要素Sb,Cb,Rbを、共線図の並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はリングギヤRb、第5要素はキャリアCb、第6要素はサンギヤSbになる。サンギヤSbとキャリアCb間の間隔とキャリアCbとリングギヤRb間の間隔との比は、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比をiとして、i:1に設定される。
【0022】
第3遊星歯車機構PGS3も、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤSc及びリングギヤRcに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0023】
図3の上から3段目に示す第3遊星歯車機構PGS3の共線図を参照して、第3遊星歯車機構PGS3の3つの要素Sc,Cc,Rcを、共線図の並び順に左側から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とすると、第7要素はサンギヤSc、第8要素はキャリアCc、第9要素はリングギヤRcになる。サンギヤScとキャリアCc間の間隔とキャリアCcとリングギヤRc間の間隔との比は、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比をjとして、j:1に設定される。
【0024】
第4遊星歯車機構PGS4も、サンギヤSdと、リングギヤRdと、サンギヤSd及びリングギヤRdに噛合するピニオンPdを自転及び公転自在に軸支するキャリアCdとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0025】
図3の上から4段目(最下段)に示す第4遊星歯車機構PGS4の共線図を参照して、第4遊星歯車機構PGS4の3つの要素Sd,Cd,Rdを、共線図の並び順に左側から夫々第10要素、第11要素及び第12要素とすると、第10要素はリングギヤRd、第11要素はキャリアCd、第12要素はサンギヤSdになる。サンギヤSdとキャリアCd間の間隔とキャリアCdとリングギヤRd間の間隔との比は、第4遊星歯車機構PGS4のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
【0026】
第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)は、入力軸2に連結されている。また、第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)は、出力ギヤからなる出力部3に連結されている。
【0027】
また、第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCa(第2要素)と第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)と第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRc(第9要素)とが連結されて、第1連結体Ca−Cb−Rcが構成されている。また、第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRa(第3要素)と第4遊星歯車機構PGS4のサンギヤSd(第12要素)とが連結されて、第2連結体Ra−Sdが構成されている。また、第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第8要素)と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第11要素)とが連結されて、第3連結体Cc−Cdが構成されている。
【0028】
また、本実施形態の動力伝達装置は、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3、及び第1から第4の4つのブレーキB1〜B4とからなる7つの係合機構とを備える。第1クラッチC1は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)と第3連結体Cc−Cdとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0029】
第2クラッチC2は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)と第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第3クラッチC3は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)と第2連結体Ra−Sdとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0030】
第1ブレーキB1は、2ウェイクラッチであり、第3連結体Cc−Cdの正転(入力軸2の回転方向と同一方向への回転)を許容し、逆転を阻止する逆転阻止状態と、第3連結体Cc−Cdを筐体1に固定して、第3連結体Cc−Cdの回転を阻止する固定状態とに切換自在に構成されている。
【0031】
第1ブレーキB1は、逆転阻止状態のとき、第3連結体Cc−Cdが逆転方向に回転しようとするときは第3連結体Cc−Cdが筐体1に固定された固定状態となり、第3連結体Cc−Cdが正転方向に回転しようとするときは第3連結体Cc−Cdの筐体1への固定が解除された開放状態となる。
【0032】
第2ブレーキB2は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)を筐体1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0033】
第3ブレーキB3は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)を筐体1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。第4ブレーキB4は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)を筐体1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0034】
各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B4は、トランスミッション・コントロール・ユニットからなる制御部ECU(
図1参照)により、車両の走行速度等の車両情報に基づいて、状態が切り換えられる。
【0035】
入力軸2の軸線上には、駆動源ENG及びトルクコンバータTC側から、第1クラッチC1、第3遊星歯車機構PGS3、第4遊星歯車機構PGS4、第1遊星歯車機構PGS1、第3クラッチC3、第2遊星歯車機構PGS2、第2クラッチC2の順番で配置されている。
【0036】
そして、第4ブレーキB4が第2遊星歯車機構PGS2の径方向外方に配置され、第3ブレーキB3が第3クラッチC3の径方向外方に配置され、第1ブレーキB1は第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置され、第2ブレーキB2は第1クラッチC1の径方向外方に配置されている。このように、4つのブレーキB1〜B4を遊星歯車機構、またはクラッチの径方向外方に配置することにより、ブレーキB1〜B4を遊星歯車機構及びクラッチと共に入力軸2の軸線上に並べて配置した場合に比べて、動力伝達装置の軸長の短縮化を図ることができる。尚、第4ブレーキB4を第2クラッチC2の径方向外方に配置し、第3ブレーキB3を第2遊星歯車機構PGS2の径方向外方に配置してもよい。
【0037】
次に、
図3及び
図4を参照して、実施形態の動力伝達装置の各変速段を確立させる場合を説明する。
【0038】
1速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態(
図4の「R」)とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの逆転が阻止される。また、第2ブレーキB2を固定状態とすることで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度が「0」になる。そして、第3連結体Cc−Cdの回転速度も「0」になる。
【0039】
これにより、第3遊星歯車機構PGS3の第7から第9の3つの要素Sc,Cc,Rcが相対回転不能なロック状態となり、第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRc(第9要素)を含む第1連結体Ca−Cb−Rcの回転速度も「0」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図4に示す「1st」となり、1速段が確立される。
【0040】
尚、1速段を確立させるためには第3ブレーキB3を固定状態とする必要はないが、1速段から後述する2速段へスムーズに変速できるように1速段で固定状態とさせている。また、1速段でエンジンブレーキを効かせる場合には、2ウェイクラッチからなる第1ブレーキB1を固定状態(
図4の「L」)に切り換えればよい。
【0041】
2速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態(
図4の「R」)とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とし、第3クラッチC3を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。また、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度が「0」になる。また、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」になる。
【0042】
また、第3クラッチC3を連結状態とするで、第2連結体Ra−Sdの回転速度が、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度と同一速度の「0」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「2nd」となり、2速段が確立される。
【0043】
3速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3を固定状態とし、第2クラッチC2を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。また、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度が「0」になる。また、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」になる。
【0044】
また、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)の回転速度が、入力軸2に連結された第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」となる。第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」、リングギヤRb(第4要素)の回転速度が「1」となるため、キャリアCb(第5要素)の回転速度、即ち第1連結体Ca−Cb−Rcの回転速度は、i/(i+1)となる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「3rd」となり、3速段が確立される。
【0045】
4速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とし、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。また、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度が「0」になる。
【0046】
また、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)と第2連結体Ra−Sdとが同一速度で回転する。これにより、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2との間では、キャリアCa(第2要素)とキャリアCb(第5要素)とが連結され、リングギヤRa(第3要素)とサンギヤSb(第6要素)とが連結されることとなり、第3クラッチC3を連結状態とする4速段においては、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2とで4つの回転要素からなる1つの共線図を描くことができる。
【0047】
そして、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)の回転速度が、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」となり、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2とで構成される4つの回転要素のうちの2つの回転要素の回転速度が同一速度の「1」となる。
【0048】
従って、第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2の各要素が相対回転不能なロック状態となり、第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2の全ての要素の回転速度が「1」となる。そして、第3連結体Cc−Cdの回転速度がj/(j+1)となり、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「4th」となり、4速段が確立される。
【0049】
5速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とし、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。また、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第7要素)の回転速度が「0」になる。
【0050】
また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度が第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「5th」となり、5速段が確立される。
【0051】
尚、5速段を確立させるためには第2クラッチC2を連結状態とする必要はない。しかしながら、4速段及び後述する6速段では第2クラッチC2を連結状態とする必要があるため、5速段から4速段へのダウンシフト、及び5速段から後述する6速段へのアップシフトをスムーズに行えるように5速段でも連結状態とさせている。
【0052】
6速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。
【0053】
また、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とすることで、4速段で説明したように、第1遊星歯車機構PGS1と第2遊星歯車機構PGS2の各要素が相対回転不能な状態となり、第2連結体Ra−Sdの回転速度が「1」となる。また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度が「1」となる。
【0054】
従って、第4遊星歯車機構PGS4は、キャリアCd(第11要素)とサンギヤSd(第12要素)とが同一速度の「1」となり、各要素が相対回転不能なロック状態となる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「6th」の「1」となり、6速段が確立される。
【0055】
7速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とし、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。
【0056】
また、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」になる。また、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)の回転速度が、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」となり、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)を含む第1連結体Ca−Cb−Rcの回転速度がi/(i+1)となる。
【0057】
また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度が、入力軸2に連結された第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「7th」となり、7速段が確立される。
【0058】
8速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とし、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。
【0059】
また、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」になる。また、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第2連結体Ra−Sdの回転速度が第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度と同一速度の「0」になる。また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度が第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「8th」となり、8速段が確立される。
【0060】
9速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第3ブレーキB3及び第4ブレーキB4を固定状態とし、第1クラッチC1を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。
【0061】
また、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)の回転速度が「0」になる。また、第4ブレーキB4を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)の回転速度も「0」となる。このため、第2遊星歯車機構PGS2の各要素Sb,Cb,Rbは相対回転不能なロック状態となり、第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCb(第5要素)を含む第1連結体Ca−Cb−Rcの回転速度も「0」になる。
【0062】
また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度は第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」となる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「9th」となり、9速段が確立される。
【0063】
10速段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を逆転阻止状態とし、第4ブレーキB4を固定状態とし、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とする。第1ブレーキB1を逆転阻止状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの正転が許容される。
【0064】
また、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第2連結体Ra−Sdと第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSb(第6要素)とが同一速度で回転する。また、第4ブレーキB4を固定状態とすることで、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb(第4要素)の回転速度が「0」になる。また、第1クラッチC1を連結状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転速度が第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa(第1要素)の回転速度と同一速度の「1」となる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す「10th」となり、10速段が確立される。
【0065】
後進段を確立させる場合には、2ウェイクラッチたる第1ブレーキB1を固定状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とし、第2クラッチC2を連結状態とする。また、第3ブレーキB3を固定状態とし、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第1連結体Ca−Cb−Rcの回転速度がi/(i+1)となる。また、第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第3連結体Cc−Cdの回転が阻止され、第3連結体Cc−Cdの回転速度が「0」になる。そして、出力部3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第10要素)の回転速度が
図3に示す逆転の「Rvs」となり、後進段が確立される。
【0066】
尚、
図3中の破線で示す速度線は、4つの遊星歯車機構PGS1〜PGS4のうち動力伝達する遊星歯車機構に追従して他の遊星歯車機構の各要素が回転(空回り)することを表している。
【0067】
図4は、上述した各変速段におけるクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4の状態を纏めて表示した図であり、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3、第2ブレーキB2から第4ブレーキB4の列の「○」は連結状態、または固定状態を示し、空欄は開放状態を示している。また、第1ブレーキB1の列の「R」は逆転阻止状態を示し、「L」は固定状態を示している。
【0068】
また、下線を付した「R」及び「L」は第1ブレーキB1の働きで第3連結体Cc−Cdの回転速度が「0」となることを示している。また、「R/L」は、通常時は逆転阻止状態の「R」であるが、エンジンブレーキを効かせる場合には固定状態の「L」に切り換えることを示している。
【0069】
また、
図4には、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比hを2.734、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比iを1.614、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比jを2.681、第4遊星歯車機構PGS4のギヤ比kを1.914とした場合における各変速段の変速比(入力軸2の回転速度/出力部3の回転速度)、及び公比(各変速段間の変速比の比。所定の変速段の変速比を所定の変速段よりも1段高速側の変速段の変速比で割った値。)も示しており、これによれば、公比を適切に設定できることが分かる。
【0070】
次に、
図5を参照して、ツーウェイクラッチについて詳しく説明する。第1ブレーキB1は、第3連結体Cc−Cdを筐体1に固定する固定状態と、第3連結体Cc−Cdの正転を許容し逆転を阻止する逆転阻止状態とに切換自在なツーウェイクラッチで構成されている。このツーウェイクラッチの一例を
図5に示して具体的に説明する。
【0071】
図5の第1ブレーキB1としてのツーウェイクラッチTWは、第3連結体Cc−Cdに連結されるインナーリングTW1と、インナーリングTW1の径方向外方に間隔を存して配置されると共に筐体1に連結されるアウターリングTW2と、インナーリングTW1とアウターリングTW2との間に配置される保持リングTW3とを備える。
【0072】
インナーリングTW1には、外周面に複数のカム面TW1aが形成されている。保持リングTW3には、カム面TW1aに対応させて複数の切欠孔TW3aが設けられている。この切欠孔TW3aには、ローラTW4が収容されている。また、ツーウェイクラッチTWは、図示省略した噛合機構を備える。
【0073】
噛合機構は、アウターリングTW2と保持リングTW3とを連結するアウター連結状態と、インナーリングTW1と保持リングTW3とを連結するインナー連結状態とに切換自在に構成されている。
【0074】
また、ローラTW4の径は、
図5(a)に示すように、ローラTW4がカム面TW1aの中央部に存するときは隙間Aが開き、
図5(b)及び(c)に示すように、ローラTW4がカム面TW1aの端部に存するときにはインナーリングTW1及びアウターリングTW2に接触するように、設定されている。
【0075】
噛合機構で、アウターリングTW2と保持リングTW3とが連結されたアウター連結状態であるときは、インナーリングTW1が正転及び逆転のどちらに回転しようとしても、
図5(b)及び(c)に示すように、保持リングTW3も筐体1に固定されているため、ローラTW4がカム面TW1aの端部に位置することとなる。
【0076】
このとき、ローラTW4がカム面TW1aとアウターリングTW2の内周面とに挟まれて、インナーリングTW1の回転が阻止される。即ち、ツーウェイクラッチTWは固定状態となる。
【0077】
図示省略した噛合機構は、インナーリングTW1と保持リングTW3とを連結するインナー連結状態では、
図5(b)に示すように切欠孔TW3aがカム面TW1aの一方の端部に位置する状態となるように構成されている。
【0078】
図5における時計回り方向を逆転方向とすると、このツーウェイクラッチTWは、インナーリングTW1と保持リングTW3とを連結するインナー連結状態とすることにより、逆転阻止状態となる。
【0079】
また、本実施形態の動力伝達装置が搭載される車両には、シフトポジションを前進レンジ、ニュートラルレンジ、後進レンジ、の何れかに切換自在なシフトバイワイヤ形式のシフトレバー42(シフトポジション検出部)と、油圧制御回路43の油の温度(油温)を検出する油温検出部43aと、車両の走行速度を検出する車速検出部44と、エンジンブレーキのオン、オフを検出するエンジンブレーキ判定部46と、駆動源ENGの回転数を検出する駆動源回転数検出部48と、入力軸2の回転数を検出する入力回転速度検出部50と、ブレーキペダルのオン、オフを検出するブレーキペダル検出部54と、アクセルペダルのオン、オフを検出するアクセル開度検出部56とが設けられている。
【0080】
制御部ECUは、シフトレバー42のシフトポジションの情報、油温検出部43aからの油圧制御回路43の油の温度(油温)の情報、車速検出部44からの車両の走行速度の情報、エンジンブレーキ判定部46からのエンジンブレーキの使用状態としてのエンジンブレーキのオン、オフの情報、駆動源回転数検出部48からの駆動源ENGの回転数の情報、入力回転速度検出部50からの入力軸2の回転数の情報、ブレーキペダル検出部54からのブレーキペダルのオン、オフの情報、アクセル開度検出部56からのアクセルペダルのオン、オフの情報を受信する。
【0081】
次に、
図6を参照して、本実施形態の動力伝達装置において、車両の走行速度やアクセルペダル、ブレーキペダルの操作情報などの所定の車両情報に基いて変速段の変更が求められる変速要求(変速指示)があった場合の制御部ECUの作動を説明する。制御部ECUは、
図6に示すフローチャートの処理を所定のサイクルタイムで実行する。また、
図6の説明中に単にクラッチ(摩擦係合機構)という場合には、ブレーキ(摩擦係合機構)も含まれるものとして定義する。
【0082】
図6のフローでは、まず、STEP1で車速等の所定の車両情報に基づいて変速要求があるかどうかを確認する。変速要求がない場合には、そのまま今回の処理を終了する。STEP1で変速要求がある場合には、STEP2に進み、変速要求に基づいて設定された第1目標変速段へ現在の変速段から変速するときに、連結状態もしくは固定状態または解放に状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)を判定し、状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)のプレート温度が第1所定温度以上であるか否かを確認する。
【0083】
クラッチ(摩擦係合機構)のプレート温度(ΔQ)は、クラッチトルク(TCL)と差回転(Δω)の積(ΔQ=TCL・Δω)として、制御部ECUが算出している。即ち、本実施形態においては制御部ECUが本発明の摩擦温度検出部としての機能を兼ね備えている。なお、摩擦温度検出部は制御部ECU以外に設けてもよい。また、摩擦係合機構の温度検出は、他の方法を用いて検出してもよい。
【0084】
第1所定温度は、クラッチの温度が更に上昇すると摩擦面の熱損など熱害から保護する上で好ましくないと想定される温度に基いて設定される。
【0085】
STEP2で第1所定温度以上である場合には、STEP3に進み、現在の変速段及び第1目標変速段を除いた他の変速段のうち、所定の車両情報に基いて変速することが適切な変速段である第2目標変速段があるか否かを判定する。第2目標変速段の具体例としては、例えば、現在の変速段に対して第1目標変速段よりも1速段離れた変速段が想定できる。例えば、2速段で走行中に3速段(第1目標変速段)への変速要求が来た場合には、アップシフトの中で一番3速段に変速比が近い4速段が第2目標変速段として選ばれる可能性が高いと考えられる。
【0086】
STEP3で、所定の車両情報に基いて、適切な第2目標変速段がないと判定した場合には、STEP4に進み、現状の変速段を維持するホールド処理が実行され、今回の処理を終了する。本実施形態においては、
図6のフローチャートに示す処理を所定のサイクルタイムで実行する。
【0087】
STEP3で、所定の車両情報に基いて適切な第2目標変速段があると判定した場合には、STEP5に分岐し、第2目標変速段へ現在の変速段から変速するときに、連結状態もしくは固定状態または解放に状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)を判定し、状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)のプレート温度が第1所定温度以上であるか否かを確認する。
【0088】
第1所定温度以上となるクラッチが存在する場合には、STEP4に進み、現在の変速段を維持するホールド処理を実行して今回の処理を終了する。
【0089】
STEP5で状態が切り換えられるクラッチの中で第1所定温度以上のクラッチが存在しない場合には、STEP6に進み、第2目標変速段へ現在の変速段から変速するときに、連結状態もしくは固定状態または解放に状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)を判定し、状態が切り替わるクラッチ(摩擦係合機構)のプレート温度が第2所定温度以上であるか否かを確認する。
【0090】
第2所定温度は、第1所定温度よりも低い温度であって、クラッチの状態を切り替えると第1所定温度以上までクラッチの温度が上昇してしまう虞のある温度に設定されている。
【0091】
STEP6で第2所定温度以上となるクラッチが存在する場合には、STEP7に進み、現在の変速段から第2目標変速段への変速が減速側への変速であるダウンシフトに該当するか否か、及び第2所定温度以上のクラッチが連結状態又は固定状態から解放状態に切り替わるクラッチであるか否かを判定する。ダウンシフトではないか、又は解放状態に切り替わるクラッチでない場合には、STEP4に進み、現在の変速段を維持するホールド処理を実行して、今回の処理を終了する。
【0092】
STEP7でダウンシフトであり、且つ第2所定温度以上のクラッチが解放状態に切り替わるクラッチであると判定した場合には、STEP8に進み、第2所定温度以上のクラッチが第3所定温度以上であるか否かを判定する。第3所定温度は、第1所定温度よりも低く、第2所定温度よりも高い温度であり、ダウンシフトのときの解放状態となるクラッチが、解放状態とされたときに第1所定温度以上となる虞がある温度に設定される。これは、ダウンシフト時の解放されるクラッチは温度が比較的上昇し難いことによるものである。
【0093】
STEP8で解放されるクラッチが第3所定温度以上である場合には、STEP4に進み、現在の変速段を維持するホールド処理を実行して、今回の処理を終了する。
【0094】
STEP8で解放されるクラッチが第3所定温度未満である場合には、STEP9に進み、第2目標変速段への変速処理(制限シフト)を実行して、今回の処理を終了する。
【0095】
STEP6で第2所定温度以上となるクラッチが存在しない場合には、STEP9に進み、第2目標変速段への変速処理(制限シフト)を実行して、今回の処理を終了する。
【0096】
STEP2で状態が切り替わる全てのクラッチが第1所定温度未満である場合には、STEP10に分岐し、状態が切り替わるクラッチのうちの何れかのクラッチが第2所定温度以上であるか否かを判定する。第2所定温度以上のクラッチが存在する場合には、STEP11に進み、STEP7と同様に、第1目標変速段への変速がダウンシフトであるか否か、且つ第2所定温度以上のクラッチが解放状態となるクラッチであるか否かを判定する。
【0097】
ダウンシフトではなく、又は第2所定温度以上のクラッチが解放状態となるクラッチではない場合には、STEP3に進み、適切な第2目標変速段が存在するか否かを判定する。
【0098】
STEP11でダウンシフトであり、且つ第2所定温度以上のクラッチが解放状態となるクラッチである場合には、STEP12に進み、第2所定温度以上の解放状態となるクラッチが第3所定温度以上であるか否かを判定する。第3所定温度以上である場合には、STEP3に進み、適切な第2目標変速段が存在するか否かを判定する。
【0099】
STEP12で、第2所定温度以上の解放されるクラッチが第3所定温度未満である場合には、STEP13に分岐し、通常通り現在の変速段から第1目標変速段への変速処理(通常シフト)を実行して、今回の処理を終了する。
【0100】
STEP10で、第2所定温度以上のクラッチが存在しない場合には、STEP13に分岐し、通常通り現在の変速段から第1目標変速段への変速処理(通常シフト)を実行して、今回の処理を終了する。
【0101】
図6の処理の具体的な例を示すと、例えば、4速段で走行中にクラッチC3が第1所定温度以上となったとする。このとき、5速段への変速要求があったとすると、5速段では、クラッチC3を解放しなければならないため、5速段への変速は禁止される。そして、第2目標変速段として6速段が適切であると判定された場合、連結状態となるクラッチC1及び解放状態となるブレーキB2が第2所定温度未満であれば、6速段に変速される。なお、以後、第3クラッチC3が第1所定温度未満となるまでは、偶数段のみ選択して変速するように制御してもよい。
【0102】
別の具体例を示すと、例えば、3速段で走行中に4速段への変速要求があったとして、第3クラッチC3が第1所定温度以上であったとする。この場合、第2目標変速段として5速段が適切であると判定された場合、連結状態となる第1クラッチC1及び解放状態となる第3ブレーキB3が第2所定温度未満であれば、5速段に変速される。なお、以後、第3クラッチC3が第1所定温度未満となるまでは、奇数段のみを選択して変速するように制御してもよい。
【0103】
本実施形態の動力伝達装置によれば、第1目標変速段への変更が禁止される状態であっても、第2目標変速段への変更が許可されれば、変速段を第2目標変速段へ変更することができる。従って、摩擦係合機構を熱害から保護すると共に、運転者の運転操作に対する応答性の向上を図ることができる。
【0104】
また、ダウンシフトの場合には、アップシフトの場合と比較して、摩擦係合機構が連結状態もしくは固定状態から解放状態へ切り換えられても摩擦係合機構の温度上昇が比較的低い。従って、ダウンシフトの場合であり、且つ摩擦係合機構が解放状態に切り換えられる場合にあっては変速を禁止する温度を第2所定温度よりも緩和した第3所定温度とすることで、摩擦係合機構を熱害から保護すると共に、運転者の運転操作に対する応答性の更なる向上を図ることができる。
【0105】
なお、第1から第3の3つの所定温度は、変速する際のクラッチの回転速度の差(差回転)によって補正される温度であってもよい。この場合、差回転の大きさによって補正量を調節することにより、更に適切な変速を行うことが可能となる。
【0106】
また、STEP7,8を省略して、STEP6でYESの場合にSTEP4に進むように構成してもよい。同様に、STEP11,12を省略して、STEP10でYESの場合にはSTEP3に進むように構成してもよい。
【0107】
また、本発明の動力伝達装置は、本実施形態で説明した4つの遊星歯車機構で構成されるものに限らず、複数の遊星歯車機構と複数の摩擦係合機構で構成されていれば、他のものにも適用することができる。例えば、本実施形態の第1ブレーキB1を摩擦係合機構で構成してもよく、逆に他の摩擦係合機構を第1ブレーキB1のような切換機構としてのツーウェイクラッチで構成してもよい。