【実施例】
【0104】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
以下の実施例において、
1H-NMR測定はJEOL製JNM-ECX400(400MHz)を用いた。内部標準としてMe
4Si(δ=0.00)、CHCl
3(δ=7.24)を用いた。
【0106】
13C-NMR測定はJEOL製JNM-ECX400(100MHz)を用いた。内部標準としてCDCl
3(δ=77.0)を用いた。
【0107】
IR測定はHORIBA製FT-210を用いた。
【0108】
GPC測定は、日本分光製デガッサDG-2080-53、日本分光製送液ポンプPU-2080、日本分光製UV検出器UV-2075、日本分光製カラムオーブンCO-2065、SHODEX製カラムGPC K-804L、SHODEX製ガードカラムGPC K-Gを用いた。移動相にはCHCl
3、標準物質にはポリスチレンを用いて恒温(40℃)にて測定を行った。
<実施例1>
trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸とジフェニルエーテルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0109】
【化13】
【0110】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、ジフェニルエーテル(85.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0111】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸7.5mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集を行い、粉末状の白色固体を0.1485g、収率97%で得た。
【0112】
【表1】
【0113】
<実施例2>
trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシビフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0114】
【化14】
【0115】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジメトキシビフェニル(107.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0116】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸7.5mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集を行い、粉末状の白色固体を0.1575g、収率90%で得た。
【0117】
【表2】
【0118】
<実施例3>
trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジプロピロキシビフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0119】
【化15】
【0120】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジプロピロキシビフェニル(135.2mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0121】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸7.5mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集を行い、粉末状の白色固体を0.1707g、収率84%で得た。
【0122】
【表3】
【0123】
<実施例4>
trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジヘキシロキシビフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0124】
【化16】
【0125】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジヘキシロキシビフェニル(177.3mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0126】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸7.5mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集を行い、粉末状の白色固体を0.2225g、収率91%で得た。
【0127】
【表4】
【0128】
<実施例5>
trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシジフェニルエーテルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0129】
【化17】
【0130】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジメトキシジフェニルエーテル(115.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0131】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸7.5mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集を行い、粉末状の白色固体を0.1787g、収率98%で得た。
【0132】
【表5】
【0133】
(収率、分子量)
実施例において得られた芳香族ポリケトンの収率と実施例3〜5のクロロホルム可溶ポリケトンの平均分子量の結果を表6に示す。なお平均分子量M
nとM
wは前記のGPC測定によりポリスチレン換算で見積もった。
【0134】
【表6】
【0135】
(溶解性)
実施例において得られた芳香族ポリケトンの有機溶媒への溶解性試験を行った。有機溶媒はTHF、CHCl
3、DMF、DMSO、NMPを用いた。その結果を表7に示す。表7において、++は常温で可溶、+は加熱により可溶、±は部分的に可溶または膨潤、−は不溶であることを示す。
【0136】
【表7】
【0137】
実施例3〜5の芳香族ポリケトンはクロロホルム(CHCl
3)に易溶であった。
(熱的性質)
実施例において得られた芳香族ポリケトンの熱的性質の評価を行った。熱的性質は、物理的・化学的耐熱性の指標となるT
g、T
d5、T
d10によって評価した。
【0138】
T
gはポリマーのガラス転移温度であり、示差走査熱量測定(DSC)によりDSC曲線から見積もった。示差走査熱量測定はパーキンエルマー製DSC 4000を用い、窒素気流下において40℃から300℃まで昇温速度:10K/minで測定した。
【0139】
T
d5、T
d10はそれぞれ熱分解挙動の指標となる5%重量減少温度、10%重量減少温度であり、熱重量測定(TGA)によりTGA曲線から見積もった。熱重量測定はパーキンエルマー製TGA 4000を用い、窒素気流下において40℃から800℃まで昇温速度:10K/minで測定した。
【0140】
これらの測定結果を表8に示す。
【0141】
【表8】
【0142】
ポリマーに脂環構造を導入することで耐熱性を維持でき、PEEKと比較しても耐熱性は全体的に向上した。
(光学的性質)
実施例において得られた芳香族ポリケトンの光学的性質の評価を行った。光学的性質は、クロロホルムによる溶媒キャスト法により成形したフィルムの光線透過率によって評価した。
【0143】
光線透過率はUV-vis吸収スペクトルから算出した。JASCO製V-630分光光度計を用いて波長範囲200〜800nm、走査速度200nm/minで測定を行った。スライドガラス上にポリマーのクロロホルム溶液をパスツールピペットを用いて滴下し、キャスティングした。また測定の際にはリファレンスに同一のスライドガラスを用いた。
【0144】
実施例3〜5の結果を
図1に示す。実施例3、4は可視光領域で光線透過率96%以上、実施例5は可視光領域で光線透過率93%以上であり、PMMA、PCと比較して同等またはそれ以上の結果が得られた。また、それぞれのフィルムのカットオフ波長は299nm、305nm、320nmであった。
【0145】
本発明者らの非特許文献1では芳香族求核置換型重合により芳香族ポリケトンを合成したが、そのとき得られたポリケトンフィルムは黄土色に着色していた。そのため光線透過率は本実施例のフィルムよりも低い値であった。本実施例で合成に用いた芳香族親電子アシル化型重合は、芳香族求核置換型重合と比較して、反応温度、脱離成分、溶媒の3点で異なっているが、反応温度については本実施例の芳香族親電子アシル化型重合では60℃であり、先行研究の芳香族求核置換型重合では170℃と約110℃の差がある。この差により、高温条件下では副反応が起き、何らかの着色成分が生成したと考えられる。また脱離成分と溶媒は両反応とも水洗浄で除去することができ、着色への影響は小さいと考えられる。したがって本実施例では低温での反応がポリマーの着色を抑制したと考えられる。
<実施例6>
cis-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシジフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0146】
【化18】
【0147】
ナスフラスコ30mLにcis-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(86.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジメトキシジフェニル(107.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。
【0148】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸10mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集、減圧乾燥を行い、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈殿を行った。粉末状の白色固体を0.1434g、収率82%で得た。得られたポリケトンは、クロロホルム等多くの有機溶媒に難溶であった。
【0149】
【表9】
【0150】
<実施例7>
cis-1,3-シクロヘキサンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシジフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0151】
【化19】
【0152】
ナスフラスコ30mLにcis-1,3-アダマンタンジカルボン酸(86.0mg, 0.5mmol)、2,2’-ジメトキシジフェニル(107.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(2.0mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。
【0153】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸10mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集、減圧乾燥を行い、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈殿を行った。粉末状の白色固体を0.1438g、収率82%で得た。
【0154】
【表10】
【0155】
(分子量)
実施例7において得られた芳香族ポリケトンの分子量M
nとM
wを前記のGPC測定によりポリスチレン換算で見積もった。ポリスチレン換算値でM
n=1100、M
w =13400、M
w/M
n=12.2であった。
<実施例8>
1,3-アダマンタンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシジフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0156】
【化20】
【0157】
ナスフラスコ30mLに1,3-アダマンタンジカルボン酸(112.1mg, 0.5mmol)、2,2’-ジメトキシジフェニル(107.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(2.0mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0158】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸10mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集、減圧乾燥を行い、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈殿を行った。粉末状の白色固体を0.1005g、収率50%で得た。
【0159】
【表11】
【0160】
(分子量)
実施例8において得られた芳香族ポリケトンの分子量M
nとM
wを前記のGPC測定によりポリスチレン換算で見積もった。ポリスチレン換算値でM
n=900、M
w =8100、M
w/M
n=9.0であった。
(溶解性)
THF、CHCl
3、DMF、DMSO、NMPで溶解性試験を行ったところ、DMSO以外の溶媒に易溶であった。溶解性が良好であったのは、アダマンタン骨格の嵩高さにより固体内に空孔ができ、溶媒分子が分子鎖内に入り込みやすくなったことが原因と考えられる。
(光学的性質)
実施例8において得られた芳香族ポリケトンの光学的性質の評価を行った。光学的性質は、クロロホルムによる溶媒キャスト法により成形したフィルムの光線透過率によって評価した。
【0161】
実施例8の結果を実施例3の結果と共に
図2に示す。実施例8は可視光領域で光線透過率96%以上、フィルムのカットオフ波長は285nmであった。
<実施例9>
二種類の脂環式ジカルボン酸であるtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および1,3-アダマンタンジカルボン酸と2,2’-ジメトキシジフェニルとの芳香族親電子アシル化型共重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0162】
【化21】
【0163】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(43.0mg, 0.25mmol)、1,3-アダマンタンジカルボン酸(56.1mg, 0.25mmol)、2,2’-ジメトキシジフェニル(107.1mg, 0.5mmol)、五酸化二リン−メタンスルホン酸混合物(1.5mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け60℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0164】
加熱撹拌終了後、反応溶液にメタンスルホン酸10mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集、減圧乾燥を行い、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈殿を行った。粉末状の白色固体を0.1565g、収率83%で得た。
(分子量)
実施例8において得られた芳香族ポリケトンの分子量M
nとM
wを前記のGPC測定によりポリスチレン換算で見積もった。ポリスチレン換算値でM
n=1000、M
w=7500、M
w/M
n=7.5であった。
(溶解性)
THF、CHCl
3、DMF、DMSO、NMPで溶解性試験を行ったところ、すべての溶媒に易溶であった。溶解性が良好であったのは、アダマンタン骨格の嵩高さにより固体内に空孔ができ、溶媒分子が分子鎖内に入り込みやすくなった上に、二種類のジカルボン酸を用いたことにより分子の配列がさらに崩れたためと考えられる。
(熱的性質)
実施例6−9で得られたポリマーのT
g、T
d5の測定結果を実施例2の測定結果と共に表12に示す。
【0165】
【表12】
【0166】
(光学的性質)
実施例9において得られた芳香族ポリケトンの光学的性質の評価を行った。光学的性質は、クロロホルムによる溶媒キャスト法により成形したフィルムの光線透過率によって評価した。
【0167】
実施例9により得られたフィルムは可視光領域で光線透過率98%以上、フィルムのカットオフ波長は280nmであった。
<実施例10>
酸性媒体にトリフルオロメタンスルホン酸を使用して、trans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸クロリドと2,2’-ジプロピロキシジフェニルとの芳香族親電子アシル化型重合により芳香族ポリケトンの合成を行った。
【0168】
【化22】
【0169】
ナスフラスコ30mLにtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸クロリド(106.5mg, 0.5mmol)、2,2’-ジプロポキシジフェニル(135.1mg, 0.5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(0.24 g, 1.5mmol)、1,2-ジクロロエタン(1mL)、撹拌子を加え、三方コック、窒素風船を付け50℃で24h撹拌した。反応終了後の反応溶液の粘性は反応開始前より明らかに上昇していた。
【0170】
加熱撹拌終了後、反応溶液に1,2-ジクロロエタン4mLを加えて希釈し、メタノール200mLの入ったビーカーに滴下した。次に、遠心分離機を用いてメタノールと水でそれぞれ1回ずつ洗浄操作を行った。最後に吸引ろ集、減圧乾燥を行い、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にメタノールを用いて再沈殿を行った。粉末状の白色固体を0.1718g、収率93%で得た。
(分子量)
実施例9において得られた芳香族ポリケトンの分子量M
nとM
wを前記のGPC測定によりポリスチレン換算で見積もった。ポリスチレン換算値でM
n=1000、M
w=5700、M
w/M
n=5.7であった。