【文献】
Appl. Microbiol. Biotechnol.,2011年,Vol.90,pp.1429-1441
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態に係るナンノクロロプシスについて説明する。
本実施形態のナンノクロロプシス(以下、単に新株と称することがある)は、次のような親株のナンノクロロプシス(以下、単に親株と称することがある)から得られたものである。
親株は、自然界の海水中からの採取や自然界から採取されたナンノクロロプシスを培養する研究機関等から入手可能なものである。
【0012】
発明者は、1996年ごろから仔魚の育成(種苗生産)の餌料に関して大分県水産試験場に相談していたところ、同試験場で培養されていた親株のナンノクロロプシスを仔魚養殖の試験・研究の目的で譲り受けた。その後、この親株を培養して仔魚養殖の餌料の試験・研究を行った。
【0013】
(親株の培養・増殖)
上述の親株を、屋外設置された6つの培養水槽(以下、単に水槽)を用い、いわゆる独立栄養増殖法によって培養・増殖(以下、周年培養と称することがある)を継続した。各水槽(第1水槽〜第6水槽)は、20トン(ton)の培養水(海水)を貯水可能なものである。
周年培養では、1か月〜2か月に一度程度の間隔で栄養分の施肥を行った。
栄養分の施肥量(培養水1トン当たり)は、培養中の親株(ナンノクロロプシス)の成育状況を観察しつつ適宜決定した。施肥一回当たりの各水槽への施肥量は、具体的には、硫酸アンモニウム50g〜100g/トン、尿素20g〜50g/トン、過リン酸石灰10g〜30g/トンであった。
また、一週間に一度程度の間隔で、各水槽に対して定期的に「減虫処理・雑菌処理」を行った。この処理では、水槽における塩素濃度が1.5ppm(mg/L)になるように塩素を添加した(表1参照)。
また、10日〜2週間に一度程度の間隔で、各水槽中の培養水の半分の量をポンプで吸い出した後、水槽内の培養水の量が20トンになるように海水(培養水)を追加した。
なお、独立栄養増殖法は、周知の方法であるので、ここでは詳細な説明を省略することがある。なお、ここで説明する周年培養においては、概ね、培養水の塩分濃度については2.5重量%以上であることを目安に、また、培養水の温度については26℃以下であることを目安に管理を行った。また、周年培養では、各水槽の全体観察、各水槽中の培養水及びナンノクロロプシスについて、原則、一日に1回以上、観察及び管理を行った。
【0014】
安定した周年培養状態(培養・増殖状態)において、吸い出し前の各水槽中の培養水に含まれる親株のナンノクロロプシスの細胞数を計測したところ、各水槽の培養水中のナンノクロロプシスの細胞数(個体数)は3.0×10
7〜3.5×10
7cell/mLの範囲であった。また、細胞の大きさ(平均)は、2.0〜3.0μmであった。
【0015】
周年培養において吸出しによって定期的に得られる、ナンノクロロプシスを含む培養水(以下、餌料液と称することがある)は、そのまま、仔魚やワムシの餌料又は餌料添加物として使用可能である(後述の実施例及び比較例参照)。
また、周年培養で定期的に得られる培養水中から濾過等によって分離されたナンノクロロプシスも餌料又は餌料添加物として使用可能であり、分離されたナンノクロロプシスを乾燥させた乾燥ナンノクロロプシスも餌料又は餌料添加物として使用可能であり、分離されたナンノクロロプシスの粉末や濃縮液も餌料及び餌料への添加物として使用可能である。
【0016】
ナンノクロロプシスの濃縮液の製造方法としては、周知の種々の方法を用いることができる。例えば、培養水を濃縮してナンノクロロプシス濃縮液を得る濃縮工程を実施して製造することができる。
濃縮工程としては、濾過器や遠心分離機等を用いて適量の水分を分離し、適量の水分と混合された濃縮液を得る方法を用いることができる。なお、最初の濃縮工程の後、得られたナンノクロロプシスを洗浄する洗浄工程および濃縮工程のセットを1回以上行って濃縮液を得る濃縮工程であっても良い。また、濃縮工程の前及び/又は後など、適宜の時期に殺菌等の目的で加熱処理工程(殺菌処理工程)を実施することが好ましい。
【0017】
粉末の製造方法としては、周知の種々の方法を用いることができるが、ここでは、培養水を濾過して得られるナンノクロロプシスをパウダー状にする工程(粉末工程)を実施する製造する方法を用いた。
パウダー状にする方法としては、霧状に噴霧するスプレードライヤ法を用いた。スプレードライヤ法とは、濾過後の液状(泥状)のナンノクロロプシスを噴霧して熱風(約120℃)で瞬間的に乾燥させる方法である。
なお、粉末工程の前に、濾過後のナンノクロロプシスを遠心分離機等を用いて脱水しても良い。そして、脱水・洗浄・脱水のように脱水工程(及び洗浄工程)を繰り返し行ってもよい。
粉末工程としては、スプレードライヤ法のほかに、例えば、濾過後のナンノクロロプシスをフリーズドライしたものを粉砕機で粉砕する方法など、周知の種々の用いることができる。
また、粉末工程の前に殺菌目的で加熱処理工程を実施した。殺菌等の目的で行う加熱処理工程(殺菌処理工程)については適宜の時期に実施することが好ましい。さらに、スプレードライヤ法の場合は、スプレー後、さらに粉砕工程を行っても良い。
【0018】
また、ナンノクロロプシス、ナンノクロロプシス濃縮液又はナンノクロロプシス粉末のうちの少なくともいずれか1つを餌料として投与してワムシを養殖し、得られたワムシを養殖用の餌料として用いた。なお、ワムシの培養方法は、ワムシの培養水槽に、これらの餌料を適宜の量投与するという、周知の方法である。
【0019】
なお、濃縮液の製造方法、粉末の製造方法及びワムシの培養方法は、いずれも周知の方法であるので、ここでは詳細な説明を省略した。
【0020】
そして、周年培養で得られたナンノクロロプシス(餌料液、濃縮液、粉末等)を仔魚養殖の餌料又は添加物(仔魚の餌料であるワムシの餌料としての使用を含む)として使用し、養殖した仔魚が養殖業者において成魚に成長する過程を観察することを継続的に行い、仔魚から成魚への成長と養殖業者における給餌量との関係について、継続的に検討を行った。
その結果、仔魚の個体差に起因すると考えられる成長差のみならず、養殖業者に供給・提供した仔魚の供給時期(つまりは供給ロット)に起因する成長差について検討する必要があると考えられることを見出した。
そこで、この点に関する研究の一環として、餌料であるナンノクロロプシスについて、種々の検討・分析を行い、本発明に係るナンノクロロプシスを見出した。
【0021】
実施例1〜実施例5(第1処理:第2水槽〜第6水槽)
親株の周年培養中の第1水槽〜第6水槽のうち、第2水槽〜第6水槽中に塩素を添加して、各水槽の塩素濃度を30〜50ppm(本実施形態では50ppm。表1参照)という高濃度の状態にした(高濃度塩素処理)。
高濃度塩素処理から24時間経過後、中和処理を行った。中和処理では、チオ硫酸ナトリウムを添加した。チオ硫酸ナトリウムの添加量は培養水10トンに対して100gの割合という目安であった。
中和処理後、培養水中のナンノクロロプシスを観察したところ、細胞数は2.0×10
7〜3.0×10
7cell/mLであった。
なお、高濃度塩素処理及び中和処理は、種々の条件で処理可能であるが、高濃度塩素処理における塩素濃度が30〜50ppmで、高濃度塩素処理継続時間(高濃度処理後、中和処理を行うまでの時間)が12時間以上48時間以下が好ましい。
塩素濃度が50ppmを超え、しかも高濃度処理継続時間が48時間を超える場合、ナンノクロロプシスが全て死滅してしまうおそれがあるからである。他方、30ppmより低く、高濃度処理継続時間が12時間より短時間の場合、十分な高濃度塩素処理が行われず、一部の珪藻類が生存したりするおそれがあるからである。
【0023】
第2水槽〜第6水槽において、中和処理後に生存していたナンノクロロプシスを、3か月間、上述の周年培養と同じ条件で培養・増殖を行った(高濃度塩素処理後の第1増殖工程)。
第1水槽については、この第1増殖工程の期間中、従来の周年培養を継続した(比較例1)。
したがって、この期間中の「減虫処理・雑菌処理」における塩素濃度は、全ての水槽において1.5ppmであった(表1参照)。
中和処理から3か月経過後のナンノクロロプシスの細胞数は3.0×10
7〜3.5×10
7 cell/mLであった。
【0024】
(第2処理:第1水槽〜第6水槽)
第1増殖工程後、各水槽で行う「減虫処理・雑菌処理」における塩素の添加量を変更した(表1参照)。
第1水槽については、「減虫処理・雑菌処理」における塩素濃度を2.0ppmとした。また、第2水槽については3.0ppm、第3水槽については4.0ppm、第4水槽については5.0ppm、第5水槽については10.0ppm、第6水槽については15.0ppmとした(高濃度塩素処理後の第2増殖工程)。
これ以外の条件は、上述の第1増殖工程と同じであった。
塩素濃度を変更してから3日後、第2水槽〜第6水槽中のナンノクロロプシスの細胞数を計測したところ1.0×10
5〜3.0×10
5cell/mLであった。
なお、この第2増殖工程を各水水槽について6か月間行った。
【0025】
(第1水槽)
6か月間の第2増殖工程後、第1水槽中のナンノクロロプシスを顕微鏡観察したところ、細胞数の密度、大きさ、細胞の色などの状態について特段の変化は見られなかった。その後、第1水槽での「減虫処理・雑菌処理」における塩素濃度を1.5ppmに変更し(元に戻し)て、周年培養を継続した(表1参照)。
【0026】
(第2水槽〜第6水槽)
6か月間の第2増殖工程後、第2水槽〜第6水槽中のナンノクロロプシスを顕微鏡観察したところ、細胞の色などの状態について、特段の変化は見られなかったが、細胞数は減少していた。第2水槽〜第6水槽中のナンノクロロプシスの細胞数は、8.0×10
6〜1.5×10
7 cell/mLであった(表2参照)。
【0027】
(第2処理の継続:第2水槽〜第6水槽)
第2水槽〜第6水槽について、上述した6か月間の第2増殖工程(前期第2増殖工程)を、さらに6か月間(後期第2増殖工程)、継続した。
このような第2増殖工程を合計12か月間行い、第2〜第6水槽中のナンノクロロプシスについて顕微鏡観察したところ、細胞の色などの状態について特段の変化は見られなかったが、細胞数の密度は1.5×10
7〜2.5×10
7 cell/mLであった(表2参照)。また、大きさ(平均)は、3〜5μm程度であった(表2参照)。
【0028】
(第3処理:第2水槽)
12か月間の第2増殖工程後、第2水槽からの吸い出しによって半分の量分取した培養水(約10トン)に海水を追加し、第2水槽と同じ条件の水槽(以下、試験用第2水槽)を用意し、水槽中のナンノクロロプシス増殖・培養を行った。
【0029】
この試験用第2水槽については、「減虫処理・雑菌処理」における塩素の添加量を、それまでの濃度から変更した。
具体的には、試験用第2水槽において一週間に一回程度の間隔で行っている「減虫・雑菌処理」における塩素濃度を、「減虫・雑菌処理」を行うごとに1ppmずつ高め、最終的には15ppmまで高めた(表1参照)。これ以外の培養・増殖中の条件は、上述の周年培養と同じであった。
「減虫・雑菌処理」の塩素濃度が15ppmになると、その後は15ppmを1週間維持した。1週間後、試験用第2水槽中のナンノクロロプシスについて顕微鏡観察を行ったところ、細胞数の密度、大きさ、細胞の色などの状態について、第3処理前と比較して特段の変化は見られなかった(表2参照)。
【0030】
(第3処理:第1水槽)
第2水槽と同様、第1水槽から半分の量分取した培養水(約10トン)に海水を追加し、第1水槽と同じ条件の水槽(以下、試験用第1水槽)を用意し、水槽中のナンノクロロプシス増殖・培養を行った。
そして、「減虫処理・雑菌処理」における塩素の添加量を変更する実験を行った。
具体的には、一週間に一回程度の間隔で行っている「減虫・雑菌処理」における塩素濃度を、1.5ppmから3.0ppmに高め、その後は、試験用第2水槽と同様に1ppmずつ高め、最終的には15ppmまで高めた(表1参照)。これ以外の培養・増殖中の条件は、上述の周年培養と同じであった。
その結果、1.5ppmから3.0ppmに高めた最初の「減虫処理・雑菌処理」後から細胞数の減少及び枯れが発生し、濃度を高めるに連れて細胞数の減少及び枯れが進んだ(表2参照)。
【0031】
(第3処理:第3水槽〜第6水槽)
12か月間の第2増殖工程を行った第3水槽〜第5水槽についても、第2水槽と同様、試験用水槽を用意して第3処理を行った。
つまり、用意した試験用第3水槽〜試験用第5水槽での「減虫処理・雑菌処理」における塩素の添加量を変更した(表1参照)。
具体的に説明すると、試験用第3水槽については、4.0ppmであった濃度を1.0ppmずつ上げていき、試験用第4水槽については5.0ppmであった濃度を1.0ppmに上げていき、試験用第5水槽については10ppmであった濃度を1.0ppmに上げていき、いずれの試験用水槽についても最終的には15ppmmまで濃度を高めた。
いずれの試験用水槽においても、「減虫・雑菌処理」の塩素濃度が15ppmになると、その後は15ppmを1週間維持し、1週間後、各試験用水槽中のナンノクロロプシスについて顕微鏡観察を行った。なお、第6水槽については、試験用水槽を用意しなかったので、第6水槽中のナンノクロロプシスについて行った顕微鏡観察結果である。
試験用第3水槽〜試験用第5水槽及び第6水槽のいずれの水槽中のナンノクロロプシスとも、細胞の色などの状態について特段の変化は見られなかった(表2参照)。
【0033】
この結果、第2〜第6水槽中のナンノクロロプシス(新株)は、耐塩素性に優れており、しかも15ppmという高塩素濃度中の培養水中で培養・増殖することが解った(表2参照)。
また、第3水槽中には一部の珪藻類の繁茂が認められたが、第4水槽〜第6水槽においては、そのような繁茂が認められなかった。ナンノクロロプシスの培養水槽中に繁茂した一部の珪藻類(例えば、キートセロス)は、ナンノクロロプシスの培養・増殖に対して悪影響をおよぼすおそれがあるが、このような珪藻類の繁茂がなければ、悪影響が生じるおそれがなく好ましい。したがって、塩素濃度が5.0ppm以上で増殖可能な新株のナンノクロロプシスがより好ましい。
そして、一部の珪藻類の生育をより確実に防止することができるという観点からすれば、塩素濃度が10ppm以上で増殖可能な新株のナンノクロロプシスがより好ましく、一部の珪藻類の生育をさらに確実に防止することができるという観点からすれば、塩素濃度が15ppm以上で増殖可能な新株のナンノクロロプシスがさらに好ましい。
上述したように、第1処理の後には、高濃度処理後の第1増殖工程(3か月)を行うことが好ましい。また、第1増殖工程後、第2処理(第2増殖工程、6か月)を行うことが好ましい。
【0034】
従来のナンノクロロプシスの培養・増殖においては、「減虫処理・雑菌処理」における塩素濃度の管理を誤ってしまうと、ナンノクロロプシスが激減し、あるいは死滅してしまうおそれがある。
ポンプ等による定期的な吸い出し等で取得した培養水は、通常、ナンノクロロプシスを豊富に含むことから、仔魚やワムシの餌料として使用可能であると共に餌料の原料として出荷可能であるところ、ナンノクロロプシスが激減し、あるいは死滅していれば、餌料として使用できず、餌料原料として出荷できない。
この点、本実施形態の新株のナンノクロロプシスであれば、高塩素濃度中での培養・増殖が可能であるので、「減虫処理・雑菌処理」における塩素濃度管理が極めて容易であり、当該処理を容易且つ確実に行うことができ、ナンノクロロプシスの安定培養を容易且つ確実に行うことができる。つまり、新株のナンノクロロプシスは、安定培養に好適であり、培養容易性に優れている。
【0035】
(新株のナンノクロロプシスの性質試験)
12か月間の第2増殖工程を行った第2水槽〜第6水槽について、第2増殖工程と同様の条件でさらに約2年間、培養・増殖(周年培養)を行った(第2増殖工程の継続)。また、第1水槽についても、条件を変更することなく、継続して周年培養を行った。
そして、第1水槽〜第6水槽におけるこの期間の周年培養中に、各水槽中のナンノクロロプシスについて、次のような塩分濃度試験及び培養水温度試験を行った。
【0036】
実施例6〜実施例10(塩分濃度試験・表3参照)
屋外設置された各水槽は風雨に晒されており、降水があると各水槽中の培養水の塩分濃度は低下する。特に6月の梅雨の時期には培養水の塩分濃度が低下しやすい。試験期間中、各水槽の塩分濃度を一日一回以上確認していたところ、塩分濃度が1.5重量%以下になることがあった。
本試験では、塩分濃度の低下が確認された場合であっても、急激に塩分濃度を上昇させる対応は採らなかった。
つまり、本試験期間中の周年培養では、10日〜2週間に一度程度の間隔で、各水槽中の培養水の半分の量をポンプで吸い出し、その後、水槽内の培養水の量が20トンになるように海水(培養水)を追加することによる塩分濃度の上昇だけで、徐々に塩分濃度を高める対応とした。
【0037】
(塩分濃度試験結果:第2水槽〜第6水槽)
ポンプによる吸出し作業前の各水槽中のナンノクロロプシスについて顕微鏡観察を行ったところ、第2水槽〜第6水槽のいずれの水槽についても、細胞数の密度、大きさ、細胞の色などの状態について、降水前から降水による塩分濃度の低下を経て元の塩分濃度に戻るまで、特段の変化は見られなかった。
(塩分濃試験結果:第1水槽、比較例2)
塩分濃度の低下に伴い、一時的に細胞数の減少が見られたが、塩分濃度が上昇して2.5重量%以上に戻る過程で、元の細胞数に戻った。
【0038】
この結果、第1水槽で培養・増殖している親株のナンノクロロプシスについては、塩分濃度が低下した梅雨の時期に一時的にナンノクロロプシスの細胞数が減少し、餌料として適さない状態(餌料原料としての出荷に適さない状態)になった。
他方、第2水槽〜第6水槽で培養・増殖している新株のナンノクロロプシスについては、細胞数の減少は見られず、常に餌料として適した状態であった。
つまり、新株のナンノクロロプシスは、塩分濃度の低下といった環境の変化が生じても、細胞数が減少することがなく安定培養可能であり、培養・増殖が容易であることが解った。
餌料の安定供給は、魚の養殖において極めて重要であるところ、安定培養が可能な本実施形態の新株のナンノクロロプシスは、魚の餌料として好適であるということができる。
【0040】
(培養水温度試験・表4参照)
屋外に設置された各水槽中の培養水温度は、外気の影響を受けて変化する。特に夏季は、培養水温度が高温になりやすい。試験期間中、各水槽の培養水温度を一日一回以上確認していたところ、8月中旬から9月上旬にかけて、約2週間程度連続して最低水温が30度以上の状態であったことがあった。つまり、この試験期間中は、培養水温度の上昇が確認された場合であっても、急激に冷却するような対応は採らなかった。
【0041】
実施例11〜実施例15(培養水温度試験結果:第2水槽〜第6水槽)
各水槽中のナンノクロロプシスについて、日々の顕微鏡観察を行ったところ、いずれの水槽についても、細胞数の密度、大きさ、細胞の色などの状態について、高温になる前(例えば25℃)から高温の状態を経て元の温度に戻るまで、特段の変化は見られなかった。
(培養水温度試験結果:第1水槽、比較例3)
7月中旬以降になって、水温が26℃を超えると、水槽全体の目視観察で緑色から茶色への変色が観察された。そして、水温が28℃を越えると、細胞数が1.0×10
7cell/mL以下になったので施肥を中断した。9月下旬〜10月上旬にかけて水温が下がり26℃以下になった頃、施肥を再開したところ、細胞数が徐々に増えて元に戻った。
【0042】
この結果、第1水槽で培養・増殖している親株のナンノクロロプシスについては、水温が30℃を超える夏季、茶色に変色して枯れた状態になり、餌料として適さない状態(餌料原料としての出荷に適さない状態)になった。
他方、第2水槽〜第6水槽で培養・増殖している新株のナンノクロロプシスについては、水温が30℃を超えても、細胞数の減少は見られず、常に餌料として適した状態であった。
つまり、新株のナンノクロロプシスは、培養水の温度上昇といった環境の変化が生じても、細胞数が減少することがなく安定的に培養可能であり、培養容易であることが解った。餌料の安定供給は、魚の養殖において極めて重要であるところ、安定培養が可能な本実施形態の新株のナンノクロロプシスは、魚の餌料として好適であるということができる。
【0044】
(金魚の養殖試験)
屋内に設置された養殖水槽を2つ用意し、新株のナンノクロロプシスを餌料として用いて、金魚の稚魚の養殖試験を行った。
一方の水槽で後述の実施例16を行い、他方の水槽では後述の比較例4を行った。
各水槽は、いずれも、30Lの養殖水(淡水)を貯水可能なものであった。
隣接設置された2つの水槽を用いるなどすることで、養殖試験中の両水槽中の養殖水の水温等の環境条件を一致させた。例えば、養殖試験中の両水槽中の養殖水の温度は、いずれも、16℃〜22℃の範囲であった。
なお、養殖方法については周知の方法を用いたので、ここでは、給餌条件についてのみ説明し、その他の条件についての詳細な説明を省略した。
【0045】
(実施例16:金魚の稚魚の養殖・表5参照)
同程度の体格の金魚を5匹用意した。養殖試験開始時の5匹の金魚の総体重は、103.7gであった。この5匹の金魚を15日間養殖した。
(給餌条件)
各水槽に対して一日1回、午前8時頃に1.2gの餌料を投与して養殖した。投与した餌料は、市販の餌料(ミニペット(キョーリン社製))であった。
給餌量は、日間給餌量の最低水準量の給餌率である体重比の約1%の分量を目安として定めた量である。なお、給餌量の定め方は、以下同様である。
【0046】
(比較例4:金魚の養殖)
同程度の体格の金魚を5匹用意した。養殖試験開始時の5匹の金魚の総体重は、106.0gであった。この5匹の金魚を15日間養殖した。
(給餌条件)
実施例16と同じ餌を用い、その他の条件についても実施例16と同じとした。
【0047】
(酸素消費量の測定)
実施例16及び比較例4では、15日の養殖期間のうち最後の6日間について、毎日、金魚の酸素消費量(mg/L/7h)を測定した。その後、6日間の酸素消費量の平均値を算出した(表5参照)。
酸素消費量の測定方法は、次のような方法であった。午前8時に給餌した後、まず、飼育水槽中内の酸素濃度を測定して暗幕で被って通気を止める。その後、午後3時に再び飼育水槽中内の酸素濃度を測定する。そして、これらの数値の差を算出することで酸素消費量を得た。例えば、最初の酸素濃度の測定値が8.90mg/Lで、2回目の測定値が3.40mg/Lであれば、酸素消費量は8.90-3.40=5.50mg/L/7hである。酸素濃度の測定では、ハンディDOメーター(飯島電子工業社製)を用いた。
なお、後述の酸素消費量の測定でも同じ方法を用いた。
表5に示されるように、実施例16の金魚と比較例4の金魚の酸素消費量を比較すると、実施例16の金魚の消費量は比較例4の金魚よりも0.5mg/L/7h)多かった。また、実施例16の金魚の消費量は比較例4の金魚の1.1倍であった。実施例16及び比較例4のデータから、実施例17及び比較例5で用いられる金魚の個体差に関する情報が得られた。
【0049】
(実施例17:金魚の養殖・表6参照)
実施例16で得られた5匹の金魚を継続して養殖した。実施例16にて15日間養殖した後、本実施例で15日間養殖し、合計の養殖期間は30日間であった。
本実施例では、投与する餌料を変更した。それ以外の条件は実施例16と同じであった。
本実施例で投与した餌料は、実施例16で用いた市販の餌料と、第3水槽で培養された新株のナンノクロロプシスの粉末とを混合した餌料であった。新株のナンノクロロプシスの混合率は10重量%であった。なお、これ以後の実施例や比較例でも、同様にナンノクロロプシス粉末を用いた。
【0050】
(比較例5:金魚の養殖)
比較例4で得られた5匹の金魚を継続して養殖した。比較例4にて15日間養殖した後、本比較例で15日間養殖し、合計の養殖期間は30日間であった。
養殖条件は比較例4と同じであった。つまり、投与した餌料は比較例4と同じであった。
【0051】
(酸素消費量の測定)
実施例17及び比較例5では、15日の養殖期間のうち最後の6日間について、毎日、金魚の酸素消費量(mg/L/7h)を測定した。その後、6日間の平均値を算出した(表6参照)。
表6に示されるように、実施例17の金魚と比較例5の金魚の酸素消費量を比較すると、実施例17の金魚の消費量は、比較例5の金魚よりも1.15mg/L/7h多いということができる。従って、実施例16及び比較例4の結果では、0.5mg/L/7hの差であったので、実施例17の金魚は、比較例5の金魚よりも酸素消費量が増大したと判断できることが解った。また実施例17の金魚は、比較例5の金魚と比較して酸素消費量が約1.26倍であった。実施例16及び比較例4の結果では、1.1倍であったので、実施例17の金魚は、比較例5の金魚よりも酸素消費量が増大したということができることが解った。
この結果、本実施形態の新株のナンノクロロプシスを餌料として用いて養殖すると、酸素消費量が増加することが解った。つまり、代謝活性化に優れた餌料であることが解った。
【0053】
(実施例18:金魚の養殖・表7参照)
実施例17で得られた5匹の金魚をさらに継続して養殖した。実施例16の養殖開始からの養殖期間は、合計で2か月であった。
本実施例では、実施例17で用いた餌料と同じ餌料を用いた。
【0054】
(比較例6:金魚の養殖)
比較例5で得られた5匹の金魚をさらに継続して養殖した。比較例4の養殖開始からの養殖期間は、合計で2か月であった。
養殖条件は比較例4及び比較例5と同じであった。つまり、投与した餌料は比較例4及び比較例5と同じであった。
【0056】
表7に示されるように、実施例18の金魚は、比較例6の金魚よりも体重増加量が大きく、また体重増加率も高かった。
従って、実施例16で養殖された金魚は、比較例4で養殖された金魚と比較して成長が早いことが解った。
【0057】
(実施例19:金魚の養殖・表8参照)
実施例18で得られた5匹の金魚をさらに継続して養殖した。
本実施例では、各実施例で用いた市販の配合飼料のみを投与した。ナンノクロロプシスについては配合しなかった。1回の給餌で与える餌料は、2.5gであった。 給餌条件以外の条件は、実施例16と同じであった。なお、実施例18の終了からの養殖期間は4か月で最後の20日間で行った。
【0058】
(比較例7:金魚の養殖)
比較例6で得られた5匹の金魚をさらに継続して養殖した。
本比較例では、比較例6と同じ餌料を投与した。また、1回の給餌で与える餌料は、4.0gであった。それ以外の条件は、比較例4〜6と同じであった。
【0060】
表8に示されるように、実施例19の給餌量は、比較例7と比べて少ないが、体重増加量は同じであり、体重増加率は比較例7よりも高かった。
この結果、実施例16で養殖された稚魚は、成魚に養殖する際、比較例4で養殖された稚魚と比較して少ない給餌量で、比較例の稚魚と同等又はそれ以上の成長速度で養殖可能であることが解った。
【0061】
なお、上述した金魚の養殖試験の目的は、養殖で得られる効果を説明するためであると共に、新株の加工による熱処理後の効果の確認をするためである。
摂餌直後の酸素濃度を測定し、食物の消化率(酸化分解量)を比較することで、体重の測定をして消化物の増肉への転換量を調べた。
【0062】
表5は、全ての条件を等しくして両区(実施例16と比較例4)で用いた金魚が元々有する個体間の差の有無を確認し、数値化して示したものである。
また、表6は、実施例17のみに新株含有飼料を与えて得られた結果を示したものである。そして、得られた結果と、表5(実施例16及び比較例4)との比較によって、本発明に係る新株のナンノクロロプシスの効果を示すことができる。
比較の結果、酸素消費量は、実施例17において「+」(増加)しており、食べた餌の燃焼分解(消化)のために酸素が多く使われていることが解った。なお、「−」(減少)であれば、その逆で、消化の進転が遅くなり酸素の利用が減ったことになる。
【0063】
ところで、上述の試験の結果、新株を飼料に添加することで「+」の値となることが解ったが、真に食物の酸化分解量(消化率)が上がった場合の他、同じ消化率でも酸素をより多く必要とした(消化が悪い状態になっていた)場合も考えらえる。
この点を確認するために、体重を測定して魚体中の増重量を調べた。
【0064】
表7は、上記実験(実施例16・比較例4及び実施例17・比較例5)の結果を踏まえ、食べた食物の消化率の増減を調べる目的で、一定期間体重を測定した値を示すものである。
表に示されるように、実施例18の金魚の方が「+」(体重増加率がより高い)という結果であった。この結果、表6に示される酸素消費量の増量分は食べた食物の消化率(酸化分解量)の増大に寄与したものであり、消化の増量分は増肉量(同化合成)につながり、体重が増えたことが解った。
つまり、表6や表7に示される結果から、本発明に係る新株ナンノクロロプシス含有飼料を食べることで食物の消化率が増え、それによって消化物の吸収量や増肉量も増えることが解った。
【0065】
さらに、表8は、実施例19の給餌量を減らして体重を測定することで、消化率と増肉率の割合を調べた結果を示すものである。
その結果、実施例19の給餌量(給餌率)を4割減らしても、実施例19の金魚の体重増加量は、比較例7の金魚の体重増加量と同等であった。したがって、本発明に係る新株ナンノクロロプシスを含んだ飼料を食べることで、飼料の増肉への転換率(増重率)が高くなることがわかった。
つまり、新株ナンノクロロプシスを用いると、体重増加量は下がらず、日間飽食量の極限値の数値は下がり、転換率が高くなることがわかった。
【0066】
(トラフグの養殖試験・表9参照)
培養・増殖した新株のナンノクロロプシスを餌料として用いたトラフグの養殖試験を行った。
用いた水槽は、屋内設置されたほぼ正八角形(6m×6m)で深さが1mのものであった。これに約30トンの養殖水(海水)を貯水して養殖を行った。水槽には随時注水を行い、いわゆるかけ流しによる養殖水の入れ替えを行った。なお、注水量は、養殖開始当初は1トン/時の割合とし、成長に応じて順次増量させ、最終的には4トン/時の割合の量であった。
また、水槽に注水する養殖水に対しては、適宜、砂ろ過及び砂ろ過後のUV殺菌処理(サニトロン・JS30)を行った。
また、ふ化仔魚から3cmまでの間、サーモスタッドを用いた自動調整によって、水槽内の水温を18℃〜19℃に保った。
なお、養殖方法については、周知であるので詳細な説明については省略していることがある。
【0067】
(実施例20:孵化仔魚の養殖)
上述の条件の水槽にて、孵化仔魚150000匹を120日間養殖した。
(給餌条件)
投与する餌料は、ワムシ、プランクトン、仔魚用配合飼料であった。そして、同時にナンノクロロプシスを添加した。このナンノクロロプシスは、主に、餌料として投与されたワムシの餌料目的である。
各餌料の給餌条件及びナンノクロロプシスの添加条件は、次の条件であった。
ワムシは、上述の第3水槽で周年培養している新株のナンノクロロプシスを餌料に用いて培養・増殖させたものであった。ワムシの養殖開始当初の給餌量は、1つの水槽に対して1億個体/日であった。その後、孵化仔魚の成長に従い、徐々に増量し、最終的には5億個体/日であった。
新株のナンノクロロプシスの添加量(供給量)は、1つの水槽に対して200リットル/日の培養水であった。この培養水は、上述の第3水槽(及び/又は同じ条件で周年培養している水槽)から取得したものである。
プランクトンについては、トラフグの日齢20日目から給餌を開始した。プランクトンは、具体的には、市販のブラインシュリンプ(日清マリンテック社)であった。給餌開始当初の投与量は、1つの水槽につき、1000万個体/日であった。その後、成長するに従って徐々に増量した。最終的には1億個体/日であった。
これらについて、一日の餌料の量を管理しつつ、一日に1回又は2回に分けて餌料を投与した。
仔魚用配合飼料については、トラフグの日齢25日目から給餌を開始した。他方、ワムシ及びプランクトンの給餌は日齢50日までとし、その後は、配合飼料だけを給餌した。
仔魚用配合飼料は、市販の配合飼料を混合したものであった。具体的には、(株)ヒガシマルの仔魚用配合飼料と、日清丸紅飼料(株)の仔魚用配合飼料と、中部飼料(株)の仔魚用配合飼料を「1:1:1」の比率で混合したものであった。給餌開始当初の投与量及び投与方法は、1つの水槽につき50g/日を1回投与するというものであった。その後、成長するに従って徐々に増量し、最終的には2000g/日を6回に分けて投与するというものであった。
また、体長が5cmになった頃(日齢80日頃)から、配合飼料と同時にオキアミのミンチ(エトウ釣具)の給餌を開始した。ミンチの給餌開始後、配合飼料及びミンチの投与量の比率(重量比)は「3:1」であった。
なお、孵化仔魚の養殖では、日齢30日の時点で約100000匹になっていた仔魚を2つに分けて養殖する(間引いて養殖する)いわゆる分養を行った。
その後、適宜の時期に分養を行い、最終的には4つの水槽で養殖する状態になり、各水槽において約10cmの仔魚を約20000匹(合計約80000匹)養殖する状態になった。
【0068】
(成魚の養殖試験)
実施例20で10cm程度に成長した稚魚(のうちの約10000匹)について、さらに、成魚にするための養殖を1年間行った。ここでの養殖では、容量が20トンの直径5mの円形の水槽を用いた。
なお、養殖方法については、周知であるので詳細な説明については省略していることがある。
【0069】
(給餌条件)
給餌した餌料は、市販のトラフグ養殖用の配合飼料およびミンチであった。
配合飼料は、マルハニチロ(株)のトラフグ養殖用配合飼料と、(株)ヒガシマルのトラフグ用養殖配合飼料とを「1:1」で混合したものであった。この餌料を一日に1回投与した。
なお、給餌方法は、養殖魚の食欲を観察しながら必要十分な給餌量を見極めつつ投与するという周知の方法であった。
【0071】
表9に示されるように、トラフグの体重1グラム当たりの給餌量(体重比)は、トラフグの体重を基準として、1%以下であった。
ところで、通常の日間給餌量(体重比)は、一般的には、稚魚期の場合で3〜7%、中間魚から成魚の期間の場合で1〜3%であると言われている(例えば、山口県水産振興課が平成24年3月発行の「トラフグ」に関する栽培漁業のてびき(改訂版)参照)。
因みに、参照資料に挙げた「トラフグ」に関する栽培漁業のてびき(改訂版)には、トラフグの種苗に対する給餌率は、通常3〜5%であると記載されているところ(てびき6頁参照)、本実施例20における中間魚から成魚へのトラフグの養殖(4か月以降)では、1%以下の給餌量で食欲を満たすことができ、少ない給餌量で養殖可能であることが解った。
【0072】
上述の実施例は、トラフグの養殖であるが、本実施例の新株のナンノクロロプシスは、種々の魚の養殖で用ることで、同様の効果が得られる。例えば、トラフグと同様に白身魚であるヒラメ、真鯛などにおいても同様の効果がある。
【0073】
なお、1990年頃からの養殖魚の生産・販売の実績を基に説明すると、従来の親株のナンノクロロプシス又は市販のクロレラ製品(淡水産・海水産)等を使用して実施例20と同様の方法でトラフグ・ヒラメ・マダイの稚魚を生産した後、生産された稚魚を成魚に養殖する際、成魚に対する給餌率(魚体重に対する割合)は、いずれの魚種であっても通常の一般的な量である1%〜3%の範囲であった(表10参照)。
これに対して、実施例16及び比較例4と、実施例17及び比較例5の金魚の養殖における比較試験(表8参照)や、実施例20のトラフグ養殖試験の結果(表9参照)から解るように、本実施例に係る新株のナンノクロロプシスを使用すれば、日間給餌率が0.4%〜0.8%の範囲の日間給餌率で、従来通りの成魚の養殖を行うことができる。
【0074】
また、本発明に係る新株のナンノクロロプシスを用いたヒラメの中間養殖(8cm〜15cm程度)における日間給餌率(魚体重に対する一日の給餌量の割合)は、平均すると0.43%であった。例えば、体重が約100g(体長約15cm)のヒラメに対する給餌量は、約0.4g(給餌率約0.4%)ということである。
そして、本発明に係る新株のナンノクロロプシスを用いたマダイの中間養殖における日間給餌率(魚体重に対する一日の給餌量の率)は、約0.6%であった。例えば体重が約30g(体長約12cm)のマダイに対する給餌量は約0.18g(給餌率約0.58%ということである。
つまり、ヒラメの成魚への養殖においても、本実施例に係る新株のナンノクロロプシスを使用すれば、日間給餌率が0.4%〜0.6%の範囲の日間給餌率で、従来通りの成魚の養殖を行うことができた。
【0075】
ところで、養殖における給餌量に関して、魚の一日の活動で必要なエネルギに対応する給餌量(基礎代謝に対応する給餌量)が検討されている。
「養魚学総論(株式会社厚生閣、昭和53年6月30日発行、597頁)」によれば、魚が体重1gを一日維持するのに必要な餌飼料の量(給餌量率)は、水温の違いの差はあるが、マアジ・マフグ・カワハギ・ニジマスについて、水温10℃〜20℃付近で、配合飼料のみで約0.4%、生餌のみで約1.7%(水分を多く含む分、多くの餌が必要)である。そして、投餌回数(投与回数)を増やした場合の、餌料の増重量(体重増量)への転換率は、それに比例して増加しておらず、日間増重量には一定の極限値(飽食状態)がある。
つまり、投餌回数を増やすと、増重量はその極限値に次第に近づくように増加することになる。したがって、やたらに投餌回数(投餌量)を増やしても、魚体重の増加速度には限界があり、餌が無駄になるだけである。
そして、飽食量について、魚の体長や水温別の違いはあるが、その給餌率の日間標準量は、体重に対して稚魚期で約5%、成魚で約3%と説明されている(表10参照。稚魚は成魚よりも基礎代謝が大きいため、飽食給餌率は大きな値になる)。
【0076】
実際、本発明に係る新株のナンノクロロプシスを用いていない従前の養殖経験では、一日の給餌量が1%以下の範囲では、給餌量が減れば減るほど魚の成長は遅くなった。その一方で、標準量よりも食べる割には太らない、ということもよくあることであった。そして、飽食量(給餌率約3%の給餌量)を超えた量の餌を食べる状態が3日以上続くと、過食症によって健康状態を害して病気の発生率が高くなり、養殖の歩留まりが悪くなった。つまり、これまでの養殖経験に基づけば、魚は、成長のためには少なくとも約1%以上の餌を摂取する必要があり、成魚に関する標準給餌量(給餌率)は、成長、健康、経済面等の観点から、1%〜3%が適正な値であった。
この点、上述したように、本発明に係る新株のナンノクロロプシスを使用して生産された稚魚(仔魚)を成魚に育成する過程における給餌量について軽減効果が認められた。つまり、これまでよりも少ない給餌量(給餌率)で、従来通りの成魚の養殖を行うことができることが解った。
塩素濃度が3.0ppmであると共に塩分濃度が2.0%の培養水中で増殖するナンノクロロプシスである。ナンノクロロプシスの培養水の塩素濃度を高濃度にする高濃度塩素処理工程と、第1処理工程後に塩素成分を中和する中和処理工程と、中和処理工程後の周年培養工程と、周年培養工程後の高濃度塩素培養水中における培養工程とを有することを特徴とする新株のナンノクロロプシスの作出方法である。