(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
−実施形態1−
電動モータによって駆動動力を得る自動車(モータのみを駆動動力源とする自動車、補
助的駆動動力としてモータを使用する自動車いずれも含む)へ搭載されるDC−DCコンバータは一般的に、高電圧スイッチング回路・トランス・低電圧側整流回路・制御回路を最小基本構成とする。DC―DCコンバータは一般的に、電動モータを駆動するための数百Vの直流高電圧電源の供給を受け、高電圧スイッチング回路において、制御回路より供給されるスイッチング信号を受けて、スイッチング動作を行い交流高電圧化し、トランスにより交流高電圧を交流低電圧へ電圧変換を行い、その後、整流・直流化して、車両補機類に十数Vの直流低電圧電源を供給する機能をもつ。
【0011】
制御回路は直流−交流変換の際のスイッチング動作を演算・制御するための回路であり、上記両電源間の電力状態に応じ、または外部からの通信指令によって、最適なスイッチング期間を算出し制御する回路である。自動車に搭載される電力変換を行う機器においては、安全上の理由から、高電圧系回路と低電圧系回路は、電気的な絶縁を必要とする。筐体が導電性金属で構成される場合、多くは筐体電位と車両ボディを同電位とし、低電圧系の基準電位(いわゆる筐体接地=グラウンド電位)としている。ただし、車載という条件から、小型化・一体ユニット化要求が強く、高電圧系回路と低電圧系回路は、車両ボディと同一電位とした筐体内に一括収納して、一体型ユニットを構成し、電力変換機能を達成する場合がほとんどである。なお、DC−DCコンバータの一般的な電力変換特性として、高電圧系回路は電圧が高いが比較的小電流(〜30A程度)、低電圧系回路は比較的電圧が低いが大電流(〜200A程度)という特性を持つ。
【0012】
これら高電圧系回路と低電圧系回路を、同一筐体内に収納する場合、筐体内配置における各々の回路系の前記のような電力変換特性・相互位置関係及び配置距離・筐体およびフレームの配置状況などにより、高電圧系回路の電圧依存性ノイズおよび低電圧系の電流依存性ノイズが他回路系に電磁結合するといった現象が発生する。この結果、DC−DCコンバータとしての基本機能である電力変換機能の誤動作や、ノイズ規制値(各国法規制及び顧客要求仕様)を満たせないといった問題が発生する。
【0013】
これらの問題を改善するためには、回路の見直しはもちろんであるが、新たにノイズ対
策用構造部品として、シールドケースや導通強化部品を追加する必要が生じ、結果、製品
としてコストアップや体積・重量の増加を招く。
以下、
図1〜6を参照して本発明の実施形態1を説明する。
なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0014】
(DC−DCコンバータの回路構成)
DC−DCコンバータ100について説明する。このDC−DCコンバータ100は高電圧バッテリから低電圧バッテリへの電力変換を行う装置であるが、一方向に限らず、両方向、即ち、直流高電圧電源から直流低電圧電源への変換、逆に直流低電圧電源から直流高電圧電源への変換を行うものも含む。
図1はDC−DCコンバータ100の回路構成の一実施の形態を示す図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施の形態として示すDC−DCコンバータ100は、高電圧スイッチング回路部110と、低電圧スイッチング回路部120と、出力側のフィルタ回路部130と、高電圧スイッチング回路部110と低電圧スイッチング回路部120との間に設けられたトランスTrと、入力側のフィルタ回路部140を備えている。高電圧スイッチング回路部110と低電圧スイッチング回路部120のスイッチング制御は制御回路基板151(
図3、5等参照)上に構成された制御回路部により行われる。なお、制御回路基板151に回路形成された制御回路部は
図1には図示されていない。
【0016】
高電圧スイッチング回路部110は、Hブリッジ型スイッチング回路として接続されたMOSFET等で形成されたスイッチング素子H1〜H4と、共振コイルLrと、平滑コンデンサCinを備える。平滑コンデンサCinは、Hブリッジ型スイッチング回路の入力側に配置され、高電圧スイッチング回路部110に入力される入力電流を平滑にする。なお、スイッチング素子H1〜H4のゲート端子には図示しないゲート抵抗が接続されている。
【0017】
図1の破線で囲った高電圧スイッチング回路部110は、高電圧スイッチング回路部110を構成するスイッチング素子H1〜H4をHブリッジ接続する配線回路基板上に設けられる。また、この配線回路基板には、スイッチング素子H1〜H4であるパワー半導体モジュール 、平滑コンデンサCin、および共振コイルLrを除くその他の電子部品が実装されるとともに、それらの配線パターンも設けられる。
【0018】
低電圧スイッチング回路部120は、MOSFET等で形成される4つのスイッチング素子S1、S2、S3、S4と、コイルLoutと、コンデンサCc及びCoutを備えている。低電圧スイッチング回路部120は、同期整流方式による整流を行い、アクティブクランプ方式によりサージ吸収を実現し、回路部品の低耐圧化を図り、装置を小型化している。なお、低電圧整流回路部の構成は、上記同期整流方式と同じ必要はなく、ダイオード整流方式でも構わないし、アクティブクランプ方式の採否を問わない。
なお、MOSFET S1〜S4のゲート端子には図示しないゲート抵抗が接続されている。
【0019】
出力側のフィルタ回路部130は、インダクタLfおよびフィルタコンデンサCfを備えている。
なお、出力側のノイズフィルタ回路は
図1に示すような回路構成に限定しない。当然、複数の素子を用いて実現しても構わない。
【0020】
図1の破線で囲った低電圧スイッチング回路部120は、スイッチング素子S1〜S4を接続する配線が回路基板上に設けられる。また、この回路基板には、
図1に示す電子部品のうちコイルLoutを除く電子部品が実装されるとともに、それらの配線パターンも設けられる。
制御回路基板151に回路形成された制御回路部(図示せず)は、高電圧スイッチング回路部110および低電圧スイッチング回路部120へ供給するスイッチング信号を生成し、且つDC−DCコンバータ100全体の動作制御を行う。
【0021】
入力側のフィルタ回路部140は、高電圧電源と平滑化コンデンサCinの間にコモンモードフィルタLcmnとコンデンサCyが備えられている。これにより、高電圧電源およびバッテリケーブルにコモンモードノイズが伝導することを防いでいる。フィルタ回路部130は、基本的にはコイル及びコンデンサで構成されるが、コンデンサのみで構成されるものでも構わない。なお、
図1の回路は素子数を示すものではなく、回路記号例である。当然、複数の素子を用いて実現しても構わない。また、入力側のフィルタ回路部140は必ずしも必要ではなく、製品仕様に応じて採否を決めればよい。
次に、DC−DCコンバータ100の全体構造について説明する。
【0022】
(DC−DCコンバータの全体構造)
図2は、本発明の電力変換装置の実施形態1の模式的平面図であり、
図3(a)は、
図2に図示された電力変換装置の模式的断面図であり、
図3(b)は、フィルタ収納部周辺の斜視図である。
なお、以下において、x方向、y方向およびz方向を図示の通りとする。
本発明の実施形態1は、電力変換装置としてDC−DCコンバータ100を例とする。
電力変換装置であるDC−DCコンバータ100は、筐体11および筐体11に締結部材等の固定手段(図示せず)により固定されるケース蓋14を備えている。
図1に図示されたDC−DCコンバータ100の回路部品は、筐体11内に収容される。筐体11およびケース蓋14は、例えば、アルミダイキャスト等の金属により形成されている。筐体11はDC−DCコンバータ100が搭載される自動車のボディまたはシャーシに電気的に接続され、グラウンド電位は、車両ボディと同電位となっている。
【0023】
筐体11は、
図2に図示されるように、平面視でほぼ矩形形状を有し、
図3(a)に図示されるように、底部11aと、この底部11aにほぼ垂直に形成された周側壁11bとを有し、ボックス状に形成されている。筐体11には、底部11aに対してほぼ垂直に延在された第1の隔壁11cが形成されている。第1の隔壁11cは、筐体11と一体成形されている。第1の隔壁11cは、
図3(b)に示されるように、周側壁11bの1つのコーナー部に、ほぼL字形状に形成され、コーナー部における周側壁11bと共に、矩形形状のフィルタ収納部31を形成する。フィルタ収納部31には、フィルタ回路部130を構成するインダクタLfとフィルタコンデンサCfとが収納されている。また、フィルタ回路部130に接続された不図示の出力端子が収納されている。この出力端子には出力用のバスバ3が接続され、出力用のバスバ3は、周側壁11bに形成された開口41から外部に延出されている。
【0024】
筐体11のフィルタ収納部31を除く空間は、変換用回路部収納部32となっている。変換用回路部収納部32には、高電圧スイッチング回路部110と、低電圧スイッチング回路部120と、トランスTrと、入力側のフィルタ回路部140とが収納されている。フィルタ回路部140には、不図示の入力端子が設けられ、この入力端子には入力用の直流バスバ2a、2bが接続され、直流バスバ2a、2bは、周側壁11bに形成された開口42から外部に延出されている。
なお、図示はしないが、バスバ3と開口41の間、および直流バスバ2a、2bと開口42との間には、不図示のシールド部材が介装されており、外部からの電磁ノイズを遮断する構造とされている。
【0025】
図3(a)、(b)に図示されるように、筐体11の周側壁11bの内面には、段部44が形成されている。段部44は、筐体11内に配置される部品のいずれよりも高い位置に形成されており、この段部44上にベース板12が載置されている。ベース板12上に、制御回路基板151が配置されている。制御回路基板151は、締結部材等によりベース板12に固定されている。ケース蓋14は、制御回路基板151上に配置されている。
【0026】
図示はしないが、スイッチング素子H1〜H4は、筐体11の底部11aに熱結合されている。筐体11の底部11aは、図示はしないが、冷却水などの冷媒の冷却流路を備えた冷却流路構成部材に熱結合されており、スイッチング素子H1〜H4は、筐体11を介して冷却流路構成部材によって冷却される。この冷却構造は、低電圧スイッチング回路部120を構成するスイッチング素子S1、S2、S3、S4やトランスTr等、他の発熱部材に対しても同様である。
【0027】
フィルタ回路部130は、第1の隔壁11cに設けられた開口43を挿通する接続用のバスバ5により、低電圧スイッチング回路部120に電気的に接続されている。
図2、
図3(a)に図示されるように、フィルタ収納部31内に配置されたインダクタLf、すなわち、フェライトコアの一端面が第1の隔壁11cに密着した状態で配置されており、開口43を塞いでいる。従って、電磁ノイズが開口43を介してフィルタ収納部31内に伝播されることはない。なお、
図3(a)に示されるように、制御回路基板151には、弱電系の電源500が接続されている。
【0028】
(電磁ノイズ伝播低減構造)
図2の点線で囲まれた領域には、電磁ノイズ伝播低減構造50が設けられている。
図4(a)、(b)は
図2に図示された第1の隔壁の拡大図であり、
図4(a)は第1の隔壁11cの上面の一部を示す平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)をx方向から観た側面図である。
図5は、
図2のV−V線断面図であり、
図6は、
図5をx方向から観た側面図である。
図3(b)および
図4(a)、(b)に図示されるように、第1の隔壁11cの上面61には、凹部16が形成されている。換言すれば、上面61には、凹部16に対して上方(Z方向)に突き出す複数の取付部61aが、凹部16で分離して設けられている。
【0029】
ベース板12は、この取付部61aにねじ等の締結部材152(
図4、
図6参照)により締結され固定されている。ベース板12と第1の隔壁11cとは、締結部材152により締結されることにより電気的に接続されている。フィルタ収納部31の上部は、ベース板12により覆われる。
図5に図示されるように、ベース板12の上面におけるフィルタ収納部31に対応する領域には、制御回路部を有する制御回路基板151が、締結部材により固定される。締結部材は、制御回路部の接地パターン(図示せず)をベース板12に接続する。
【0030】
ベース板12と第1の隔壁11cとの締結構造において、第1の隔壁11cの凹部16は、第1の隔壁11cとベース板12との隙間を形成する。なお、
図4(a)では、ベース板12の図示を省略して、締結部材152と第1の隔壁11cの取付部との関連を明確にしている。
【0031】
図5に示すように、ベース板12には、第1の隔壁11cに沿う第2の隔壁12bが一体成形されている。第2の隔壁12bは、
図3(b)では、二点鎖線により図示されている。第2の隔壁12bは、フィルタ収納部31内において、第1の隔壁11cとフィルタ回路部130との間に配置されており、第1の隔壁11cとわずかな隙間を存して、第1の隔壁11cの全長に沿って形成されている。第2の隔壁12bは、ベース板12の底面から筐体11の底部11aに向けて、第1の隔壁11cの中間まで延出されている。第2の隔壁12bのz方向、すなわち上下方向の長さは、第1の隔壁11cのz方向の長さよりも短い。第2の隔壁12bの上下方向の長さは、少なくとも、第1の隔壁11cの凹部16の深さより大きくする必要である。第2の隔壁12bの上下方向の長さは、フィルタ回路部130の構成部材の配置に支障がない限り、大きくすることが望ましい。
このように、
図2に図示された電磁ノイズ伝播低減構造50は、第1の隔壁11cおよび第2の隔壁12bにより構成される。
次に、電磁ノイズ伝播低減構造50による作用について説明する。
【0032】
低電圧スイッチング回路部120から放射される電磁ノイズは、第1の隔壁11cにより吸収される。しかし、電磁ノイズの一部は、第1の隔壁11cに設けられた凹部16からフィルタ収納部31内に侵入する。電磁ノイズがフィルタ回路部130に伝播して電磁結合するとフィルタ性能が低下する恐れがある。電磁ノイズは、電磁ノイズの伝播経路となる隙間の幅および長さの大きさに依存して減衰する。フィルタ収納部31と変換用回路部収納部32とが第1の隔壁11cのみで区画されている場合、電磁ノイズの伝播経路となる隙間の長さは、第1の隔壁11cの厚さ、換言すればx方向またはy方向の長さのみである。本発明の実施形態1では、第1の隔壁11cに隣接して第2の隔壁12bを形成した。この構造では、電磁ノイズの伝播経路となる隙間の長さは、見掛け上、第1の隔壁11cと第2の隔壁12bとが重なる長さだけ長くなる。このため、第1の隔壁11cのみで区画されている構造に比し、電磁ノイズの低減効果を大きくすることができる。
なお、上述したように、筐体11は、車両ボディに接地することが好ましい。
【0033】
ここで、第2の隔壁12bを、変換用回路部収納部32内において、第1の隔壁11cと低電圧スイッチング回路部120との間に配置することもできる。しかし、第2の隔壁12bを、第1の隔壁11cより低電圧スイッチング回路部120側に配置する構造(以下、「対比構造」とする)では、低電圧スイッチング回路部120から放射される電磁ノイズが、直接、第1の隔壁11cより手前の第2の隔壁12bに吸収されてベース板12に伝播する。
電磁ノイズが、第1の隔壁11cより手前の第2の隔壁12bに吸収されてベース板12に吸収された場合、ベース板12を介して制御回路基板151に設けられた制御回路部等に伝播するため、第1の隔壁11cを介して筐体11からグラウンドに落ちる場合に比し、制御回路部等、他の回路と電磁結合する恐れが高い。このため、対比構造においては、第1の隔壁11cと低電圧スイッチング回路部120との間に配置する第2の側壁12bの上下方向の長さをあまり大きくすることができない。つまり、電磁ノイズの伝播経路となる隙間の長さを余り長くすることができない。
【0034】
これに対し、第2の隔壁12bを、第1の隔壁11cとフィルタ回路部130との間に配置した本発明の実施形態1では、対比構造のような他の回路との電磁結合の懸念がない。従って、電磁ノイズの伝播経路となる隙間の長さを十分な長さにすることが可能であり、電磁ノイズの伝播の低減効果を大きくすることができる。
【0035】
なお、第1の隔壁11cの上面61に凹部16を形成する理由について説明する。
第1の隔壁11cの上面61はベース板12と面接触して締結されている。このため、外部からの振動や衝撃により、ベース板12と第1の隔壁11cの上面61とが、相互に当接したり擦れたりして摩耗し、金属粉が発生する可能性がある。摩耗により金属粉が発生することは、回路部の短絡等の不具合を生じる恐れがある。
第1の隔壁11cの上面61に凹部16を設けることにより、第1の隔壁11cの取付部61aの面積は小さくなり、摩耗による金属粉の発生を抑制することができる。このため、前以て、第1の隔壁11cの上面61に凹部16を形成しておくのである。
しかし、DC−DCコンバータ100が、振動や衝撃をほとんど受けることが無いような環境下に設置されるならば、上記実施形態1において、第1の隔壁11cの上面61に凹部16を形成しない構造としてもよい。
【0036】
以上説明したように、実施形態1のDC−DCコンバータ100によれば以下の効果を奏する。
(1)金属製の筐体11に設けた第1の隔壁11cに、金属製のベース板12に設けられた第2の隔壁12bを、締結部材152により電気的および機械的に固定した。第2の隔壁12bは、第1の隔壁11cと僅かな隙間を存して、第1の隔壁11cに沿って、その全長に亘って形成されている。このため、電磁ノイズの伝播経路の長さが長くなり、電磁ノイズの低減効果を大きくすることができる。
【0037】
(2)第2の隔壁12bが、低電圧スイッチング回路部120とフィルタ回路部130との間に配置されている。このため、第2の隔壁12bには、低電圧スイッチング回路部120から放射される電磁ノイズのうち、第1の隔壁11cとベース板12との隙間である凹部16から侵入する分のみが伝播される。従って、第2の隔壁が、第1の隔壁11cよりも低電圧スイッチング回路部120側に配置される構造に比し、ベース板12に吸収される電磁ノイズの量が少ない。つまり、ベース板12を介して他の回路が受ける影響はほとんどない。このため、第2の隔壁12bと第1の隔壁11cとにより、電磁ノイズの伝播経路の長さを十分に大きくして、大きな電磁ノイズ低減効果を得ることができる。
【0038】
−実施形態2−
図7は、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造の実施形態2を示す断面図であり、
図8は、
図7をx方向から観た側面図である。
図7、
図8は、それぞれ、実施形態1の
図5、
図6に対応する図である。
実施形態2のDC−DCコンバータ100は、電磁ノイズ伝播低減構造50Aを備えている。電磁ノイズ伝播低減構造50Aは、実施形態1の電磁ノイズ伝播低減構造50に対し、さらに、第3の隔壁12cを備えている。
すなわち、実施形態2のベース板12は、第2の隔壁12bと共に第3の隔壁12cが一体成形された構造を有する。
【0039】
第2の隔壁12bは、実施形態1と同様、第1の隔壁11cとフィルタ回路部130との間に配置されている。第3の隔壁12cは、第1の隔壁11cと低電圧スイッチング回路部120との間に配置されている。第3の隔壁12cは、第1の隔壁11cとわずかな隙間を存して、第1の隔壁11cの全長に沿って形成されている。第3の隔壁12cは、ベース板12の底面筐体11の底部11aに向けて、第1の隔壁11cの中間まで延出されている。第3の隔壁12cの上下方向の長さは、第2の隔壁12bよりも短い。
実施形態2の他の構造は、実施形態1と同様であり、対応する部材、部位に同一の参照符号を付して、説明を省略する。
【0040】
実施形態2の電磁ノイズ伝播低減構造50Aでは、第1の隔壁11cと第3の隔壁12cを有するので、この分、電磁ノイズの伝播経路が実施形態1の電磁ノイズ伝播低減構造50よりも長くなっている。
従って、電磁ノイズの低減効果をより大きくすることができる。
【0041】
なお、上述したように、第3の隔壁12cの上下方向の長さを大きくすると、ベース板12に吸収される電磁ノイズの量が増大するので、この長さを余り大きくすることはできない。このため、
図7に示す例では、第3の隔壁12cの上下方向の長さを、第2の隔壁12bよりも短くしている。しかし、他の回路への影響が小さければ、第3の隔壁12cと第2の隔壁12bとは、上下方向の長さをほぼ同じにすることができる。また、フィルタ収納部31内に収納されるフィルタ回路部130のレイアウトの関係で、第2の隔壁12bの上下方向の長さを、第3の隔壁12cよりも短くしてもよい。
【0042】
−実施形態3−
図9は、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造の実施形態3を示す断面図であり、
図10は、
図9をx方向から観た側面図である。
実施形態3に示すDC−DCコンバータ100は、電磁ノイズ伝播低減構造50Bを備えている。
電磁ノイズ伝播低減構造50Bは、筐体11の周側壁11bの内面とベース板12の側端面62の近傍に形成されている。
図2、
図3(b)に図示されるように、フィルタ収納部31は、矩形形状の筐体11の4つのコーナー部の内の1か所に、隔壁11cの1つのコーナー部を位置合わせして締結される。ベース板12を、隔壁11cに締結する際、筐体11の上記周側壁11bの内面とベース板12の上記側端面62との間には、公差や取付時のばらつきに起因する隙間17が形成される。
【0043】
ベース板12の周側壁11bと対向する箇所の底面には、ベース板12の底部11aに向かって延出された第4の隔壁12dが一体成形されている。第4の隔壁12dは、筐体11の周側壁11bの内面とわずかな隙間を存して、周側壁11bの内面に沿って、フィルタ収納部31内の全長に亘って形成されている。第4の隔壁12dは、筐体11の底部11aに向けて、周側壁11bの高さの中間まで延出されている。
【0044】
すなわち、筐体11の周側壁11bとベース板12の第4の隔壁12dにより、電磁ノイズの伝播経路の長さを長くする電磁ノイズ伝播低減構造50Bが形成されている。この電磁ノイズ伝播低減構造50Bにより隙間17を介してフィルタ回路部130に伝播される電磁ノイズが抑制される。
実施形態3における他の構造は、実施形態1と同様であり、対応する部材、部位に同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
実施形態3のDC−DCコンバータ100も、実施形態1と同様、フィルタ回路部130に伝播される電磁ノイズを低減する効果を奏する。実施形態3は、特に、筐体11の周側壁11bとベース板12の側端面62から伝播される電ノイズが大きい場合に適する。
【0046】
−実施形態4−
図11は、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造の実施形態4を示す断面図であり、
図12は、
図11をx方向から観た側面図である。
実施形態4のDC−DCコンバータ100は、電磁ノイズ伝播低減構造50Cを備えている。電磁ノイズ伝播低減構造50Cは、実施形態2の電磁ノイズ伝播低減構造50Aと実施形態3の電磁ノイズ伝播低減構造50Bとを組み合わせた構造を有する。
【0047】
すなわち、ベース板12は、第2の隔壁12bと、第3の隔壁12cと、第4の隔壁12dとが一体成形された構造を有する。
実施形態4の他の構造は、実施形態1と同様であり、対応する部材、部位に同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態4は、実施形態2および実施形態3の効果を有しているので、電磁ノイズの低減効果をさらに大きくすることができる。
【0048】
−実施形態5−
図13は、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造の実施形態5を示す断面図であり、
図14は、
図13をx方向から観た側面図である。
実施形態5のDC−DCコンバータ100は、電磁ノイズ伝播低減構造50Dを備えている。電磁ノイズ伝播低減構造50Dは、筐体11に一体成形された第1の隔壁11c、第5の隔壁11d、およびベース板12に一体成形された第2の隔壁12b、第4の隔壁12dを備えている。
【0049】
第5の隔壁11dは、第2の隔壁12bとフィルタ回路部130との間に配置されている。第5の隔壁11dは、第1の隔壁11cと同様な構造を有している。すなわち、第5の隔壁11dの上面には凹部16および取付部61a(
図4(b)参照)が形成されている。ベース板12は、締結部材152により第5の隔壁11dの取付部61aに締結される。
実施形態5における他の構造は、実施形態1と同様であり、対応する部材、部位に同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
実施形態5の電磁ノイズ伝播低減構造50Dは、実施形態4の第3の隔壁12cを、第5の隔壁11dに置換したような構造となっている。すなわち、実施形態4では、第3の隔壁12cが第1の隔壁11cよりも低電圧スイッチング回路部120側に配置されているに対し、実施形態5では、第5の隔壁11dは、第1の隔壁11cよりもフィルタ回路部130側に配置されている。しかも、実施形態4では、第3の隔壁12cがベース板12に一体成形されているに対し、第5の隔壁11dは筐体11に一体成形されている。このため、実施形態4の電磁ノイズ伝播低減構造50Cに比し、電磁ノイズ伝播低減構造50Dにより吸収される電磁ノイズが他の回路と電磁結合する可能性がより小さい。これに伴って、電磁ノイズの伝播経路をより長くすることが可能となるので、実施形態4よりも、さらに、電磁ノイズの抑制効果を大きくすることができる。
【0051】
−実施形態6−
図15は、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造の実施形態6を示す断面図であり、
図16は、
図15をx方向から観た側面図である。
実施形態6のDC−DCコンバータ100は、電磁ノイズ伝播低減構造50Eを備えている。
電磁ノイズ伝播低減構造50Eは、実施形態1の電磁ノイズ伝播低減構造50と類似する。しかし、電磁ノイズ伝播低減構造50Eは、第1の隔壁11cには、その上面61に凹部16が形成されていない点で、実施形態1の電磁ノイズ伝播低減構造50と相違する。
実施形態1において説明した通り、第1の隔壁11cの凹部16は、ベース板12と第2の隔壁12bの上面61とが、振動や衝撃を受けた際に、相互に当接したり擦れたりして摩耗し、金属粉が発生することを防止するために形成される。しかし、DC−DCコンバータ100が、振動や衝撃をほとんど受けることが無いような環境下に設置されるならば、第1の隔壁11cに凹部16を形成する必要は無い。
実施形態6の他の構造は、実施形態1と同様であり、対応する部材、部位に同一の参照符号を付して、説明を省略する。
【0052】
第1の隔壁11cの上面61に凹部16が形成されておらず、上面61が平坦であっても、上面61とベース板12の底面とが面接触する領域には、微小な隙間が存在する。この隙間から電磁ノイズがフィルタ収納部31内に伝播する。しかし、電磁ノイズの伝播経路は、第1の隔壁11cと第2の隔壁12bにより長く形成されているので、電磁ノイズの伝播は抑制される。
【0053】
なお、上記では、第1の隔壁11cに凹部16が形成されない構造を、実施形態1の電磁ノイズ伝播低減構造50に適用した構造として例示した。しかし、第1の隔壁11cに凹部16が形成されない構造を、第2〜第5の実施形態それぞれの電磁ノイズ伝播低減構造50B〜50Dに適用することもできる。
【0054】
−実施形態7−
図17は、本発明の電力変換装置の実施形態7を示す断面図である。
図17に示される電力変換装置100Aは、筐体11内に収納されたDC−DCコンバータ回路100とインバータ回路200とを備える。インバータ回路200は、図示はしないが、例えばIGBT等で形成される複数のスイッチング素子を備え、コンデンサモジュールと共にインバータを構成する。インバータは、高電圧蓄電池の直流高電圧出力を交流高電圧に電力変換してモータを駆動する。
【0055】
筐体11には、y方向、すなわち、幅方向の中間に、長手方向であるx方向に延在された仕切り壁71が一体成形されている。仕切り壁71は、周側壁11bのy方向に延在される一対の側壁72、73のうちの一方の側壁72に連結され、他方の側壁73からは離間されている。仕切り壁71と他方の側壁73との離間部には、開口74が形成されている。インバータ回路200は、開口74に挿通された直流バスバ2a、2bによりDC−DCコンバータ100に接続されている。
【0056】
図2に図示されるDC−DCコンバータ100と同様、筐体11の1つのコーナー部には、実施形態1〜6の電磁ノイズ伝播低減構造50、50A〜50Eのいずれか一つが形成されている。従って、実施形態1〜6において説明したように、DC−DCコンバータ100およびインバータ回路200から放射される電磁ノイズは、電磁ノイズ伝播低減構造50、50A〜50Eにより、出力側のフィルタ回路部130への伝播が抑制される。
【0057】
(電磁ノイズの低減効果)
以下の実施例により、本発明の電磁ノイズ伝播低減構造50、50A〜50によるノイズ低減効果を検証した。
電力変換装置は、
図17に図示されるように、金属製の筐体11内に、DC−DCコンバータ100とインバータ回路200が収納された構造を備える電力変換装置100Aとした。
実施例1は、筐体11内に
図5に図示される電磁ノイズ伝播低減構造50を形成した。
実施例2は、筐体11内に
図7に図示される電磁ノイズ伝播低減構造50Aを形成した。
実施例3は、筐体11内に
図9に図示される電磁ノイズ伝播低減構造50Bを形成した。
実施例4は、筐体11内に
図11に図示される電磁ノイズ伝播低減構造50Cを形成した。
比較として、ベース板12に、第1の隔壁11cよりも低電圧スイッチング回路部120側に隔壁が一体形成された電磁ノイズ伝播低減構造(
図18に図示された比較例の図を参照)を作製した。
測定基準構造は、筐体11に第1の隔壁のみを有する構造(
図18の測定基準構造参照)とした。
【0058】
測定基準構造に対する各実施例1〜4および比較例の電磁ノイズの増減を測定した結果を
図18に示す。
図18に示されるように、測定基準構造に対する電磁ノイズは、比較例では0.7dBの低減が見られただけであった。
これに対し、実施例1〜4では、電磁ノイズは、それぞれ、1.8dB、2.0dB、3.5dB、6.2dBの低減が見られた。
このように、本発明の各実施形態では、比較例に対し、大きな電磁ノイズ低減効果を得られることが確認された。
【0059】
なお、上記実施形態では、第1の隔壁11cを筐体11に一体成形した構造として例示した。しかし、第1の隔壁11cを筐体11とは別部材として形成し、溶接などにより接合するようにしてもよい。または、筐体11と第1の隔壁11cとの一方に溝を形成し、他方に突起を設け、両部材を焼嵌めや冷し嵌めにより一体化したり、溝と突起とを嵌合した状態で、締結部材により締結したりするようしてもよい。
【0060】
ベース板12と第2〜第4の隔壁12b〜12dについても同様であり、一体成形する以外に、溝と突起とを焼嵌めや冷し嵌めにより一体化したり、溝と突起とを嵌合した状態で、締結部材により締結したりするようしてもよい。
【0061】
上記実施形態において、フィルタ収納部31は、筐体11のコーナー部に形成され、L字形状の第1の隔壁11cによりフィルタ回路部130と仕切られている構造として例示した。しかし、
図19(a)に示すように、フィルタ収納部31は、周側壁11bを、平面視でコ字形状に形成し、コ字形状の開口部に、この開口部を塞ぐように第1の隔壁11cを形成する構造とすることもできる。この構造の場合には、第1の隔壁11cは、直線状となり、電磁ノイズ伝播低減構造も、第1の隔壁11cに沿う直線状に形成すればよい。
逆に、
図19(b)に示すように、第1の隔壁11cを平面視でコ字形状に形成し、このコ字形状の開口部を、筐体11の側壁で塞ぐ構造とすることもできる。この構造では、電磁ノイズ伝播低減構造は、第1の隔壁11cに沿って、コ字形状に形成することが望ましい。
さらに、
図19(c)に示すように、第1の隔壁11cを、筐体11の周側壁11bの内部に、枠状に形成することもできる。この構造では、電磁ノイズ伝播低減構造は、第1の隔壁11cに沿って枠状に形成することが望ましい。
【0062】
制御回路基板151に形成された制御回路部の接地パターンは、ベース板12に締結部材152に固定されて同電位とされている構造として例示した。しかし、制御回路部の接地パターンは、コンデンサを介してベース板12に接続するようにしてもよい。
【0063】
上記実施形態では、ノイズを放射する能動回路として、DC−DCコンバータ100およびインバータ200を例示した。しかし、本発明は、これに限らず、他の電力変換装置に対しても適用が可能である。
【0064】
以上の説明は一例であり、本発明は上記実施形態に限定されない。
要は、金属など導電性を有する材料で形成された筐体内に、ノイズを放射する能動回路部と、出力側のフィルタ回路部とが形成された電力変換装置において、能動回路部とフィルタ回路部との間に配置された第1の隔壁を有する筐体と、第1の隔壁とフィルタ回路部の間に配置された第2の隔壁を有するベース板とを備えるものであればよい。筐体やベース板は導電性を持つ素材から形成されればよく、金属製に限定されない。