特許第6218152号(P6218152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6218152
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】内耳細胞誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20171016BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20171016BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20171016BHJP
【FI】
   C12N5/074
   C12N5/0793
   C12N5/071
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-98423(P2015-98423)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-231365(P2015-231365A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-100017(P2014-100017)
(32)【優先日】2014年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】細谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 正人
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187416(WO,A1)
【文献】 特表2013−501502(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/166488(WO,A1)
【文献】 Cell, 2010, 141, pp.704-16
【文献】 Developmental Biology, 2007, 308, pp.379-91
【文献】 Development, 2003, pp.6329-39
【文献】 Developmental Biology, 2013, 379, pp.208-20
【文献】 Nature, 2012, 490(7419):278-82
【文献】 Stem Cells and Development, Published online 2014 Feb 10, 23(11):1275-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から内耳幹細胞への誘導方法であって、
前記多能性幹細胞をROCK Inhibitor存在下で培養する工程と、
増殖因子非存在下、ROCK Inhibitor非存在下で培養する工程と、
無血清培地で培養する工程と、
bFGF, FGF3, FGF10, FGF19, 及びBMP4を含有する無血清培地で培養する工程と、
bFGF, FGF3, FGF10, 及びFGF19を含有する無血清培地で培養する工程と、
単一細胞に解離する工程と
を、この順で行う、誘導方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞が、 胚性幹細胞(ES細胞)または 人工多能性幹細胞(iPS細胞)である請求項1に記載の誘導方法。
【請求項3】
前記単一細胞に解離した細胞を、poly-O-fibronectine でコートした培養皿で培養する工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の誘導方法。
【請求項4】
多能性幹細胞から支持細胞及び有毛細胞を含む内耳感覚上皮ならびに神経細胞及びグリア細胞を含む蝸牛神経節細胞の誘導方法であって、
請求項1の方法によって、内耳幹細胞を製造する工程と、
前記内耳幹細胞をbFGF, EGF, IGF1, Wnt3a, FGF9, FGF20, Heparin, 及びTGFβ阻害薬存在下で浮遊培養する工程と、
接着培養する工程と、
を、この順で行う、誘導方法。
【請求項5】
多能性幹細胞から血管条辺縁細胞の誘導方法であって、
請求項1の方法によって、内耳幹細胞を製造する工程と、
前記内耳幹細胞をbFGF, EGF, IGF1, FGF3, FGF10, 及びHeparin存在下で浮遊培養する工程と、
接着培養する工程と、
を、この順で行う、誘導方法。
【請求項6】
多能性幹細胞から、Periotic mesenchymal 細胞の誘導方法であって、
請求項1の方法によって、内耳幹細胞を製造する工程と、
前記内耳幹細胞をbFGF存在下で培養する工程を含む、誘導方法。
【請求項7】
多能性幹細胞から、蝸牛線維細胞及び血管条細胞の誘導方法であって、
請求項6の方法によって、Periotic mesenchymal 細胞を製造する工程と、
前記Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養する工程と、
bFGF非存在下で培養し、蝸牛線維細胞及び血管条細胞を得る工程と、
をこの順で行う、誘導方法。
【請求項8】
前記血管条細胞が血管条基底細胞である、請求項7に記載の誘導方法。
【請求項9】
多能性幹細胞から、Pendrin陽性細胞の誘導方法であって、
請求項6の方法によって、Periotic mesenchymal 細胞を製造する工程と、
前記Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養する工程と、
bFGF非存在下で、NaHCO3存在下で培養し、Pendrin陽性細胞を得る工程と、
をこの順で行う。誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内耳細胞誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞は、再生医療あるいはリサーチ・ツール(創薬、病態解明)などへの応用に大きな期待が集まっている。
【0003】
しかしながら、いずれの用途に利用する場合も、高品質の細胞を安定的に大量かつ適切な価格で供給する必要があるが、従来ヒトES細胞から内耳幹細胞を誘導する場合、胚葉体形成およびそれにともなう目視下における内耳幹細胞の選択が必要であり、長期の培養期間および低効率が問題であった(非特許文献1−2)。さらに、内耳幹細胞から内耳有毛細胞の誘導法は報告されている(非特許文献1−2)が、非常に効率が悪く、薬剤毒性確認および内耳有毛細胞繊毛の評価に耐えうる質の有毛細胞は報告されておらず、創薬および再生医療に応用するには、品質の面で問題があった。
【0004】
また、これまでに内耳を構成する細胞であり、薬物毒性等による聴力障害に深く関与すると考えられている内耳線維細胞および血管条細胞は、多能性幹細胞からの誘導法がなく、内耳研究の制約となっていた。
【0005】
このように、内耳細胞は、多能性幹細胞から誘導するのが困難であるか、誘導できても品質が悪く、再生医療あるいはリサーチ・ツールに利用することは極めて困難な状況にあり、効率的かつ高品質な内耳細胞の誘導法が求められていた。
【0006】
一方で、種々の原因により惹起される聴覚障害、取り分け薬剤起因の聴覚障害に関し、実験動物では聴覚の測定/比較が困難であり、科学的評価が難しく、この点からも、内耳細胞の誘導法の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature 2012 Oct 11;490(7419):278-82
【非特許文献2】Stem cells Dev. 2014 Mar 10 published online
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、内耳細胞誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様は、多能性幹細胞から内耳幹細胞への誘導方法であって、前記多能性幹細胞をROCK Inhibitor存在下で培養する工程と、ROCK Inhibitor非存在下で培養する工程と、無血清培地で培養する工程と、増殖因子含有無血清培地で培養する工程と、単一細胞に解離する工程とを、この順で行う、誘導方法である。前記多能性幹細胞が、 胚性幹細胞(ES細胞)または 人工多能性幹細胞(iPS細胞)であってもよい。前記単一細胞に解離した細胞を、poly-O-fibronectine でコートした培養皿で培養する工程と、をさらに含んでもよい。
【0010】
本発明のさらなる一実施態様は、内耳幹細胞から内耳感覚上皮(支持細胞、有毛細胞)および、蝸牛神経節細胞の誘導方法であって、前記内耳幹細胞をFGF9およびFGF20存在下で浮遊培養する工程と、接着培養する工程とを、この順で行う、誘導方法である。
【0011】
本発明のさらなる一実施態様は、内耳幹細胞から血管条辺縁細胞の誘導方法であって、前記内耳幹細胞をFGF3および/またはFGF10存在下で浮遊培養する工程と、接着培養する工程とを、この順で行う、誘導方法である。
【0012】
本発明のさらなる一実施態様は、内耳幹細胞から、Periotic mesenchymal 細胞の誘導方法であって、前記内耳幹細胞をbFGF存在下で培養する工程を含む、誘導方法である。
【0013】
本発明のさらなる一実施態様は、Periotic mesenchymal 細胞から、蝸牛線維細胞及び血管条細胞の誘導方法であって、前記Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養する工程と、bFGF非存在下で培養し、蝸牛線維細胞及び血管条細胞を得る工程と、をこの順で行う、誘導方法である。この血管条細胞は、血管条基底細胞であってもよい。
【0014】
本発明のさらなる一実施態様は、Periotic mesenchymal 細胞から、Pendrin陽性細胞の誘導方法であって、前記Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養する工程と、bFGF非存在下で、NaHCO3存在下で培養し、Pendrin陽性細胞を得る工程と、をこの順で行う。誘導方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内耳細胞誘導方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)本発明の一実施例において、得られた内耳幹細胞の位相差顕微鏡写真である。(B)本発明の一実施例において、得られた内耳幹細胞を(a)抗PAX2抗体、(b)抗PAX8抗体、(c)抗SOX2抗体で染色した結果を示した顕微鏡写真である。
図2】本発明の一実施例(有毛細胞の分化誘導)において、内耳幹細胞を浮遊培養し、FGF9およびFGF20存在下で培養することによって、有毛細胞のマーカーであるエスピン、ミオシン7a、プレスチンが発現することを示した顕微鏡写真である。(左図;三重染色)エスピン、ミオシン7a、プレスチン(右上)ミオシン7a(右下)エスピンの抗体で、染色した。
図3】本発明の一実施例(支持細胞の分化誘導)において、内耳幹細胞を浮遊培養し、FGF9およびFGF20存在下で培養することによって、支持細胞マーカーであるp27kip1、ISLET1が発現することを示した顕微鏡写真である。(左図;三重染色)p27kip1、ISLET1、プレスチン(右図;二重染色)ISLET1、プレスチンの抗体で、染色した。
図4】本発明の一実施例(蝸牛神経節細胞の分化誘導)において、内耳幹細胞を浮遊培養し、FGF9およびFGF20存在下で培養することによって、蝸牛神経節グリア細胞のマーカーであるGFAP、成熟神経細胞のマーカーであるカルビンジン及びベータIIIチューブリンが発現することを示した顕微鏡写真である。GFAP、カルビンジン及びベータIIIチューブリンの抗体で、三重染色をした。
図5】本発明の一実施例(Periotic mesenchymal 細胞の分化誘導)において、内耳幹細胞をbFGF存在下で培養することにより、Periotic mesenchymal 細胞のマーカーであるS100、POU3F4、カルデスモン、TBX18が発現することを示した顕微鏡写真である。(上左)S100、カルデスモン、TBX18 (上右)cx26、TBX18、POU3f4の抗体で、三重染色をした。(下図)bFGF存在下で長期間培養したときの位相差顕微鏡写真である。
図6】本発明の一実施例(内耳線維細胞及びPENDRIN陽性細胞の分化誘導)において、Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養した後、bFGF非存在下で培養することにより、蝸牛線維細胞、および蝸牛血管条基底細胞のマーカーである炭酸脱水素酵素、アクアポリン1、ナトリウムカリウムATPアーゼ、ビメンチン、コネキシン26および3が発現すること、Periotic mesenchymal 細胞をbFGF存在下で培養した後、NaHCO3存在下で培養することにより、Pendrinが発現すること、を示した顕微鏡写真である。(上左)CAIIとコネキシン26(上中)ナトリウムカリウムATPアーゼとコネキシン26(上右)アクアポリン1とコネキシン26(下左)ビメンチンとコネキシン26、の抗体で二重染色した。(下右)CAIIとPendrinの抗体で二重染色した。
図7】本発明の一実施例において、ゲンタマイシン投与により内耳感覚上皮障害が誘導されたことを示した結果である。
図8】本発明の一実施例において、内耳幹細胞が血管条辺縁細胞に分化誘導され、NaKatpaseA1、NKCC1が発現すること、を示した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0018】
本発明にかかる、多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの内耳細胞誘導法は、以下の流れに沿って行うことができる。
【0019】
(1)多能性幹細胞から内耳幹細胞への分化誘導
本発明にかかる、多能性幹細胞から内耳幹細胞への誘導方法においては、
第1工程:多能性幹細胞をROCK阻害剤存在下で培養する工程
第2工程:ROCK阻害剤非存在下で培養する工程
第3工程:無血清培地で培養する工程
第4工程:増殖因子含有無血清培地で培養する工程
第5工程:単一細胞に解離する工程
を、この順で行う。なお、工程間には、本発明には本質的ではない工程が挿入されてもかまわない。
【0020】
多能性幹細胞は分化多能性(multipotencyまたはpluripotency)を有する細胞であれば特に限定されず、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)、Muse細胞などが例示できるが、万能性(totipotency)を有する細胞が特に好ましい。
【0021】
ROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤も特に限定されず、例えば、Y-27632、Fasudil hydrochloride、K-115(リパスジル塩酸塩水和物) 、DE-104などが例示できる。ROCK阻害剤の濃度は、適宜最適濃度を容易に決定できるが、0.05%〜0.2%が好ましく、0.1%がより好ましい。
【0022】
第1工程及び第2工程で用いる培地は、多能性幹細胞が維持できる培地であれば特に限定されず、mTeSR1が例示できる。第1工程は、1〜3日間行うことが好ましく、1〜2日間行うことがより好ましい。第2工程は、1〜3日間行うことが好ましく、1〜2日間行うことがより好ましい。
【0023】
第2工程において、ROCK阻害剤非存在下の意味は、ROCK阻害剤が実質的に非存在であればよく、効果がないレベルの濃度で含まれていてもよい。
【0024】
第3工程で用いる無血清培地は、DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacidなどが例示できる。第3工程の培養は、2〜6日間行うことが好ましく、2〜4日間行うことがより好ましく、3日間行うことが最も好ましい。
【0025】
第4工程で用いる無血清培地は、DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacidなどが例示できるが、第3工程で用いる無血清培地と同じものを用いることが好ましい。増殖因子は、bFGF, FGF3, FGF10, FGF19からなる群のうち、少なくとも一つの増殖因子を添加すればよいが、全部添加することが好ましい。それぞれの好ましい濃度は、10〜50ng/ml、10〜50 ng/ml、10〜50 ng/ml、10〜50 ng/mlである。また、培養の前期にBMP4の存在化で培養し、後期にBMP4の非存在下で培養することが好ましい。前期に添加するBMP4の濃度は、5〜50ng/mlが好ましい。後期の培養で、BMP4非存在下の意味は、BMP4が実質的に非存在であればよく、効果がないレベルの濃度で含まれていてもよい。前期の培養は、2〜6日間行うことが好ましく、2〜4日間行うことがより好ましく、3日間行うことが最も好ましい。また、後期の培養は、2〜6日間行うことが好ましく、2〜4日間行うことがより好ましく、3日間行うことが最も好ましい。このようにして得られた内耳幹細胞は、内耳幹細胞への分化能を有する。
【0026】
第5工程として、第4工程で得られた細胞塊を解離し、単一細胞にする。単一細胞に解離する方法は特に限定されず、例えばトリプシンやアクターゼを用いることができる。酵素や物理的処理(ピペッティングなど)で解離した後、未分化細胞や細胞塊を除去するため、ナイロンメッシュ等を用いて、単一細胞に解離した細胞を選択し、残存する細胞塊を除去するのが好ましい。
【0027】
また、内耳幹細胞を培養するには、コーティング剤でコートした培養皿を用い、幹細胞能の維持のために低酸素条件において細胞を培養する(第6工程)。用いるコーティング剤は特に限定されないが、poly-O-fibronectineが最も好ましい。培養する幹細胞は、第4工程で得られたものであっても第5工程で出られたものであってもよい。本工程で用いる血清入培地は、DMEMやF12などが例示できるが、血清(例えばFBSなど)以外にもN2及びB27を含有したDMEM/F12が最も好ましい。また、本工程の低酸素条件では、酸素濃度は、4%〜10%が好ましく、4%〜6%がより好ましく、4%が最も好ましい。培養に添加する増殖因子は、bFGF , EGF, IGF1からなる群のうち、少なくとも一つの増殖因子を添加すればよいが、全部添加することが好ましい。それぞれの好ましい濃度は、10〜30ng/ml、10〜30ng/ml、10〜50ng/ml、である。
【0028】
(2)内耳幹細胞から内耳感覚上皮(支持細胞、有毛細胞)、蝸牛神経節細胞及び血管条辺縁細胞への分化誘導
本発明にかかる、内耳幹細胞から内耳感覚上皮、蝸牛神経節細胞及び血管条辺縁細胞への誘導方法においては、
第1工程:増殖因子の存在下で前記内耳幹細胞を浮遊培養する工程と、
第2工程:接着培養する工程と
をこの順で行う。なお、工程の前後や工程間には、本発明には本質的ではない工程が挿入されてもかまわない。
【0029】
第1工程において、内耳幹細胞を増殖因子の存在下で浮遊培養する。具体的には、まず、第5工程と同様にして、内耳幹細胞を単一細胞に解離する。解離した細胞の培養は浮遊状態で行い、そのため、培養皿は、非接着状態で培養できる浮遊培養用のディッシュを用いる。例えば、細菌培養用プラスティックディッシュなどの、非接着培養用ディッシュを用いればよい。ここで、浮遊培養とは、目的の細胞や細胞塊を培養器の底面に接着させずに培養することを意味し、接着培養とは、目的の細胞や細胞塊を培養器の底面に接着させて培養することを意味する。ここで、培養中、細胞や細胞塊が培養器の底面に接着するとは、細胞や細胞塊が、ECMなどに含まれる細胞基質接着分子を通じて、培養器底面と接着している状態を意味し、培養液を軽く揺らしても細胞や細胞塊が培養液中に浮かんでこない状態を言う。一方、培養中、細胞や細胞塊が培養器の底面に接着しないとは、細胞や細胞塊が、ECMなどに含まれる細胞-基質接着分子を通じて培養器底面と接着していない状態を意味し、たとえ底面に触れていても培養液を軽く揺らすと細胞や細胞塊が培養液中に浮かんでくるような状態を言う。接着培養の際は、細胞の基質への接着を促進するために、プラスティックディッシュの底表面を化学処理したり、接着を促進する接着用コーティング剤(ゼラチン、ポリリジン、寒天など)でコートしたりすることが好ましい。浮遊培養の際は、プラスティックディッシュの底表面は処理しないか、細胞の気質への接着を阻止するための接着阻止用コーティング剤(ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)など)でコートしたりすることが好ましい。なお、接着培養であっても、目的の細胞が接着するまでに時間がかかり、ある程度の時間、浮遊状態にある場合があるが、時間がかかってもその細胞が最終的に接着する場合は、接着培養に含めることとする。浮遊培養に用いる培地は特に限定されず、DMEMやF12などが例示できるが、血清(例えばFBSなど)、N2、B27、及び増殖因子などの外部因子を含有した培地が好ましく、その培地としてDMEM/F12を用いるのが最も好ましい。内耳感覚上皮(支持細胞、有毛細胞)、蝸牛神経節細胞を誘導する場合、添加する外部因子としては、bFGF、EGF、IGF1、Wnt3a、FGF9、FGF20、ヘパリン、TGFβ阻害薬からなる群のうち、少なくとも一つの因子(特にFGF9とFGF20を含むのが好ましい)を含めばよいが、増殖因子とヘパリンを含むことが好ましく、全部含むことがより好ましい。bFGF、EGF、IGF1、Wnt3a、FGF9、FGF20、ヘパリンの好ましい濃度は、それぞれ10〜50、10〜50、10〜100、10〜50、10〜100、10〜100、1〜50 ng/mlであるが、特に限定されない。血管条細胞の誘導にはbFGF、EGF、IGF1、ヘパリン、FGF3、FGF10からなる群のうち、少なくとも一つの因子(特にFGF3および/またはFGF10を含むのが好ましい)を含めばよいが、増殖因子とヘパリンを含むことが好ましく、全部含むことがより好ましい。bFGF、EGF、IGF1、ヘパリン、FGF3、FGF10の好ましい濃度は、それぞれ10〜50、10〜50、10〜100、1〜50、25〜100、25〜100ng/mlであるが、特に限定されない。この浮遊培養は、3〜7日間行うことが好ましく、4〜6日間行うことがより好ましく、5日間行うことが最も好ましい。
【0030】
その後、培地を追加して、さらに浮遊培養を続ける。この培養は、3〜7日間行うことが好ましく、4〜6日間行うことがより好ましく、5日間行うことが最も好ましい。追加する培地は特に限定されず、DMEMやF12などが例示できるが、血清(例えばFBSなど)、N2、B27、及び増殖因子などの外部因子を含有した培地が好ましく、その培地としてDMEM/F12を用いるのが最も好ましいが、外部因子以外は、最初の浮遊培養で用いた培地と同一のものを用いるのが好ましい。添加する外部因子としては、bFGF、EGF、IGF1からなる群のうち、少なくとも一つの増殖因子を含めばよいが、全部含むことがより好ましい。それぞれの好ましい濃度は、10〜30ng/ml、10〜30ng/ml、10〜50ng/ml、である。
【0031】
次に第2工程として、形成されたスフェアを壊さないようにして回収し、接着培養を行う。培地は、引き続き浮遊培養で用いた培地と同一のものを用いてもよい。1時間〜2日後、好ましくは1時間〜36時間後、最も好ましくは翌日に、培地を、血清(例えばFBSなど)、N2、B27、及び増殖因子などの外部因子を含有した新たな培地に交換する。この際、外部因子以外は、最初の浮遊培養で用いた培地と同一のものを用いるのが好ましい。内耳感覚上皮(支持細胞、有毛細胞)、蝸牛神経節細胞を誘導する場合、添加する外部因子としては、T3及び/又はIGF1とするのが好ましく、それぞれの好ましい濃度は、10〜100、1〜50 ng/mlである。血管条辺縁細胞の誘導には、添加する外部因子としてEGFまたはIGF1とするのが好ましく、それぞれの好ましい濃度は、10〜50、10〜50ng/mlである。この培養は、3日以上行うことが好ましく、5日以上行うことがより好ましい。この間、培地交換のみ行えばよい。
【0032】
(3)内耳幹細胞から、Periotic mesenchymal 細胞を経由して、蝸牛線維細胞、血管条細胞、PENDRIN陽性細胞へと至る分化誘導
本発明にかかる、内耳幹細胞からPeriotic mesenchymal 細胞への誘導方法においては、内耳幹細胞をbFGF含有培地で培養する工程を含む。なお、この方法に、本発明には本質的ではない工程が挿入されてもかまわない。
【0033】
ここで用いる培地は特に限定されず、DMEMやF12などが例示できるが、血清(例えばFBSなど)及びbFGFを含有した培地が好ましく、その培地としてDMEMを用いるのが最も好ましい。bFGFの好ましい濃度は、1〜50 ng/mlである。この培養は、7日間以上行うことが好ましく、10日間以上行うことがより好ましく、14日間以上行うことが最も好ましく、培養後、線維細胞状の構造を有するPeriotic mesenchymal細胞が得られる。
【0034】
培地からbFGFを除去した新しい培地で、さらに培養を続けると、蝸牛線維細胞や血管条細胞(特に血管条基底細胞)が得られる。この培養は、7日間以上行うことが好ましく、10日間以上行うことがより好ましく、14日間以上行うことが最も好ましい。
【0035】
また、bFGFを除去した新しい培地に、NaHCO3を添加して培養することによって、PENDRIN陽性細胞が得られる。NaHCO3の好ましい濃度は、0.3%〜1%である。この培養は、7日間以上行うことが好ましく、10日間以上行うことがより好ましく、14日間以上行うことが最も好ましい。
【実施例】
【0036】
<実施例1>
本実施例では、iPS細胞細胞から内耳幹細胞を分化誘導させた。
【0037】
[分化誘導方法]
Day 0
1) 1ウエル(6ウエル・プレート)をMatri Gelコーティングした。
2)コンフルエント なFeeder-Freeヒト iPS細胞 をアクターゼ処理し、ディッシュから剥離した。
3) PBSで希釈後遠心し、細胞を回収した。
4) 上澄みをすて、ROCK阻害剤(Y27632)(10μmol/L)を加えたmTeSR1に細胞を懸濁した。
5) ナイロンメッシュで単一細胞に解離した細胞だけを得て、血球板で細胞数を数えた。
6) 前記1)でMatri Gelコーティングしたウエルに、Y27632含有mTeSR1を加えた。
7) 1ウエルあたり2.0×104/cm2となるように解離した細胞を加えた。
【0038】
Day 1
ROCK阻害剤を含まないmTeSR1に培地交換した。
【0039】
Day 2
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid)に培地交換した。以後、Day4まで、毎日培地交換した。
【0040】
Day 5
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid+bFGF, FGF3, FGF10, FGF19+BMP4(25ng/ml、25 ng/ml、25 ng/ml、25ng/ml、10ng/ml))に培地交換した。以後、Day7まで、毎日培地交換した。
【0041】
Day 8
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid +bFGF, FGF3, FGF10, FGF19(増殖因子の濃度は全て25ng/ml))に培地交換した。以後DAY10まで、毎日培地交換した。
【0042】
Day 11
新鮮な無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid+bFGF,FGF3, FGF10,FGF19)に培地交換した。
【0043】
Day 12
細胞をアクターゼ処理後、遠心して細胞を回収し、DMEM/F12+N2+B27培地 +bFGF, FGF3, FGF10, FGF19(25ng/ml、25 ng/ml、25 ng/ml、25ng/ml)で懸濁した。ナイロンメッシュで単一細胞に解離した細胞を集め、poly-O-fibronectine コートしたウエルに播種した(細胞数などをご教示ください)。培養は、低酸素条件下で(O4%、CO5%)で行った。以後、3日ごとに、培地をDMEM/F12+N2+B27培地 + bFGF , EGF, IGF1(20ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml)に交換し、約6日ごとに継代した。
【0044】
こうしてえられた内耳幹細胞を増殖させ、コンフルエントになったディッシュを、位相差顕微鏡で撮影した(図1A
【0045】
[抗体染色]
得られた細胞について、内耳幹細胞のマーカーである抗PAX2抗体、抗PAX8抗体、抗SOX2抗体を用いて蛍光抗体染色を行った。蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗PAX2抗体、マウス抗PAX8抗体、ヤギ抗SOX2抗体を加えた(それぞれ、50倍、100倍、100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。ポジティブコントロールとして、ヘキストで核染色を行った。図1Bに示すように、約80%の細胞が、内耳幹細胞のマーカーを発現しており、本発明の内耳幹細胞分化誘導方法が、極めて効率が高いことを示す。
【0046】
<実施例2>
本実施例では、内耳幹細胞から有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞を分化誘導させた。
【0047】
[分化誘導方法]
実施例1で作製した内耳幹細胞をアクターゼ処理して細胞をディッシュから剥離し、遠心して細胞を回収した。DMEM/F12+N2+B27 培地 + bFGF, EGF, IGF1, Wnt3a, FGF9, FGF20, Heparin, (+TGFβ阻害薬)(各因子の濃度は25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml, 20ng/ml, 50ng/ml, 50ng/ml, 10ng/ml)を加え、低吸着プレート(Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート)上で浮遊培養した(約20000細胞/well(96well)。日後、スフェア(細胞塊)の形成が観察され始めた。浮遊培養後5日目に培地DMEM/F12+N2+B27 + bFGF, EGF, IGF1 (各因子の濃度は25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml)を等量追加した。
【0048】
浮遊培養後10日目にスフェアを壊さないように回収し、poly-O-fibronectine コートしたプレートに移し、接着培養した(スフェア5-10個程度)。翌日にDMEM/F12+N2+B27 培地+T3, IGF1 (各因子の濃度は60ng/ml, 10ng/ml)に培地交換し、その後は、3日に1度で培地交換した。接着培養5日後から、有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞が得られた。
【0049】
[抗体染色]
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗ミオシンVIIa抗体、マウス抗エスピン抗体、ヤギ抗プレスチン抗体を加えた(それぞれ、200倍、100倍、50倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0050】
得られた細胞について、有毛細胞のマーカーであるエスピン、ミオシン7a、プレスチンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(図2)。また、神経細胞のマーカーであるislet1、有毛細胞のマーカーであるp27/Kip1、有毛細胞のマーカーであるプレスチンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(図3)。また、蝸牛神経節グリア細胞のマーカーであるGFAP、成熟神経細胞のマーカーであるカルビンジン及びベータIIIチューブリンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(図4)。
【0051】
図2〜3に示すように、有毛細胞マーカーである、ミオシン7a、エスピン、プレスチン陽性細胞、および支持細胞マーカーであるp27kip1、ISLET1発現細胞が誘導されることが確認された。また、図4に示すように、同時に蝸牛神経細胞のマーカーである、カルビンジン陽性細胞とそれに付随するグリアが発現するGFAPを発現する細胞が得られた。このように、本方法では、内耳感覚上皮細胞を構成する主要細胞である有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞が立体上に生体内と同様の配列をもって誘導されてくる。
【0052】
<実施例3>
本実施例では、Periotic mesenchymal 細胞、蝸牛線維細胞及び血管条細胞、PENDRIN陽性細胞の分化誘導を行った。
【0053】
実施例1で得られた内耳幹細胞をPOMC medium (DMEM 500ml (D5796), 1M HEPES 5ml, FBS 30ml, bFGF(10ng/ml) 2.0ml)に培地交換をして、通常酸素下で培養したところ、培養10日目位からPeriotic mesenchymal細胞が観察された。その後培養を続けると、2週間後に線維細胞状の構造となった。(図5
【0054】
線維細胞状の細胞形態になった細胞の培地をFBS(10%)+DMEM 培地に培地交換し、さらに2週間程度培養すると、蝸牛線維細胞、血管条細胞(特に血管条基底細胞)が得られた。(図6
また、FBS(10%)+DMEM 培地にNaHCO3(0.375%)を添加した培地を用いることによって、PENDRIN陽性細胞が得られた。(図6
【0055】
[抗体染色]
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗S100抗体およびPOU3F4抗体、マウス抗カルデスモン抗体、ヤギ抗TBX18抗体を加えた(それぞれ、3倍、100倍、100倍、50倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使って標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0056】
図5に示すように、Periotic mesenchymal 細胞のマーカーであるS100、POU3F4、カルデスモン、TBX18の発現を認める細胞が誘導されていることが確認された。
【0057】
それぞれの誘導法で細胞誘導を行った後、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗炭酸脱水素酵素II抗体、抗アクアポリン1抗体、抗ナトリウムカリウムATPアーゼ抗体およびビメンチン抗体、マウス抗コネキシン26、コネキシン30抗体、ヤギ抗PENDRIN抗体を加えた(すべて100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0058】
図6に示すように、蝸牛線維細胞、および蝸牛血管条基底細胞に発現する炭酸脱水素酵素、アクアポリン1、ナトリウムカリウムATPアーゼ、ビメンチン、コネキシン26および30が発現していることから、これらの細胞が誘導されていることを確認した。また、PENDRINが発現
していることから、PENDRIN陽性細胞が誘導されていることを確認した。
【0059】
<実施例4>
本実施例では、本発明の方法によって分化誘導された内耳感覚上皮細胞が、内耳毒性の知られているゲンタマイシン投与によって障害を受けることを示す。
【0060】
本発明の方法によって誘導された内耳感覚上皮細胞に対して、80倍希釈したゲンタマイシン注射薬を10日間投与した。
【0061】
本薬剤の投与によりコントロール群に比較して優位に細胞数が減少しており、ゲンタマイシン投与による細胞毒性が生体と同様におこることが示された。
【0062】
<実施例5>
血管条は、辺縁細胞、中間細胞、基底細胞からなり、血管条細胞として、これら3つの細胞種が知られている。本実施例では、内耳幹細胞から血管条辺縁細胞を分化誘導させた。
【0063】
[分化誘導方法]
実施例1で作製した内耳幹細胞をアクターゼ処理して細胞をディッシュから剥離し、遠心して細胞を回収した。DMEM/F12+N2+B27 培地 + bFGF, EGF, IGF1, FGF3, FGF10, Heparin,(各因子の濃度はそれぞれ20ng/ml、20ng/ml、50ng/ml, 100ng/ml, 100ng/ml, 10ng/ml)を加え、低吸着プレート(Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート)上で浮遊培養した(約20000細胞/well(96wellプレート)。1日後、スフェア(細胞塊)の形成が観察され始めた。浮遊培養後3日目に培地DMEM/F12+N2+B27 + bFGF, EGF, IGF1 (各因子の濃度はそれぞれ25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml)を等量追加した。
【0064】
浮遊培養後6日目にスフェアを壊さないように回収し、poly-O-fibronectine コートしたプレートに移し、接着培養した(スフェア5-10個程度)。翌日にDMEM/F12+N2+B27 培地+EGF, IGF1 (各因子の濃度は20ng/ml, 50ng/ml)に培地交換し、その後は、3日に1度で培地交換した。接着培養5日後から、血管条辺縁細胞が得られた。
【0065】
[抗体染色]
得られた細胞について、血管条辺縁細胞のマーカーであるNaKatpaseA1、NKCC1について、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った。コントロールとして、蝸牛線維細胞のマーカーであって、血管条辺縁細胞では発現していないCRYM(μクリスタリン)の抗体を用いて、その発現を調べた。
【0066】
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、マウス抗CRYM抗体、ウサギ抗NaKatpaseA1抗体、ヤギ抗NKCC1抗体を加えた(それぞれ、300倍、300倍、100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0067】
図8に示すように、NaKatpaseA1、NKCC1の発現が検出され、CRYMの発現は認められなかった。このように、本実施例の処理によって血管条細胞が誘導されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
得られた内耳細胞は、再生医療、あるいは薬剤起因の内耳感覚上皮障害評価モデルなどの内耳細胞のリサーチ・ツールに利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8