【実施例】
【0036】
<実施例1>
本実施例では、iPS細胞細胞から内耳幹細胞を分化誘導させた。
【0037】
[分化誘導方法]
Day 0
1) 1ウエル(6ウエル・プレート)をMatri Gelコーティングした。
2)コンフルエント なFeeder-Freeヒト iPS細胞 をアクターゼ処理し、ディッシュから剥離した。
3) PBSで希釈後遠心し、細胞を回収した。
4) 上澄みをすて、ROCK阻害剤(Y27632)(10μmol/L)を加えたmTeSR1に細胞を懸濁した。
5) ナイロンメッシュで単一細胞に解離した細胞だけを得て、血球板で細胞数を数えた。
6) 前記1)でMatri Gelコーティングしたウエルに、Y27632含有mTeSR1を加えた。
7) 1ウエルあたり2.0×10
4/cm
2となるように解離した細胞を加えた。
【0038】
Day 1
ROCK阻害剤を含まないmTeSR1に培地交換した。
【0039】
Day 2
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid)に培地交換した。以後、Day4まで、毎日培地交換した。
【0040】
Day 5
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid+bFGF, FGF3, FGF10, FGF19+BMP4(25ng/ml、25 ng/ml、25 ng/ml、25ng/ml、10ng/ml))に培地交換した。以後、Day7まで、毎日培地交換した。
【0041】
Day 8
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid +bFGF, FGF3, FGF10, FGF19(増殖因子の濃度は全て25ng/ml))に培地交換した。以後DAY10まで、毎日培地交換した。
【0042】
Day 11
新鮮な無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMax+Nonessential aminoacid+bFGF,FGF3, FGF10,FGF19)に培地交換した。
【0043】
Day 12
細胞をアクターゼ処理後、遠心して細胞を回収し、DMEM/F12+N2+B27培地 +bFGF, FGF3, FGF10, FGF19(25ng/ml、25 ng/ml、25 ng/ml、25ng/ml)で懸濁した。ナイロンメッシュで単一細胞に解離した細胞を集め、poly-O-fibronectine コートしたウエルに播種した(細胞数などをご教示ください)。培養は、低酸素条件下で(O
24%、CO
25%)で行った。以後、3日ごとに、培地をDMEM/F12+N2+B27培地 + bFGF , EGF, IGF1(20ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml)に交換し、約6日ごとに継代した。
【0044】
こうしてえられた内耳幹細胞を増殖させ、コンフルエントになったディッシュを、位相差顕微鏡で撮影した(
図1A)
【0045】
[抗体染色]
得られた細胞について、内耳幹細胞のマーカーである抗PAX2抗体、抗PAX8抗体、抗SOX2抗体を用いて蛍光抗体染色を行った。蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗PAX2抗体、マウス抗PAX8抗体、ヤギ抗SOX2抗体を加えた(それぞれ、50倍、100倍、100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。ポジティブコントロールとして、ヘキストで核染色を行った。
図1Bに示すように、約80%の細胞が、内耳幹細胞のマーカーを発現しており、本発明の内耳幹細胞分化誘導方法が、極めて効率が高いことを示す。
【0046】
<実施例2>
本実施例では、内耳幹細胞から有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞を分化誘導させた。
【0047】
[分化誘導方法]
実施例1で作製した内耳幹細胞をアクターゼ処理して細胞をディッシュから剥離し、遠心して細胞を回収した。DMEM/F12+N2+B27 培地 + bFGF, EGF, IGF1, Wnt3a, FGF9, FGF20, Heparin, (+TGFβ阻害薬)(各因子の濃度は25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml, 20ng/ml, 50ng/ml, 50ng/ml, 10ng/ml)を加え、低吸着プレート(Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート)上で浮遊培養した(約20000細胞/well(96well)。
1日後、スフェア(細胞塊)の形成が観察され始めた。浮遊培養後5日目に培地DMEM/F12+N2+B27 + bFGF, EGF, IGF1 (各因子の濃度は25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml)を等量追加した。
【0048】
浮遊培養後10日目にスフェアを壊さないように回収し、poly-O-fibronectine コートしたプレートに移し、接着培養した(スフェア5-10個程度)。翌日にDMEM/F12+N2+B27 培地+T3, IGF1 (各因子の濃度は60ng/ml, 10ng/ml)に培地交換し、その後は、3日に1度で培地交換した。接着培養5日後から、有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞が得られた。
【0049】
[抗体染色]
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗ミオシンVIIa抗体、マウス抗エスピン抗体、ヤギ抗プレスチン抗体を加えた(それぞれ、200倍、100倍、50倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0050】
得られた細胞について、有毛細胞のマーカーであるエスピン、ミオシン7a、プレスチンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(
図2)。また、神経細胞のマーカーであるislet1、有毛細胞のマーカーであるp27/Kip1、有毛細胞のマーカーであるプレスチンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(
図3)。また、蝸牛神経節グリア細胞のマーカーであるGFAP、成熟神経細胞のマーカーであるカルビンジン及びベータIIIチューブリンについて、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った(
図4)。
【0051】
図2〜3に示すように、有毛細胞マーカーである、ミオシン7a、エスピン、プレスチン陽性細胞、および支持細胞マーカーであるp27kip1、ISLET1発現細胞が誘導されることが確認された。また、
図4に示すように、同時に蝸牛神経細胞のマーカーである、カルビンジン陽性細胞とそれに付随するグリアが発現するGFAPを発現する細胞が得られた。このように、本方法では、内耳感覚上皮細胞を構成する主要細胞である有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経節細胞が立体上に生体内と同様の配列をもって誘導されてくる。
【0052】
<実施例3>
本実施例では、Periotic mesenchymal 細胞、蝸牛線維細胞及び血管条細胞、PENDRIN陽性細胞の分化誘導を行った。
【0053】
実施例1で得られた内耳幹細胞をPOMC medium (DMEM 500ml (D5796), 1M HEPES 5ml, FBS 30ml, bFGF(10ng/ml) 2.0ml)に培地交換をして、通常酸素下で培養したところ、培養10日目位からPeriotic mesenchymal細胞が観察された。その後培養を続けると、2週間後に線維細胞状の構造となった。(
図5)
【0054】
線維細胞状の細胞形態になった細胞の培地をFBS(10%)+DMEM 培地に培地交換し、さらに2週間程度培養すると、蝸牛線維細胞、血管条細胞(特に血管条基底細胞)が得られた。(
図6)
また、FBS(10%)+DMEM 培地にNaHCO
3(0.375%)を添加した培地を用いることによって、PENDRIN陽性細胞が得られた。(
図6)
【0055】
[抗体染色]
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗S100抗体およびPOU3F4抗体、マウス抗カルデスモン抗体、ヤギ抗TBX18抗体を加えた(それぞれ、3倍、100倍、100倍、50倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使って標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0056】
図5に示すように、Periotic mesenchymal 細胞のマーカーであるS100、POU3F4、カルデスモン、TBX18の発現を認める細胞が誘導されていることが確認された。
【0057】
それぞれの誘導法で細胞誘導を行った後、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、ウサギ抗炭酸脱水素酵素II抗体、抗アクアポリン1抗体、抗ナトリウムカリウムATPアーゼ抗体およびビメンチン抗体、マウス抗コネキシン26、コネキシン30抗体、ヤギ抗PENDRIN抗体を加えた(すべて100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0058】
図6に示すように、蝸牛線維細胞、および蝸牛血管条基底細胞に発現する炭酸脱水素酵素、アクアポリン1、ナトリウムカリウムATPアーゼ、ビメンチン、コネキシン26および30が発現していることから、これらの細胞が誘導されていることを確認した。また、PENDRINが発現
していることから、PENDRIN陽性細胞が誘導されていることを確認した。
【0059】
<実施例4>
本実施例では、本発明の方法によって分化誘導された内耳感覚上皮細胞が、内耳毒性の知られているゲンタマイシン投与によって障害を受けることを示す。
【0060】
本発明の方法によって誘導された内耳感覚上皮細胞に対して、80倍希釈したゲンタマイシン注射薬を10日間投与した。
【0061】
本薬剤の投与によりコントロール群に比較して優位に細胞数が減少しており、ゲンタマイシン投与による細胞毒性が生体と同様におこることが示された。
【0062】
<実施例5>
血管条は、辺縁細胞、中間細胞、基底細胞からなり、血管条細胞として、これら3つの細胞種が知られている。本実施例では、内耳幹細胞から血管条辺縁細胞を分化誘導させた。
【0063】
[分化誘導方法]
実施例1で作製した内耳幹細胞をアクターゼ処理して細胞をディッシュから剥離し、遠心して細胞を回収した。DMEM/F12+N2+B27 培地 + bFGF, EGF, IGF1, FGF3, FGF10, Heparin,(各因子の濃度はそれぞれ20ng/ml、20ng/ml、50ng/ml, 100ng/ml, 100ng/ml, 10ng/ml)を加え、低吸着プレート(Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート)上で浮遊培養した(約20000細胞/well(96wellプレート)。1日後、スフェア(細胞塊)の形成が観察され始めた。浮遊培養後3日目に培地DMEM/F12+N2+B27 + bFGF, EGF, IGF1 (各因子の濃度はそれぞれ25ng/ml、25ng/ml、50ng/ml)を等量追加した。
【0064】
浮遊培養後6日目にスフェアを壊さないように回収し、poly-O-fibronectine コートしたプレートに移し、接着培養した(スフェア5-10個程度)。翌日にDMEM/F12+N2+B27 培地+EGF, IGF1 (各因子の濃度は20ng/ml, 50ng/ml)に培地交換し、その後は、3日に1度で培地交換した。接着培養5日後から、血管条辺縁細胞が得られた。
【0065】
[抗体染色]
得られた細胞について、血管条辺縁細胞のマーカーであるNaKatpaseA1、NKCC1について、それぞれの抗体を用いて蛍光抗体染色を行った。コントロールとして、蝸牛線維細胞のマーカーであって、血管条辺縁細胞では発現していないCRYM(μクリスタリン)の抗体を用いて、その発現を調べた。
【0066】
蛍光抗体染色は、スライド上に固定した細胞に対して、抗原賦活化操作を行ったのち、マウス抗CRYM抗体、ウサギ抗NaKatpaseA1抗体、ヤギ抗NKCC1抗体を加えた(それぞれ、300倍、300倍、100倍希釈)。その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を使い標識し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0067】
図8に示すように、NaKatpaseA1、NKCC1の発現が検出され、CRYMの発現は認められなかった。このように、本実施例の処理によって血管条細胞が誘導されることが確認された。