特許第6218265号(P6218265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 荒川化学工業株式会社の特許一覧 ▶ ペルノックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000004
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000005
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000006
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000007
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000008
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000009
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000010
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000011
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000012
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000013
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000014
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000015
  • 特許6218265-放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6218265
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20171016BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20171016BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20171016BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171016BHJP
   C09D 163/02 20060101ALI20171016BHJP
   C09D 163/04 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D5/03
   C09D5/32
   C09D7/12
   C09D163/02
   C09D163/04
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-41339(P2013-41339)
(22)【出願日】2013年3月2日
(65)【公開番号】特開2014-169372(P2014-169372A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591153983
【氏名又は名称】ペルノックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩村 栄治
(72)【発明者】
【氏名】小林 理規
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 宏文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚弥
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−160064(JP,A)
【文献】 特開2002−220515(JP,A)
【文献】 特開昭64−001771(JP,A)
【文献】 特開平01−210419(JP,A)
【文献】 特開昭57−126006(JP,A)
【文献】 特開昭59−226069(JP,A)
【文献】 特開平10−180184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 5/00−7/14
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱性物品に適用される放熱性粉体塗料組成物であって、赤外線吸収性バインダー樹脂(A)および多孔質シリカ(B1)および/またはフッ化カルシウム(B2)である赤外線吸収性無機粒子(B)を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との割合が両成分の合計100体積%に基づいて順に10〜70体積%および90〜30体積%であり、
かつ、以下の条件1、2および3を充足することを特徴とする、放熱性粉体塗料組成物。
条件1:(A)成分と(B)成分がいずれも上記発熱性物品より放射される波長域λ≦λ≦λである5.0μm≦λ≦11.5μmの赤外線を吸収する。
条件2:(A)成分の赤外吸収スペクトルと(B)成分の赤外線吸収スペクトルが、下記(1)の条件を満たすように互いに補完しあう。
0≦〔OL(A−B)/(FWHM(A)+ FWHM(B) − OL(A−B))〕≦0.6・・・ (1)
(数式(1)において、FWHM(A)は(A)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、FWHM(B)は(B)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、OL(A−B)は、前記波長域λ≦λ≦λにおけるFWHM(A) とFWHM(B)の重なり部分の幅(μm)を示す。)
条件3:前記波長域λ≦λ≦λが、下記数式(2)で示される黒体放射のエネルギー密度分布式において、上記発熱性物品の温度により特定される理論値である熱放射流束のエネルギー密度最大値をqλp(λp:エネルギー密度が最大値となる波長)としたときに、上記発熱性物品より放射される赤外線である電磁波のエネルギー密度が理論上qλpの90%以上の値(qλ≧0.9qλp)となる波長域である。
λ=(a/λ)×(expb/λT−1)−1 ・・・(2)
(数式(2)において、qλは熱放射流束のエネルギー密度を示し、λは上記発熱性物品から放射される電磁波の波長(μm)を示し、Tは上記発熱性物品の温度(K)を示し、aは定数3.741×1014を示し、bは定数1.349×10−2を示す。)
【請求項2】
(A)成分が非アミン変性エポキシ樹脂である、請求項1の放熱性粉体塗料組成物。
【請求項3】
非アミン変性エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはノボラック型エポキシ樹脂である、請求項1または2の放熱性粉体塗料組成物。
【請求項4】
(B)成分が、多孔質シリカ(B1)およびフッ化カルシウム(B2)の2種からなり、かつ、下記条件4を充足する、請求項1〜3のいずれかの放熱性粉体塗料組成物。
条件4:2種の(B)成分同士の各赤外線吸収スペクトルが、下記数式(3)の条件を満たすように互いに補完しあう。
0≦〔OL(B1−B2)/(FWHM(B1)+ FWHM(B2) − OL(B1−B2))〕≦0.6・・・ (3)
(数式(3)において、FWHM(B1)は(B1)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λs≦λ≦λlに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、FWHM(B2)は(B2)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λs≦λ≦λlに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、OL(B1−B2)は前記波長域λs≦λ≦λlにおけるFWHM(B1) とFWHM(B2)の重なり部分の幅(μm)を示す。)
【請求項5】
(B1)成分と(B2)成分の体積比が、(B1):(B2)=9.5:0.5〜2:8である請求項4の放熱性粉体塗料組成物。
【請求項6】
(B)成分の平均一次粒子径が0.1〜50μmである、請求項1〜のいずれかの放熱性粉体塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかの放熱性粉体塗料組成物より得られる放熱性塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性粉体塗料組成物および当該組成物から得られる放熱性塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器、電子機器、光学機器などの製品は高性能化、小型化、携帯化が進んでおり、製品内部における発熱量が増大する傾向にある。例えば家電製品の場合、プリント配線基板の高密度実装化やマイクロプロセッサの高速化に伴い、部品単位あたりの消費電力が著しく増大し、それに応じて発熱量も増している。従って、自ずと、これらの製品のような発熱性物品に対する放熱対策が必要になる。
【0003】
ここに放熱対策とは、熱伝導、対流および熱放射の伝熱手段を組み合わせることにより、製品内部の熱源(高温領域)から熱エネルギーを外界(低温領域)へ輸送し、放出するための手段をいう。
【0004】
従来の放熱対策は、熱伝導および対流に主眼を置いており、例えば、熱源由来の熱エネルギーをアルミニウムや銅で作られた放熱板の内部を伝導させ、その表面に伝わった熱エネルギーを冷却ファン等に強制的に対流させる方法が採られていた。しかし、製品の高性能化、小型化により、製品内部に物理的な放熱手段(放熱板、冷却ファン等)を設置するスペースが確保し難くなっている。また、製品の小型化、細密化に伴い、微細なゴミやチリの影響を避けるために完全密閉型の筐体(ハウジング)が採用される傾向にあるが、この場合は対流による放熱効果も期待できない。加えて、放熱板や冷却ファンは、その意匠性や経済性の観点よりサイズ、形態が制限されることが多い。
【0005】
そこで、熱放射の観点より、これまで種々の放熱性塗料が提案されてきた。ここに放熱性塗料とは、一般的に、基材との密着性を有するバインダー樹脂に、熱エネルギーを吸収し、放射する無機粒子を配合したものをいい、大面積化が可能であり、発熱性物品(被放熱物品)の形状を問わず、しかも施工が容易であるため、電気機器、電子機器、光学機器等において賞用されつつある。
【0006】
ところが、従来の放熱性塗料は、熱エネルギーを全波長域或いはできるだけ幅広い波長域で放射させるために、塗膜の積分放射率を黒体の放射率(=1)に近づけるよう設計されていることが多い。例えば、特許文献1には、赤外線全波長域において黒体に近い赤外線放熱効率を示す塗料として、波長域が互いに異なる3種以上の遷移元素酸化物の粉末を混合焼結し、粉砕してなる粒子を配合した放熱性粉体塗料組成物が開示されている。しかしながら、理論上、発熱性物品から放射される赤外線(電磁波)は、全波長にわたって一定量のエネルギーを放出するわけではなく、温度によって特定される波長に依存したエネルギー密度分布を持つとともに、赤外線全波長に渡って黒体に近い赤外線放射効率を示すような放熱性塗料は外界からの電磁波も吸収しうることから、特定の温度域においてのみ放熱対策を施せばよい製品には適さない。
【0007】
そこで、例えば、特許文献2には、家電製品等の筐体や放熱板等において要求される150℃程度以下の温度域で熱放射性を向上させ得る塗料として、少なくとも波長6μmでの熱放射率が60%以上の顔料であるカーボンブラックと、波長12μmでの熱放射率が60%以上の顔料であるチタニアとを各種バインダー樹脂に配合してなる放熱性粉体塗料組成物が提案されている。この塗料は、家電製品等の筐体や放熱板が、所謂プランクの分布則に従い波長8〜10μm程度の範囲に放射エネルギー密度のピークを有する熱(電磁波)を発している点に着目し、当該波長範囲における放射特性を補完しあう2種の顔料を組み合わせたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−64765号公報
【特許文献2】特開2002−226783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、各種の発熱性物品に対する放熱対策として、該物品が発熱する特定の熱エネルギー波長域において、高い放熱効率を有する塗膜を形成できる放熱性粉体塗料組成物、及び該組成物から得られる放熱性塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の通り、従来公知の放熱性塗料では、いずれも、塗料に配合する無機粒子が赤外線を吸収し放射する波長域のみが着目されており、それらと組み合わせるバインダー樹脂の赤外線吸収特性及び赤外線放射特性が無機粒子の赤外線吸収特性及び赤外線放射特性にどのように影響するのかについては、検討されていない。
【0011】
ここで、無機粒子の赤外線吸収スペクトルとバインダー樹脂のそれとが大きく重なりあう場合、熱源由来の放射エネルギーを無機粒子が吸収し放射しても、その放射エネルギーをバインダー樹脂が再吸収してしまうため、塗膜全体の放熱効率が著しく低下する。かかる現象は、放射エネルギーに関する所謂キルヒホッフの法則、すなわち、ある周波数の電磁波(換言すれば、ある波長の赤外線)を放出しやすい物質は、同じ周波数の電磁波を吸収しやすいとする法則より説明可能である。
【0012】
本発明者は、無機粒子とバインダー樹脂の間における熱交換に関する現象に着目し、放熱対策が必要な温度域に対応する特定の熱エネルギー波長域において、バインダー樹脂と無機粒子のそれぞれの赤外線吸収スペクトルが一定限度で重なりあうような組合せを選択することにより、ターゲットとする特定温度域において高い放熱効率を有する塗膜を与える塗料組成物が得られることを見出した。
【0013】
本発明者は、かかる新たな知見に基づいて、更に種々検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に示す、放熱性粉体塗料組成物及び放熱性塗膜を提供するものである。
【0014】
1.発熱性物品に適用される放熱性粉体塗料組成物であって、赤外線吸収性バインダー樹脂(A)および多孔質シリカ(B1)および/またはフッ化カルシウム(B2)である赤外線吸収性無機粒子(B)を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との割合が両成分の合計100体積%に基づいて順に10〜70体積%および90〜30体積%であり、かつ、以下の条件1、2および3を充足することを特徴とする、放熱性粉体塗料組成物。
条件1:(A)成分と(B)成分がいずれも上記発熱性物品より放射される波長域λ≦λ≦λである5.0μm≦λ≦11.5μmの赤外線を吸収する。
条件2:(A)成分の赤外吸収スペクトルと(B)成分の赤外線吸収スペクトルが、下記(1)の条件を満たすように互いに補完しあう。
0≦〔OL(A−B)/(FWHM(A)+ FWHM(B) − OL(A−B))〕≦0.6・・・ (1)
(数式(1)において、FWHM(A)は(A)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、FWHM(B)は(B)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、OL(A−B)は、前記波長域λ≦λ≦λにおけるFWHM(A) とFWHM(B)の重なり部分の幅(μm)を示す。)
条件3:前記波長域λ≦λ≦λが、下記数式(2)で示される黒体放射のエネルギー密度分布式において、上記発熱性物品の温度により特定される理論値である熱放射流束のエネルギー密度最大値をqλp(λp:エネルギー密度が最大値となる波長)としたときに、上記発熱性物品より放射される赤外線である電磁波のエネルギー密度が理論上qλpの90%以上の値(qλ≧0.9qλp)となる波長域である。
λ=(a/λ)×(expb/λT−1)−1 ・・・(2)
(数式(2)において、qλは熱放射流束のエネルギー密度を示し、λは上記発熱性物品から放射される電磁波の波長(μm)を示し、Tは上記発熱性物品の温度(K)を示し、aは定数3.741×1014を示し、bは定数1.349×10−2を示す。)
【0015】
2.(A)成分がエポキシ樹脂である、上記項1の放熱性粉体塗料組成物。
【0016】
3.エポキシ樹脂がビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはノボラック型エポキシ樹脂である、上記項1または2の放熱性粉体塗料組成物。
【0017】
4.(B)成分が、多孔質シリカ(B1)およびフッ化カルシウム(B2)の2種からなり、かつ、下記条件4を充足する上記項1に記載の放熱性粉体塗料組成物。
条件4:2種の(B)成分同士の各赤外線吸収スペクトルが、下記数式(3)の条件を満たすように互いに補完しあう。
0≦〔OL(B1−B2)/(FWHM(B1)+ FWHM(B2) − OL(B1−B2))〕≦0.6・・・ (3)
(数式(3)において、FWHM(B1)は(B1)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λs≦λ≦λlに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、FWHM(B2)は(B2)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λs≦λ≦λlに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、OL(B1−B2)は前記波長域λs≦λ≦λlにおけるFWHM(B1) とFWHM(B2)の重なり部分の幅(μm)を示す。)
【0018】
5.(B1)成分と(B2)成分の体積比が、(B1):(B2)=9.5:0.5〜2:8である上記項4の放熱性粉体塗料組成物。
【0020】
7.(B)成分の平均一次粒子径が0.1〜50μmである、上記項4〜6のいずれかの放熱性粉体塗料組成物。
【0021】
8.上記項1〜7のいずれかの放熱性粉体塗料組成物より得られる放熱性塗膜。
【発明の効果】
【0022】
本発明の放熱性粉体塗料組成物によれば、赤外線吸収性バインダー樹脂(A)及び赤外線吸収性無機粒子(B)を特定割合で含有し、しかも前記の条件1、2、及び3を充足することによって、各種の発熱性物品に、当該発熱性物品の到達温度に応じて高い放熱効率を有する放熱性塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】条件1、2および3の技術的意義を統合的に表した模式図である。
図2】条件2の技術的意義の詳細を表した模式図である。
図3】(A)成分が複数のピークを有するときに、それぞれの半値全幅の総和がFWHM(A)になることを表した模式図である。
図4】(B)成分が複数のピークを有するときに、それぞれの半値全幅の総和がFWHM(B)になることを表した模式図である。
図5】条件3に関し、式(2)で表現されるプランクカーブを表した図である。
図6】条件3に関し、(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルの最大ピークが前記波長域λ≦λ≦λに現れていない状態を表した模式図である。
図7】条件3に関し、40℃の黒体のプランクカーブを表した図である。
図8】条件3に関し、70℃の黒体のプランクカーブを表した図である。
図9】条件3に関し、100℃の黒体のプランクカーブを表した図である。
図10】条件3に関し、200℃の黒体のプランクカーブを表した図である。
図11】実施例で用いた、(A)成分としてのエポキシ樹脂混合物のIRスペクトルチャートと、ピーク分離の様子、およびFWHM(A)を示した図である。
図12】実施例で用いた、(B1)成分としての多孔質シリカ粉末のIRスペクトルチャートと、ピーク分離の様子、およびFWHM(B)を示した図である。
図13】実施例で用いた、(B2)成分としてのフッ化カルシウム粉末のIRスペクトルチャートと、ピーク分離の様子、およびFWHM(B)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の粉体塗料組成物は、赤外線吸収性バインダー樹脂(A)(以下、(A)成分という。)および赤外線吸収性無機粒子(B)(以下、(B)成分という。)を含有し、かつ所定の条件1、2および3を備える組成物である。
【0025】
図1には、条件1、2および3の技術的意義を統合的に、模式的に表した。以下、各条件を順に説明する。
【0026】
条件1
条件1は、発熱性物品より発せられる電磁波の波長域をλ≦λ≦λとしたときに、当該波長域において(A)成分と(B)成分がいずれも赤外線を吸収することを定めた条件である。換言すれば、当該波長域において、(A)成分の赤外線吸収スペクトルピークと(B)成分の赤外線吸収スペクトルピークとの双方が出現することを意味する。
【0027】
なお、「前記波長域λ≦λ≦λにおいて(A)成分が赤外線を吸収する」とは、具体的には、(A)成分の赤外線吸収スペクトルが単一の正規分布曲線で構成されるときにはその半値全幅の少なくとも60%が当該波長域に収まることを意味し、また(A)成分の赤外線吸収スペクトルが複数の正規分布曲線の重ねあわせによって構成されるときには、それぞれの正規分布曲線の半値全幅の各曲線の少なくとも60%が当該波長域に収まることを意味する。
【0028】
また、「前記波長域λ≦λ≦λにおいて(B)成分が赤外線を吸収する」とは、具体的には、(B)成分の赤外線吸収スペクトルが単一の正規分布曲線で構成されるときにはその半値全幅の少なくとも60%が当該波長域に収まることを意味し、また複数の正規分布曲線の重ねあわせによって構成されるときには、それぞれの正規分布曲線の半値全幅の少なくとも60%が当該波長域に収まることを意味する。
【0029】
図2には、(A)成分および(B)成分の赤外線吸収スペクトルピークが前記波長域λ≦λ≦λにおいて出現している様子の模式図を示す。なお、理解を容易にするために、各赤外線吸収スペクトルピークはいずれも単一の正規分布曲線として構成されている。そしてこの図において、(A)成分の半値全幅(FWHM(A))の少なくとも60%と、(B)成分の半値全幅(FWHM(B))の少なくとも60%が前記波長域λ≦λ≦λに収まっていることが解る。
【0030】
条件2
条件2は、(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルが、下記数式(1)の条件を満たすように互いに補完しあうことを定めた条件である。
【0031】
条件2:(A)成分の赤外吸収スペクトルと(B)成分の赤外線吸収スペクトルが、下記(1)の条件を満たすように互いに補完しあう。
0≦〔OL(A−B)/(FWHM(A)+ FWHM(B) − OL(A−B))〕≦0.6・・・(1)
(数式(1)において、FWHM(A)は(A)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、FWHM(B)は(B)成分の赤外線吸収スペクトルにおける前記波長域λ≦λ≦λに現れる吸収ピークの半値全幅(μm)を示し、OL(A−B)は、前記波長域λ≦λ≦λにおけるFWHM(A) とFWHM(B)の重なり部分の幅(μm)を示す。)
【0032】
数式(1)は、前記波長域λ≦λ≦λにおける、(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルの重なり程度を表現したものといえる。そして、本条件のもと、発熱性物品由来の熱を(A)成分が吸収し、放射した後、当該放射エネルギーは(B)成分において一定限度においてしか再吸収されないこととなる。逆に、(B)成分が吸収し放射した発熱性物品由来の熱もまた、(A)成分において一定限度においてしか再吸収されないことになる。それゆえ、数式(1)の関係を充足する(A)成分と(B)成分を選択することによって、本発明の放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜のターゲット温度域における放熱効率を最適化できる。かかる観点より、数式(1)の中項の値は、0.01以上0.5以下であるのが好ましく、0.01以上0.4以下であるのがより好ましい。
【0033】
なお、(A)成分の赤外線吸収スペクトルが、複数のピークが混成した形状を示す場合には、全体のIRプロファイルのうち波長域λ≦λ≦λに出現するピークを機械的に分離し、各ピークの半値全幅の総和したものをFWHM(A)とすればよい。例えば(A)成分が、分子内に異種の化学結合を複数有する単一のポリマーや複数のポリマーの混合物である場合には、該ポリマーおよび混合物のIRプロファイルは通常、複数のピークが混成した形状を示す。
【0034】
図3には、そのような(A)成分のIRプロファイルにおいて、前記波長域λ≦λ≦λに出現するピークを機械的に分離すること、そして各ピークの半値全幅の総和をFWHM(A)と認定することを模式的に示した。
【0035】
また、(B)成分の赤外線吸収スペクトルが複数のピークが混成した形状を示す場合にも、全体のIRプロファイルのうち波長域λ≦λ≦λに出現するピークを機械的に分離し、各ピークの半値全幅の総和したものをFWHM(B)とすればよい。例えば(B)成分が複数の元素から構成される無機粒子である場合、その赤外線吸収スペクトルは複数のピークが混成した形状となる。
【0036】
図4には、そのような(B)成分のIRプロファイルにおいて、前記波長域λ≦λ≦λに出現するピークを機械的に分離すること、そして各ピークの半値全幅の総和をFWHM(B)と認定することを模式的に示した。
【0037】
なお、ピーク分離の手段は特に限定されず、各種公知の方法を採用できる。具体的には、市販のデジタル式赤外線吸光機器(例えば、Thermo Fisher Scientific社製のFT-IR
AVATAR360,UMA150)により、(A)成分および(B)成分のIRプロファイルをそれぞれ測定し、ついで各IRプロファイルを市販のソフトウェア(例えば、Thermo Galactic社製のGRAMS/AI)で波形解析することにより、ピーク分離が可能になる。
【0038】
条件3
条件3は、前記した波長域λ≦λ≦λの導出の根拠を定めたものである。具体的には、当該波長域が、下記数式(2)で示される黒体放射エネルギー密度分布式において、上記発熱性物品より放射される電磁波のピーク波長λpにおける熱放射流束のエネルギー密度最大値をqλpとしたときに、その90%の値(0.9qλp)に対応する波長域であることを定めた条件である。
【0039】
条件3:前記波長域λ≦λ≦λが、下記数式(2)で示される黒体放射のエネルギー密度分布式において、上記発熱性物品の温度により特定される理論値である熱放射流束のエネルギー密度最大値をqλp(λp:エネルギー密度が最大値となる波長)としたときに、上記発熱性物品より放射される赤外線である電磁波のエネルギー密度が理論上qλpの90%以上の値(qλ≧0.9qλp)となる波長域である。
λ=(a/λ)×(expb/λT−1)−1 ・・・(2)
(数式(2)において、qλは熱放射流束のエネルギー密度を示し、λは上記発熱性物品から放射される電磁波の波長(μm)を示し、Tは上記発熱性物品の温度(K)を示し、aは定数3.741×1014を示し、bは定数1.349×10−2を示す。)
【0040】
ここに、ある温度T(K)の黒体は、式(2)に従い、波長依存性のあるエネルギー密度(qλ)を全波長域に亘り放射することが知られている。
【0041】
そして、図5に示すように、当該エネルギー密度は、その最大値(qλp)を与えるピーク波長(λ)を境にして、短波長側では5乗のべき乗関数に従い、長波長側では指数関数に従い、急激に低下する。
【0042】
ところが、図6で示すように、(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルのピーク波長がλから乖離すると次のような問題が生ずる。すなわち、放熱対策が必要とされるターゲット温度域に対応する波長域λ≦λ≦λに(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルのピークが現れないか、殆ど現れない場合、両成分は、当該波長域に対応する温度域のエネルギーを吸収及び放射し難くなる。そして結果的に、本発明に係る放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜の放熱効率が損なわれてしまう。
【0043】
そこで、本発明においては、放熱対策が必要とされるターゲット温度域、すなわち本発明の放熱性粉体塗料組成物を適用する発熱性物品が到達する温度域におけるそれらの放熱効率を最大化する目的で、前記qλpの90%の値(0.9qλp)に対応する波長域を、前記波長域λ≦λ≦λと定めた。そして、当該波長域に(A)成分と(B)成分の赤外線吸収スペクトルの双方が出現し(条件1)、かつそれらの重なり合いを一定限度に規定することによって(条件2)、本発明の所期の効果が達成される。
【0044】
なお、当該波長域は、本発明の放熱性粉体塗料組成物および放熱性塗膜の放熱効率の観点より、黒体の放射エネルギー密度の極大値(qλp)の95%(0.95qλp≦qλ)を与える波長域(λs’≦λ≦λl’)であるのがより好ましい。
【0045】
なお、前記式(2)で記述される黒体のエネルギー密度分布曲線は、温度(T(℃))の変化に伴い、所謂ウィーンの変位測に従い、そのピーク波長(λ)は短波長側にシフトし、それに伴い前記波長域λ≦λ≦λも推移する。
【0046】
そのことを連続的に描写したのが図7図10である。すなわち、黒体の温度(T(℃))が40℃、70℃、100℃および200℃と上昇するにつれ、ピーク波長(λ)が9.26μm、8.45μm、7.77μmおよび6.13μmと短波長側にシフトすること、ならびに前記波長域λ≦λ≦λも7.57≦λ≦11.5、6.70≦λ≦10.5、6.35≦λ≦9.65および5.0≦λ≦7.60へと推移することが認められる。
【0047】
(A)成分
(A)成分としては、放熱性粉体塗料組成物の赤外線吸収性バインダー樹脂として利用可能なものであれば特に限定されず、前記条件1、2および3を考慮したうえで適切なものを選択すればよい。
【0048】
(A)成分の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、非アミン変性エポキシ樹脂、アミノ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、アミン・ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができ、これらの少なくとも1種を、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、基材である発熱性物品との密着性や塗膜の機械的強度等を考慮すると、当該非アミン変性エポキシ樹脂が、特にビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。また、当該ビスフェノール型エポキシ樹脂をなすビスフェノール類としては、、前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等が挙げられる。また、前記ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック樹脂や、レゾールノボラック樹脂にハロエポキシドを反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、ジシアンジアミド、アジピン酸、イミダゾール化合物、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などのエポキシ樹脂用硬化剤も併用できる。
【0049】
(B)成分
(B)成分としては、放熱性粉体塗料組成物の赤外線吸収性無機粒子として利用可能なものであれば特に限定されず、前記条件1、2および3を考慮したうえで適切なものを選択すればよい。
【0050】
例えば、放熱対策が必要とされる発熱性物品が40℃以上70℃未満の低い表面温度(以下、低温域という。)に留まる製品、例えば照明器具、一般家電製品、MEMS(MicroElectro Mechanical System)のような製品の場合、当該温度域に対応する波長域が6.7μm≦λ≦11.5μmとなるため(図7および図8を参照。)、(B)成分としては、当該波長域に大きな赤外線吸収帯を有するものを選択すればよい。なお、当該波長域の好ましい範囲は、7.3μm以上10.8μm未満である。また、低温域に用いる(A)成分も、当該(B)成分と同様の波長域に赤外線吸収帯を有するものが好ましい。
【0051】
低温域に適する(B)成分として、前記波長域6.7μm≦λ≦11.5μmを補完する目的において、赤外線吸収ピーク波長が異なる2種を組み合わせるとより好ましい。具体的には、一の無機粒子の赤外線吸収波長域が6.9μm以上10.2μm未満であり、他の無機粒子の赤外線吸収ピーク波長域が10.2μm以上11.5μμm未満であるのが好ましい。
【0052】
なお、かかる一の無機粒子の当該波長域を6.9μm以上10.2μm未満とした理由は、70℃の黒体のピーク波長λpが8.45μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは7.7μm以上10.2μm未満であるのがより好ましい。
【0053】
また、かかる他の無機粒子の当該波長域を10.2μm以上11μ.5μm未満としたのは、40℃の黒体のピーク波長λpが9.26μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは10.2μm以上11.0μm未満であるのがより好ましい。
【0054】
低温域に適する(B)成分としては、放熱効率の観点より、非多孔質シリカ、多孔質シリカ、石英、カオリン、フッ化カルシウム、水酸化アルミニウム、ベントナイト、タルク、サリサイトおよびマイカからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子と、フォルステライトおよびコージェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子との組み合わせが好ましく、特に、マイカおよび/またはフォルステライトが好ましい。
【0055】
なお、放熱効率を考慮すると、前者無機粒子と後者無機粒子の体積比は通常9.5:0.5〜2:8程度であるのが好ましい。
【0056】
放熱対策が必要とされる発熱性物品が70℃以上100℃未満の中程度の表面温度(以下、中温域という。)に達する製品、例えばLEDを用いた照明器具、ディスプレイ、集光型太陽電池のような製品の場合、当該温度域に対応する波長域が6.35μm≦λ≦10.5μmとなるため(図8および図9を参照。)、(B)成分としては、当該波長域に大きな赤外線吸収帯を有するものを選択すればよい。なお、当該波長域の好ましい範囲は、6.7μm以上10.0μm未満である。また、中温域に用いる(A)成分も、当該(B)成分と同様の波長域に赤外線吸収ピーク波長域を有するものが好ましい。
【0057】
中温域に適する(B)成分として、前記波長域6.35μm≦λ≦10.5μmを補完する目的において、赤外線吸収ピーク波長が異なる2種を組み合わせるとより好ましい。具体的には、一の無機粒子の赤外線吸収波長域が6.35μm以上9.65μm未満であり、他の無機粒子の赤外線吸収波長域9.65μm以上10.5μm未満であるのが好ましい。
【0058】
なお、かかる一の無機粒子の当該波長域を6.35μm以上9.65μm未満とした理由は、100℃の黒体のピーク波長λpが7.77μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは7.0μm以上9.3μm未満であるのがより好ましい。
【0059】
また、かかる他の無機粒子の当該波長域を9.65μm以上10.5μm未満としたのは、40℃の黒体のピーク波長λpが9.26μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは9.3μm以上10.1μm未満であるのがより好ましい。
【0060】
中温域に適する(B)成分としては、放熱効率の観点より、非多孔質シリカ、多孔質シリカ、窒化ホウ素、石英およびカオリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子と、フッ化カルシウム、水酸化アルミニウム、ベントナイト、タルク、サリサイト、マイカおよびコージェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子との組合せが好ましく、特に、多孔質シリカおよび/またはフッ化カルシウムが好ましい。
【0061】
なお、放熱効率を考慮すると、前者無機粒子と後者無機粒子の体積比は通常9.5:0.5〜2:8程度であるのが好ましい。
【0062】
また、放熱対策が必要とされる発熱性物品が100℃以上200℃未満の高い表面温度(以下、高温域という。)に達する製品、例えパワー半導体素子やその周辺部品を複合化したモジュール部品のような製品の場合、当該温度域に対応する波長域が5.0μm≦λ≦9.65μmとなるため(図9および図10を参照。)、(B)成分としては、当該波長域に大きな赤外線吸収帯を有するものを選択すればよい。なお、当該波長域の好ましい範囲は、5.3μm以上9.15μm未満である。また、高温域に用いる(A)成分も、当該(B)成分と同様の波長域に赤外線吸収ピーク波長域を有するものが好ましい。
【0063】
高温域に適する(B)成分として、前記波長域5.0μm≦λ≦9.65μmを補完する目的において、赤外線吸収ピーク波長が異なる2種を組み合わせるとより好ましい。具体的には、一の無機粒子の赤外線吸収波長域が5.0μm以上7.35μm未満であり、他の無機粒子の赤外線吸収波長域7.35μm以上9.65μm未満であるのが好ましい。
【0064】
なお、かかる一の無機粒子の当該波長域を5.0μm以上7.35μm未満とした理由は、200℃の黒体のピーク波長λpが6.13μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは5.3μm以上7.5μm未満であるのがより好ましい。
【0065】
また、かかる他の無機粒子の当該波長域を7.35μm以上9.65μm未満としたのは、100℃の黒体のピーク波長λpが7.77μmであることから、その付近の赤外線を専ら吸収させるためである。この観点より、当該波長域は好ましくは6.7μm以上9.15μm未満であるのがより好ましい。
【0066】
高温域に適する(B)成分としては、放熱効率の観点より、窒化ホウ素および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子と、非多孔質シリカ、多孔質シリカ、石英、カオリン、およびフッ化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機粒子との組合せが好ましく、特に、窒化ホウ素および/または多孔質シリカが好ましい。
【0067】
なお、放熱効率を考慮すると、前者無機粒子と後者無機粒子の体積比は通常9.5:0.5〜2:8程度であるのが好ましい。
【0068】
(B)成分の形状は特に限定されないが、放熱性塗膜の機械的強度及び平滑性と、塗膜の適度な凹凸に基づく放熱効率とを考慮して、通常、平均一次粒子径が0.1〜50μm程度であるのが好ましく、1〜50μm程度であるのがより好ましい。また、メディアン径D50は、50μm以下程度であるのが好ましく、40μm以下程度であるのがより好ましい。
【0069】
本発明の放熱性粉体塗料組成物における(A)成分及び(B)成分の含有量は、塗膜の放熱性、硬度、発熱性物品との密着性等を考慮して、両成分の合計100体積%に基づいて、前者が10〜70体積%程度で、後者が90〜30体積%程度である。また、(A)成分が10〜50体積%程度で、(B)成分が90〜50体積%程度であるのが好ましく、(A)成分が20〜40体積%程度で、(B)成分が80〜60体積%程度であるのがより好ましい。
【0070】
ここで、(A)成分と(B)成分の組み合わせは、例えば、次の様にして、決定することができる。すなわち、[1]前記黒体放射のエネルギー密度分布式を基準とし、熱放射流束のエネルギー密度qλの最大値をqλpおよびこのqλpを与える波長をλpとしたときに、(A)成分として0.9qλp≦qλとなる波長域(λ≦λ≦λ)の赤外線を吸収するものを選定し、[2]この選定作業と同時にまたは前後して、(B)成分として同じくλ≦λ≦λの赤外線を吸収する無機粒子を選定し、[3]次いで、(A)成分および(B)成分として、両者の赤外線吸収スペクトルの重なりが前記数式(1)の条件を満たすように互いに補完しあう関係になるような組み合わせを選択するのが望ましい。
【0071】
(A)成分と(B)成分を主成分とする本発明の放熱性粉体塗料組成物は、有機溶剤を含まない塗料組成物であり(JIS-K5000:2000)、必要であれば、意匠性等を考慮して、各種公知の着色顔料(C)を含めることができる。(C)成分としては、具体的には、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等を挙げることができ、これらの少なくとも1種を、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
(C)成分の形状も特に限定されないが、塗膜として用いる場合などの機械的強度及び意匠性と、塗膜の適度な凹凸に基づく放熱効率とを考慮して、通常、平均一次粒子径が前記(B)成分の平均一次粒子径の0.01〜10%程度であるのが好ましい。また、メディアン径D50は、1μm以下程度であるのが好ましい。
【0073】
本発明の放熱性粉体塗料組成物における(C)成分の含有量は、特に限定されないが、通常、(A)成分および(B)成分の合計100体積%に対して、0.5〜30体積%程度であるのが好ましく、1〜25体積%程度であるのがより好ましく、5〜20体積%程度であるのがさらに好ましい。
【0074】
本発明の粉体塗料は、溶融混合法、ドライブレンド法その他の一般的な方法により製造することができる。例えば溶融混合法では、前記(A)成分および(B)成分、ならびに必要に応じて前記エポキシ硬化剤やその硬化促進剤、各種添加剤(充填剤、カップリング剤、レベリング剤、滑剤等)を、ヘンシェルミキサーなどを用いて乾式混合した後、ニーダーやエクストルーダーなどにより溶融混合処理し、ついで混合物を冷却固化し、微粉砕後分級することによって、得ることができる。また、本発明の粉体塗料の粒度は特に限定されないが、通常、その平均一次粒子系が5〜250μm程度の範囲である。
【0075】
また、本発明の放熱性粉体塗料組成物は各種発熱性物品に適用されるが、当該発熱性物品としては、それ自体発熱する物品および該発熱する物品を収納した筐体等のいずれも包含される。発熱性物品の具体例は、低温域、中温域、高温域の温度域毎に、それぞれ前記した通りであり、その他、モーター用のコイル等にも適用可能である。
【0076】
本発明の放熱性塗膜は、本発明の放熱性粉体塗料組成物を発熱性物品に適用し、加熱することにより、当該発熱性物品上で溶融させることにより形成される。適用手段は特に限定されず、例えば、流動浸漬法、静電流動槽法、静電スプレー法、カスケード法等が挙げられる。塗装後は、塗膜を備えた発熱性物品を150℃〜220℃程度で10分〜1時間加熱し、当該塗膜を溶融、固化かせることによって、硬化塗膜が得られる。当該硬化塗膜の厚みは特に限定されないが、通常、20μm〜10mm程度である。また、発熱性物品を構成する材料も特に限定されないが、通常は、例えば、鉄、アルミ、銅およびそれらの合金等やその他耐熱性の素材が挙げられる。また、基材の形態も特に限定されず、板状、棒状、コイル状等であってよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を通じ本発明について具体的に説明するが、それらにより本発明の範囲が限定されないことはもとよりである。
【0078】
なお、赤外線吸収スペクトルは市販のデジタル式赤外線吸光機器(製品名「FT-IR AVATAR360,UMA150」、Thermo Fisher
Scientific社製)により求めた。
【0079】
また、半値全幅値(FWHM(A)、FWHM(B))は、市販のソフト(商品名「GRAMS/AI」、Thermo Galactic社製)により各スペクトルを波形解析することにより求めた。
【0080】
中温度域用の放熱性粉体塗料組成物の実施例
【0081】
実施例1
市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(※1)32部、市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(※2)3部、市販のオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(※3)8部(以上、(A)成分)、ならびに市販の多孔質シリカ粉末(※4)6部((B1)成分および市販のフッ化カルシウム粉末(※5)16部((B2)成分)、ならびに市販の酸化チタン粉末(※6)20部((C)成分)、ならびに市販の重質炭酸カルシウム(※7)13部からなる粉末塗料を金属基材に適用し、加熱溶融させることによって、放熱性硬化塗膜を備える試験基材を作製した。
【0082】
※1…商品名「エポトートYD−012」、新日鐵住金化学(株)製
※2…商品名「jERキュア171N」、三菱化学(株)製
※3…商品名「エピクロンN−675」、DIC(株)製
※4…商品名「サイシリア470」、富士市リシア化学(株)製、平均一次粒子径14.1μm
※5…商品名「FLUORITE POWDER CALCIUM FLUORIDE」、China Tuhsu Flavours & Fragrances Import & Export Co. Lt製、平均一次粒子径38.0μm
※6…商品名「TITONE R−32」、堺化学工業(株)製
※7…商品名「SL−100」、竹原化学工業(株)製
【0083】
【表1】
【0084】
FWHM(A)(μm):(A)成分の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク半値全幅を示す。
ΣFWHM(A)(μm):(A)成分の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク半値全幅(合計)を意味する。
【0085】
FWHM(B1)(μm):(B1)成分の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク半値全幅を示す。
ΣFWHM(B1)(μm):FWHM(B1)の合計値を意味する。
【0086】
FWHM(B2)(μm):(B1)成分の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク半値全幅を示す。
ΣFWHM(B2)(μm):FWHM(B2)の合計値を意味する。
【0087】
【表2】
【0088】
OL(A−B)(μm):(A)成分の赤外線吸収スペクトルの半値全幅(合計)と(B)成分の赤外線吸収スペクトルの半値全幅(合計)との重なり幅(合計)を意味する。
OL(B1−B2)(μm):(B1)成分の赤外線吸収スペクトルの半値全幅と(B2)成分の赤外線吸収スペクトルの半値全幅(合計)との重なり幅(合計)を意味する。
OL(A−B)(%): 数式(1)より計算される、(A)成分の赤外線吸収スペクトルと(B)成分の赤外線吸収スペクトルの重なり程度を示す。
OL(B1−B2)(%):数式(3)より計算される、(B1)成分の赤外線吸収スペクトルと(B2)成分の赤外線吸収スペクトルの重なり程度を示す。
【0089】
(塗膜放熱性の評価)
前記金属基材それじたいに、熱源として抵抗器(シャント抵抗器、PCN社製、型番PBH1ΩD、定格電力10W、サイズ約2cm長×約1.5cm幅×約0.5cm厚)を、市販の熱伝導性両面テープ(商品名:NO.5046
熱伝導性テープ、マクセルスリオンテック(株)製)によって固定し、測定雰囲気の温度を25℃に設定した後、一定の電流(3.2A)を印加して、当該シャント抵抗器の温度を100℃とした。
【0090】
次いで、実施例1に係る試験基材の、塗膜が付着していない部分に前記シャント抵抗器を、同じく前記熱伝導性両面テープで固定し、測定雰囲気の温度を25℃に設定した後、当該熱源に一定の電流(3.2A)を印加して、当該シャント抵抗器の温度を測定した。その結果、前記アルミニウム板それじたいの基準温度(100℃)との温度差が−11.9℃であることを確認した。
【0091】
また、実施例1に係る試験板の塗膜の赤外線放射率を、市販のサーモグラフィー(商品名:サーモギアG100、NEC Avio赤外線テクノロジー(株)製)を用いて測定したところ、0.96であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13