特許第6218574号(P6218574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6218574
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィ用充填剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20171016BHJP
   C08F 265/04 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
   G01N30/88 101S
   G01N30/88 101M
   G01N30/88 201X
   G01N30/88 201G
   C08F265/04
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-245185(P2013-245185)
(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2015-102506(P2015-102506A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】513299661
【氏名又は名称】宮下 昶夫
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】宮下 昶夫
(72)【発明者】
【氏名】臼井 睦
(72)【発明者】
【氏名】高井 信治
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/026569(WO,A1)
【文献】 特開2010−112794(JP,A)
【文献】 特開2003−083946(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/028661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィ用充填剤において、この充填剤は無孔質コアの表面に多孔質シェルが形成され、前記無孔質コアはエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリラート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートの何れかを重合させたポリマーで、前記多孔質シェルはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体であることを特徴とする液体クロマトグラフィ用充填剤。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフィ用充填剤において、前記多孔質シェルには、イオン交換基が保持されていることを特徴とする液体クロマトグラフィ用充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフィ用充填剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィ装置のカラムに充填する充填剤としては一般にシリカ粒子やアルミナ粒子が用いられている。
【0003】
シリカ粒子やアルミナ粒子を充填剤とした場合には、使用できる移動相としてアルカリ性のものを使用するとシリカやアルミナが溶出してしまうため、使用できる移動相のpH範囲が狭く、また吸着能力も低い。
このため、特許文献1には、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体を液体クロマトグラフィの充填剤として用いることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリカ系充填剤として、シリカコア粒子の表面に多孔質のシリカシェルを形成したものが提案されている。このように表面を多孔質とすることで、送液抵抗を大きくしないで、つまり充填剤の粒子径を小さくしなくとも充填剤粒子の比表面積を大きくすることができるので、吸着能力を大きくできる。
【0005】
尚、最近ではシリカ粒子の表面にODS(オクタデシルシラン)を化学的に結合させて連続的した多検体処理を可能としている。
【0006】
また、特許文献3には特許文献2と同様に、コアとシェルをスチレン−ジビニルベンゼン共重合体によって構成した液体クロマトグラフィ用充填剤が提案されている。特許文献3ににあっては、試料成分がコアに浸透しにくくシェルに吸着されやすくするため、コアの架橋度を50%、シェルの架橋度を20%に設定している。
【0007】
また、特許文献3には、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体以外の材料として、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシメタアクリレート、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、(メタ)アクリレート系、ビニルアルコール系、アクリルアミド系、メタクリル酸系、アクリル酸系が使用できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭48-16990号公報
【特許文献2】WO2007/122930
【特許文献3】WO2012/026569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液体クロマトグラフィ用カラムの理論段高さ、送液性及び浸透性を向上して、分離精度を高め分離時間を短くするため、特許文献2では、シリカコアの表面に多孔性のシリカシェルを形成している。
【0010】
尚、特許文献3では、単味のポリマーコアとシェルの架橋度を変えることで内側のコアを密に、外側のシェルを粗にすると記載されているが、架橋度を低くすることと多孔性とは関連性はない。ジビニルベンゼン(DVB)の割合を多くすると架橋度が大きくなり樹脂内の分子の網目(ミクロポア)は小さくなり、少なくすると架橋度は小さくなり樹脂内の分子の網目(ミクロポア)は大きくなる。一方、多孔質と称される吸着能を発揮する細孔(マクロポア)は上記網目(ミクロポア)とは異なる。
【0011】
このように従来の液体クロマトグラフィ用充填剤にあっては、充填剤の材料、粒径及びコア表面に多孔質シェルを形成した構造が提案されているが、コアとシェルの材料を異ならせたものは提案されていない。
コアとシェルの材料が同じだと境界面において剥離が起きやすく機械的強度に劣り、充填剤の寿命が短くなる。
【0012】
液体クロマトグラフィ用充填剤をコアとシェルの2層構造としたのは、夫々に要求される機能が異なるからである。即ちシェルには試料分子を吸着したり、イオン交換する能力が要求され、逆にコアの試料分子吸着能力を高めると、却って分離時間が長くなるので、吸着能力は低い方がよい。
しかしながら、コアとシェルを同じ材料で構成すると上記した機械的な強度に問題が生じ、コア及びシェルに要求される機能の発揮が中途半端になる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明に係る液体クロマトグラフィ用充填剤は、無孔質コアの表面に多孔質シェルを形成し、前記無孔質コアはエチレングリコールジメタクリラート、ブチレングリコールジメタクリラート、ヘキサンジオールジメタクリラート又はトリメチロールプロパントリメタクリラートの何れかを重合させたポリマーで、前記多孔質シェルはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる。
【0014】
本明細書において、無孔質とは試料分子(例えば分子量70〜10000)が実質的に浸透しないことを指し、多孔質とは試料分子(例えば分子量70〜10000)が容易に浸透できることを指す。
【0015】
また、前記多孔質シェルに常法によって、スルホン基などの陽イオン交換基やアミノ基などの陰イオン交換基を導入してもよい。このようにすることで、更に分離速度を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフィ用充填剤によれば、外表面を多孔質シェルとしたことで、試料に対する吸着能力が向上しただけでなく、充填剤を構成するコアとシェルの材質を異ならせたことで、コアとシェルの接着強度が高まり且つコアに要求される機能とシェルに要求される機能を十分に発揮することができる。
【0017】
特に、コアの材料をエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリラート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートの何れかを重合させたポリマーとしたことで、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、機械的な強度に優れた充填剤が得られ、またシェルの材料をスチレン−ジビニルベンゼン共重合体としたことで、試料分子の吸着(分離)機能に優れた充填剤が得られ、更にコアとシェルの境界面においてスチレン−ジビニルベンゼンのモノマーがコアに食い込み(楔効果)、接着強度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る充填剤の拡大写真
図2】本発明に係る充填剤の断面図
図3】イオン交換基を導入した本発明に係る充填剤と従来の充填剤との分離能力を比較したグラフ
図4】イオン交換基を導入しない本発明に係る充填剤と従来の充填剤との分離能力を比較したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び図2に示すように本発明に係る充填剤はコア1とシェル2からなる直径5μm程度の球状粒子である。
【0020】
コア1はモノマーと重合開始剤を、アニオン性分散剤を溶解した水溶液中に混合し、温度・時間などの条件を適切な範囲にして重合せしめることで得る。モノマーとしてはエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリラート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートの何れかを選択する。
【0021】
シェル2はスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる。このスチレン−ジビニルベンゼン共重合体は、トルエンをベースとしこれに沈殿剤、膨潤剤および重合に関与しないポリマーを添加して希釈剤を調整し、この希釈剤にスチレン−ジビニルベンゼンのモノマーを均一に溶解し、重合開始剤とともに前記コア粒子を含むアニオン性分散在水溶液中に混合し、温度・時間などの条件を適切な範囲にして重合せしめ、コア表面にスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質皮膜(シェル)を形成する。
【0022】
そして必要に応じて、シェル2の細孔表面に、スルホン基などの陽イオン交換基やアミノ基などの陰イオン交換基を導入する。
【0023】
(実施例1)
精製水4000mlを40℃に保ちながら、Nガスを300ml/minの流量で30分水中での脱気を行った後、Nガスの吹き出し口を水面より上に上げ200ml/minの流量に落とし、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ10gを加え溶解させた後、エチレングリコールジメタクリレート50gに重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5gを加えた。
【0024】
この後、攪拌を行った。攪拌は長さ12cm巾2cmの水平状の攪拌翼を用い、1100rpmの回転速度で40℃を保ちながら60分間重合を行った。
【0025】
次いで、50〜60%架橋に調整したスチレン−ジビニルベンゼンのモノマーに希釈剤(10%ポリスチレンを溶解したトルエン)50gに重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5gを溶解し、これを1000rpmに回転速度を落とし、20ml/min程度の滴下速度で加え、40℃を保ちながら60分間重合し、その後60℃まで昇温し、4時間重合することで重合を完了した。
【0026】
重合物は濾別し水洗後、2-ブタノンで希釈剤や不純物を除去するためカラム洗浄し、この後分級機を用い、粒子径を約5μmに整えた。
糖分離用充填剤とするため、5μm樹脂は完全に脱水し、樹脂量と同量のクロロメチルエーテルを用い、0〜5℃の温度で3時間反応させてクロロメチル化した。
【0027】
クロロメチル化樹脂は十分水洗後脱水し、20%テトラメチレンジアミノヘキサン水溶液中に移し、60℃で3時間緩やかに攪拌しながらアミノ化を行った。アミノ化終了後、十分な水洗を行い、50〜60%の保水状態で保存する。
【0028】
図3は、実施例1で作製したイオン交換基としてアミノ基を導入した本発明に係る充填剤と従来の充填剤との分離能力を比較したグラフである。
従来の充填剤としては、コアとシェルの区別がなく全体が多孔質状のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる充填剤を用いた。
【0029】
図3から明らかなように、本発明に係る充填剤は従来の充填剤に比較して、大幅に分離時間が短縮し且つ分離精度は低下していないことが分かる。
【0030】
(実施例2)
条件は(実施例1)と同様とした。但し、イオン交換基(アミノ基)を多孔質シェルに導入しない充填剤を作製した。
【0031】
図4は、実施例2で作製したイオン交換基を導入していない本発明に係る充填剤と従来の充填剤との分離能力を比較したグラフである。
図4から明らかなように、本発明に係る充填剤であってイオン交換基を導入していない充填剤は、実施例1の充填剤よりも分離時間は長くなっているが、従来の充填剤に比較して、大幅に分離時間が短縮し且つ分離精度は低下していないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る液体クロマトグラフィ用充填剤は、分離能を損なうことなくボイド時間を短縮できるため、高速液体クロマトグラフィに好適に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1…コア、2…シェル。
図1
図2
図3
図4