(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6218603
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】マウス抗Aggrusモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20171016BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20171016BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20171016BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20171016BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20171016BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20171016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20171016BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20171016BHJP
C12N 15/02 20060101ALI20171016BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
C07K16/28ZNA
A61K39/395 N
A61P7/02
A61P9/10
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
C12N5/10
C12N15/00 C
C12P21/08
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-505892(P2013-505892)
(86)(22)【出願日】2012年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2012056142
(87)【国際公開番号】WO2012128082
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年2月24日
【審判番号】不服2016-13239(P2016-13239/J1)
【審判請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-62686(P2011-62686)
(32)【優先日】2011年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人医薬基盤研究所、基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】FERM BP-11446
【微生物の受託番号】FERM BP-11447
【微生物の受託番号】FERM BP-11448
【微生物の受託番号】FERM BP-11449
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(73)【特許権者】
【識別番号】509325569
【氏名又は名称】知的財産戦略ネットワーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 侑也
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡
【合議体】
【審判長】
田村 明照
【審判官】
中島 庸子
【審判官】
福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/040565(WO,A1)
【文献】
遺伝子医学MOOK11 臨床糖鎖バイオマーカーの開発−糖鎖機能の解明とその応用,1008年,p.165−171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N15/00-15/90
C07K16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3又は4により表されるアミノ酸配列をエピトープとし、
Aggrus−CLEC-2の相互作用を干渉することを特徴とする抗Aggrusマウスモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント。
【請求項2】
受託番号FERM BP−11446、FERM BP-11447、FERM BP-11448又はFERM BP-11449のハイブリドーマにより産生される請求項1記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを
ヒト化したことを特徴とするモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント。
【請求項4】
受託番号FERM BP−11446、FERM BP−11447、FERM BP−11448又はFERM BP−11449のハイブリドーマ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、Aggrus−CLEC−2結合阻害剤。
【請求項6】
血小板凝集抑制又は癌転移抑制、あるいは腫瘍又は血栓症の処置のための、請求項1〜3のいずれか一項記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、医薬組成物。
【請求項7】
血栓症が、脳梗塞又は心筋梗塞である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
癌又は腫瘍が、扁平上皮癌、繊維肉腫、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍、脳腫瘍又は膀胱癌である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項9】
癌又は腫瘍が、扁平上皮癌、中皮腫、精巣腫瘍又は膀胱癌である、請求項8記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、マウス抗Aggrusモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板凝集誘導因子Aggrus(podoplanin、gp44等としても知られる)は、I型膜貫通タンパク質であり、扁平上皮癌、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍及び脳腫瘍といった様々なタイプの癌で発現増加していることが示されている(非特許文献1〜9)。Aggrusの過剰発現は予後不良に関係するとの報告があり、癌進行に対するAggrusの重要な関与が示唆されている(非特許文献10、11)。Aggrusの発現が血小板凝集を引き起こし、マウスにおける実験的な、そして自発的な肺転移を促進することが知られている(非特許文献11、12)。血小板凝集を抑制する点突然変異を導入すると、肺転移の形成は減弱するので、Aggrusの血小板凝集誘導活性は転移形成に直接関係していると考えられている(非特許文献11、12)。癌細胞誘導血小板凝集は、大きな癌−血小板凝集を形成し、微小血管系での癌細胞の塞栓形成増大、循環での免疫学的攻撃からの保護に至ると考えられている。最近、血小板上に発現しているC型レクチン様受容体(CLEC−2)が、Aggrusのカウンターパート受容体の一つとして特定された。腫瘍細胞上で発現しているAggrusにCLEC−2が結合すると、血漿成分がなくとも血小板で活性化シグナルが出され、血小板凝集の引き金となることが知られている。相互認識に決定的なAggrus及びCLEC−2のドメインは、すでに知られている(非特許文献13)。
【0003】
モノクローナル抗体は、細胞表面抗原にしっかりと特異的に結合することができ、標的細胞に免疫学的応答を引き起こすことができる。従って、現在、多くのモノクローナル抗体が癌治療に用いられている。癌治療で用いられるモノクローナル抗体は、中和、抗体依存性細胞傷害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity; ADCC)及び補体依存性細胞傷害活性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)、の3つの代表的な作用様式を介して抗癌効果を示す。ベバシズマブやセツキシマブに代表されるように、抗体はリガンド−受容体結合又は受容体多量体化を阻害し、シグナル経路の活性化を中和することができる。癌細胞の増殖はシグナル経路の活性化に依存しているので、その中和により細胞死に至る。他方、リツキシマブやトラスツズマブに代表されるように、抗体はそのFcドメインを介して標的癌細胞に対する免疫応答を誘導することができる。マクロファージ、NK細胞及び好中球等のエフェクター細胞と補体は、癌特異的抗原に結合する抗体のFcドメインを認識し、その結果標的癌細胞を殺す。これらの3つの作用様式は、抗体のアイソタイプやサブクラス、抗原の特徴や認識される部位により規定される。
【0004】
これまで、Aggrusに対する多くの抗体が確立されてきたが、そのほとんどはAggrus−CLEC−2の相互作用を干渉できないものであった。NZ−1と命名されたラット抗体は、Aggrus−CLEC−2の相互作用および血小板凝集を阻害することができるAggrus抗体として知られているが(非特許文献14)、種のバリアのせいで一般的に用いられるマウスの癌モデルでは正確に調べることができない等の問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kato Y, Kaneko M, Sata M, Fujita N, Tsuruo T, Osawa M. Enhanced expression of Aggrus (T1α/podoplanin), a platelet-aggregation-inducing factor in lung squamous cell carcinoma. Tumor Biol 2005; 26: 195-200.
【非特許文献2】Martin-Villar E, Scholl FG, Gamallo C et al. Characterization of human PA2.26 antigen (T1α-2, podoplanin), a small membrane mucin induced in oral squamous cell carcinomas. Int J Cancer 2005; 113: 899-910.
【非特許文献3】Yuan P, Tenam S, EI-Naggar A et al. Overexpression of podoplanin in oral cancer and its association with poor clinical outcome. Cancer 2006; 107: 563-569.
【非特許文献4】Wicki A. Lehembre F, Wick N, Hantusch B, Kerjaschki D, Christofori G. Tumor invasion in the absence of epithelial-mesenchymal transition: podoplanin-mediated remodeling of the actin cytoskeleton. Cancer Cell 2006; 9: 261-272.
【非特許文献5】Kimura N, Kimura I. Podoplanin as a marker for mesothelioma. Pathol Int 2005; 55: 83-86.
【非特許文献6】Fukunaga M. Expression of D2-40 in lymphatic endothelium of normal tissues and in vascular tumours. Histopathology 2005; 46: 396-402.
【非特許文献7】Kato Y, Sasagawa I, Kaneko M, Osawa M, Fujita N, Tsuruo T. Aggrus: a diagnostic marker that distinguishes seminoma from embryonal carcinoma in testicular germ cell tumors. Oncogene 2004; 23: 8552-8556.
【非特許文献8】Mishima K, Kato Y, Kaneko MK et al. Podoplanin expression in primary central nervous system germ cell tumors: a useful histological marker for the diagnosis of germinoma. Acta Neuropathol 2006; 111: 563-568.
【非特許文献9】Mishima K, Kato Y, Kaneko MK, Nishikawa R, Hirose T, Matsutani M. Increased expression of podoplanin in malignant astrocytic tumors as a novel molecular marker of malignant progression. Acta Neuropathol 2006; 111: 483-488.
【非特許文献10】Yuan P, Temam S, El-Naggar A, Zhou X, Liu DD, Lee JJ, Mao L. Overexpression of podoplanin in oral cancer and its association with poor clinical outcome. Cancer. 2006; 107: 563-569.
【非特許文献11】Kunita A, Kashima TG, Morishita Y, Fukayama M, Kato Y, Tsuruo T, Fujita N. The platelet aggregation-inducing factor aggrus/podoplanin promotes pulmonary metastasis. Am J Pathol. 2007; 170: 1337-1347.
【非特許文献12】Kato Y, Fujita N, Kunita A, Sato S, Kaneko M, Osawa M, Tsuruo T. Molecular identification of Aggrus/T1alpha as a platelet aggregation-inducing factor expressed in colorectal tumors. J Biol Chem. 2003; 278: 51599-51605.
【非特許文献13】Kato Y, Kaneko MK, Kunita A et al. Molecular analysis of the pathophysiological binding of the platelet aggregation-inducing factor podoplanin to the C-type lectin-like receptor CLEC-2. Cancer Sci 2008; 99: 54-61.
【非特許文献14】Kato Y, Kaneko MK, Kuno A et al. Inhibition of tumor cell-induced platelet aggregation using a novel anti-podoplanin antibody reacting with its platelet-aggregation-stimulating domain. Biochem Biophys Res Commun 2006; 349: 1301-1307.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、Aggrusをターゲットとして癌及び血栓症を処置するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、Aggrus−CLEC−2相互作用及び血小板凝集を阻害することができるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。このハイブリドーマから産生される抗体は、配列番号1(Pro Gly Ala Glu Asp Asp Val Val Thr)、配列番号3(Pro Gly Thr Ser Glu Asp)又は配列番号4(Pro Gly Thr Ser Glu Asp Arg Tyr Lys)により表されるアミノ酸配列からなるAggrusのエピトープを認識すること、Aggrus−CLEC−2の結合を濃度依存的に阻害すること、血小板凝集抑制及び癌の肺転移抑制効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、配列番号1、3又は4により表されるアミノ酸配列からなるAggrusのエピトープを認識する、マウスモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント(1)を提供する。
また、本発明は、受託番号FERM BP−11446、FERM BP−11447、FERM BP−11448又はFERM BP−11449のハイブリドーマにより産生される、前記(1)記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント(2)を提供する。
さらには、本発明は、ヒト化された、前記(1)又は(2)記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメント(3)を提供する。
本発明は、受託番号FERM BP−11446、FERM BP−11447、FERM BP−11448又はFERM BP−11449のハイブリドーマ(4)を提供する。
本発明は、前記(1)〜(3)のいずれか記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、Aggrus−CLEC−2結合阻害剤(5)を提供する。
本発明は、血小板凝集抑制又は癌転移抑制、あるいは腫瘍又は血栓症の処置のための、前記(1)〜(3)のいずれか記載のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、医薬組成物(6)を提供する。
また、本発明は、血栓症が、脳梗塞又は心筋梗塞である、前記(6)記載の医薬組成物(7)を提供する。
さらに、本発明は、癌又は腫瘍が、扁平上皮癌、繊維肉腫、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍、脳腫瘍又は膀胱癌である、前記(6)記載の医薬組成物(8)を提供する。
好ましくは、本発明は、癌又は腫瘍が、扁平上皮癌、中皮腫、精巣腫瘍又は膀胱癌である、前記(8)記載の医薬組成物(9)を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らが樹立したハイブリドーマから産生されるP2−0、MS-1、MS-3、MS-4と命名されたマウスモノクローナル抗体は、in vivo及びin vitroで分析したところ、配列番号1、3又は4により表されるアミノ酸配列からなるAggrusのエピトープを認識し、Aggrus−CLEC−2の結合を濃度依存的に阻害することが分かった。また、本願発明のモノクローナル抗体は、血小板凝集抑制効果や癌の肺転移抑制効果も示した。本願発明のモノクローナル抗体のヒト化抗体(ヒト型キメラ抗体)は、Aggrus低発現細胞にも癌転移抑制効果を示した。本願発明のモノクローナル抗体は、既に知られているラットのモノクローナル抗体よりも、生体で発現しているネイティブなAggrusに対する反応性が異なっており、Aggrus依存的な肺転移をより低濃度で抑制するという、予測し得ない効果が得られた。また、本願発明のモノクローナル抗体は各々異なるエピトープを認識しており、癌で頻発する耐性変異などが生じた場合でも別の抗体を用いれば克服できる可能性が高く、大きな利点を有している。さらに本願発明のモノクローナル抗体はマウスモノクローナル抗体であるため、抗癌剤の開発過程で汎用されるヒト癌を移植したマウスモデル(マウス担癌モデル)において、ラット抗体のように種のバリアを考慮する必要が無い。一般に、CDRをマウス抗体のFcドメインに結合させることにより、マウスキメラ抗体をラット抗体から作製することもできるとはいえ、そのマウスキメラ抗体の産生にはCHO細胞などの抗体産生細胞にキメラ抗体発現ベクターを遺伝子導入して産生させることが必要であり、マウスキメラ抗体の大量精製にはマウス抗体をマウス腹水で産生させる場合と比べて経済的ではなく、実用に適さない。よって、本願発明のマウスモノクローナル抗体は、例えばヒト癌のマウス担癌モデルを用いた医薬組成物の開発に格別に利便性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、P2−0抗体の合成ペプチドを用いた認識エピトープの絞り込みを示す図である。
【
図2】
図2は、P2−0抗体が、濃度依存的にAggrus−CLEC−2相互作用を阻害することを示す図である。
【
図3】
図3は、P2−0抗体が、血小板凝集抑制効果を有することを示す図である。
【
図4】
図4は、P2−0抗体が、癌の肺転移抑制効果を有することを示す図である。
【
図5】
図5は、ヒト化P2−0抗体(ヒト型キメラP2−0抗体)が、血小板凝集抑制効果を有することを示す図である。
【
図6】
図6は、ヒト化P2−0抗体(ヒト型キメラP2−0抗体)が、癌の肺転移抑制効果を有することを示す図である。
【
図7】
図7は、ヒト化P2−0抗体(ヒト型キメラP2−0抗体)が、Aggrus低発現細胞(HT1080細胞)にも肺転移抑制効果を有することを示す図である。
【
図8】
図8は、P2−0抗体が、ヒト膀胱癌細胞膜表面に発現しているAggrusを認識することを示すウェスタンブロット分析の図である。
【
図9】
図9は、NZ−1抗体とP2−0抗体とのAggrus認識能の違いを示すウェスタンブロット分析の図である。
【
図10A】
図10Aは、NZ−1抗体(
図10A)とP2−0抗体(
図10B)とのAggrus認識能の違いを示すFACS法におけるNZ−1抗体の解析結果の図である。
【
図10B】
図10Bは、NZ−1抗体(
図10A)とP2−0抗体(
図10B)とのAggrus認識能の違いを示すFACS法におけるP2−0抗体の解析結果の図である。
【
図11】
図11は、NZ−1抗体とP2−0抗体との癌の肺転移抑制効果の違いを示す図である。
【
図12】
図12は、MS-1、MS-3およびMS-4抗体がヒトAggrusを認識することを、ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株を用いたフローサイトメトリー解析により確認した図である。
【
図13】
図13は、アラニン変異型Aggrusタンパク質を用いたP2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体の認識エピトープの絞り込みを示す図である。
【
図14】
図14は、表面プラズモン共鳴を用いた組換えヒトAggrusタンパク質に対するP2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体の結合度を測定した図である。
【
図15】
図15は、P2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体がAggrus−CLEC−2相互作用を阻害することを示す図である。
【
図16】
図16は、P2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体が血小板凝集抑制効果を有することを示す図である。
【
図17】
図17は、MS-1抗体がヒトAggrus発現細胞に対して抗腫瘍活性を発揮することを示す図である。
【
図18】
図18は、MS-1抗体がヒトAggrus発現細胞の肺への自然転移を阻害することを示す図である。
【
図19】
図19は、MS−1およびMS−3抗体がヒトAggrus発現細胞の肺転移抑制効果を有することを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
Aggrusは、gp44、podoplanin等としても知られている。
【0012】
「抗Aggrusモノクローナル抗体」は、Aggrusに特異的に結合するモノクローナル抗体または誘導体をいい、元の抗体と実質的に同じ抗原特異性を示す当該抗体の断片(本明細書中、「機能的断片」と呼ぶ)をも含むものとする。抗体の機能的断片には、Fab、Fab'、F(ab')
2、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、もしくはCDRを含むペプチドなどの抗体の機能的断片などが含まれる。本発明における抗体は、以下に詳述するように、動物、好ましくはマウスを免疫し、適切な細胞との融合によるハイブリドーマの作製のため脾臓細胞を回収することを含む、従来の方法により作製することができる。
【0013】
Aggrusに対するマウスモノクローナル抗体の好適な例としては、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD;日本国〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM BP−11446として2011年2月18日付で寄託されたハイブリドーマ、並びに受託番号FERM BP-11447、FERM BP-11448及びFERM BP-11449として前記IPODに2011年12月28日付で寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が挙げられる。また、これと同等の結合特性を有する他の抗体も本発明の抗Aggrusモノクローナル抗体として好ましい。
【0014】
ヒト以外の動物の抗体を、遺伝子組換え技術を利用してヒト型キメラ抗体あるいはヒト型CDR移植抗体などとしたヒト化抗体もまた、本発明において有利に使用することができる。ヒト型キメラ抗体とは、抗体の可変領域(以下、V領域と表記する)がヒト以外の動物の抗体で、定常領域(以下、C領域と表記する)がヒト抗体である抗体であり(Morrison S.L. et al.、Proc Natl Acad Sci USA.81(21),6851-6855,1984)、ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のV領域中のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の適切な位置に移植した抗体である(Jones P.T. et al.、Nature,321(6069),522-525,1986)。ヒト化抗体は、ヒトに投与した場合、ヒト以外の動物の抗体に比べ、副作用が少なく、その治療効果が長期間持続する。また、ヒト化抗体は、遺伝子組換え技術を利用して様々な形態の分子として作製することができる。
【0015】
本発明は、別の態様において、本願発明のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、Aggrus−CLEC−2結合阻害剤、及び血小板凝集抑制又は癌転移抑制、あるいは腫瘍又は血栓症の処置のための、本願発明のモノクローナル抗体又はその機能的断片からなるフラグメントを含む、医薬組成物を提供する。血栓症は、好ましくは脳梗塞又は心筋梗塞である。癌又は腫瘍は、好ましくは扁平上皮癌、繊維肉腫、中皮腫、カポジ肉腫、精巣腫瘍、脳腫瘍又は膀胱癌である。なお、本願明細書中、用語「癌」と「腫瘍」とは同じ意味を有する用語として使用される。
【0016】
本発明の医薬組成物の剤型の種類としては、例えば、経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。有効成分としての抗Aggrusモノクローナル抗体は、製剤中0.1から99.9重量%含有することができる。
【0017】
本発明の薬剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、患者(60kgとして)に対して一日につき約0.1μg〜1000mg、好ましくは約1.0μg〜100mg、より好ましくは約1.0mg〜50mgである。非経口的に投与する場合は、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、患者(60kgに対して)、一日につき約0.01から30mg程度、好ましくは約0.1から20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。しかしながら、最終的には、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
以下に実施例を挙げて、本願発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
マウス抗ヒトAggrusモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
免疫原
ヒトAggrus cDNAのTT679部位(位置38〜51の14個のアミノ酸(配列番号2:Glu Gly Gly Val Ala Met Pro Gly Ala Glu Asp Asp Val Val)をクローニングし、pGEX−6P−3ベクター(GE Healthcare、英国バッキンガムシャー州)に8回反復してつないだ(TT679-repeat)。このベクターで大腸菌BL21(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を形質転換し、そしてGSTタグ付け組換えタンパク質をGlutathione Sepharose(GE Healthcare)により精製した。
【0019】
感作
6週齢の雌性BALB/cマウス(日本チャールズリバー株式会社から購入し、常法に従って飼育)に、Freund's complete adjuvant(Difco Laboratories、ミシガン州デトロイト)を用いて上記で得られた免疫原を頸部皮下投与した。隔週での腹腔内投与により、追加免疫を行った。
【0020】
ハイブリドーマ樹立
常法に従って、脾臓細胞を採取し、ポリエチレングリコール4000(Merck、ニュージャージー州)を用いてマウスミエローマ細胞P3U1と融合させた。ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含むRPMI 1640培地(Sigma)で増殖させて、ハイブリドーマを選択した。その結果、15クローンのハイブリドーマが樹立された。
【実施例2】
【0021】
マウス抗ヒトAggrusモノクローナル抗体の分析
ウェスタンブロットによる検証
上記で得られたハイブリドーマから得られる抗体のうち、P2−0という抗体を産生するハイブリドーマを、2011年2月18日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、受託番号FERM BP−11446を付された(受託番号FERM P−22069と同一)。P2−0抗体は、フローサイトメトリー及びウェスタンブロット分析により、ヒトAggrusを認識することが示された。さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列が欠失したAggrus変異体を作製してウェスタンブロット分析を行ったところ、P2−0抗体はこれを認識できなかった。
【実施例3】
【0022】
エピトープの探索
図1に示されるように、様々なペプチドを化学合成し、それらに対するP2−0抗体の反応性をELISA法にて検討した。その結果、位置44〜52のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチドに対して高い反応性が示された。
【実施例4】
【0023】
Aggrus−CLEC−2結合阻害試験
哺乳動物細胞から精製した組換えAggrusタンパク質及びCLEC−2タンパク質を用いて、Aggrus−CLEC−2相互作用をELISA法により検出した。Aggrus抗体の存在下での相互作用への影響を調べた。
図2に示されるように、P2−0抗体は、濃度依存的にAggrus−CLEC−2相互作用を阻害することが見出された。
【実施例5】
【0024】
血小板凝集抑制試験
CHO細胞及びCHO/mock細胞は、血小板凝集を引き起こせないことが知られているのに対し、Aggrusを発現したCHO/Aggrus細胞は血小板凝集を引き起こした。光線透過率のモニタリングによるin vitro血小板凝集分析において、反応開始時点から最大の半分の値の時点までの時間を比較した。
図3に示されるように、P2−0抗体の添加により、Aggrusによる血小板凝集は濃度依存的に遅延されることが見出された。
【実施例6】
【0025】
肺転移抑制試験
静脈注射後、ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株のin vivoにおける実験的肺転移に対する抗体の影響を検討した。CHO細胞は、Aggrusの強制発現により転移性となることが知られている。
図4に示されるように、P2−0抗体は、0.1μg/匹といった非常に少量でも非常に強い肺転移抑制効果を示すことが明らかとなり、P2−0抗体はAggrus中和活性だけでなく、Aggrus依存的な血行性転移を阻害することも示された。
【実施例7】
【0026】
ヒト化抗体の作製と検証
実用可能とするために、P2−0抗体のAggrus認識可変領域をクローニングし、定法に従ってヒトIgGの定常領域に組み込んだヒト化P2−0抗体(ヒト型キメラP2−0抗体)を作製した。また、このヒト化P2−0抗体は、サルAggrusを認識することを確認した。さらに、このヒト化P2−0抗体は、元のP2−0抗体と同様に血小板凝集阻害活性(
図5)及び癌の転移抑制効果(
図6)を示すことも確認した。このヒト化P2−0抗体は、
図7に示されるように、Aggrus低発現細胞(HT1080細胞)にも癌転移抑制効果を示した。
【実施例8】
【0027】
Aggrus関連癌の探索とラット抗Aggrus抗体(NZ−1抗体)との比較
本発明者らはさらに、Aggrusが膀胱癌でも高頻度に発現亢進していることを、膀胱癌の臨床サンプルより得られたcDNA(OriGene社より市販されているTissueScan cDNA Panel)をテンプレートとしたreal-time PCR法により見いだした。
【0028】
そこで、ウェスタンブロット分析により、ヒト膀胱癌に発現しているAggrusのP2−0抗体による認識を調べた。
図8に示されるように、P2−0抗体は、各種ヒト膀胱癌細胞膜表面に発現しているAggrus(レーン2〜5)を認識したのに対し、市販のD2−40抗体(マウス抗ヒトAggrusモノクローナル抗体)は、ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株のみ(レーン1)を認識したが、ヒト膀胱癌細胞膜表面に発現しているAggrusを認識できないことが明らかとなった。さらに、ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株及び各種ヒト膀胱癌細胞株を、タンパク質分解酵素であるトリプシン処理の条件下(
図9;レーン7〜9)あるいはトリプシン無処理の条件下(
図9;レーン12〜15)で回収し、その細胞溶解液をSDS−PAGEし、P2−0抗体、NZ−1抗体とタンパク質泳動量が揃っていることを確認するためのアクチン抗体でウェスタンブロット分析を行った。その結果、
図9に示されるように、P2−0抗体はヒト膀胱癌細胞膜表面に発現しているAggrusタンパク質を認識したが、NZ−1抗体はヒトAggrusを導入したCHO細胞に発現しているAggrusしか認識できず(
図9;レーン6)、ヒト膀胱癌細胞膜表面に発現している野生型Aggrusを認識することができないことが明らかとなった。
【0029】
本検討により、P2−0抗体はこれまでに知られていた抗ヒトAggrus抗体(NZ−1を含む)と比較して、生体で発現しているネイティブAggrusに対する反応性が強いことが実証され、P2−0抗体は多種類の癌で発現しているAggrusを認識できる抗体であることが示唆された。従って、P2−0抗体はAggrusをターゲットとした使用において、より優れた効果を有することが示唆された。
【0030】
さらに、FACS法により、上記ウェスタンブロット分析の結果を再現した。具体的には、ヒト膀胱癌細胞株T24をタンパク質分解酵素であるトリプシンを含まないEDTAのみで細胞回収し、その細胞に対してそれぞれNZ−1抗体又はそのコントロール抗体であるラット抗体を4℃で1時間反応させた。過剰な抗体をPBSで洗浄した後、2次抗体としてAlexa488標識された抗ラットIgG抗体を4℃で1時間反応させた。過剰な抗体をPBSで洗浄した後、Beckman Coulter社のCytomics FC500フローサイトメーターで解析した。結果を、
図10Aに示す。
【0031】
他方、上記回収したヒト膀胱癌細胞株T24に対してそれぞれP2−0抗体又はそのコントロール抗体であるマウス抗体を4℃で1時間反応させた。過剰な抗体をPBSで洗浄した後、2次抗体としてAlexa488標識された抗マウスIgG抗体を4℃で1時間反応させた。過剰な抗体をPBSで洗浄した後、同様にフリーサイトメーターで解析した。結果を、
図10Bに示す。
図10A及びBに示されるように、NZ−1抗体はヒト膀胱癌細胞株T24に発現しているAggrusを認識しなかったが、P2−0抗体は認識していた。
【0032】
ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株のin vivoにおける実験的肺転移に対するP2−0抗体とNZ−1抗体の作用を比較した。
図11に示されるように、P2−0抗体は、マウス1匹当たり0.01μg、0.001μgといった非常に少量でもコントロール抗体投与群と比較して有意に肺転移抑制効果を示すが、NZ−1抗体は、0.1μg/匹では有意な転移抑制効果を示すが、0.01μg/匹、0.001μg/匹といった少量ではコントロール抗体と比較して有意な抑制効果を示せないことが明らかとなった。よって、P2−0抗体はNZ−1抗体と比較して強い血行性転移阻害活性を持つことが明らかとなった。従って、P2−0抗体は、Aggrus認識およびAggrus機能抑制において優れた効果を有する抗体であり、実験的・臨床的使用において有利であることが見出された。
【実施例9】
【0033】
マウス抗ヒトAggrusモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
免疫原
ヒトAggrus cDNAのPP4262部位(位置42〜62の21個のアミノ酸(配列番号5:Ala Met Pro Gly Ala Glu Asp Asp Val Val Thr Pro Gly Thr Ser Glu Asp Arg Tyr Lys Ser))を18回繰り返したものをpGEX-6P3ベクター(GE Healthcare)にクローニングした。このベクターで大腸菌BL21(Invitrogen)を形質転換し、GSTタグ融合組み換えタンパク質をGlutathione Sepharose(GE Healthcare)により精製した。
【0034】
感作
6週齢の雌性BALB/cマウス(日本チャールズリバー株式会社から購入し、常法に従って飼育)に、TiterMax Gold(TiterMax USA, Inc.)を用いて上記で得られた免疫原を頸部皮下投与した。隔週での腹腔内投与により、追加免疫を行った。
【0035】
ハイブリドーマ樹立
常法に従って脾臓細胞を採取し、ポリエチレングリコール4000(Merck)を用いてマウスミエローマ細胞P3U1と融合させた。ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含むエス・クロン クローニングメディウム(エーディア株式会社)で増殖させて、ハイブリドーマを選択した。その結果、複数個のハイブリドーマが樹立された。
【実施例10】
【0036】
マウス抗ヒトAggrusモノクローナル抗体の分析
フローサイトメトリー解析による検証
上記のハイブリドーマから得られる抗体のうちMS-1、MS-3およびMS-4という抗体を産生するハイブリドーマを、2011年12月28日に、それぞれ受託番号FERM BP-11447、FERM BP-11448およびFERM BP-11449として独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した。なお、MS-1、MS-3およびMS-4抗体がヒトAggrusを認識することは、ヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株を用いたフローサイトメトリー解析により確認した。具体的には、ヒトAggrus遺伝子を安定的に遺伝子導入したCHO細胞を培養容器から回収し、PBSで洗浄した後2x10
6 cells/mlの細胞密度に調整したところに、MS-1、MS-3およびMS-4抗体を処理し30分間氷上で反応させた。その後、細胞をPBSで洗浄し2次抗体としてAlexa488標識された抗マウスIgG抗体を処理し氷上で30分間反応させた。細胞をPBSで3回洗浄した後、Cytomics FC500(Beckman Coulter)で解析を行った。解析結果を
図12に示す。
【実施例11】
【0037】
エピトープの探索
ヒトAggrus cDNAからシグナルペプチドに相当するコドンを除去したものをpGEX-6P3ベクターへクローニングし、37から62番目のアミノ酸に相当するコドンをQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて1個所ずつアラニンに対応するコドンへと置換することにより、各種アラニン変異型Aggrus発現ベクターを作製した。作製したベクターを用いて大腸菌TOP10F’(Invitrogen)を形質転換して培養した後、大腸菌破砕液をサンプルとしてウェスタンブロット法を行うことにより、組換えヒトAggrusタンパク質に対するP2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体の反応性を検討した。その結果、
図13上段に示されるように、P2-0抗体はヒトAggrusタンパク質の45番目のグリシン、48番目のアスパラギン酸および49番目のアスパラギン酸に対して高い反応性を示し、配列番号1で示すアミノ酸配列を認識することが確認された。MS-1抗体は、ヒトAggrusタンパク質の45番目のグリシンおよび48番目のアスパラギン酸に対して高い反応性を示し、配列番号1で示すアミノ酸配列を認識することが確認された。MS-3抗体は、ヒトAggrusタンパク質の54番目のグリシン、55番目のスレオニンおよび58番目のアスパラギン酸に対して高い反応性を示し、配列番号3で示すアミノ酸配列を認識することが確認された。MS-4抗体は、ヒトAggrusタンパク質の53番目のプロリン、55番目のスレオニン、57番目のグルタミン酸、58番目のアスパラギン酸および61番目のリジンに対して高い反応性を示し、配列番号4で示すアミノ酸配列を認識することが確認された。なお、P2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体の認識エピトープの模式図を
図13下段に示す。ヒトAggrus一次配列中の認識エピトープのうち、白抜き文字で示したアミノ酸が抗体の認識部位であり、楕円と重なる部位は抗体がヒトAggrusを認識する際に重要な領域を示す。
【実施例12】
【0038】
表面プラズモン共鳴を用いた組換えヒトAggrusタンパク質に対する抗体の結合度測定
P2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体の組換えヒトAggrusタンパク質に対する結合度測定は、表面プラズモン共鳴解析装置Biacore X100(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)を用いた。カルボキシメチルデキストランコート処理が施されたセンサーチップCM5上にアミンカップリング法を用いて組換えヒトAggrusタンパク質を固定化し、約2,000 RU相当の固定化量を得た。25度、30マイクロリットル/minの流速の条件下、HBS-EP+ buffer(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05% v/v Surfactant P20)を流路に満たして測定を行った。HBS-EP+ bufferを用いてP2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体溶液を100nM、50nM、25nM、12.5nMおよび6.25nMに各々希釈し、組換えヒトAggrusタンパク質が固定化されたセンサーチップCM5上に60秒間流して結合反応を観察し、引き続きHBS-EP+ bufferを120秒間流して解離反応を観察した。測定により得られたセンサーグラムをもとにBiacore X100 evaluation software bivalent analyte modelを用いて解析を行い、解離定数K
D値を算出した。
図14に示されるように、組換えヒトAggrusタンパク質に対するP2-0抗体の解離定数は9.3x10
-9 M、MS-1抗体の解離定数は9.0x10
-9 M、MS-3抗体の解離定数は6.3x10
-8 M、MS-4抗体の解離定数は2.0x10
-6 Mであった。
【実施例13】
【0039】
Aggrus-CLEC-2結合阻害試験
哺乳動物細胞から精製した組換えAggrusタンパク質およびCLEC-2タンパク質を用いて、Aggrus-CLEC-2相互作用をELISA法により検出した。また、抗Aggrus抗体がAggrus-CLEC-2相互作用に与える影響を検討した。
図15上段に示されるように、P2-0およびMS-1抗体は、処理濃度依存的にAggrus-CLEC-2相互作用を阻害することが示された。また、
図15下段に示されるように、MS-3およびMS-4抗体は40マイクログラム/mlもしくは80マイクログラム/mlと高濃度で処理することにより、Aggrus-CLEC-2相互作用を阻害することが示された。
【実施例14】
【0040】
血小板凝集抑制試験
血小板凝集を引き起こさない細胞株であるCHO細胞にヒトAggrus遺伝子を導入すれば、血小板凝集を引き起こすようになることが知られている。MCM HEMA TRACER 313M(エム・シー・メディカル)を用いた光透過率のモニタリングによるin vitro血小板凝集分析を行い、反応開始時点から最大凝集率の50%に至るまでの時間を比較した。
図16に示されるように、ヒトAggrus導入CHO細胞により誘導される血小板凝集は、コントロール抗体(マウスIgG(Sigma社カタログ番号I5381をPBS透析したもの))存在下では反応開始から2〜3.5分で50%凝集率に到達するのに対し、P2-0抗体存在下では反応開始から11〜19分後に遅延した。また、MS-1抗体存在下では、反応開始から9分後、MS-3抗体存在下では反応開始から14.5分後、MS-4抗体存在下では反応開始から10分後に遅延した。このことから、P2-0、MS-1、MS-3およびMS-4抗体はAggrus依存的な血小板凝集を阻害する活性を有することが示された。
【実施例15】
【0041】
抗腫瘍活性試験
BALB/c-nu/nuヌードマウス12匹の背部皮下にヒトAggrus遺伝子を導入したCHO細胞株を1x10
5 cells/匹の細胞数で移植し、6匹2群にわけた。細胞移植を行った日をDay0とし、Day1、Day5およびDay9の合計3回にわたりコントロール抗体(マウスIgG2a(Sigma社カタログ番号M9144をPBS透析したもの))およびMS-1抗体を各群に投与した。なお、1回の抗体投与量は30マイクログラム/匹とし、投与経路には尾静脈を採用した。腫瘍体積を1週間に2回測定し、皮下移植から30日後まで測定することにより、MS-1抗体の抗腫瘍効果を検討した。その結果、
図17のグラフに示されるように、コントロール抗体投与群では6匹中5匹のマウスにおいて腫瘍の増殖が観察され、Day30における平均腫瘍体積は約1200mm
3であった。一方、MS-1抗体投与群では6匹中2匹のマウスにおいて腫瘍の消失、3匹のマウスにおいて腫瘍の増殖抑制が観察され、Day30における平均腫瘍体積は400mm
3であった。このことから、MS-1抗体はヒトAggrus発現細胞に対して抗腫瘍活性を発揮することが示された。なお、Day18におけるマウスと腫瘍の様子を
図17右側に写真で示す。マウスに記された1から6までの数字は、各グラフの1から6までの凡例に対応している。
【実施例16】
【0042】
肺への自然転移阻害試験
ヒトAggrusを導入したCHO細胞を皮下移植した場合、移植後30日程度で肺への自然転移が観察されることが知られている。そこで、抗腫瘍活性試験を実施した12匹のマウスの肺を細胞移植後30日目に摘出し、PBS洗浄後に飽和ピクリン酸溶液で染色し、肺表面に生じた転移結節数をカウントした。
図18上側にカウントした転移結節数を記したグラフを、下側にピクリン酸染色したマウスの肺の写真を示す。コントロール抗体(マウスIgG2a(Sigma社カタログ番号M9144をPBS透析したもの))投与群では平均30個程度の肺転移結節が観察されたのに対し、MS-1抗体投与群では6匹中5匹において肺転移結節の形成が完全に阻害された。このことから、MS-1抗体はヒトAggrus依存的な肺への自然転移を阻害する活性を有していることが示された。
【実施例17】
【0043】
肺転移抑制試験
ヒトAggrusを導入したCHO細胞をBALB/c-nu/nuヌードマウスの尾静脈より注射すると、約20日後に肺転移結節を形成することが知られている。そこで、細胞注射の前日にコントロール抗体(マウスIgG2a(Sigma社カタログ番号M9144をPBS透析したもの))、MS-1抗体およびMS-3抗体を尾静脈経路で各群8匹のヌードマウスに投与し、Aggrus依存的な実験的肺転移に与える影響を検討した。
図19に示されるように、MS-1およびMS-3抗体を事前投与することにより、濃度依存的にヒトAggrus導入CHO細胞の肺転移が顕著に抑制された。従って、MS-1およびMS-3抗体はAggrus中和活性があるだけでなく、Aggrus依存的な血行性転移を阻害することも示された。
【受託番号】
【0044】
FERM BP−11446
FERM BP−11447
FERM BP−11448
FERM BP−11449
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]