【文献】
電気化学会電池技術委員会 編集,電池ハンドブック,株式会社オーム社,2010年 2月10日,第一版第一刷,第533頁−第546頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池とは、1種以上のスルホン酸エステル誘導体と、下記一般式(1)で表されるシアノボレート系化合物とを含むところに特徴を有する。
M
n+([B(CN)
4-mY
m]
-)
n (1)
(式(1)中、M
n+は1価、2価、又は、3価の有機又は無機カチオンを表し、Yはハロゲン又は有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)
【0015】
本発明者等は、リチウムイオン二次電池が、1種以上のスルホン酸エステル誘導体と、下記一般式(1)で表されるシアノボレート系化合物とを含む場合に、リチウムイオン二次電池の放電容量と容量維持率が向上することを見出し、本発明を完成した。まず、本発明に係るスルホン酸エステル誘導体について説明する。
【0016】
1.スルホン酸エステル誘導体
スルホン酸エステル誘導体とは、R
15−S(O)
2−O−R
16の一般式で表される化合物であり、R
15は、酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の飽和又は不飽和の炭化水素基、R
16は、炭素数1〜5の飽和又は不飽和の炭化水素基を表す。炭化水素基は、鎖状、分岐鎖状、環状、又はこれらの内2以上の構造を併せ持っていてもよく、また、炭化水素基を構成する炭素に結合する一部又は全部の水素原子はハロゲンで置換されていてもよい。具体的には、アルキル基、アリール基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基等が挙げられる。酸素原子を含む炭化水素基としてはアルコキシ基等が挙げられる。上記R
15とR
16とは結合して環を形成していてもよい。
【0017】
具体的なスルホン酸エステル誘導体としては、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロぺンスルトン、1,3−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトン、2,4−ペンタンスルトン、1,4−へキサンスルトン、4,6−ヘプタンスルトン、2−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、2,2−ジフルオロ−1,3−プロパンスルトン等の環状スルホン酸エステル化合物;エチレングリコール硫酸エステル、2−メチルエチレングリコール硫酸エステル、プロピレングリコール硫酸エステル、ブチレングリコール硫酸エステル、ジメチルグリコール硫酸エステル、ビニルエチレングリコール硫酸エステル、ビニレングリコール硫酸エステル、トリメチレングリコール硫酸エステル、2−メチルトリメチレングリコール硫酸エステル、3−メチルトリメチレングリコール硫酸エステル、フルオロエチレングリコール硫酸エステル等の環状硫酸エステル化合物;メタンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸メチル、ペンタフルオロエタンスルホン酸トリフルオロメチル、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸ビニル等の鎖状スルホン酸エステル化合物;ジメチル硫酸、エチルメチル硫酸、ジトリフルオロメチル硫酸、フェニルメチル硫酸、ジビニル硫酸等の鎖状硫酸エステル化合物;が挙げられる。
【0018】
上記スルホン酸エステル誘導体の中でも環状スルホン酸エステル誘導体(環状スルホン酸エステル化合物、環状硫酸エステル化合物)が好ましく、より具体的には、トリメチレングリコール硫酸エステル、1,3−プロパンスルトン、1,3−ブタンスルトン、プロピレングリコール硫酸エステルが好ましく、トリメチレングリコール硫酸エステル、1,3−プロパンスルトン、プロピレングリコール硫酸エステルがより好ましく、トリメチレングリコール硫酸エステル、プロピレングリコール硫酸エステルがさらに好ましい。スルホン酸エステル誘導体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。スルホン酸エステル誘導体を2種以上使用する場合、少なくとも1種が環状スルホン酸エステル誘導体であるのが好ましい。
【0019】
2.シアノボレート系化合物(1)
本発明に係るシアノボレート系化合物(1):M
n+([B(CN)
4-mY
m]
-)
nは、上記一般式(1)で表される構造を有し、カチオンM
n+と、シアノ基がホウ素に結合したシアノボレートアニオンとからなる。一般式(1)中、M
n+は1価、2価、又は3価の有機又は無機カチオンを表し、Yはハロゲン又は有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。
【0020】
2−1.シアノボレートアニオン
本発明に係るシアノボレート系化合物(1)を構成するアニオンは、一般式;[B(CN)
4-mY
m]
-で表される。一般式(1)において、mは0〜3の整数であるので、化合物(1)に係るシアノボレートアニオンには、テトラシアノボレートアニオン(n=0):[B(CN)
4]
-;トリシアノボレートアニオン(n=1):[B(CN)
3Y]
-;ジシアノボレートアニオン(n=2):[B(CN)
2Y
2]
-;モノシアノボレートアニオン(n=3):[B(CN)Y
3]
-;のシアノボレートアニオン類が含まれる。
なお、mが2又は3である場合、2以上のYは同一でも異なってもよく、また、2以上のYは互いに結合してB原子を含む環状構造を形成していてもよい。
【0021】
一般式(1)中、Yはハロゲン又は有機基を表す。ハロゲンとしては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。
有機基としては、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2、−XR
14を表す。上記R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、ZはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表す。また、Y(ハロゲンである場合を除く)は、Si、B、O、N、Al等のヘテロ原子を含む官能基を有していてもよい。官能基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミニウム基、−CH
2CH
2B(CN)
3、−C
3H
6B(CN)
3等が挙げられる。
【0022】
主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、シクロヘキシルエチニル基、フェニルエチニル基等の炭素数2〜10のアルキニル基;フェニル基、ベンジル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等の炭素数6〜10のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基;が挙げられる。
【0023】
主鎖の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基等、上記炭化水素基の水素原子の一部又は全てがハロゲン(F、Cl、Br又はI)で置換されたハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基等が挙げられる。
【0024】
ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基は、置換基(例えば、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等)を有していてもよい。
【0025】
上記−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2及び−XR
14中、R
14は、H、ハロゲン、又は、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表す。
ハロゲンとしては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。
【0026】
有機置換基R
14は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、これらの内2以上の構造を併せ持っていてもよく、また、置換基を有していてもよい。さらに、有機置換基R
14は不飽和結合を含んでいてもよい。有機置換基R
14の主鎖の原子数は上述の通りであるが、有機置換基R
14に含まれる炭素の数(置換基を含む)は1〜20の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜10の範囲である。有機置換基R
14の価数、即ち結合末端数は、一つでも二つ以上でもよい。有機置換基R
14には、炭素及び水素以外のヘテロ原子(O、N、Si等)やハロゲン原子(F、Cl、Br等)が含まれていてもよく、その数や位置にも特に制限は無い。したがって、例えば、一般式(1)中のYについて、Yが−XR
14の場合、Xに隣接する原子の種類は、特に炭素に限定されるものではなく、例えばSiやAl等のヘテロ原子であってもよい。また、有機置換基R
14は、炭素以外の原子のみから構成されるものであってもよい。
【0027】
具体的な有機置換基R
14としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む飽和炭化水素基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、シクロヘキセニルメチル基、フェニル基、トリル基(メチルフェニル基)、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、ビニルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、メチレン基(メチリデン基)、エチレン基(エチリデン基)、プロピレン基(プロピリデン基)、シクロヘキセン(1,2−、1,3−、1,4−)基、フェニレン(o−、m−、p−)基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む不飽和炭化水素基;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基、フルオロフェニレン基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むハロゲン化炭化水素基;シアノメチル基、ジシアノメチル基、トリシアノメチル基、シアノエチル基、ジシアノエチル基、トリシアノエチル基、テトラシアノエチル基、シアノプロピル基、シアノブチル基、シアノオクチル基、シアノシクロヘキシル基、シアノフェニル基、シアノメチレン基、シアノエチレン基、ジシアノエチレン基、シアノシクロヘキセン基、シアノフェニレン基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むシアノ化炭化水素基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシシクロヘキシル基、メトキシビニル基、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ペンチルオキシメチル基、ヘキシルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシメチル基、フェニルオキシメチル基、ビニルオキシメチル基、イソプロペニルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル基、ナフチルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、ペンチルオキシエチル基、ヘキシルオキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、フェニルオキシエチル基、ビニルオキシエチル基、イソプロペニルオキシエチル基、tert−ブチルオキシエチル基、ナフチルオキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メチレンオキシメチル基、エチレンオキシエチル基、フェニレンオキシフェニル基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルコキシ化及び又はアリールオキシ化炭化水素基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルカノイル基又はアルカノイル基を含む有機置換基;アセチルオキシメチル基、アセチルオキシエチル基、ベンゾイルオキシエチル基、ブチロラクチル基、カプロラクチル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;アミノ基、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、アセチルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニルアミノ基、ジメチルアミノエチル基、ピロリジニルエチル基、ピロリドニルエチル基等の、1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む含窒素有機置換基;メチルチオ基、エチルチオ基、トリルチオ基等のアルキル又はアリールチオ基;フルオロチオ基、クロロチオ基等のハロチオ基;トリフルオロメチルチオ基、ペンタフルオロエチルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基等のハロゲン化アルキル又はアリールチオ基といったチオアルコキシ構造を有する基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基等のハロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基等のハロゲン化アルキル又はアリールスルフィニル基等のスルフィニル基を有する有機置換基;メチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フルオロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基を有する有機置換基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミ等の、ヘテロ原子を有する有機置換基;−CH
2CH
2OB(CN)
3、−C
3H
6OB(CN)
3;等が挙げられる。また、有機置換基R
14は、上述の有機置換基から選ばれる1種、或いは、2種以上の有機置換基が2以上連結した構造を有するものであってもよい。なお、上記において「2価以上の基」とは、1価の基からさらに1原子以上の水素原子が失われて生じる基を意味する。
【0028】
上記有機置換基R
14の中でも、フッ素、塩素等のハロゲン、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数が1〜10の炭化水素基;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基及びフルオロシクロヘキセン基等の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基;フェニル基、トリル基、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、ビニルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基及びフェニレン(o−、m−、p−)基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基又はハロゲン化アリール基;シアノメチル基、ジシアノメチル基、トリシアノメチル基、シアノエチル基等のシアノ化炭化水素基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基及びマロニル基、スクシニル基等の炭素数が2〜10のアルカノイル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の炭素数が2〜10のエステル結合を有する有機置換基、又は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等の炭素数が1〜10のアルキルシリル基;が好ましい。
【0029】
より好ましい有機置換基R
14としては、フッ素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、エチレン基、プロピレン基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、シアノエチル基、アセチル基、プロパノイル基、オキサリル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基、トリメチルシリル基が挙げられる。
【0030】
したがって、−C(O)R
14で表される基としては、R
14が、ハロゲン、飽和又は不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基、アルコキシ化又はアリールオキシ化炭化水素基、又は、含窒素有機置換基であるものが好ましく、R
14が、メチル基、エチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基であるものがより好ましい。
【0031】
−S(O)
lR
14で表される基としては、R
14が、ハロゲン、又は、飽和又は不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基であるものが好ましく、具体的には、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロエチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のスルフィニル基(l=1)、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基(l=2)がより好ましいものとして挙げられる。
【0032】
−Z(R
14)
2で表される基としては、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基等のZがNであるアミノ基;ジフェニルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基等のZがPであるホスフィノ基;が挙げられる。
【0033】
−XR
14で表される基としては、XがOであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等)である基;XがOであって、R
14がアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等)である基;XがOであって、R
14が1価又は2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せから選択されるアルカノイル基(例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基等)である基;XがOであって、R
14がスルフィニル基(例えば、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルフィニル基、トリルスルフィニル基等)、又は、スルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)である基;XがSであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。また、2以上の−XR
14がBに結合する場合、2以上のR
14は結合して環を形成していてもよい。なお、Xは、O又はSであるが、原料の入手のしやすさ、コストの面から、XはOであることが好ましい。
【0034】
また、2以上のYが互いに結合してB原子を含む環状構造を形成しているシアノボレート系化合物としては(一般式(1)において、mが2又は3の場合)、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
一般式(2)中、M
n+はH
+、1価、2価、又は3価の有機又は無機カチオンを表し、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2、又は、−XR
14を表し、R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。上記一般式(2)のY’は、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基及びシアノ基よりなる群から選択される置換基であることが好ましい。
【0037】
上記一般式(2)で表されるシアノボレートアニオン中、pは、ホウ素に結合する二つのエステル結合を互いに結合させている直接結合又はメチレン基の炭素数を示す。pは好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2である。
【0038】
上記一般式(2)において、pは0〜10の整数であるので、化合物(2)に係るシアノボレートアニオンとしては、シアノオキサラトボレート(n=0)、シアノマロナトボレート(n=1)、シアノスクシナトボレート(n=2)、シアノグルタラトボレート(n=3)、シアノアジポラトボレート(n=4)等が挙げられる。
【0039】
上記シアノボレートアニオンを構成する置換基Y’の内、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2、及び、R
14は、化合物(1)と同様である。
【0040】
上記Y’が−XR
14で表される置換基としては、XがOであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基)である基;XがOであって、R
14がアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等)である基;XがOであって、R
14が1価の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せから選択されるアルカノイル基又はアルカノイル構造を有する基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基等)である基;XがOであって、R
14がスルフィニル基(例えば、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等)、又は、スルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)を有する基;XがSであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。なお、Xは、O又はSであるが、原料の入手のしやすさ、コストの面から、XはOであることが好ましい。
【0041】
具体的なシアノボレートアニオンとしては、たとえば、テトラシアノボレートアニオン;[B(CN)
3(OMe)]
-、[B(CN)
3(OEt)]
-、[B(CN)
3(O−i−Pr)]
-(なお、“−i−”は“iso”を示す。以下同様。)、[B(CN)
3(OBu)]
-、[B(CN)
3(OPh)]
-、[B(CN)
3(OCH
2CH
2O)B(CN)
3]
2-、[B(CN)
3(OC
3H
6O)B(CN)
3]
2-等のアルコキシトリシアノボレートアニオン類;[B(CN)
2(OMe)
2]
-、[B(CN)
2(OEt)
2]
-、[B(CN)
2(O−i−Pr)
2]
-、[B(CN)
2(OBu)
2]
-、[B(CN)
2(OPh)
2]
-等のジアルコキシジシアノボレートアニオン類;[B(CN)(OMe)
3]
-、[B(CN)(OEt)
3]
-、[B(CN)(O−i−Pr)
3]
-、[B(CN)(OBu)
3]
-、[B(CN)(OPh)
3]
-等のトリアルコキシシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(SMe)]
-等のチオアルコキシトリシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(CF
3)]
-、[B(CN)
3(C
2F
5)]
-等のハロゲン化又はハロゲン化アルキルシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(Ph)]
-、[B(CN)
3(Me)]
-、[B(CN)
3(CH
2)
6B(CN)
3]
2-、等のアルキル化又はアリール化シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OCF
3)]
-、[B(CN)
3(OC
2F
5)]
-、等のハロゲン化アルコキシシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OC
2H
4CN)]
-、等のシアノ化アルコキシシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OCOCH
3)]
-、[B(CN)
3(OCOCF
3)]
-、[B(CN)
3(OCOC
2H
5)]
-、[B(CN)
3(OCOOCH
3)]
-、[B(CN)
3(OCOOC
2H
5)]
-、等のエステル系シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OSO
2F)]
-、[B(CN)
3(OSO
2CF
3)]
-、[B(CN)
3(OSO
2CH
3)]
-、[B(CN)
3(OSO
2C
6H
4CH
3)]
-、[B(CN)
3(SO
2F)]
-、[B(CN)
3(SO
2CF
3)]
-、[B(CN)
3(SO
2CH
3)]
-、[B(CN)
3(SO
2C
6H
4CH
3)]
-等のスルホニル基を有するシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(COCH
3)]
-、[B(CN)
3(COCF
3)]
-等のアシル化シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OSiCH
3)]
-、等のアルキルシロキシシアノボレートアニオン類;及び、下記式(2−1)〜(2−14)で表されるものが挙げられる(pは0〜2の整数であるのが好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。)。
【0043】
2−2.カチオン
本発明に係るシアノボレート系化合物(1)を構成する有機カチオンM
n+としては、一般式(3):L
+−R
S(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表し、Rは、同一若しくは異なる有機基であり、互いに結合していてもよい。sはLに結合するRの数を表し、3又は4である。なお、sは、元素Lの価数及びLに直接結合する二重結合の数によって決まる値である)で表されるオニウムカチオンが好適である。
【0044】
上記Rで示される「有機基」としては、水素原子、フッ素原子、又は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子等の他の原子や、置換基等を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基等が挙げられる。
【0045】
一般式(3)で表されるオニウムカチオンの中でもLがNであるものが好ましい。具体的には、下記一般式(4)〜(6)で表されるものが好ましいオニウムカチオンとして挙げられる。
【0046】
一般式(4):
【化3】
で表される10種類の複素環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0047】
上記有機基R
1〜R
8は、一般式(3)で例示した有機基Rと同様のものが挙げられる。より詳しくは、R
1〜R
8は、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状(但し、R
1〜R
8が互いに結合して環を形成しているものを除く)の炭素数1〜18の炭化水素基、あるいは炭化フッ素基であるのが好ましく、より好ましいものは炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。また、有機基は、上記一般式(3)に関して例示した置換基や、N、O、S等のヘテロ原子及びハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0048】
一般式(5):
【化4】
(式中、R
1〜R
12は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様)
で表される3種類の飽和環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0049】
一般式(6):
【化5】
(式中、R
1〜R
4は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様)
で表される鎖状オニウムカチオン。
【0050】
例えば、一般式(6)で表される鎖状オニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウム及びテトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、及び、NH
4で表されるアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(4)〜(6)のオニウムカチオンの中でも、下記一般式で表される6種類のオニウムカチオンの少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。
【0052】
【化6】
(式中、R
1〜R
12は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様である。)
【0053】
上記6種類のオニウムカチオンの中でも、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム及びトリエチルメチルアンモニウム等の鎖状第4級アンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム及びジメチルエチルアンモニウム等の鎖状第3級アンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム及び1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、N,N−ジメチルピロリジニウム及びN−エチル−N−メチルピロリジニウム等のピロリジニウムは入手容易であるためより好ましい。さらに好ましいものとしては、第4級アンモニウム、イミダゾリウムが挙げられる。なお、耐還元性の観点からは、上記鎖状オニウムカチオンに分類されるテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム及びトリエチルメチルアンモニウム等の第4級アンモニウムがさらに好ましい。
【0054】
無機カチオンM
n+としては、Li
+、Na
+、K
+、Cs
+、Pb
+等の1価の無機カチオンM
1+;Mg
2+、Ca
2+、Zn
2+、Pd
2+、Sn
2+、Hg
2+、Rh
2+、Cu
2+、Be
2+、Sr
2+、Ba
2+等の2価の無機カチオンM
2+;及び、Ga
3+等の3価の無機カチオンM
3+が挙げられる。これらの中でも、Li
+、Na
+、Mg
2+及びCa
2+はイオン半径が小さく電池等に利用し易いため好ましく、より好ましい無機カチオンM
n+はLi
+である。
【0055】
2−3.シアノボレート化合物(1)
本発明に係るシアノボレート化合物(1)には、上記カチオンとアニオンの組み合わせからなるものが全て含まれる。好ましいシアノボレート化合物(1)としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリルテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェニルボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリフルオロメチル)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(シアノエトキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノフェニルボレート等の有機カチオンの塩;リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノエトキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロメチル)ボレート、リチウムトリシアノフェニルボレート、リチウムトリシアノメチルボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロメトキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノアセトキシボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロアセトキシ)ボレート、リチウムトリシアノ((メトキシカルボニル)オキソ)ボレート、リチウムトリシアノ(フルオロスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロメタンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(メタンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(p−トルエンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(フルオロスルホニル)ボレート、リチウムトリシアノアセチルボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロアセチル)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムジシアノオキサラトボレート、リチウムシアノフルオロオキサラトボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート等の無機カチオンの塩;が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、リチウムトリシアノエトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレートが好ましい。
【0057】
3.シアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体の存在態様
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記一般式(1)で表されるシアノボレート系化合物とスルホン酸エステル誘導体とを含むものであればよく、特に限定されるものではない。また、上記シアノボレート系化合物とスルホン酸エステル誘導体の存在態様も限定されるものではなく、例えば、リチウムイオン二次電池の構成材料として含まれていればよい。具体的には、(i)リチウムイオン二次電池の電解液にシアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;(ii)リチウムイオン二次電池の電解液にシアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料(電極、セパレーター又は外装等)にシアノボレート系化合物が含まれている態様;(iii)リチウムイオン二次電池の電解液にスルホン酸エステル誘導体が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にシアノボレート系化合物が含まれている態様;(iv)リチウムイオン二次電池の電解液にシアノボレート系化合物が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;(v)リチウムイオン二次電池の電解液にスルホン酸エステル誘導体及びシアノボレート系化合物が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;(vi)電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にシアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;(vii)リチウムイオン二次電池の電解液にスルホン酸エステル誘導体が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にシアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;(viii)リチウムイオン二次電池の電解液にシアノボレート系化合物が含まれており、電解液以外のリチウムイオン二次電池構成材料にシアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様;等が挙げられる。これらの中でも、スルホン酸エステル誘導体が電解液に含まれている態様が好ましく(上記態様(i)〜(iii)、(v)及び(vii))、スルホン酸エステル誘導体が電解液のみに含まれている態様がより好ましい(上記態様(i)〜(iii))。
【0058】
3−1.リチウムイオン二次電池の電解液にシアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様
この態様では、リチウムイオン二次電池に備えられる電解液の構成成分としてシアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体を使用すればよく、電解液の調製も容易であるので好ましい(シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体と電解質や媒体等他の構成成分とを混合、又は、予め調製された電解液にシアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体を添加等)。生産性の観点からは、電解液中にはスルホン酸エステル誘導体が含まれているのが好ましい。
【0059】
シアノボレート系化合物の配合量は、電解液100質量部(電解質、媒体、シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体の合計)中0.01質量部以上、3質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上、1質量部以下であり、さらに好ましくは0.01質量部以上、0.2質量部以下である。配合量が少なすぎると電解液の分解を抑制する効果が得られ難くなる虞があり、多量に配合すると電池抵抗が上昇する虞がある。
【0060】
一方、スルホン酸エステル誘導体の配合量は、電解液100質量部(電解質、媒体、シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体の合計)中0.1質量部以上、5質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、2質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以上、1質量部以下である。配合量が少なすぎると電極の抵抗上昇を抑制する効果が得られ難くなる虞があり、一方、多量に配合しても使用量に比例する効果は得られ難く、また、電解液の粘度が上昇し、所期の伝導度が得られ難くなる虞がある。
【0061】
3−2.電解液以外のリチウムイオン二次電池の構成材料にシアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体が含まれている態様
シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体は、電極、セパレータ又は外装等、電解液以外のリチウムイオン二次電池の構成材料に含まれていてもよい。なお、シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体が電極に含まれる場合には、電極近傍におけるシアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体の濃度を向上させ易く、速やかに、また、継続的に電極表面に皮膜を形成できるので好ましい。なお、電解液中に含まれる電解質の種類を統一する観点からは、電極中にはシアノボレート系化合物が含まれているのが好ましい。
【0062】
この場合、電極は、電極の固形分100質量部(電極活物質、導電助剤、バインダー及びシアノボレート系化合物の合計)に対してシアノボレート系化合物を0.1質量部以上、3質量部以下含有することが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、2質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以上、1質量部以下である。配合量が少なすぎると電解液の分解を抑制する効果が得られ難くなる虞があり、一方、多量に配合すると電池抵抗が上昇する虞があり、また、電極の製造が困難になる場合がある。
【0063】
シアノボレート系化合物を電極に担持(保持)させる方法は特に限定されない。例えば、電極構成材料の一部としてシアノボレート系化合物を使用し、従来公知の製造方法で電極を製造すれば、シアノボレート系化合物を担持した電極が得られる。具体的には、シアノボレート系化合物を、後述する電極活物質や、導電助剤、バインダー等の電極材料と混合して電極材料組成物を調製し、これを集電体に塗工し、乾燥する方法;シアノボレート系化合物を含む電極材料組成物を混練成形し乾燥して得たシートを集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;電極材料組成物を集電体に塗工し、乾燥して得たシート状の電極にシアノボレート系化合物を含む溶液を塗布又は噴霧し、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した液状又はスラリー状の電極材料組成物(シアノボレート系化合物を含む)を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。
なお、電解液以外のリチウム二次電池の構成材料にスルホン酸エステル誘導体を含有させる場合は、シアノボレート系化合物の場合と同様にすればよい。
【0064】
スルホン酸エステル誘導体及びシアノボレート系化合物の好ましい存在態様は上記(iii)の態様であり、スルホン酸エステル誘導体が電解液に含まれており、シアノボレート系化合物が電極に含まれている態様がより好ましい。
【0065】
4.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池とは、1種以上のスルホン酸エステル誘導体と、上記一般式(1)で表されるシアノボレート系化合物とを含むものであればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。一般的には、正極と、負極と、電解液とを有するものであり、より詳細には、上記正極と負極との間にセパレータが設けられており、且つ、電解液は、上記セパレータに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。
【0066】
本発明のリチウムイオン二次電池は、シアノボレート系化合物及びスルホン酸エステル誘導体を含むものであり、好ましくは、スルホン酸エステル誘導体が電解液に含まれており、且つ、シアノボレート系化合物が電解液及び/又は電極に含まれている(上記態様(i)〜(iii))。この構成によれば、4.2Vを超える高電圧下での使用においても、サイクル特性、出力特性及び放電レート特性の劣化を抑制できる。
【0067】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、リチウムイオン二次電池の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0068】
4−1.電解液
4−1−1.電解質
本発明では従来公知の電解質を使用することができる。電解質としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。具体的な電解質としては、LiCF
3SO
3、NaCF
3SO
3、KCF
3SO
3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(FSO
2)
2等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミド又はフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF
6、NaPF
6、KPF
6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO
4、NaClO
4等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF
4、NaBF
4等のテトラフルオロ硼酸塩;リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアルカリ金属塩;LiAsF
6、LiI、LiSbF
6、LiAlO
4、LiAlCl
4、LiCl、NaI、NaAsF
6、KI等のアルカリ金属塩;過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の第4級アンモニウム塩;(C
2H
5)
4NBF
4、(C
2H
5)
3(CH
3)NBF
4等のテトラフルオロ硼酸の第4級アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノブトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェノキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメチルチオボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノジメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアンモニウム塩;(C
2H
5)
4NPF
6等の第4級アンモニウム塩;(CH
3)
4P・BF
4、(C
2H
5)
4P・BF
4等の第4級ホスホニウム塩;等が挙げられる。これらの電解質は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
上記電解質の中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。また、非水系溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましく、耐還元性の観点からは、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましい。なお、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。
【0070】
電解質の濃度は、電解液中、0.1mol/L以上、飽和濃度以下であるのが好ましい。より好ましくは0.2mol/L〜2.5mol/Lであり、より一層好ましくは0.3mol/L〜2mol/Lであり、さらに好ましくは0.6mol/L〜1.8mol/Lであり、さらに一層好ましくは0.8mol/L〜1.4mol/Lである。電解質量が少なすぎると所望の伝導度が得られ難い場合があり、一方、電解質量が多すぎると、イオンの移動が阻害される虞がある。なお、シアノボレート系化合物が電解液に含まれている場合(上記態様(i)、(ii)、(iv)、(v)及び(viii))、上記電解質の濃度には、シアノボレート系化合物は含めない。
【0071】
4−1−2.媒体
媒体としては、電解質を溶解できるものであれば特に限定されず、非水系溶媒、ポリマー、ポリマーゲル等、電池に用いられる従来公知の媒体はいずれも使用できる。
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、電解質の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。
【0072】
これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましい。上記非水系溶媒は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
媒体に用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系ポリマー、及び、これらの共重合体等が挙げられる。また、これらのポリマーと他の有機溶媒とを混合したポリマーゲルも本発明に係る媒体として用いることができる。他の有機溶媒としては上述の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0074】
上記ポリマーゲルを媒体とする場合は、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非プロトン性溶媒に電解質を溶解させた溶液を滴下して、電解質並びに非プロトン性溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非プロトン性溶媒を含浸させる方法;予め電解質を有機溶媒に溶解させた電解液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法(以上、ゲル電解質);ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0075】
4−1−3.添加剤
本発明に係る電解液は、電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)等の不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等のリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素化合物;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
【0076】
上記添加剤は、本発明の電解液中の濃度が0.1質量%〜10質量%の範囲で用いるのが好ましい(より好ましくは0.2質量%〜8質量%、さらに好ましくは0.3質量%〜5質量%)。添加剤の使用量が少なすぎるときには、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、電解液の粘度が高くなり伝導率が低下する虞がある。
【0077】
4−2.正極
正極は、正極活物質、導電助剤、結着剤及び分散用溶媒等を含む正極活物質組成物が正極集電体に担持されているものであり、通常、シート状に成形されている。
【0078】
正極の製造方法としては、例えば、正極集電体に正極活物質組成物をドクターブレード法等で塗工したり、浸漬した後に、乾燥する方法;正極活物質組成物を混練成形し乾燥して得たシートを正極集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した正極活物質組成物を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。なお、正極にシアノボレート系化合物を担持させたい場合には(上記態様(ii)、(iii)等)、正極活物質組成物を構成する材料としてシアノボレート系化合物を使用すればよい。
【0079】
4−2−1.正極集電体
正極集電体の材料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS(ステンレス鋼)、チタン等の導電性金属が使用できる。中でも、アルミニウムは、薄膜に加工し易く、安価であるため好ましい。
【0080】
4−2−2.正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば良く、リチウム二次電池で使用される従来公知の正極活物質が用いられる。
【0081】
具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、LiNi
1-x-yCo
xMn
yO
2やLiNi
1-x-yCo
xAl
yO
2(0<x<1,0<y<1,0<x+y<1)で表される三元系酸化物等の遷移金属酸化物、LiAPO
4(A=Fe、Mn、Ni、Co)等のオリビン構造を有する化合物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLi
2MnO
3と、電気化学的に活性な層状のLiM’’O[M’’=Co、Ni等の遷移金属]との固溶体)等が正極活物質として例示できる。これらの正極活物質は、1種を単独で使用してもよく、又は、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
4−2−3.導電助剤
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末材料、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0083】
4−2−4.結着剤
結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;等が挙げられる。結着剤は1種を単独で使用してもよく、複数種を混合して使用してもよい。また、結着剤は、使用の際に溶媒に溶けた状態であっても、溶媒に分散した状態であっても構わない。
【0084】
導電助剤及び結着剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性等を考慮して適宜調整することができる。
【0085】
正極の製造に際して、正極活物質組成物に用いられる溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、酢酸エチル、水等が挙げられる。これらの溶媒は組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0086】
4−3.負極
負極は、負極活物質、分散用溶媒、結着剤及び必要に応じて導電助剤等を含む負極活物質組成物が負極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0087】
4−3−1.負極集電体
負極集電体の材料としては、銅、鉄、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)等の導電性金属を用いることができる。なお、薄膜への加工が容易である観点からは、銅が好ましい。
【0088】
4−3−2.負極活物質
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池で使用される従来公知の負極活物質を用いることができ、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであればよい。具体的には、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛材料、石炭・石油ピッチから作られるメソフェーズ焼成体、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、Si、Si合金、SiO等のSi系負極材料、Sn合金等のSn系負極材料、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金等のリチウム合金、チタン酸リチウム等のチタン系化合物等を用いることができる。
【0089】
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用することができる。なお、負極にシアノボレート系化合物を担持させたい場合には(上記態様(ii)、(iii))、負極活物質組成物を構成する材料としてシアノボレート系化合物を使用すればよい。
【0090】
4−4.セパレータ
セパレータは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレータには、特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレータはいずれも使用することができる。具体的なセパレータとしては、例えば、非水電解液を吸収・保持するポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレータやセルロース系セパレータ等)、不織布セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン系微多孔質セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質を有するため好適である。
【0091】
上記多孔性シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する積層体等が挙げられる。
【0092】
上記不織布セパレータの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド、ガラス等が挙げられ、非水電解液層に要求される機械強度等に応じて、上記例示の材質を単独で、又は、混合して用いることができる。
【0093】
4−5.電池外装材
正極、負極、セパレータ及び電解液等を備えた電池素子は、リチウムイオン二次電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。本発明では、電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0095】
1.正極シートの作製
1−1.正極Aの作製
三元系正極活物質であるLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(LNMC、日本化学工業株式会社製)、アセチレンブラック(AB、導電助剤1、電気化学工業株式会社製)、グラファイト(導電助剤2、粒度D50=3.2μm、比表面積245m
2/g)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF、「KF1120」、株式会社クレハ製)、リチウムテトラシアノボレート(LiTCB、株式会社日本触媒製)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液中で均一に混合して、固形分濃度が67%であるペースト状の正極合剤A(固形分比(質量比)、正極活物質(LNMC):AB:グラファイト:PVdF:LiTCB=91.6:2:2:4:0.4)を作製した。
【0096】
1−2.正極Bの作製
リチウムテトラシアノボレートを使用しなかったこと以外は、正極合剤Aの場合と同様にして、固形分濃度が67%であるペースト状の正極合剤Bを作製した(固形分質量比、正極活物質(LNMC):AB:グラファイト:PVdF=92:2:2:4)。
【0097】
得られたペースト状の正極合剤A及びBをそれぞれアルミニウム集電体上に塗工し、乾燥して、正極シートA,Bを作製した。
【0098】
2.負極シートの作製
負極活物質として天然黒鉛、カーボンブラック(導電助剤、CB)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR、結着剤1)及びカルボキシメチルセルロース(CMC、結着剤2)を、N−メチルピロリドン(NMP)中で均一に混合して、ペースト状の負極合剤スラリー(固形分質量比、負極活物質:CB:SBR及びCMC=96:0.5:3.5)を作製した。
【0099】
得られたペースト状の負極合剤スラリーを、銅箔の片面に塗布し、100℃のホットプレート上に5分間放置して乾燥させ、負極シートを得た。
【0100】
3.非水電解液の作製
3−1.非水電解液A
電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)を、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC:EMC=3:7(体積比)、いずれもキシダ化学株式会社製、LBGグレード)に溶解させて、電解質濃度1.2mol/Lの非水電解液Aを調製した。
【0101】
3−2.非水電解液B、C
非水電解液Aに、スルホン酸エステル誘導体としてトリメチレングリコール硫酸エステル(PLST、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)を添加して、電解液中のPLST濃度が0.5質量%である非水電解液Bを作製した。
同様にして、電解液中のPLST濃度が1質量%である非水電解液Cを作製した。
【0102】
4.リチウムイオン二次電池の作製
下記表1に示す正極と非水電解液との組み合わせに従って、ラミネート型及びコインセル型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
【表1】
【0104】
4−1.ラミネート型リチウムイオン二次電池(電池1〜3)
正極シート、ポリエチレン製セパレータ(厚み:16μm)及び負極シートをこの順で積層した。このとき、正極活物質層及び負極活物質層が対向するように積層した。次いで、この積層体を2枚のアルミニウムラミネートフィルム(ポリエチレン樹脂層/アルミニウム層/ポリエチレン樹脂層の3層構造)で挟み、165℃のヒーターで袋状に周辺を熱溶着し、予め調製しておいた各電解液で中を満たした後、真空状態で密閉した。
【0105】
充放電試験装置(ACD−01、アスカ電子株式会社製)を使用して、充放電速度0.2C(定電流モード)、3.5V〜4.4Vで1度充放電を行った後、電池を開封してから、再度真空状態で密閉した。同条件で充放電を5回繰り返してラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した(長さ50mm、幅40mm、厚み1mm)。
【0106】
4−2.コインセル型リチウムイオン二次電池(電池4〜5)
正極シート、負極シート、及び、ポリエチレン製セパレータ(厚み:16μm)を、それぞれ円形(正極φ12mm、負極φ14mm)に打ち抜いた。宝泉株式会社より購入したCR2032コイン型電池用部品(正極ケース(アルミクラッドSUS304L製)、負極キャップ(SUS316L製)、スペーサー(1mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いてコイン型リチウム電池を作製した。具体的には、ガスケットを装着した負極キャップ、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極シート(負極の銅箔側がスペーサーと対向するように設置)、セパレータをこの順で重ねた後、上記非水電解液70μLをセパレータに含浸させた。次いで、正極合剤塗布面が負極活物質層側と対向するように正極シートを設置し、その上に正極ケースを重ね、カシメ機でかしめることによりコイン型リチウム電池を作製した。
【0107】
実験例1 サイクル特性試験(25℃)
ラミネート型又はコインセル型のリチウム電池1〜5について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(アスカ電子株式会社製)を使用して、所定の充電条件(1C、4.4V、定電流定電圧モード、0.02Cカット)及び放電条件(1C、終止電圧2.75V、定電流モード)にて、各充放電時には10分の充放電時間を設けてサイクル特性試験を行った。結果を
図1及び2に示す。また、1サイクル目の容量を100としたときの各サイクルにおける容量の比率を表2に示す。
このとき同時に測定した電池の電圧変化を
図3に示す((a)1サイクル後、(b)300サイクル後)。なお、
図3に示すグラフのx軸と(セル電圧)、y軸(放電容量)と放電曲線で囲まれる部分の面積が電池の出力(W)を示す。
【0108】
【表2】
【0109】
図1及び表2より、シアノボレート系化合物もスルホン酸エステル誘導体も含まない電池1では、100サイクルを超えると急激にサイクル特性が劣化するのに対して、シアノボレート系化合物及び/又はスルホン酸エステル誘導体を含むことで(電池2、3)、サイクル特性の劣化が抑制されることが分かる。また、シアノボレート系化合物とスルホン酸エステル誘導体とを併用する場合には、サイクル特性の劣化が一層抑制されることが分かる(電池3)。
【0110】
図2及び表2より、スルホン酸エステル誘導体を単独で使用する場合には(電池5)、シアノボレート系化合物もスルホン酸エステル誘導体も使用しない場合(電池4)よりも早期にサイクル特性の劣化が生じていた。
電池1〜5の結果より、スルホン酸エステル誘導体をシアノボレート化合物と共に使用する場合には、スルホン酸エステル誘導体の単独使用では劣化してしまうサイクル特性を改善できるのみならず、シアノボレート化合物を単独で使用する場合よりもサイクル特性劣化の抑制効果を一層向上できることが分かる。
【0111】
図3より、1サイクル後では、電池1〜3の出力特性には大差無いものの(
図3(a))、300サイクル後の放電曲線では、電池3は電池2に対して出力が約25%も高く(
図3(b))、シアノボレート化合物とスルホン酸エステル誘導体とを使用することで、サイクル特性のみならず、電池の出力特性も改善できることが分かる。なお、出力は放電終止電圧2.75Vまでの放電曲線の面積から算出した。
【0112】
実験例2 放電レート特性試験
充放電試験装置(アスカ電子株式会社製)を使用して、温度25℃の環境下、ラミネート型及びコインセル型リチウム電池の放電容量測定を行った。所定の充電条件(1C、4.4V、定電流定電圧モード、3時間カット)にて充電した後、放電終止電圧2.75V、0.2C、定電流放電で放電容量を測定した。その後、再び、所定の充電条件(1C、4.4V、定電流定電圧モード、3時間カット)にて充電した後、放電終止電圧2.75V、0.2C、定電流放電で放電容量を測定した。放電時の電流を0.5C〜5Cに変化させたこと以外は上記と同様にして放電容量を測定した。なお、各充放電時には10分の休止時間を設けた。電流が0.2Cにおける電池容量を100としたときの各レートにおける容量の比率を表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3より、シアノボレート系化合物又はスルホン酸エステル誘導体を単独で使用した電池2,5の放電レート特性は、これらのいずれも含まない電池1に比べて下がる傾向があるにも拘らず、シアノボレート系化合物とスルホン酸エステル誘導体とを併用することで、放電レート特性の低下を抑制できることが分かる(電池3)。
【0115】
以上の通り、シアノボレート系化合物とスルホン酸エステル誘導体とを用いることで、これらの化合物の単独使用では得られ難い、サイクル特性、出力特性及び放電レート特性の劣化抑制効果が同時に実現されたリチウムイオン二次電池を提供することができる。