(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0016】
坩堝は、モリブデンを40質量%以上含む坩堝であって、C、NおよびOの総含有率が100質量ppm以下であり、Cの含有率が30質量ppm以下であり、Nの含有率が20質量ppm以下であり、Oの含有率が50質量ppm以下である。
【0017】
好ましくは、坩堝はへら絞り加工により製造され、底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上310HV以下である。
【0018】
好ましくは、前記へら絞り加工は加熱しながら行われる。
好ましくは坩堝は焼結で製造され、底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上190HV以下である。
【0019】
好ましくは、焼結の後に真空で脱ガス処理が行われる。
好ましくは、焼結は還元雰囲気で行われる。
【0020】
単結晶サファイアの製造方法は、上記のいずれかに記載の坩堝内にアルミナの粉末を充填する工程と、アルミナの粉末を加熱溶融した後に凝固させることで前記坩堝内に単結晶サファイアを形成する工程とを備える。
【0021】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる坩堝の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
本発明者は、モリブデンを含む坩堝においてなぜ融液漏れが発生するかについて調べた。
【0023】
サファイア単結晶育成にモリブデン坩堝が多用されている。アルミナ融点(2050℃)以上の高温環境下での使用であるために、再結晶粒成長に伴い粗大化したモリブデン結晶粒界面の滑りに伴うアルミナ融液の漏れ、あるいは膨れに伴う破裂部からの融液漏れなどの不具合が生じている。
【0024】
モリブデン金属を高温環境下で使用すると再結晶粒成長現象を生じ、結晶粒の粗大化が起こる。当初数μm程度から数百μm程度の大きさであった結晶粒が、高温下において使用されると数mm程度から数cm乃至十数cm程度の大きさの結晶粒に成長してしまう。この要因としては、塑性加工に伴って蓄積された残留歪の影響、あるいは含有不純物の影響であると考えられている。
【0025】
本発明者は含有不純物の内の、ガス不純物特に酸素不純物に着目した。酸素が膨れの起因の一つであるとされている(特許文献5)。この酸素含有量を減少させることで膨れ不具合を低減できると考え、酸素含有量を簡便に低減できる手法として、真空中高温熱処理に着目した。この処理を適用して結晶粒径を調整する技術が開示されている(特許文献4)が、酸素不純物を積極的に減少させる技術開示ではない。真空中高温熱処理により、酸素含有量を50質量ppm以下とすることによって、膨れ不具合を低減できることを見出した。
【0026】
特許文献1ではこの解決方法として、坩堝全体が実質的に一つの結晶で構成されるモリブデン単結晶坩堝とその製法を開示している。この方法は口径数cm×高さ数cm程度の小型の坩堝に応用するには適した技術であるが、近年の大型化した坩堝(例えば、口径20cm〜50cmの範囲程度、高さ20cm〜60cmの範囲程度)に応用するには難がある。
【0027】
特許文献2では、再結晶粒成長を防止するために平打ち鍛造加工方法に工夫を凝らし、数mm程度の粒成長に収まるモリブデン坩堝を開示している。本法は簡便な平打ち鍛造加工によって鍛造素材を得ることができるが、鍛造素材を旋盤切削やミーリングなどの機械加工によって坩堝形状に仕上げる後工程が必須であり、モリブデン材料を多く消費する必要があり、製造コスト大となる。
【0028】
特許文献3では、型鍛造加工法によるモリブデン坩堝とその製法を開示している。雄型と雌型を備えた鍛造装置でモリブデン粉末焼結素材を鍛造することで坩堝形状に成型する方法であり、ニアネット加工ともいえるとともに坩堝の寿命を延伸できる技術を提供するものである。本法、即ち据え込み鍛造加工法は実施例に記載(厚さ15mm)されているような比較的厚さを有する坩堝に適した製法と言える。
【0029】
特許文献4では、坩堝形状に仕上げた坩堝製品に対し、2段階の熱処理技術により結晶粒の大きさを制御した長寿命の坩堝を開示している。第1段階では比較的低い温度条件(水素雰囲気では800℃〜900℃、真空中では1000℃以上)とし、第2段階では真空中2000℃以上としている。含有するガス不純物が及ぼす寿命への影響について定性的な考慮はしているが、定量値についての示唆はない。絞り加工前の平円板の脱ガス真空熱処理の是非に関する言及もあるが、坩堝製品の結晶粒制御に主眼を置いた雰囲気熱処理の発明である。
【0030】
特許文献5では、使用中の不具合の原因を含有酸素、含有金属不純物とするとともに、、モリブデンにタングステンを合金化することで結晶粒の粗大化を防止している。さらに、モリブデンをベースにし、結晶内に酸素を取り込みやすいタングステンを合金化することで、結晶表面に進出する酸素を特性する役役割を持たせている。寿命と酸素量の定量的関連に関する開示はない。
【0031】
特許文献6では、高融点金属製坩堝中に酸素吸着金属粒子又はその酸化物粒子を分散させることで粒成長を防止し、高融点金属内の含有酸素量を減少させる発明である。
【0032】
本発明者は、2000℃以上の高温下で使用される坩堝の角R部に頻発する膨れ不具合の低減を達成するために、坩堝中に含有されるC、N、Oの各種ガス不純物の含有量、並びに、角R部の残留歪(代用特性としてビッカース硬度を採用)に着目した。
【0033】
図1は、実施の形態に従った坩堝の断面図である。
図1を参照して、坩堝1は、モリブデンまたはその合金製であり、上部が開口形状である。上部には円筒の外周方向に延在する、円周方向に連続するフランジ部12が設けられている。
【0034】
坩堝1は有底形状であり、底面15と側面13との境界部分が角R部16である。坩堝1の側面13が鉛直方向に対してなす角度θは様々に設定することが可能である。
【0035】
坩堝1にサファイアの原料粉末(アルミナ)を充填し、これを加熱、溶融および凝固させることで単結晶サファイアを製造することができる。単結晶サファイア製造後は坩堝1を破壊することで、坩堝1内の単結晶サファイアを取り出すことができる。
【0036】
加熱溶融により原料粉末間の隙間が埋まるので、原料粉末を坩堝1の内容積と同じだけ充填しても、坩堝1の内容積よりも小さな単結晶サファイアを製造できるだけであり、坩堝1の内容積と同じ体積の単結晶サファイアを製造することはできない。より大きな単結晶サファイアを製造するために、坩堝1の上部に円筒状のガイド部材を設け、このガイド部材を坩堝1に係合させる。坩堝1内だけでなくガイド部材内にも原料粉末を充填する。
【0037】
ガイド部材は耐熱性の材料で構成され、好ましくは、坩堝と同じ材料で構成される。坩堝1およびガイド部材内の原料粉末は加熱および溶融されることで坩堝1内に移動し、坩堝1内に大きなサファイアの単結晶を製造することが可能となる。ガイド部材は坩堝に着脱自在に設けられる。
【0038】
1.物の説明
坩堝1では、C、N、Oの総和が100質量ppm以下であり、モリブデンを40質量%以上含む。残部はタングステンと不可避不純物である。含有するガス不純物のCが30質量ppm以下、Nが20質量ppm以下、Oが50質量ppm以下、である。
【0039】
A:ガス不純物含有量の定義
(1)Cが30質量ppm以下;30質量ppmを越えると、モリブデン或いは不純物元素への固溶量、合金化量が多くなっていると考えられる。その結果、結晶粒界の脆弱化に結びつき、膨れ不具合の発生確率が高くなる。
【0040】
(2)Nが20質量ppm以下;20質量ppmを越えると、Cと同様の現象が起こっていると考えられ、膨れ不具合の発生確率が高くなる。
【0041】
(3)Oが50質量ppm以下;50質量ppmを越えると、C、Nと同様の現象のほかに、結晶粒界面にわずかに存在するボイド内に集積する量が増加するために、膨れ発生が生じ易くなる。
【0042】
(4)C、N、Oの総和が100質量ppm以下;脱ガス処理後の含有ガス不純物として最も量の多いOを主体とした、3種類のガス不純物の総量を規定している。
【0043】
ガス不純物の化学定量方法は、CおよびOがともに赤外線吸収法であり、Nが熱伝導度法である。
【0044】
B1:ヘラ絞り製法で製造された坩堝1の角R部のビッカース硬度値の定義
(1)モリブデン(理論密度10.2g/cm
3);本願の真空高温熱処理によって残留する塑性加工歪は解放され、真空高温熱処理後のビッカース硬度は150HVから200HVである。
【0045】
(2)70質量%モリブデン-30質量%タングステン合金(略称7MW、理論密度11.88g/cm
3);タングステン含有量の増大とともにビッカース硬度は高くなる。真空高温熱処理後のビッカース硬度は、170HVから240HVである。
【0046】
(3)40質量%モリブデン-60質量%タングステン合金(略称4MW、理論密度14.22g/cm
3);真空高温熱処理後のビッカース硬度は200HVから300HVである。
【0047】
(4)30質量%モリブデン-70質量%タングステン合金(略称3MW、理論密度15.23g/cm
3);真空高温熱処理後のビッカース硬度は210HVから310HVである。
【0048】
B2:焼結製法で製造された坩堝1の角R部のビッカース硬度値の定義
(1)モリブデン理論密度10.2g/cm
3);本願の真空高温熱処理によって残留する塑性加工歪は解放され、真空高温熱処理後のビッカース硬度は150HVから170HVである。
【0049】
(2)70質量%モリブデン-30質量%タングステン合金(略称7MW、理論密度11.88g/cm
3);タングステン含有量の増大とともにビッカース硬度は高くなる。真空高温熱処理後のビッカース硬度は、160HVから180HVである。
【0050】
(3)40質量%モリブデン-60質量%タングステン合金(略称4MW、理論密度14.22g/cm
3);真空高温熱処理後のビッカース硬度は170HVから190HVである。
【0051】
(4)30質量%モリブデン-70質量%タングステン合金(略称3MW、理論密度15.23g/cm
3);真空高温熱処理後のビッカース硬度は170HVから190HVである。
【0052】
硬度測定はビッカース硬度計を利用し、荷重は10kgとした。測定位置は、厚さ中央部とした。
【0053】
これらの好適硬度範囲は、各材質によって異なるが、それぞれの硬度下限を下回る数値の場合、再結晶が進み結晶粒界強度の低下、粒界面の剥離および膨れに繋がるため、部分的な再結晶は許されるが上記下限値を下回るほどの再結晶は避ける必要がある。一方、硬度が高すぎると塑性歪が多く残っているため加工性が悪く、絞り加工での歩留まりが極端に下がるため、上記硬度上限を超えないことが望ましい。ただし、今後へら絞り機の改善によって、絞り加工温度の上昇が可能になった場合などは、この上限は上昇する可能性がある。
【0054】
C:モリブデンの含有量範囲の定義
坩堝を構成する材料としてはサファイア溶融温度に耐える融点を持ち、高温強度が高いモリブデン、タングステン並びにモリブデン−タングステン合金が用いられている。モリブデン−タングステン合金中のタングステン含有量が60質量%を越えると、合金化技術が高度になる上に、へら絞り成形加工も難となる。さらにコストアップとなるだけでなく、性質がタングステンに近似してくるため、採用するメリットは少ない。さらに、実施例においても膨れ解消の効果が認められなかった。
【0055】
<ヘラ絞り製法での工程の詳細>
<工程の詳細>
工程1;原料
FSSS(Fisher sub-sieve sizer)粒度が1μm〜10μm、好ましくは2μm〜6μm、純度99.5質量%のモリブデン金属粉末、およびFSSS粒度が1μm〜10μm、純度99.5質量%のタングステン金属粉末を準備する。
【0056】
粉末粒度が細かすぎると成形割れなどの欠陥が生じやすく、粗すぎると焼結密度が低くなるためである。
【0057】
工程2;混合
所要重量の粉末をV型ミキサーで0.5時間〜3時間混合する。混合はダブルコーンミキサー、ボールミルなどの一般的な混合機を用いても所望の混合粉末が得られる。
【0058】
工程3;成形
所要の秤量を終えた粉末をラバーケースに投入し、静水圧プレス(CIP)にて1〜3ton/cm
2の圧力で成形した。
【0059】
工程4;焼結
粉末成形体は水素焼結炉で焼結される。モリブデン坩堝用粉末成形体は1600〜2000℃、モリブデン‐タングステン合金坩堝成形体は1800〜2200℃、時間はそれぞれ5〜20時間焼結した。
【0060】
工程5;真空脱ガス処理工程
C、N、Oガス不純物含有量を減少させるために、1500℃〜2200℃で1時間〜10時間の真空高温脱ガス処理を5×10
-6torr(5×10
-6×133Pa)の真空下で行う。この高温処理によって焼結密度は約1%以上向上した。
【0061】
工程6;熱間圧延工程
熱間4段圧延機を用いて、熱間平圧延加工を行った。1100℃〜1400℃の水素加熱炉の中に焼結体を装入し、10分から30分加熱した後、加工率60%以上で熱間圧延加工を行った。圧延後の密度はそれぞれの理論密度に対し、約98.5%乃至99%に到達し、圧延方向に伸長した繊維状組織を呈していた。
【0062】
工程7;表面酸化物除去工程
圧延板表面を覆う酸化物膜を除去するために、水素アニール炉にて表面酸化物を水素還元した。その後、薬品洗浄を施すことで金属光沢の表面を得た後、さらに、それぞれ水洗を実施した
工程8;切断工程
へら絞り用の板素材を得るために、前記の板を必要サイズの円板(絞りワーク)に切断した。
【0063】
工程9;へら絞り成形加工
へら絞り装置の構成と工法について説明する。横型旋盤様の設備であり、駆動側回転軸から順に、絞り金型、絞りワーク、ワーク押し棒が横一直線に相接しながら取り付けられる。絞りワーク後方の斜め横方向から、回転する絞りワークに向かって回転へら(ローラー)が繰り出され、絞り金型の外周面にワークをなぞらえることで成形し、坩堝形状に仕上げることができる。本願材料は変形抵抗が大きいために、加熱することで変形抵抗を下げる熱間絞り方法を採用して、厚さ7mm×内径200mm×総高さ210mmの概略寸法坩堝を得た。大気中加熱処理により、坩堝表面は、熱間圧延上がりの表面同様に黒色乃至灰白色の酸化物でおおわれている。
【0064】
工程10;表面酸化物除去処理
寸法測定、欠陥検査などの目的で、金属光沢の坩堝表面を得るために、工程7と同様の還元処理、薬品洗浄、水洗を行った。
【0065】
工程11;旋盤切削加工
NC縦型旋盤に粗坩堝をセットし、超硬バイトで開口部端面の余剰部分やバリを切削除去して、坩堝製品に仕上げた。仕上がり寸法は壁部厚さが7mmで、底部の厚さ9.5mmmm、開口部内径200mm、総高さ200mmである。切削除去面のRaは2〜3μmで、割れ、ボイドなどの欠陥は目視検査、超音波探傷検査で共に認められず良好であった。
【0066】
工程12;真空脱ガス処理工程
熱間絞り成形工程において吸着したガス不純物の低減を目的に、仕上げ加工を終了した坩堝に工程5と同様の真空炉を利用して真空高温脱ガス処理を行った。加熱温度は1500℃〜2200℃で1時間〜10時間行った。真空到達度は5×10
-6torr(5×10
-6×133Pa)以下であった。
【0067】
なお、前記工程4の焼結工程は、他の焼結方法に置き換えることが可能である。例えば、HIP処理においてカプセル化する際、温度500℃から1000℃でベーキングしながら真空排気した後封止する。その後、温度1100℃から2000℃にて3時間から10時間程度HIP焼結処理しても良い。
【0068】
また、前記4の焼結工程において大気圧水素雰囲気炉で焼結温度、時間および水素流量、水素流入口の配置などにより水素露点を適宜調整し焼結してもよい。
【0069】
なお、前記の焼結工程で、ガス不純物C,N,Oの総含有率が100質量ppm以下であり、Cの含有率が30質量ppm以下、Nの含有率が20質量ppm以下、Oが50質量ppm以下の純度、底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上310HV以下の坩堝が得られるならば、前記工程の5および12の真空脱ガス処理工程は省略することができる。
【0070】
<焼結製法での工程の詳細>
<工程の詳細>
工程3の成形工程において、成形時ラバーバッグ内に中子を設置し、該坩堝形状に中子周囲に粉末を導入すること以外は、前記ヘラ絞り製法の工程1から工程5および工程11,12と同様で良い。すなわちヘラ絞り工程の工程6の熱間圧延工程から工程10の表面酸化物除去処理が省略できることを意味する。焼結製法ではヘラ絞り製法に比較し、肉厚が厚い坩堝に適している。
【0071】
なお、真空脱ガス処理工程として、ヘラ絞り製法の「工程12;真空脱ガス処理工程」の段落に記載した真空脱ガス処理工程を用いることができる。
【0072】
なお、焼結製法においても前記ヘラ絞り製法同様、前記4の焼結工程は、他の焼結方法に置き換えることが可能である。
【0073】
なお、上記の焼結工程でガス不純物C,N,Oの総含有率が100質量ppm以下であり、Cの含有率が30質量ppm以下、Nの含有率が20質量ppm以下、Oが50質量ppm以下の純度および底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上190HV以下の坩堝が得られるならば、前記工程の5および7の真空脱ガス処理工程は省略することが出来ることもヘラ絞り製法と同様である。
【0074】
<実施例1>
単結晶サファイア育成装置を利用して、膨れ不具合の発生状況について調査した。絞り製法で製作したそれぞれの坩堝の中にアルミナ粉末を充填し、2100℃に加熱融解後10時間保持、そして500℃までの冷却を1サイクルとして、5サイクル終了後の状況を目視にて観察した。本願発明絞り製法坩堝並びに比較例の絞り製法坩堝、は同様の冷熱負荷を与えて評価した。高温加熱とともに冷熱負荷を与えた目的は、熱膨張・収縮が坩堝を構成する多結晶材料の結晶粒界面への熱ストレスを加速することで、膨れ不具合の発生頻度を高めることにある。評価結果を表1で示す。
【0076】
ここで表中の試料No.1〜3、6〜8、11〜13および16〜18は実施例であり、No.4,5,9,10,14,15,19,20は工程11までの切削加工までの工程で製作した絞り坩堝から切り出した試験体による比較例である。表から膨れを防止するには、ガス成分の量を所定の量に減少させると共に硬度の制御が必要であることが判明した。
【0077】
また、No.16〜18は1次真空脱ガス処理によってガス成分の量をある程度減少させても不十分であり、かつ硬度が高くへら絞り成形加工工程にて加工性に問題を生じ角R部のクラック発生頻度が高く、2次真空脱ガス処理を施すレベルではなく、工業的な製造は不可でありモリブデンに対するタングステンの添加量は60質量%以下に制限される。
【0078】
すなわち、モリブデンを40質量%以上含む坩堝であって、C、NおよびOの総含有率が100質量ppm以下であり、Cの含有率が30質量ppm以下、Nの含有率が20質量ppm以下、Oの含有率が50質量ppm以下であり、絞り製法坩堝において底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上310HV以下の範囲が好適である。
【0079】
<実施例2>
焼結製法で製作した坩堝においても、実施例1と同様な方法で膨れ不具合の発生状況を評価した。評価結果を表2で示す。
【0081】
ここで表中の試料No.21〜23、26〜28、31〜33および36〜38は実施例であり、No.24,25,29,30,34,35,39,40は工程6までの切削加工までの工程で製作した焼結坩堝から切り出した試験体による比較例である。
【0082】
表から膨れを防止するには、焼結製法坩堝においても絞り製法坩堝と同様ガス成分の量を所定の量に減少させると共に硬度の制御が必要であることが判明した。
【0083】
上記実施例2において、No.36〜38は焼結性に関するタングステンの影響で、ガス成分が減少しても粒界強度の弱さから本実施例程度のガス量低減では効果が少なく、膨れが発生した。よってモリブデンに対するタングステンの添加量は60質量%以下が最適である。
【0084】
すなわち、モリブデンを40質量%以上含む坩堝であって、C、NおよびOの総含有率が100質量ppm以下であり、Cの含有率が30質量ppm以下、Nの含有率が20質量ppm以下、Oの含有率が50質量ppm以下であり、焼結製法坩堝において底面と側面の境界の角R部での硬さが150HV以上190HV以下の範囲が好適である。
【0085】
真空加熱処理条件と、真空加熱処理後の硬度のバランスを取ることが重要である。真空加熱処理の温度、時間が過剰であると再結晶化が進み、ガス成分の残留量は減少するが、再結晶による粒界強度の低下に伴い膨れが発生する。
【0086】
逆に、真空加熱処理の温度、時間が不十分であれば、残留歪減少も脱ガス量も不十分であり、素材が脆く加工時に内部クラックが発生しやすくなる。残留ガス成分が粒界を通した拡散により集中し易くなり、結果的にガス成分が溜まり、クラック発生頻度を高くし、最終的には膨れにつながることになる。