特許第6220265号(P6220265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カルソニックカンセイ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000002
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000003
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000004
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000005
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000006
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000007
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000008
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000009
  • 特許6220265-半導体実装構造およびその実装方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6220265
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】半導体実装構造およびその実装方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20171016BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20171016BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
   H01L25/04 C
   H01L21/60 301A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-268983(P2013-268983)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-126066(P2015-126066A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】栗田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】多田 一夫
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−120970(JP,A)
【文献】 特開2007−329362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H01L 25/18
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板またはリードフレームに接合された半導体チップ、あるいは基板またはリードフレームに一列に並べて接合された半導体チップと、
前記半導体チップの上面に設けられた電極と前記基板または前記リードフレームとの間に、前記半導体チップの一方向に並列状態で複数本ボンディングされたボンディングワイヤと、を備えた実装構造を有して、
前記電極の少なくとも一部を覆うとともに、前記ボンディングワイヤの並設方向に対して、前記電極の幅から両側に張り出した両側張出部を有する金属プレートを接合して、
前記金属プレートの上面と前記基板または前記リードフレームとの間に、前記ボンディングワイヤを、前記電極の幅よりも広い範囲に亘って複数本ボンディングし
前記金属プレートは、前記ボンディングワイヤの配線方向に沿って前記半導体チップから突出するように延びる突出部を有して、
前記ボンディングワイヤは、前記突出部にボンディングされ、
前記基板または前記リードフレーム上に、前記金属プレートの前記両側張出部、および前記突出部を保持可能な、絶縁性を有するスペーサを設け、
前記半導体チップの前記金属プレートで覆われていない部分に、前記電極とは別の電極が設けられて、
前記スペーサの、前記別の電極と近接する部分に、部分的な薄肉部または切欠部を設けること、を特徴とする半導体実装構造。
【請求項2】
前記スペーサは、前記半導体チップの周囲を取り囲む枠状に形成されて、
前記枠状に形成されたスペーサが、枠内に前記半導体チップとほぼ同じ大きさのチップ収容部を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体実装構造。
【請求項3】
基板またはリードフレームの一面側に第1の板はんだを配置して、
前記第1の板はんだの上面に半導体チップを配置して、
前記半導体チップの上面の電極上に第2の板はんだを配置して、
前記第2の板はんだの上面に、金属プレートを、前記電極の幅から両側に張り出すように配置して、
このようにして積層された部品を一括してはんだ付けした後で、
前記金属プレートの、前記電極の幅方向に沿う表面と、前記基板または前記リードフレームとの間に複数のボンディングワイヤをボンディングして実装し、
前記基板または前記リードフレームの一面側に、絶縁性を有して、枠状に形成されたスペーサを接着剤によって接着して、
前記第1の板はんだと、前記半導体チップと、を前記スペーサの枠内に形成された、前記半導体チップとほぼ同じ大きさのチップ収容部に位置決めして配置することを特徴とする半導体実装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電動車両に用いられるインバータなどの半導体パワー素子に代表される半導体素子の実装構造およびその実装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子(半導体チップ)の構造として、一般に、半導体チップと基板との間を板状のリードで接続する構造、または、半導体チップと基板との間をボンディングワイヤで接続する構造が知られている。(例えば、特許文献1,2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−50364号公報
【特許文献2】特開2005−310844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明によると、半導体チップと基板との間を板状のリードで接続している。そして、半導体チップ側の接合部の厚みを薄くして、はんだ接合層にかかる熱応力を低減して疲労亀裂が発生しにくい構成を採っている。
【0005】
また、特許文献2に記載された発明によると、半導体チップと基板との間をボンディングワイヤで接続している。そして、ボンディングワイヤ1本の許容電流を増やして電流容量を増すために、半導体チップ上面電極表面の端部に電極パッドを設けて電極表面と電極パッドの厚さを調節し、通電領域比の低下を防止して、通電許容量を高くしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明にあっては、半導体チップと基板との間に架け渡されたリード部に大電流が流れるため、リードの渡り部に、熱による伸びが発生して、その伸びに起因する剪断応力がはんだ接合部に作用し、はんだ接合部に疲労破壊を誘発する恐れがあるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載された発明にあっては、ボンディングワイヤを近接させて並べるには装置サイズ上の限界があり、半導体チップの面積が小さくなると、ボンディングできるワイヤの本数が減って、必要な電流容量を確保できなくなる。
【0008】
そして、複数のパワー素子間をできるだけ低抵抗で接続するためには、パワー素子を導体パターン上に近づけて一列に並べる必要がある。したがって、接続できるワイヤの本数を増やすために、半導体チップの四方からワイヤを引き出す構造を適用することはできないという問題があった。
【0009】
さらに、ワイヤを延ばすと抵抗値が増えて、逆に電流容量が減ってしまうため、長いワイヤを使って、既にあるワイヤの上を通す構造を適用することもできないという問題があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、半導体チップや基板の温度変動に対する耐久性が高く、なおかつ、小型の半導体チップから大きな電流容量を安定して確保することができる半導体実装構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る半導体実装構造は、基板またはリードフレームに接合された半導体チップ、あるいは基板またはリードフレームに一列に並べて接合された半導体チップと、前記半導体チップの上面に設けられた電極と前記基板または前記リードフレームとの間に、前記半導体チップの一方向に並列状態で複数本ボンディングされたボンディングワイヤと、を備えて、前記電極の少なくとも一部を覆うとともに、前記ボンディングワイヤの並設方向に対して、前記電極の幅から両側に張り出した両側張出部を有する金属プレートを接合して、前記金属プレートの上面と前記基板または前記リードフレームとの間に、前記ボンディングワイヤを、前記電極の幅よりも広い範囲に亘って複数本ボンディングし、前記金属プレートは、前記ボンディングワイヤの配線方向に沿って前記半導体チップから突出するように延びる突出部を有して、前記ボンディングワイヤは、前記突出部にボンディングされ、前記基板または前記リードフレーム上に、前記金属プレートの前記両側張出部、および前記突出部を保持可能な、絶縁性を有するスペーサを設け、前記半導体チップの前記金属プレートで覆われていない部分に、前記電極とは別の電極が設けられて、前記スペーサの、前記別の電極と近接する部分に、部分的な薄肉部または切欠部を設けること、を特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る半導体実装方法は、基板またはリードフレームの一面側に第1の板はんだを配置して、前記第1の板はんだの上面に半導体チップを配置して、前記半導体チップの上面の電極上に第2の板はんだを配置して、前記第2の板はんだの上面に、金属プレートを、前記電極の幅から両側に張り出すように配置して、このようにして積層された部品を一括してはんだ付けした後で、前記金属プレートの、前記電極の幅方向に沿う表面と、前記基板または前記リードフレームとの間に複数のボンディングワイヤをボンディングして実装し、前記基板または前記リードフレームの一面側に、絶縁性を有して、枠状に形成されたスペーサを接着剤によって接着して、前記第1の板はんだと、前記半導体チップと、を前記スペーサの枠内に形成された、前記半導体チップとほぼ同じ大きさのチップ収容部に位置決めして配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る半導体実装構造によれば、半導体チップの上面の電極が、半導体チップの一方向、または一列に並べられた半導体チップの一方向に沿う複数のボンディングワイヤの並設方向に対して、電極の幅から両側に張り出した両側張出部を有する金属プレートと接合されて、この金属プレートと基板との間、または金属プレートとリードフレームとの間が、複数のボンディングワイヤで接続されるため、電極の幅よりも広い範囲に亘って、より多くのボンディングワイヤを並設することができる。したがって、面積の小さい半導体チップであっても、多数のボンディングワイヤを介して大電流を取り出すことができる。
【0014】
さらに、本発明に係る半導体実装構造によれば、半導体チップと基板との間、または半導体チップとリードフレームとの間がボンディングワイヤで接続されるため、それらの間をビームリードで接続した場合と比べて金属プレートを厚くする必要がなく、金属プレートと半導体チップの接合部にかかる熱応力を小さくすることができる。したがって、半導体チップに温度変動が発生した場合であっても、高い耐久信頼性を得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る半導体実装方法によれば、全部品を積層した後で一括してはんだ付けするため、半導体チップを、基板またはリードフレーム上に容易に実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る半導体実装構造を示す上面図である。
図2】本発明に係る半導体実装構造を示す、図1を切断線A−Aで切った横断面図である。
図3】本発明に係る半導体実装構造を示す、図1を切断線B−Bで切った縦断面図である。
図4】本発明に係る半導体実装構造を有する複数の半導体パワー素子を基板上に実装して半導体パワーモジュールを構成した状態を示す上面図である。
図5】本発明に係る半導体実装構造を有する複数の半導体パワー素子をリードフレーム上に実装して半導体パワーモジュールを構成した状態を示す上面図である。
図6】本発明に係る半導体実装構造を複数組み合わせてなる半導体パワーモジュールの部分的な等価回路を示す回路図である。
図7】本発明に係る半導体パワー素子の実装構造の変形例を示す上面図である。
図8】本発明に係る半導体パワー素子の実装手順を説明するための分解構成図である。
図9】本発明に係る半導体パワー素子の実装手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の半導体パワー素子の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態であるモータ制御装置30Aの構成要素となる半導体パワー素子10Aの外観図である。このモータ制御装置30Aは、例えば、電気自動車等の電動車両に搭載されて、大電力を要するモータの回転制御を行うために用いられる。
[半導体パワー素子の構造の説明]
【0019】
本実施例のモータ制御装置30Aを構成する半導体パワー素子10Aは、半導体チップ4Aで構成されている。半導体パワー素子10Aにはいくつかの種類があるが、本実施例では、半導体チップ4Aは絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を形成しているものとする。以後、半導体チップ4Aと呼ぶ代わりにIGBT(4A)と呼ぶ。
【0020】
以下、図1、および、図1を切断線A−Aで切った横断面図である図2図1を切断線B−Bで切った縦断面図である図3を用いて、半導体パワー素子10Aの構造について説明する。
【0021】
基板8の一面側(図1の表面側、図2図3の上面側)に形成されたコレクタランド8a上には、樹脂やセラミック等の絶縁性の材質からなるスペーサ6Aが、接着剤7によって接着されている。
【0022】
スペーサ6Aは枠状に形成されており、中央部に矩形状のチップ収容部6aを有して、チップ収容部6aの周囲に枠状のチップ包囲部6bを有している。
【0023】
スペーサ6Aのチップ収容部6aの内側には、チップ収容部6aとほぼ等しいサイズの第1の板はんだ5が配置されている。
【0024】
IGBT(4A)(半導体チップ)の表裏面には、対向する2つの電極であるエミッタ電極4eとコレクタ電極4cが形成されている。このうち、エミッタ電極4eはIGBT(4A)の表面側(図2図3の上面側)に形成されて、コレクタ電極4cはIGBT(4A)の裏面側(図2図3の下面側)に形成されている。そしてIGBT(4A)の表面側には、さらにゲート電極4gが形成されている。
【0025】
IGBT(4A)の裏面側のコレクタ電極4cは、スペーサ6Aのチップ収容部6aの内側に配置された第1の板はんだ5を介して、基板8上のコレクタランド8aとはんだ接合されている。すなわち、チップ収容部6aの寸法はIGBT(4A)の寸法よりも一回り大きく(例えば、縦横とも0.4mm程度大きく)形成されている。
【0026】
IGBT(4A)の表面側のゲート電極4gと、IGBT(4A)を駆動するためのゲート信号を送出するターミナル9と、の間はアルミワイヤ1a(ボンディングワイヤ)によってボンディング接続されている。
【0027】
なお、チップ収容部6aを取り囲むチップ包囲部6bのうち、アルミワイヤ1aが接続される側には、スペーサ6Aの厚みの一部が切り欠かれた切欠部6cが形成されている。すなわち、切欠部6cの厚さt0(図2参照)は、チップ包囲部6bの他の3辺側の厚さt1(図2参照)よりも薄く形成されている。
【0028】
IGBT(4A)の表面側のエミッタ電極4eは、エミッタ電極4eの上面に配置された第2の板はんだ3を介して、エミッタ電極4eを覆う矩形状の金属プレート2とはんだ接合されている。
【0029】
金属プレート2は、ゲート電極4gには掛らない位置に配置される。なお、図1では、金属プレート2はエミッタ電極4eを全て覆っているが、エミッタ電極4eと導通さえしていれば、エミッタ電極4eの領域の少なくとも一部を覆っていれば構わない。
【0030】
この金属プレート2と基板8上に形成されたエミッタランド8bとは、並設された極力短い複数のアルミワイヤ1b(ボンディングワイヤ)によってボンディング接続されている。
【0031】
なお、金属プレート2は、複数のアルミワイヤ1bの並設方向に対して、IGBT(4A)の幅から両側に張り出した両側張出部2a,2bと、アルミワイヤ1bの配線方向に沿って、IGBT(4A)からエミッタランド8bへ向けて突出するように延びた突出部2cと、が形成された状態でIGBT(4A)の表面側に配置されている。そして、形成された両側張出部2a,2bと突出部2cは、スペーサ6Aのチップ包囲部6bの上に重なって配置されている。なお、両側張出部2a,2bは、実際にはエミッタ電極4eの幅から両側に張り出していればよい。
【0032】
すなわち、スペーサ6Aのチップ包囲部6bの厚さt1は、第1の板はんだ5,IGBT(4A),第2の板はんだ3の各々の厚さの総和とほぼ等しくなるように設計されている。
【0033】
複数のアルミワイヤ1bは、金属プレート2がスペーサ6Aのチップ包囲部6bの上に重なった位置、すなわち、両側張出部2a,2b、または突出部2cの領域にボンディングされている。
【0034】
そして、例えば図4に示すように、複数の半導体パワー素子(10A,10B)が、それぞれ、後述する複数のダイオード(14A,14B)とともに基板8上に一列に並べて実装され、また、複数の半導体パワー素子(10C,10D)が、それぞれ、後述する複数のダイオード(14C,14D)とともに基板8上に一列に並べて実装されて、モータ制御装置30A用の半導体パワーモジュール20Aが形成される。
【0035】
このとき、複数の半導体チップ(10A,10B)と複数のダイオード(14A,14B)の上面に設けられた電極と基板8との間は、一列に並べて実装された半導体チップ(10A,10B)および複数のダイオード(14A,14B)の一方向に沿って、並設された複数本のアルミワイヤ1c(ボンディングワイヤ)によってボンディングされている。一列に並べて実装された半導体チップ(10C,10D)および複数のダイオード(14C,14D)についても同様に、並設された複数本のアルミワイヤ1c(ボンディングワイヤ)によってボンディングされている。
【0036】
また、半導体パワー素子(10A,10B,10C,10D)は、図5に示すように、基板8に代わってリードフレーム11上に実装されて、モータ制御装置30A用の半導体パワーモジュール20Bを形成してもよい。
【0037】
このようにして形成された半導体パワーモジュール20A,20Bの等価回路の例を図6に示す。
【0038】
図6に示すように、IGBT(4A)のエミッタ電極4e、コレクタ電極4c間には、ダイオード14Aが接続されている。すなわち、ダイオード14Aのアノード電極14aがエミッタ電極4eと接続されて、ダイオード14Aのカソード電極14cがコレクタ電極4cと接続されている。
【0039】
このダイオード14Aは、スイッチング素子であるIGBT(4A)が電流を遮断するときに発生するサージ電流を、回路の下流側に流さないように逃がす役割を果たす素子であり、一般に還流ダイオードと呼ばれている。
【0040】
なお、実装された他のIGBT(4B,4C,4D)にも、それぞれ、ダイオード14Aと同様のダイオード(14B,14C,14D)が接続されている。
【0041】
このようにして形成された半導体パワーモジュール20A,20Bは、直流電源VDCから供給された直流電力を、交流電圧VACを有する交流電力に変換するインバータとして動作する。インバータはモータの回転制御を行うために広く一般に用いられているため、その詳細な動作の説明は省略する。
【0042】
これらのダイオード(14A,14B,14C,14D)は、それぞれ半導体チップ上に形成されて、図4図5の表面側にアノード電極14aを有し、裏面側にカソード電極14cを有する半導体素子(22A,22B,22C,22D)として、前述したIGBT(4A,4B,4C,4D)と同様の構造で基板8またはリードフレーム11に実装される。
【0043】
例えば、ダイオード14Aは、図4に示すように、スペーサ16のチップ収容部16aの内側に配置されて、アノード電極14aの上面には金属プレート12が配置され、この金属プレート12の両側張出部12a,12b、および突出部12cの領域はスペーサ16のチップ包囲部16bの上部に重ねられて、両側張出部12a,12b、または突出部12cの領域には複数のアルミワイヤ1c(ボンディングワイヤ)が接続され、この複数のアルミワイヤ1cが、基板8またはリードフレーム11と接続されて、半導体素子22Aを形成している。
[半導体パワー素子の実装工程の説明]
【0044】
次に、IGBT(4A)(半導体チップ)を実装して半導体パワー素子10Aを作成する工程について、図8に示す分解構成図を用いて説明する。
【0045】
まず、スペーサ6Aの裏面(接着面)に、接着剤7を所定の厚さで塗る、または、スペーサ6Aの接着面と同形状の接着シートを基板8に貼る。そして、基板8上の所定の位置にスペーサ6Aを置き、スペーサ6Aと基板8とを接着する。
【0046】
次に、基板8上のスペーサ6Aのチップ収容部6aの内側に、第1の板はんだ5を配置する。
【0047】
そして、第1の板はんだ5の上面に重ねて、チップ収容部6aの内側にIGBT(4A)を配置する。このとき、コレクタ電極4cを基板8側として配置する。
【0048】
次に、IGBT(4A)の上面のエミッタ電極4eの上に、第2の板はんだ3を配置する。
【0049】
そして、スペーサ6Aのチップ包囲部6b、および第2の板はんだ3の上に、金属プレート2を架け渡して配置する。
【0050】
このようにして複数の部品が積層されたアッセンブリーを、加熱装置(一般的には真空はんだ付け装置)内に置いて、リフローはんだ付けを行う。このはんだ付けによって、IGBT(4A)のコレクタ電極4cが、基板8上のコレクタランド8aとはんだ接合される。また、IGBT(4A)のエミッタ電極4eが、金属プレート2とはんだ接合される。
【0051】
リフローはんだ付けが終了した後で、IGBT(4A)のゲート電極4gと、ターミナル9と、の間に、ワイヤボンダでアルミワイヤ1a(ボンディングワイヤ)をワイヤボンディングする。
【0052】
次に、金属プレート2の所定の位置と、基板8上のエミッタランド8bと、の間に、ワイヤボンダで複数のアルミワイヤ1b(ボンディングワイヤ)をワイヤボンディングする。ここで、金属プレート2の所定の位置とは、金属プレート2がスペーサ6Aと重なっている領域、すなわち、両側張出部2a,2b(図1参照)、または突出部2cの領域である。
【0053】
以上の実装工程を経て、基板8上にIGBT(4A)が実装されて半導体パワー素子10Aが形成される。
【0054】
そして、前述した作業と同様の作業を、基板8またはリードフレーム11に対して実行し、基板8またはリードフレーム11上に複数の半導体パワー素子を実装することによって、図4図5に示す半導体パワーモジュール20A,20Bを製造することができる。
[半導体パワー素子の実装手順の説明]
【0055】
次に、図9を参照して、IGBT(4A)(半導体チップ)を実装して半導体パワー素子10Aを形成する手順について簡単に説明する。
【0056】
(ステップS10)基板8の所定の位置に接着剤7でスペーサ6Aを接着する。
【0057】
(ステップS12)スペーサ6Aのチップ収容部6a内側に第1の板はんだ5を配置する。
【0058】
(ステップS14)第1の板はんだ5の上面に、IGBT(4A)を所定の向きで配置する。
【0059】
(ステップS16)IGBT(4A)の上面のエミッタ電極4eの上に第2の板はんだ3を配置する。
【0060】
(ステップS18)第2の板はんだ3の上面と、スペーサ6Aのチップ包囲部6bの上面と、に金属プレート2を架け渡して配置する。
【0061】
(ステップS20)前記ステップで各部品が配置されたアッシー品に対して、リフローはんだ付けを行う。
【0062】
(ステップS22)金属プレート2と基板8との間を、ワイヤボンディングによって複数のアルミワイヤ1bで接続する。
[半導体パワー素子の実装構造の変形例の説明]
【0063】
なお、半導体パワー素子の実装構造は、前述した構造に限定されるものではない。例えば、図7に示す構造で実装してもよい。
【0064】
図7に示す半導体パワー素子10Bは、前述した半導体パワー素子10Aが有するスペーサ6Aとは異なる構造のスペーサ6Bを備えている。すなわち、スペーサ6Bは、矩形状に形成されて、チップ収容部6dとチップ包囲部6eを有しているが、このうち、チップ収容部6dのゲート電極4g側は開放されている。
【0065】
このような形状のスペーサ6Bを備えることによって、ゲート電極4gへのアルミワイヤ1a(ボンディングワイヤ)のボンディング作業を行う際に、ワイヤボンダをゲート電極4gに接近させるときに、スペーサ6Bのチップ包囲部6eを回避する必要がないため、ボンディング作業をより一層容易に行うことができる。
【0066】
以上説明したように、このように構成された本発明に係る半導体パワー素子10Aによれば、IGBT(4A)(半導体チップ)の上面のエミッタ電極4e(電極)が、IGBT(4A)の一方向に沿う複数のアルミワイヤ1b(ボンディングワイヤ)、または一列に並べられたIGBT(4A,4B)の一方向に沿う複数のアルミワイヤ1c(ボンディングワイヤ)の並設方向に対して、エミッタ電極4e(電極)の幅から両側に張り出した両側張出部2a,2bを有する金属プレート2と接合されて、この金属プレート2と基板8との間、または金属プレート2とリードフレーム11との間が、複数のアルミワイヤ1b(1c)で接続されるため、エミッタ電極4eの幅よりも広い範囲に亘ってアルミワイヤ1b(1c)を並設することができる。したがって、IGBT(4A)から大電流を取り出すことができる。また、IGBT(4A)を小型化した場合であっても、エミッタ電極4e(電極)の幅よりも広い範囲に亘ってアルミワイヤ1b(1c)を並設することができるため、大電流を取り出すことができる。
【0067】
さらに、本発明に係る半導体パワー素子10Aによれば、IGBT(4A)(半導体チップ)と基板8との間、またはIGBT(4A)とリードフレーム11との間が複数のアルミワイヤ1b(1c)(ボンディングワイヤ)で接続されるため、IGBT(4A)と基板8との間、またはIGBT(4A)とリードフレーム11との間をビームリードで接続した場合と比べて、金属プレート2を薄くすることができ、金属プレート2とIGBT(4A)の接合部にかかる熱応力を小さくすることができる。したがって、半導体パワー素子10Aに温度変動が発生した場合であっても、高い耐久信頼性を得ることができる。
【0068】
さらに、金属プレート2と基板8またはリードフレーム11の間はアルミワイヤ1b(1c)(ボンディングワイヤ)で接続されているため、金属プレート2と、基板8またはリードフレーム11と、の熱膨張率の違いによる伸びの差をアルミワイヤ1b(1c)のループが吸収するため、IGBT(4A)(半導体チップ)と金属プレート2のはんだ接合にかかる剪断応力を低く抑えることができ、これによって半導体パワー素子10Aの耐久信頼性が向上する。
【0069】
また、本発明に係る半導体パワー素子10Aによれば、金属プレート2は、アルミワイヤ1b(1c)(ボンディングワイヤ)の配線方向に沿ってIGBT(4A)(半導体チップ)から突出するように延びる突出部2cを有して、アルミワイヤ1bは、この突出部2cにボンディングされるため、アルミワイヤ1b(1c)の長さをより短くすることができる。これによって、アルミワイヤ1bの抵抗値が小さくなるため、IGBT(4A)と基板8の間に流すことができる電流容量を増大させることができる。さらに、ボンディングワイヤを接続できる領域の面積が増大するため、接続可能なボンディングワイヤの本数を増やすことができる。したがって、IGBT(4A)から大電流を取り出すことができる。
【0070】
そして、本発明に係る半導体パワー素子10Aによれば、基板8またはリードフレーム11上に、金属プレート2の両側張出部2a,2b、および突出部2cを保持可能な、絶縁性を有するスペーサ6Aを設けたため、ワイヤボンディングを行う際に、ワイヤボンダの荷重を、金属プレート2を支持しているスペーサ6Aのチップ包囲部6bが受け止めるため、確実に安定したボンディングを行うことができる。また、はんだ接合時に、金属プレート2が、両側張出部2a,2b、および突出部2cと接触するため、金属プレート2の、エミッタ電極4eの表面に直交する方向の傾きの発生を抑制することができる。したがって、IGBT(4A)(半導体チップ)のエミッタ電極4eと金属プレート2が、第2の板はんだ3を介して平行な状態ではんだ接合されて、IGBT(4A)から発生した熱が金属プレート2に均一に伝導される。したがって、エミッタ電極4eと金属プレート2の一部に熱が集中しないため、半導体パワー素子10Aの耐久信頼性を向上させることができる。
【0071】
枠状に形成されたスペーサ6Aが、枠内にIGBT(4A)(半導体チップ)とほぼ同じ大きさのチップ収容部6aを有するため、IGBT(4A)の実装時にチップ収容部6aが治具の役割を果たしてIGBT(4A)の位置決めができる。したがって、半導体チップを容易かつ確実に、安定した位置に配置することができる。
【0072】
さらに、本発明に係る半導体パワー素子10Aによれば、IGBT(4A)(半導体チップ)の金属プレート2で覆われていない部分にゲート電極4g(別の電極)が設けられて、スペーサ6Aの、ゲート電極4gと近接する部分に、厚さが薄い切欠部6cを設けたため、ゲート電極4gへのアルミワイヤ1a(ボンディングワイヤ)のボンディング作業を行う際に、ワイヤボンダがスペーサ6Aのチップ包囲部6bを容易に回避してゲート電極4gに接近することができるため、ボンディング作業の作業性が向上する。
【0073】
また、本発明に係る半導体パワー素子10Aの実装方法によれば、全部品を積層配置した後で一括してはんだ付けするため、IGBT(4A)(半導体チップ)を、基板8またはリードフレーム11上に短時間で容易に実装することができる。
【0074】
そして、本発明に係る半導体パワー素子10Aの実装方法によれば、基板8またはリードフレーム11の一面側に、絶縁性を有して、枠状に形成されたスペーサ6Aを接着剤7によって接着して、第1の板はんだ5と、IGBT(4A)(半導体チップ)と、を枠状に形成されたスペーサ6Aの枠内に形成されたIGBT(4A)とほぼ同じ大きさを有するチップ収容部6aに位置決めして配置するため、IGBT(4A)(半導体チップ)を、基板8またはリードフレーム11上に容易かつ確実に実装することができる。
【0075】
なお、本発明の適用範囲はIGBT(4A,4B,4C,4D)に限定されるものではない。すなわち、IGBT以外の半導体パワー素子であるパワーMOSFET,サイリスタ等にも適用することができる。さらに、実施例1の中で説明した、ダイオード(14A,14B,14C,14D)のような半導体チップにも、同様の実装構造と実装方法を適用することができる。
【0076】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
1a,1b アルミワイヤ(ボンディングワイヤ)
2 金属プレート
2a,2b 両側張出部
3 第2の板はんだ
4A 半導体チップ(IGBT,絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)
4c コレクタ電極
4e エミッタ電極
4g ゲート電極
5 第1の板はんだ
6A スペーサ
6a チップ収容部
6b チップ包囲部
6c 切欠部
7 接着剤
8 基板
8a コレクタランド
8b エミッタランド
9 ターミナル
10A 半導体パワー素子
30A モータ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9