(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(E)は:以下の式(1)に示すN−置換マレイミド単量体に由来する構成単位(A)と;以下の式(2)に示す(メタ)アクリレート単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体(カルボン酸の炭素数4〜12)およびマレイン酸ジアルキルエステル単量体(アルキル基の炭素数4〜8)から選ばれる少なくとも1つの単量体であって、ホモポリマーとしたときのTgが20℃以下である単量体(M)に由来する構成単位(B)と;(メタ)アクリレート単量体(単量体(M)である(メタ)アクリレート単量体を除く)に由来する構成単位(C)と;を有する熱可塑性樹脂(D)を含む。式(1)において、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜14のアリール基であり、Xは、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜14のアリール基である。式(2)において、R
3は水素原子またはメチル基であり、R
3が水素原子のときR
4は炭素数1〜12の炭化水素基であり、R
3がメチル基のときR
4は炭素数4〜12の炭化水素基である。
【0018】
樹脂組成物(E)のTgは115℃以上130℃未満であり、メルトフローレート(MFR)の値は7.5〜50[g/10分]であり、熱分解開始温度(Td)は300℃以上である。
【0019】
式(1)に示す単量体に由来する構成単位(A)を樹脂(D)が含むことにより、樹脂(D)および樹脂組成物(E)は115℃以上の高いTgを有し、樹脂(D)、樹脂組成物(E)および当該組成物(E)を成形して得た成形体、例えば光学フィルム、の耐熱性が向上する。
【0020】
しかし、構成単位(A)の導入によって単に樹脂(D)および樹脂組成物(E)のTgを高くするだけでは、当該組成物(E)の製膜性が不十分となる。その具体的な要因が、構成単位(A)の導入によるTgの上昇と、MFRにより表すことができる製膜時の流動性の低下と、熱分解開始温度(Td)の変動とによるこれら三者のバランスの崩れにあることを本発明者らは見出した。
【0021】
本発明では、樹脂組成物(E)のTgを115℃以上130℃未満とする。構成単位(A)の導入により115℃以上130℃未満のTgは達成できるが、当該導入により、樹脂(D)および樹脂組成物(E)のMFRが低下する。特許文献1には、アクリル系熱可塑性樹脂のTgを高くできる環構造として、ラクトン環構造をはじめとする数種類の環構造が挙げられているが、構成単位(A)の環構造(N−置換マレイミド構造)は当該環構造を主鎖に有するアクリル系樹脂のMFRを低下させる作用が特に強い。また、構成単位(A)の導入により、樹脂(D)および樹脂組成物(E)のTdが変動する。Tgが高くなると、樹脂組成物(E)を製膜してフィルムとする際の製膜温度を高くする必要があるが、構成単位(A)の導入によりTdに対するMFRの低下が大きくなると、このような高い製膜温度での製膜が困難となる。
【0022】
これらを考慮し、本発明では、樹脂組成物のTdを300℃以上とするとともに、MFRの値を7.5[g/10分]以上とする。このようなTg、MFRおよびTdを有する樹脂組成物(E)は、製膜性の観点から見たこれら三者のバランスに優れる。すなわち、樹脂組成物(E)は、主鎖に環構造を有するアクリル系熱可塑性樹脂(D)を含む樹脂組成物であって、製膜性(フィルム成形性)に優れる。
【0023】
[構成単位(A)]
構成単位(A)は、上記式(1)に示すN−置換マレイミド単量体に由来する(当該単量体の重合により形成される)構成単位(N−置換マレイミド単位)である。式(1)において、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜14のアリール基であり、Xは、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜14のアリール基である。R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、メチル基、ベンジル基、フェニル基が好ましく、水素原子がより好ましい。Xは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基、ナフチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、ニトロフェニル基、カルボキシルフェニル基、トリブロモフェニル基が好ましく、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基がより好ましい。
【0024】
構成単位(A)は、Xがアリール基である場合について、例えば、N−フェニルマレイミド、N−クロルフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミドの各単量体に由来する構成単位である。
【0025】
構成単位(A)は、Xがシクロアルキル基である場合について、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミドの各単量体に由来する構成単位である。
【0026】
構成単位(A)は、価格、入手性、耐熱性の観点から、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ナフチルマレイミドおよびN−トリブロモフェニルマレイミドから選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構成単位が好ましく、N−フェニルマレイミドおよびN−シクロヘキシルマレイミドから選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構成単位がより好ましい。
【0027】
[構成単位(B)]
樹脂組成物(E)において、製膜性の観点から見たTg、MFRおよびTdの優れたバランスが達成される要因の一つが構成単位(B)である。構成単位(B)は、上記式(2)に示す(メタ)アクリレート単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体、およびマレイン酸ジアルキルエステル単量体から選ばれる少なくとも1つの単量体であって、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度(Tg)が20℃以下である単量体(M)に由来する(当該単量体の重合により形成される)構成単位である。ホモポリマー(単独重合体)のTgは、例えば、J. Brandrup著「ポリマーハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK Fourth Edition)」などの文献により確認することができる。
【0028】
式(2)に示す(メタ)アクリレート単量体について、R
3は水素原子またはメチル基であり、R
3が水素原子のときR
4は炭素数1〜12の炭化水素基であり、R
3がメチル基のときR
4は炭素数4〜12の炭化水素基である。カルボン酸ビニルエステル単量体について、カルボン酸部分(カルボン酸ビニルエステルの形成時にビニル化合物とのエステル化反応に用いたカルボン酸に由来する部分)の炭素数は4〜12である。マレイン酸ジアルキルエステル単量体について、アルキル基の炭素数は4〜8である。
【0029】
構成単位(B)の由来となる単量体(M)は、ホモポリマーを形成したときに、光学部材に一般に使用される樹脂、例えばPMMA、に比べて非常に低いTgを有する。具体的に、単量体(M)のホモポリマーのTgは20℃以下である。このような、ホモポリマーを形成したときに低いTgを示す単量体(以下、単に「低Tg単量体」ともいう)に由来する構成単位(B)を有することにより、樹脂(D)および樹脂組成物(E)の製膜性が向上する。その要因の一つに、低Tg単量体に由来する構成単位(B)が可塑剤に類似する作用を示すことが挙げられる。ただし、通常の可塑剤では樹脂の流動性が向上するだけであるが、構成単位(B)の場合、構成単位(A)を有する樹脂のTg、MFRおよびTdの三者のバランスを向上させるというさらに有利な効果を実現する。この点で、構成単位(B)と単なる可塑剤とは大きく異なっている。
【0030】
構成単位(B)が低Tg単量体に由来する点に着目すると、樹脂組成物(E)は、構成単位(A)と、ホモポリマーを形成したときに20℃以下のTgを示す単量体に由来する構成単位と、(メタ)アクリレート単量体(前記20℃以下のTgを示す単量体を除く)に由来する構成単位(C)と、を有する熱可塑性樹脂(D)を含み、Tgが115℃以上130℃未満であり、MFRが7.5[g/10分]以上50[g/10分]以下であり、Tdが300℃以上である熱可塑性樹脂組成物である。
【0031】
式(2)に示す(メタ)アクリレート単量体について、R
4の炭素数の上限は12であり、10が好ましく、8がより好ましい。
【0032】
R
4の炭化水素基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、ベンジル基、フェニル基である。各炭化水素基の水素原子が、塩素原子などのハロゲン原子によって置換されていてもよい。
【0033】
単量体(M)である(メタ)アクリレート単量体は、アクリル酸エステル(R
3が水素原子)について、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルであり、メタクリル酸エステル(R
3がメチル基)について、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルである。式(1)に示すN−置換マレイミド単量体との共重合反応性が高いこと、また、樹脂(D)および樹脂組成物(E)への着色の影響が少なく、樹脂組成物(E)を用いて位相差フィルムを形成したときに位相差への影響が少ないことなどの点から、単量体(M)である(メタ)アクリレート単量体は、アクリル酸メチル(MA)およびメタクリル酸ブチル(BMA)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、アクリル酸メチルのホモポリマーのTgは5℃、メタクリル酸ブチルのホモポリマーのTgは20℃である。
【0034】
単量体(M)であるカルボン酸ビニルエステル単量体(炭素数4〜12)は特に限定されず、例えば、イソブチル酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソオクタン酸ビニルおよびバーサチック酸ビニルであり、イソブチル酸ビニルおよび2−エチルヘキサン酸ビニルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
単量体(M)であるマレイン酸ジアルキルエステル単量体(アルキル基の炭素数4〜8)は特に限定されず、例えば、マレイン酸ジブチルおよびマレイン酸ジオクチルである。
【0036】
構成単位(B)は、式(1)に示すN−置換マレイミド単量体との共重合反応性の高さから、式(2)に示す(メタ)アクリレート単量体であって、ホモポリマーとしたときのTgが20℃以下である単量体に由来する構成単位であることが好ましい。
【0037】
[構成単位(C)]
構成単位(C)は、(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位である。ただし、当該単量体は、単量体(M)である(メタ)アクリレート単量体を除く。より具体的には、式(2)に示す、R
3が水素原子またはメチル基であり、R
3が水素原子のときR
4は炭素数1〜12の炭化水素基であり、R
3がメチル基のときR
4は炭素数4〜12の炭化水素基である(メタ)アクリレート単量体であって、ホモポリマーとしたときにTgが20℃以下の当該単量体を除く。上述したホモポリマーのTgの観点からは、構成単位(C)は、ホモポリマーとしたときのTgが20℃を超える、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上の(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位である。
【0038】
構成単位(C)は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルの各単量体に由来する構成単位であり、MMAに由来する構成単位(MMA単位)が好ましい。この場合、当該構成単位(C)を有する樹脂(D)、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)、および当該組成物(E)を成形して得た成形体の光学的透明性および機械的特性が高くなるとともに、他の構成単位(C)に比べて、少ない構成単位(A)の含有率で115℃以上のTgが達成できるため、上記バランスの確保がより確実となる。
【0039】
また、MMA単位は、弱いながら樹脂(D)に負の固有複屈折を与える作用を有しているため、構成単位(A)が正の固有複屈折を樹脂(D)に与える作用を有する場合に当該作用を打ち消して、光学的等方性を示す樹脂(D)および樹脂組成物(E)を実現できる。なお、樹脂に負(あるいは正)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が負(あるいは正)となる構成単位をいう。
【0040】
[熱可塑性樹脂(D)]
熱可塑性樹脂(D)は、当該樹脂を構成する構成単位として、構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)を有する。樹脂(D)は、2種以上の構成単位(A)を有していても、2種以上の構成単位(B)を有していても、2種以上の構成単位(C)を有していてもよい。樹脂(D)は、製膜性に関する上記三者のバランスをより確実に確保する観点から、1種の構成単位(C)を有することが好ましく、このとき当該構成単位(C)がMMA単位であることがより好ましい。
【0041】
樹脂(D)における構成単位(A)の含有率は、10質量%以上40質量%以下が好ましく、12質量%以上35質量%以下がより好ましく、15質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。樹脂(D)における構成単位(B)の含有率は、5質量%以上40質量%以下が好ましく、8質量%以上30質量%以下がより好ましく、8質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。樹脂(D)における構成単位(C)の含有率は、20質量%以上85質量%以下が好ましく、35質量%以上80質量%以下がより好ましく、50質量%以上77質量%以下がさらに好ましい。これらの範囲において、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保され、より製膜性に優れる樹脂組成物(E)とすることができる。
【0042】
構成単位(C)の含有率、ならびに構成単位(B)の種類および含有率によっては、樹脂(D)における(メタ)アクリレート単位の含有率が30質量%以上となる。このとき、樹脂(D)はアクリル系樹脂である。樹脂(D)がアクリル系樹脂である場合、樹脂(D)における(メタ)アクリレート単位の含有率は50質量%以上が好ましい。
【0043】
樹脂(D)について、熱分解開始温度(Td)に対するメルトフローレート(MFR)の比MFR/Td(単位:g/(10分・℃))が0.023以上であることが好ましく、0.040以上であることがより好ましく、0.050以上であることがさらに好ましい。仮に樹脂(D)のTd300℃以上を達成できた場合においても、MFRの値が相対的に低下すると、樹脂組成物(E)の製膜性が低下する。樹脂(D)について比MFR/Tdを0.023以上とすることにより、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保され、より製膜性に優れる樹脂組成物(E)とすることができる。0.023以上の比MFR/Tdが好ましいのは、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)についても同じである。
【0044】
樹脂(D)について、ガラス転移温度(Tg)に対するMFRの比MFR/Tg(単位:g/(10分・℃))が0.080以上であることが好ましく、0.100以上であることがより好ましく、0.120以上であることがさらに好ましい。TgとMFRとは単純に反比例する関係にはない。また、Tgは、必要な製膜温度に関係する樹脂(D)の熱的特性である。樹脂(D)について比MFR/Tgを0.080以上とすることにより、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保され、より製膜性に優れる樹脂組成物(E)とすることができる。0.080以上の比MFR/Tgが好ましいのは、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)についても同じである。
【0045】
樹脂(D)のTgは、115℃以上130℃未満であり、118℃以上128℃以下が好ましく、118℃以上125℃以下がより好ましい。この場合、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保される。また、Tgが115℃未満の場合、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)から構成される光学フィルムなどの成形体の耐熱性が不足する。一方、Tgが130℃以上の場合、構成単位(A)の導入により樹脂(D)および樹脂組成物(E)について後述の破壊エネルギーEが強く低下する傾向があり、例えば、樹脂組成物(E)を製膜する場合において、製膜後のライン搬送時あるいは延伸時にフィルムが破断しやすくなるなど、そのハンドリング性が低下する。これら好ましいTgの範囲は、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)についても同様である。Tgは、実施例に後述する方法により評価した値である。
【0046】
樹脂(D)のMFR(単位:g/10分)は、7.5以上50以下である。MFRが7.5未満になると、製膜時の流動性を十分に確保できない。一方、MFRが50を超えると、溶融成形時に樹脂組成物(E)の形状を保つことができず、製膜が困難となる。MFRの上限は、40以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。MRFの下限は10以上が好ましい。これら好ましいMFRの範囲は、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)についても同様である。MFRは、実施例に後述するように、JIS K7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重98N(10kgf)で評価した値である。
【0047】
樹脂(D)のTdは、300℃以上である。Tdが300℃未満の場合、製膜時に樹脂組成物(E)が熱分解し、発泡するなどの現象が生じやすく、これらの現象は、例えば、当該組成物(E)を成形して得た光学フィルムなどの成形体における外観不良につながる。Tdは、300℃以上370℃未満が好ましく、310℃以上360℃未満がより好ましく、315℃以上350℃未満がさらに好ましい。これらの場合、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保される。この好ましいTdの範囲は、樹脂(D)を含む樹脂組成物(E)についても同様である。Tdは、実施例に後述する方法により評価した値である。
【0048】
本発明によれば、樹脂(D)および樹脂組成物(E)の破壊エネルギーE(厚さ100μmの未延伸フィルムとしたときの破壊エネルギーE)を、構成単位(A)の含有率が同等であって構成単位(B)を有さない従来の熱可塑性樹脂に比べて向上できる。具体的な破壊エネルギーEの値は限定されないが、例えば4.5mJ以上であり、7.0mJ以上、8.0mJ以上、8.5mJ以上とすることもできる。破壊エネルギーEは、実施例に後述する方法により評価した値である。
【0049】
本発明によれば、樹脂(D)および樹脂組成物(E)の応力光学係数(Cr)を小さくし、延伸フィルムである光学フィルムとした場合においても、その光学的等方性を確保することができる。Cr(単位:×10
-9Pa
-1)は、例えば、−0.14以上0.14以下であり、−0.12以上0.12以下が好ましく、−0.11以上0.11以下がより好ましい。Crは、実施例に後述する方法により評価した値である。
【0050】
本発明によれば、樹脂(D)および樹脂組成物(E)の光弾性係数(Cd)を小さくし、光学フィルムとしての応力に対する複屈折の変動を小さくすることができる。Cd(単位:×10
-12Pa
-1)は、例えば、0以上4.5以下であり、0以上4.4以下が好ましく、0以上4.3以下がより好ましい。Cdは、実施例に後述する方法により評価した値である。
【0051】
本発明の効果が得られる限り、樹脂(D)は、構成単位(A),(B)および(C)以外の構成単位を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。
【0052】
樹脂(D)の重量分子量(Mw)は、好ましくは10万以上40万以下であり、より好ましくは18万以上30万以下である。この場合、TgおよびMFRを同時に好ましい範囲に調整可能となり、製膜性に関する上記三者のバランスがより確実に確保され、より製膜性に優れる樹脂組成物(E)とすることができる。また、樹脂(D)および樹脂組成物(E)の破壊エネルギーEを好ましい範囲に調整することができる。
【0053】
樹脂(D)の形成方法は特に限定されない。例えば、重合により構成単位(A)となる式(1)に示すN−置換マレイミド単量体と、重合により構成単位(B)となる単量体と、重合により構成単位(C)となる(メタ)アクリレート単量体とを含む単量体群を、溶液重合といった各種の重合方法により重合して樹脂(D)を形成することができる。重合は、公知の方法に従えばよい。
【0054】
[樹脂組成物(E)]
上述した以外の、樹脂組成物(E)の構成について説明する。
【0055】
樹脂組成物(E)は樹脂(D)を含む。樹脂組成物(E)は、2種以上の樹脂(D)を含んでいてもよい。樹脂組成物(E)における樹脂(D)の含有率は、通常70質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。樹脂組成物(E)は、樹脂として樹脂(D)のみを含んでいてもよいし、樹脂(D)からなってもよい。
【0056】
本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(E)は、樹脂(D)以外のさらなる熱可塑性樹脂を含むことができる。ただし、樹脂組成物(E)を成形して得た成形体を光学フィルムなどの光学用途に使用する場合、必要な光学特性を確保するために、樹脂(D)と上記さらなる樹脂との相溶性に留意する必要がある。
【0057】
上記さらなる樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系樹脂;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ゴム質重合体である。樹脂組成物(E)は、これらの樹脂を2種以上含んでいてもよい。樹脂組成物(E)におけるこれらの樹脂の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0058】
本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(E)は、熱可塑性樹脂以外の材料、例えば添加剤、を含むことができる。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤(UVA);酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤である。樹脂組成物(E)における添加剤(UVAを除く)の含有率は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0059】
本発明では、樹脂組成物(E)の製膜性の高さから、例えば、当該組成物(E)の製膜温度を下げることができる。このため、樹脂組成物(E)がUVAを含む場合においても、製膜時におけるUVAの飛散を抑制することができる。製膜時にUVAが飛散すると、設計通りの紫外線吸収能が得られなくなったり、UVAによる製膜装置(溶融成形装置)の汚染が発生したりする。
【0060】
UVAは、紫外線吸収能を有するとともに、樹脂(D)と相溶する物質である限り限定されない。UVAは、単量体に由来する繰り返し単位を含まない(すなわち重合体ではない)ことが好ましい。重合体である紫外線吸収剤は、樹脂(D)との相溶性を確保することが一般に難しく、また、重合体に残留する重合開始剤などの添加剤によって、樹脂組成物(E)および当該組成物(E)をさらに成形して得た成形体に着色が生じることがある。
【0061】
UVAとして、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種を使用できる。なかでも、紫外線吸収能が高いことから、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物であるUVAが好ましい。
【0062】
トリアゾール系化合物は、例えば、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖および直鎖アルキルエステル、である。紫外線吸収能が高いことから、ハロゲン原子、例えば塩素原子、を有するトリアゾール化合物が好ましい。
【0063】
トリアジン系化合物は、例えば、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有するUVA、である。なかでも、樹脂(D)との相溶性が高く、紫外線吸収性能が優れていることから、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有するUVAが好ましい。
【0064】
UVAの分子量は特に限定はされないが、600以上が好ましい。UVAの分子量の上限は、例えば、10000である。UVAの分子量が過度に大きくなると、樹脂(D)との相溶性が低下し、樹脂組成物(E)および当該組成物(E)を成形して得た成形体の光学的透明性が低下する。UVAの分子量の上限は、8000が好ましく、5000がより好ましい。
【0065】
UVAは、市販の物質であってもよく、例えば、アデカスタブ LA−31、LA−F70(以上、ADEKA製)、チヌビン1577、チヌビン460、チヌビン477(以上、BASFジャパン製)である。
【0066】
UVAの紫外線吸収能は、波長300〜380nmの範囲内にある、UVAによる吸収が最大となる波長の光に対するモル吸光係数(クロロホルム溶液)にして、10000(L・mol
-1・cm
-1)以上が好ましい。
【0067】
UVAは、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0068】
樹脂組成物(E)がUVAを含む場合、当該組成物(E)におけるUVAの含有率は、樹脂組成物(E)に含まれる、樹脂(D)をはじめとする熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0.1〜5質量部であり、0.5〜5質量部が好ましく、0.7〜3質量部、1〜3質量部、1〜2質量部になるほどより好ましい。UVAの含有率が過度に小さいと、望む紫外線吸収能が得られない。一方、UVAの含有率が過度に大きくなると、紫外線吸収能が得られるメリットよりも、樹脂組成物の成形時に発泡やブリードアウトなどが発生するデメリットの方が大きくなる。
【0069】
樹脂組成物(E)の形成方法は特に限定されない。UVAをはじめとする添加剤は、任意の時点および方法により樹脂組成物(E)に加えることができる。例えば、樹脂(D)と添加剤とを溶融混練して樹脂組成物(E)を形成すればよい。
【0070】
樹脂組成物(E)が樹脂(D)以外の材料を含まない場合、樹脂(D)は樹脂組成物(E)である。
【0071】
[成形体]
樹脂組成物(E)を成形して得た成形体、典型的には溶融成形して得た成形体(溶融成形体)の用途は限定されず、例えば、光学部材であり、より具体的な例は、偏光子保護フィルムのような光学フィルムである。
【0072】
本発明の光学フィルムは、樹脂組成物(E)を溶融成形して得たフィルムである。本発明の光学フィルムの形成方法は、樹脂組成物(E)を溶融成形する限り、特に限定されない。樹脂組成物(E)の溶融成形は、公知の方法、例えば溶融押出機とダイとを用いた溶融押出成形により実施できる。その際、ポリマーフィルタを併用してもよい。
【0073】
本発明の光学フィルムは、樹脂組成物(E)が有する高いTgに基づく耐熱性を有する。このような耐熱性を有する光学フィルムは、光源、電源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、液晶表示装置(LCD)のような画像表示装置への使用に好適である。本発明の光学フィルムのTgは、例えば、115℃以上130℃未満であり、118℃以上128℃以下が好ましく、118℃以上125℃以下がより好ましい。
【0074】
本発明の光学フィルムは、光学的等方性を示すフィルムとすることができる。本発明の光学フィルムの面内位相差Re、および厚さ方向の位相差Rthの絶対値|Rth|(それぞれ、波長590nmの光に対するフィルム厚100μmあたりの位相差)は、例えば、10nm以下であり、5nm以下、さらには3nm以下とすることができる。
【0075】
本発明の光学フィルムは、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのような延伸フィルムであってもよい。光学的等方性をより確実に確保し、また、光学フィルムの可とう性を高める観点からは、二軸延伸フィルムであることが好ましい。延伸フィルムである光学フィルムは、樹脂組成物(E)を溶融成形して得た未延伸フィルム(原フィルム)を公知の手法により延伸して形成できる。二軸延伸は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれであってもよい。
【0076】
本発明の光学フィルムの厚さは、例えば、1〜250μmであり、10〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。
【0077】
本発明の光学フィルムは、例えば、偏光子を保護する偏光子保護フィルムとして使用できる。本発明の偏光子保護フィルムは、本発明の光学フィルムを少なくとも一層備える。偏光子保護フィルムとして使用する場合、本発明の光学フィルムは二軸延伸フィルムであることが好ましく、また、光学的等方性を示すフィルムであることが好ましい。
【0078】
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明の偏光子保護フィルムとを備える。本発明の偏光板は、例えば、偏光子の片面または両面に、本発明の偏光子保護フィルムを接合させた構造を有する。
【0079】
偏光子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子などの公知の偏光子である。なかでも、ポリビニルアルコールを染色、延伸して得た偏光子が好ましい。
【0080】
本発明の偏光板の構造の典型的な一例は、ポリビニルアルコールをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して得た偏光子の片面または両面に、偏光子保護フィルムとして、本発明の光学フィルムを接合させた構造である。
【0081】
本発明の画像表示装置の構造は、本発明の光学フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の画像表示装置は、例えばLCDであり、当該LCD装置の画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライトなどの部材とともに、本発明の光学フィルムを備える。本発明の画像表示装置は、典型的には、偏光板を構成する偏光子保護フィルムとして本発明の光学フィルムを備える。LCDの画像表示モードは特に限定されず、例えば、VAモード、IPSモード、OCBモードである。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0083】
最初に、本実施例において作製した熱可塑性樹脂組成物の評価方法を示す。
【0084】
[重量平均分子量および数平均分子量]
熱可塑性樹脂組成物の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製GPCシステムHLC−8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH−RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0085】
[ガラス転移温度(Tg)]
熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0086】
[熱分解開始温度(Td)]
熱可塑性樹脂組成物の熱分解開始温度(Td)は、当該組成物に対するダイナミックTG測定から求めた。具体的には、以下のとおりである。差動型示差熱天秤装置(リガク製、Thermo Plus2 TG−8120)を用い、窒素ガス雰囲気下、10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温した。このとき、サンプルの質量減少速度が0.005質量%/秒以下の場合は昇温速度を10℃/分とし、昇温中のサンプルの質量減少速度が0.005質量%/秒を超える場合は、当該速度が0.005質量%/秒以下を保つように階段状等温制御を併用して昇温した。上記質量減少速度を保つために最初に階段状等温制御とした温度(階段状等温制御とした最も低い温度)を樹脂組成物のTdとした。
【0087】
[メルトフローレート(MFR)]
熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重98N(10kgf)で評価した。
【0088】
[応力光学係数(Cr)]
熱可塑性樹脂組成物の応力光学係数(Cr)は、以下のようにして求めた。最初に、熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)とした。次に、当該フィルムを60mm×20mmの長方形に切り出して試験片とし、フィルムに取り付けたときに当該フィルムに1N/mm
2以下の応力が加わるように重りを選択して、これを、切り出した試験片における短辺の一方に取り付けた。次に、全体を、樹脂組成物のTg+3℃に保持した定温乾燥機(アズワン製、DOV−450A)に収容し、30分間放置した。乾燥機に収容する際には、試験片における、重りを取り付けた一辺とは対向する一辺をチャックを用いて固定し、重りによって試験片に応力が加わり、試験片が鉛直方向に自由端一軸延伸されるようにした。チャックと重りを取り付けた部分との距離は40mmとした。その後、乾燥機のヒーターを切り、乾燥機内の温度が樹脂組成物のTg−40℃になるまで約1℃/分の冷却速度で冷却した後、乾燥機から試験片を取りだして、試験片の長さ、厚さおよび波長590nmの光に対する面内位相差Re、ならびに用いた重りの質量を測定した。測定は、重りの質量を変えながらさらに4点行った。
【0089】
次に、測定した結果に基づき、「透明プラスチックの最前線」(ポリマーフロンティア21シリーズ、高分子学会編、株式会社エヌ・ティー・エス、2006年10月発行)第37〜44頁に記載の測定方法に基づいて、Crを算出した。具体的には、測定した面内位相差Reを試験片の厚さdで除して当該試験片の複屈折Δn(=nx−ny、測定波長590nm)を求め、これをy軸に、また、試験片に加えた応力σ(Pa)を重りの質量から求め、これをx軸にプロットして、最小二乗法により当該プロットの直線の傾きを算出し、これを樹脂組成物のCrとした。なお、nxは、フィルムの面内における延伸方向(応力印加方法)の屈折率、nyは、フィルムの面内における延伸方向(応力印加方向)とは垂直な方向の屈折率である。
【0090】
波長590nmの光に対する面内位相差Reは、位相差フィルム・光学材料検査装置RETS−100(大塚電子製)を用いて測定した。Reは、Re=(nx−ny)×dにより定義される。
【0091】
[光弾性係数(Cd)]
熱可塑性樹脂組成物の光弾性係数(Cd)は、以下のようにして求めた。最初に、熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)とした。次に、当該フィルムを幅7mmの長方形に切り出して試験片とした。次に、引張試験機ステージを設置した位相差フィルム・光学材料検査装置RETS−100(大塚電子製)に、切り出した試験片をチャック間距離30mmで装着し、23℃で試験片に伸長応力(σR)を印加しながら(チャック移動速度5mm/分)、波長590nmの光に対するその複屈折を測定した。測定した複屈折の絶対値(|Δn|)と試験片に印加した伸張応力(σR)との関係から、最小二乗法により傾き|Δn|/σRを求め、光弾性係数(Cd)を算出した(Cd=|Δn|/σRである)。なお、Cdの算出には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの範囲のデータを用いた。|Δn|は、|Δn|=|nx−ny|である。
【0092】
[破壊エネルギーE]
熱可塑性樹脂組成物の破壊エネルギーEは、以下のようにして求めた。最初に、熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)とした。次に、当該フィルムの上に、ある高さから質量0.0054kgの球を落とす試験を15回実施し、フィルムが破壊されたときの高さ(破壊高さ)の平均値から、次式に従って破壊エネルギーEを求めた。フィルムが破壊されたか否かは、フィルムへの落球後、当該フィルムに変形が見られたか否かを目視により確認して判断した。変形が見られた場合、フィルムが破壊されたとした。
破壊エネルギーE(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/s
2)
【0093】
[フィルムの厚さ]
熱可塑性樹脂組成物を成形して得たフィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により求めた。
【0094】
[溶融押出成形]
熱可塑性樹脂組成物の溶融押出成形は、各実施例および比較例で作製した樹脂組成物のペレットをシリンダー径20mmの単軸押出機に導入し、押出機内で熱溶融状態とした樹脂組成物をTダイ(幅120mm)から温度110℃の冷却ロールに吐出することで実施した。このとき、シリンダーおよびTダイの温度(製膜温度)は280℃とし、これにより、厚さ100μmの未延伸フィルムを得た。
【0095】
(実施例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管、および滴下ロートを備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)76質量部、N−フェニルマレイミド(PMI)15質量部、アクリル酸メチル(MA)9質量部、酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.05質量部、およびトルエン80.5質量部を仕込み、これに窒素ガスを導入しつつ、内容物を105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)0.103質量部を添加するとともに、トルエン21質量部にt−アミルパーオキシイソノナノエート0.205質量部を溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら溶液重合を進行させ、滴下終了後、さらに6時間の熟成を行った。
【0096】
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度10.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤溶液を、0.03kg/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を0.01kg/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤溶液には、50質量部の酸化防止剤(住友化学製、スミライザーGS)をトルエン235質量部に溶解させた溶液を用いた。
【0097】
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂組成物を押出機の先端から排出し、ペレタイザーによってペレット化して、樹脂組成物(E−1)のペレットを得た。
【0098】
(実施例2)
反応容器に仕込むMMAの量を76質量部から71質量部に変更し、PMI15質量部の代わりにPMI8質量部とシクロヘキシルマレイミド(CMI)11質量部とを反応容器に仕込み、MA9質量部の代わりにメタクリル酸ブチル(BMA)10質量部を反応容器に仕込んだ以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物(E−2)のペレットを得た。
【0099】
(実施例3)
反応容器に仕込むMMAの量を71質量部から55質量部に、PMIの量を8質量部から13質量部に、CMIの量を11質量部から17質量部に、BMAの量を10質量部から15質量部に変更した以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物(E−3)のペレットを得た。
【0100】
(比較例1)
反応容器に仕込むMMAの量を76質量部から100質量部に変更し、PMIおよびMAを反応容器に仕込まなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物(F−1)のペレットを得た。
【0101】
(比較例2)
反応容器に仕込むMMAの量を76質量部から90質量部に、PMIの量を15質量部から10質量部に変更し、MAを反応容器に仕込まなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物(F−2)のペレットを得た。
【0102】
(比較例3)
MAを反応容器に仕込まず、代わって反応容器に仕込むMMAの量を76質量部から85質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物(F−3)のペレットを得た。
【0103】
(比較例4)
BMAを反応容器に仕込まず、代わって反応容器に仕込むMMAの量を71質量部から81質量部に変更した以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物(F−4)のペレットを得た。
【0104】
(比較例5)
BMAを反応容器に仕込まず、代わって反応容器に仕込むMMAの量を55質量部から70質量部に変更した以外は実施例3と同様にして、樹脂組成物(F−5)のペレットを得た。
【0105】
(比較例6)
反応容器に仕込むMMAの量を76質量部から86質量部に、PMIの量を15質量部から10質量部に、MAの量を9質量部から4質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物(F−6)のペレットを得た。
【0106】
実施例1〜3および比較例1〜6で作製した樹脂組成物の評価結果を以下の表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、実施例の樹脂組成物は、115℃以上の高いTg(高い耐熱性)を示しながらも、300℃以上の高いTd(高い耐熱分解特性)を示すとともに、MFRの値だけではなく、比MFR/Tdの値および比MFR/Tgの値が高く、製膜性に優れる樹脂組成物であった。一方、MMAのみを重合に用いた比較例1を除く、比較例2以降の各比較例の樹脂組成物は、実施例と同じく115℃以上の高いTgを有しているものの、MFRの値、ひいては比MFR/Tdの値および比MFR/Tgの値が低く、製膜性に劣っていた。比較例によっては、さらにTdが300℃未満という、高いTgを有する樹脂組成物の製膜には不十分な熱分解特性を示した。
【0109】
これに加えて、N−置換マレイミド単位の含有率が同じサンプル間で比較すると、比較例に比べて実施例の樹脂組成物では破壊エネルギーEの値が大きく向上した。すなわち、実施例の樹脂組成物は、製膜時のフィルムのハンドリング性、可とう性といった機械的特性に優れていた。さらに、CrおよびCdの値も小さく、光学的等方性に優れるフィルム(延伸フィルムを含む)が実現する樹脂組成物であった。