特許第6220394号(P6220394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6220394電鋳により得られる銀又は銀合金製内面を有する調理器具物品を製造する製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6220394
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】電鋳により得られる銀又は銀合金製内面を有する調理器具物品を製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20171016BHJP
   A47J 36/02 20060101ALI20171016BHJP
【FI】
   A47J27/00 107
   A47J36/02 A
   A47J36/02 B
【請求項の数】15
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-525830(P2015-525830)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公表番号】特表2015-524325(P2015-524325A)
(43)【公表日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】EP2013066159
(87)【国際公開番号】WO2014023638
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】MI2012A001412
(32)【優先日】2012年8月8日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515032374
【氏名又は名称】サン ロレンツォ エッセ.エルレ.エルレ.
【氏名又は名称原語表記】SAN LORENZO S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】カヴァロッティ、ピエトロ ルイジ
(72)【発明者】
【氏名】カッキオネ、チロ
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−276130(JP,A)
【文献】 特開2008−154649(JP,A)
【文献】 特開2004−298432(JP,A)
【文献】 実開昭61−064833(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
A47J 36/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形工程、表面硬化工程及び酸化工程を含む調理器具物品を製造する製造方法において、銀又は銀合金を電鋳して前記物品の内側部分を被覆することをさらに含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記電鋳を前記表面硬化工程及び酸化工程の後に行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記電鋳を前記表面硬化工程及び酸化工程の前に行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
仕上げ研磨を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記銀の電鋳を含み、該銀の電鋳の後に又は代替として、銀‐スズ、銀‐ゲルマニウム、銀‐アンチモン、又は銀‐ビスマスの合金を堆積させることを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記物品の材料が鉄系材料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記表面硬化工程が窒化処理からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記表面硬化工程が軟窒化処理からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記表面硬化工程が浸炭処理からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記表面硬化処理の前に仕上げ処理を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記窒化処理を、炉中において、500℃〜600℃、好ましくは550℃の温度で、1〜5時間、好ましくは4時間、窒化ポテンシャルPNが0.80〜1.6の分解アンモニアNH3 /H2 雰囲気において行うことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
分解アンモニア雰囲気NH3 /H2 の炉中において、高窒化力、好ましくはPN=1.6の条件で520℃で1.5時間行われる第1の窒化処理と、分解アンモニア雰囲気NH3 /H2 の炉中において、より低い窒化ポテンシャル、好ましくはPN=0.80の条件で600℃で3時間行われる第2の窒化処理とを含むことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
前記酸化工程を400℃〜600℃、好ましくは450℃又は520℃の温度で、水蒸気を炉に注入することにより1〜4時間行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸化工程を450℃〜550℃、好ましくは490℃又は520℃の温度で、炉中において、2%〜12%の亜酸化窒素を注入することにより0.5時間〜4時間、好ましくは3時間行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
電鋳の結果として得られる内側被膜が0.1〜0.2mmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳により得られる銀又は銀合金製内面を有する調理器具物品を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性の高い金属層がステンレス鋼層と交互に設けられた金属複合体多層平鍋が従来技術において知られている。
【0003】
特許文献1によれば、金属複合体は、ステンレス鋼層と、少なくとも片面にあるニッケルストライクと、スズ、カドミウム又は銀のめっきとを備える。ダイカストアルミニウム製の外層が、調理器具物品の調理面として用いられるステンレス鋼層へ熱を伝える手段として用いられている。特許文献1はまた、所望の形状の金属部材とニッケルストライクとを備え、その上にアルミニウムが鋳造により形成されたスズ、カドミウム又は銀タイプの金属めっきが設けられた積層器具を作製する方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、銅被覆調理器具を作製するための、異なる金属材料の各種多層複合体の組み合わせを開示している。様々な実施形態において、熱伝導性をさらに向上させるために、銀の層を使用して内部の隣接するアルミニウム層同士を接続している。この銀の層は、厚さ約0.003〜0.005インチ(約0.0762〜0.127ミリメートル)の薄い箔であり、めっき又は他の公知手段により設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第920943号明細書
【特許文献2】米国特許第7960034号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に鑑み、本発明は、公知のものとは異なり且つ食品調理性を向上する銀又は銀合金層で内側が被覆された金属容器により形成される調理器具物品を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上述の目的は、成形工程、表面硬化工程及び酸化工程を含む調理器具物品を製造するプロセスにおいて、銀又は銀合金を電鋳し、容器の内側部分を被覆することをさらに含むことを特徴とする製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0008】
調理器具物品の内側表面は、良好な抗菌抗ウイルス性を有し、調理されている物質に存在するか又はそれに加えられた油脂を変質させることがなく、調理工程中に固着を阻止し、調理器具の底から食品を剥がし易くすることのできる材料の層を備えており好都合である。
【0009】
本発明の特徴は、限定を意図しない例により図面に示されたいくつかの実施形態に関する以下の記述により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、熱化学処理を行った鉄系材料の容器の一部分の断面図である。
図2図2は、図1に示す部分の断面図であり、研摩工程後に金属層を設けている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
調理器具物品1は、鉄系材料の容器10から形成され、その内側には金属層20が設けられている。
【0012】
この鉄系材料の容器10は、従来技術に従って成形され形を整えられており、先ず表面硬化工程を受け、腐食を防止するための酸化工程及び仕上げ処理がそれに続く。
【0013】
表面硬化工程としては窒化が挙げられ、窒化では、この鉄系材料の容器は、ガス環境又はプラズマを伴うガス環境(イオン窒化)に置かれる。また、電解塩浴窒化を用いても良い。
【0014】
この窒化工程の変形例としては、軟窒化やガス又は塩浴浸炭が挙げられる。
【0015】
ガス窒化は、触媒作用を持つ鉄系表面上でのアンモニアの熱解離により行われ、こうして生成する窒素原子は容器10を形成する鉄基板中に拡散する。窒化はまた、50ミクロンオーダー程度の厚みを浸透している容器10の鉄への窒素の拡散層12に加え、窒化鉄11の表面層が形成されることを意味する。窒素拡散層12のハーネスと深さは窒化力(PN)に依存し、その窒化力(PN)はアンモニアの解離度合いに依存する。
【0016】
表面硬化工程後、容器10は、水又は亜酸化窒素を用いたガス酸化工程又は、イオン性液体を用いた水性化学酸化工程を受ける。この酸化工程は、前述の表面硬化工程に用いられたものと同一の炉中で行われ、1ミクロンよりも薄いマグネタイト酸化鉄13の薄層と、層13の下のニトロキシド14の層とを形成させる。
【0017】
そして、容器10の内側を布で鏡面研磨し、酸化層14及び窒化層12の一部が除去される。
【0018】
調理器具物品1を製造する製造方法の第2工程においては、電鋳によりえられる銀又は銀合金の層20により容器10の内側を被覆する。
【0019】
銀又は銀合金の電鋳の本質は、冶金銀よりも高い硬度を有し、数十ミクロンの厚み、更には100ミクロンの厚みを有していてもよい銀又は銀合金層21により鉄基板10を被覆することにある。
【0020】
純銀を電鋳する替わりに、銀‐スズ、ゲルマニウム‐銀、アンチモン‐銀、又はビスマス‐銀合金の層22を用いても良い。この層22は、電鋳により得られる銀の層21と置き換えられるか、又はこの層21の硬化に貢献する。これにより層21を硫化されにくくし、調理中ある種の食品により引き起こされることがある黒化を制限する。
【0021】
本製造方法の変形例においては、表面硬化工程及び酸化工程の前に銀層を電鋳する必要がある。
【0022】
容器10は、アームコ鉄、窒化鋼、又は浸炭焼入れ鋼からなっていても良く、更には鋳鉄からなっていても良い。ニッケル非含有マルテンサイトステンレス鋼を本物品の熱強度を向上させるために用いても良い。
【0023】
アームコ鉄は、非常に高い透磁性と無視できるほどの保磁力を有しており、そして、強くない磁性材料であるため、磁気誘導レンジでの調理に用いる調理器具物品を作製するのに特に適している。窒化アームコ鉄を酸化することにより、耐腐食性が極めて向上する。不動態化マグネタイトからなるためである。
【実施例】
【0024】
以下に本発明に係る調理器具の製造の実施例をいくつか示す。
【0025】
実施例1
アームコ鉄鍋を研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。その後、鍋を炉内で、窒化力PN=0.95の解離アンモニア雰囲気NH3/H2において550℃で4時間窒化する。窒素中で洗浄後、同一の炉内で490℃又は520℃の温度で水蒸気に浸すことで鍋を2時間酸化する。鍋の内側を布で鏡面研磨して、酸化層及び窒化層の一部を取り除く。最後に、鍋を中心銀陽極を用いた市販のアルカリ性シアン化物銀めっき溶液へと導入し、再循環ポンプによりその溶液を連続供給することで内面を銀めっきする。この銀の電鋳は、厚さが0.1mmに達するまで続ける。この銀めっきでは、初期の光沢が保たれており、さらに研磨する必要はない。
【0026】
実施例2
アームコ鉄平鍋を研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。その後、平鍋を炉内で、窒化力PN=0.90の解離アンモニアNH3/H2雰囲気、において500℃で2時間窒化する。窒素中で洗浄後、同一の炉内で470℃又は500℃の温度で水蒸気に浸すことで平鍋を1時間酸化する。
【0027】
平鍋の内側を布で鏡面研磨して、酸化層及び窒化層の一部を取り除く。
【0028】
最後に、平鍋を特定の枠に設置し、適切に保護し、その枠を、市販のシアン化物アルカリ性銀めっき溶液を含む槽に導入し、銀陽極を鍋に対し釣り合わせ、再循環ポンプを用いて槽に溶液を連続供給することで平鍋の内側部分を銀めっきする。この銀の電鋳は厚みが0.2mmに達するまで続ける。
【0029】
この銀めっきでは、初期の光沢が保たれており、さらに研磨する必要はない。
【0030】
実施例3
アームコ鉄コーヒーポットを研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。コーヒーポットを炉内で高い窒化力PN=1.6の解離アンモニア雰囲気NH3/H2において、520℃で1.5時間予備窒化する。その後、PN=0.80よりも低い窒化力で、600℃で3時間窒化する。この製造方法では、引き続き実施例1と同様の酸化、布を用いた研摩、及び銀の電気めっきを行う。
【0031】
実施例4
アームコ鉄ティーポットを研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。その後、ティーポットをアンモニアと二酸化炭素を供給した炉内で、アンモニア、(反応)水素、及び炭素酸化物を含む雰囲気において530℃で5時間軟窒化する。この製造方法では、引き続き実施例1と同様の酸化、布を用いた研摩、及び銀の電気めっきを行う。
【0032】
実施例5
アームコ鉄鍋を研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。その後、鍋を炉内で、窒化力PN=0.95の解離アンモニアNH3/H2雰囲気において550℃で4時間窒化する。窒素で洗浄後、450℃〜550℃の温度で同一の炉内で4%〜12%の亜酸化窒素に浸すことにより3時間酸化する。この製造方法では、引き続き、実施例1と同様の布を用いた研摩及び銀の電気めっきを行う。
【0033】
実施例6
アームコ鉄鍋を研磨し、製造により発生した物理的な凹凸を除く。適切な酸洗浄後、中心銀陽極を用いた市販のシアン化物アルカリ性銀めっき溶液に鍋を導入し、再循環ポンプを用いその溶液を連続供給することにより、アームコ鉄鍋の内側部分を銀で被覆する。この銀の電鋳は、厚さが0.1mmに達するまで続ける。その後、鍋を炉内で、窒化力PN=0.95の解離アンモニアNH3/H2雰囲気において550℃で4時間窒化する。窒素中で洗浄後、同一の炉内で490℃〜520℃の温度で鍋を水蒸気に浸すことにより2時間酸化する。その後、鍋の内側を布で研磨する。
【0034】
熱化学処理された金属容器10と、電鋳により堆積した銀の層を備える内層20とにより形成される調理器具物品1は、均一な熱分布を容易にすることにより食品の調理性を向上するという目的を達成する。調理器具物品1は、抗菌抗ウイルス性を有すると共に、調理器具物品の内側表面から調理済みの食品を容易に剥がせる。
【0035】
この熱化学処理によって、対象に黒い窒化、軟窒化又はカルボキシル化仕上げと銀の反射する白との対比による快い外観を与える。
【0036】
窒化、軟窒化又はカルボキシル化処理により、鉄表面を固くし耐腐食性とする。その挙動は、より高い焼戻し安定性、従って高温硬さ、疲労耐性及び切欠き耐性、及び寸法安定性を有することに加えて、とりわけ点食耐性の点でオーステナイト系ステンレス鋼をも凌ぐ。
【0037】
電鋳により得られる銀及び銀合金は、銀板より硬く強いため、かき傷や擦り傷が発生しにくい。
【0038】
銀系被膜を台所道具に用いることは、銀が抗菌抗ウイルス性を有し、高い熱伝導性を有することで調理されている物質に存在するか又はそれに加えられた油脂のクラッキング閾値を越えることのない調理を可能とし、また調理工程中の食品の固着を阻止しそれにより調理器具物品の底から食品を剥がすことを容易とすることが出来る能力を有するために有利である。
【0039】
適切な表面仕上げ処理の後に電鋳で得られる銀又は銀合金により鋳鉄及びアルミニウムの内側を被覆しても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 調理器具物品
10 容器(鉄基板)
11 窒化鉄
12 拡散層(窒化層)
13 マグネタイト酸化鉄層
14 酸化層
20 金属層(銀又は銀合金の層、内層)
21 銀又は銀合金層
22 合金層
図1
図2