(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6220462
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】化学流動電池の運転方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20171016BHJP
H01M 8/04186 20160101ALI20171016BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 L
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-552383(P2016-552383)
(86)(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公表番号】特表2016-536775(P2016-536775A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】KR2014010194
(87)【国際公開番号】WO2015068979
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2016年5月2日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0133722
(32)【優先日】2013年11月5日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511123485
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウン−ミ
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ−シク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミ−ギョン
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−188729(JP,A)
【文献】
特開2003−257467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/04186
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電解質と負極電解質との体積の差が、正極電解質および負極電解質の全体積の10〜20%である時点で、開路電圧を1.3volt/cell未満にして化学流動電池を放電させる段階;および
前記放電された化学流動電池における正極電解質と負極電解質との間の体積の差が2%以下になるように電解質を移動させる段階;を含む、
化学流動電池の運転方法。
【請求項2】
前記電解質を移動させる段階以後に、前記化学流動電池を充電させる段階をさらに含む、請求項1に記載の化学流動電池の運転方法。
【請求項3】
前記化学流動電池の放電は、定電流または定電圧の条件で過放電する段階を含む、請求項1に記載の化学流動電池の運転方法。
【請求項4】
前記化学流動電池を放電させる段階は、前記開路電圧が0.6volt/cell乃至0.8volt/cellになるまで放電する段階を含む、請求項1に記載の化学流動電池の運転方法。
【請求項5】
前記放電された化学流動電池における正極電解質と負極電解質との間の体積の差が2%以下になるように電解質を移動させる段階は、
前記開路電圧が0.6volt/cell乃至0.8volt/cellになるまで放電する段階の完了以後に遂行される、請求項4に記載の化学流動電池の運転方法。
【請求項6】
前記化学流動電池は、バナジウムレドックス電池、ポリスルフィドブロマイドレドックス電池または亜鉛臭素レドックス電池である、請求項1に記載の化学流動電池の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学流動電池の運転方法に関するものであって、より詳しくは、電解質および水分子のクロスオーバー、自己放電、その他の副反応などの理由で化学流動電池の効率または容量が低下した場合、化学流動電池の性能を効率的且つ迅速に回復させることができる化学流動電池の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料を用いて大量の温室ガスおよび環境汚染問題を引き起こす火力発電や、施設自体の安定性や廃棄物処理の問題点を有する原子力発電などの既存発電システムが多様な限界点を現すに連れて、より環境にやさしく高い効率を有するエネルギーの開発とこれを用いた電力供給システムの開発に関する研究が大きく増加している。
【0003】
特に、電力貯蔵技術は外部条件に大きな影響を受ける再生エネルギーをより多様で広く用いることができるようにし、電力使用の効率をより高めることができるため、このような技術分野に関する開発が集中されており、これらのうちの2次電池に対する関心および研究開発が大きく増加しているのが実情である。
【0004】
化学流動電池は、活性物質の化学的エネルギーを直接電気エネルギーに転換することができる酸化/還元電池を意味し、太陽光、風力など外部環境によって出力変動性が激しい新再生エネルギーを貯蔵して高品質電力に変換することができるエネルギー貯蔵システムである。具体的に、化学流動電池においては、酸化/還元反応を起こす活物質を含む電解液が、反対電極と貯蔵タンクの間を循環することで、充放電が行われる。
【0005】
このような化学流動電池は、基本的に、酸化状態がそれぞれ異なる活物質が貯蔵されたタンクと、充/放電時に活物質を循環させるポンプと、分離膜で分画される単位セルとを含み、前記単位セルは電極、電解質、集電体および分離膜を含む。
【0006】
前記電解質は、活物質を含んでいて活物質が酸化−還元され充放電ができるようにするのであり、電池の容量を決定する重要な要素である。例えば、バナジウム流動電池の電解液は、酸価が異なる4種のイオンから構成されている。充放電が行われる間、水素イオンが、水を伴うかまたはバナジウムイオンと共に分離膜を透過する現象、すなわち、イオンクロスオーバーが起こり、自己放電が発生することがある。このような現象が発生すると、イオン別の移動速度が異なるために、両側極の濃度差および体積差が発生することがある。両側電解液の均衡が崩れれば、レドックス対の絶対量が減少し、電池の性能の減少および電荷量保存率の減少が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電解質および水分子のクロスオーバー、自己放電、その他の副反応などの理由で化学流動電池の効率または容量が低下した場合、化学流動電池の性能を効率的且つ迅速に回復させることができる化学流動電池の運転方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の一実施形態で、正極電解質と負極電解質の体積の差が、正極電解質および負極電解質の全体積の20%以内である時点で、開路電圧を1.3vlot/cell未満にして化学流動電池を放電させる段階;および、前記放電された化学流動電池の正極電解質および負極電解質間の体積の差が2%以下になるように電解質を移動させる段階;を含む化学流動電池の運転方法が提供される。
【0009】
以下、発明の具体的な実施形態による化学流動電池の運転方法について、より詳細に説明する。
【0010】
電解質に含まれるイオンおよび水分子のクロスオーバーによって両側の電解液容器にて水位差が発生する場合、両電解液の体積および濃度のバランスが崩れ、電池の性能が低下する。具体的に、前記化学流動電池を運転する過程では、電解質および水分子のクロスオーバー、自己放電、その他の副反応などの理由で、正極電解質と負極電解質の体積の差が次第に大きくなることがあり、これにより両側の電解液の体積および濃度バランスが崩れ電池の性能が減少するようになる。
【0011】
このような問題点を解決するために、本発明者は化学流動電池の運転方法または化学流動電池の性能回復方法について研究を行い、前記クロスオーバーされた電解質の量が正極電解質および負極電解質の全体積の20%以内である時点で、開路電圧を1.3volt/cell未満にして化学流動電池を放電させ、前記クロスオーバーされた電解質の量だけ反対側の電解液容器に移動させて両電解液の水位が同じになるように合わせれば、化学流動電池の性能を効率的且つ迅速に回復させることができるという点を、実験を通じて確認して発明を完成した。
【0012】
前記化学流動電池を放電させる時点は、正極電解質と負極電解質の体積の差が正極電解質および負極電解質の全体積の20%以内である時点、または正極電解質と負極電解質の体積の差が正極電解質および負極電解質の全体積の10%乃至20%である時点であり得る。
【0013】
正極電解質と負極電解質の体積の差が、正極電解質および負極電解質の全体積の20%を超過すれば、電解液移動量による充電容量が上昇し、電池の性能を回復することに多くの時間が必要であり、電解液移動によって発熱反応が起こるため、電池の駆動温度範囲から外れ出ることがある。
【0014】
前記化学流動電池を放電させる段階は、定電流または定電圧の条件で過放電する段階を含むことができる。
【0015】
具体的に、前記化学流動電池は、充放電条件より低い、定電圧または定電流の条件で過放電を実施し、過放電後の開路電圧が1.2volt/cell未満に落ちると過放電を完了する。好ましくは、過放電は開路電圧が0.6volt/cell乃至0.8volt/cell程度になるまで行われ得る。
【0016】
これにより、前記放電された化学流動電池の正極電解質と負極電解質との間の体積の差が2%以下になるように電解質を移動させる段階は、前記開路電圧が0.6volt/cell乃至0.8volt/cellになるまで放電する段階の完了以後に遂行できる。
【0017】
前記電解質を移動させる段階は、放電が完了した後に遂行できる。マイクロピペットといった器具を用いて電解質を移動させるか、または、正極電解質及び負極電解質のタンクがバルブで連結された装置を使用する。
【0018】
前記化学流動電池を放電させる段階以後には、正極電解質および負極電解質のうちの、より体積が大きい側から小さい側へと電解質を移動させて、両側の電解質の体積が同等水準になるように、例えば正極電解質と負極電解質との間の体積の差が2%以下になるようにすることができる。
【0019】
前記化学流動電池は、バナジウムレドックス電池、ポリスルフィドブロマイドレドックス電池または亜鉛臭素レドックス電池であり得る。
【0020】
前記化学流動電池は、レドックス対(Redox−Couple)として全バナジウム(All vanadium)(V/V)、V,Br、Zn/Br、Zn/Ceなどを使用することができる。
【0021】
前記電解質を移動させる段階以後に、前記化学流動電池を充電させる段階をさらに含むことができる。即ち、前記化学流動電池の運転方法においては、正極電解質と負極電解質の体積の差が、正極電解質および負極電解質の全体積の20%以内である時点で開路電圧を特定して放電を行った以後に、電解質を移動させ再び化学流動電池を充電させるようにして、反復的なサイクルまたは運転を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電解質および水分子のクロスオーバー、自己放電、その他の副反応などの理由で化学流動電池の効率または容量が低下した場合、化学流動電池の性能を効率的且つ迅速に回復させることができる化学流動電池の運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】比較例1の化学流動電池における充電および放電のサイクルと電荷量保存率との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例2および比較例1の化学流動電池を、充電および放電のサイクルで運転した際にそれぞれ得られた電荷量保存率を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【実施例】
【0025】
[実施例および比較例:化学流動電池の運転]
下記の実施例および比較例において、分離膜を中心に左右に負極と正極が位置し、上下端に集電体および電解液流出入口が備えられるように製作された化学流動電池を使用し、運転方法による性能を比較した。
【0026】
前記化学流動電池で、バナジウム電解液としては硫酸水溶液に溶解された2Mバナジウム溶液を使用した。また、充電完了電圧は1.60V/cell、放電完了電圧は1.0V/cellとして行った。また、電荷量保存率は、各サイクルにて初期サイクルに対する放電容量保存率として測定した。
【0027】
下記表1は、製造された化学流動電池(レドックス流動電池)の各構成部に関する内容である。
【0028】
【表1】
【0029】
<実施例1>
電解液移動量が全電解液体積の10%以下であるとともに、放電後の開路電圧が1.3V/cell未満である場合、実験結果は表2の通りである。A,Bと、C,Dは、それぞれ電解液移動の直前および直後の二つのサイクルデータであり、Cはクロスオーバーによる体積差だけの電解液の移動時点であった。
【0030】
【表2】
【0031】
<実施例2>
電解液移動量が全電解液体積の10%超15%以下であり、放電後の開路電圧が1.3V/cell未満である場合、実験結果は表3の通りである。
【0032】
【表3】
【0033】
放電後の開路電圧が1.3V/cell未満であり、電解液移動量が全体電解液量の10%以下であるか、10%超過15%以下である場合、効率は維持され、電荷量保存率は上昇する効果を示した。
【0034】
<実施例3>
電解液移動量が全電解液体積の15%超20%以下であり、放電後の開路電圧が1.3V/cell未満である場合、実験結果は表4の通りである。
【0035】
【表4】
【0036】
<比較例1>
電解液の移動なく充放電サイクルを進行した点を除いて実施例1と同様の方法で化学流動電池を運転した。比較例1の化学流動電池を充電および放電サイクルによる電荷量保存率の関係は
図1に示した通りである。
【0037】
<比較例2>
電解液移動量が全電解液体積の10%以下である。、放電後の開路電圧が1.3V/cell以上である点を除いて、実施例1と同様の方法で化学流動電池を運転した。その結果は表5に示された通りである。
【0038】
【表5】
【0039】
<比較例3>
電解液移動量が全電解液体積の10%超15%以下であり放電後の開路電圧が1.3V/cell以上であるという点を除いて、実施例1と同様の方法で化学流動電池を運転した。その結果は表6に示された通りである。
【0040】
【表6】
【0041】
<比較例4>
電解液移動量が全電解液体積の15%超20%以下であり放電後の開路電圧が1.3V/cell以上であるという点を除いて、実施例1と同様の方法で化学流動電池を運転した。その結果は表7に示された通りである。
【0042】
【表7】
【0043】
電解液移動量が全電解液量の体積に占める割合に関係なく放電後の開路電圧が1.3V/cell以上である場合、電解液の移動による充電容量上昇の効果は示されず、効率は一時的に上昇したが、電荷量保存率は減少し、放電後の開路電圧が上昇する結果を示した。
【0044】
<試験例1>
前記実施例2で得られた条件を用いて長期電池テストを行った。得られた結果は
図2の通りである。
【0045】
図2に示されたように、実施例2の化学流動電池であると、長期間テストを行っても電荷量保存率は初期値に対して80%以上を維持し、電池の性能が低下するのを防止することができるという点が確認された。