(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)に代表されるIII−V族化合物半導体である窒化物半導体は、近年、パワーデバイス等に適用されるスイッチング素子への応用が期待されている。これは、窒化物半導体が、従来のSi(シリコン)を用いた半導体に比べ、バンドギャップが3.4eV程度と大きく、絶縁破壊電界が約10倍と高く、電子飽和速度が約2.5倍大きい等、パワーデバイスに好適な特性を有しているためである。例えば、SiC(炭化珪素)、Al
2O
3(サファイア)、Siなどの基板上に、GaN/AlGaNのヘテロ構造を設けたスイッチング素子が提案されている(例えば米国特許第6,849,882号明細書(特許文献1)参照)。なお、AlGaNは、GaNとAlN(窒化アルミニウム)の混合物である。
【0003】
上記スイッチング素子では、GaNの結晶構造であるウルツ鉱型のC軸方向における非対称性構造に起因する自発分極に加え、AlGaNおよびGaNの格子不整合に起因するピエゾ効果による分極により、1×10
12cm
−2から1×10
13cm
−2程度の高い電子密度の二次元電子ガスが生じる。このスイッチング素子は、上記二次元電子ガスの電子密度を制御することによって、所定の電極間が電気的に接続される状態(オン状態)と、所定の電極間が電気的に接続されない状態(オフ状態)とを切り替える。
【0004】
以下、上述したようなスイッチング素子の典型的な構成の一例について、
図7,
図8を参照して説明する。
図7,
図8は、従来のスイッチング素子1000の典型的な構成を示すための模式的な断面図である。なお、
図7は、オン状態のスイッチング素子1000を示すものである。一方、
図8は、オフ状態のスイッチング素子1000を示すものである。
【0005】
図7および
図8に示すように、スイッチング素子1000は、基板1001と、この基板1001の上面に形成されるバッファ層1002と、このバッファ層1002の上面に形成されてアンドープのGaNから成る電子走行層1003と、この電子走行層1003の上面に形成されてAlGaNから成る電子供給層1004と、ソース電極1005と、ドレイン電極1006と、ゲート電極1007とを備える。このソース電極1005、ドレイン電極1006およびゲート電極1007は、電子供給層1004の上面に形成される。また、ゲート電極1007はソース電極1005とドレイン電極1006の間に位置する。
【0006】
このスイッチング素子1000はノーマリーオン型である。このため、
図7に示すように、ゲート電極1007の電位がソース電極1005と同じ電位になっていても、ゲート電極1007がオープンになっていても、電子走行層1003および電子供給層1004が接合する界面近傍に二次元電子ガス層1008が生じて、スイッチング素子1000はオン状態になる。オン状態のスイッチング素子1000において、ソース電極1005の電位よりもドレイン電極1006の電位が高ければ、ソース電極1005とドレイン電極1006の間に電流が流れる。
【0007】
一方、
図8に示すように、ゲート電極1007の電位が、ソース電極1005の電位を基準として閾値電圧よりも低いと、ゲート電極1007の下方において、電子走行層1003および電子供給層1004が接合する界面近傍に二次元電子ガス層1008が生じなくなる。すなわち、ゲート電極1007の下方に位置する空乏領域1009が形成される。これにより、スイッチング素子1000はオフ状態になり、ソース電極1005とドレイン電極1006の間に電流が流れない。
【0008】
上記二次元電子ガス層1008における電子密度および移動度を大きくすることで、オン抵抗の低減を図る方法としては、AlGaNからなる電子供給層1004の換わりに、AlGaNおよびAlNからなる電子供給層を用いる方法が考えられる。
【0009】
以下、AlGaNおよびAlNからなる電子供給層を備えるスイッチング素子の一例について、
図9を参照して説明する。
図9は、AlGaNおよびAlNからなる電子供給層2004を備えるスイッチング素子2000を説明するための模式的な断面図である。なお、
図9に示すスイッチング素子2000について、
図7および
図8で示したスイッチング素子1000と同様である部分については、同じ符号を付するとともに重複する説明については省略する。
【0010】
図9に示すように、スイッチング素子2000は、基板1001と、バッファ層1002と、電子走行層1003と、電子供給層2004と、ソース電極1005と、ドレイン電極1006と、ゲート電極1007とを備える。この電子供給層2004は、AlNから成るスペーサ層2004Aと、AlGaNから成る障壁層2004Bとで構成されている。
【0011】
上記スペーサ層2004Aのバンドギャップと電子走行層1003のバンドギャップとの差は、スペーサ層2004Aのバンドギャップと障壁層2004Bのバンドギャップとの差よりも大きい。また、スペーサ層2004Aと電子走行層1003の格子不整合がスペーサ層2004Aと障壁層2004Bの格子不整合よりも大きい。その結果、二次元電子ガス層1008における電子密度および移動度が増大して、オン抵抗が低減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記スイッチング素子2000では、スペーサ層2004Aを形成する際に、下地の電子走行層1003が分解され、電子走行層1003の上面(電子走行層1003とスペーサ層2004Aの界面)に凹凸が生じてしまう。さらに、電子走行層1003の上面に形成されるスペーサ層2004Aは5nm以下と極めて薄いため、電子走行層1003の上面における凹凸の影響を受けて、厚さが不均一となってしまう。そして、このように電子走行層1003およびスペーサ層2004Aの面内方向の状態が不均一になると、電子の移動度が低下するなど、スイッチング素子2000の特性劣化が生じてしまう。
【0014】
このように、上記電子走行層1003の上面の凹凸は、スイッチング素子2000の特性劣化を引き起こすので、問題である。
【0015】
ここで、上記電子走行層1003の上面に凹凸が生じる現象について、
図10を参照して説明する。
図10は、スイッチング素子2000における電子走行層1003の上面に凹凸が生じる現象を説明するための模式的な断面図である。なお、
図10は、AlNから成るスペーサ層2004Aの形成方法が、半導体素子の量産手法として最も広く用いられているMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法である場合について示したものである。さらに、
図10は、液体である有機金属材料を反応炉まで搬送するためのキャリアガスが、原料および生成物の酸化を防止する観点から最も広く用いられているH
2(水素)である場合について示したものである。
【0016】
図10に示すように、AlNから成るスペーサ層2004Aを、GaNから成る電子走行層1003の上面に形成しようとすると、電子走行層1003を構成するGaNがGa(ガリウム)とN(窒素)に分解される。これは、スペーサ層2004Aを構成するAlNを成長させるために必要な基板温度(900℃以上)が、電子走行層1003を構成するGaNが熱分解を生じる基板温度(800℃以上)よりも高いためである。そして、GaNの熱分解によって生じたNが、気体のN
2(窒素)となって離脱したり、周囲のH
2と反応してNH
3(アンモニア)となって離脱したりする。
【0017】
このように、上記Nが電子走行層1003から離脱するとき、キャリアガスであるH
2がGaNの周囲に豊富に存在すると、H(水素)と熱分解によって生じたNとが結合し易くなるため、Nの消費が促進され、熱分解が促進されてしまう。
【0018】
また、上記AlNは、気相中での原料の反応を抑制して基板1001上での原料の反応を促進する観点から、反応炉内を低圧(例えば0.1気圧以下)にして成長させると好ましいが、反応炉内を低圧にするとN
2やNH
3の離脱が促進されるため、熱分解が促進されてしまう。
【0019】
このような熱分解が促進されることによって、電子走行層1003の上面に凹凸が生じてしまう。
【0020】
そこで、この発明の課題は、特定の窒化物半導体層の上面に凹凸が生じることを抑制できる窒化物半導体積層体の製造方
法を提供することにある。
【0021】
なお、上記窒化物半導体積層体の一例としては、基板と、この基板上に積層された複数の窒化物半導体層とを備える窒化物半導体積層基板がある。
【0022】
また、上記窒化物半導体積層体の他の一例としては、上記窒化物半導体積層基板を用いて形成される窒化物半導体積層デバイス(例えばスイッチング素子)がある。
【0023】
また、
図9のスイッチング素子2000は、この発明の課題を明確にするために便宜上提示するもので、公知技術ではない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、この発明の窒化物半導体積層体の製造方法は、
反応炉内で基板の上方に第1窒化物半導体層を形成する第1窒化物半導体層形成工程と、
上記第1窒化物半導体層の上方に第2窒化物半導体層を形成する第2窒化物半導体層形成工程と、
上記第2窒化物半導体層の上面に、上記第2窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第3窒化物半導体層を形成する第3窒化物半導体層形成工程と
を備え、
上記第2窒化物半導体層形成工程と上記第3窒化物半導体層形成工程との間は中断されず、上記第3窒化物半導体層形成工程は上記第2窒化物半導体層形成工程に連続して実施され、
上記第2窒化物半導体層形成工程は、
第4窒化物半導体層を形成する第4窒化物半導体層形成工程と、
上記第4窒化物半導体層の上方に第5窒化物半導体層を形成する第5窒化物半導体層形成工程と
を有し、
上記第4窒化物半導体層形成工程の基板温度よりも、上記第5窒化物半導体層形成工程の基板温度の方が高温であり、
上記第4窒化物半導体層形成工程の炉内圧力よりも、上記第5窒化物半導体層形成工程の炉内圧力の方が低圧であることを特徴としている。
【0025】
【0026】
一実施形態の窒化物半導体積層体の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層形成工程は、上記第4窒化物半導体層と上記第5窒化物半導体層との間に第6窒化物半導体層を形成する第6窒化物半導体層形成工程を有し、
上記第6窒化物半導体層形成工程の基板温度は、上記第4窒化物半導体層形成工程の基板温度と同じ温度から、上記第5窒化物半導体層形成工程の基板温度と同じ温度まで徐々に変化し、
上記第6窒化物半導体層形成工程の炉内圧力は、上記第4窒化物半導体層形成工程の炉内圧力と同じ圧力から、上記第5窒化物半導体層形成工程の炉内圧力と同じ圧力まで徐々に変化する。
【0027】
一実施形態の窒化物半導体積層体の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層はGaNからなり、
上記第3窒化物半導体層はAl
xGa
1−xN(0<x<1)からなる。
【0028】
【0029】
一実施形態の窒化物半導体積層体
の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層が、
炭素濃度が5×10
16/cm
3未満である第4窒化物半導体層と、
上記第4窒化物半導体層の上方に形成され、炭素濃度が5×10
16/cm
3以上、1×10
18/cm
3未満である第5窒化物半導体層と
を有する。
【0030】
一実施形態の窒化物半導体積層体
の製造方法では、
上記第4窒化物半導体層と上記第5窒化物半導体層との間
に第6窒化物半導体層を
形成し、
上記第6窒化物半導体層の炭素濃度は、上記第4窒化物半導体層と上記第6窒化物半導体層との界面付近で上記第4窒化物半導体層の炭素濃度と略等しく、かつ、上記第5窒化物半導体層と上記第6窒化物半導体層との界面付近で上記第5窒化物半導体層の炭素濃度と略等しく、かつ、上記第6窒化物半導体層の下部側から上記第6窒化物半導体層の上部側に進むにしたがって徐々に増加する。
【0031】
【0032】
一実施形態の窒化物半導体積層体
の製造方法では、
上記第3窒化物半導体層の上面では、原子間力顕微鏡による表面粗さが1μm角の走査範囲にて0.5nm以下になる。
【発明の効果】
【0033】
この発明の窒化物半導体積層体の製造方法は、第2窒化物半導体層形成工程と第3窒化物半導体層形成工程との間は中断されず、第3窒化物半導体層形成工程は第2窒化物半導体層形成工程に連続して実施されるので、第2窒化物半導体の上面に凹凸が生じるのを抑制することができる。したがって、特定の窒化物半導体層の上面に凹凸が生じることを抑制できる。
【0034】
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、この発明の一実施形態に係る窒化物半導体積層体(特に窒化物半導体積層基板)およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では説明の具体化のため、この発明の一実施形態に係る窒化物半導体積層基板を利用した窒化物半導体積層デバイスであるスイッチング素子を例に挙げて説明する。また、以下の説明において参照する各断面図は、説明の便宜上、主要部を強調して表示しているため、図面上の各構成要素の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致するものではない。また、以下の説明において参照する各図では、説明の理解を容易にする観点から、同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0037】
また、以下では、この発明の実施形態に係る窒化物半導体積層基板を構成するそれぞれの層について、当該層を構成する元素(材料)を例示しているが、その趣旨は、当該層を構成する主要な元素を示すことであって、当該層に当該元素以外の元素(例えば、不純物など)が一切含まれないことを示しているのではない。
【0038】
〔第1実施形態〕
最初に、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層基板およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Aを用いたスイッチング素子SAの構成を示すための模式的な断面図である。
【0040】
図1に示すように、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Aは、基板11と、この基板11の上面に形成されるバッファ層12と、このバッファ層12の上面に形成される電子走行層13と、電子走行層13の上面に形成される電子供給層14とを備える。この基板11上の各層の形成は、図示しない反応炉内で行われる。また、電子供給層14の下面が電子走行層13の上面に接触し、電子走行層13と電子供給層14の間には他の層が介在していない。なお、バッファ層12は第1窒化物半導体層の一例である。また、電子走行層13は第2窒化物半導体層の一例である。また、電子供給層14は第3窒化物半導体層の一例である。
【0041】
上記基板11は、例えば、Si、SiC、Al
2O
3、GaN、AlN、ZnO(酸化亜鉛)、GaAs(ガリウム砒素)などで構成される。また、バッファ層12は、例えば、In
XAl
YGa
1−X−YNで構成される(ただし、0≦X+Y≦1、かつ、0≦X≦1、かつ、0≦Y≦1)。なお、基板11およびバッファ層12は、同じ窒化物半導体で構成されるものであってもよい。また、基板11およびバッファ層12は、窒化物半導体積層基板10Aの反りやクラックを抑制することが可能であれば、上述した材料に限定されず、どのような材料を選択してもよい。また、バッファ層12の上部には、耐圧向上を目的として、炭素濃度が5×10
16/cm
3以上の耐圧GaN層が形成されてもよい。
【0042】
上記電子走行層13は、例えば、厚さが1μm以上5μm以下のノンドープのGaNで構成される。また、電子走行層13は、下地GaN層13Aと、この下地GaN層13Aの上面に形成されるチャネルGaN層13Cとで構成されている。この下地GaN層13AおよびチャネルGaN層13Cは、形成条件が互いに異なる。また、下地GaN層13Aの炭素濃度は5×10
16/cm
3未満である。一方、チャネルGaN層13Cの炭素濃度は5×10
16/cm
3以上、1×10
18/cm
3以上である。なお、下地GaN層13Aは第4窒化物半導体層の一例である。また、チャネルGaN層13Cは第5窒化物半導体層の一例である。
【0043】
上記下地GaN層13Aの炭素濃度が5×10
16/cm
3以上である場合、下地GaN層13Aとバッファ層12の界面で、転位、ナノパイプ等の曲りが小さくなり、その転位、ナノパイプ等が2次元電子ガス領域にまで伸びて、デバイス特性に悪影響を与える。なお、上記耐圧GaN層をバッファ層12の上部に形成している場合も、下地GaN層13Aの炭素濃度が5×10
16/cm
3以上であると、下地GaN層13Aと上記耐圧GaN層の界面で、転位、ナノパイプ等の曲りが小さくなる。
【0044】
上記チャネルGaN層13Cの炭素濃度が5×10
16/cm
3未満である場合、詳細な理由は不明であるが、チャネルGaN層13Cとスペーサ層14Aの界面の平坦性が低下し、2次元電子ガス領域の電子の移動度が低下する。また、チャネルGaN層13Cの炭素濃度が1×10
18/cm
3以上である場合、逆に過剰な炭素により、チャネルGaN層13Cとスペーサ層14Aの界面の平坦性が悪化し、2次元電子ガス領域の電子の移動度が低下する。なお、チャネルGaN層13Cと障壁層14Bの間にスペーサ層14Aを設けない場合も、チャネルGaN層13Cと障壁層14Bの界面の平坦性が悪化する。
【0045】
上記電子供給層14は、例えば5nm以下のAlNから成るスペーサ層14Aと、例えば5nm以上100nm以下のAl
ZGa
1−ZN(ただし0<Z<1)から成る障壁層14Bとを有する。また、スペーサ層14Aのバンドギャップは、下地GaN層13AおよびチャネルGaN層13Cのどちらのバンドギャップよりも大きい。また、障壁層14Bのバンドギャップも、下地GaN層13AおよびチャネルGaN層13Cのどちらのバンドギャップよりも大きい。すなわち、電子供給層14は、電子走行層13よりも大きいバンドギャップを有する。ここで、上記Al
ZGa
1−ZNの組成比Zが、0.1≦Z≦0.5を満たすと、さらに好ましい。
【0046】
また、上記スイッチング素子SAは、窒化物半導体積層基板10A、ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23を備える。
【0047】
上記ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23は、電子供給層14の上面に形成される。また、ゲート電極23は、ソース電極21とドレイン電極22の間に配置される。
【0048】
また、上記ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23のそれぞれは、Ti、Al、Cu、Au、Pt、W、Ta、Ru、Ir、Pd、Hfなどの金属元素、これらの金属元素の少なくとも2つを含む合金、または、これらの金属元素の少なくとも1つを含む窒化物などで構成される。ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23のそれぞれは、単層で構成されるものであってもよいし、組成が異なる複数の層で構成されるものであってもよい。
【0049】
上記スイッチング素子SAはノーマリーオン型である。このため、ゲート電極23の電位がソース電極21と同じ電位になっていても、ゲート電極23がオープンになっていても、チャネルGaN層13Cとスペーサ層14Aの界面近傍に二次元電子ガス層15が生じて、スイッチング素子SAはオン状態になる。スイッチング素子SAがオン状態になったとき、ソース電極21の電位よりもドレイン電極22の電位が高ければ、ソース電極21とドレイン電極22の間に電流が流れる。一方、ゲート電極23の電位が、ソース電極21の電位を基準として閾値電圧よりも低いと、ゲート電極23の下方において、チャネルGaN層13Cとスペーサ層14Aの界面近傍に二次元電子ガス層15が生じなくなる。すなわち、
図7の空乏領域1009と同様のものがゲート電極23下に形成され、スイッチング素子SAはオフ状態になる。スイッチング素子SAがオフ状態になったとき、ソース電極21とドレイン電極22の間に電流は流れない。
【0050】
このように、上記窒化物半導体積層基板10Aでは、GaNで構成される電子走行層13の上面に電子供給層14を形成する必要がある。仮に、電子走行層13の形成後に、基板温度を上げ、炉内圧力(基板11を収容する上記反応炉内の圧力)を下げてから、電子供給層14の形成を開始したなら、基板温度を上げ、炉内圧力を下げている間に、電子走行層13を形成するGaNが熱分解してしまう。こうなると、電子走行層13の上面(界面)に凹凸が生じてしまう。
【0051】
そこで、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Aでは、電子走行層13を成すGaNの熱分解を抑制することが可能な電子走行層13および電子供給層14を形成する。以下に図面を参照して説明する。
【0052】
図2は、電子走行層形成工程および電子供給層形成工程における基板温度、炉内圧力および原料ガスの供給量の変化を示すシーケンス図である。この電子走行層形成工程および電子供給層形成工程では電子走行層13および電子供給層14がMOCVD法で形成される。また、電子走行層形成工程および電子供給層形成工程は、上記反応炉内で基板11の上面にバッファ層12を形成するバッファ層形成工程後、上記反応炉内で順次行われる。また、
図2の横軸は時間を示し、この横軸の
図2中右側ほど時間は後になる。また、
図2の縦軸は、基板温度、炉内圧力または原料ガスの供給量を示す。
図2の縦軸が基板温度を示すとき、この縦軸の
図2中上側ほど基板温度は高温となる。また、
図2の縦軸が炉内圧力を示すとき、この縦軸の
図2中上側ほど炉内圧力は高圧となる。また、
図2の縦軸が原料ガスの供給量を示すとき、この縦軸の
図2中上側ほど原料ガスの供給量は多くなる。なお、上記バッファ層形成工程は第1窒化物半導体層形成工程の一例である。また、上記電子走行層形成工程は第2窒化物半導体層形成工程の一例である。また、上記電子供給層形成工程は第3窒化物半導体層形成工程の一例である。
【0053】
図2に示すように、最初にGaNで構成される下地GaN層13Aをバッファ層12の上に形成する(下地GaN層形成工程)。具体的には、Gaの原料であるTMG(トリメチルガリウム)と、Nの原料であるNH
3とを上記反応炉内にそれぞれ供給することで、GaNで構成される下地GaN層13Aを形成する。このとき、キャリアガスとしてH
2を用い、基板温度はT1、炉内圧力はP1とする。この基板温度T1は、例えば、600℃以上1300℃以下、より好ましくは、700℃以上1200℃以下である。また、炉内圧力P1は、例えば0.15気圧以上である。なお、上記下地GaN層形成工程は第4窒化物半導体層形成工程の一例である。
【0054】
上記下地GaN層13Aの形成が終了すると、TMGの供給を停止し、チャネルGaN層形成工程の条件に移行する。このとき、基板温度はT1からT2へ、炉内圧力はP1からP2へと移行する。ここで、上記T2は、上記T1よりも高く、例えば、900℃以上1400℃以下、より好ましくは900℃以上1200℃以下である。また、上記P2は、上記P1よりも低く、例えば0.15気圧以下である。また、原料ガスであるTMG,NH
3の供給量については、下地GaN層形成工程にてそれぞれTMG1,NH
31とし、チャネルGaN層形成工程にてそれぞれTMG2,NH
32とすると、TMG2<TMG1、NH
32<NH
31であることが好ましい。これは、電子供給層14が電子走行層13に比べて非常に薄いことから成長速度を抑制して膜質を安定させるためである。なお、上記チャネルGaN層形成工程は第5窒化物半導体層形成工程の一例である。
【0055】
そして、上記基板温度がT2、炉内圧力がP2、TMGの供給量がTMG2、NH
3の供給量がNH
32に安定した後、チャネルGaN層13Cを形成する(チャネルGaN層形成工程)。ここで、チャネルGaN層13Cの炭素濃度は、圧力をP1からP2へ下げた影響で下地GaN層13Aよりも大きくなる傾向にある。
【0056】
上記チャネルGaN層13Cの形成が終了すると、NH
3の供給量をNH
32に、基板温度をT2、炉内圧力をP2に維持する一方、TMGの供給を停止し、Alの材料であるTMA(トリメチルアルミニウム)の供給を開始することによって、スペーサ層14Aを形成する(スペーサ層形成工程)。スペーサ層14Aの形成が開始したとき、基板温度T2、応炉圧力P2は既にスペーサ層14Aと障壁層14Bの形成に適した条件になっており、特に時間のかかる基板温度と炉内圧力の調整のために形成を中断する必要がない。
【0057】
上記スペーサ層14Aの形成が終了すると、TMGの供給を再開し、障壁層14Bを形成する(障壁層形成工程)。このときのTMGの供給量は、チャネルGaN層形成工程のTMGの供給量と同じTMG2にしておくと、チャネルGaN層形成工程から障壁層形成工程までのTMG供給量の制御をマスフローコントローラの設定を変えることなく、バルブの開閉だけで済むため好ましい。
【0058】
以上のように、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Aでは、電子走行層13の形成途中で基板温度および炉内圧力を電子供給層14の基板温度および炉内圧力に変更することで、電子走行層形成工程と電子供給層形成工程の間に中断が生じず、電子走行層形成工程に連続して電子供給層形成工程を行うことができる。これにより、電子走行層13の上面でのGaNの熱分解が抑制され、電子走行層13の上面(界面)の凹凸が生じ難くなる。その結果、原子間力顕微鏡による窒化物半導体積層基板10Aの表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)、つまり、原子間力顕微鏡による障壁層14Bの上面の表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)が、1μm角の走査範囲において0.5nm以下になる。
【0059】
また、上記電子走行層13の上面(界面)に凹凸が生じることを抑制することで、例えば5nm以下という極めて薄いスペーサ層14Aの厚さを、均一にすることができる。これにより、電子走行層13およびスペーサ層14Aの面内方向の状態が均一になるため、二次元電子ガス15における電子の移動度が低下するなど、スイッチング素子SAの特性劣化が生じることを抑制することが可能となる。
【0060】
上記第1実施形態では、基板11の上面にバッファ層12を形成していたが、基板11の上方にバッファ層を形成してもよい。すなわち、基板11上に他の層を介してバッファ層を形成してもよい。
【0061】
上記第1実施形態では、電子供給層14は、Al
ZGa
1−ZN(ただし0<Z<1)から成る障壁層14Bの換わりに、In
JAl
LGa
1−J−LN(ただし、0<J+L≦1、かつ、0≦J<1および0<L≦1)から成る障壁層を有してもよい。
【0062】
〔第2実施形態〕
次に、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0063】
図3は、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Bを用いたスイッチング素子SBの構成を示すための模式的な断面図である。また、
図4は、上記窒化物半導体積層基板10Bの電子走行層形成工程および電子供給層形成工程における基板温度、炉内圧力、原料ガスの供給量の変化を示すシーケンス図である。なお、
図3および
図4は、上記第1実施形態の
図1および
図2の方法と同様の方法で、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Bの構成および製造方法について示した図である。また、以下における窒化物半導体積層基板10Bの説明において、上記第1実施形態の構成部と同じ構成部については、重複する説明を省略する場合がある。
【0064】
図3に示すように、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Bは、基板11と、この基板11の上面に形成されるバッファ層12と、このバッファ層12の上面に形成される電子走行層213と、この電子走行層213の上面に形成される電子供給層14とを備える。
【0065】
また、上記スイッチング素子SBは、窒化物半導体積層基板10B、ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23を備える。
【0066】
上記ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23は、電子供給層14の上面に形成される。また、ゲート電極23は、ソース電極21とドレイン電極22の間に配置される。
【0067】
また、上記窒化物半導体積層基板10Bは、下地GaN層13A、スロープGaN層13BおよびチャネルGaN層13Cが電子走行層213を構成する点で、上記第1実施形態の窒化物半導体積層基板10Aとは異なる。この下地GaN層13A、スロープGaN層13BおよびチャネルGaN層13Cは、形成条件が互いに異なる。また、スペーサ層14Aのバンドギャップは、下地GaN層13A、スロープGaN層13BおよびチャネルGaN層13Cのいずれのバンドギャップよりも大きい。また、障壁層14Bのバンドギャップも、下地GaN層13A、スロープGaN層13BおよびチャネルGaN層13Cのいずれのバンドギャップよりも大きい。すなわち、電子供給層14は、電子走行層213よりも大きいバンドギャップを有する。なお、スロープGaN層13Bは第6窒化物半導体層の一例である。
【0068】
上記スロープGaN層13Bは、上記第1実施形態において下地GaN層形成工程からチャネルGaN形成工程の形成条件へ移行するステップで、TMGおよびNH
3の反応炉内への供給を継続することで形成できる層である。
【0069】
以下、
図4を用いて、上記窒化物半導体積層基板10Bの電子走行層213および電子供給層14の形成方法を具体的に説明する。
【0070】
図4に示すように、最初に、上記第1実施形態の下地GaN層13Aの形成方法と同様の形成方法で、下地GaN層13Aをバッファ層12の上に形成する(下地GaN形成工程)。
【0071】
上記下地GaN層13Aの形成が終了すると、基板温度などを、チャネルGaN層13Cを形成するための基板温度などに移行する。このとき、基板温度はT1からT2へ、炉内圧力はP1からP2へ、TMGの供給量はTMG1からTMG2へ、NH
3の供給量はNH
31からNH
32へと一定時間をかけて緩やかに移行する。この移行の間、TMGおよびNH
3の反応炉内への供給が継続されていることにより、スロープGaN層13Bが形成される(スロープGaN層形成工程)。ここで、下地GaN13AとスロープGaN層13Bとの界面付近において、スロープGaN層13Bの炭素濃度は下地GaN13Aの炭素濃度と略等しい。また、チャネルGaN層13CとスロープGaN層13Bとの界面付近において、スロープGaN層13Bの炭素濃度はチャネルGaN層13Cの炭素濃度と略等しい。また、スロープGaN層13Bの炭素濃度は、スロープGaN層13Bの下部側からスロープGaN層13Bの上部側に進むにしたがって徐々に増加する。
【0072】
上記スロープGaN層13Bの形成が終了すると、TMGの供給量をTMG2に、NH
3の供給量をNH
32に、基板温度をT2、炉内圧力をP2に維持したまま、チャネルGAN層13Cを形成する(チャネルGaN層形成工程)。ここで、チャネルGaN層13Cの炭素濃度は、炉内圧力をP1からP2へ下げた影響で下地GaN層13Aよりも大きくなる傾向にある。
【0073】
上記チャネルGaN層13Cの形成が終了すると、上記第1実施形態のスペーサ層14Aの形成方法と同様に、TMGの供給は停止し、TMAの供給を開始し、スペーサ層14Aを形成する(スペーサ層形成工程)。チャネルGaN層13Cの形成が終了したとき、基板温度がT2に、炉内圧力がP2になっている。この基板温度T2および炉内圧力P2はスペーサ層14Aおよび障壁層14Bの形成に適しているので、チャネルGaN層13Cの形成後、中断をせずに連続してスペーサ層14Aが形成される。
【0074】
上記スペーサ層14Aの形成が終了すると、上記第1実施形態の障壁層14Bの形成方法と同様に、TMGの供給を再開し、障壁層14Bを形成する(障壁層形成工程)。このときのTMGの供給量は、チャネルGaN層形成工程のTMGの供給量と同じTMG2にしておくと、チャネルGaN層形成工程から障壁層形成工程までのTMG供給量の制御をマスフローコントローラの設定を変えることなく、バルブの開閉だけで済むため好ましい。
【0075】
以上のように、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Bでは、上記第1実施形態と同様に、電子走行層213の形成途中で基板温度および炉内圧力を電子供給層14の基板温度および炉内圧力に変更することで、電子走行層形成工程と電子供給層形成工程の間に中断が生じず、電子走行層形成工程に連続して電子供給層形成工程を行うことができる。これにより、電子走行層13の上面でのGaNの熱分解が抑制され、電子走行層13の上面(界面)の凹凸が生じ難くなる。その結果、原子間力顕微鏡による窒化物半導体積層基板10Aの表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)、つまり、原子間力顕微鏡による障壁層14Bの上面の表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)が、1μm角の走査範囲において0.5nm以下になる。
【0076】
また、上記電子走行層213の上面(界面)に凹凸が生じることを抑制することで、例えば5nm以下という極めて薄いスペーサ層14Aの厚さを、均一にすることができる。これにより、電子走行層213およびスペーサ層14Aの面内方向の状態が均一になるため、電子の移動度が低下するなど、スイッチング素子SBの特性劣化が生じることを抑制することが可能となる。
【0077】
さらに、上記下地GaN層13AとチャネルGaN層13Cの間にスロープGaN層13Bを形成することにより、電子走行層213の内部における凹凸が抑制される。したがって、結晶性や欠陥に関して電子走行層213が電子供給層14に及ぼす悪影響を小さくすることができる。
【0078】
また、上記スロープGaN層形成工程では、基板温度、炉内圧力および原料ガスの供給量を緩やかに変化させているため、基板温度、炉内圧力および原料ガスの供給量のオーバーシュートやアンダーシュートの発生が抑制されている。
【0079】
〔第3実施形態〕
次に、この発明の第3実施形態に係る窒化物半導体積層基板およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0080】
図5は、この発明の第3実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Cを用いたスイッチング素子SCの構成を示すための模式的な断面図である。また、
図6は、上記窒化物半導体積層基板10Cの電子走行層形成工程および電子供給層形成工程における基板温度、炉内圧力、原料ガスの供給量の変化を示すシーケンス図である。なお、
図5および
図6は、上記第1実施形態の
図1および
図2の方法と同様の方法で、この発明の第3実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Cの構成および製造方法について示した図である。また、以下における窒化物半導体積層基板10Cの説明において、上記第1実施形態の構成部と同じ構成部については、重複する説明を省略する場合がある。
【0081】
図5に示すように、この発明の第3実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Cは、基板11と、この基板11の上面に形成されるバッファ層12と、このバッファ層12の上面に形成される電子走行層13と、この電子走行層13の上面に形成される障壁層14Bとを備える。また、障壁層14Bの下面が電子走行層13の上面に接触し、電子走行層13と障壁層14Bの間には他の層が介在していない。なお、障壁層14Bは第3窒化物半導体層の一例である。
【0082】
また、上記スイッチング素子SCは、窒化物半導体積層基板10C、ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23を備える。
【0083】
上記ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23は、障壁層14Bの上面に形成される。また、ゲート電極23は、ソース電極21とドレイン電極22の間に配置される。
【0084】
また、上記窒化物半導体積層基板10Cは、下地GaN層13A、スロープGaN層13BおよびチャネルGaN層13Cが電子走行層213を構成する点と、障壁層14Bだけで電子供給層を構成する点とで、上記第1実施形態の窒化物半導体積層基板10Aとは異なる。
【0085】
以下、
図5を用いて、上記窒化物半導体積層基板10Bの電子走行層213および電子供給層14の形成方法を具体的に説明する。
【0086】
図6に示すように、最初に、上記第2実施形態の下地GaN層13Aの形成方法と同様の形成方法で、下地GaN層13Aをバッファ層12の上に形成する(下地GaN形成工程)。
【0087】
上記下地GaN層13Aの形成が終了すると、基板温度などを、チャネルGaN層13Cを形成するための基板温度などに移行する。このとき、基板温度はT1からT2へ、炉内圧力はP1からP2へ、TMGの供給量はTMG1からTMG2へ、NH
3の供給量はNH
31からNH
32へと一定時間をかけて緩やかに移行する。この移行の間、TMGおよびNH
3の反応炉内への供給が継続されていることにより、スロープGaN層13Bが形成される(スロープGaN層形成工程)。ここで、下地GaN13AとスロープGaN層13Bとの界面付近において、スロープGaN層13Bの炭素濃度は下地GaN13Aの炭素濃度と略等しい。また、チャネルGaN層13CとスロープGaN層13Bとの界面付近において、スロープGaN層13Bの炭素濃度はチャネルGaN層13Cの炭素濃度と略等しい。また、スロープGaN層13Bの炭素濃度は、スロープGaN層13Bの下部側からスロープGaN層13Bの上部側に進むにしたがって徐々に増加する。
【0088】
上記スロープGaN層13Bの形成が終了すると、TMGの供給量をTMG2に、NH
3の供給量をNH
32に、基板温度をT2、炉内圧力をP2に維持したまま、チャネルGAN層13Cを形成する(チャネルGaN層形成工程)。ここで、チャネルGaN層13Cの炭素濃度は、炉内圧力をP1からP2へ下げた影響で下地GaN層13Aよりも大きくなる傾向にある。
【0089】
上記チャネルGaN層13Cの形成が終了すると、TMGの供給量をTMG2に、NH
3の供給量をNH
32に、基板温度をT2、炉内圧力をP2に維持しつつ、Alの材料であるTMAの供給を開始することによって、電子供給層となる障壁層14Bを形成する(障壁層形成工程)。このときのTMGの供給量は、チャネルGaN層形成工程のTMGの供給量と同じTMG2にしておくと、チャネルGaN層形成工程から障壁層形成工程までのTMG供給量の制御をマスフローコントローラの設定を変えることなく、バルブの開閉だけで済むため好ましい。
【0090】
以上のように、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体積層基板10Cでは、上記第1実施形態と同様に、電子走行層213の形成途中で基板温度および炉内圧力を電子供給層14の基板温度および炉内圧力に変更することで、電子走行層形成工程と電子供給層形成工程の間に中断が生じず、電子走行層形成工程に連続して電子供給層形成工程を行うことができる。これにより、電子走行層13の上面でのGaNの熱分解が抑制され、電子走行層13の上面(界面)の凹凸が生じ難くなる。その結果、原子間力顕微鏡による窒化物半導体積層基板10Aの表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)、つまり、原子間力顕微鏡による障壁層14Bの上面の表面粗さ(例えば算術平均荒さRa)が、1μm角の走査範囲において0.5nm以下になる。
【0091】
また、上記電子走行層213の上面(界面)に凹凸が生じることを抑制することで、例えば5nm以下という極めて薄いスペーサ層14Aの厚さを、均一にすることができる。これにより、電子走行層213およびスペーサ層14Aの面内方向の状態が均一になるため、電子の移動度が低下するなど、スイッチング素子SBの特性劣化が生じることを抑制することが可能となる。
【0092】
さらに、上記下地GaN層13AとチャネルGaN層13Cの間にスロープGaN層13Bを形成することにより、電子走行層213の内部における凹凸が抑制される。したがって、結晶性や欠陥に関して電子走行層213が電子供給層14に及ぼす悪影響を小さくすることができる。
【0093】
また、上記スロープGaN層形成工程では、基板温度、炉内圧力および原料ガスの供給量を緩やかに変化させているため、基板温度、炉内圧力および原料ガスの供給量のオーバーシュートやアンダーシュートの発生が抑制されている。
【0094】
また、上記電子走行層213の上面の凹凸が抑制されることにより、二次元電子ガス層1008における電子の移動度が改善される。したがって、窒化物半導体積層基板10Cが上記第1実施形態のスペーサ層14Aを備えていなくても、スイッチング素子SCのオン抵抗が十分に低くなる。
【0095】
仮に、上記電子走行層213と障壁層14Bの間にスペーサ層14Aを形成したなら、電子走行層213とスペーサ層14Aの間の格子不整合が大きくなり、その結果、ピエゾ効果が大きくなるが、このことは長期信頼性に悪影響を及ぼすことになる。したがって、信頼性のリスクを抱えるスペーサ層14Aが不要となる意義は大きい。
【0096】
この発明の具体的な実施形態について説明したが、この発明は上記第1〜第3実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、上記第1〜第3実施形態で記載した内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0097】
すなわち、この発明および実施形態を纏めると、次のようになる。
【0098】
この発明の窒化物半導体積層体の製造方法は、
反応炉内で基板11の上方に第1窒化物半導体層12を形成する第1窒化物半導体層形成工程と、
上記第1窒化物半導体層12の上方に第2窒化物半導体層13,213を形成する第2窒化物半導体層形成工程と、
上記第2窒化物半導体層13,213の上面に、上記第2窒化物半導体層13,213よりもバンドギャップが大きい第3窒化物半導体層14,14Bを形成する第3窒化物半導体層形成工程と
を備え、
上記第2窒化物半導体層形成工程と上記第3窒化物半導体層形成工程との間は中断されず、上記第3窒化物半導体層形成工程は上記第2窒化物半導体層形成工程に連続して実施されることを特徴としている。
【0099】
上記構成によれば、上記第2窒化物半導体層形成工程と第3窒化物半導体層形成工程との間は中断されず、第3窒化物半導体層形成工程は上記第2窒化物半導体層形成工程に連続して実施されるので、第2窒化物半導体の上面に凹凸が生じるのを抑制することができる。
【0100】
一実施形態の窒化物半導体積層体の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層形成工程は、
第4窒化物半導体層13Aを形成する第4窒化物半導体層形成工程と、
上記第4窒化物半導体層13Aの上方に第5窒化物半導体層13Cを形成する第5窒化物半導体層形成工程と
を有し、
上記第4窒化物半導体層形成工程の基板温度よりも、上記第5窒化物半導体層形成工程の基板温度の方が高温であり、
上記第4窒化物半導体層形成工程の炉内圧力よりも、上記第5窒化物半導体層形成工程の炉内圧力の方が低圧である。
【0101】
上記実施形態によれば、上記第2窒化物半導体層形成工程の後半では、基板温度が比較的高温で、炉内圧力が比較的低圧である。したがって、上記第3窒化物半導体層14,14Bを高い基板温度と低い炉内圧力とで形成する場合でも、第2窒化物半導体層形成工程から第3窒化物半導体層形成工程を連続的に良好に行える。
【0102】
一実施形態の窒化物半導体積層体の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層形成工程は、上記第4窒化物半導体層13Aと上記第5窒化物半導体層13Cとの間に第6窒化物半導体層13Bを形成する第6窒化物半導体層形成工程を有し、
上記第6窒化物半導体層形成工程の基板温度は、上記第4窒化物半導体層形成工程の基板温度と同じ温度から、上記第5窒化物半導体層形成工程の基板温度と同じ温度まで徐々に変化し、
上記第6窒化物半導体層形成工程の炉内圧力は、上記第4窒化物半導体層形成工程の炉内圧力と同じ圧力から、上記第5窒化物半導体層形成工程の炉内圧力と同じ圧力まで徐々に変化する。
【0103】
上記実施形態によれば、上記第6窒化物半導体層形成工程の基板温度および炉内圧力が徐々に変化するので、第2窒化物半導体層13,213内の欠陥を低減でき、第2窒化物半導体層13,213の結晶性を向上できる。
【0104】
また、上記第6窒化物半導体層形成工程の基板温度および炉内圧力が徐々に変化するので、第5窒化物半導体層形成工程を開始するとき、基板温度および炉内温度のオーバーシュートやアンダーシュートの発生を抑制できる。
【0105】
一実施形態の窒化物半導体積層体の製造方法では、
上記第2窒化物半導体層13,213はGaNからなり、
上記第3窒化物半導体層14BはAl
xGa
1−xN(0<x<1)からなる。
【0106】
上記実施形態によれば、上記第2窒化物半導体層13,213と第3窒化物半導体層14Bとの間の格子不整合が小さくなるので、長期信頼性を高めることができる。
【0107】
この発明の窒化物半導体積層体は、
基板11と、
この基板11の上方に形成される第1窒化物半導体層12と、
上記第1窒化物半導体層12の上方に形成される第2窒化物半導体層13,213と、
上記第2窒化物半導体層13,213の上面に形成され、上記第2窒化物半導体層13,213よりもバンドギャップが大きい第3窒化物半導体層14,14Bと
を備え、
上記第2窒化物半導体層13,213の形成と上記第3窒化物半導体層14,14Bの形成との間は中断されず、上記第3窒化物半導体層14,14Bの形成は上記第2窒化物半導体層13,213の形成に連続して実施されるように、上記第2窒化物半導体層13,213および上記第3窒化物半導体層14,14Bが形成されることを特徴としている。
【0108】
上記構成によれば、上記第2窒化物半導体層13,213の形成と第3窒化物半導体層14,14Bの形成との間は中断されず、第3窒化物半導体層14,14Bの形成は第2窒化物半導体層13,213の形成に連続して実施されるように、第2窒化物半導体層13,213および上記第3窒化物半導体層14,14Bが形成されるので、第2窒化物半導体の上面に凹凸が生じるのを抑制することができる。
【0109】
一実施形態の窒化物半導体積層体では、
上記第2窒化物半導体層13,213が、
炭素濃度が5×10
16/cm
3未満である第4窒化物半導体層13Aと、
上記第4窒化物半導体層の上方に形成され、炭素濃度が5×10
16/cm
3以上、1×10
18/cm
3未満である第5窒化物半導体層13Cと
を有する。
【0110】
上記実施形態によれば、
上記第4窒化物半導体層13Aの炭素濃度が5×10
16/cm
3未満であることにより、第1窒化物半導体層12と第4窒化物半導体層13Aの界面で生じる転位、ナノパイプ等がデバイス特性に悪影響を与えるのを防ぐことができる。
【0111】
また、上記第5窒化物半導体層13Cの炭素濃度が5×10
16/cm
3以上、1×10
18/cm
3未満であることにより、第5窒化物半導体層13Cと第3窒化物半導体層14,14Bの界面の平坦性の低下を防ぐことができる。
【0112】
一実施形態の窒化物半導体積層体は、
上記第4窒化物半導体層13Aと上記第5窒化物半導体層13Cとの間に形成された第6窒化物半導体層13Bを備え、
上記第6窒化物半導体層13Bの炭素濃度は、上記第4窒化物半導体層13Aと上記第6窒化物半導体層13Bとの界面付近で上記第4窒化物半導体層13Aの炭素濃度と略等しく、かつ、上記第5窒化物半導体層13Cと上記第6窒化物半導体層13Bとの界面付近で上記第5窒化物半導体層13Cの炭素濃度と略等しく、かつ、上記第6窒化物半導体層13Bの下部側から上記第6窒化物半導体層13Bの上部側に進むにしたがって徐々に増加する。
【0113】
上記実施形態によれば、上記第4窒化物半導体層13Aの炭素濃度と略等しい炭素濃度から、第5窒化物半導体層13Cの炭素濃度と略等しい炭素濃度に徐々に増加する。したがって、上記第4窒化物半導体層13Aの形成条件から第5窒化物半導体層13Cの形成条件に徐々に移行できる。その結果、上記第2窒化物半導体層13,213内の欠陥を低減でき、第2窒化物半導体層13,213の結晶性を向上できる。
【0114】
また、上記第4窒化物半導体層13Aの形成条件から第5窒化物半導体層13Cの形成条件に徐々に移行できるので、第5窒化物半導体層13Cの形成を開始するとき、基板温度および炉内温度のオーバーシュートやアンダーシュートの発生を抑制できる。
【0115】
一実施形態の窒化物半導体積層体では、
上記第2窒化物半導体層13,213はGaNからなり、
上記第3窒化物半導体層14BはAl
xGa
1−xN(0<x<1)からなる。
【0116】
上記実施形態によれば、上記第2窒化物半導体層13,213と第3窒化物半導体層14Bとの間の格子不整合が小さくなるので、長期信頼性を高めることができる。
【0117】
一実施形態の窒化物半導体積層体では、
上記第3窒化物半導体層14,14Bの上面では、原子間力顕微鏡による表面粗さが1μm角の走査範囲にて0.5nm以下になる。
【0118】
上記実施形態によれば、上記第3窒化物半導体層14,14Bの上面に、例えば、ソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23を形成する場合、第3窒化物半導体層14,14Bの上面に対するソース電極21、ドレイン電極22およびゲート電極23の密着性を高めることができる。