(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221038
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20171023BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
F16K31/06 305D
H01F7/16 E
H01F7/16 R
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-122557(P2013-122557)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240671(P2014-240671A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】日本電産トーソク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088100
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 千明
(72)【発明者】
【氏名】倉持 健太
(72)【発明者】
【氏名】安田 智宏
(72)【発明者】
【氏名】豊永 晶仁
(72)【発明者】
【氏名】坂下 純一
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−213664(JP,A)
【文献】
特開2010−278403(JP,A)
【文献】
特開2001−358014(JP,A)
【文献】
特開2012−204574(JP,A)
【文献】
特開平11−063276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06−31/11
H01F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークと該ヨークの先端側に設けられたコアとの間にプランジャーが移動自在に収容され、前記ヨークより突出した前記プランジャーの先端部が前記コアに吸引される電磁弁において、 前記ヨークの内周面基端側に一般面より後退した段差部を設定し、 前記コアの内径寸法を、前記ヨークの内径寸法より大きく設定したことを特徴とする電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧を制御する電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧回路において油圧や流量を制御する際には、電磁弁が用いられていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この電磁弁では、コア及びヨークがガイドによって連結されてなるアッセンブリー部材を備えており、該アッセンブリー部材内には、プランジャーが摺動自在に収容されている。
【0004】
このような電磁弁では、その特性が前記ヨークと前記コアとの同軸精度によって定まるため、前記アッセンブリー部材の内径面がストレート形状となるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−188744公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の電磁弁にあっては、コアとヨークとをガイドへの圧入構造により連結しているため、ヨークに対してコア内径の同軸度の確保が困難であった。
【0007】
このため、プランジャー周面とコアとの離間距離が狭い部位においては、横向きの吸引力が働きプランジャーに傾きが生じやすい。
【0008】
すると、プランジャーの基端側の角部がヨークの内周面に接触するので、摺動面の面粗度に応じて摺動抵抗が変化し、油圧特性においてヒステリシスの増大やスティックスリップによる階段波形が生ずる恐れがあった。
【0009】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、コアとヨークの同軸精度や摺動面の面粗度を向上すること無くプランジャーの摺動性を改善することができる電磁弁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明の電磁弁にあっては、ヨークと該ヨークの先端側に設けられたコアとの間にプランジャーが移動自在に収容され、前記ヨークより突出した前記プランジャーの先端部が前記コアに吸引される電磁弁において、前記ヨークの内周面基端側に一般面より後退した段差部を設定した。
【0011】
しかも、前記コアの内径寸法を、前記ヨークの内径寸法より大きく設定した。
【0012】
すなわち、プランジャーが摺動するヨークの内周面基端側には、一般面より後退した段差部が設定されている。
【0013】
このため、前記ヨークに対してコアの同軸度を確保できず、前記プランジャーに傾きが生じた場合であっても、当該プランジャー基端側角部の前記ヨーク内周面への接触が防止される。
【0014】
これにより、前記ヨーク内径の面粗度は摺動性への影響が小さくなるため、加工精度を向上させることなく、摺動抵抗の変化やスティックスリップによる油圧特性の階段波形の発生が防止される。
【0015】
また、前記コアの内径寸法は、前記ヨークの内径寸法より大きく設定されている。
【0016】
このため、前記コアと前記ヨークの偏芯による吸引横力の影響を小さくすることができる。
【0017】
また、前記プランジャー先端側角部の前記コア内周面への摺接も防止できるため、摺動性への影響が排除される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明の電磁弁にあっては、プランジャーが摺動するヨークの基端側の内周面に、一般面より後退した段差部を設定することで、ヨークに対してコアの同軸度の確保できず前記プランジャーに傾きが生じた場合であっても、当該プランジャー基端側角部の前記ヨーク内周面への接触を防止することができる。
【0019】
これにより、前記ヨーク内径の面粗度による摺動性への影響を小さくすることができる。
【0020】
この摺動性への影響軽減により、加工精度を向上させることなく、摺動抵抗の変化やスティックスリップによる油圧特性の階段波形の発生を防止できる。
【0021】
したがって、前記コアと前記ヨークの同軸精度や摺動面の面粗度を向上すること無くプランジャーの摺動性を改善することができる。
【0022】
さらに、本発明の電磁弁では、前記コアの内径寸法を前記ヨークの内径寸法より大きく設定したので、前記コアと前記ヨークの偏芯による吸引横力の影響を小さくすることができる。
【0023】
これにより、プランジャーの傾きの発生を抑制することができる。
【0024】
また、前記プランジャー先端側角部の前記コアへの摺接を防止することにより、摺動性への影響を排除することができる。
【0025】
これにより、前記プランジャーの両端面の形状は摺動性へ影響しないため、油圧性能要求に応じて最適な形状に設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】同実施の形態のヨークの加工状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態を図に従って説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態にかかる電磁弁1を示す図であり、該電磁弁1は、例えば自動車の自動変速機における油圧回路で油圧を制御するものである。
【0029】
この電磁弁1は、円筒容器状のカバー11を備えており、該カバー11内には、ソレノイド12が内嵌されている。
【0030】
該ソレノイド12の端面には、ノズル13の鍔部14が面接されており、該鍔部14の周縁部は、前記カバー11の端縁が折曲されてなるカシメ部15によって固定されている。
【0031】
前記ソレノイド12内には、円筒状のヨーク21が内嵌されており、このヨーク21の先端側には、鍔22を有したコア23が収容されている。該コア23の基端部には円筒状のガイド24の一端部が外嵌しており、該ガイド24の他端部には前記ヨーク21の先端部が内嵌し該ヨーク21と前記コア23とが前記ガイド24によって連結されている。
【0032】
前記コア23の内径寸法は、前記ヨーク21の内径寸法より大きく設定されており、
図1中上部に示すように、前記コア23の内周面と前記ヨーク21の内周面との間には、径差(逃げ)25が設けられている。
【0033】
前記ヨーク21及び前記コア23の内側には、プランジャー31が移動自在に収容されており、該プランジャー31は、その外側面が前記ヨーク21の内周面32に摺接するように構成されている。
【0034】
これにより、このプランジャー31は、前記ヨーク21との摺接部分及び前記コア23との近接部分が磁気受渡部を構成するように構成されており、前記ソレノイド12による磁力発生時には、前記ヨーク21より突出した前記プランジャー31の先端部が励磁された前記コア23によって吸引されて移動することで、前記カバー11より延出した前記ノズル13内のスプール弁41を移動できるように構成されている。
【0035】
前記ヨーク21の基端側の内周面32には、
図2にも示すように、追加加工が施されており、一般面32aより後退した段差部32bが形成されている。この段差部32bの長さ寸法は、
図1中下部に示すように、前記プランジャー31のストローク量Sより長く設定されており、前記プランジャー31の基端側角部31aは、プランジャー可動領域の全域において、前記一般面32aに摺接しないように構成されている。
【0036】
前記プランジャー31は、円筒状に形成されており、当該プランジャー31の周縁部には、軸方向に貫通した貫通穴61が形成されている。これにより、当該プランジャー31が軸方向へ移動する際に、当該プランジャー31の先端側と基端側とで流体を通流できるように構成されており、当該プランジャー31の作動が容易となるように構成されている。
【0037】
以上の構成にかかる本実施の形態において、プランジャー31が摺動するヨーク21の基端側の内周面は、一般面32aより後退した段差部32bが設定されている。このため、前記ヨーク21に対してコア23の同軸度を確保できず、前記プランジャー31に傾きが生じた場合であっても、当該プランジャー31の基端側角部31aの前記ヨーク21内周面32への接触を防止することができる。
【0038】
これにより、前記ヨーク21の内周面32の面粗度による摺動性への影響を小さくすることができるので、加工精度を向上させることなく、摺動抵抗の変化やスティックスリップによる油圧特性の階段波形の発生を防止できる。
【0039】
したがって、前記コア23と前記ヨーク21の同軸精度や摺動面の面粗度を向上すること無くプランジャー31の摺動性を改善することができる。
【0040】
図3は、従来の電磁弁の出力特性101と、本実施の形態に係る電磁弁1での出力特性102とを示す図であり、入力電流と出力圧との関係が示されている。この図から分かるように、従来の電磁弁では、プランジャー31吸引開始時において、プランジャー31の基端側角部31aがヨーク21の内周面32に摺接してスティックスリップを生じており、油圧特性に階段波形111が生じている。
【0041】
しかし、本実施の形態の電磁弁1にあっては、プランジャー31の基端側角部31aがヨーク21の内周面32に摺接しないので、油圧特性に階段波形111が生じないことを確認できる。
【0042】
そして、本実施の形態では、前記段差部32bの長さ寸法は、前記プランジャー31のストローク量Sより長く設定されている。このため、前記プランジャー31が摺動する全領域において、当該プランジャー31の基端側角部31aの前記ヨーク21内周面32への接触を防止することができ、全領域において出力特性の向上を図ることができる。
【0043】
このとき、前記段差部32bと一般面32aとの間に形成された段差の角部には、前記プランジャー31の外周面が摺接することとなる。このため、プランジャー31の外周面を研磨することで、安定した摺動抵抗を得ることができる。
【0044】
よって、安定した摺動抵抗を得る為にヨーク21の内周面32を研磨しなければならない場合と比較して、低コスト化を図ることができる。
【0045】
さらに、本実施の形態では、前記コア23の内径寸法を前記ヨーク21の内径寸法より大きく設定したので、前記コア23と前記ヨーク21の偏芯による吸引横力の影響を小さくすることができる。これにより、前記プランジャー31の傾きの発生を抑制することができる。
【0046】
また、前記プランジャー31の先端側角部の前記コア23への摺接を防止することにより、摺動性への影響を排除することができる。
【0047】
これにより、前記プランジャー31の両端面の形状は摺動性へ影響しないため、油圧性能要求に応じて最適な形状に設計することが可能となる。
【0048】
図4は、本実施の形態の効果を示す説明図であり、従来の構造では、プランジャー31の基端側において該プランジャー31の基端側角部31aがヨーク21の内周面に摺接する一方、プランジャー31先端側では、前記ヨーク21の先端側角部21aがプランジャー31の外周面に摺接していた。このように、プランジャー31基端側と先端側とにおいて、摺接する面が異なるため、これにより出力特性の悪化を招いていた。
【0049】
しかし、本実施の形態では、前記プランジャー31が摺動するヨーク21の基端側の内周面には、一般面32aより後退した段差部32bが設定されており、前記コア23の内径寸法は、前記ヨーク21の内径寸法より大きく設定されている。
【0050】
このため、前記プランジャー31基端側においては、前記ヨーク21の内周面32の一般面32aと段差部32bとの間に形成された段差の角部21bがプランジャー31の外周面に当接することとなる。また、前記プランジャー31先端側では、前記ヨーク21先端側角部21aが前記プランジャー31の外周面に摺接することとなる。このように、プランジャー31基端側と先端側とにおいて、摺接する面が共にプランジャー31の外周面となるため、これにより出力特性が向上するとともに、研磨が容易なプランジャー31の外周面を面粗度を向上することで、出力特性の安定性を高める
ことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電磁弁 21 ヨーク 23 コア 25 径差 32b 段差部