(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221040
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】プロテクター
(51)【国際特許分類】
A63B 71/12 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
A63B71/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-193883(P2013-193883)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-58179(P2015-58179A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳井 亜加根
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−280426(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3093532(JP,U)
【文献】
特開2004−121472(JP,A)
【文献】
特開2000−176072(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3125428(JP,U)
【文献】
特開2009−112380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 71/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の胸部及び腹部を保護するプロテクター本体を備えるゴールボール用プロテクターであって、
前記プロテクター本体は、前記使用者から離れた側である表側に配置される表側壁部と、前記使用者の側である裏側に配置される裏側壁部と、を備えるとともに、前記プロテクター本体には、前記表側壁部と前記裏側壁部との周縁相互が結合されることにより、袋状に構成された内部空間が形成されており、
前記内部空間に、平均粒径2〜3mmの発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填密度0.01〜0.02g/cm3で充填されていることを特徴とするゴールボール用プロテクター。
【請求項2】
前記発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の平均粒径は、2〜6mmであることを特徴とする請求項1に記載のゴールボール用プロテクター。
【請求項3】
前記発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の発泡倍率は、30〜100倍であることを特徴とする請求項1又は2項に記載のゴールボール用プロテクター。
【請求項4】
前記裏側壁部の裏側には、断面波形に形成された波形板が配設されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のゴールボール用プロテクター。
【請求項5】
前記プロテクター本体の上部側に、首に掛け止め可能な吊りバンドを設けるとともに、前記プロテクター本体の下部側には、背中に掛け止められる止めバンドが設けられることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のゴールボール用プロテクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツを行う際に使用者の胸部及び腹部を保護するために用いられるプロテクターに関し、特に視覚障害者スポーツを行う際に用いられるプロテクターに関する。
【背景技術】
【0002】
視覚障害者スポーツの一つであるゴールボールは、目隠しをしながら鈴の入ったボールを転がし、ゴールに入れることで得点する視覚障害者スポーツである。使用者は目の上に黒く塗られたアイシェードを着け、中に鈴が入ったボールの音を聞きながら競技する。
【0003】
使用者は自陣のゴールの前に立ち、相手から投げられたボールを側臥位等になることで身体にて防ぐ。2011年に制定されたスポーツ基本法では健常者スポーツだけでなく、障害者スポーツについても安全性の確保や競技力の向上を図ることを定めている。ゴールボールで使用されるボールは1.25kgの重量があるので、使用者は怪我を防止するためにプロテクターを使用する。
【0004】
ゴールボール等の視覚障害者スポーツでは、ボールがプロテクターに衝突した際の反発が大きくなると使用者はボールの位置を見失い、競技性が低下する。このため、視覚障害者スポーツでは、衝撃吸収性のみならず低反発性を備えるプロテクターが望まれる。
【0005】
しかしながら、ゴールボール用のプロテクターは従来存在しないため、使用者は例えば格闘技用プロテクター等の他競技のプロテクターを使用することになるが、低反発性の面で問題があり、視覚障害者スポーツで用いるには適当ではない。
【0006】
衝撃吸収性且つ低反発性を備えるプロテクターは、視覚障害者スポーツのみならず野球やソフトボール等でも望まれる。特許文献1には、ボールを捕球し損ねた際のキャッチャーの送球動作を素早く行なえるようにするため、ボールがプロテクターに衝突したときの撥ね返りを抑えるべく、低反発性素材からなる緩衝部材により構成されるプロテクターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2006−280426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のプロテクターは低反発性が十分であるとはいえず、これでは視覚障害者スポーツに使用された場合、競技性の低下が防止できない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、衝撃吸収性のみならず優れた低反発性を備えるプロテクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかるプロテクターは、使用者の胸部及び腹部を保護するプロテクター本体を備える
ゴールボール用プロテクターであって、前記プロテクター本体は、前記使用者から離れた側である表側に配置される表側壁部と、前記使用者の側である裏側に配置される裏側壁部と、を備えるとともに、前記プロテクター本体には、前記表側壁部と前記裏側壁部との周縁相互が結合されることにより、袋状に構成された内部空間が形成されており、前記内部空間に、
平均粒径2〜3mmの発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が
充填密度0.01〜0.02g/cm3で充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、衝撃吸収性のみならず優れた低反発性を備えるプロテクターが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態にかかるプロテクターの背面図である。
【
図2】別実施形態にかかるプロテクターの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
図1は、本実施形態にかかるプロテクター900の背面図である。
図1に示されるように、プロテクター900は、使用者の上半身の胸部及び腹部を保護するプロテクター本体100と、プロテクター本体100の上部側である両肩部110に亘って設けられた吊りバンド200と、プロテクター本体100の下部側の左右両側縁に亘って設けられた止めバンド300と、を備える。吊りバンド200は使用者の首に掛け止め可能であり、止めバンド300を使用者の背中に掛け止めることにより、プロテクター900は使用者の胸側に装着される。
【0015】
プロテクター本体100は、使用者から離れた側である表側に配置される表側壁部510と、使用者の側である裏側に配置される裏側壁部520と、を備える。表側壁部510と裏側壁部520とはそれぞれの周縁相互が結合され、これにより袋状に構成された内部空間530が形成されている。表側壁部510及び裏側壁部520は、例えばナイロン生地又は布製等である。
【0016】
吊りバンド200は、弾性帯210に長さ調節具220を挿通させ、弾性帯210の一端側に雄型係止体120Bを保持させている。長さ調節具220による弾性帯210の挿通保持位置を調節することにより、吊りバンド200の長さを調節することができる。吊りバンド200は、一方の肩部110に止着されたループ状の止具111に、弾性帯210の他端側を止着するとともに、他方の肩部110に止着された雌型係止体120Aに、雄型係止体120Bを係脱自在に係合連結してある。
【0017】
止めバンド300は、弾性帯310に長さ調節具320を挿通させ、弾性帯310の一端側に雄型係止体320Bを保持させている。止めバンド300は、プロテクター本体100の下部側の一側縁に止着されたループ状の止具112に、弾性帯310の他端側を止着するとともに、プロテクター本体100の下部側の他側縁に止着された雌型係止体320Aに、雄型係止体320Bを係脱自在に係合連結してある。
【0018】
内部空間530には、発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填されている。
【0019】
内部空間530に充填されている発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の反発係数は、視覚障害者スポーツの競技性を低下させない限り特に限定されるものではないが、例えば0.16〜0.22とすることが可能である。また、予備発泡粒の衝撃吸収性を示すpeak forceは、使用者の身体を保護できる限り特に限定されるものではないが、例えば500〜700Nとすることが可能である。
【0020】
内部空間530での発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の充填密度は、特に限定されるものではないが、例えば0.01〜0.02g/cm
3であることが好ましい。充填密度が0.01g/cm
3よりも低い場合は衝撃吸収性が低下する虞があるからであり、一方、充填密度が0.02g/cm
3よりも高い場合は低反発性が低下する虞があるからである。
【0021】
発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば2〜6mmであることが好ましい。平均粒径が2mmよりも小さい場合は衝撃吸収性が低下する虞があるからであり、一方、平均粒径が6mm大きい場合は低反発性が低下する虞があるからである。
【0022】
発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒の発泡倍率は、特に限定されるものではないが、例えば30〜100倍であることが好ましい。一般的に、発泡倍率が高いほど予備発泡粒の感触は柔らかく、発泡倍率が低いほど予備発泡粒の感触は硬くなるところ、発泡倍率が30よりも小さい場合は衝撃吸収性が低下する虞があるからであり、一方、発泡倍率が100よりも大きい場合は低反発性が低下する虞があるからである。
【0023】
なお、発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒はそのままでは摩擦抵抗が高いため、ステアリン酸亜鉛を潤滑剤としてコーティングすることも可能である。
【0024】
本実施形態にかかるプロテクター900によれば、プロテクター本体100の内部空間530に発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填されているため、プロテクター本体100に例えばスポーツに使用される球が衝突した場合、衝突地点を中心に予備発泡粒が移動する。これにより衝撃吸収性のみならず優れた低反発性が実現される。
【0025】
(その他の実施形態)
図2は、別実施形態にかかるプロテクター900の説明図である。
図2に示されるように、プロテクター900において、プロテクター本体100の裏側壁部520の裏側(使用者側)には、断面波形に形成された波形板600が配設されている。
【0026】
波形板600は、円弧状の凹部620及び円弧状の凸部610が連続する波形状の断面を有している。波形板600の凹部620の裏面には接着剤621が塗布されており、波形板600は凹部620において裏側壁部520の裏側に対して接合されている。接着剤621は、特に限定されるものではないが、例えばポリ酢酸ビニル系接着剤等を使用することができる。波形板600は、特に限定されるものではないが、例えばウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のゴム類にて形成される。
【0027】
プロテクター900をスポーツに使用すると、使用者の胸部とプロテクター本体100の裏側壁部520とが使用者に密着することにより、使用者の身体が蒸れる虞があるが、本実施形態にかかるプロテクター900では、凹部620の表面と使用者の胸部との間に空間630が形成され、この空間630を空気が通りぬける効果(煙突効果)により、使用者の身体が蒸れにくい。
【0028】
なお、波形板600の断面形状は、
図2に示したような円弧状の凹部620及び凸部610に限定されるものではなく、例えば、台形状の凹部及び凸部が連続する波形や、三角形の凹部及び凸部が連続する波形とすることも可能である。
【実施例】
【0029】
表側壁部と裏側壁部との周縁相互が結合されて内部空間が形成されたプロテクター本体を作成した。表側壁部及び裏側壁部は、ともに厚さ2mmのナイロン生地であった。プロテクター本体は150mm×150mm×12mmであった。内部空間には、発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填さ、その平均粒径は2〜3mmであり、充填密度は0.02g/cm
3であり、発泡倍率は50倍であった。比較例としての従来のプロテクター本体は、内部空間に発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填されていない以外は、上述と同様のものであった。
【0030】
まず、peak forceを測定した。peak forceの測定は、
図3に示すように、長さ65cmの振り子の先にゴールボールを取り付けた倒立振子型の衝撃試験機を使用した。床反力計(キスラー社製9281B)の上に置いた試験片に振り子を衝突させたときの減衰効果を最大床反力値により比較した。衝突速度は速度12.8km/h(算出値)であり、実際の競技におけるゴールボールの日本代表女子選手の投球速度の約1/3程度であった。サンプリング周波数は1000Hz、試行回数は6回とし、平均値で比較した。その結果、従来のプロテクター本体でのpeak forceは652Nであったが、本発明に使用されるプロテクター本体でのpeak forceは596Nであった。
【0031】
次に、反発係数を測定した。試験片は、上記のpeak forceの測定で使用したものと同じものを使用した。速度36km/h相当の圧縮空気によりゴールボールで使用されるボールを発射して試験片に衝突させる実験を行った。
反発係数は、高さh
0から振り子を落下させ,跳ね返った後の到達高さをh
1としたときの反発係数を√(h
1/h
0)として計算した。その結果、従来のプロテクター本体の反発係数は0.53であったが、本発明に使用されるプロテクターの反発係数は0.42であった。
【0032】
上述のこれらの結果を下記表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示されるように、本発明ではプロテクター本体の内部空間に発泡ポリスチレンビーズの予備発泡粒が充填されているため、衝撃吸収性のみならず優れた低反発性が実現されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
視覚障害者スポーツ等のスポーツを行う際に使用者の胸部及び腹部を保護するために用いられる。
【符号の説明】
【0036】
100:プロテクター本体
200:吊りバンド
300:止めバンド
510:表側壁部
520:裏側壁部
530:内部空間
600:波形板
900:プロテクター