特許第6221111号(P6221111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221111
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】摩耗量検知装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/02 20060101AFI20171023BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20171023BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20171023BHJP
【FI】
   F16D66/02 F
   F16D66/02 X
   F16D65/18
   F16D121:24
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-147419(P2013-147419)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21508(P2015-21508A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】杉本 喬紀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 喜亮
(72)【発明者】
【氏名】松見 敏行
(72)【発明者】
【氏名】宮本 寛明
(72)【発明者】
【氏名】初見 典彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 将人
(72)【発明者】
【氏名】初田 康之
(72)【発明者】
【氏名】橋坂 明
(72)【発明者】
【氏名】南部 壮佑
(72)【発明者】
【氏名】水井 俊文
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−046267(JP,A)
【文献】 特開2013−053742(JP,A)
【文献】 特開2007−239899(JP,A)
【文献】 特開2005−069268(JP,A)
【文献】 特開2013−015210(JP,A)
【文献】 特開2006−105224(JP,A)
【文献】 特開2010−203562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 66/02
F16D 65/18
F16D 121/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車軸と共に回転するディスクロータと、
前記ディスクロータと接触することにより車両の制動エネルギーを得るブレーキパッドと、
電動モータによって動作され、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに対して接触させる電動ピストンと、
前記接触を検出する接触検出手段と、
前記電動ピストンが、所定の位置から前記接触検出手段によって接触が検出された位置までに移動したストローク量を検出するピストンストローク量検出手段と、
ブレーキ操作が行われたことを検出するブレーキ検出手段と、
前記ディスクロータまたは前記ブレーキパッドを組付けた際に前記ピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量と、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドを使用するために前記ブレーキ検出手段によってブレーキ操作が検出された際の前記ピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量との差から前記ディスクロータおよび前記ブレーキパッドの摩耗量を算出すると共に、前記自動車の車両状態に基づいて前記ディスクロータのロータ摩耗量を予測する演算部と
を備え
前記演算部は、前記自動車の総走行距離に基づいて予測される第一のロータ摩耗量と前記自動車の累積ブレーキ回数に基づいて予測される第二のロータ摩耗量とを比較して大きい値となるものを前記ディスクロータのロータ摩耗量として選択する
ことを特徴とする摩耗量検知装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記ディスクロータおよび前記ブレーキパッドの摩耗量と前記ディスクロータのロータ摩耗量との差から前記ブレーキパッドのパッド摩耗量を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の摩耗量検知装置。
【請求項3】
前記ピストンストローク量検出手段は、前記電動ピストンにおける前記電動モータのモータ回転角を検出するモータ回転角センサである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩耗量検知装置。
【請求項4】
前記接触検出手段は、前記電動ピストンが前記ブレーキパッドに掛ける荷重を検出する荷重センサである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の摩耗量検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のディスクブレーキにおけるブレーキパッドおよびディスクロータの摩耗量を検知する摩耗量検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、ブレーキ装置の一つ(特に、フットブレーキ)として、ディスクブレーキが用いられることが多い。ディスクブレーキは、車軸と共に回転するディスクロータにブレーキパッドを押付け、ディスクロータとブレーキパッドとの摩擦力によって車両の制動を行うものである。
【0003】
自動車におけるディスクブレーキには、一般的に、油圧式ディスクブレーキが採用されている。油圧式ディスクブレーキは、ディスクロータの一部を囲うように設置される断面コ字状のキャリパーに油圧式ピストンを設け、油圧によってピストンおよびキャリパーを移動させ、ピストン部先端に設けたブレーキパッドおよびキャリパーに設けたブレーキパッドでディスクロータを挟む機構である。
【0004】
油圧式ディスクブレーキにおいては、油圧によって、ブレーキパッドの押付け力、すなわち、車両の制動力を制御しているので、ピストンストロークを計測可能なセンサは付いていない。よって、ブレーキパッドおよびディスクロータにおける摩耗量は、車検などの点検の際に検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−105224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、車両点検の間隔が開いた場合には、ブレーキパッドおよびディスクロータの摩耗が進行し、ブレーキパッドおよびディスクロータが許容される所定値以上に摩耗してしまう虞がある。
【0007】
なお、ブレーキにおけるディスクの摩耗量を計測する手段としては、特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の技術は、航空機用ブレーキにおいて、機体のコントロールシステム始動時に、ディスクを押圧するピストンを作動させる電動モータのモータ回転角度からピストンの原点位置およびディスクとのコンタクト位置を検出し、ディスク摩耗量を算出すると共に、ディスクとピストン間のディスク隙間を調整する電動ブレーキであるが、自動車におけるディスクブレーキのピストン部先端に設けるブレーキパッドに相当するものを測定するようにはなっていない。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、自動車のディスクブレーキにおけるブレーキパッドおよびディスクロータの摩耗量を計測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第一の発明に係る摩耗量検知装置は、自動車の車軸と共に回転するディスクロータと、前記ディスクロータと接触することにより車両の制動エネルギーを得るブレーキパッドと、電動モータによって動作され、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに対して接触させる電動ピストンと、前記接触を検出する接触検出手段と、前記電動ピストンが、所定の位置から前記接触検出手段によって接触が検出された位置までに移動したピストンストローク量を検出するピストンストローク量検出手段と、ブレーキ操作が行われたことを検出するブレーキ検出手段と、前記ディスクロータまたは前記ブレーキパッドを組付けた際に前記ピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量と、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドを使用するために前記ブレーキ検出手段によってブレーキ操作が検出された際の前記ピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量との差から前記ディスクロータおよび前記ブレーキパッドの摩耗量を算出すると共に、前記自動車の車両状態に基づいて前記ディスクロータのロータ摩耗量を予測する演算部とを備え、前記演算部は、前記自動車の総走行距離に基づいて予測される第一のロータ摩耗量と前記自動車の累積ブレーキ回数に基づいて予測される第二のロータ摩耗量とを比較して大きい値となるものを前記ディスクロータのロータ摩耗量として選択することを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第二の発明に係る摩耗量検知装置は、第一の発明に係る摩耗量検知装置において、前記演算部は、前記ディスクロータおよび前記ブレーキパッドの摩耗量と前記ディスクロータのロータ摩耗量との差から前記ブレーキパッドのパッド摩耗量を算出することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第三の発明に係る摩耗量検知装置は、第一または第二の発明に係る摩耗量検知装置において、前記ピストンストローク量検出手段は、前記電動ピストンにおける前記電動モータのモータ回転角を検出するモータ回転角センサであることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第四の発明に係る摩耗量検知装置は、第一から第三のいずれかの発明に係る摩耗量検知装置において、前記接触検出手段は、前記電動ピストンが前記ブレーキパッドに掛ける荷重を検出する荷重センサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第一の発明に係る摩耗量検知装置によれば、自動車のディスクブレーキにおいて摩擦等によって摩耗する部品の摩耗量を計測可能な摩耗量検知装置であって、ディスクロータまたはブレーキパッドを組付けた際のピストンストローク量と、ディスクロータおよびブレーキパッドを使用するためにブレーキ検出手段によってブレーキ操作が検出された際のピストンストローク量との差から、ディスクロータおよびブレーキパッドの摩耗量を算出しているので、車両の点検時やエンジン始動時に限られず、ブレーキ操作を行うことのできる走行中においてもディスクロータおよびブレーキパッドの摩耗量を計測することができる。
また、第一の発明に係る摩耗量検知装置によれば、演算部が、ディスクロータの摩耗量を予測することができる。ここで、演算部におけるディスクロータの摩耗量は、自動車の総走行距離に基づいて、または、自動車の累積ブレーキ回数に基づいて、正確に算出される。
【0015】
第二の発明に係る摩耗量検知装置によれば、演算部が、ディスクロータの摩耗量を予測し、ディスクロータおよびブレーキパッドの摩耗量とディスクロータのロータ摩耗量との差からブレーキパッドの摩耗量を算出することにより、ブレーキパッドの摩耗量を正確に計測することができる。
【0017】
第三の発明に係る摩耗量検知装置によれば、ピストンストローク量検出手段として、電動ピストンにおける電動モータのモータ回転角を検出するために通常装備されるモータ回転角センサを利用することにより、新たな構成部品を追加する必要がないので、製造コストの増大を抑えることができる。
【0018】
第四の発明に係る摩耗量検知装置によれば、接触検出手段として、電動ピストンがブレーキパッドに掛ける荷重を検出するために通常装備される荷重センサを利用することにより、新たな構成部品を追加する必要がないので、製造コストの増大を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1に係る摩耗量検知装置における制御を示すブロック図である。
図2】実施例1に係る摩耗量検知装置における制御を示すフローチャートである。
図3】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキにおけるディスクロータおよびブレーキパッド新品時の待機位置を示す説明図である。
図4】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキにおけるディスクロータおよびブレーキパッド新品時の制動位置を示す説明図である。
図5】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキにおけるディスクロータおよびブレーキパッド摩耗時の待機位置を示す説明図である。
図6】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキにおけるディスクロータおよびブレーキパッド摩耗時の制動位置を示す説明図である。
図7】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキとはブレーキパッドの押圧構造の異なる例を示す説明図である。
図8】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキおよび図7とはブレーキパッドの押圧構造の異なる例を示す説明図である。
図9】実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキ、図7および図8とはブレーキパッドの押圧構造の異なる例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る摩耗量検知装置の実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキの構造およびブレーキ機構について、図3を参照して説明する。
【0022】
図3に示すように、本実施例に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキ1は、図示しない車輪軸に固定されて当該車輪軸と共に回転する円盤状のディスクロータ10と、図示しないフレームに支持されてディスクロータ10の一部を外周側から囲うように設置される断面コ字形状のキャリパー20と、キャリパー20の一端部(図3における左端部)21の内側(ディスクロータ10側、すなわち、図3における右方側)に連結されて車輪軸方向(図3における左右方向)において移動可能なピストンを有する電動ピストン30と、後述する摩耗量検知装置とを備える。
【0023】
本実施例における電動ピストン30は、電動モータ31と、電動モータ31と連結する図示しないピストン機構を有し車輪軸と同方向(図3における左右方向)の中心軸を持つ円筒状のシリンダ部32と、シリンダ部32に把持されてシリンダ部32からディスクロータ10側(図3における右方側)へ移動可能な第一ピストン部33と、シリンダ部32に把持されてシリンダ部32からディスクロータ10と反対の側(第一ピストン部33の逆側、すなわち、図3における左方側)へ移動可能な第二ピストン部34とを備える。
【0024】
電動ピストン30の第一ピストン部33の先端部(ディスクロータ10側の端部、すなわち、図3における右方側端部)35には、ディスクロータ10に対して接触または離反させるブレーキパッド40が設置される。電動ピストン30の電動モータ31およびシリンダ部32は、図示しない取付け用ポートを介して、車体に固定されているので、電動ピストン30における第一ピストン部33の移動によって、ブレーキパッド40は移動され、ディスクロータ10の一方の側面10aに押付けられることにより摩擦力を生じ、車両の制動エネルギーが得られる。
【0025】
電動ピストン30の第二ピストン部34の先端部(ディスクロータ10と反対側の端部、すなわち、図3における左方側端部)36は、キャリパー20の一端部21の内側に連結される。一方、キャリパー20の他端部(図3における右端部)22の内側(ディスクロータ10側、すなわち、図3における左方側)には、ディスクロータ10に対して接触または離反させるブレーキパッド41が設置される。前述したように電動ピストン30の電動モータ31およびシリンダ部32は、車体に固定されているので、電動ピストン30における第二ピストン部34の移動によって、第二ピストン部34と連結されたキャリパー20およびブレーキパッド41は移動され、ディスクロータ10の他方の側面10bに押付けられることにより摩擦力を生じ、車両の制動エネルギーが得られる。
【0026】
運転者が図示しないブレーキペダルを踏むことにより、電動モータ31は正方向に作動される。電動モータ31の軸回転運動は、シリンダ部32に内蔵された図示しないピストン機構によって、車輪軸方向(図3における左右方向)における直線運動に変換される。この直線運動によって、第一ピストン部33は、ディスクロータ10側へ移動され、第二ピストン部34は、ディスクロータ10と反対の側へ移動される。
【0027】
第一ピストン部33の先端部35に設けられたブレーキパッド40は、第一ピストン部33の移動によってディスクロータ10の側面10aに接触し、キャリパー20の他端部22内側に設けられたブレーキパッド41は、第二ピストン部34の移動によってキャリパー20が移動することにより、ディスクロータ10の側面10bに接触する。よって、ディスクロータ10がブレーキパッド40,41によって挟まれて摩擦力が生じ、車両に制動力が作用する。
【0028】
一方、運転者が図示しないブレーキペダルから足を離すことにより、電動モータ31は逆方向に作動される。電動モータ31の逆方向の軸回転運動は、シリンダ部32における図示しないピストン機構によって、車輪軸方向(図3における左右方向)における直線運動に変換される。この直線運動によって、第一ピストン部33は、ディスクロータ10と反対の側へ移動され、第二ピストン部34は、ディスクロータ10側へ移動される。
【0029】
第一ピストン部33の先端部35に設けられたブレーキパッド40は、第一ピストン部33の移動によってディスクロータ10の側面10aから離反し、キャリパー20の他端部22内側に設けられたブレーキパッド41は、第二ピストン部34の移動によってキャリパー20が移動することにより、ディスクロータ10の側面10bから離反する。よって、ディスクロータ10とブレーキパッド40,41との間における摩擦力はなくなり、車両には制動力が作用しなくなる。
【0030】
本実施例においては、電動モータ31のシリンダ部32に内蔵される図示しないピストン機構は、回転角速度ω[rad/s]の電動モータ31の正方向の軸回転運動によって、第一ピストン部33および第二ピストン部34がそれぞれ同一の移動速度v[mm/s]で離れる方向に移動(伸長)され、回転角速度−ω[rad/s]の電動モータ31の逆方向の軸回転運動によって、第一ピストン部33および第二ピストン部34がそれぞれ同一の移動速度v[mm/s]で近づく方向に移動(萎縮)されるものである。
【0031】
ここで、電動モータ31の回転角速度ω[rad/s]と第一ピストン部33および第二ピストン部34の移動速度v[mm/s]との関係は、係数A[mm/rad]を用いて、下式(1)により表される。
【0032】
v[mm/s]=ω[rad/s]×A[mm/rad] ・・・(1)
【0033】
次に、本発明の実施例1に係る摩耗量検知装置の構成および摩耗量の計測について、図1および図3から図6を参照して説明する。
【0034】
本実施例に係る摩耗量検知装置は、図1に示すように、摩耗量を計測するタイミングを検知する摩耗量検知開始トリガ部50と、ブレーキパッド40,41の摩耗量(以下、本明細書においては、パッド摩耗量という)WP[mm]およびディスクロータ10の摩耗量(以下、本明細書においては、ロータ摩耗量という)WR[mm]を計測すると共に計測結果に対する警告の要否を決定する演算部60と、演算部60のパッド摩耗量計測部70におけるパッド摩耗量WP[mm]の算出に利用される荷重センサ80およびモータ回転角センサ90と、演算部60のロータ摩耗量計測部100におけるロータ摩耗量WR[mm]の算出に利用される走行距離検出手段110およびブレーキ回数記憶部120と、演算部60の警告判定部130における警告指示によって警告を表示する表示部140とを備える。
【0035】
本実施例においては、摩耗量検知開始トリガ部50を、図示しないブレーキペダルを利用してブレーキ操作が行われたことを検出するブレーキ検出手段とし、ブレーキペダルが運転者によって所定値以上に踏み込まれた場合に、パッド摩耗量WP[mm]の計測を開始する。
【0036】
荷重センサ80およびモータ回転角センサ90は、ブレーキパッド40,41がディスクロータ10と接触する位置を検出する接触位置検出手段として利用される。詳細には、荷重センサ80は、ブレーキパッド40,41とディスクロータ10との接触を検出する手段であって、電動ピストン30によってブレーキパッド40,41がディスクロータ10に対して接触または離反する接触離反タイミングを検出するタイミング検出手段(接触検出手段)として利用され、モータ回転角センサ90は、電動ピストン30のピストンストロークを検出する手段であって、電動ピストン30が所定の位置から接触検出手段によって接触が検出された位置までに移動したピストンストローク量を検出するピストンストローク量検出手段として利用される。荷重センサ80およびモータ回転角センサ90による接触位置検出については、以下に説明する。
【0037】
運転者がブレーキ操作をしていない場合には、ブレーキパッド40,41は、ディスクロータ10と離反した状態の待機位置にあり(図3参照)、ブレーキパッド40,41には、荷重は掛かっていない(荷重センサ80の検出値であるパッド荷重P=0[N])。そして、運転者がブレーキ操作を行うと、ブレーキパッド40,41は、ディスクロータ10と接触する接触位置となり(図4参照)、ブレーキパッド40,41には、荷重が掛かる(パッド荷重P>0[N])。更に、運転者がブレーキ操作を中止することにより、ブレーキパッド40,41は、ディスクロータ10から離反した状態の待機位置に戻り(図3参照)、ブレーキパッド40,41には、再び荷重が掛からなくなる(パッド荷重P=0[N])。
【0038】
本実施例においては、ブレーキパッド40,41に掛けられた荷重Pが抜けるとき、すなわち、パッド荷重P=0[N]に戻るときに、モータ回転角センサ90によって検出される回転角度を基準モータ回転角θ[rad]とする。そして、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41を組付けた際(図3および図4)の基準モータ回転角θ[rad]を組付け時(新品時)基準モータ回転角θa[rad]とし、そのディスクロータ10およびブレーキパッド40,41を使用している際(図5および図6)の基準モータ回転角θ[rad]を摩耗時基準モータ回転角θb[rad]とする。なお、モータ回転角が0度の位置(所定の位置)は、例えば、最もブレーキパッド40,41がディスクロータ10から離れた位置とする。
【0039】
ここで、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41を組付けた際とは、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41をディスクブレーキ1に組付けた直後のことであり、車両が新車の状態、または、摩耗等によりディスクロータ10およびブレーキパッド40,41を交換した状態を含む。もちろん、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41を両方同時に交換した状態だけでなく、ディスクロータ10またはブレーキパッド40,41のいずれか一方のみを交換した状態でも良い。
【0040】
新品時基準モータ回転角θa[rad]と摩耗時基準モータ回転角θb[rad]との差は、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗による電動ピストン30の組付け時のピストンストローク量と使用時のピストンストローク量との差であり、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の総摩耗量(摩耗量)W[mm]である。よって、ディスクロータ10またはブレーキパッド40,41を組付けた際にピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量と、ディスクロータ10とブレーキパッド40,41を使用するためにブレーキ検出手段によってブレーキ操作が検出された際のピストンストローク量検出手段で検出されたピストンストローク量との差から、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量を算出する。本実施例では、演算部60において、式(1)と同様に係数A[mm/rad]を用いて、下式(2)によってディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の総摩耗量W[mm]が算出される。
【0041】
W[mm]=(WP+WR)[mm]
=(θb−θa)[rad]×A[mm/rad] ・・・(2)
【0042】
ディスクロータ10は、ブレーキパッド40,41よりも硬い材質のものであり、ロータ摩耗量WR[mm]は、パッド摩耗量WP[mm]よりも少ない。本実施例においては、ロータ摩耗量WR[mm]を、自動車の車両状態を示す車両の総走行距離D[km]またはディスクブレーキ1の使用回数(以下、本明細書においては、累積ブレーキ回数という)n[回]によって概算して予測する。
【0043】
走行距離検出手段110によって検出される総走行距離D[km]とロータ摩耗量WR[mm]との関係は、係数Bを用いて、下式(3)によって表される。なお、総走行距離D[km]から求められるロータ摩耗量WR[mm]の予測値を、ロータ摩耗量WR1[mm]とする。
【0044】
R1[mm]=D[mm]×B ・・・(3)
【0045】
また、累積ブレーキ回数n[回]とロータ摩耗量WR[mm]との関係は、係数C[mm/回]を用いて、下式(4)によって表される。なお、累積ブレーキ回数n[回]から求められるロータ摩耗量WR[mm]の予測値を、ロータ摩耗量WR2[mm]とする。
【0046】
R2[mm]=n[回]×C[mm/回] ・・・(4)
【0047】
本実施例においては、上記で求めたWR1[mm]またはWR2[mm]のうち大きい値となる方を選択し、ロータ摩耗量WR[mm]として採用する。よって、式(2)により求めたディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の総摩耗量W[mm]、および式(3)または式(4)により求めたWR[mm]から、正確なパッド摩耗量WP[mm]が下式(5)によって求められる。
【0048】
P[mm]=W[mm]−WR[mm] ・・・(5)
【0049】
なお、本実施例においては、運転者のブレーキ操作から車両へ制動力が作用する時間を一定とするために、ディスクロータ10とブレーキパッド40,41との距離αを一定に設定している。この距離αは、新品時基準モータ回転角θa[rad]または摩耗時基準モータ回転角θb[rad]から所定のモータ回転数の軸回転運動分だけ電動モータ31を逆方向に動作させることにより設定される。
【0050】
次に、本発明の実施例1に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキ1における摩耗量計測の制御について、図1から図4を参照して説明する。
【0051】
まず、ステップS1において、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量の検知を開始すべきか否かを判断する。本実施例においては、運転者が摩耗量検知開始トリガ部50としての図示しないブレーキペダルを踏んだ場合には、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量の検知を開始すべきとし、運転者がブレーキペダルを踏んでいない場合には、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量の検知を開始すべきではないとする。
【0052】
ステップS1において、運転者が摩耗量検知開始トリガ部50としての図示しないブレーキペダルを踏み、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量の検知を開始すべきであると判断された場合には、ステップS2へ移行する。なお、ステップS1において、運転者がブレーキペダルを踏まず、ディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量の検知を開始すべきでないと判断された場合には、再びステップS1へ戻る。
【0053】
次に、ステップS2において、荷重センサ80およびモータ回転角センサ90が正常に作動しているか否かを判断する。本実施例においては、荷重センサ80およびモータ回転角センサ90が最大値または最低値に張り付いていないか否かが判断される。すなわち、電動モータ30を作動させたにも関わらず、モータ回転角センサ90がモータ回転角θ[rad]の変位を検出しない場合には、モータ回転角センサ90が正常に作動していないと判断され、電動モータ30を作動させてモータ回転角θ[rad]を所定値以上させたにも関わらず、荷重センサ80がパッド荷重Pの変位を検出しない場合には、荷重センサ80が正常に作動していないと判断される。
【0054】
ステップS2において、荷重センサ80およびモータ回転角センサ90が正常に作動していると判断された場合には、ステップS3へ移行する。なお、荷重センサ80およびモータ回転角センサ90が正常に作動していないと判断された場合には、再びステップS1へ戻る。
【0055】
次に、ステップS3において、パッド荷重P[N]が所定値Q[N]以上であるか否かを判断する。本実施例においては、荷重センサ80によってパッド荷重P[N]を計測し、荷重センサ80によるパッド荷重P[N]を所定値Q[N]と比較する。
【0056】
ステップS3において、パッド荷重P[N]が所定値Q[N]以上である(P≧Q)と判断した場合には、ステップS4へ移行する。ステップS3において、パッド荷重P[N]が所定値Q[N]以上ではない(P<Q)と判断した場合には、再びステップS1へ戻る。この所定値Q[N]は、車両の振動や電動ピストン30を作動させたときの慣性等によって、荷重センサ80が検出する可能性のない値とすることが好ましい。
【0057】
次に、ステップS4において、モータ回転角θ[rad]が所定値R[rad]以上であるか否かが判断される。本実施例においては、モータ回転角センサ90によってモータ回転角θ[rad]を計測し、モータ回転角センサ90によるモータ回転角θ[rad]を所定値R[rad]と比較する。
【0058】
ステップS4において、モータ回転角θ[rad]が所定値R[rad]以上である(θ≧R)と判断された場合には、ステップS5へ移行する。ステップS4において、モータ回転角θ[rad]が所定値R[rad]以上でない(θ<R)と判断された場合には、再びステップS1へ戻る。この所定値R[rad]は、以前に計測された新品時基準モータ回転角θa[rad]または摩耗時基準モータ回転角θb[rad]とすることが好ましい。
【0059】
次に、ステップS5において、ロータ摩耗量WR[mm]およびパッド摩耗量WP[mm]を計測する。ステップS5において、ロータ摩耗量WR[mm]を演算部60におけるロータ摩耗量計測部100によって算出すると共に、パッド摩耗量WP[mm]を演算部60におけるパッド摩耗量計測部70によって算出する。
【0060】
本実施例においては、ロータ摩耗量WR[mm]を、式(3)および式(4)、すなわち、自動車の車両状態を示す車両の総走行距離D[km]および累積ブレーキ回数n[回]によってロータ摩耗量WR1,WR2[mm]を算出し、WR1[mm]またはWR2[mm]のうち大きい値となる方を選択し、ロータ摩耗量WR[mm]とする。また、新品時基準モータ回転角θa[rad]と摩耗時基準モータ回転角θb[rad]との差から、式(2)によってディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の総摩耗量W[mm]を算出し、式(5)に上記のロータ摩耗量WR[mm]を代入することによって正確なパッド摩耗量WP[mm]が算出される。
【0061】
次に、ステップS6において、ロータ摩耗量WR[mm]が所定値WA[mm]以上であるか否か、または、パッド摩耗量WP[mm]が所定値WB[mm]以上であるか否かを判断する。ここで、所定値WA[mm]および所定値WB[mm]は、車検等で定められた基準に準ずるように設定する。
【0062】
ステップS6において、ロータ摩耗量WR[mm]が所定値WA[mm]以上、または、パッド摩耗量WP[mm]が所定値WB[mm]以上である場合には、ステップS7において警告を表示し、再びステップS1へ戻る。なお、ステップS6において、ロータ摩耗量WR[mm]が所定値WA[mm]未満、かつ、パッド摩耗量WP[mm]が所定値WB[mm]未満である場合には、そのままステップS1へ戻る。
【0063】
以上の制御によって、本実施例に係る摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキ1における摩耗量計測が行われる。上述の摩耗量計測は、車両の車検等の点検時だけでなく、車両の運転中すなわち走行中においても行われる。よって、本実施例に係る摩耗量検知装置によれば、使用毎すなわちリアルタイムのディスクロータ10およびブレーキパッド40,41の摩耗量を計測することができる。
【0064】
本実施例においては、摩耗量検知装置を備えたディスクブレーキ1におけるブレーキ機構として、いわゆるフローティングキャリパの構造を採用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図7に示すように、キャリパー220を図示しないフレームに固定して一方側から電動ピストンによってブレーキパッド40をディスクロータ10に押付けるだけの構造としても良く、図8に示すように、電動ピストン330aによってブレーキパッド40をディスクロータ10に押付けると共に、キャリパー320を別の電動ピストン330bによって移動させることによりブレーキパッド41をディスクロータ10に押付けても良く、図9に示すように、両側から二つの電動ピストン430a,430bによってブレーキパッド40,41をそれぞれディスクロータ10に押付けても良い。なお、図7から図9において、その他の構成部材に関しては、図3から図6に示した構成部材と同一の構成部材に、同一の符号を付して表してある。
【0065】
以上で発明の実施の形態の説明を終えるが、発明の形態は本実施の形態に限定されるものではない。本実施例では、モータ回転角の0度の位置は最もブレーキパッド40がディスクロータ10から離れた位置としたが、これに限るものではなく任意の位置としても良い。もちろん、組付け時の位置を基準として使用しても良い。
また、ロータ摩耗量の予測値は、車両の総走行距離に基づいて、または、車両の累積ブレーキ回数に基づいて算出されるものであるとしたが、これに限るものではなく、自動車の車両状態に基づいて、例えば、車両の使用時間やこれらを複合して用いたものとしても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 ディスクブレーキ
10 ディスクロータ
20 キャリパー
30 電動ピストン
31 電動モータ
32 シリンダ部
33 第一ピストン部
34 第二ピストン部
35 第一ピストン部の先端部
36 第二ピストン部の先端部
40 ブレーキパッド
41 ブレーキパッド
50 摩耗量検知開始トリガ部
60 演算部
70 パッド摩耗量計測部
80 荷重センサ
90 モータ回転角センサ
100 ロータ摩耗量計測部
110 走行距離検出手段
120 ブレーキ回数記憶部
130 警告判定部
140 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9