(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(太陽電池用冷却部材)
以下、本発明の一実施形態に係る太陽電池用冷却部材について説明をおこなう。
本発明の太陽電池用冷却部材は、飽和含水率が30質量%以上100質量%以下である多孔質焼結体を含むものである。
【0013】
本発明の多孔質セラミックス焼結体とは、内部に気孔が形成されたものである。 多孔質セラミックス焼結体に形成されている気孔の大きさは、例えば、孔径10〜1000nmのナノメートルオーダーの気孔であってもよいし、孔径1μm超1000μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔であってもよいし、孔径1mm超500mm以下のミリメートルオーダーの気孔であってもよいし、これらの気孔が混在していてもよい。気孔の孔径は、原料の種類や、焼成条件を組み合わせることにより調節できる。なお、ミリメートルオーダーの気孔の孔径は、多孔質セラミックス焼結体を切断し、スケールを用いて気孔の長径を測定した値である。ナノメートルオーダー及びマイクロメートルオーダーの気孔の孔径は、多孔質セラミックス焼結体を切断し、電子顕微鏡を用いて気孔の長径を測定した値である。
【0014】
多孔質セラミックス焼結体に形成されている気孔は、それぞれ独立したものであってもよいし、相互に連通した連通孔であってもよい。多孔質セラミックス焼結体は、長期間優れた冷却性能を発揮するためには、連通孔を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の多孔質セラミックス焼結体は、飽和含水率が30質量%以上100質量%以下である。飽和含水率が30%未満であると雨が降らない期間が長期に亘ると、多孔質セラミックス焼結体の内部の水がほとんど蒸発してしまい、雰囲気温度を低下させることができなくなり、太陽電池の温度上昇を抑制できなくなるおそれがある。また、水の頻繁な供給が必要となり水の供給手段やそのメンテナンスが必要となってしまうおそれがある。飽和含水率は、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上がよい。
【0016】
また、飽和含水率が100質量%を超えると、多孔質セラミックス焼結体を板状物として用いる場合に、強度が不足し、施工中などに板状物が割れるおそれがある。また、水の蒸発速度も速くなり、雨が降らない期間が長期に亘ると、多孔質セラミックス焼結体の内部の水がほとんど蒸発してしまい、上記と同様に雰囲気温度を低下させることができなくなり、太陽電池の温度上昇を抑制できなくなるおそれや水の供給手段やメンテナンスが必要となるおそれがある。
【0017】
多孔質セラミックス焼結体は、[絶乾状態の多孔質セラミックスの質量(g)]/[多孔質セラミックスの体積(cm
3)]で表される嵩比重が、好ましくは0.4〜1.3g/cm
3、より好ましくは0.45〜1.1g/cm
3、さらに好ましくは0.55〜0.85g/cm
3とされる。嵩比重が上記下限値以上であれば、多孔質セラミックス焼結体の強度をより高められ、上記上限値以下であれば屋根等に太陽電池を敷設する際に屋根等の設置場所に対する重量的な負荷を軽減することができる。
【0018】
多孔質セラミックス焼結体の形状は、設置場所等を勘案して決定することができ、例えば、板状物、粒状物が挙げられる。板状物は三角形、四角形、五角形などの多角形状、円盤状等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、粒状物の形状は特に限定されず、前記の板状物を粉砕したものやペレットを形成し焼成などして得られた不定形状、柱状、針状、球状、板状等の粒状物等が挙げられる。板状物と粒状物の区別はその大きさと用い方により区別すればよく、長辺が3cm以上であり、太陽電池用冷却部材として多孔質セラミック焼結体を敷き詰める際、平坦な面を形成するために用いるものを板状物とし、長辺が10cm未満であり、多孔質セラミックス焼結体を敷き詰める際、多孔質セラミックスの向きをランダムに敷き詰めるものを粒状物と区別すればよい。なお、立方体、直方体、角柱や円柱などのブロック状のものも上記の大きさと使い方により板状物と粒状物に区分けされる。板状物であれば、多孔質セラミックス焼結体内の水がより長期間保有され、真夏の炎天下が続いても水の補給の回数が削減でき、雑草なども生えにくいため、長期間メンテナンスを行う必要がなく、メンテナンス性の観点より好ましい。粒状物であれば、太陽電池の冷却効果の観点よりより好ましい。
【0019】
多孔質セラミックス焼結体の大きさは、太陽電池の設置場所等を勘案して決定でき、例えば、板状物であれば、タテ6〜200cm×ヨコ6〜200cm×厚み1〜10cmが好ましく挙げられ、また、粒状物であれば粒子径0.5mm以上、6cm未満の大きさのものが好ましく挙げられる。 大きさは、板状物であればスケールを用いて測定することができ、粒状物であれば篩をもちいて測定することができる。たとえば、目開き1cmの篩を通過したものは粒子径1cm以下、通過しなかったものは1cm超とする。
【0020】
<多孔質セラミックス焼結体の製造方法>多孔質セラミックス焼結体の製造方法は、例えば、原料を混合して混合物(以下、単に混合物ということがある)とし(混合工程)、混合物を成形して成形体とし(成形工程)、成形体を焼成して多孔質セラミックス焼結体を得る(焼成工程)方法等が挙げられる。
【0021】
混合工程は、粘土を含む原料を混合して混合物を得る工程である。 混合物としては、例えば、スラグ、有機汚泥、珪藻土、フィラーからなる群から選択される少なくとも1種と、粘土とを含むものが好ましく、スラグ、有機汚泥及び粘土を含むものがより好ましい。スラグを用いることで大きなミリメートルオーダーの気孔を形成することができ、珪藻土を用いることでマイクロメートルオーダーの気孔を形成することができる。また、有機汚泥を用いることでマイクロメートルオーダーの気孔と、さらに小さな気孔を形成することができる。飽和含水率などの保水能の向上と嵩比重の低減との観点からは、スラグと有機汚泥と粘土とを含むもの、もしくはスラグと珪藻土と粘土とを含むものが好ましく、強度の向上と飽和含水率などの保水能の向上の観点からは、有機汚泥と珪藻土と粘土とを含むものが好ましい。強度と、保水能と、嵩比重とをよりバランスよくするためには、スラグ、有機汚泥、珪藻土及び粘土を含むものが好ましい。このような混合物を焼成して得られた多孔質セラミックス焼結体は、連通孔を有し、多くの気孔を有するものとなる。
【0022】
スラグは、特に限定されず、例えば、金属精錬時に発生する高炉スラグ、都市ゴミの溶融時に発生する都市ゴミ溶融スラグ、下水汚泥の溶融時に発生する下水汚泥溶融スラグ、ダクタイル鋳鉄等の鋳鉄時に発生する鋳鉄スラグ等のガラス質スラグ等が挙げられ、中でも、組成が安定しているため安定した発泡状態が得られると共に、他のスラグに比べ1.5〜2倍程度の発泡率である鋳鉄スラグがより好ましい。鋳鉄スラグを用いることで、偏平な形状のミリメートルオーダーの気孔を形成し、透水性や保水性を高められる。
【0023】
配合物中のスラグの配合量は、混合物の成形性を勘案して決定することができ、例えば、80質量%以下が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、混合物の成形性を損なわず、かつ円滑に成形できると共に、多孔質セラミックス焼結体の嵩比重を好適な範囲にすることができる。 また、スラグが好ましいが、スラグに変えて、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、炭酸マグネシウムなどの焼成時に発泡する物を用いてもよい。
【0024】
有機汚泥は、主成分として有機物を含有する汚泥である。有機汚泥は、任意のものを用いることができ、下水や工場等の排水処理に由来する活性汚泥が特に好ましい。活性汚泥は、活性汚泥法を用いた排水処理設備から、凝集・脱水工程を経て排出される。このような有機汚泥を用いることで、マイクロメートルオーダーの気孔を効率的に形成でき、さらに、ナノメートルオーダーの気孔を形成できる。ナノメートルオーダーの気孔が形成されることで、嵩比重の低い多孔質セラミックス焼結体が得られ、保水性をより高められる。さらに、廃棄物の位置付けであった排水処理由来の活性汚泥を原料として再度利用することができる。 有機汚泥の含水率は、例えば、60〜90質量%が好ましく、65〜85質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、均質な混合物が得られると共に、良好な成形性を維持しやすい。
【0025】
有機汚泥中の有機物の含有量は、特に限定されないが、例えば、有機汚泥の固形分中の有機物の含有量(有機物含有量)として70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。前記有機物含有量が多いほど、マイクロメートルオーダーの気孔を容易に形成でき、さらに、ナノメートルオーダーの気孔を形成できる。なお、有機物含有量は、乾燥後の汚泥をJIS M8812−1993に準じ、炭化温度700℃で灰分(質量%)を測定し、下記(1)式により求まる値である。
【0026】
有機物含有量(質量%)=100(質量%)−灰分(質量%) ・・・(1)
【0027】
有機汚泥の平均粒子径は、好ましくは1〜5μm、より好ましくは1〜3μmとされる。有機汚泥は、焼成により焼失し、その部分に気孔を形成するため、平均粒子径が小さいほど、マイクロメートルオーダーの気孔を容易に形成でき、さらに、ナノメートルオーダーの気孔を形成できる。なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置(LA−920、株式会社堀場製作所製)により測定される体積基準のメディアン径(体積50%径)である。
【0028】
混合物中の有機汚泥の含有量は、混合物の成形性等を勘案して決定することができ、例えば、1〜60質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば混合物は適度な流動性と可塑性とを備え、成形性が向上し、成形装置を閉塞することなく円滑に成形できる。
【0029】
珪藻土は、珪藻の遺骸からなる堆積物であり、マイクロメートルオーダーの気孔を有する多孔質である。珪藻土を用いることで、珪藻土に由来する微細な気孔を多孔質セラミックス焼結体に形成できる。 珪藻土は、特に限定されず、従来、耐火断熱煉瓦、濾過材等に使用されていたものと同様のものを用いることができる。例えば、狭雑している粘土鉱物(モンモリロナイト等)や石英、長石等を分別精製する必要はなく、これらの含有率を認識した上で、混合物への配合量を調整することができる。また、珪藻土を用いて製造され廃棄された耐火断熱煉瓦、濾過材、コンロなどを粉砕して用いると廃棄物削減の観点から好ましい。
【0030】
珪藻土の含水率は特に限定されず、例えば、自然乾燥状態での含水率が20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましく、35〜45質量%がさらに好ましい。 上記範囲内であれば、含水率を認識しながら、混合の際に狭雑物中の粗粒子分を除去して使用することで、成形性が良好な混合物を得られるためである。 なお、含水率は、乾燥減量方式である下記仕様の赤外線水分計を用い、試料を乾燥(200℃、12分)し、下記(2)式により求めた値である。
【0031】
<仕様>測定方式:乾燥減量法(加熱乾燥・質量測定方式)、最小表示:含水率;0.1質量%、測定範囲:含水率;0.0〜100質量%、乾燥温度:0〜200℃、測定精度:試料質量5g以上で、含水率±0.1質量%、熱源:赤外線ランプ;185W
【0032】
含水率(質量%)=[(m
1−m
2)/(m
1−m
0)]×100 ・・・(2) m
1:乾燥前の容器の質量と乾燥前の試料の質量との合計質量(g)、m
2:乾燥後の容器の質量と乾燥後の試料の質量との合計質量(g)、m
0:乾燥後の容器の質量(g)
【0033】
混合物中の珪藻土の含有量は、多孔質セラミックス焼結体に求める飽和含水率や強度等を勘案して決定でき、例えば、55質量%以下が好ましく、1〜45質量%がより好ましい。上記上限値以下であれば、混合物の成形性が良好であり、上記下限値以上であれば、所望の飽和含水率の多孔質セラミックス焼結体や、所望の強度の多孔質セラミックス焼結体を得られやすい。
【0034】
本発明における粘土は、一般的に窯業原料として用いられる粘土状の性状を示す鉱物材料であり、珪藻土以外のものである。 粘土は、従来、セラミックス焼結体に用いられる公知のものを用いることができ、石英、長石、粘土系等の鉱物組成で構成され、構成鉱物はカオリナイトを主とし、ハロイサイト、モンモリロナイト、イライト、ベントナイト、パイロフィライトを含むものが好ましい。中でも、焼結時のクラックの進展を抑え、多孔質セラミックス焼結体の破壊を防ぐ観点から粒子径が500μm以上の石英の粗粒を含むものがより好ましい。このような粘土としては、例えば、蛙目粘土等が挙げられる。粘土は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合できる。
【0035】
混合物中の粘土の含有量は、多孔質セラミックス焼結体に求める強度や成形性等を勘案して決定でき、例えば、5〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば混合物の成形性を損なわず、かつ円滑に成形できると共に、多孔質セラミックス焼結体の強度を十分なものにできる。
【0036】
本発明のフィラーとしては、例えば、溶融温度が900℃以上の高融点ガラスの粒子等の粒子状フィラー;炭素繊維、バサルト繊維、ロックウール等の繊維状フィラーが挙げられ、中でも、高融点ガラスの粒子、繊維状フィラーが好ましく、高融点ガラスの粒子がより好ましい。高融点ガラスの粒子を用いることで、多孔質セラミックス焼結体の強度をより向上でき、良好な成形性が得られる。 例えば、高融点ガラスの粒子をフィラーとして含む原料を焼結すると、高融点ガラスの粒子は、部分的に溶融し、フィラー同士で融着したり、前記粘土類や珪藻土等のバインダーとして機能したりし、多孔質セラミックス焼結体の強度をより向上することができる。あるいは、繊維状フィラーは、多孔質セラミックス焼結体に取り込まれることで、多孔質セラミックス焼結体の強度をより向上させることができる。
【0037】
高融点ガラスは、溶融温度900℃以上のものであり、好ましくは溶融温度1000℃以上、より好ましくは溶融温度1200℃以上のものである。上記下限値以上であれば、高融点ガラスの粒子は、後述する焼成工程において部分的に溶融し、高融点ガラスの粒子同士で融着したり、粘土類や珪藻土類等のバインダーとして機能できる。加えて、溶融温度が
高いほど、多孔質セラミックス焼結体の強度を向上できる。また、高融点ガラスの溶融温度は、1800℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。上記上限値超であると、焼結した際に、高融点ガラスの粒子が溶融しにくく、多孔質セラミックス焼結体の強度を十分に向上できないおそれがある。
【0038】
高融点ガラスの材質は、特に限定されないが、無アルカリガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスが好ましく、中でも、ホウケイ酸ガラスが好ましい。 このような材質であれば、多孔質セラミックス焼結体の強度を十分に向上できる。
【0039】
無アルカリガラスは、実質的にナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属元素を含有しないガラスである。実質的に含有しないとは、ガラス組成中のアルカリ金属元素の含有量が酸化物換算で0.1質量%以下を意味する。 アルミノケイ酸ガラスは、アルミニウムと珪素とを主成分とする酸化物ガラスである。 ホウケイ酸ガラスは、ホウ素と珪素とを主成分とする酸化物ガラスである。 石英ガラスは、石英から作製されるガラスで、酸化珪素の純度が高いものをいう。 ホウケイ酸ガラスは、ホウ素と珪素とを主成分とする酸化物ガラスである。ホウケイ酸ガラスとしては、AN100(商品名、無アルカリホウケイ酸ガラス、旭硝子株式会社製)等が挙げられる。
【0040】
高融点ガラスは、例えば、液晶テレビ等の液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のパネル、EL用カバーガラス、CCDに代表される固体撮像素子用のカバーガラス、ハンドパスフィルター等の光学フィルター用ガラス、チップ・オン・ガラス用途のガラス基板用ガラス、フラスコやビーカー等の各種製品に用いられている。 高融点ガラスの粒子には、上記の製品の製造工程で排出される廃ガラスや、廃棄された液晶テレビ等から回収されるパネルを用いることができる。
【0041】
液晶テレビ等のフラットディスプレイ用のパネルは、大型化等に伴い、フラットディスプレイの製造時に、多量の廃ガラスを発生する。フラットディスプレイ用のパネルの廃ガラスを高融点ガラスの粒子とすることで、廃棄物を削減できる。このため、環境負荷を低減する観点から、フラットディスプレイ用のパネルの廃ガラスを高融点ガラスの粒子として用いることが好ましい。加えて、フラットディスプレイ用のパネルの廃ガラスは、ガラス組成物の純度が高いため、特段の精製をすることなく、安定した品質の高融点ガラスとして利用できる。
【0042】
高融点ガラスの粒子の粒子径は、0.3〜5mmが好ましい。粒子径が0.3mm未満であると、多孔質セラミックス焼結体における気孔の形成が不十分になったり、嵩比重が増加したりする。そして、気孔の形成が不十分であると、保水性、蒸散性が損なわれたり、透水性が得られにくかったり、所望する嵩比重の多孔質セラミックス焼結体を得られないおそれがある。粒子径が5mm超であると、成形性が低下したり、成形時に押出し口の金具が破損するおそれがある。
【0043】
混合物中の高融点ガラスの粒子の含有量は、フィラー以外の原料の合計100質量部に対し、10〜40質量部が好ましく、15〜40質量部がより好ましい。上記下限値未満であると、多孔質セラミックスの強度を十分に向上できないおそれがあり、上記上限値超であると、混合物の成形性が損なわれるおそれがある。
【0044】
混合物中の繊維状フィラーの含有量は、0.01〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部がより好ましく、0.05〜5質量部がさらに好ましく、0.1〜2質量部が特に好ましい。上記下限値未満では、多孔質セラミックス焼結体の強度を十分に向上できないおそれがあり、上記上限値超では、成形性が損なわれるおそれがある。
【0045】
混合物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、マイティ2000WH(商品名、花王株式会社製)等のナフタリン系の流動化剤、メルメントF−10(商品名、昭和電工株式会社製)等のメラミン系の流動化剤、ダーレックススーパー100pH(商品名、グレースケミカルズ株式会社製)等のポリカルボン酸系の流動化剤、銀、銅、亜鉛等の抗菌剤、塩化アンモニウム、塩化亜鉛等の消臭剤、ゼオライト、アパタイト等の吸着剤、金属アルミニウム等が挙げられる。 混合物に任意成分を配合する場合、任意成分の配合量は、例えば、5〜10質量%の範囲で決定することが好ましい。 また、混合物の流動性の調整等を目的として、適宜、水を配合してもよいが、有機汚泥が好適な配合比で配合されている場合には、混合工程にて水を添加しなくてもよい。
【0046】
混合工程に用いられる混合装置は特に限定されず、公知の混合装置を用いることができる。 混合装置としては、例えば、ミックスマラー(東新工業株式会社製)等の混練機や、ニーダー(株式会社モリヤマ製)、混合機(日陶科学株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
混合工程における混合時間は、原料の配合比、混合物の流動性等を勘案して決定することができ、混合物が可塑状態となるような混合時間を決定することが好ましい。混合時間は、例えば、15〜45分の範囲とすることが好ましく、25〜35分の範囲とすることがより好ましい。
【0048】
混合工程における温度は特に限定されず、原料の配合比や含水率等を勘案して決定することができ、例えば、40〜80℃の範囲とすることが好ましく、50〜60℃の範囲とすることがより好ましい。
【0049】
成形工程は、混合工程で得られた混合物を任意の形状に成形する工程である。 成形方法は、公知の成形方法を用いることができ、混合物の性状や所望する成形体の形状を勘案して決定することができる。成形方法は、例えば、成形機を用いて、ペレットなどを含めた板状、粒状又は柱状等の成形体を得る方法、混合物を任意の形状の型枠に充填して成形体を得る方法、あるいは、混合物を押し出し、延伸又は圧延した後、任意の寸法に切断する方法等が挙げられる。 成形機としては、真空土練成形機、平板プレス成形機、平板押出し成形機等が挙げられ、中でも、真空土練成形機が好ましい。
【0050】
焼成工程は、成形工程で得られた成形体を乾燥し(乾燥操作)、乾燥した成形体を焼成し(焼成操作)、珪藻土又は粘土等を焼結してセラミックス焼結体を得る工程である。 乾燥操作は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、成形体を自然乾燥してもよいし、50〜220℃の熱風乾燥炉で任意の時間処理して乾燥してもよい。乾燥後の成形体の含水率は、特に限定されないが、例えば、5質量%未満が好ましく、1質量%未満がより好ましい。 焼成操作は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ローラーハースキルン等の連続式焼結炉、シャトルキルン等の回分式焼結炉を用い、任意の温度で焼成する方法が挙げられる。中でも、焼成操作には、生産性の観点から連続式焼結炉を用いることが好ましい。 焼成温度は、混合物の性状等に応じて決定でき、例えば、900℃〜1200℃とされる。上記下限値以上であれば、有機汚泥由来の臭気成分が熱分解され解消されると共に、有機汚泥中の有機物の大部分が揮発して減量する。上記上限値超であると、セラミックス焼結体の組織全体のガラス化が進み、成形体が破損したり、気孔が閉塞するおそれがある。
【0051】
焼成工程の後、必要に応じて、任意の大きさに多孔質セラミックス焼結体を切断する。また、多孔質セラミックス焼結体の表面を研削する研削加工工程を施すことができる。本工程を得ることで多孔質セラミックス焼結体は、板状物の状態で太陽電池用冷却部材としてもちいた場合、長期に亘ってすぐれた吸水速度を維持することができ、素早く雨水を吸収し、多孔質セラミックス焼結体内に水を取り入れることができる。
【0052】
また、破砕工程も設けることができる。破砕工程では、焼成工程で得られた多孔質セラミックス焼結体をハンマーミル等で破砕(破砕操作)し、粒状の多孔質セラミックス焼結体をえることができる。得られた破砕物は必要に応じ任意の粒子径になるように篩分けする(篩分操作)。なお、破砕操作の条件設定にて、所望する範囲の粒子径の粒状のセラミックス焼結体が得られる場合などには、必ずしも篩分操作を行う必要はない。
【0053】
多孔質セラミックス焼結体としては、特開2005−239467号公報に記載のセラミックス焼結体、国際公開第10/106724号パンフレットに記載の多孔質セラミックス焼結体、等、及び必要に応じてこれらを破砕したもの等が挙げられる。また、多孔質セラミックス焼結体である「グリーンビズ」シリーズ(商標、「グリーンビズ・ルーフ」、「グリーンビズ・ルーフG」、「グリーンビズ・ウオール」など。小松精練株式会社製)、及び必要に応じてこれを破砕したもの等が挙げられる。
【0054】
上記の多孔質セラミックス焼結体を含む太陽電池用冷却材を、太陽電池を搭載した太陽電池パネル等の裏面に積層したり、太陽電池パネルを設置した屋根や屋上、さらには太陽電池の設置した地面の表面に敷き詰めることにより太陽電池の温度上昇を抑制することができる。 また、本発明の太陽電池用冷却部材と他の冷却部材を併用してもよい。 また、前記多孔質セラミックス焼結体の上に、芝生や苔またセダムなどの多肉植物等の植物を植栽したものを太陽電池用冷却部材としてもよい。さらに周囲の環境との同一性を保ちたい場合やコストを低減させたい場合は、土や石などと前記多孔質セラミックス焼結体を混ぜて使用してもよい。
【0055】
<太陽電池の敷設構造>
本発明の太陽電池の敷設構造は、前記太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に太陽電池が設置されている。
太陽電池とは、公知のものを用いることができ、結晶シリコン系、アモルファス系、InGaAs系、GaAs系、CIS系、有機系など任意の太陽電池を用いることができる。特に、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系の太陽電池に対し、発電効率の低下を抑制する効果が大きい。
また、太陽電池は、太陽電池(セル)であっても、太陽電池(セル)を用いて製造された太陽電池パネルであっても、さらにソーラーアレイの形態となったものであってもよい。
【0056】
太陽電池は、前記太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に設置されている。太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に設置されていることにより、太陽電池の周りの雰囲気温度の上昇を抑制することにより、太陽電池の温度上昇を抑制することができ太陽電池全体の温度上昇を抑制することができる。
太陽電池冷却部材を敷き詰める場所は、太陽電池を設置する場所の下であれば任意の場所に設置することができ、例えば建物、船舶、車などの屋上や傾斜のある屋根、壁面、コンクリートやアスファルトで舗装のされた地面や舗装なされていない地面など特に限定されず、また、フレームや容器などを用いて空中の特定範囲に敷き詰めるなどしたものであってもよく特に限定されるものではない。
前記の建物などの屋上、屋根、壁面に太陽電池冷却部材を敷き詰めれば、それに伴い設置された建物の内部の温度上昇を抑制し、かつ、断熱効果も付与され省エネルギーに役立つ。
【0057】
また、太陽電池を設置した場所の下に太陽電池用冷却部材が敷き詰められているためだけでよいため、太陽電池の裏側に太陽電池用冷却部材を積層したものに比べ特別な構造とする必要がなく、施工も含め容易で安価であり、また、太陽電池の裏側ではないため自然に降る雨を直接、吸収でき、さらに本発明の太陽電池用冷却部材は、優れた飽和含水率を有しているので、別途貯水施設等を持ちなくとも長期間にわたり、メンテナンスフリーで冷却効果を発揮できる。
特に、広い敷地に多数の太陽電池を施設した太陽光発電所、出入りのし難い場所に設置された太陽電池などに用いれば、施工時及びその後のメンテナンスも容易で安くすることができる。
【0058】
このとき用いられる太陽電池用冷却部材は、板状物または粒状物であるとよい。
太陽電池用冷却部材が板状物であれば、屋上などに太陽電池を設置する場合は、屋上に板状の太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に、太陽電池が設置され、頻繁にメンテナンスしなくとも太陽電池を冷却することができ、また、見た目にすっきりとしたデザイン性に優れた敷設構造とすることができる。
また、板状の太陽電池用冷却部材の上に、芝生等を積層すれば、太陽電池の発電効率の低下を抑制しながら屋上緑化が可能となる。
【0059】
なお、太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に太陽電池が設置されているとは、太陽電池用冷却部材の表面にアルミ製フレームなどをボルトなどで固定し、そのアルミ製フレームに太陽電池が取り付けられたものやコンクリート舗装面、アスファルト舗装面、土の地面にアルミ製フレームなどをボルトなどで固定し、そのアルミ製のフレームに太陽電池が取り付けられ、そのアルミ製フレームの足元に太陽電池用冷却部材を敷き詰めたものであってもよく、太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に太陽電池が設置されれば、任意の方法で太陽電池を敷設すればよい。
太陽電池用冷却部材が粒状物であれば、太陽電池を設置した場所の地面や屋上のグランド面に、粒状物をばらまくことで容易に敷設することができ、より安価であり、よりすぐれた冷却効果を発揮することが可能となる。
【0060】
また、太陽電池用冷却部材が敷き詰められた場所全体が、太陽電池の裏面全面と接触していると、雨が降っても太陽電池用冷却部材を構成する多孔質セラミックス焼結体に供給できず、また、多孔質セラミックス焼結体からの気化熱の放出性も低下するため、太陽電池と太陽電池用冷却部材の間の少なくとも一部には空間を有しているとよい。
空間は任意の距離があればよいが、空間内の空気が流れるように太陽電池と太陽電池用冷却部材の最も離れている箇所で1cm〜10mが好ましく、より好ましくは太陽電池と太陽電池用冷却部材の最も近いところで1cm〜3mが好ましい。
より好ましくは、太陽電池と太陽電池用冷却部材は、まったく接触していないものがよい。
【0061】
また、太陽電池用冷却部材として、本発明の太陽電池用冷却部材のみでも太陽電池の冷却効果を有するがより効果を上げるため、他の太陽電池冷却部材、例えば、散水装置やペルチェ素子など放熱部材などと組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0063】
(使用原料) 実施例に用いた原料は、次の通りである。<有機汚泥>有機汚泥としては、染色工場(小松精練株式会社)の活性汚泥法による排水処理設備から凝集・脱水工程を経て排出された活性汚泥を用いた。この活性汚泥の有機物含有量(対固形分)は83質量%、含水率は85質量%であった。<粘土>粘土としては、蛙目粘土(岐阜県産又は愛知県産)を用いた。
【0064】
<スラグ>発泡剤として、鋳鉄スラグを用いた。この鋳鉄スラグは、SiO
2、Al
2O
3、CaO、Fe
2O
3、FeO、MgO、MnO、K
2O、Na
2Oを主成分とするダクタイル鋳鉄スラグである。<珪藻土> 珪藻土には、能登地区産の耐火煉瓦の原料で、含水率が5重量%の粉末状の珪藻土を用いた。
【0065】
(実施例1)表1に示す組成でスラグ、有機汚泥、粘土及び水をミックスマラー(新東工業株式会社製)で混合し、可塑状態の混合物を得た(混合工程)。次いで、得られた混合物を真空土練成形機(高浜工業株式会社製)で押し出し、圧延成形し、幅60cm、厚み2cmの帯状の一次成形体を得た。この一次成形体を任意のピッチと幅で切断して、厚み2cmの略正方形の平板状の成形体を得た(成形工程)。
【0066】
得られた成形体を熱風乾燥機で乾燥(180℃、0.5時間)し、含水率1質量%以下とした後、連続式焼結炉を用いて、焼成温度1050℃、焼成温度での滞留時間7分間の焼成条件にて焼成した(焼成工程)。連続式焼結炉としては、ローラーハースキルン(焼結炉の有効長:全長15m、焼結炉を各1.5mのゾーン1〜10に分割)を用いた。焼成後、多孔質セラミックス焼結体の4つの側面に沿って側端を切除、また、多孔質セラミックス焼結体の表面を研削して、タテ45cm×ヨコ45cm×厚み3.5cmの多孔質セラミックス焼結体からなる太陽電池用冷却部材とした。
【0067】
(測定方法)<嵩比重>ノギスを用いて、多孔質セラミックス焼結体の長さ、幅、厚みを測定して体積(cm
3)を求め、その多孔質セラミックスの絶乾状態の質量(g)を測定した。そして、[絶乾状態の多孔質セラミックスの質量(g)]/[多孔質セラミックスの体積(cm
3)]の式より、嵩比重を求めた。
【0068】
<飽和含水率>嵩比重を測定した板状の多孔質セラミックス焼結体を水に60分間浸漬した後、表面を上にして、多孔質セラミックス焼結体を傾けずに水から取り出し(傾けた際に多孔質セラミックスから水が流れ出すことを防ぐため。粒状物の場合は、特に向きは配慮しなくてもよい。)、多孔質セラミックス焼結体の表面に付着している余剰水分を布で拭き、直ちに質量を測定(飽和状態質量)し、下記(3)式により求めた。なお、絶乾質量は、120℃のオーブンに24時間放置後の質量とした。
【0069】
飽和含水率(質量%)=[(飽和状態質量−絶乾状態質量)/絶乾状態質量]×100・・・(3)
【0070】
<気孔同士の連通の有無の確認>多孔質セラミックス焼結体における気孔同士の連通の有無の確認は、得られた多孔質セラミックス焼結体を水に浸漬し、充分に吸水させた後に切断し、その断面を観察することで確認した。多孔質セラミックス焼結体の内部に、満遍なく水分が分布・保水されている場合、気孔同士が連通していると判断した(表中、「○」
と記載)。多孔質セラミックス焼結体の内部に水分が行き渡っていない場合には、個々の気孔又は孔隙が独立しており、気孔同士が連通していない又は連通が不充分であると判断した(表中、「×」と記載)。
【0071】
<太陽電池の温度測定>
飽和含水状態とした実施例1で得られた板状物である太陽電池用冷却部材を9枚敷き詰めた場所(タテ135cm×ヨコ135cm×厚み3.5cm)の上に太陽電池パネル(620mm×540mm×25mm。)を約20°の傾斜をつけて設置(木製のフレーム上に太陽電池パネル取り付け設置。太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に太陽電池が設置されている太陽電池敷設構造。)し、太陽電池パネルの上方に500Wのレフランプ(PRF−500WB/D、パナソニック株式会社製)を設置した。レフランプのから太陽電池パネルの中心までの距離は400mmとし、送風ファンを用い風速2.5m/秒の風を送風した。また、太陽電池と太陽電池用冷却部材の距離は、太陽電池と太陽電池用冷却部材の最も離れたところで26cm、最も近いところで2cmとした。設置状況の概略を
図1に示した。ただし、木製フレームの記載は省略した。
【0072】
太陽電池パネルの表面温度(パネル温度)、太陽電池用冷却部材の表面温度(冷却部材温度)、太陽電池パネルと太陽電池用冷却部材の間の空間温度を、照射開始時とレフランプの照射開始180分後に測定した。また、太陽電池用冷却部材にかえて厚さ3cmのコンクリート板を同様に敷き詰めて各温度の測定をおこなった。測定した各温度より下記(4)式により冷却効果温度を求め結果を表1に記載した。なお、温度測定は熱電対を用い測定し、レフランプの光が直接あたる熱電対にはアルミ箔で作成した傘で直接光が当たらないようにした。
【0073】
冷却効果温度(℃)=(コンクリートでの180分後の温度−照射開始時のコンクリートでの温度)−(太陽電池用冷却部材での180分後の温度−照射開始時の太陽電池用冷却部材での温度)・・・(4)
【0074】
(実施例2)
組成を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にし、多孔質セラミックス焼結体を得た(嵩比重と飽和含水率を測定。)。次に得られた多孔質セラミックス焼結体をハンマーで粉砕し、粒子径が5mm〜3cmの粒状物である多孔質セラミックス焼結体からなる太陽電池用冷却部材を得た。得られた粒状物である太陽電池用冷却部材を敷き詰め(タテ135cm×ヨコ135cm×厚み3.5cm)、実施例1と同様にして太陽電池の温度測定をおこなった。得られた結果を表1に記載した。
【0075】
(実施例3)
実施例1で得られた板状の多孔質セラミックス焼結体の上に、用土を厚み1cm敷き、その上にセダムを植栽したものを板状物の多孔質セラミックス焼結体を含む太陽電池用冷却部材とし、多孔質焼結体部分に水を含水させたもの(ほぼ飽和含水状態)をもちい、実施例1と同様にして太陽電池の温度測定をおこなった。得られた結果を表1に記載した。
【0076】
実施例1、2、3の太陽電池用冷却部材を敷き詰めた上に設置された太陽電池パネルの各位置の表面温度は、コンクリート上に敷設された太陽電池パネルの表面温度より低く、本発明の太陽電池用冷却部材及び太陽電池敷設構造を用いることにより太陽電池の温度上昇を抑制し、太陽電池の発電効率の低下を抑制できることが確認された。
【0077】
【表1】