(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221206
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】液充填器具及びその液充填器具を用いたキャピラリへの液充填方法
(51)【国際特許分類】
B01J 4/00 20060101AFI20171023BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
B01J4/00 103
G01N1/00 101K
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-99935(P2012-99935)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-226506(P2013-226506A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】片所 功
【審査官】
近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−220138(JP,A)
【文献】
特開2001−218844(JP,A)
【文献】
特開2011−127965(JP,A)
【文献】
再公表特許第2010/074265(JP,A1)
【文献】
実開平03−042547(JP,U)
【文献】
特開平07−076397(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/086488(WO,A1)
【文献】
特開2006−181345(JP,A)
【文献】
特開2007−255936(JP,A)
【文献】
特開2004−101480(JP,A)
【文献】
特表2005−536248(JP,A)
【文献】
実開平06−063052(JP,U)
【文献】
特開2008−134071(JP,A)
【文献】
特開平05−049905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 4/00
A61M 3/00〜9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に液吐出口を有する注入針を先端部に備えるとともに、前記注入針と導通し前記液吐出口から吐出する液を貯留する液貯留空間を内部に備えた注入筒と、
前記注入筒の前記液貯留空間内で一方向に摺動して前記液貯留空間の容積を変化させる駆動部と、
前記注入針の外径よりも大きい内径及び前記注入針よりも短い長さを有し、前記注入筒の先端部に前記注入針の外周面を覆った状態で前記注入針に沿って前記注入針とは独立して移動可能に装着された外套管と、を備え、
前記外套管の内径は前記注入針の外周面との間に毛管力が作用する大きさの隙間が生じる大きさである、液充填器具。
【請求項2】
前記外套管の基端部を保持しながら前記注入筒の先端側に前記注入針の長手方向に前記注入筒とは独立して移動可能に装着された外套管保持部をさらに備えている請求項1に記載の液充填器具。
【請求項3】
前記外套管保持部は、一端が前記注入針と前記外套管との間の隙間に通じ他端が該外套管保持部の外部へ通じる引出し流路を備え、前記引出し流路の他端に前記注入針と前記外套管との間の隙間の液を吸入するための吸入機構が接続されている請求項2に記載の液充填器具。
【請求項4】
前記液充填器具は、核酸用溶出液、核酸用洗浄液、前記核酸用溶出液と前記核酸用洗浄液との間を仕切るための非水溶性ゲル、及び核酸を保持させた磁性粒子を、前記キャピラリ内に注入するものである請求項1から3のいずれか一項に記載の液充填器具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の液充填器具を使用して以下のステップ(1)〜(5)をその順に行なうことを特徴とする液充填方法。
(1)キャピラリに充填する液を前記注入筒の前記液貯留空間に吸入するステップ、
(2)前記注入針を前記外套管の先端から突出させた状態で、前記キャピラリ内で液を充填すべき位置に前記注入針の先端部を配置して液を吐出するステップ、
(3)前記注入針の先端が前記キャピラリ内の液面から出るまで前記液充填器具を引き上げるステップ、
(4)前記外套管を前記注入針の先端側へ移動させて前記外套管内に前記注入針の先端部を収容するステップ、及び
(5)前記注入針及び前記外套管を前記キャピラリから引き抜くステップ。
【請求項6】
請求項3に記載の液充填器具を使用して前記ステップ(5)の後、以下のステップ(6)を行なう請求項5に記載の液充填方法。
(6)前記吸入機構により前記注入針と前記外套管との間の隙間の液を吸入するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルゲルを用いて試薬液を収容したキャピラリ内で磁性粒子を操作することにより行なう対象成分の抽出、精製、合成、溶出、分離、回収、分析に関するものである。具体的には、磁性粒子を操作するためのキャピラリに試薬液等を充填するための液充填器具及びその液充填器具を用いたキャピラリへの液充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直径が十数μmから0.5μmで水に不溶な微粒子の表面に、種々の化学的な親和力を持たせることにより、対象成分の抽出・精製、分離、回収等を行なうことができる。また、特定細胞表面分子を認識して対象細胞の回収を行なうこともできる。このことから、対象に応じて機能性分子を粒子表面に導入した微粒子が市販されている。これら微粒子のうち、粒子材質が酸化鉄等の強磁性体であるものは、磁石による対象成分の回収が可能で、遠心操作が不要となるため、化学抽出・精製の自動化に有利な特長を持つ。
【0003】
例えば、細胞からの核酸抽出及び遺伝子増幅反応による分析までを連続して一つのデバイスで行なうシステムが市販されている。例えば、米国Cepheid 社GeneXpert Systemでは、核酸抽出から遺伝子増幅反応による分析までをひとつのカートリッジ型デバイスで行なうことができ、同時処理検体数は最大16である。(GeneXpert Systemの技術内容は、非特許文献1に記載されている。)また例えば、3M社のSimplexa(非特許文献2)では、核酸抽出からPCRまで一つの円盤形デバイスで行い、一つのディスクに12検体を固定することができる。
【0004】
一方、磁性粒子は、抽出・精製キットとしての試薬の一部として市販されている。キットは複数の試薬が別々の容器に入れられており、使用時はユーザーがピペット等で試薬を分取、分注する。自動化された装置の場合においても、現在市販されている装置では、液の分取はピペット操作を機械的に行っている。例えば、プレシジョン・システム・サイエンス社は、磁気粒子を用いて核酸抽出を行なうシステム(非特許文献3)を市販している。
【0005】
一般的に、市販されている磁性粒子は、試料から対象成分又は特定細胞の分離回収を可能にするが、回収物の分析を行なう場合は、リアルタイムPCR装置、質量分析装置、フローサイトメトリーなどの別のシステムで行なう必要がある。
【0006】
細胞からの核酸抽出及び遺伝子増幅反応による分析までを連続して一つのデバイスで行なう市販のシステムにおいては、同時処理検体数が少なく、またデバイス自体も複雑で製造コストが高く実用的ではない。例えば、米国Cepheid 社GeneXpert Systemでは、特にデバイスが複雑かつ高コスト(1検体42米ドル)である。また、デバイスサイズも大型であるためシステム全体も大型となり、気軽に移動して利用できる製品ではない。特に、比較的検体数が少ない用途のPOCT(Point of Care Testing)になじむ製品でない。
【0007】
また、例えば、3M社のSimplexaは、一つのディスクにおける検体数が12検体に固定されてしまうため、任意の検体数を自由に設定できる仕様にはなっていない。
【0008】
磁性粒子を試薬の一部として含む抽出・精製キットを使用する際に必須となるピペット操作はエアロゾルの発生を伴う。これは、分析の妨げとなるコンタミネーションの危険性を高める。自動化された装置において、液の分取をピペット操作で機械的に行なう場合も同様である。この場合、エアロゾルの発生によって汚染源が装置内に蓄積されるため、定期的な装置の洗浄が必要である。しかし、ピペット式分注機構で自動化された装置は構造が複雑で汚染源の完全除去は困難である。
【0009】
プレシジョン・システム・サイエンス社によって市販されている、磁気粒子を用いて核酸抽出を行なうシステムにおいては、精製した核酸の回収までを行なうことができるが、遺伝子増幅反応などによる分析はリアルタイムPCR装置などの別のシステムで行わなければならない。さらに、このシステムはピペット型分注機による分注が開放系で行なわれるため、コンタミネーションの危険性が常につきまとう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Clinical Chemistry 51: 882-890, 2005、2005年3月3日
【非特許文献2】「FDA Issues Another Emergency Use Authorization for Commercial H1N1 Flu Test to Quest Diagnostics' Focus Diagnostics」、フォーカスダイアグノスティクス社、2009年10月17日
【非特許文献3】「GC series Magtration Genomic DNA Whole Blood」、プレシジョンサイエンスシステム社、2008年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の問題を解決するために、本願出願人は、エアロゾルの発生を伴う分注機を用いることなく、密閉可能なキャピラリに、一以上の液体試薬を非水溶性ゲル物質で仕切って収容し、そのキャピラリ内の液体試薬中に磁性粒子を存在させたデバイスを作成し、そのデバイスの外部から磁場印加手段によってキャピラリ内の磁性粒子を操作することを提案している。
【0012】
上記デバイスを作成するために試薬溶液やゲルをキャピラリ内に順に充填していく必要がある。キャピラリに試薬溶液やゲルを充填する作業は、注射器などの注入器具を用いて行なわれる。注入器具からキャピラリ内に試薬溶液やゲルを吐出する際は、注入器具の先端に取り付けられた細管(針)をキャピラリ内部に挿入してその底部や管壁に接触させ、所定量の液を吐出してから針をキャピラリから引き上げる。
【0013】
注入器具の針をキャピラリから引き上げる際、針先に付着した液がキャピラリの内壁に接触することによって、又はキャピラリに充填された液が針とキャピラリ内壁との間を毛管現象によって上がることによって、キャピラリの内壁に試薬溶液やゲルが付着するという問題がある。キャピラリの内壁に粘度の高い液や冷却などによってゲル化又は固化する液が付着すると、キャピラリ内で操作する磁性粒子(磁気ビーズ)の通過を妨げたり、キャピラリ内を光学的に測定する際に測定感度の低下の原因となったりするなどの問題がある。
【0014】
注入器具の針先に液が付着しないように液を吐出しながら針先を徐々に引き上げるようにしても、キャピラリの内壁に液が付着することがある。また、注入器具の針先をさらに細くし、針がキャピラリの中心を通るように垂直に引き上げるようにすれば、針先に付着した液がキャピラリの内壁に接触することを防止できるが、針先を細くすると液を吐出する際の圧力が上昇する上、針を正確にキャピラリの中心に位置決めして上下動させる機構を構築することは困難である。
【0015】
そこで、本発明は、キャピラリに液を充填した後の充填器具の先端に付着した液が充填器具をキャピラリから引き抜く際にキャピラリの内壁に付着することを防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる液充填器具は、先端に液吐出口を有し液を充填するキャピラリの内径よりも小さい外径の注入針を先端部に備えるとともに、該注入針と導通し液吐出口から吐出する液を貯留する液貯留空間を内部に備えた注入筒と、注入筒の液貯留空間内で一方向に摺動して液貯留空間の容積を変化させる駆動部と、キャピラリの内径よりも小さい外径、注入針の外径よりも大きい内径及び注入針よりも短い長さを有し、注入筒の先端部に注入針の外周面を覆った状態で注入針に沿って注入針とは独立して移動可能に装着された外套管と、を備えたものである。
【0017】
本発明にかかる液充填方法は、本発明の液充填器具を使用して以下のステップ(1)〜(5)をその順に行なうことを特徴とするものである。
(1)キャピラリに充填する液を注入筒の液貯留空間に吸入するステップ、
(2)注入針を外套管の先端から突出させた状態で、キャピラリ内で液を充填すべき位置に注入針の先端部を配置して液を吐出するステップ、
(3)注入針の先端がキャピラリ内の液面から出るまで液充填器具を引き上げるステップ、
(4)外套管を注入針の先端側へ移動させて外套管内に注入針の先端部を収容するステップ、及び
(5)注入針及び外套管をキャピラリから引き抜くステップ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の液充填器具では、キャピラリの内径よりも小さい外径、注入針の外径よりも大きい内径及び注入針よりも短い長さを有し、注入筒の先端部に注入針の外周面を覆った状態で注入針に沿って注入針とは独立して移動可能に装着された外套管を備えているので、液を吐出した後で外套管を注入針の先端側へ移動させることによって注入針の先端部を注入針の先端に付着した液滴とともに外套管内に収容することができ、注入針の先端に付着した液滴がキャピラリの内壁に付着することを防止することができる。
【0019】
本発明の液充填方法では、キャピラリ内に液を充填した後、注入針の先端がキャピラリ内の液面から出るまで液充填器具を引き上げ、外套管を注入針の先端側へ移動させて外套管内に注入針の先端部を収容してから注入針及び外套管をキャピラリから引き抜くようにしたので、注入針の先端に付着した液滴がキャピラリの内壁に付着することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】液充填器具の一実施例を示す断面図であり、(A)は注入針の先端部を外套管から突出させた状態、(B)は注入針の先端部を外套管内に収容した状態である。
【
図2】液充填器具の他の実施例を示す断面図であり、(A)は注入針の先端部を外套管から突出させた状態、(B)は注入針の先端部を外套管内に収容した状態である。
【
図3】液充填器具のさらに他の実施例を示す断面図であり、(A)は注入針の先端部を外套管から突出させた状態、(B)は注入針の先端部を外套管内に収容した状態である。
【
図4】液充填器具のさらに他の実施例を示す断面図である。
【
図5】液充填器具のさらに他の実施例を示す断面図である。
【
図6】キャピラリへの液充填方法の手順を示す図である。
【
図7】キャピラリへの液充填方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】液充填方法により作成される磁性体操作用デバイスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の液充填器具において、外套管の内径は注入針の外周面との間に毛管力が作用する大きさの隙間が生じる大きさであることが好ましい。そうすれば、注入針の先端に付着した液滴を毛管力によって注入針と外套管との間の隙間に引き込むことができ、キャピラリの内壁に液を付着させることなく確実に注入針をキャピラリから引き抜くことができる。
【0022】
本発明の液充填器具の好ましい実施態様は、外套管の基端部を保持しながら注入筒の先端側に注入針の長手方向に注入筒とは独立して移動可能に装着された外套管保持部を備えているものである。
【0023】
上記実施態様において、外套管保持部は、一端が注入針と外套管との間の隙間に通じ他端が該外套管保持部の外部へ通じる引出し流路を備え、引出し流路の他端に注入針と外套管との間の隙間の液を吸入するための吸入機構が接続されていることが好ましい。そうすれば、注入針と外套管との間の隙間の液を除去する作業を別途行なうことなく、注入機構によって注入針と外套管との間の隙間の液を除去することができるので、キャピラリへの液充填作業の効率を向上させることができる。
【0024】
本発明の液充填方法において上記実施態様の液充填器具を使用すれば、注入針と外套管との間の隙間の液を除去する作業を別途行なうことなく、注入機構によって注入針と外套管との間の隙間の液を除去することができるので、キャピラリへの液充填作業の効率を向上させることができる。
【0025】
以下、図面を用いて本発明にかかる液充填器具及び液充填方法の実施例について説明する。まず、
図1を用いて液充填器具の一実施例について説明する。
この液充填器具は、注入筒2、注入針4、駆動部6及び外套管8を備えている。注入筒2は一端側が開放しており、その一端側から注入筒2の内部の液貯留空間2a内に駆動部6が挿入されている。注入筒2の他端に注入針4の基端を保持するための注入針保持部7が設けられており、液貯留空間2aは孔2bを通じて注入針4と通じている。注入針4は液を充填するキャピラリよりも小さい外径をもつ円筒部材であり、先端に液吐出口4aを備えている。
【0026】
駆動部6は液貯留空間2a内を一方向に摺動するように駆動される。駆動部6が一方向に駆動されることにより液貯留空間2aの容積が変化し、それによって注入針4を介して液貯留空間2a内に液が吸入され又は液貯留空間2a内の液が注入針4の先端の液吐出口4aから吐出される。
【0027】
外套管8は注入針4の外周面を覆うように注入筒2の先端部に装着されている。外套管8の長さは注入針4よりも短くなっており、外套管8の基端部が注入針保持部7に接した状態で注入針4の先端が外套管8から突出する。注入針4の長さは例えば120mmであり、外套管8の長さは例えば115mmである。外套管8は注入針4の軸方向に独立してスライドさせることができ、
図1の(B)に示されているように、注入針4の先端側へ外套管8をスライドさせることによって注入針4の先端を外套管8内に収容することができる。
【0028】
外套管8の外径は液をこの充填器具により液を充填するキャピラリの内径よりも小さく設定されており、液を充填する際に注入針4とともに外套管8もキャピラリ内に挿入されるようになっている。外套管8の内径は注入針4の外周面との間に毛管力が作用する大きさの隙間が生じる大きさに設定されている。
【0029】
外套管8を所望の位置で保持するために外套管保持部を設けてもよい。
図2から
図5は外套管8を保持する外套管保持部を設けた例を示すものである。
図2の例では、外套管保持部12が注入針保持部7に装着されている。外套管保持部12は先端側で外套管8の基端部外周面を保持するとともに基端側で注入針保持部7の外周面を保持する構造となっている。外套管保持部12は注入針保持部7の外周面に沿って注入針4の軸方向にスライド可能であり、外套管保持部12のスライドに伴なって外套管8が注入針4の軸方向にスライドするようになっている。
【0030】
図3の例では、外套管保持部14が注入筒2の先端側外周面を覆うように装着されている。外套管保持部14は先端側で外套管8の基端部外周面を保持するとともに基端側で注入筒2の先端側外周面を保持する構造となっている。外套管保持部14は注入筒2の先端側外周面に沿って注入針4の軸方向にスライド可能であり、外套管保持部14のスライドに伴なって外套管8が注入針4の軸方向にスライドするようになっている。
【0031】
図4の実施例は
図3の例と同様に、外套管保持部16が注入筒2本体の先端側外周面を覆うように装着されており、外套管保持部16は先端側で外套管8の基端部外周面を保持するとともに基端側で注入筒2の外周面を保持する構造となっている。注入針保持部9の外径は注入筒2の本体部分の外径よりも大きく注入筒2の本体部分から周囲方向へ突起している。外套管保持部16の内径は注入針保持部9の外径よりも僅かに大きく設定されているが、外套管保持部16の基端部の内径は注入針保持部9の外径よりも小さく注入筒2の本体部分の外径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、外套管保持部16を注入針4の先端側へスライドさせたときに外套管保持部16の基端部が注入針保持部9に引っ掛かかって注入筒2から外れないようになっている。
【0032】
図5の例は
図4の例に吸入機構を取り付けたものである。この実施例では、外套管保持部18に引出し流路20が形成されている。引出し流路20の一端は外套管8の基端部において注入針4の外周と外套管8との間の隙間に通じており、他端は外套管保持部18の外部に通じている。引出し流路20は、外套管8の基端部に設けられた切欠き、外套管保持部18の注入針保持部9と対向する先端側内面に設けられた溝及び外套管保持部18の側壁に設けられた貫通孔により構成されている。引出し流路20の他端には気体や液体を吸入する吸入機構へと通じる流路22が接続されている。
なお、
図5の例は
図4の例の外套管保持部18に吸入機構を接続したものであるが、
図2や
図3の例の外套管保持部に吸入機構を接続してもよい。
【0033】
次に、
図6及び
図7を用いて
図1から
図5のいずれかの充填器具を使用したキャピラリへの液充填方法について説明する。
まず、キャピラリ23に充填すべき液を注入筒2内に吸入する。注入針4の先端部を外套管8から突出させた状態で注入針4と外套管8をキャピラリ23内に挿入し、注入針4の先端部をキャピラリ23内の所定の充填位置に配置する。駆動部6を注入筒2の先端側へ押し込んで液24をキャピラリ23内に吐出する(
図6(A)参照)。
【0034】
注入針4の先端がキャピラリ23内に充填された液24の液面から出るまで充填器具を引き上げる(
図6(B)参照)。このとき、注入針4の先端には液24が液滴24aとして付着し、このまま注入針4をキャピラリ23から引き抜こうとすると液滴24aがキャピラリ23の内壁に付着することがあり得る。そこで、注入針4が外套管8内に収容されるように外套管8を注入針4の先端側へスライドさせる。注入針4の先端の液滴24aが外套管8の先端に接すると、毛管力が作用して液滴24aが注入針4と外套管8の間の隙間に引き込まれる(
図6(C)参照)。外套管8をスライドさせて注入針4の先端を外套管8の先端から5〜15mmの位置まで引き入れた後(
図6(D)参照)、充填器具を引き上げて注入針4及び外套管8をキャピラリ23から引き抜く(
図6(E)参照)。
【0035】
その後、注入針4と外套管8との間の隙間の液を除去する処理を行なう。この処理の一例は、外套管8をこの充填器具から取り外して行なう外套管8の内面と注入針4の外周面のクリーニング処理である。
図5の例のように注入針4と外套管8との間の隙間の液を吸入する吸入機構を備えている場合には、吸入機構によって注入針4と外套管8との間の隙間の液を吸入することで、毛管力が弱い場合でも、外套管先端に液が残ることを防止できる。また、外套管8をこの充填器具から取り外してクリーニング処理を行なうことを省略することができる。
【0036】
注入針4の内部を洗浄した後、次にキャピラリ23に充填すべき液がある場合にはその液を吸入して上記の動作を繰り返し実行する。
【0037】
上記の充填方法により、
図8に示されるようなデバイスを作成することができる。このデバイスはキャピラリ28内に下層側から順に核酸用溶出液30、ゲル(オルガノゲル)32、核酸用洗浄液34、ゲル32、核酸用洗浄液34及びゲル32が充填されて作成されている。このデバイスでは、核酸用溶出液30及び核酸用洗浄液34が非水溶性のゲル32によって仕切られており、核酸を保持させた磁性粒子(磁気ビーズ)を一端側(図において上端側)に配置し、磁場印加手段によってその磁性粒子をキャピラリ28の外側から操作して他端側へ移動させることで、磁性粒子に保持された核酸の精製を行なうことができる。
【0038】
材質がポリプロピレン、内径が2mmであるキャピラリに、注入針4の材質がヒューズドシリカ、内径が0.2mm、外径が0.35mm、外套管8の材質がポリエーテルエーテルケトン、内径が0.75mm、外径が1.6mmである充填器具を用いて上記充填方法によりゲルを充填したところ、キャピラリ内の試薬溶液の充填位置の内壁にゲルが付着していないことが確認できた。
また、材質がポリプロピレン、内径が3.1mmであるキャピラリに、注入針4の材質がステンレス(SUS304)、内径が0.63mm、外径が1mm、外套管8の材質がポリテトラフルオロエチレン、内径が2mm、外径が3mmである充填器具を用いて上記充填方法によりゲルを充填した場合にも、キャピラリ内の試薬溶液の充填位置の内壁にゲルは付着していないことが確認できた。
【0039】
このように、磁性粒子を操作するデバイスの作成における少なくともゲルの充填工程において、外套管8を備えた充填器具を用いた液の充填を実行することにより、ゲルなどの充填液がキャピラリ28の内壁面の意図しない位置に付着することを確実に防止することができ、磁性粒子の操作やキャピラリ28の外部からの光学的検出の妨げとなるキャピラリ28の内壁面の汚染を防止することができる。
【符号の説明】
【0040】
2 注入筒
2a 液貯留空間
2b 孔
4 注入針
4a 液吐出口
6 駆動部
7,9 注入針保持部
8 外套管
12,14,16,18 外套管保持部
20 引出し流路
22 吸入機構接続用流路
23 キャピラリ
24 充填液