(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0021】
図1〜
図16は、本発明の一実施の形態を説明するための図である。このうち、
図1〜
図8は、主に、個人情報表示体を説明するための図であり、
図9〜
図16は、主に、個人情報表示体の製造方法および製造装置を説明するための図である。
【0022】
図1に示すように、個人情報表示体10は、個人情報が記録された媒体である。個人情報表示体10の具体的な用途として、パスポート、運転免許証、健康保険証、キャッシュカード、クレジットカード、社員証、会員証等を例示することができる。ここで個人情報表示体10に記録される個人情報とは、個人に関する情報のことであり、典型的には当該個人情報表示体10を付与された特定人に関連した情報のことである。この個人情報には、氏名、生年月日、性別等の広く社会一般で用いられる情報に限られることなく、社員番号や会員番号等のような特定の組織との関連において用いられる個人に関連した情報、一定の期間の間だけ個人に割り当てられた情報等も含まれる。したがって、個人情報表示体10の発行者からすれば、個人情報表示体10に記録される個人情報とは、各個人に付与される個人情報表示体10毎に個別に対応しなければならない情報となる。
【0023】
このような個人情報表示体10は、一例として、特定人の身元や資格等を証明するために、当該特定人に対して付与される。個人情報表示体10の発行者は、個人情報表示体10に表示される情報に基づいて、個人情報表示体10の所有者を管理することができる。具体例として、ある組織、例えば会社が、当該組織の構成員、例えば当該会社の社員に対して、当該組織に属することを証明するための媒体として個人情報表示体10、例えば社員証を付与する。当該組織は、個人情報表示体10によって表示される所有者の個人情報に基づき、敷地内や室内等への入退場の管理、具体的には入退場の制限や入退場の記録や勤怠の管理等を行うことができる。したがって、個人情報表示体10に対しては、所有者の認証が容易であること、言い換えると個人情報表示体10の真贋の判定が容易であること、並びに、模造、改竄が困難であることが要望される。
【0024】
図1に示すように、個人情報表示体10は、個人情報表示体10が付与されるべき特定人の個人情報を表示するための表示要素を有している。
図1に示された例では、第1〜第5表示要素41,42,43,44,45が個人情報表示体10に設けられている。
図1および
図2に示すように、個人情報表示体10は、カード状に形成されている。そして、個人情報表示体10は、カード状の表示体本体20と、表示体本体20上に積層されたカバー層34と、を有している。表示要素41〜45は、表示体本体20に設けられ、表示体本体20とカバー層34との間、或いは、表示体本体20の内部に位置している。
【0025】
ここで説明する例において、表示要素を形成される前の表示体本体20は、発行されるすべての個人情報表示体10の間で共通の構成を有している。
図2に示すように、表示体本体20は、カードの芯をなす互いに積層された第1コア層22および第2コア層23と、コア層22,23の両側にそれぞれ積層された第1背景印刷層25および第2背景印刷層26と、背景印刷層25,26の両側にそれぞれ積層された第1オーバーシート層28および第2オーバーシート層29と、を有している。
【0026】
背景印刷層25,26は、後述するレーザーエングレービングにより個人情報を記録される態様等の特殊な場合を除くと、発行される個人情報表示体10の間で共通するパターン、例えば、地紋等を印刷された層である。オーバーシート層28,29は、保護層として機能する。とりわけ、
図2に示された例において、第2オーバーシート層29は、カード状の個人情報表示体10の最表面を形成する。オーバーシート層28,29によって、背景印刷層25,26に印刷されたパターンが保護される。オーバーシート層28,29は、背景印刷層25,26に印刷されたパターンを視認可能とするため、無色でも有色でもよいが、透明または半透明となっていることが好ましい。また、第1オーバーシート層28に設けられるカバー層34も、表示要素によって表示される個人情報および背景印刷層25,26に印刷されたパターンを視認可能とするため、無色でも有色でもよいが、透明または半透明となっている。
【0027】
なお、本明細書における「透明または半透明」とは、可視光域の光の透過率が0%でないことを意味する。
【0028】
表示体本体20をなす各層並びにカバー層34は、例えばIDカードのカード本体に用いられる既知の材料を用いて既知の方法にて作製され得る。ただし、表示要素41,42,43,44,45を形成される側の面をなす表示体本体20の第1オーバーシート層28は、
図3〜
図5に示すように、表示要素41,42,43,44,45に応じて種々の形態をとり得る。この点については、表示要素41,42,43,44,45の説明に対応して、後述する。
【0029】
次に、表示要素41,42,43,44,45について詳述する。個人情報表示体10には、上述したように、個人情報表示体10の所有者となるべき特定人の個人情報を表示するための表示要素41,42,43,44,45が、表示体本体20上または表示体本体20の内部に設けられている。表示体本体20の第1オーバーシート層28上に積層されたカバー層34は、表示要素41,42,43,44,45を覆い、表示要素41,42,43,44,45を保護する。
【0030】
図1に示された例において、第1表示要素41および第3表示要素43は、識別番号を文字や数字等の記号情報として表示している。第2表示要素42および第5表示要素45は、特定人の像として、顔を含む上半身を表示している。第4表示要素44は、氏名、性別、生年月日を文字や数字等の記号情報として表示している。図示された例のように、個人情報表示体10が、所有者の像、とりわけ顔を含む像を表示する場合、所有者の認証、並びに、認証結果に基づいた個人情報表示体の真贋判定を容易かつ正確に行うことができる。
【0031】
また、第5表示要素45によって表示される像は、ゴースト像とも呼ばれる像である。第5表示要素45は、第2表示要素42によって表示される像と同一の像を、同一の大きさ又は異なる大きさで表示する。ただし、第2表示要素42および第5表示要素45は互いに異なる方法で表示体本体20に形成されている。第2表示要素42に加えて第5表示要素45を個人情報表示体10に設けることにより、個人情報表示体10の偽造防止性を効果的に向上させることができる。
【0032】
第1表示要素41は、回折光学可変素子50を用いて形成されている。ここで回折光学可変素子(DOVID:diffractive optically variable Image device)50とは、回折現象の利用により観察方向に依存して、その観察され方、例えば明るさや色等が変化する素子のことである。回折光学可変素子50の典型例として、ホログラムや回折格子を例示することができる。ホログラムや回折格子からなる回折光学可変素子50は、レリーフ型として形成されてもよいし、或いは、体積型として形成されていてもよい。レリーフ型の回折光学可変素子50の場合、光学素子に凹凸を形成することにより実現されるため、比較的に容易に製造することができる。一方、体積型の回折光学可変素子50の場合、きわめて高度の製造技術を必要とするため、偽造防止性を向上させることができる。また、ホログラムや回折格子からなる回折光学可変素子50は、透過型でもよいし或いは反射型でもよい。反射型の回折光学可変素子50の場合、コア層22,23および背景印刷層25,26を透明に形成しなくてもよい。また、回折光学可変素子50は、不透明であってもよいし、有色又は無色を問わず透明或いは半透明であってもよい。回折光学可変素子50を半透明とする場合には、回折光学可変素子50が50%以上の可視光域の光の透過率を有することが好ましい。
【0033】
一具体例として、
図8に示された個人情報表示体10では、接合層56を介して、表示体本体20の第1オーバーシート層28上に回折光学可変素子50が設けられている。この回折光学可変素子50は、レリーフ型の計算機合成ホログラムや回折格子として構成されている。
図8に示すように、この回折光学可変素子50は、凹凸面を有した凹凸形成層52と、凹凸形成層52の凹凸面上を被覆する反射層54と、を有している。凹凸形成層52は、例えば透明な樹脂を用いて形成される。一方、反射層54は、凹凸形成層52の凹凸面上に蒸着された薄膜として形成され得る。反射層54は、凹凸形成層52とは異なる屈折率を有した金属含有物、例えば、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化錫を用いて形成され得る。反射層54は、不透明である必要はなく、透明または半透明であってもよい。
【0034】
第1表示要素41は、回折光学可変素子50の配置パターンによって、個人情報を表示するようになっている。例えば、シート状の回折光学可変素子50を所望の配置パターンで転写することにより、第1表示要素41が、回折光学可変素子50の配置パターンに依存して把握される個人情報を表示することができる。すなわち、ここで説明する個人情報表示体10によれば、第1表示要素41が、高度の製造技術を必要とする回折光学可変素子50の配置パターンによって、特定人の個人情報、典型的には個人情報表示体10の所有者の個人情報を表示する。このように第1表示要素41が、回折光学可変素子50を用いて形成されているので、個人情報表示体10の偽造を困難にすることができる。その一方で、回折光学可変素子50の配置パターンで個人情報を表示すればよいので、回折光学可変素子50自体に、個人情報を例えば凹凸構造や干渉縞として記録する必要がない。したがって、個人情報表示体10が、比較的に容易に製造され得るとともに、優れた偽造防止性を発揮することができる。
【0035】
なお、回折光学可変素子50自体は、個人情報を表示し得ないパターンを有している。回折光学可変素子50自体が有するパターンは、特定の情報を示す又は特定の情報を意味するものに限られることなく、図形、文字や数字等の記号、マーク等の配列、模様、柄等、特に限定されない。すなわち、回折光学可変素子50は、その配置パターンによって特定人の個人情報を表示することができるが、回折光学可変素子50自体は、当該個人情報とは無関係のパターンを表示するようにしてもよい。したがって、回折光学可変素子50自体が有するパターンは、この回折光学可変素子50を用いて表示しようとする個人情報とは無関係に、発行されるすべての個人情報表示体10の間で共通とすることができる。これにより、個人情報表示体10は、より容易に作製され得る。
【0036】
加えて、回折光学可変素子50自体が表示する個人情報とは無関係なパターンに、微小な隠蔽像を含ませておくこともできる。この場合、比較的に容易に製造され得る個人情報表示体10に対して、より優れた偽造防止性を付与することができるとともに、この個人情報表示体の真贋判定を極めてより容易且つより正確に行うことができる。
【0037】
図6および
図7に示すように、回折光学可変素子50は、第1表示要素41が設けられるべき面上に、画成された複数の単位領域48のそれぞれに対して二値以上の階調で配置され得る。この場合、第1表示要素41は、所定の単位領域48に配置された回折光学可変素子50の集合体として、形成される。なお、二値の階調では、
図6に示すように、複数の単位領域48は、回折光学可変素子50を配置する領域と、回折光学可変素子50を配置しない領域と、の二種類に区分けされる。
図6に示された例では、第1表示要素41が設けられるべき面、例えば
図3〜
図5における表示体本体20の表面が、マトリクス状に分割され、互いに隣接して格子状に配列された複数の単位領域48が画成されている。このような本実施の形態によれば、回折光学可変素子50を用いた第1表示要素41によって、個人情報の表示を優れた意匠性にて行うことができる。
【0038】
さらに、
図7に示すように、二値よりも多い三値以上の階調で、各単位領域48の回折光学可変素子50の配置が決定されていれば、第1表示要素41によって優れた意匠性で個人情報を表示することができる。例えば、図示された形態のように、第1表示要素41によって細かい記号、具体的には細かい文字や数値等で表される個人情報を表示する場合においても、当該個人情報を高解像度で明瞭に表示することが可能となる。これにより、比較的に容易に製造され得る個人情報表示体10に対して、より優れた偽造防止性を付与することができるとともに、この個人情報表示体10の所持者の認証やこの個人情報表示体10の真贋判定を極めてより容易且つより正確に行うことが可能となる。なお、二値よりも多い階調を実現する方法としては、ディザ法等、既知の種々の方法を採用することができる。
【0039】
なお、単位領域48に配置された回折光学可変素子50の集合体としての第1表示要素41は、シート状に形成された回折光学可変素子50を、接着剤等を用いて、単位領域48に転写することにより、作製され得る。典型的には、後に詳述するように、サーマルヘッド62,67を用いた熱転写によって、第1表示要素41を作製することができる。
図1に示された例では、各単位領域48への回折光学可変素子50の配置を制御し、制御された回折光学可変素子50の配置パターンによって、細かい記号情報を表示している。
図1に示された例のように、個人情報表示体10に文字や数字等による記号情報を表示する場合には、一般的なIDカードにおける文字や数字等の記号の大きさで種々の個人情報を表現するために必要となる画素数を考慮して、単位領域48の一辺の長さを5μm以上100μm以下とすることが好ましい。このような大きさの単位領域48への回折光学可変素子50の転写は、従来既知の熱転写プリンターに組み込まれたサーマルヘッドを用いた熱転写により、十分実現可能である。
【0040】
次に、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44および第5表示要素45について説明する。第2〜第5表示要素42〜45も、第1表示要素41と同様に、個人情報表示体10を所有すべき特定人の個人情報を表示する。既に説明したように、
図1に示された個人情報表示体10において、第2表示要素42および第5表示要素45は、特定人の像として、顔を含む上半身を表示している。また、第3表示要素43は、識別番号を文字や数字等の記号情報として表示し、第4表示要素44は、氏名、性別、生年月日を文字や数字等の記号情報として表示している。ただし、第2〜第5表示要素42〜45は、回折光学可変素子50を用いずに形成されている。言い換えると、第2〜第5表示要素42〜45は、用いられる材料および形成方法のいずれか少なくとも一方において、第1表示要素41と異なっている。
【0041】
このように材料および形成方法の少なくとも一方が異なる複数の表示要素を個人情報表示体10が含んでいることにより、個人情報表示体10の偽造防止性を効果的に高めることができる。加えて、
図1に示す例においては、材料および形成方法の少なくとも一方が異なっている第1表示要素41および第3表示要素43が、共に、同一の個人情報を表示する。すなわち、上述したように優れた偽造防止性を発揮する第1表示要素41が、第3表示要素43によって表示される個人情報と同一の個人情報を表示する。そして、第1表示要素41が表示する個人情報と第3表示要素43が表示する個人情報との同一性により、個人情報表示体10の真贋判定をより正確に行うことができるようになる。とりわけ、第1表示要素41および第3表示要素43が表示する情報は、情報の同一性の評価を客観的に行うことができる記号情報、とりわけ文字および数値情報であり、個人情報表示体10の真贋判定をさらに正確に行うことができる。したがって、個人情報表示体10の所持者の認証やこの個人情報表示体10の真贋判定をより容易且つより正確に行うことができる。
【0042】
また、第1表示要素41は、個人情報表示体10の個人情報の表示面の面方向に沿って、第2表示要素42と少なくとも部分的に重なる位置に配置されている。互いに異なる方法で製造される第1表示要素41と第2表示要素42とが少なくとも部分的に重なって配置されることにより、個人情報表示体10の偽造を効果的に困難とすることができる。とりわけ、
図1に示された個人情報表示体10では、第1表示要素41が、上述してきたように、単独でも優れた偽造防止性を発揮する上に、第1表示要素41の像と第2表示要素45の像とが重なって観察されるようになる。このため、個人情報表示体10の偽造を極めて困難にすることができる。
【0043】
なお、このような効果を期待する上では、第1表示要素41と第2表示要素42のいずれか少なくとも一方が透明または半透明に形成されていることが好ましい。例えば、第1表示要素41が個人情報表示体10の表面側、つまり観察者側に配置されるとともに、既に説明したように透明または半透明に形成され、第2表示要素45が第1表示要素41の背面側、つまり個人情報表示体10の内部側に配置されるようにしてもよい。この場合、透明又は半透明な第1表示要素41越しに第2表示要素42によって表示される像を観察することが可能となる。
【0044】
一般に、個人情報表示体10に基づき、当該個人情報表示体10の所有者の認証を行うには、当該個人情報表示体10に所有者の像、とりわけ顔が表示されていることが好ましい。所有者の像、とりわけ顔が個人情報表示体10に記録されている場合には、所有者の認証、並びに、認証結果に基づいた個人情報表示体10の真贋判定を容易かつ正確に行うことができる。したがって、第1表示要素41が透明または半透明に形成され、第2表示要素42によって表示される像を正確に観察することができれば、第2表示要素42によって表示される像に基づいた所有者の認証、並びに、認証結果に基づいた個人情報表示体10の真贋判定の観点から、非常に都合が良い。またそもそも、第2表示要素42と少なくとも部分的に重なる位置に配置される第1表示要素41を透明または半透明とすることで、個人情報表示体10の偽造防止性を効果的に向上させることができる。
【0045】
ところで、第2〜第5表示要素42〜45は、種々の既知の方法により、作製され得る。一例として、昇華熱転写印画法により、表示体本体20の第1オーバーシート層28に色材を昇華熱転写することにより、第2〜第5表示要素42〜45を表示体本体20に形成することができる。表示体本体20に熱転写される色材は、作製すべき第2〜第5表示要素42〜45に対応して種々の色を含めることができる。フルカラー画像により個人情報を表示する個人情報表示体10では、イエロー・マゼンタ・シアン・黒の四色の色材、或いは、赤・緑・青・黒の四色の色材を、表示体本体20に熱転写することになる。この結果、表示体本体20とカバー層34との間には、上述した回折光学可変素子50と、イエロー・マゼンタ・シアン色材の一以上、或いは、赤・緑・青色材の一以上からなるカラー層36と、黒色からなる黒色層37とが形成される。
【0046】
図3および
図4に示された個人情報表示体10では、第2〜第5表示要素42〜45が、熱転写印画によって表示体本体20に設けられたカラー層36及び黒色層37から形成されている。
図3に示された個人情報表示体10では、色材を転写される表示体本体20の第1オーバーシート層28が、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)やポリカーボネート(PC)からなる本体層28aと、本体層28a上に積層された受容層28bと、を有している。
図3に示された例では、カラー層36が受容層28b内に形成され、黒色層37および回折光学可変素子50が受容層28bの表面に形成されている。一方、
図4に示された個人情報表示体10では、色材を転写される第1オーバーシート層28が、例えばポリ塩化ボニル(PVC)等のカラー色材をなす染料を受容可能な単一の層として形成されている。したがって、
図4に示された個人情報表示体10では、第1オーバーシート層28の表層内にカラー層36が形成され、第1オーバーシート層28の表面上に黒色層37および回折光学可変素子50が形成されている。
【0047】
他の例として、第2〜第5表示要素42〜45の少なくとも一つを、レーザーエングレービング法により形成することができる。より具体的には、共に特定人の像を表示する第2表示要素42および第5表示要素45の一方をレーザーエングレービング法により形成してもよい。
図5に示された例において、第1オーバーシート層28は、支持材として機能する本体層28aと、本体層28a上に順に積層されたレーザー発色層28cおよび受容層28bと、を有している。受容層28bに対しては、熱転写印画により色材を転写することができる。そして、レーザー発色層28cには、レーザー発色層28cが感度を示す波長域のレーザー光を照射することにより、レーザー光の走査経路に沿った黒色層37を形成することができる。さらに別の例として、表示体本体20の第1背景印刷層25が、レーザー発色層として形成され、レーザーエングレービング法により、表示体本体20の第1背景印刷層25に個人情報が記録されるようにしてもよい。
【0048】
加えて、
図1に示す個人情報表示体10において、第2〜第5表示要素42〜45の少なくとも一つが蛍光発光材料を用いて形成されているようにしてもよい。ここで蛍光発光材料とは、ある波長域の光に対して感度を示し、当該波長域の光を受光した場合に発光する性質を有した材料である。このような個人情報表示体10によれば、特別な条件下にて、蛍光発光材料を用いて形成された表示要素によって表示される個人情報が観察されるようになり、通常の条件下では、蛍光発光材料を用いて形成された表示要素によって表示される個人情報が視認されないようにすることができる。
【0049】
一例として、赤外線や紫外線等の非可視光を照射された場合に可視光を発光する蛍光発光材料を用いて、第2〜第5表示要素42〜45の少なくとも一つを作製するようにしてもよい。このような個人情報表示体10によれば、通常の条件下では表示され得ない又は視認され難い個人情報を含んでいるので、個人情報表示体10の偽造防止性を格段に向上させることができる。一方、蛍光発光材料が感度を有する非可視光のみを照射される特別の環境下においては、蛍光発光材料を用いて形成された表示要素によって表示される個人情報のみが観察されるようになる。これにより、蛍光発光材料を用いて形成された表示要素によって表示される個人情報像によっても所有者の認証および個人情報表示体10の真贋判定を容易且つ正確に行うことができる。なお、蛍光発光材料を用いた表示要素は、熱転写印画法によって第1オーバーシート層28に蛍光発光材料を熱転写することにより、
図3〜
図5に示す蛍光発色層38として形成され得る。
【0050】
以上において、
図1を参照しながら個人情報表示体10の一例について説明してきたが、以上で説明した個人情報表示体10は例示に過ぎない。例えば、第1〜5表示要素41〜45は、上述してきた例とは異なる個人情報を表示するようにしてもよい。さらに、第1〜第5の表示要素41〜45に代えて或いは第1〜第5の表示要素41〜45に加えて、他の表示要素を個人情報表示体10に設けるようにしてもよい。
【0051】
次に、ここまで説明してきた個人情報表示体10を製造する方法の一例について説明する。ここで説明する製造方法は、表示体本体20を準備する工程と、熱転写印刷により、所望の配置パターンにて回折光学可変素子50を表示体本体20に転写して第1表示要素41を表示体本体20に設ける工程と、第2〜第5表示要素42〜45を表示体本体20に設ける工程と、を有している。
【0052】
まず、表示体本体20は、既知の方法により作製され得る。具体的には、各々が上述したコア層22,23、背景印刷層25,26およびオーバーシート層28,29をなすようになる複数のシート状の材料を互いに積層することによって、積層体を作製する。その後、得られた積層体を、所望の大きさに切断することにより、表示体本体20が得られる。なお、表示体本体20を作製する際の中間物である積層体は、所望の大きさの表示体本体20が複数枚取り出せる大きさで形成されることが、生産効率の観点から好ましい。
【0053】
次に、第1〜第5表示要素41〜45を表示体本体20に設ける工程について、主に、
図9〜
図11を参照しながら、説明する。
【0054】
図9〜
図11に示された製造方法では、第2〜第5表示要素42〜45は、熱転写印刷により色材を表示体本体20に転写することにより、表示体本体20に設けられる。同様に、第1表示要素41は、熱転写印刷により回折光学可変素子50を表示体本体20へ所望の配置パターンにて転写することにより、表示体本体20に設けられる。このため、
図9に示すように、個人情報表示体の製造装置60は、サーマルヘッド62を有した熱転写装置61を含んでいる。
【0055】
熱転写装置61としては、従来既知の熱転写プリンターを用いることができる。図示された例において、熱転写装置61は、被転写体としての表示体本体20を支持する支持手段63と、支持手段63上の表示体本体20に向けて熱転写シート80を加熱加圧するサーマルヘッド62と、熱転写シート80を供給する熱転写シート供給手段64と、を有している。熱転写シート供給手段64は、熱転写シート80を繰り出す繰り出しロール64aと、熱転写後の熱転写シート80を回収する回収ロール64bと、を有している。繰り出しロール64aから繰り出された熱転写シート80は、サーマルヘッド62と支持手段63との間を通過して、回収ロール64bに回収される。図示された例において、表示体本体20は、図示しない表示体本体供給手段から一つずつ供給される。そして、支持手段63は、一枚のカード状の表示体本体20を支持する支持テーブルとして形成されている。
【0056】
図10には、熱転写シート供給手段64から供給される熱転写シート80の一例が図示されている。図示された熱転写シート80は、長尺の基材シート89と、基材シート89上に設けられた第2〜第5表示要素42〜45を形成するための色材を含んだ色材領域81,82,83,84、第1表示要素41を形成するためのDOVID領域85、および、カバー層34を形成するためのカバー層領域86と、を含んでいる。図示された例では、色材を含む領域として、イエロー系の染料を色材として含んだイエロー領域81と、マゼンタ系の染料を色材として含んだマゼンタ領域82と、シアン系の染料を色材として含んだシアン領域83と、黒色色材を含んだ黒領域84と、が設けられている。
図10および
図11に示すように、基材シート89上には、イエロー領域81、マゼンタ領域82、シアン領域83、黒領域84、DOVID領域85およびカバー層領域86が、繰り返し、配列されている。ただし、熱転写シート80に含まれる色材領域は、製造されるべき個人情報表示体10の表示要素に対応して適宜変更され得る。
【0057】
ところで、
図11に示すように、図示された熱転写シート80のDOVID領域85では、基材シート89の側から順に、剥離層85a、凹凸形成層85b、反射層85cおよびヒートシール層85dが、基材シート89上に重ねられている。この熱転写シート80では、サーマルヘッド62が基材シート89に当接し、ヒートシール層85dを表示体本体20へ押し当てる。そして、ヒートシール層85dが、
図8に示された個人情報表示体10の接合層56を形成するようになる。熱転写シート80の反射層85cは、
図8に示された個人情報表示体10の反射層54を形成するようになり、熱転写シート80の凹凸形成層85bは、
図8に示された個人情報表示体10の凹凸形成層52を形成するようになる。すなわち、図示された熱転写シート80では、反射層85cおよび凹凸形成層85bの部分が、第1表示要素41をなす回折光学可変素子50を形成するようになる。また、剥離層85aは、隣接する凹凸形成層85bに対して剥離性を有した層である。
【0058】
上述したように、回折光学可変素子50は、回折現象の利用により観察方向に依存して観察され方、例えば明るさや色等が変化する種々の素子から形成され得る。このため、熱転写シート80のDOVID領域85の構成、とりわけDOVID領域85の凹凸形成層85bおよび反射層85cは、表示体本体20上に転写されるべき回折光学可変素子50の構成に応じて適宜変更することができる。例えば、熱転写シート80のDOVID領域85が、透過型のホログラムや回折格子を含むようにしてもよいし、或いは、体積型のホログラムや回折格子を含むようにしてもよい。
【0059】
また、
図11に示すように、図示された熱転写シート80のカバー層領域86では、基材シート89の側から順に、剥離層86a、保護層86b、紫外線吸収層86cおよびヒートシール層86dが、基材シート89上に重ねられている。このカバー層領域86は、サーマルヘッド62が基材シート89に当接することによって、ヒートシール層86dの側から表示体本体20に接触する。
図8に示された個人情報表示体10のカバー層34は、この熱転写シート80を用いて形成した場合、ヒートシール層86d、紫外線吸収層86cおよび保護層86bを含むようになる。保護層86bは、個人情報表示体10の最表面をなすようになる層であり、透明性や耐擦傷性等を有していることが好ましい。また、紫外線吸収層86cは、個人情報表示体10において、保護層86bの内側、つまり回折光学可変素子50の側に位置する層であって、紫外線を吸収する。これにより、紫外線吸収層86cよりも内側に位置する個人情報表示体10の表示要素41〜45が紫外線により劣化してしまうことを効果的に防止することができる。紫外線吸収層86は必要に応じて省くこともできる。
【0060】
以上のような製造装置60の熱転写装置61および熱転写シート80を用いて、次のようにして、表示体本体20に表示要素41〜45およびカバー層34が形成される。
【0061】
まず、支持手段63上に次に処理される表示体本体20が供給される。表示体本体20の供給に合わせて、熱転写シート供給手段64により、サーマルヘッド62と支持手段63との間に熱転写シート80が供給されてくる。熱転写シート80は、イエロー領域81が支持手段63上の表示体本体20に対面するように、位置決めされる。この状態で、サーマルヘッド62が、所定の配置パターンにて、イエロー領域81のイエロー系染料を表示体本体20上に昇華熱転写する。次に、表示体本体20を支持手段63上に保持した状態で、熱転写シート80が搬送され、熱転写処理が終了したイエロー領域81の隣りに位置するマゼンタ領域82が表示体本体20に対面するようになる。この状態で、サーマルヘッド62が、所定の配置パターンにて、マゼンタ領域82のマゼンタ系染料を表示体本体20上に昇華熱転写する。同様の処理にて、シアン領域83のシアン系染料および黒色色材が、それぞれ所望のパターンにて、表示体本体20上に熱転写される。以上のようにして、表示体本体20上にカラー層36及び黒色層37が形成される。
【0062】
その後、熱転写シート80が搬送され、支持手段63上の表示体本体20に熱転写シート80のDOVID領域85が対面するようになる。この状態にて、表示体本体20上に仮想的に画成される複数の単位領域48のうちの所定の単位領域48に対して、熱転写シート80のDOVID領域85が当接するよう、サーマルヘッド62が熱転写シート80の対応する位置を加熱しながら押し込む。サーマルヘッド62からの加熱によって、DOVID領域85のヒートシール層85dが、表示体本体20に当接した位置において、接着性を有するようになる。このため、凹凸形成層85bが剥離性を有した剥離層85aから剥がれ、ヒートシール層85dを介して、反射層85c及び凹凸形成層85bが、熱転写シート80の基材シート89から表示体本体20上に転写される。このようにして、反射層85c及び凹凸形成層85bからなる回折光学可変素子50が、表示体本体20上に、熱転写されていく。最終的に、個人情報表示体10を付与されるべき特定人の個人情報を表示し得る配置パターンにて、表示体本体20上に回折光学可変素子50が設けられる。以上のようにして、回折光学可変素子50からなる第1表示要素41が表示体本体20上に形成される。
【0063】
次に、熱転写シート80が搬送され、支持手段63上の表示体本体20に熱転写シート80のカバー層領域86が対面するようになる。カバー層領域86は、サーマルヘッド62からの加熱加圧によって、表示体本体20上の全域に転写される。したがって、表示体本体20に設けられた第1表示要素41、第2表示要素42および第3表示要素43は、ヒートシール層86dを介して接合された紫外線吸収層86cおよび保護層86bからなるカバー層34によって覆われるようになる。
【0064】
以上のようにして、
図1に示された個人情報表示体10が製造され得る。以上の製造方法によれば、極めて優れた偽造防止性を有するとともに、所持者の認証や真贋判定を極めて容易且つ正確に行うことができる個人情報表示体10を、困難なく比較的に容易に製造することができる。また、この方法によれば、一つの熱転写シート80が、一つの個人情報表示体10の第1表示要素41、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44、第5表示要素45およびカバー層34を形成するための領域をすべて含んでいる。したがって、第1表示要素41、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44および第5表示要素45を互いに対して精度良く位置決めすることができる。
【0065】
ただし、以上の製造方法は、単なる例示に過ぎず、種々の変更が可能である。例えば、上述した製造方法では、表示体本体20上に、熱転写によって、第1表示要素41、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44、第5表示要素45およびカバー層34が形成されていく例を示したが、これに限られない。カバー層34上に、熱転写によって、第1表示要素41、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44および第5表示要素45を形成し、次に、第1表示要素41、第2表示要素42、第3表示要素43、第4表示要素44および第5表示要素45が形成されたカバー層34を、表示体本体20に積層し、個人情報表示体10を作製してもよい。
【0066】
また、上述の製造方法では特に言及しなかったが、染料を含有した色材の昇華熱転写に先立ち、当該染料を受容し得る受容層28bを表示体本体20上に熱転写するようにしてもよい。この場合、熱転写シート80が、カバー層領域86とイエロー領域81との間に、受容層を含んだ領域を有するようにすればよい。
【0067】
さらに、熱転写シート80に含まれる各領域を、表示体本体20上へ形成されるべき表示要素の構成に対応して、適宜変更することができる。一例として、
図12に示すように、熱転写シート80が、蛍光発光材料を含んだ蛍光発光材領域88をさらに含むようにしてもよい。
図12に示された熱転写シート80によれば、蛍光発光材料を含んだ表示要素を表示体本体20上に形成することができる。
【0068】
また、表示体本体20上にカラー層36を形成するための熱転写シートと、表示体本体20上に回折光学可変素子50およびカバー層34を形成するための熱転写シートと、を別途に用意するようにしても良い。
図14には、基材シート89上に、イエロー領域81、マゼンタ領域82、シアン領域83および黒領域84が、順に繰り返して形成された第1熱転写シート80aが図示されている。このような第1熱転写シート80aは、個人情報表示体10への適用に限られることなく通常の昇華熱転写印刷において広く用いられており、安価に入手可能である。一方、
図15には、基材シート89上に、DOVID領域85及びカバー層領域86が、順に繰り返して形成された第2熱転写シート80bが図示されている。
【0069】
図13には、
図14に示された第1熱転写シート80aおよび
図15に示された第2熱転写シート80bを用いて、個人情報表示体10を製造する方法が図示されている。
図13に示された製造方法において、個人情報表示体の製造装置60は、既に説明した熱転写装置61に加えて、表示体本体20の搬送方向に沿って熱転写装置61の下流側に配置された第2熱転写装置66をさらに有している。第2熱転写装置66は、熱転写装置61と同様に既知の熱転写プリンターから構成され得る。熱転写装置61の熱転写シート供給手段64は、第1熱転写シート80aを供給する。したがって、熱転写装置61は、表示体本体20上にカラー層36および黒色層37を形成する。
【0070】
一方、第2熱転写装置66は、第2熱転写シート80bを供給する第2熱転写シート供給手段69と、カラー層36および黒色層37が形成された表示体本体20を支持する第2支持手段68と、第2支持手段68上の表示体本体20に向けて第2熱転写シート80bを加熱加圧する第2サーマルヘッド67と、を有している。第2熱転写シート供給手段69は、第2熱転写シート80bを繰り出す繰り出しロール69aと、熱転写後の第2熱転写シート80bを回収する回収ロール69bと、を有している。繰り出しロール69aから繰り出された第2熱転写シート80bは、第2サーマルヘッド67と第2支持手段68との間を通過して、回収ロール69bに回収される。
【0071】
図示された例において、表示体本体20は、図示しない表示体本体供給手段から一つずつ、第1熱転写装置61に供給される。そして、第1の熱転写装置61において、カラー層36および黒色層37が表示体本体20に昇華熱転写される。カラー層36および黒色層37を形成された表示体本体20は、その後、第2熱転写装置66に搬送され、第2熱転写装置66において、回折光学可変素子50およびカバー層34が表示体本体20に熱転写される。
【0072】
さらに、
図1に示された個人情報表示体10では、表示体本体20上で回折光学可変素子50が転写される領域は小さい。したがって、一例として
図16に示すように、熱転写シート80および第2熱転写シート80bにおけるDOVID領域85の大きさを、転写されるべき回折光学可変素子50の大きさを考慮して、小型化してもよい。この場合、熱転写シート80および第2熱転写シート80bのコストを効果的に低減することができる。これにともなって、個人情報表示体10の製造コストを効果的に低減することができる。
【0073】
以上のように本実施の形態によれば、個人情報表示体10の第1表示要素41が、高度の製造技術を必要とする回折光学可変素子50の配置パターンによって、特定人、例えば所有者の個人情報を表示する。このように第1表示要素41が、回折光学可変素子50を用いて形成されているので、個人情報表示体10の偽造を困難にすることができる。その一方で、回折光学可変素子50の配置パターンで個人情報を表示すればよいので、回折光学可変素子50自体に個人情報を例えば凹凸構造や干渉縞として記録する必要がない。したがって、本実施の形態の個人情報表示体10によれば、比較的に容易に製造され得るとともに、優れた偽造防止性を発揮することができる。
【0074】
とりわけ本実施の形態によれば、第1表示要素41は、第2表示要素42と少なくとも部分的に重なる位置に配置されている。すなわち、第1表示要素41が単独でも優れた偽造防止性を発揮する上に、第1表示要素41によって表示される個人情報と第2表示要素45によって表示される個人情報とが重なって観察されるようになる。このため、個人情報表示体10の偽造を極めて困難にすることができる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、第1表示要素41は、第3表示要素43によって表示される個人情報と同一の個人情報を表示する。すなわち、単独でも優れた偽造防止性を発揮する第1表示要素41が、第3表示要素43によって表示される個人情報と同一の個人情報を表示する。そして、第1表示要素41が表示する個人情報と第3表示要素43が表示する個人情報との同一性により、個人情報表示体10の真贋判定をより正確に行うことができるようになる。とりわけ、第1表示要素41および第3表示要素43が表示する情報は、情報の同一性の評価を客観的に行うことができる記号情報、とりわけ文字および数値情報であり、個人情報表示体10の真贋判定をさらに正確に行うことができる。したがって、個人情報表示体10の所持者の認証やこの個人情報表示体10の真贋判定をより容易且つより正確に行うことができる。
【0076】
以上、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。