(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記両性イオン基が、ホスホベタイン基、カルボキシベタイン基、及びスルホベタイン基からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
前記被験製品が建材、又はプラスチック、ゴム、及びセラミックスよりなる群から選択された少なくとも1種を構成素材として含む板状部材である、請求項1〜7のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
前記被験製品が、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体である、請求項1〜9のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、例えば特許文献1に開示された方法を用いて被験製品の抗アレルゲン性能を測定すると、使用する被覆フィルムの種類によって、抗アレルゲン性能に大きな測定誤差が生じる場合があることが明らかとなった。本発明者がさらに鋭意検討を重ねた結果、スギ花粉由来のアレルゲンを測定対象とした場合には、測定誤差が大きく、また、本来抗アレルゲン性能を有さないと考えられる被験製品を測定対象とした場合にも、アレルゲン濃度が減少する測定結果が得られるなど、精密且つ信頼性のある測定ができないという欠点があることが明らかとなった。
【0006】
このように、従来の抗アレルゲン性能の測定方法は、特にスギ花粉由来のアレルゲンに対しては、測定値にバラツキが生じやすいと共に信頼性に疑問が残る測定法であるため、実際の抗アレルゲン性能を正確に評価できないという問題がある。本発明は、このような問題点に鑑みなされた発明である。すなわち、本発明の目的は、高い精度と信頼性をもって、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、(1)スギ花粉由来のアレルゲンを含有する試験液を、被験製品の被測定面に供給する工程、(2)試験液を供給した被験製品の被測定面を、少なくとも一の表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いて、前記両性イオン基を有する面が前記被測定面と対向するよう覆い、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンを被測定面に一定時間接触させる第2工程、及び(3)接触後の試験液を回収し、接触後の試験液中のスギ花粉由来のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程を順次実施することにより、高い精度と信頼性をもって、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の測定方法を提供する。
項1. 被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定する方法であって、
スギ花粉由来のアレルゲンを含有する試験液を、前記被験製品の被測定面に供給する第1工程、
前記試験液を供給した前記被験製品の被測定面を、少なくとも一の表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いて、前記両性イオン基を有する面が前記被測定面と対向するよう覆い、前記試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンを前記被測定面に一定時間接触させる第2工程、及び
前記接触後の試験液を回収し、前記接触後の試験液中のスギ花粉由来のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程、
を含むことを特徴とする、抗アレルゲン性能の測定方法。
項2. 前記両性イオン基が、ホスホベタイン基、カルボキシベタイン基、及びスルホベタイン基からなる群から選択された少なくとも1種である、項1に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項3. 前記両性イオン基が、ホスホリルコリン基である、項1または2に記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項4. 前記被覆部材は、両性イオン基を有するポリマーで表面処理された被覆部材である、項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項5. 前記第3工程におけるスギ花粉由来のアレルゲンの抗原性の測定が酵素免疫法により行われる、項1〜4のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項6. 前記被覆部材が、プラスチックまたはガラスにより構成されている、項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項7. 前記被覆部材が、フィルム状またはシート状である、項1〜6のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項8. 前記被験製品が建材、又はプラスチック、ゴム、及びセラミックスよりなる群から選択された少なくとも1種を構成素材として含む板状部材である、項1〜7のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項9. 前記被験製品が、その表面の少なくとも一部に抗アレルゲン剤を含有している、項1〜8のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
項10. 前記被験製品が、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体である、項1〜9のいずれかに記載の抗アレルゲン性能の測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スギ花粉由来のアレルゲンに対する被験製品の抗アレルゲン性能の測定値にバラツキが少なく、抗アレルゲン性能を高精度且つ高信頼度で測定する測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の測定方法は、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする:
(1)スギ花粉由来のアレルゲンを含有する試験液を、被験製品の被測定面に供給する第1工程、
(2)試験液を供給した被験製品の被測定面を、少なくとも一の表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いて、前記両性イオン基を有する面が前記被測定面と対向するよう覆い、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンを被測定面に一定時間接触させる第2工程、及び
(3)接触後の試験液を回収し、接触後の試験液中のスギ花粉由来のアレルゲンの抗原性を測定する第3工程。
以下、本発明の測定方法について詳述する。
【0011】
被験製品
被験製品とは、本発明の測定方法においてスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能(以下、「スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能」を単に「抗アレルゲン性能」と表記することがある)の測定対象となる製品である。本発明の測定方法は、スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤(以下、「スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤」を単に「抗アレルゲン剤」と表記することがある)の添加の有無に拘わらず、被験製品の抗アレルゲン性能を評価できる。よって、本発明の測定方法に適用される被験製品は、スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤を含有している製品(以下、「スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン剤を含有している製品」を単に「抗アレルゲン剤含有製品」と表記することがある)、抗アレルゲン剤を含有していない製品、又は抗アレルゲン剤の含有の有無が不明な製品のいずれであってもよい。抗アレルゲン剤含有製品を被験製品とする場合には、当該製品の抗アレルゲン性能の優劣を定性的又は定量的に測定することができる。また、抗アレルゲン剤が添加されていない製品又は抗アレルゲン剤の添加の有無が不明な製品を被験製品とする場合には、当該製品の抗アレルゲン性能の有無ないし優劣を定性的又は定量的に測定することができる。
【0012】
本発明の測定方法において、被験製品の好適な例としては、抗アレルゲン剤含有製品が挙げられる。また、本発明の測定方法では、被験製品の表面において発揮される抗アレルゲン性能を測定するので、抗アレルゲン剤含有製品の中でも、とりわけ、製品の表面の少なくとも一部に抗アレルゲン剤を含有しているものが、被験製品として好適に使用される。
【0013】
被験製品に含有される抗アレルゲン剤としては、スギ花粉由来のアレルゲンを不活化又は分解し得るものであればよく、その種類については特に制限されないが、例えば、水酸基を含有する化合物(即ち、水酸基含有化合物)、好ましくはフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。抗アレルゲン剤として使用可能なフェノール性水酸基を有する化合物としては、具体的には、分子内に複数のフェノール性水酸基、即ちベンゼン環やナフタレン環等の芳香環に結合した水酸基を有する化合物が挙げられる。フェノール性水酸基を有する化合物として、より具体的には、ポリパラビニルフェノール;ポリ(3,4,5−ヒドロキシ安息香酸ビニル);エピカテキン、ガロタンニン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、カテキン等の低分子量ポリフェノール;タンニン酸等の高分子量のポリフェノール等が挙げられる。
【0014】
被験製品の形状については、特に制限されないが、測定簡易性の観点から、フィルム状、シート状、板状等の平面を形成できるものが挙げられる。なお、被験製品が折り曲げ部や円弧部を有するものである場合には、当該被験製品から平面を形成できる部分を選び、必要に応じて切り取って、本発明の測定方法に適用される。
【0015】
被験製品としては、具体的には、壁紙、壁材、床紙、床材、木質シート、樹脂シート等の建材;プラスチック、ゴム、及びセラミックスの少なくとも1種を構成素材とする板状部材等が挙げられる。また、これらの被験製品は、抗アレルゲン剤を含む樹脂組成物からなる層が表面層として形成されているもの、抗アレルゲン剤を混合した樹脂組成物から成形したもの、抗アレルゲン剤を担持させたもの等であってもよい。
【0016】
本発明の測定方法に適用される被験製品の好適な一例として、少なくとも基材層と表面層を含み、当該表面層が抗アレルゲン剤及び樹脂を含む樹脂組成物により形成されている積層体が挙げられる。当該表面層の形成に使用される樹脂は、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等のいずれであってもよい。また。このような積層体からなる被験製品の好適な具体例としては、壁紙、壁材、床紙、床材等の内装用建材が挙げられる。
【0017】
第1工程
第1工程では、アレルゲンを含有する試験液を、被験製品の被測定面に供給する。
【0018】
本発明において、試験液に含まれるアレルゲンは、スギ花粉由来のアレルゲンである。スギ花粉由来のアレルゲンとしては、例えば、Cryj1、Cryj2、Cyrj3等が挙げられる。スギ花粉由来のアレルゲンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
試験液には、スギ花粉由来のアレルゲンの精製品及び粗精製品のいずれを含有させてもよい。試験液には、スギ花粉由来のアレルゲンが含まれることを限度として、ダニ由来のアレルゲン、ハウスダストなどの他のアレルゲンがさらに含まれていてもよい。
【0020】
試験液に使用される溶媒は、スギ花粉由来のアレルゲンを失活又は変性させないものであればよく、例えば、リン酸緩衝液等の各種緩衝液、精製水、イオン交換水等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは緩衝液、更に好ましくはリン酸緩衝液が挙げられる。
【0021】
試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲン含量については、特に制限されないが、例えば、0.5〜1000ng/ml、好ましくは1〜200ng/mlが挙げられる。
【0022】
また、試験液を供給する被験製品の被測定面については、特に制限されないが、測定精度をより一層高めるという観点から、通常4〜200cm
2、好ましくは4〜25cm
2に設定すればよい。
【0023】
被験製品の被測定面に対して試験液を供給する量については、測定対象となる被験製品が使用される環境中のスギ花粉由来のアレルゲン存在量、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲン量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、被験製品の被測定面1cm
2当たり、スギ花粉由来のアレルゲン量が0.001〜50ng、好ましくは0.01〜20ngとなるように設定すればよい。
【0024】
被験製品の被測定面に、試験液を供給する方法については、特に制限されず、例えば、被験製品の被測定面に試験液を滴下又は噴霧すればよい。また、被験製品の被測定面に試験液を滴下又は噴霧した後に、必要に応じて、被験製品に軽い振動を与えたりすることにより、試験液を被測定面でより均一になるように広げてもよい。
【0025】
第2工程
第2工程では、試験液を供給した被験製品の被測定面を、少なくとも一の表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いて、前記両性イオン基を有する面が前記被測定面と対向するよう覆い、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンを被測定面に一定時間接触させる。本発明においては、被測定面を、表面に両性イオン基を有する被覆部材で覆うことにより、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンが被測定面と安定的に接触して抗アレルゲン反応を受ける。
【0026】
被覆部材を構成する素材としては、特に制限されないが、例えばプラスチック、ガラスなどが挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。また、ガラスとしては、例えば、フロートガラス、強化ガラス、倍強化ガラス、磨きガラス、網入りガラス、線入りガラス等が挙げられる。
【0027】
また、被覆部材の形状については、被測定面を覆うことができることを限度として、特に制限されないが、例えば、シート状、フィルム状等が挙げられ、好ましくはシート状が挙げられる。特にシート状のガラスは、外力によって変形し難いので、被測定面上の試験液の不均一な分布を解消して均一に広げることができる。シート状のガラスを用いることにより、被験製品のスギ花粉由来の抗アレルゲン性能をより一層高精度且つ高信頼度で測定することが可能になる。
【0028】
被覆部材の大きさについては、被測定面の上の試験液を覆うことができることを限度として特に制限されない。
【0029】
被覆部材がシート状である場合、その厚さについては、特に制限されないが、通常0.3〜2.0mm程度、好ましくは0.7〜1.4mm程度が挙げられる。また、被覆部材がフィルム状である場合、その厚さについては、特に制限されないが、通常0.01〜1.0mm程度、好ましくは0.04〜0.3mm程度が挙げられる。
【0030】
被覆部材は、上記のような素材の表面の少なくとも一の表面上に両性イオン基を有する。上述の通り、従来の抗アレルゲン性能の測定方法においては、スギ花粉由来のアレルゲンを測定対象とした場合、抗アレルゲン性能の測定誤差が大きくなり、精密で信頼性の高い測定ができないという問題がある。これに対して、本発明においては、試験液の被覆部材として、少なくとも一の表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いて、当該両性イオン基を有する面が被測定面と対向するよう覆うことにより、スギ花粉由来のアレルゲンを測定対象とした場合にも、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を高い精度と信頼性をもって測定することができる。
【0031】
被覆部材は、被験製品の被測定面と対向する少なくとも一の表面に両性イオン基を有すればよく、他の面に両性イオン基をさらに有していてもよい。また、被覆部材は、被験製品の被測定面と対向する少なくとも一の表面において、当該表面の少なくとも一部に両性イオン基を有すればよい。なお、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を高い精度と信頼性をもって測定する観点からは、被覆部材は、試験液と接触する部分の全面に両性イオン基を有することが好ましい。
【0032】
被覆部材の表面が有する両性イオン基としては、特に制限されず、例えば、ホスホベタイン基、カルボキシベタイン基、及びスルホベタイン基などが挙げられ、これらの中でも好ましくはホスホベタイン基が挙げられる。ホスホベタイン基としては、特に制限されないが、好ましくはホスホリルコリン基などが挙げられる。カルボキシベタイン基としては、特に制限されないが、好ましくはカルボキシメチルベタイン基、カルボキシエチルベタイン基などが挙げられる。スルホベタイン基としては、特に制限されないが、好ましくはスルホプロピルベタイン基、スルホブチルベタイン基などが挙げられる。被覆部材の表面が有する両性イオン基は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、本発明において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルまたはメタクリロイルを意味する。
【0033】
被覆部材に両性イオン基を導入する方法としては、特に制限されず、例えば、両性イオン基を有するモノマーを重合させたポリマーを被覆部材とする方法、上記の被覆部材を構成する素材と両性イオン基を有する化合物とを反応させて、表面に両性イオン基が結合した被覆部材とする方法、両性イオン基を有するポリマーで被覆部材を構成する素材を表面処理することによって、両性イオン基を有するポリマーを被覆部材の表面上に担持させた被覆部材とする方法などが挙げられる。これらの方法の中でも、両性イオン基を有するポリマーで被覆部材を構成する素材を表面処理する方法を用いることにより、表面に両性イオン基を有する被覆部材が容易に得られる。
【0034】
両性イオン基を有するポリマーで表面処理する方法としては、特に制限されず、両性イオン基を有するポリマーや被覆部材を構成する素材の種類などによって適宜選択すればよいが、例えば、両性イオン基を有するポリマーとこれを溶解する溶媒とを含む溶液に被覆部材を構成する素材を浸漬させた後、被覆部材を乾燥して被覆部材の表面から溶媒を蒸発させる方法などが挙げられる。両性イオン基を有するポリマーを溶解する溶媒は、両性イオン基を有するポリマーの種類、溶媒の乾燥のしやすさなどに応じて適宜選択すればよいが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどの極性有機溶媒などが挙げられる。
【0035】
表面処理によって被覆部材の表面に両性イオン基を導入する場合、表面処理に用いる両性イオン基を有するポリマーとしては、特に制限されず、例えば、上記のホスホベタイン基、上記のカルボキシベタイン基、及び上記のスルホベタイン基の少なくとも1種を分子内に有するポリマーが挙げられる。これらの中でも、スギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能をより高い精度で測定する観点から、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として含むポリマーが特に好ましい。
【0036】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として含むポリマーとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモポリマー、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと重合性二重結合を有する化合物とのコポリマーなどが挙げられる。このようなコポリマーの具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸アルキルとのコポリマーなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1〜10程度、好ましくは2〜6程度が挙げられる。炭素数がこのような範囲にあることにより、コポリマーに適度な疎水性部位を付与することができ、例えばプラスチックやガラスなどの疎水性の素材の表面に対してもコポリマーを好適に担持させることができ、被覆部材の表面に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを好適に導入することができる。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0037】
両性イオン基を有するポリマーとしては、例えば公知のものが使用でき、市販品を使用することもできる。例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として含む重合体の市販品としては、リピジュア(登録商標、日油株式会社製)などが挙げられる。
【0038】
第2工程において、アレルゲンを被測定面に接触させる時間(即ち、試験液に含まれるアレルゲンが抗アレルゲン反応を受ける時間)については、特に制限されないが、例えば1分間〜24時間程度、好ましくは3分間〜12時間程度が挙げられる。
【0039】
本発明では、第2工程において、試験液を供給した被験製品の被測定面の上に上記の特定の被覆部材を被せることにより、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を高精度、且つ高信頼度で測定することが可能になっている。この理由の詳細は必ずしも明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、本発明によれば、試験液が被覆部材により覆われているため、試験液に含まれるスギ花粉由来のアレルゲンを被験製品の被測定面に安定的に接触させた状態で維持することができ、試験液に含まれるアレルゲンに対する抗アレルゲン反応を安定的に進行させることができる。さらに、本発明においては、被覆部材の表面に両性イオン基を有するため、スギ花粉由来のアレルゲンが被覆部材に吸着されることが抑制されていると考えられる。このため、試験液中のスギ花粉由来のアレルゲン量が、被覆部材の材質(素材)によって変動したり、試験後に回収されるアレルゲン量が本来の残存量に比べ大きく減少することが抑制されており、結果として、被験製品の抗アレルゲン性能を高精度、且つ高信頼度で測定することが可能になっていると考えられる。
【0040】
第3工程
第3工程では、試験液を回収し、試験液中のアレルゲンの抗原性を測定する。
【0041】
試験液の回収方法については、被測定面と被覆部材との間に挟持されている試験液を回収できる方法である限り、特に制限されないが、例えば、溶液洗浄法、吸引回収法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0042】
溶液洗浄法とは、アレルゲンを変性させない溶液で、被験製品の被測定面と被覆部材の表面を洗い流して、アレルゲンを含む溶液を回収する方法である。アレルゲンを変性させない溶液としては、例えば、リン酸緩衝液等の各種緩衝液、精製水、イオン交換水、水道水、生理食塩水等が挙げられるが、試験液の溶媒と同じ組成の溶媒を使用することが望ましい。
【0043】
また、吸引回収法とは、ピペット等を使用して吸引により試験液を回収する方法である。
【0044】
これらの回収法の中でも、再現性をより高めるという観点から、好ましくは吸引回収法が挙げられる。
【0045】
回収された試験液中のアレルゲンの抗原性の測定方法については、特に制限されないが、例えば、酵素免疫法(ELISA;Enzyme-linked immunosorbent assay)、イムノクロマト法等が挙げられる。これらの測定方法の中でも、アレルゲンの抗原性を高精度に定量するという観点から、好ましくは酵素免疫法が挙げられる。なお、使用するアレルゲンに応じてELISAキットやイムノクロマトキットが市販されており、これらの市販品を使用して、アレルゲンの抗原性を測定することができる。
【0046】
斯して、試験液中のアレルゲンの抗原性を測定し、残存しているアレルゲン量に応じて、被験製品が備える抗アレルゲン性能が判定される。即ち、残存しているアレルゲン量が少ない程、被験製品が備える抗アレルゲン性能が高いと判定され、残存しているアレルゲン量が多い程、被験製品が備える抗アレルゲン性能が低いと判定される。また、使用した試験液中のアレルゲン量に対して試験後に減少したアレルゲン量の割合を不活化率(%)として算出することにより、被験製品が備える抗アレルゲン性能を客観的に数値化することもできる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
1.実験材料
被験製品
[被験製品1]
被験製品1として、基材層/プライマー層/抗アレルゲン剤を含む表面保護層が順に積層された積層シート(5cm×5cmの四角形)を、常法に従って製造したものを使用した。なお、当該被験製品1における基材層は、厚さ60μmの透明ポリプロピレンフィルムに対して、厚さ80μmの着色ポリエチレンを押し出して形成した複層シート(厚さ140μm)を用いた。また、当該被験製品1におけるプライマー層は、「EBRプライマー」(DICグラフィックス株式会社製)で塗工量1.5g/m
2として形成した。更に、当該被験製品1における表面保護層は、数平均分子量1200の4官能ウレタンアクリレートオリゴマー100質量部、抗アレルゲン剤(「アレルバスター、積水ポリマテック株式会社製)7質量部、及び平均粒径5μmの不定形シリカ16質量部を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を、塗工量15g/m
2として形成後、電子線(加速電圧165kV、照射量30kGy)を照射することで硬化させることにより形成した。
[被験製品2]
被験製品2として、基材層/プライマー層/抗アレルゲン剤を含まない表面保護層が順に積層された積層シートを、常法に従って製造したものを使用した。当該被験製品2の各層の組成、厚さ、形状、大きさ等については、表面保護層に抗アレルゲン剤を含まないこと以外は、被験製品1と同様である。
【0048】
被覆部材
[被覆部材1]
被覆部材1として、角カバーグラス(松浪ガラス工業株式会社製、寸法30mm×40mm、厚さ120−170μm)を使用した。角カバーグラスを0.5質量%のリピジュア(登録商標)−CM5206(日油株式会社製)を含むエタノール溶液中に浸漬し、角カバーグラスの表面を、両性イオン基を有するポリマーで表面処理した。
[被覆部材2]
被覆部材2として、ポリエチレンフィルム(寸法30mm×40mm、厚さ130μm)を使用した。ポリエチレンフィルムを0.5質量%のリピジュア(登録商標)−CM5206(日油株式会社製)を含むエタノール溶液中に浸漬し、ポリエチレンフィルムの表面を、両性イオン基を有するポリマーにより表面処理した。
[被覆部材3]
被覆部材3として、ポリエチレンフィルム(寸法30mm×40mm、厚さ130μm)を使用した。ポリエチレンフィルムの表面処理は行わなかった。
[被覆部材4]
被覆部材4として、角カバーグラス(松浪ガラス工業株式会社製、寸法30mm×40mm、厚さ120−170μm)を使用した。角カバーグラスの表面処理は行わなかった。
【0049】
試験液
[試験液1]
アレルゲン含有試験液1として、スギ花粉粗抽出液(東京環境アレルギー研究所)をCryj1アレルゲン濃度が5ng/mLとなるようにリン酸緩衝液(「Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline D8537」、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)に溶解した試験液を使用した。
[試験液2]
アレルゲン含有試験液2として、ダニ粗抽出液(東京環境アレルギー研究所)をDerf1アレルゲン濃度が15ng/mLとなるようにリン酸緩衝液(「Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline D8537」、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)に溶解した試験液を使用した。
【0050】
2.実験方法
[実施例1]
抗アレルゲン剤含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品1、被覆部材1、及び試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、以下の方法で抗アレルゲン性能を測定した。
被験製品1の表面保護層の上に試験液1を0.2ml滴下した。その上に、被覆部材1を被せて、被覆部材1の全面に液状試料が均一に広がる状態にして、被験製品1の表面保護層と被覆部材1との間に液状試料を挟持させた。この状態で、20℃、相対湿度90%で3時間静置し、抗アレルゲン反応を進行させた。次いで、ピペットを用いて試験液を回収し、Cryj1 ELISAキット(ニチニチ製薬株式会社製)を用いてアレルゲンCryj1量を定量した。
【0051】
上記の条件での実験を、3回繰り返して実施し(測定回数(n数)を3回)、試験後の試験液中のアレルゲンの量の平均値を求めると共に、測定誤差σ(標準偏差)を下記式(1)に従って算出した。また、式(1)で求めた測定誤差σを用いて、試験結果の変動係数CVを下記式(2)に従い算出した。
【0052】
【数1】
【0053】
【数2】
【0054】
抗アレルゲン剤不含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品2、被覆部材1、及試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1の代わりに、被験製品2を使用したこと以外は、上記抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0055】
[実施例2]
抗アレルゲン剤含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品1、被覆部材2、及び試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被覆部材1の代わりに、被覆部材2を使用したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0056】
抗アレルゲン剤不含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品2、被覆部材2、及び試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1及び被覆部材1の代わりに、被験製品2及び被覆部材2を使用したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0057】
[比較例1]
抗アレルゲン剤含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品1、被覆部材3、及び試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被覆部材1の代わりに、被覆部材3を使用したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0058】
抗アレルゲン剤不含有被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品2、被覆部材3、及び試験液1を使用して、抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1及び被覆部材1の代わりに、被験製品2及び被覆部材3を使用したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0059】
[参考例1]
抗アレルゲン剤含有被験製品のダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品1、被覆部材1、及び試験液2を使用して、ダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、試験液1の代わりに、試験液2を使用し、Derf1 ELISAキット(ニチニチ製薬株式会社製)を用いてアレルゲンDerf1量を定量したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0060】
抗アレルゲン剤不含有被験製品のダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品2、被覆部材1、及び試験液2を使用して、ダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1及び試験液1の代わりに、被験製品2及び試験液2を使用し、Derf1 ELISAキット(ニチニチ製薬株式会社製)を用いてアレルゲンDerf1量を定量したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤不含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0061】
[参考例2]
抗アレルゲン剤含有被験製品のダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品1、被覆部材4、及び試験液2を使用して、ダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被覆部材1及び試験液1の代わりに、被覆部材4及び試験液2を使用し、Derf1 ELISAキット(ニチニチ製薬株式会社製)を用いてアレルゲンDerf1量を定量したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0062】
抗アレルゲン剤不含有被験製品のダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能の測定
被験製品2、被覆部材4、及び試験液2を使用して、ダニ由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を測定した。具体的には、被験製品1、被覆部材1、及び試験液1の代わりに、被験製品2、被覆部材4、及び試験液2を使用し、Derf1 ELISAキット(ニチニチ製薬株式会社製)を用いてアレルゲンDerf1量を定量したこと以外は、実施例1の抗アレルゲン剤不含有被験製品の場合と同様条件で抗アレルゲン性能の測定を行った。
【0063】
3.実験結果
実施例1〜2及び比較例1で得られた結果を表1に示す。これらの結果から、表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いた場合には、測定値のバラツキが少なく、被験製品のスギ花粉由来のアレルゲンに対する抗アレルゲン性能を高精度に測定できることが明らかとなった(実施例1及び2)。一方、表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いなかった場合(比較例1)、測定値のバラツキが大きくなり、被験製品の抗アレルゲン性能を正確に測定できていなかった。また、抗アレルゲン剤不含有被験製品に対する評価において、表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いた場合(実施例1及び2)に比べ、表面に両性イオン基を有さない被覆部材を用いた場合(比較例1)には、試験後に残ったアレルゲン量Xiの各値が明らかに低く測定されていた。比較例1では、抗アレルゲン性能を有さない製品を用いたにも関わらず、一定のアレルゲン低減効果を発現しているような結果となってしまっていることから、比較例1の試験結果は信頼性に劣るものであった。
【0064】
次に、アレルゲンとしてダニ由来のアレルゲンを用いた参考例1〜2で得られた結果を表2に示す。この結果から、アレルゲンとしてダニ由来のアレルゲンを用いた場合も、表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いた場合(参考例1)については、測定値のバラツキが少なく抗アレルゲン性能を高精度に測定できるが、表面に両性イオン基を有さない被覆部材を用いた場合(参考例2)との差は、スギ花粉由来のアレルゲンを用いた場合に比べると小さかった。
【0065】
さらに、ダニ由来のアレルゲンを用いた場合には、抗アレルゲン剤不含有製品に対する評価において、表面に両性イオン基を有さない被覆部材を用いた場合(参考例2)であっても、表面に両性イオン基を有する被覆部材を用いた場合(参考例1)とのアレルゲン量Xiの各値に大きな差は無かった。この結果から、ダニ由来のアレルゲンについては、両性イオン基の有無に関わらず、一定の信頼性を有する測定が可能であることが明らかとなった。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】