(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重合性官能基を有する化合物が、下記一般式(1)で表される重量平均分子量1000〜10000であるウレタン(メタ)アクリレート、又は該ウレタン(メタ)アクリレートに由来する構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートの少なくとも何れかを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光硬化型インクジェット用インク組成物。
R1−O−(CONH−R2−NHCOO−R3−O)n−CONH−R2−NH−COO−R4 …(1)
(一般式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、R1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、R2はジイソシアネートの残基を表し、R3は炭素数6〜20である非環式炭化水素基又は環式炭化水素基を有するジオールの残基を表し、R4はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
前記被記録媒体に付着した前記光硬化型インクジェット用インク組成物に対して、350〜450nmにピーク波長を有するLEDを用いて光を照射する工程を有する、請求項7又は8に記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
〔光硬化型インクジェット用インク組成物〕
本実施形態に係る光硬化型インクジェット用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、重合性官能基を有する化合物の光硬化型エマルションと、光ラジカル重合開始剤と、85℃以上のガラス転移点を有する非光重合性樹脂、又は85℃以上のガラス転移点を有するホモポリマーを形成する水溶性モノマーの少なくともいずれかと、水と、を含む。
【0011】
〔重合性官能基を有する化合物の光硬化型エマルション〕
(重合性官能基を有する化合物)
光硬化型インクジェット用インク組成物は、重合性官能基を有する化合物の光硬化型エマルションを含む。重合性官能基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、分子中に親水基と疎水基を有する両親媒性化合物(以下、単に「両親媒性化合物」ともいう。)、分子中に親水基をもたない疎水性化合物が挙げられる。両親媒性化合物を含むことにより、水への乳化性や塗膜の密着性により優れる傾向にある。
【0012】
重合性官能基としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、アミン基、イミン基、アルコール基、チオール基、スルフォン酸基、カルボン酸基、イソシアネート基、ビニル基、アセチレン基、ニトリル基、ウレタン基、アクリル基、エポキシ基などが挙げられる。このなかでも、重合性官能基がウレタン基、アクリル基を有することが好ましい。これにより、硬化性により優れる傾向にある。
【0013】
両親媒性化合物は親水基と疎水基とを有する。親水基としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、アミン基、イミン基、アルコール基、チオール基、スルフォン酸基、カルボン酸基などが挙げられる。また、疎水基としては、特に限定されないが、例えば、イソシアネート基、ビニル基、アセチレン基、ニトリル基、ウレタン基、アクリル基、エポキシ基などが挙げられる。インク組成物が上記両親媒性化合物を含むことにより、水への乳化性、密着性により優れる傾向にある。
【0014】
このような両親媒性化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される重量平均分子量1000〜10000であるウレタン(メタ)アクリレート、又は該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートの少なくとも何れかを含むことが好ましい。インク組成物がこのような化合物を含むことにより、水への乳化性、密着性により優れる傾向にある。
R
1−O−(CONH−R
2−NHCOO−R
3−O)
n−CONH−R
2−NH−COO−R
4 …(1)
(一般式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、R
1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、R
2はジイソシアネートの残基を表し、R
3は炭素数6〜20である非環式炭化水素基又は環式炭化水素基を有するジオールの残基を表し、R
4はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
【0015】
上記の残基とは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの材料の構造において、ウレタン結合を形成する官能基を除いた部分のことであり、具体的には、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートではヒドロキシル基を除いた部分(R
1で表される。)、ジイソシアネートではイソシアネート基を除いた部分(R
2で表される。)、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルではヒドロキシル基を除いた部分(R
4で表される。)である。
【0016】
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1000〜10000であり、好ましくは2000〜8000である。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、親水性と疎水性との良好なバランスが得られ、光硬化型エマルションを形成しやすく自己乳化性に優れたものとなり、さらに、光ラジカル重合開始剤や他の重合性化合物等の疎水性物質をミセル内に内包しやすくなる。これにより、硬化性が向上する傾向にある。
【0017】
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出することができる。本明細書における重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量のことであり、GPC(HLC−8220〔商品名〕、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製)に、カラム:TSK−gel SuperHZM−M(排除限界分子量:4×10
6、分子量分画範囲:266〜4×10
6、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン系共重合体、充填剤粒径:3μm)を3本直列として用いることにより測定される。
【0018】
上記一般式(1)中、nは1〜30の自然数を表す。なお、nの具体的な数値は、上記の重量平均分子量を調整することにより決まる。
【0019】
(ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート)
上記一般式(1)におけるR
1は、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基である。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)への重合性基の導入のために用いられる。具体的にいえば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1個以上有し、かつ、ヒドロキシル基を1個有する化合物であって、このヒドロキシル基が後に詳述するジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応することによって(メタ)アクリロイル基がウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。このように、少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合(光硬化)が可能な化合物となる。さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合速度が高まるとともに、硬化物の硬度が高まるという有利な効果が得られる。
【0020】
単官能であるモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
2官能であるモノヒドロキシジ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
3官能以上であるモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコールモノアクリレートがより好ましい。これら化合物を用いることにより、より低粘度を有する乳化物を得られる傾向にある。また、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかを含むことも好ましい。これら化合物を用いることにより、硬化性により優れた乳化物を得られる傾向にある。
【0024】
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(ジイソシアネート)
上記一般式(1)におけるR
2は、上記のジイソシアネートの残基である。当該ジイソシアネートは、イソシアネート基を2個有する。
【0026】
このなかでも、ジイソシアネートが好ましい。ジイソシアネートを用いることにより、これを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、高分子量となりにくく、粘度が低くなる傾向にある。
【0027】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネートの脂環式炭化水素骨格を有するジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの脂肪族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートの芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートの水素添加芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネートが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される1種以上が好ましい。このようなジイソシアネートを用いることにより、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によってより黄変しにくくなる傾向にある。
【0029】
上記のジイソシアネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態に係る重合性官能基を有する化合物は、ジイソシアネートに限らずポリイソシアネートを含んでもよい。
【0030】
(炭素数6〜20である非環式炭化水素基又は環式炭化水素基を有するジオール)
上記一般式(1)におけるR
3は、炭素数6〜20である非環式炭化水素基又は環式炭化水素基を有するジオールの残基である。当該ジオールは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの疎水部の疎水性の度合いを調整するために導入される。上記ジオールは良好な疎水性を得られるものが選択される。具体例としては、一分子内に2個のヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、及び芳香族のジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールが好ましく用いられ、中でも良好な疎水性を示すジオールがより好ましい。
【0031】
また、上記ジオールは、必要に応じて、当該ウレタン(メタ)アクリレートの剛直性又は柔軟性を制御するのに適するもので、かつ、良好な疎水性を示すものを選択することもできる。
【0032】
上記の脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ポリプロピレングリコール(例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール)、脂肪族ポリカプロラクトンジオールが挙げられる。
【0033】
上記の脂環族ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノールが挙げられる。
【0034】
上記の芳香族ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、ビフェニル−4,4'−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAが挙げられる。
【0035】
これらのなかでも、脂肪族ジオール及び脂環族ジオールが好ましい。このようなジオールを用いることにより、水への乳化が良好になり、かつ、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなる傾向にある。
【0036】
上記のジオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態に係る重合性官能基を有する化合物は、ジオールに限らずポリオールを含んでもよい。
【0037】
(ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
上記一般式(1)におけるR
4は、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基である。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリオキシアルキレングリコールの1つのヒドロキシル基がアルキル基で封鎖された化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(2)で表される。
HO−(CH
2CH
2O)
m−R …(2)
(上記一般式(2)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。)
【0038】
また、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、オキシエチレン基の繰り返し単位を含むことが好ましい。オキシエチレン基の繰り返し単位の鎖長を調整することにより、親水性を自由に調整できる傾向にある。オキシエチレン基の平均の繰り返し数は、ウレタン(メタ)アクリレートの水への乳化性が良好となるように親水性と疎水性のバランスを調整して決定され、9〜90の自然数が好ましく、9〜60の自然数がより好ましく、9〜30の自然数がさらに好ましい。
【0039】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノメトキシエーテル、ポリエチレングリコールモノエトキシエーテルなどのポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0040】
また、オキシエチレン基の繰り返し単位に加えて、他のオキシアルキレン基の繰り返し単位を分子内に含むポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルも使用可能である。このようなポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、末端アルキル基側にオキシエチレン基の繰り返し単位が位置していることが好ましい。このような構造であることにより、水への乳化性により優れる傾向にある。このような他のオキシアルキレン基の繰り返し単位としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシプロピレン構造、ポリオキシテトラメチレン構造が挙げられる。なお、オキシアルキレン基の繰り返し数は、当該ウレタン(メタ)アクリレートの親疎水バランスを考慮して適宜決定することができる。
【0041】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの末端アルキル基、例えば、上記一般式(2)のRとしては、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。末端アルキル基が、このように炭素数の少ないアルキル基であることにより、疎水性が一層低下し乳化性に一層優れる傾向にある。
【0042】
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上述したイソシアネート基を2個有するジイソシアネートと、ジオールとを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、ジイソシアネートに由来する構造とジオールに由来する構造が直線上に配列する直鎖構造であって、上記一般式(1)に表したように片末端にポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル由来の親水性部R
4を有し、もう一方の末端に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート由来の疎水部を有する構造となる。このような構造を有することにより、水への乳化性が特に優れたものとなり、乳化物(エマルション)の粘度を従来のウレタン(メタ)アクリレートの乳化物に比べ大幅に下げることができる。
【0044】
(架橋ウレタン(メタ)アクリレート)
本実施形態のインク組成物は、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートとともに、又はこれに代えて、当該ウレタン(メタ)アクリレートを構成単位として有する架橋ウレタン(メタ)アクリレート(以下、単に「架橋ウレタン(メタ)アクリレート」ともいう。)を含み得る。架橋ウレタン(メタ)アクリレートを含むことにより、硬化性により優れ、かつ、エマルションの保存安定性により優れるインク組成物となる傾向にある。
【0045】
(架橋剤)
上記の架橋ウレタン(メタ)アクリレートは、上述の一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートと2官能以上の架橋剤とを反応させることにより得ることができる。架橋剤を用いることにより、ウレタン(メタ)アクリレートを高分子量化することができる。これにより、硬化性により優れ、かつ、エマルションの保存安定性により優れるインク組成物となる傾向にある。
【0046】
また、溶剤系や無溶剤系(無溶媒系)でなく、O/Wエマルション中のオイル系(油相)で架橋反応を実施することにより、ゲル化を防止することができる。
【0047】
上記の2官能以上の架橋剤は、(メタ)アクリロイル基と付加反応するものであるため、疎水性であることが好ましい。換言すれば、上記の2官能以上の架橋剤は、上記両親媒性化合物が形成するエマルション内の油相において、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート中の(メタ)アクリロイル基にマイケル付加することで、当該ウレタン(メタ)アクリレートを架橋化するものであることが好ましい。
【0048】
このような(メタ)アクリロイル基と反応する架橋剤として、チオール基やアミノ基を有するものが挙げられる。この中でも、反応を速やかに進行させることができるため、多官能チオール化合物及び多官能アミン化合物のうち少なくともいずれかが好ましく、多官能チオール化合物がより好ましい。
【0049】
上記2官能以上の架橋剤の具体例として、特に限定されないが、チオール基含有化合物及びアミノ基含有化合物が挙げられる。この中でも、水への溶解度が低く、かつ、水分散時に油相内に取り込みやすいため、メルカプト基含有化合物が好ましい。
【0050】
上記メルカプト基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(以下、「PEMP」ともいう。)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)が挙げられる。
【0051】
上記2官能以上の架橋剤の含有量は、(メタ)アクリロイル基含有樹脂の総質量(100質量%)に対して、3〜10質量%であることが好ましく、5〜8質量%であることがより好ましい。
【0052】
なお、本明細書における「(メタ)アクリロイル基含有樹脂」とは、上記架橋剤により架橋される(メタ)アクリロイル基を含有する樹脂全てを意味する。したがって、当該(メタ)アクリロイル基含有樹脂には、上記の一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート、及び後述の分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が共に含まれる。
【0053】
また、架橋ウレタン(メタ)アクリレートは、その構成単位である上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートが上述した範囲内の重量平均分子量を有していればよい。より具体的には、架橋ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、2,000〜8,000であると好ましい。
【0054】
以上で説明してきた、架橋ウレタン(メタ)アクリレートを含むウレタン(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記重合性官能基を有する化合物は、インク組成物100質量%に対し、1〜30質量%含まれることが好ましく、2〜25質量%含まれることが好ましく、5〜20質量%含まれることが好ましい。含有量が上記範囲内であることにより、光硬化性とインクの低粘度化により優れる傾向にある。
【0056】
(光硬化型エマルション)
上記重合性官能基を有する化合物は、光硬化型エマルションを形成する。「光硬化型エマルション」とは、重合性官能基を有する化合物を含むエマルションであって、光を照射することにより硬化しうるものをいう。インク組成物が光硬化型エマルションを含むことにより、溶媒(特に水や水溶性有機溶剤)存在下での紫外線照射による硬化性により優れ、かつ、臭いを効果的に抑制することができる。光硬化型エマルションは、重合性官能基を有する化合物を含み、必要に応じて、他の重合性化合物及び後述する光ラジカル重合開始剤を含んでもよい。また、光硬化型エマルションは自己乳化型エマルションであることが好ましい。ここで「自己乳化型」とは、界面化学的エネルギーのみで自己的に乳化作用を発揮することをいう。自己乳化型エマルションであることにより、光硬化性と密着性により優れる傾向にある。
【0057】
重合性官能基を有する両親媒性化合物は、安定で分散性により優れ、かつ、インク組成物がより低粘度となる光硬化型エマルションを得ることが可能となる。また、このような重合性官能基を有する両親媒化合物は、両親媒性水中で疎水性部をコアに向け親水性部を水相に向けてシェル層を成してミセルを形成し、水中で光ラジカル重合開始剤を内包したミセルを形成することができると考えられる。
【0058】
また、光硬化型エマルションは、本技術分野に属する当業者であれば、後記の実施例で行った方法を適宜改良、変更することにより、作製することができる。また、光硬化型エマルションの作製方法として、乳化重合法、高圧乳化法、転相乳化法等の公知の方法を採用することができる。また、光硬化型エマルションの作製において、必要に応じて各種公知の乳化剤、分散剤を用いてもよい。
【0059】
なお、乳化重合法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を水相中に添加しておき、そこに油相を加えて、少なくとも一部の重合性官能基を有する化合物を重合する方法である。高圧乳化法とは、水相、油相及び界面活性剤のような両親媒性物質を予備混合し、ホモジナイザー等の高圧乳化機にて乳化し水性エマルションを得る方法である。転相乳化法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を油相中に溶解、分散させ、そこに水相を添加してO/W型エマルションを得るという方法である。乳化の途中で連続相が水から油へと変化(転相)するので、転相乳化と呼ばれる。ここで、上記の界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0060】
また、光硬化型エマルションの平均粒径は30〜2,000nmであることが好ましく、50〜1,000nmであることがより好ましい。光硬化型エマルションの平均粒径が上記範囲内であると、インク組成物の吐出安定性がより優れる傾向にある。
【0061】
光硬化型エマルションの平均粒径は、重合性官能基を有する化合物の分子サイズを変更することによって調整することが可能である。また、光硬化型水性エマルションの平均粒径は、公知の方法により調整することも可能であり、例えば、光硬化型エマルション調製時の攪拌速度や乳化剤等を適宜改良、変更すればよい。
【0062】
なお、本明細書における平均粒径とは、体積基準とした場合の、累積50%粒子径を意味し、動的光散乱法によって測定される。当該平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA150(Microtrac Inc.社製商品名)を使用して測定することができる。
【0063】
また、上記の重合性官能基を有する化合物を用いて光硬化型エマルションを調製する場合、エマルションの形成及び架橋反応の間の前後関係はいずれであってもよい。中でも、エマルション状態にした後に架橋反応を行うとゲル化を効果的に防止できるため、乳化後のエマルション状態で架橋反応を行うことが好ましい。なお、架橋剤による架橋反応の相手は、上記重合性官能基を有する化合物に限られず、その他の重合性化合物もあり得る。
【0064】
このように光硬化型エマルションを含有するインク組成物は、粘度が低く、硬化性に優れ、水の存在下でも光硬化可能で、かつ、耐加水分解性に優れる。特に、光硬化型エマルション中に光ラジカル重合開始剤を含む形態において、優れた硬化性と、所定濃度の水の存在下においても光硬化するという従来の光硬化型エマルションにはない性能とを得ることができる。
【0065】
また、光硬化型エマルションが、光重合性(硬化性)に優れる上、所定の濃度の水の存在下においても光で重合(硬化)する理由は明らかとはなっていないが、以下のように推察している。光硬化型エマルションは、上述したように、水中で上記の重合性官能基を有する化合物がコアに光ラジカル重合開始剤を内包して球状ミセルを形成した状態であり、この状態では光を照射しても重合(硬化)はしない。インク組成物を被記録媒体に塗布して乾燥することによって、その中の光硬化型エマルションを所定の濃度にすると、水が残存した状態でも光照射によって重合(硬化)することができ、被記録媒体に対しても良好な密着性が得られる。これは、水の濃度が低下することで、上記の球状ミセルが重合性化合物と光ラジカル重合開始剤とを内部に保持した状態でラメラ状の層構造体を形成し、そして、この層構造体に光が照射されることで層構造体内部の光ラジカル重合開始剤が開始剤ラジカルとなり、この開始剤ラジカルが均一場内にあるラジカル重合性基を有する化合物と上記ウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基とを攻撃して連鎖反応を引き起こしたことによるものと推察する。この推察は、光硬化型エマルションの硬化性を説明するために行ったものであって、本実施形態における光硬化型エマルションを限定するものではない。
【0066】
〔光ラジカル重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光ラジカル重合開始剤を含む。当該光ラジカル重合開始剤は、紫外線が照射されることにより受け取る光(紫外線)のエネルギーによって、活性種であるラジカルを生成し、上記重合性官能基を有する化合物の光重合を開始させるものである。これにより、被記録媒体の表面に存在するインクが硬化して、画像(印字を含む。以下同じ。)を形成することができる。その際、紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。
【0067】
上記光ラジカル重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによって、光開裂や水素引抜き等が生じ、ラジカル(光ラジカル重合開始剤ラジカル)が生成し、重合性官能基を有する化合物、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートや架橋ウレタン(メタ)アクリレート及びラジカル重合性基を有する化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)、を攻撃することで光ラジカル重合を引き起こす。
光ラジカル重合開始剤は、上記光硬化型エマルションとは別にインク組成物中に含まれてもよく、上記光硬化型エマルションに内包された状態でインク組成物中に含まれていてもよい。これにより、吐出安定性がより良好になる傾向にある。
【0068】
上記光ラジカル重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物)、α−アミノアルキルフェノン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、光ラジカル重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかを含むことが好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物を含むことがより好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物からなることがさらに好ましい。このような光ラジカル重合開始剤を用いることにより、インク組成物の硬化性をより優れたものとすることができる傾向にある。
【0070】
このなかでも光ラジカル重合開始剤は、疎水性の光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。疎水性であることにより、重合性官能基を有する化合物からなる光硬化型エマルション中に内包させることがより容易となり、乳化分散性により優れる傾向にある。
【0071】
疎水性の光ラジカル重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p'−ジクロロベンゾフェノン、p,p'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}2−メチルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾフィルフォーメート、アゾビスイソブチリロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、及びジ−tert−ブチルペルオキシドが挙げられる。
【0072】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサントン)、Speedcure ITX(2−イソプロピルチオキサントン)(以上、Lambson社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)が挙げられる。
【0073】
上記光ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
光ラジカル重合開始剤の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましい。含有量が当該範囲内であることにより、紫外線硬化速度を十分に発揮させ、かつ、光ラジカル重合開始剤の溶け残りや光ラジカル重合開始剤に由来する着色を避けることができる。
【0075】
〔85℃以上のガラス転移点を有する非光重合性樹脂〕
本実施形態に係るインク組成物は、85℃以上のガラス転移点を有する非光重合性樹脂を含みうる。非光重合性樹脂は、インク組成物中において、85℃以上のガラス転移点を有することにより、塗膜の硬度を上げる働きをし、これによりインク組成物は、耐擦性に優れる。なお、「非光重合性樹脂」とは、光重合性官能基を有さない樹脂をいう。
【0076】
非光重合性樹脂は、85℃以上のガラス転移点を有し、200℃以上のガラス転移点を有することが好ましい。ガラス転移点が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦性により優れる傾向にある。なお、ガラス転移点は示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて従来公知の方法により測定することができる。ガラス転移点の上限は限られるものではないが例えば300℃以下とすることができる。
【0077】
非光重合性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂の公知の樹脂や、ポリオレフィンワックスが挙げられる。これらの樹脂は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0078】
上記の例示した樹脂の中でも、ウレタン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィンワックスを好ましく用いることができる。このような樹脂を用いることにより、耐擦性と密着性により優れる傾向にある。
【0079】
上記スチレンアクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。なお、共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。なお、スチレンアクリル系樹脂としては、市販されているものを利用してもよい。スチレンアクリル系樹脂の市販品としては、ジョンクリル62J(BASFジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0080】
上記ポリエステル系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、Eastek1100、1300、1400(以上商品名、イーストマンケミカルジャパン社製)、エリーテルKA−5034、KA−3556、KA−1449、KT−8803、KA−5071S、KZA−1449S、KT−8701、KT9204(以上商品名、ユニチカ株式会社製)が挙げられる。
【0081】
上記ポリオレフィンワックスとしては、特に限定されるものではなく、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンのようなオレフィンまたはその誘導体から製造されたワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックスが挙げられる。これらの中でも、画像のヒビ割れの発生を低減できるという観点から、ポリエチレン系ワックスが好ましい。ポリオレフィンワックスは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0082】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、「ケミパールW4005」(三井化学株式会社製、ポリエチレン系ワックス、粒径200〜800nm、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%)のケミパールシリーズが挙げられる。その他、AQUACER513(ポリエチレン系ワックス、粒径100〜200nm、融点130℃、固形分30%)、AQUACER507、AQUACER515、AQUACER840(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)のAQUACERシリーズや、ハイテックE−7025P、ハイテックE−2213、ハイテックE−9460、ハイテックE−9015、ハイテックE−4A、ハイテックE−5403P、ハイテックE−8237(以上、東邦化学株式会社製)のハイテックシリーズ、ノプコートPEM−17(サンノプコ社製、ポリエチレンエマルション、粒径40nm)が挙げられる。これらは、常法によりポリオレフィンワックスを水中に分散させた水系エマルションの形態で市販されている。本実施形態に係るインクにおいては、水系エマルションの形態のまま直接添加することができる。
【0083】
上記の非光重合性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
〔ホモポリマーのガラス転移点が85℃以上である水溶性モノマー〕
本実施形態に係るインク組成物は、ホモポリマーのガラス転移点が85℃以上である水溶性モノマーを含みうる。水溶性モノマーは、インク組成物中において、光硬化後の塗膜を硬くするという働きをし、これによりインク組成物は、耐擦性に優れる。なお、「水溶性」とは、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上であることをいう。
【0085】
水溶性モノマーは、85℃以上のガラス転移点を有し、200℃以上のガラス転移点を有することがより好ましい。ガラス転移点が上記範囲内であることにより、耐擦性により優れる傾向にある。ガラス転移点は、水溶性モノマーのホモポリマーを作製し、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて従来公知の方法により測定することができる。ガラス転移点の上限は限られるものではないが例えば300℃以下とすることができる。
【0086】
このなかでも、水溶性モノマーは、(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。(メタ)アクリレートモノマーを用いることにより、光硬化性、耐擦性により優れる傾向にある。
【0087】
水溶性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0088】
上記の水溶性モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
上記非光重合性樹脂又は上記水溶性モノマーの少なくともいずれかは、上記重合性官能基を有する化合物の含有量に対し、質量基準で0.1倍以上1.0倍以下含まれることが好ましく、0.2倍以上8倍以下含まれることがより好ましい。含有量が上記範囲内であることにより、耐擦性、目詰まり性、保存安定性により優れる傾向にある。
【0090】
〔水〕
本実施形態にかかるインク組成物は、水を含む。水としては、特に制限されることなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、水の含有量は特に制限されることなく、必要に応じて適宜決定すればよい。水を含むことで、有機溶剤を少なくすることにより環境に配慮したインク組成物とすることができる点や、上記重合性化合物の分散性が向上する点で好ましい。
【0091】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材をさらに含んでもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0092】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。この顔料としては、インクジェット用水性顔料インクに通常用いられているものであれば特に制限なく用いることができる。
【0093】
上記顔料として、特に限定されないが、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックの有機顔料;カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック)、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物の無機顔料;シリカ、炭酸カルシウム、タルクの体質顔料を用いることができる。
【0094】
上記顔料の具体例として、C.I.ピグメントイエロー 64、74、93、109、110、128、138、139、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド 122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット 19、C.I.ピグメントブルー 15:3、15:4、60、C.I.ピグメントグリーン 7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36、37、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、34、36、38、64、71が挙げられる。
【0095】
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加することが好ましい。
【0096】
上記分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤(にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミンのタンパク質類、アラビアゴム、トラガントゴムの天然ゴム類、サポニンのグルコシド類、アルギン酸及びプロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムのアルギン酸発酵体メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−m−メチルスチレン−アクリル酸共重合体のスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体の酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩)や界面活性剤(各種アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤)を使用することができる。
【0097】
上記親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料は、顔料の表面にカルボキシル基及びその塩が直接結合するような表面処理により、分散剤なしに水に分散又は溶解が可能とされたものである。具体的には、真空プラズマの物理的処理や次亜塩素酸ナトリウムやオゾンの酸化剤を用いた化学的処理により、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって得ることができる。一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0098】
また、上記ポリマーで被覆された顔料は、特に限定されないが、例えば、重合性基を有する分散剤を用いて顔料を分散させた後、その分散剤と共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)と、光ラジカル重合開始剤と、を用いて水中で乳化重合を行うことにより、得ることができる。このポリマーの中でも、二重結合としてアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びアリル基のうち少なくともいずれかを有するモノマーやオリゴマーが、光ラジカル重合開始剤を使用する公知の重合法に従って重合されたものが、好適に使用可能である。上記の乳化重合は、一般的な方法を用いることができ、重合は乳化剤の存在下で水溶性の光ラジカル重合開始剤の熱分解で発生するフリーラジカルにより進行する。
【0099】
上記顔料分散液を構成する顔料及び分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
色材は、色々な種類のメディア上での鮮明な画像形成という有利な効果が得られるため、固形分換算で、インク組成物の総量(100質量%)に対し、0.05〜25質量%含まれることが好ましく、0.1〜20質量%含まれることがより好ましく、0.3〜15質量%含まれることがさらに好ましく、0.5〜10質量%含まれることが特に好ましい。
【0101】
〔その他の添加剤〕
インク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、スリップ剤(界面活性剤)、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0102】
〔インクジェット記録方法〕
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記光硬化型インクジェット用インク組成物を、被記録媒体に付着させる工程を有する。上記光硬化型インクジェット用インク組成物を用いることにより、耐擦性に優れた記録物が得られる。本実施形態のインクジェット記録方法は、インク組成物が付着した被記録媒体を加熱する加熱工程を有することが好ましく、また、被記録媒体に付着したインク組成物に対して、光を照射する照射工程を有することが好ましい。
【0103】
(加熱工程)
加熱工程においては、光硬化型インクジェット用インク組成物が付着した上記被記録媒体を40℃以上に加熱することが好ましい。加熱温度は、45℃以上がより好ましく、50℃以上がより好ましい。上記加熱を行なうことにより、インクの水などの揮発成分を乾燥させることができ、硬化性により優れる傾向にある。一方で、一般的にこのような加熱手段を設けると、記録中にノズル表面のインクが乾燥することで吐出不良が増大する傾向がある。しかしながら、本実施形態のインク組成物に含まれる光硬化型エマルションは安定であるため、吐出安定性が良好となる。このような加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、セラミックヒーター、ハロゲンヒーター、石英管ヒーター等が挙げられる。加熱工程を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、光硬化型インクジェット用インク組成物を被記録媒体に付着させる前、付着中、付着後等が挙げられるが、付着前、付着中、付着後のすべての過程において加熱を行い続けることがより好ましい。加熱温度は被記録媒体の記録面の表面温度である。加熱温度の上限は限られるものではないが例えば120℃以下とすることが好ましい。
【0104】
(照射工程)
照射工程においては、放射線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光ラジカル重合開始剤が放射線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光ラジカル重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して励起状態となり、光ラジカル重合開始剤と接触することによって光ラジカル重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0105】
光源(放射線源)としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光硬化型インクジェット用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザーダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0106】
ここで、発光ピーク波長が、好ましくは350〜450nmの範囲にある放射線を照射することにより硬化可能であるようなインク組成物を用いることが好ましい。また、照射エネルギーは、500mJ/cm
2以下が好ましい。
【0107】
上記の場合、上記実施形態のインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。上記実施形態のインク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合、記録速度が増大する。他方、上記実施形態のインク組成物の組成によって照射強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の放射線照射には、UV−LEDを用いることが好ましい。このようなインク組成物は、上記波長範囲の放射線照射により分解する光ラジカル重合開始剤、及び上記波長範囲の放射線照射により重合を開始する重合性化合物を含むことにより得られる。なお、発光ピーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する放射線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネルギーとする。
【0108】
このように、本実施形態によれば、水や溶媒存在下での紫外線照射による硬化性及びドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。照射工程を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、光硬化型インクジェット用インク組成物を被記録媒体に付着させる前、付着中、付着後等が挙げられる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0110】
[インク組成物用の材料]
下記の実施例、比較例、及び参考例において使用したインク組成物用の主な材料は、以下の通りである。
〔色材〕
顔料:ピグメントイエロー155(以下、「PY155」と表記する。)
〔光硬化型エマルション〕
下記製造例1で製造されたd−2
下記製造例2で製造されたd−6
下記製造例3で製造されたe−6
〔非光重合性樹脂〕
タケラックW605(三井化学社製製品名)
タケラックW5030(三井化学社製製品名)
タケラックWS5000(三井化学社製製品名)
タケラックW6061(三井化学社製製品名)
〔水溶性モノマー〕
ペンタエリスリトールトリアクリレート:V#300(大阪有機化学社製製品名)
ヒドロキシエチルクリルアミド:HEAA(興人フイルム&ケミカルズ社製製品名)
ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート:EBECRYL150(ダイセル・サイテック社製製品名)
PEG600#ジアクリレート:ライトアクリレート14EG−A(共栄社化学社製製品名)
〔ウレタンアクリレートの合成材料〕
・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP400〔商品名〕、日油社製)(以下、「PPGアクリレート」という。)
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
・イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という。)
・1,12−ドデカンジオール
・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(ユニオールD−400[商品名]、日油社製)
・重量平均分子量が1000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG1000〔商品名〕、東邦化学工業社製)(以下、「メトキシPEG1000」という。)
・重量平均分子量が2000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(ユニオックスM−2000〔商品名〕、日油社製)(以下、「メトキシPEG2000」ともいう。)
〔架橋ウレタンアクリレートの合成材料〕
上記に加えて、さらに架橋剤として、ペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(架橋チオール、以下「PEMP」ともいう。)を用いた。
【0111】
〔ラジカル重合性基を有する化合物〕
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
・ポリペンタエリスリトールポリアクリレート(ビスコート802〔商品名〕、大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL IND.,LTD.)製)
・定着用ウレタンアクリレート(製造方法は後述の合成例3を参照)
〔光重合開始剤〕
・アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤(DAROCUR TPO〔商品名〕、BASF社製、以下、「TPO」ともいう。)
・チオキサントン系光ラジカル重合開始剤(Speedcure DETX〔商品名〕、LAMBSON社製)(以下、単に「DETX」という。)
〔蛍光増白剤〕
・1,4−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ナフタレン)(HOSTALUX KCB〔商品名〕、クラリアントジャパン社(Clariant (Japan) K.K.)製)(以下、単に「KCB」という。)
〔界面活性剤〕
ポリエーテル変性オルガノシロキサン:BYK348(ビックケミージャパン社製製品名)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン:BYK333(ビックケミージャパン社製製品名)
〔有機溶媒〕
プロピレングリコール
1.2−ヘキサンジオール
【0112】
〔両親媒性ウレタンアクリレートの合成〕
(合成例1:両親媒性ウレタンアクリレート(d)の合成)
撹拌装置、冷却間、滴下ロート、及び空気導入管を備えた反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、700.0質量部のメトキシPEG1000及び0.54質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.32質量部のメトキノン、及び1.06質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(d)を得た。このウレタンアクリレート(d)の重量平均分子量は5,600であった。
【0113】
(合成例2:両親媒性ウレタンアクリレート(e)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI(2モル)と400.0質量部の重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールを仕込み、攪拌を行いながら、0.34質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた後、1400.0質量部のメトキシPEG2000及び0.90質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.77質量部のメトキノン及び2.13質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(e)を得た。このウレタンアクリレート(e)の重量平均分子量は9,000であった。
【0114】
(合成例3:定着用ウレタンアクリレートの合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI(2モル)と900.0質量部の芳香族ポリエステルジオール(重量平均分子量900、1モル、YG−108[商品名]、ADEKA社製)を仕込み、攪拌を行いながら、0.27質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を85℃まで昇温し、2時間反応させた後、当該反応容器に、232.3質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレート(2モル)、0.79質量部のメトキノン及び0.63質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、2時間反応させた後、冷却して、定着用ウレタンアクリレートを得た。この定着用ウレタンアクリレートの重量平均分子量は5,000であった。
【0115】
[光硬化型水性エマルションの製造]
光硬化型水性エマルションの製造方法を以下に示す。
【0116】
〔製造例1:光硬化型水性エマルション(d−2)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−2)を得た。d−2は上記一般式(1)で示される両親媒性化合物であった。また、d−2は自己乳化型エマルションであった。
【0117】
(製造例2:光硬化型水性エマルション(d−6)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)26.2質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート8.7質量部、光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら1.7質量部の架橋剤(PEMP)を加え、そのまま15分間攪拌を続けた。その後、60質量部の脱イオン水を加え、50℃で1時間保温した後、容器内の温度を80℃に昇温し、6時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、光ラジカル重合開始剤(TPO)、及び架橋剤(PEMP))40%の光硬化型水性エマルション(d−6)を得た。このエマルションをGPC測定したところ、重量平均分子量8,500の架橋ウレタン(メタ)アクリレートが確認された。d−6は上記一般式(1)で示される両親媒性化合物であった。また、d−6は自己乳化型エマルションであった。
【0118】
(製造例3:光硬化型水性エマルション(e−6)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(e)21.6質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート7.7質量部、定着用ウレタンアクリレート1.5質量部、光ラジカル重合開始剤(TPO)5.0質量部、光ラジカル重合開始剤(DETX)1.7質量部、蛍光増白剤(KCB)0.06質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら2.5質量部の架橋剤(PEMP)を加え、そのまま15分間攪拌を続けた。その後、60質量部の脱イオン水を加え、50℃で1時間保温した後、容器内の温度を80℃に昇温し、6時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(e)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、定着用ウレタンアクリレート、光ラジカル重合開始剤(TPO、DETX)、蛍光増白剤(KCB)、及び架橋剤(PEMP))40%の光硬化型水性エマルション(e−6)を得た。このエマルションをGPC測定したところ、重量平均分子量18,000の架橋ウレタン(メタ)アクリレートが確認された。e−6は上記一般式(1)で示される両親媒性化合物であった。また、e−6は自己乳化型エマルションであった。
【0119】
[インク組成物の調製(実施例1〜13、比較例1〜6)]
各材料を下記の表1に示す組成(質量%)で混合し、十分に撹拌し、実施例及び比較例のインク組成物を得た。表中、光硬化型EMは、エマルションに含まれる重合性官能基を有する可能物の質量であり、非光重合性樹脂は、樹脂の質量である。
【0120】
[評価]
〔耐擦性〕
PVCフィルムにバーコーターNo.6を用いて、上記で調製したインク組成物をそれぞれ塗布し、50℃で3分間乾燥した後に200mJ/cm
2の照射エネルギーで紫外線照射した。紫外線ランプとしては395nmにピーク波長を有するLEDを用いた。
【0121】
なお、照射エネルギー[mJ/cm
2]は、光源(LED)から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm
2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製)を用いて行った。照射エネルギーについては、硬化性評価でも同様とした。
【0122】
このようにして得られたPVCフィルム上の塗膜をそれぞれ用いて、耐擦性の評価を行った。耐擦性の評価は、JIS K5701(ISO 11628)(平版印刷に用いられるインク、展色試料、及び印刷物を試験する方法について規定。)に準じて、学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業社(TESTER SANGYO CO., LTD.)製)を用いて行った。評価方法は、塗膜の表面に金巾を乗せ、荷重500gをかけて20往復擦り、擦った後の上記塗膜の表面の剥離や傷を目視で観察したものである。評価基準を以下に示す。
(評価基準)
AA:金巾擦り後、塗膜剥離が認められなかったか、塗膜剥離が認められても、下地は見えなかった。
A :金巾擦り後、塗膜剥離により、下地が1/4未満露出していた。
B :金巾擦り後、塗膜剥離により、下地が1/4以上、1/2未満露出していた。
C :金巾擦り後、塗膜剥離により、下地が1/2以上露出していた。
【0123】
〔目詰まり特性〕
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン社製商品名)にそれぞれの上述したインク組成物を充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、且つホームポジション外の位置(ヘッドがプリンターに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後、再び全ノズルよりインク組成物が吐出し、初期と同等の印刷が可能となるまでに必要とされたクリーニングの回数を計測し、結果を以下の基準に基づいて判定した。
A ;3回以下のクリーニングで初期と同等の印刷が得られた。
B ;4回以上6回以下のクリーニングで初期と同等の印刷が得られた。
C ;7回以上10回以下のクリーニングで初期と同等の印刷が得られた。
D ;11回以上のクリーニングによっても初期と同等の印刷が不可能であった。
【0124】
〔保存安定性〕
インク組成物をサンプル瓶に入れ、50℃で1週間放置し、放置前後の粘度を山一電機社製デジタル粘度計VM−100を用いて測定した。放置前の粘度に対して放置後の粘度がどの程度変化したか(粘度変化)により、保存安定性を評価した。評価基準を以下に示す。
(評価基準)
A :粘度変化が10%未満であった。
B :粘度変化が10%以上20%未満であった。
C :粘度変化が20%以上であった。
【0125】
〔硬化性〕
PVCフィルムにバーコーターNo.6を用いて、上記で調製したインク組成物をそれぞれ塗布し、50℃で3分間乾燥した後に紫外線照射した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDを用いた。その後、塗膜表面を綿棒で擦り、綿棒に着色があるか否かを目視にて確認した。かかる操作を照射エネルギーを50mJ/cm
2ずつ増やしながら繰り返し、綿棒に着色のない最低の照射エネルギーを硬化エネルギーとして評価した。評価基準は以下のとおりである。硬化エネルギーが低いほど硬化性に優れていることを示すものである。
AA:硬化エネルギーが200mJ/cm
2以下であった。
A :硬化エネルギーが200mJ/cm
2超過300以下であった。
B :硬化エネルギーが300mJ/cm
2超過400以下であった。
C :硬化エネルギーが400mJ/cm
2超過500以下であった。
D :硬化エネルギーが500mJ/cm
2超過であった。
【0126】
【表1】
【0127】
以上より、本発明のインク組成物であれば、水存在下での硬化性、及び耐擦性に優れるインク組成物となることが分かった。これに対して、比較例1〜2は、85℃以上のガラス転移点を有する非光重合性樹脂を含まず、比較例3〜4は、ホモポリマーのガラス転移点が85℃以上である水溶性モノマーを含まず、比較例5は非光重合性樹脂、水溶性モノマーのいずれも含まないため、耐擦性が悪いことが分かった。また、比較例6は光硬化型エマルションを含まないため、硬化性に劣ることが分かった。