特許第6221307号(P6221307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221307回転角検出装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221307
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】回転角検出装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20171023BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20171023BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20171023BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20171023BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20171023BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20171023BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20171023BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   G01D5/20 110Q
   G01D5/244 K
   G01B7/30 M
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-76862(P2013-76862)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2014-202520(P2014-202520A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】塩津 雄人
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147142(WO,A1)
【文献】 特開2011−141207(JP,A)
【文献】 特開2006−349561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/252
G01D 5/39−5/62
G01B 7/00−7/34
B62D 5/00−5/32
B62D 6/00−6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁信号の入力に基づき検出対象の回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバと、前記レゾルバ信号に基づいて前記検出対象の回転角を演算する制御部と、を備える回転角検出装置において、
nを1以上の整数とするとき、前記制御部は、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記検出対象の回転角を演算し、
n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から振幅値を演算し、当該振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値と、異常なグループに含まれる正常なサンプリング値と、に基づき前記検出対象の回転角を演算する回転角検出装置。
【請求項2】
励磁信号の入力に基づき検出対象の回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバと、前記レゾルバ信号に基づいて前記検出対象の回転角を演算する制御部と、を備える回転角検出装置において、
nを1以上の整数とするとき、前記制御部は、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記検出対象の回転角を演算し、
n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から第1の振幅値を演算し、当該第1の振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値及び異常なグループに含まれる正常なサンプリング値から第2の振幅値を演算し、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第1の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分と、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第2の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分とを比較し、当該差分がより小さい値示す振幅値を用いて前記検出対象の回転角を演算する回転角検出装置。
【請求項3】
車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータと、車両のステアリング操作に応じて前記モータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクが設定値を超えたとき、当該操舵トルクが低減するように操舵補助力を徐々に増加させる電動パワーステアリング装置において、
励磁信号の入力に基づき前記モータの回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバを備え、
前記制御装置は、前記レゾルバ信号に基づいて、前記モータの回転角を演算するものであって、nを1以上の整数とするとき、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記モータの回転角を演算し、当該回転角に基づき、前記操舵補助力を演算し、
n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から振幅値を演算し、当該振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値と、異常なグループに含まれる正常なサンプリング値と、に基づき前記モータの回転角を演算する電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータと、車両のステアリング操作に応じて前記モータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクが設定値を超えたとき、当該操舵トルクが低減するように操舵補助力を徐々に増加させる電動パワーステアリング装置において、
励磁信号の入力に基づき前記モータの回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバを備え、
前記制御装置は、前記レゾルバ信号に基づいて、前記モータの回転角を演算するものであって、nを1以上の整数とするとき、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記モータの回転角を演算し、当該回転角に基づき、前記操舵補助力を演算し、
n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から第1の振幅値を演算し、当該第1の振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値及び異常なグループに含まれる正常なサンプリング値から第2の振幅値を演算し、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第1の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分と、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第2の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分とを比較し、当該差分がより小さい値を示す振幅値を用いて前記モータの回転角を演算する電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検出対象の回転角に応じてレゾルバから出力される電圧信号に基づき、制御部が検出対象の回転角を演算する回転角検出装置が知られている。例えば、特許文献1の回転角検出装置では、モータに設けられたレゾルバが、図7に示すように周期的に変化するレゾルバ信号を1/4周期で出力する。制御部は、4つの信号のそれぞれから振幅値を求める。そして、4つの振幅値の合計値又は平均値が設定値内である場合に、当該4つの振幅値からモータの回転角を算出する。算出された回転角は、モータに供給する電流の調整に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−349561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記回転角検出装置の制御部は、4つの信号を受信できない場合や、4つの振幅値の合計値又は平均値が設定値を超える場合、すなわち、図8に示すように全てのサンプリング点が正常でない場合(図8は信号S3が異常である場合)には、回転角検出装置に異常が生じたものとして回転角を算出しない。この場合、モータに供給する電流を調整できない。
【0005】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりも高い確率で検出対象の回転角を算出する回転角度検出装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、励磁信号の入力に基づき検出対象の回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバと、前記レゾルバ信号に基づいて前記検出対象の回転角を演算する制御部と、を備える回転角検出装置において、nを1以上の整数とするとき、前記制御部は、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記検出対象の回転角を演算することを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、n個あるグループのうち1つ以上の正常なグループがあれば、検出対象の回転角を演算することができる。すなわち、全てのサンプリング点が正常でない場合でも、回転角を演算することができる。このため、従来よりも高い確率で回転角を演算することができる。
【0008】
上記構成において、前記制御部は、n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から振幅値を演算し、当該振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値と、異常なグループに含まれる正常なサンプリング値と、に基づき前記検出対象の回転角を演算することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、上述の構成よりも回転角の演算に用いるサンプリング点が増えるので、算出される回転角の精度が高まる。
上記構成において、前記制御部は、n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から第1の振幅値を演算し、当該第1の振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値及び異常なグループに含まれる正常なサンプリング値から第2の振幅値を演算し、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第1の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分と、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第2の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分とを比較し、当該差分がより小さい値示す振幅値を用いて前記検出対象の回転角を演算することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、より正常なサンプリング点に近い振幅値を用いて回転角を算出することができるので、上述の構成よりも算出される回転角の精度が高まる。
車両の操舵機構に操舵補助力を付与するモータと、車両のステアリング操作に応じて前記モータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、ステアリングシャフトに作用する操舵トルクが設定値を超えたとき、当該操舵トルクが低減するように操舵補助力を徐々に増加させる電動パワーステアリング装置において、励磁信号の入力に基づき前記モータの回転角に応じて振幅値が変化するsin信号又はcos信号であるレゾルバ信号を出力するレゾルバを備え、前記制御装置は、前記レゾルバ信号に基づいて、前記モータの回転角を演算するものであって、nを1以上の整数とするとき、前記レゾルバ信号を1/2nの周期でサンプリングするとともに、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断し、正常と判断されたグループのサンプリング値に基づき前記モータの回転角を演算し、当該回転角に基づき、前記操舵補助力を演算することを要旨とする。
【0011】
この構成によれば、全てのサンプリング点が正常でない場合でも、モータの回転角を演算することができる。このため、従来よりも高い確率で操舵補助力を演算することができる。
【0012】
上記構成において、前記制御装置は、n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から振幅値を演算し、当該振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値と、異常なグループに含まれる正常なサンプリング値と、に基づき前記モータの回転角を演算することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、上述の構成よりも回転角の演算に用いるサンプリング点が増えるので、算出される回転角の精度が高まる。すなわち、より正確な操舵補助力を演算することができる。これにより、ユーザは、ステアリング操作時に良好なフィーリングを得られる。
【0014】
上記構成において、前記制御装置は、n個のグループのうち異常なグループがある場合には、正常なグループのサンプリング値から第1の振幅値を演算し、当該第1の振幅値を用いて異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値の有無を判断し、異常なグループのサンプリング値に正常なサンプリング値が存在する場合には、正常なグループのサンプリング値及び異常なグループに含まれる正常なサンプリング値から第2の振幅値を演算し、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第1の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分と、正常な実際のサンプリング点の総和とそのサンプリング点に対応する第2の振幅値を用いて算出されるsin波又はcos波の総和との差分とを比較し、当該差分がより小さい値示す振幅値を用いて前記モータの回転角を演算する電動ことが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、より正常なサンプリング点に近い振幅値を用いて回転角を算出することができるので、上述の構成よりも算出される回転角の精度が高まる。すなわち、より正確な操舵補助力を演算することができる。これにより、ユーザは、ステアリング操作時に良好なフィーリングを得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回転角度検出装置及び電動パワーステアリング装置によれば、高い確率で検出対象の回転角を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示すブロック図。
図2】ECUの概略構成を示すブロック図。
図3】角度演算部の処理手順を示すフローチャート。
図4】角度演算部の処理手順を示すフローチャート。
図5】角度演算部の処理手順を示すフローチャート。
図6】角度演算部の処理手順を示すフローチャート。
図7】4点の正常なレゾルバ信号のイメージを示すタイムチャート。
図8】3点の正常なレゾルバ信号及び異常な1点のレゾルバ信号のイメージを示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、電動パワーステアリング装置の第1の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
<電動パワーステアリング装置の概要>
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、および運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU(電子制御装置)40を備えている。
【0019】
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21の中心に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確には、ラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cおよびラック軸23からなるラックアンドピニオン機構24によりラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θtaが変更される。転舵輪26,26の転舵角θtaが変更されることにより車両の進行方向が変更される。
【0020】
操舵補助機構30は、操舵補助力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、例えば三相交流モータのブラシレスモータが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、モータトルクをコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータトルクが操舵補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。また、モータ31には、1相励磁、2相出力のレゾルバ33が内蔵されている。レゾルバ33は、モータ31の回転角θに応じて振幅値が変化する2相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)であるレゾルバ信号Sを出力する。
【0021】
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じて、モータ31を制御する。各種のセンサとしては、たとえば車速センサ410、及びトルクセンサ420がある。車速センサ410は、車速(車両の走行速度)Vを検出する。トルクセンサ420は、コラムシャフト22aに設けられて、ステアリングホイール21を介してステアリングシャフト22に印加される操舵トルクTを検出する。ECU40は、これらセンサを通じて取得される車速V、操舵トルクT、及びレゾルバ33からのレゾルバ信号Sに基づき、モータ31を制御する。なお、レゾルバ33及びECU40が回転角検出装置に相当する。
【0022】
<ECUの概略構成>
つぎに、ECUのハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、ECU40は、インバータ回路41およびマイクロコンピュータ42を備えている。
【0023】
インバータ回路41は、マイクロコンピュータ42により生成されるモータ駆動信号に基づいて、バッテリなどの直流電源から供給される直流電流を三相交流電流に変換する。当該変換された三相交流電流は、各相の給電経路44を介してモータ31に供給される。各相の給電経路44には電流センサ45が設けられている。これら電流センサ45は、各相の給電経路44に生ずる実際の電流値Iを検出する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の給電経路44および各相の電流センサ45をそれぞれ1つにまとめて図示する。
【0024】
マイクロコンピュータ42は、車速センサ410、トルクセンサ420、及びレゾルバ33の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。マイクロコンピュータ42は、これら取り込まれる検出結果、すなわち車速V、操舵トルクT、回転角θ、及び電流値Iに基づきモータ駆動信号(PWM駆動信号)を生成する。
【0025】
<マイクロコンピュータ>
つぎに、マイクロコンピュータの機能的な構成を説明する。
マイクロコンピュータ42は、図示しない記憶装置に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の処理部を有している。図2に示すように、マイクロコンピュータ42は、これら処理部として、電流指令値演算部51と、モータ駆動信号生成部52と、を備えている。電流指令値演算部51は、基本指令値演算部53と、補正値演算部54と、角度演算部55と、加算器57と、を有している。
【0026】
基本指令値演算部53は、車速V、及び操舵トルクTをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる各種の情報に基づいて基本電流指令値iを演算する。基本指令値演算部53は、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本電流指令値iの絶対値をより大きな値に設定する。なお、基本指令値演算部53は、角度演算部55の結果(後述する回転角θ又は算出不可信号Cim)を取り込む。基本指令値演算部53は、回転角θを取得した場合には、先の基本電流指令値iを演算し、算出不可信号Cimを取得した場合には、基本電流指令値iを演算しない。
【0027】
補正値演算部54は、車速V、操舵トルクT、及び回転角θをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる各種の情報に基づいて補正電流指令値Δiを演算する。なお、補正値演算部54は、回転角θに代えて算出不可信号Cimを取得した場合には、補正電流指令値Δiを演算しない。
【0028】
角度演算部55は、レゾルバ33からのレゾルバ信号Sを取り込み、モータ31の回転角θを算出する。また、角度演算部55は、回転角θの算出ができない場合には、その旨示す算出不可信号Cimを生成する。角度演算部55のメモリ55aには、回転角θの算出処理に使用する第1、第2、第3の異常フラグF1,F2,F3をたてる記憶領域が設けられている。なお、角度演算部55の回転角θの算出処理については後に詳述する。
【0029】
加算器57は、基本電流指令値iと補正電流指令値Δiとを足し合わせることにより電流指令値Iを生成する。電流指令値Iは、モータ31に供給するべき電流を示す指令値である。
【0030】
モータ駆動信号生成部52は、電流指令値I、および実際の電流値Iをそれぞれ取り込み、これら取り込まれる情報に基づき実際の電流値Iが電流指令値Iに追従するように電流のフィードバック制御を行う。
【0031】
<角度演算部における処理>
角度演算部55における回転角θの算出処理手順を、図3のフローチャートに従って説明する。当該フローチャートは、レゾルバ信号Sの1周期分を受信する間隔で定期的に実行される。
【0032】
図3に示すように、角度演算部55は、同相の4つのレゾルバ信号S1,S2,S3,S4の和の絶対値が第1の設定値以下であるか否かを判断する(ステップS31)。ステップS31でYES、すなわちレゾルバ信号S1〜S4の和の絶対値が第1の設定値以下である場合には、レゾルバ信号S1〜S4から振幅値を算出する(ステップS32)。そして、全相(ここでは2つの相)の振幅値を求める演算が終了したか否かを判断する(ステップS33)。当該判断は、振幅値が算出されている数及び第3の異常フラグF3がたてられている数によって行う。ステップS33でNO、すなわち全相(ここでは2つの相)の振幅値を求める演算が終了していない場合には、処理をステップS31に移行する。
【0033】
ステップS33でYES、すなわち全相(ここでは2つの相)の振幅値を求める演算が終了している場合には、角度演算部55は、2相以上(ここでは2相)の振幅値を取得できたか否かを判断する(ステップS34)。ステップS34でYES、すなわち2相以上(ここでは2相)の振幅値を取得できている場合には、これら2相以上の振幅値からモータ31の回転角θを算出し(ステップS35)、当該処理を終了する。一方、ステップS34でNO、すなわち1相のみ振幅値を取得できている場合、又は1相も振幅値を取得できなかった場合には、算出不可信号Cimを生成し(ステップS36)、当該処理を終了する。
【0034】
次に、ステップS31でNO、すなわちレゾルバ信号S1〜S4の和の絶対値が第1の設定値を超える場合の処理について、図4に示すフローチャートに従って説明する。
図4に示すように、ステップS31でNO、すなわちレゾルバ信号S1〜S4の和の絶対値が第1の設定値を超える場合、角度演算部55は、異常フラグを全て倒す(ステップS41)。そして、レゾルバ信号S1,S3の和が0(零)であるか否かを判断する(ステップS42)。ステップS42でNO、すなわちレゾルバ信号S1,S3の和が0(零)でない場合には、第1の異常フラグをたてる(ステップS43)。そして、次の処理に移行する。
【0035】
ステップS42でYES、すなわちレゾルバ信号S1,S3の和が0(零)である場合、又はステップS43の処理の後、角度演算部55は、レゾルバ信号S2,S4の和が0(零)であるか否かを判断する(ステップS44)。ステップS44でNO、すなわちレゾルバ信号S2,S4の和が0(零)でない場合には、第2の異常フラグをたてる(ステップS45)。そして、次の処理に移行する。
【0036】
ステップS44でYES、すなわちレゾルバ信号S2,S4の和が0(零)である場合、又はステップS45の処理の後、角度演算部55は、第1の異常フラグがたっているか否かを判断する(ステップS46)。ステップS46でNO、すなわち第1の異常フラグがたっていない場合には、レゾルバ信号S1,S3から最小二乗法により振幅値を算出し(ステップS47)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0037】
図4に示すように、ステップS46でYES、すなわち第1の異常フラグがたっている場合には、角度演算部55は、第2の異常フラグがたっているか否かを判断する(ステップS48)。ステップS48でNO、すなわち第2の異常フラグがたっていない場合には、レゾルバ信号S2,S4から最小二乗法により振幅値を算出し(ステップS49)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0038】
なお、図4に示すように、ステップS48でNO、すなわち第2の異常フラグがたっている場合には、この相の振幅値の演算を行い振幅値が算出できなかったことを示す第3の異常フラグをたてて(ステップS50)、当該処理をステップS33に移行する。
【0039】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)角度演算部55は、同相の4つのレゾルバ信号S1〜S4の和の絶対値が第1の設定値を超える場合には、1/2周期ずれている2つのサンプリング点の和が0(零)であるか否かを判断する。そして、和が0(零)となる2つのサンプリング点から、最小二乗法により振幅値を演算し、当該振幅値からモータ31の回転角θを算出する。すなわち、従来と比較して角度演算部55がモータ31の回転角θを算出できる可能性が高まる。
【0040】
(2)モータ31の回転角θを算出できる可能性が高まるので、電流指令値演算部51が電流指令値Iを算出できる可能性が高まる。すなわち、従来よりも高い確率で操舵補助力を演算することができる。従って、操舵補助力がステアリングシャフトに付与される確率が高まるので、ユーザは、ステアリングの操作時により良好なフィーリングを得ることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、電動パワーステアリング装置の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態と上記第1実施形態との主たる相違点は、角度演算部55における回転角θの算出処理手順、正確には、図4のステップS47と図3のステップS33との間、及び図4のステップS49と図3のステップS33との間の処理手順である。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。なお、図4のステップS46でNOとされた場合の処理と図3のステップS33との間の処理手順について説明する。また、当該説明は、振幅値を演算する相がsin波状に変化するレゾルバ信号の相である場合とする。
【0042】
図4のステップS46でNO、すなわち第1の異常フラグがたっていない場合、角度演算部55は、図5に示すように、レゾルバ信号S1,S3から最小二乗法により仮振幅値Aを算出する(ステップS51)。そして、角度演算部55は、仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S2に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S2値とが等しいか否かを判断する(ステップS52)。ステップS52でYES、すなわち仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S2に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S2値とが等しい場合には、レゾルバ信号S1,S3に加えてレゾルバ信号S2も正常な値である可能性が高まるので、レゾルバ信号S1,S2,S3から最小二乗法により振幅値Bを算出し(ステップS53)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0043】
図5に示すように、ステップS52でNO、すなわち仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S2に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S2値とが等しくない場合には、角度演算部55は、仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S4に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S4値とが等しいか否かを判断する(ステップS54)。ステップS54でYES、すなわち仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S4に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S4値とが等しい場合には、レゾルバ信号S1,S3に加えてレゾルバ信号S4も正常な値である可能性が高まるので、レゾルバ信号S1,S3,S4から最小二乗法により振幅値Bを算出し(ステップS55)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0044】
なお、図5に示すように、ステップS54でNO、すなわち仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S4に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S4値とが等しくない場合には、角度演算部55は、仮振幅値Aを振幅値Bとして算出し(ステップS56)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0045】
なお、図4のステップS48でNOとされた場合の処理と、上記説明した図4のステップS46でNOとされた場合の処理との相違点は、仮振幅値Aをレゾルバ信号S2,S4で算出することである。仮振幅値Aのsin波のレゾルバ信号S1,S3に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S1,S3値とを比較して、振幅値Bをレゾルバ信号S1,S2,S4又はレゾルバ信号S2,S3,S4から算出することである。すなわち、振幅値A,Bを算出するために使用するレゾルバ信号Sが異なるだけで、処理手順は同一なので、その詳細な説明を省略する。
【0046】
なお、上記説明は、振幅値を演算する相がsin波状に変化するレゾルバ信号の相である場合としたが、cos波状に変化するレゾルバ信号の相である場合には、ステップS52,S54において、仮振幅値Aのcos波のレゾルバ信号S2,S4に相当する値と実際に取得したレゾルバ信号S2,S4値とが等しいか否かを判断すればよい。
【0047】
以上詳述したように、本実施形態によれば、上記第1の実施形態(1)及び(2)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(3)角度演算部55は、異常と判断されたグループのレゾルバ信号Sに正常な値があると判断される場合には、当該正常と判断されるレゾルバ信号S及び正常なグループのレゾルバ信号Sから回転角θを算出する。すなわち、正常なグループのレゾルバ信号Sから回転角θを算出する場合と比べて、回転角θを算出に用いるサンプリング点が増えるので、算出する回転角θの精度が高まる。
【0048】
(4)算出する回転角θの精度が高まるので、電流指令値演算部51は、精度のよい電流指令値Iを算出できる。これにより、ユーザは、上記第1の実施形態よりもステアリングの操作時により良好なフィーリングを得ることができる。
【0049】
(第3の実施形態)
次に、電動パワーステアリング装置の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態と上記第2実施形態との主たる相違点は、角度演算部55における回転角θの算出処理手順、正確には、図5のステップS53と図3のステップS33との間の処理、及び図5のステップS55と図3のステップS33との間の処理手順である。このため、説明の便宜上、第2の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。なお、ここでは、図5のステップS55と図3のステップS33との間の処理について説明する。
【0050】
図5のステップS53における振幅値Bの算出後、角度演算部55は、図6に示すように、レゾルバ信号S1〜S4のうち異常点を除いた3つのサンプリング点に相当する振幅値Aを用いたsin値の総和と異常点を除いた3つのレゾルバ信号Sの総和との差分の絶対値をとった総和ΔAallを算出する(ステップS61)。また、角度演算部55は、異常点を除いた3つのサンプリング点に相当する振幅値Bを用いたsin値の総和と異常点を除いた3つのレゾルバ信号Sの総和との差分の絶対値をとった総和ΔBallを算出する(ステップS62)。ここでは、レゾルバ信号S2が異常点であるので、総和ΔAall及び総和ΔBallは、次の(式1)及び(式2)で示される。
【0051】
【数1】
次に、角度演算部55は、総和ΔAallの値が総和ΔBallの値よりも小さいか否かを判断する(ステップS63)。ステップS63でYES、すなわち総和ΔAallの値が、総和ΔBallの値よりも小さい場合には、振幅値Aを回転角θの算出に使用する振幅値として認識し(ステップS64)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0052】
なお、図6のステップS63でNO、すなわち総和ΔAallの値が、総和ΔBallの値以上である場合には、振幅値Bを回転角θの算出に使用する振幅値として認識し(ステップS65)、当該処理を図3のステップS33に移行する。
【0053】
なお、上記説明は、図5のステップS55と図3のステップS33との間の処理手順としたが、図5のステップS53と図3のステップS33との間の処理手順も同様である。なお、この場合は、レゾルバ信号S4が異常点であるので、当該レゾルバ信号S4を算出式から除外する。また、上記説明は、振幅値を演算する相がsin波状に変化するレゾルバ信号の相である場合としたが、cos波状に変化するレゾルバ信号の相である場合には、(式1)及び(式2)のsinに相当する項をcosに変更すればよい。また、上記説明では、レゾルバ信号S2が異常点である場合について説明したが、どの信号が異常を示す場合であっても、当該第3の実施形態を適用することができる。
【0054】
以上詳述したように、本実施形態によれば、上記第1の実施形態(1)及び(2)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(5)角度演算部55は、算出される振幅値A,Bのうちより実際に得られるレゾルバ信号Sに近い方を採用してモータ31の回転角θの算出に使用するので、算出する回転角θの精度が高まる。
【0055】
(6)算出する回転角θの精度が高まるので、電流指令値演算部51は、精度のよい電流指令値Iを算出できる。これにより、ユーザは、上記第1の実施形態よりもステアリングの操作時により良好なフィーリングを得ることができる。
【0056】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態において、レゾルバ33は、1/4周期でレゾルバ信号Sを生成したが、nを1以上の整数とするとき、1/2nの周期でレゾルバ信号Sを生成すればよい。この場合、角度演算部55は、1/2周期ずれている2つのサンプリング点を1つのグループとするn個のグループをつくり、グループ毎にサンプリング値が正常であるか否かを判断する。このように構成しても、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
・上記各実施形態において、レゾルバ33は、一相励磁二相出力のものが採用されたが、出力が二相以上であればよい。また、回転角検出装置は、2つ以上のレゾルバを備えていてもよい。
【0058】
・上記各実施形態において、レゾルバ33の検出対象は、モータ31に限らず、ステアリングシャフトなど、回転するものに適用することができる。
・上記各実施形態では、モータ31は、コラムシャフト22aにアシスト力を付与する構成とされたが、インターミディエイトシャフト22bやピニオンシャフト22cにアシスト力を付与するこうせいであってもよい。また、ラック軸23にアシスト力を付与する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…電動パワーステアリング装置、31…モータ、33…レゾルバ、40…ECU、42…マイクロコンピュータ、51…電流指令値演算部、52…モータ駆動信号生成部、53…基本指令値演算部、54…補正値演算部、55…角度演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8