特許第6221308号(P6221308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221308
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】通信機および通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   H04L27/26 200
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-78273(P2013-78273)
(22)【出願日】2013年4月4日
(65)【公開番号】特開2014-204252(P2014-204252A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】西川 延良
【審査官】 吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−295265(JP,A)
【文献】 特表2009−533006(JP,A)
【文献】 大久保 尚人 他,選択マッピング(SLM)を用いたMC−CDMAのPAPR低減,電子情報通信学会技術研究報告.RCS,無線通信システム102(150),IEICE,2002年 6月21日,pp.73-78
【文献】 長谷川 文大 他,マルチチャネルSC−OFDM向けの位相回転を用いたPAPR低減技術 ,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.111 No.289 ,日本,社団法人電子情報通信学会 ,2011年11月 9日,第111巻,pp.85-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号の要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0である任意のデータ系列を用い、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する演算手段と、
前記入力信号、および、前記第1の演算データおよび前記第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調して一次変調信号をそれぞれ生成する変調手段と、
前記一次変調信号の逆高速フーリエ変換を行い逆変換データをそれぞれ生成するIFFT手段と、
前記逆変換データに基づくベースバンド信号のピーク対平均電力比を算出し、前記ピーク対平均電力比が最も低い前記逆変換データを選択する選択手段と、
前記選択された逆変換データに基づきベースバンド信号を生成し、前記選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項2】
前記演算手段は、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いることを特徴とする請求項1に記載の通信機。
【請求項3】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信して送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成し、前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する受信手段と、
前記並列信号の高速フーリエ変換を行い変換データを生成するFFT手段と、
前記変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成する復調手段と、
前記復調データの要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0であるデータ系列を用い、前記送信側での演算を特定するデータに基づき、前記復調データ、前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データ、および前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データのいずれかを復元データとして出力する逆演算手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項4】
前記逆演算手段は、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いることを特徴とする請求項3に記載の通信機。
【請求項5】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号の要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0である任意のデータ系列を用い、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する演算ステップと、
前記入力信号、および、前記第1の演算データおよび前記第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調して一次変調信号をそれぞれ生成する変調ステップと、
前記一次変調信号の逆高速フーリエ変換を行い逆変換データをそれぞれ生成するIFFTステップと、
前記逆変換データに基づくベースバンド信号のピーク対平均電力比を算出し、前記ピーク対平均電力比が最も低い前記逆変換データを選択する選択ステップと、
前記選択された逆変換データに基づきベースバンド信号を生成し、前記選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項6】
前記演算ステップにおいて、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いることを特徴とする請求項5に記載の通信方法。
【請求項7】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信して送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成し、前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する受信ステップと、
前記並列信号の高速フーリエ変換を行い変換データを生成するFFTステップと、
前記変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成する復調ステップと、
前記復調データの要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0であるデータ系列を用い、前記送信側での演算を特定するデータに基づき、前記復調データ、前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データ、および前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データのいずれかを復元データとして出力する逆演算ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項8】
前記逆演算ステップにおいて、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いることを特徴とする請求項7に記載の通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の通信では、入力信号をサブキャリア変調し、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)を行い、ベースバンド信号を生成する。そのため、サブキャリアの数が増え、FFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)サイズが大きくなると、大きなピークを持つベースバンド信号が生成され、PAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)が高くなるという性質を持っている。PAPRが高くなると、信号を歪みなく伝送するために広範囲において線形性を有する増幅器が必要となる。そこでPAPRを低減するための技術が開発されている。
【0003】
特許文献1の直交周波数分割多重通信装置では、PAPRを低減するため、IFFTを行う前に逐次決定法により算出した最適位相に基づきサブキャリア変調信号の位相を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OFDM方式の通信では、PAPRを低減することが課題となっている。特許文献1の直交周波数分割多重通信装置では、PAPRを低減する最適位相を算出するために繰り返し計算処理を行い、サブキャリアごとに位相を制御する必要がある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、OFDM方式の通信において、PAPRを低減し、PAPRの低減の処理を簡易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号の要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0である任意のデータ系列を用い、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する演算手段と、
前記入力信号、および、前記第1の演算データおよび前記第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調して一次変調信号をそれぞれ生成する変調手段と、
前記一次変調信号の逆高速フーリエ変換を行い逆変換データをそれぞれ生成するIFFT手段と、
前記逆変換データに基づくベースバンド信号のピーク対平均電力比を算出し、前記ピーク対平均電力比が最も低い前記逆変換データを選択する選択手段と、
前記選択された逆変換データに基づきベースバンド信号を生成し、前記選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記演算手段は、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いる。
【0009】
本発明の第2の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信して送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成し、前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する受信手段と、
前記並列信号の高速フーリエ変換を行い変換データを生成するFFT手段と、
前記変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成する復調手段と、
前記復調データの要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0であるデータ系列を用い、前記送信側での演算を特定するデータに基づき、前記復調データ、前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データ、および前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データのいずれかを復元データとして出力する逆演算手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記逆演算手段は、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いる。
【0011】
本発明の第3の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号の要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0である任意のデータ系列を用い、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、前記入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する演算ステップと、
前記入力信号、および、前記第1の演算データおよび前記第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調して一次変調信号をそれぞれ生成する変調ステップと、
前記一次変調信号の逆高速フーリエ変換を行い逆変換データをそれぞれ生成するIFFTステップと、
前記逆変換データに基づくベースバンド信号のピーク対平均電力比を算出し、前記ピーク対平均電力比が最も低い前記逆変換データを選択する選択ステップと、
前記選択された逆変換データに基づきベースバンド信号を生成し、前記選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記演算ステップにおいて、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いる。
【0013】
本発明の第4の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信して送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成し、前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する受信ステップと、
前記並列信号の高速フーリエ変換を行い変換データを生成するFFTステップと、
前記変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成する復調ステップと、
前記復調データの要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0であるデータ系列を用い、前記送信側での演算を特定するデータに基づき、前記復調データ、前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データ、および前記復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にした前記データ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データのいずれかを復元データとして出力する逆演算ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記逆演算ステップにおいて、位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0である前記データ系列を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、OFDM方式の通信において、PAPRを低減し、PAPRの低減の処理を簡易化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る通信機が送る送信信号の例を示す図である。
図4】実施の形態に係る通信機が行う送信制御の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る通信機が行う受信制御の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】実施の形態に係る通信機におけるベースバンド信号のCCDF特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。以下の説明において、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)は、IFFTとIDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation:逆離散フーリエ変換)を含む概念とする。したがって本発明の実施の形態においては、IFFTの代わりに、IDFTを行うよう構成してもよい。同様にFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)は、FFTとDFT(Discrete Fourier Transformation:離散フーリエ変換)を含む概念とする。またIDFTおよびDFTを行う場合は、以下の説明におけるFFTサイズとは、DFTサイズを意味する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。通信機1は、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の無線通信により他の機器と通信を行う。通信機1は、アンテナ10、演算部11、変調部12、直並列変換部13、IFFT部14、選択部15、送信部16およびコントローラ20を備える。
【0019】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)21、RAM(Random Access Memory)23、およびROM(Read-Only Memory)24を備える。複雑化を避け、理解を容易にするために、コントローラ20から各部への信号線が省略されているが、コントローラ20は通信機1の各部にI/O(Input/Output)22を介して接続しており、それらの処理の開始、終了、処理内容の制御を行う。
【0020】
RAM23には、例えばプリアンブルなどの送信信号を生成するためのデータが記憶されている。ROM24は、コントローラ20が通信機1の動作を制御するための制御プログラムを格納する。コントローラ20は、制御プログラムに基づいて、通信機1を制御する。
【0021】
図2は、実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の通信機1に受信機能をもたせるため、図2に示す通信機1はさらに逆演算部31、復調部32、並直列変換部33、FFT部34、受信部35、および送受信切替部36を備える。送信機能および受信機能を備える図2に示す通信機1を用いて、通信機1が行う通信方法について以下に説明する。
【0022】
演算部11は、入力信号の要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0である任意のデータ系列を用い、入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にあるデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にしたデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する。逆順にしたデータ系列とは、要素の順序を逆にしたデータ系列である。データ系列として、例えば位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0であるデータ系列を用いる。またデータ系列として、要素の値が1または0であるランダムデータを用いてもよい。演算部11は、入力信号、および、第1の演算データおよび第2の演算データの少なくともいずれか、を変調部12に送る。
【0023】
変調部12は、入力信号、および、第1の演算データおよび第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調し、一次変調信号をそれぞれ生成し、直並列変換部13に送る。一次変調方式は、例えばQPSK(Quadrature Phase-Shift Keying:四位相偏移変調)である。
【0024】
一次変調方式をQPSKとし、FFTサイズをNとすると、入力信号bは下記(1)式で表される。また位置を示す番号が素数である要素の値が1であり、該要素以外の要素の値が0であるデータ系列pは下記(2)式で表される。下記(2)式中の行列の上の数字は、要素の位置を示す番号である。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
一次変調方式をQPSKとし、FFTサイズを4とすると、上記(2)式のデータ系列pは下記(3)式で表される。また逆順にしたデータ系列p−1は下記(4)式で表される。
【0028】
【数3】
【0029】
【数4】
【0030】
例えば演算部11は、要素数が8の入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある上記(3)式で表されるデータ系列pの要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データを生成する。また演算部11は、該入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある上記(4)式で表される逆順にしたデータ系列p−1の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データを生成する。変調部12は、入力信号、第1の演算データ、および第2の演算データを一次変調方式で変調し、一次変調信号をそれぞれ生成する。
【0031】
直並列変換部13は、一次変調信号を直並列変換し、直並列変換した一次変調信号をIFFT部14に送る。IFFT部14は、直並列変換された一次変調信号のIFFTを行って、逆変換データをそれぞれ生成し、選択部15に送る。選択部15は、逆変換データに基づくベースバンド信号のPAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)を算出し、PAPRが最も低い逆変換データを選択し、送信部16に送る。後続の入力信号についても同様の処理が行われ、PAPRが最も低い逆変換データがそれぞれ送信部16に送られる。
【0032】
送信部16は、逆変換データを合成してベースバンド信号を生成し、選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して、送受信切替部36およびアンテナ10を介して、他の機器に送信信号を送信する。
【0033】
図3は、実施の形態に係る通信機が送る送信信号の例を示す図である。送信信号は、プリアンブル、選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータ、およびベースバンド信号f、f、・・・、fから構成される。図3の例では、k個のベースバンド信号が送信信号に含まれている。
【0034】
上記演算を特定するデータとは、選択された逆変換データが、入力信号、第1の演算データ、および第2の演算データの内いずれに基づく一次変調信号を直並列変換し、IFFTを行って生成されたかを示す所定のデータg、g、・・・、gを含む。上記演算を特定するデータは、例えば入力信号、第1の演算データ、および第2の演算データのいずれかを示す所定のデータのそれぞれに一次変調を施し、合成することで生成される。所定のデータは2ビットのデータでよい。所定のデータとして2ビットのデータを用い、一次変調方式をQPSKとし、FFTサイズを2048とした場合には、2048個の所定のデータを含むことができる。なお所定のデータのサイズは任意であり、所定のデータの値は、任意に定めることができる。入力信号、第1の演算データ、および第2の演算データのいずれかを示す所定のデータのサイズ、および所定のデータの値についての情報は、送受信間で予め共有されている。上記演算を特定するデータを送信信号に含むことで、受信側で入力信号を正しく復元することが可能となる。
【0035】
図4は、実施の形態に係る通信機が行う送信制御の動作の一例を示すフローチャートである。演算部11は、入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にあるデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の演算データ、および、入力信号の各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にしたデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の演算データ、の少なくともいずれかを生成する(ステップS110)。変調部12は、入力信号、および、第1の演算データおよび第2の演算データの少なくともいずれか、を一次変調方式で変調し、一次変調信号をそれぞれ生成し、直並列変換部13は、一次変調信号を直並列変換する(ステップS120)。
【0036】
IFFT部14は、直並列変換された一次変調信号のIFFTを行って、逆変換データをそれぞれ生成する(ステップS130)。選択部15は、逆変換データに基づくベースバンド信号のPAPRを算出し、PAPRが最も低い逆変換データを選択する(ステップS140)。送信部16は、逆変換データを合成してベースバンド信号を生成し、選択された逆変換データを生成する際に行った演算を特定するデータおよび該ベースバンド信号から送信信号を生成して、送受信切替部36およびアンテナ10を介して、他の機器に送信信号を送信する(ステップS150)。ステップS150の送信処理が完了すると、通信機1は処理を終了する。
【0037】
受信側での処理を以下に説明する。受信部35は、アンテナ10および送受信切替部36を介して送信信号を受信し、送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成する。受信部35は、送信側での演算を特定するデータを逆演算部31に送り、ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成し、FFT部34に送る。送信側での演算を特定するデータが一次変調されている場合には、受信部35は送信側での演算を特定するデータを一次変調方式で復調し、復調した送信側での演算を特定するデータを逆演算部31に送る。受信側では送信側での演算を特定するデータの復調の要否についての情報を保持している。
【0038】
FFT部34は、並列信号のFFTを行い変換データを生成し、並直列変換部33に送る。並直列変換部33は、変換データを並直列変換し、復調部32に送る。復調部32は、並直列変換された変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成し、逆演算部31に送る。
【0039】
逆演算部31は、復調データの要素数と同数の要素の集合であって、要素の値が1または0であるデータ系列を用い、送信側での演算を特定するデータに基づき、復調データ、復調データの各要素と、該要素と同じ位置にあるデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データ、および復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にしたデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データのいずれかを復元データとして出力する。データ系列は、送信側の演算部11で用いたデータ系列と同じである。
【0040】
逆演算部31は、送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが入力信号に基づいて生成されたことを示している場合には、復調データを復元データとして出力する。逆演算部31は、送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが第1の演算データに基づいて生成されたことを示している場合には、第1の逆演算データを復元データとして出力する。逆演算部31は、送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが第2の演算データに基づいて生成されたことを示している場合には、第2の逆演算データを復元データとして出力する。復元データは入力信号に一致し、受信側で入力信号を復元することができる。
【0041】
図5は、実施の形態に係る通信機が行う受信制御の動作の一例を示すフローチャートである。受信部35は、アンテナ10および送受信切替部36を介して送信信号を受信し、送信側での演算を特定するデータおよびベースバンド信号を生成し、ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する(ステップS210)。FFT部34は、並列信号のFFTを行い変換データを生成する(ステップS220)。並直列変換部33は、変換データを並直列変換し、復調部32は、並直列変換された変換データを一次変調方式で復調して復調データを生成する(ステップS230)。
【0042】
逆演算部31は、送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが入力信号に基づいて生成されたことを示している場合には(ステップS240;Y)、復調データを復元データとして出力する(ステップS250)。送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが入力信号に基づいて生成されておらず、第1の演算データに基づいて生成されたことを示している場合には(ステップS240;N、ステップS260;Y)、逆演算部31は、復調データの各要素と、該要素と同じ位置にあるデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第1の逆演算データを復元データとして出力する(ステップS270)。送信側での演算を特定するデータが、逆変換データが入力信号および第1の演算データのいずれにも基づいて生成されていない、すなわち逆変換データが第2の演算データに基づいて生成されたことを示している場合には(ステップS240;N、ステップS260;N)、逆演算部31は、復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にしたデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データを復元データとして出力する(ステップS280)。ステップS250、S270、S280の復元処理が完了したら、通信機1は処理を終了する。
【0043】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、OFDM通信方式において、上述の演算を施すことで、PAPRを低減することが可能となる。上述の演算処理は、逐次決定法による計算処理の繰り返しと比べてより簡易な方法であり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、PAPRを低減する処理を簡易化することが可能となる。
【0044】
(具体例)
次に、シミュレーションにより実施の形態に係る発明の効果を説明する。入力信号にランダム信号を用いて、従来技術と実施の形態に係る発明について、ベースバンド信号を生成し、PAPRの算出を繰り返すシミュレーションを行った。変調方式をQPSKとし、FFTサイズを2048として、従来技術と実施の形態に係る発明のPAPRのCCDF(Complementary Cumulative Distribution Function:相補累積分布関数)、すなわちPAPRの発生確率の特性を比較した。従来技術とは、上述のような演算処理を行わずに、入力信号を一次変調方式で変調した信号を直並列変換し、IFFTを行ってベースバンド信号を生成する方法である。
【0045】
図6は、実施の形態に係る通信機におけるベースバンド信号のPAPRのCCDF特性を示す図である。横軸はPAPR(単位:dB)、縦軸はPAPRのCCDFである。実施の形態に係る通信機1においては、上記(2)式で表されるデータ系列pを用いた。従来技術のPAPRのCCDF特性を細い実線のグラフで示す。実施の形態に係る通信機1のPAPRのCCDF特性を太い実線のグラフで示す。実施の形態に係る通信機1のPAPRは従来技術と比較して低減されていることがわかる。
【0046】
BER(Bit Error Rate:符号誤り率)については、上述の演算では論理演算を行っているだけであるから、実施の形態に係る通信機1におけるBERは、従来技術と同様であると推測される。送信信号に含まれる送信側での演算を特定するデータが正しく受信されない場合には、データを復元することはできない。
【0047】
しかし、例えば逆変換データが第1の演算データに基づいて生成されたことを示す、送信側での演算を特定するデータが送信され、逆演算部31が誤って、復調データの各要素と、該要素と同じ位置にある逆順にしたデータ系列の要素との排他的論理和を要素とする第2の逆演算データを復元データとして出力した場合であっても、一部のデータは正しく復元することができる。一部のデータとは、データ系列pと逆順にしたデータ系列p−1とにおいて値が同じ要素である。変調方式がQPSKであって、FFTサイズが2048の場合には、上記(2)式で表されるデータ系列pの要素数は4096個であり、該データ系列pにおいて値が1である要素数は564個である。したがって、上述のように誤って復元した場合でも、大部分のデータは正しく復元することが可能となる。
【0048】
上述のシミュレーションにより、実施の形態に係る発明においては、上述の演算を施すことで、PAPRを低減できることがわかった。
【0049】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。変調部12の変調方式は、QPSKに限られず、QPSK以外のPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)などを用いることができる。また直並列変換部13の位置は、上述の実施の形態に限られず、演算部11の前後のいずれかに位置するようにしてもよい。同様に、受信側の並直列変換部33の位置も、上述の実施の形態に限られず、逆演算部31の前後のいずれかに位置するようにしてもよい。IFFT部14は、IFFTの代わりにIDFTを行うよう構成してもよいし、FFT部34は、FFTの代わりにDFTを行うよう構成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 通信機
10 アンテナ
11 演算部
12 変調部
13 直並列変換部
14 IFFT部
15 選択部
16 送信部
20 コントローラ
21 CPU
22 I/O
23 RAM
24 ROM
31 逆演算部
32 復調部
33 並直列変換部
34 FFT部
35 受信部
36 送受信切替部
図1
図2
図3
図4
図5
図6