特許第6221326号(P6221326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221326環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221326
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/025 20160101AFI20171023BHJP
【FI】
   C08G75/025
【請求項の数】11
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-93476(P2013-93476)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-241590(P2013-241590A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-102936(P2012-102936)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】小田島 智幸
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸二
【審査官】 亀谷 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−188625(JP,A)
【文献】 特開2009−030012(JP,A)
【文献】 特開2011−149014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒を含む反応混合物を加熱して環式ポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、少なくとも以下の(i)、(ii)の工程を含むことを特徴とする環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(i)少なくともスルフィド化剤、有機極性溶媒および水分を含む混合物であって、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む混合物を150℃以上250℃以下で加熱し、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下のスルフィド化剤混合物を調製する工程
(ii)工程(i)の後で、少なくとも工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒を含む反応混合物を、有機極性溶媒が反応混合物中のイオウ成分1モル当たり1.25リットル以上50リットル以下となる条件で加熱する工程
【請求項2】
工程(i)で得られるスルフィド化剤混合物が均一であることを特徴とする請求項1に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
工程(i)において、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む混合物を加熱し、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上3.0モル以下のスルフィド化剤混合物を調製することを特徴とする請求項1または2に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
工程(i)において、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり3.0モルより多い水分を含む混合物を加熱して脱水し、水分量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上3.0モル以下になるまで減じたスルフィド化剤混合物を得ることを特徴とする請求項3に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
工程(i)(ii)を、別々の反応器で実施することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
工程(i)の後に工程(i)を実施した反応器で、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上になるように、スルフィド化剤混合物に有機極性溶媒を加えて希釈することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項7】
工程(ii)において反応混合物を常圧における還流温度を超えて加熱することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項8】
工程(ii)における圧力がゲージ圧で0.8 MPa以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項9】
スルフィド化剤がアルカリ金属硫化物であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項10】
ジハロゲン化芳香族化合物がジクロロベンゼンであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項11】
工程(ii)を行う前の反応混合物中に線状ポリアリーレンスルフィドを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環式ポリアリーレンスルフィドを経済的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族環式化合物はその環状であることから生じる特性に基づく高機能材料や機能材料への応用展開可能性、例えば包接能を有する化合物としての特性や、高分子量直鎖状高分子の合成のための有効なモノマーとしての活用など、その構造に由来する特異性で近年注目を集めている。環式ポリアリーレンスルフィド(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略する場合もある)も芳香族環式化合物の範疇に属し、上記同様に注目に値する化合物である。
【0003】
環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法としては、例えばジアリールジスルフィド化合物を超希釈条件下で酸化重合する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法では環式ポリアリーレンスルフィドが高選択率で生成し、線状ポリアリーレンスルフィドはごく少量しか生成しないと推測され、確かに環式ポリアリーレンスルフィドが高収率で得られると考えられる。しかしながら、この方法は産業への応用可能性の観点からは課題の多い方法であった。まず、超希釈条件で反応を行うことが必須であり、反応液の単位体積当たりに得られる環式ポリアリーレンスルフィドがごくわずかで、効率的に環式ポリアリーレンスルフィドを得ることが困難であること、また、当該方法の反応温度は室温近傍であるため、反応に数十時間の長時間が必要であり生産性に劣ること、さらに、この方法で副生する線状ポリアリーレンスルフィドは、目的物である環式ポリアリーレンスルフィドと分子量が近いために、分離除去することが困難であり高純度な環式ポリアリーレンスルフィドを効率よく得られないこと、さらに加えて、当該方法では酸化重合の進行のために例えばジクロロジシアノベンゾキノンなど高価な酸化剤が原料のジアリールジスルフィドと等量必要であり、安価に環式ポリアリーレンスルフィドを得ることができないこと、などの課題があった。
【0004】
環式ポリアリーレンスルフィドの他の製造方法として、4−ブロモチオフェノールの銅塩をキノリン中の超希釈条件下で加熱する方法も開示されている(例えば特許文献2参照)が、この方法も前記特許文献1と同様に超希釈条件が必須であり、また反応に長時間が必要であり生産性の極めて低い方法であった。さらに、副生する臭化銅を生成物である環式ポリアリーレンスルフィドから分離することが困難で、得られる環式ポリアリーレンスルフィドは純度の低いものであった。
【0005】
スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物といった汎用的な原料から脱塩縮合により環式ポリアリーレンスルフィドを得る方法として、N−メチルピロリドンに対する硫化ナトリウム量を0.1モル/リットルとして、これにジクロロベンゼンを加えて還流温度において接触させる方法が開示されている(例えば非特許文献1参照)。この方法ではスルフィド化剤のイオウ成分1モルに対する有機極性溶媒量が1.25リットル以上と希薄であるため環式ポリアリーレンスルフィドが得られると推測できるが、ごくわずかな量の環式ポリアリーレンスルフィドしか得られず、また得られる環式ポリアリーレンスルフィドは純度の低いものであり、さらには反応に長時間が必要であるという問題があった。
【0006】
以上の製造方法の課題を解決する方法として、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を、スルフィド化剤のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上の有機極性溶媒を用い、反応混合物を常圧における還流温度を超えて加熱する方法が開示されている(例えば特許文献3参照)。この方法では0.5〜2時間と比較的短時間でジハロゲン化芳香族化合物の消費率が90%程度に達し、環式ポリアリーレンスルフィドの選択率は35%程度まで向上することが確認されている。
【0007】
しかしながら、特許文献3に示される環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法では、反応混合物の含水率が高い上に反応混合物を常圧における還流温度を超える高温で加熱することから、反応系の圧力が高圧となる傾向があり高価な耐圧設備を要するため経済的に不利という課題があった。
【0008】
この反応混合物の水分率に由来する反応系の高圧に関する上記課題を解決する方法として、水分量がイオウ成分1モル当たり0.8モル以上のスルフィド化剤を、有機極性溶媒中で脱水してイオウ成分1モル当たり0.8モル未満の低含水スルフィド化剤混合物とする工程を含む環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法が開示されている(例えば特許文献4)。当該方法では、環式ポリアリーレンスルフィドの反応を実施する前に脱水の工程を導入しており、これにより系内残存水分による圧力上昇の寄与が低下するため反応系全体の圧力を低減することが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3200027号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】米国特許第5869599号明細書 (第14頁)
【特許文献3】特開2009−030012号公報 (第28〜33頁)
【特許文献4】特開2011−149014号公報 (特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ポリマー(Polymer),vol.37,No.14,p.3111-3112,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4の発明では、得られるスルフィド化剤混合物が140℃程度の固化温度を有するため、スルフィド化剤混合物を分割して使用、または移送して使用する場合には140℃以上の高温で取り扱う必要があり、より低温で移送できるようになることが望まれていた。また、脱水時の条件により反応器内に固形分が生成・沈降し、これを分割・移送して用いる場合、反応混合物のモルバランス調整がやや困難であった。そこで本発明では、前記した従来技術の課題を解決し、環式ポリアリーレンスルフィドを経済的に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するため以下の特徴を有する環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供する。
[1]少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒を含む反応混合物を加熱して環式ポリアリーレンスルフィドを製造する方法であって、少なくとも以下の(i)、(ii)の工程を含むことを特徴とする環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(i)少なくともスルフィド化剤、有機極性溶媒および水分を含む混合物であって、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む混合物を150℃以上250℃以下で加熱し、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下のスルフィド化剤混合物を調製する工程
(ii)工程(i)の後で、少なくとも工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒を含む反応混合物を、有機極性溶媒が反応混合物中のイオウ成分1モル当たり1.25リットル以上50リットル以下となる条件で加熱する工程
[2]工程(i)で得られるスルフィド化剤混合物が均一であることを特徴とする[1]に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[3]工程(i)において、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む混合物を加熱し、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上3.0モル以下のスルフィド化剤混合物を調製することを特徴とする[1]または[2]に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[4]工程(i)において、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり3.0モルより多い水分を含む混合物を加熱して脱水し、水分量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上3.0モル以下になるまで減じたスルフィド化剤混合物を得ることを特徴とする[3]に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[5]工程(i)(ii)を、別々の反応器で実施することを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[6]工程(i)の後に工程(i)を実施した反応器で、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上になるようにスルフィド化剤混合物に有機極性溶媒を加えて希釈することを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[7]工程(ii)において反応混合物を常圧における還流温度を超えて加熱することを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[8]工程(ii)における圧力がゲージ圧で0.8 MPa以下であることを特徴とする[1]から[7]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[9]スルフィド化剤がアルカリ金属硫化物であることを特徴とする[1]から[8]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[10]ジハロゲン化芳香族化合物がジクロロベンゼンであることを特徴とする[1]から[9]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
[11]工程(ii)を行う前の反応混合物中に線状ポリアリーレンスルフィドを含むことを特徴とする[1]から[10]のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環式ポリアリーレンスルフィドを、良好な収率で、安定して製造する方法が提供できる。より詳しくは、原料の加熱による均一化の工程を導入する環式ポリアリーレンスルフィド製造において、当該工程で得られる均一なスルフィド化剤混合物の高い移送性を生かすことで、反応混合物における原料のモルバランスを精密に調整でき、高価な耐圧設備を用いることなく、原料を十分に消費させ、良好な収率で環式ポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明実施の形態を説明する。
【0015】
(1)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであれば良く、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0016】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことをさす。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、このような形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
【0017】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0018】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。これらのアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のし易さ、コストの観点から好ましい。
【0019】
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状、液体状、水溶液状のいずれの形態で用いても差し障り無い。
【0020】
本発明において、スルフィド化剤の量は、脱水操作などによりジハロゲン化芳香族化合物との反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0021】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0022】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し下限0.80モル以上が例示でき、好ましくは0.95モル以上、より好ましくは1.005モル以上である。また、上限は1.50モル以下が例示でき、好ましくは1.25モル、より好ましくは1.20モルの範囲が例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し下限は1.60モル以上が例示でき、好ましくは1.90モル以上、より好ましくは2.01モル以上である。また、上限は、3.00モル以下が例示でき、好ましくは2.50モル以下、より好ましくは2.40モル以下である。ここでアルカリ金属水酸化物の使用量を上記範囲とすることにより高収率で環式PASが得られるが、上記範囲より多くても、また、少なくても生成した環式PASが分解しやすく収率は低下する傾向にある。
【0023】
(2)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明の環式PASの製造において使用されるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−ブロモ−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−3−クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、及び1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1−メチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p−ジクロロベンゼンを80〜100モル%含むものであり、さらに好ましくは90〜100モル%含むものである。また、環式PAS共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0024】
(3)有機極性溶媒
本発明の環式PASの製造においては反応溶媒として有機極性溶媒を用いるが、なかでも有機アミド溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、及びこれらの混合物などが、反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
【0025】
(4)スルフィド化剤混合物
本発明の環式PASの製造におけるスルフィド化剤混合物とは、上記したスルフィド化剤および有機極性溶媒を含む混合物のことである。このスルフィド化剤混合物は、温度や含有水分量によって固体や液体やゼリー状など種々の性状を示すが、本発明の好ましい様態、すなわち、後述する工程(i)の項で示す条件で加熱を行ったものは液体の性状を示すことが多く、その後冷却した場合には固体もしくはゼリー状の性状を示すことが多い。ここで、液体と固体またはゼリー状の相転移温度を固化温度と定義する。固化温度は原料組成や水分量に依存するため一概に規定できないが、80〜150℃の範囲にある場合が多く、本発明の好ましい様態においては80〜130℃の範囲にある。固化温度がこのような好ましい範囲にある場合、スルフィド化剤混合物をより低温で液状化することができ、装置間移送がより容易に行える。
【0026】
この工程(i)の実施によって得られるスルフィド化剤混合物は、均一になっていることが好ましい。ここで「均一」とは、スルフィド化剤混合物を固化温度以上に加熱して液状にした際に相分離が見られない状態、かつ固形分が沈降していない状態として定義し、それを冷却して固化した時の状態も同様に「均一」であるとする。この「均一」の状態を判定する際の基準となる加熱温度は、用いるスルフィド化剤と有機極性溶媒の種類や量によって変化するため明確には規定できないが、スルフィド化剤混合物の固化温度以上であればよい。例えば、本発明の好ましい様態の一例である、スルフィド化剤として水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを使用し、有機極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用した場合には、150℃が例示できる。また、「固形分」とは1ミリメートルより大きなサイズのものと定義し、これが加熱時に沈降していない状態を目視にて確認できた場合を「均一」とする。スルフィド化剤混合物が均一であれば、加熱して液状化したスルフィド化剤混合物を容器間移送した際に高い回収率で回収可能であり、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の回収率で回収できる。また、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分も同様に、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の回収率で回収できる。ここで、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分の回収率とは、工程(i)で仕込んだイオウ成分の量に対する、回収したスルフィド化剤混合物中に含まれるイオウ成分の量の割合のことである。そして、そのようなスルフィド化剤混合物を分割した時には、同一の組成を維持したまま分割することが可能である。すなわち、「均一」であれば、スルフィド化剤混合物が固体や液体やゼリー状のいずれの状態であっても容易に均等な分割が可能であり、スルフィド化剤混合物を分割して使用する際に、その都度、組成分析を行う手間を省略することができる。
【0027】
均一なスルフィド化剤混合物を得る方法として、例えばスルフィド化剤として硫化ナトリウム、有機極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用し、硫化ナトリウムのイオウ成分1モル当たり5.9モルの水分と硫化ナトリウムのイオウ成分1モル当たり0.2リットルのN−メチル−2−ピロリドンを含む混合物を調製した場合には、180℃で2時間加熱する方法を例示できる。
【0028】
(5)反応混合物
本発明の環式PASの製造における反応混合物とは、少なくとも、工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒を含む混合物のことであり、後述する工程(ii)の項で示す反応条件に処することで環式ポリアリーレンスルフィドを生成する混合物のことを指す。反応混合物には前記必須成分以外に環式PASの生成を著しく阻害しない第三成分や、環式PASの生成を加速する効果を有する第三成分、また後述するように線状PASを加えることも可能である。なお、反応混合物について工程(ii)を行った後は、「反応生成物」と呼称を変えることとする。
【0029】
(6)環式ポリアリーレンスルフィド
本発明における環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(A)のごとき化合物である。
【0030】
【化1】
【0031】
ここでArとしては下記一般式(B)〜式(M)などであらわされる単位を例示できるが、なかでも式(B)〜式(K)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
【0032】
【化2】
【0033】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0034】
【化3】
【0035】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0036】
【化4】
【0037】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0038】
なお、環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(B)〜式(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0039】
【化5】
【0040】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0041】
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(A)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、2〜50が好ましく、3〜40がより好ましく、4〜30がさらに好ましい範囲として例示できる。後述するように環式PASを含有するポリアリーレンスルフィドプレポリマーを高重合度体へ転化する場合には、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上に加熱して行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの高重合度体への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。また、環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の使用は前記した高重合度体への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0042】
(7)線状ポリアリーレンスルフィド
本発明における線状ポリアリーレンスルフィド(以下、線状PASと略すこともある)とは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする直鎖状化合物であり、下記一般式(N)に示す化合物である。
【0043】
【化6】
【0044】
ここでArとしては、上記した環式ポリアリーレンスルフィドの場合と同様、式(B)〜式(M)などであらわされる単位を例示でき、なかでも式(B)〜式(K)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
【0045】
なお、線状PASは前記式(B)〜式(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、線状ポリフェニレンスルフィド(以下、線状PPSと略すこともある)、線状ポリフェニレンスルフィドスルホン、線状ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0046】
ここで、例えば繰り返し数mの環状化合物は、繰り返し数mの線状化合物が生成し、それがある確率によって環化することで生成すると考えられるため、環化の確率が100%でない限り、一定確率で線状体が生成することになる。よって、本発明の目的物である環式PASを単離・回収するためには、環式PASと線状PASを分離する必要が出てくる。この分離操作に関しては、線状PASの分子量が高いほど環式PASと線状PASを精度良く分離できる傾向に有り、線状ポリアリーレンスルフィドの好ましい分子量は重量平均分子量で2,500以上が例示でき、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく例示できる。線状PASの重量平均分子量がこの好ましい範囲内では、線状PASの有機極性溶媒への溶解性が低下する一方で、環式PASは有機極性溶媒に溶解する傾向が強いため、この有機極性溶媒への溶解性の差を利用して環式PASと線状PASの混合物から効率よく環式PASを得ることが可能となる。なお、ここでの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0047】
(8)環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明は、少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒からなる反応混合物を加熱して環式PASを製造する方法であって、少なくとも以下の(i)、(ii)の工程を含むことを特徴とする環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
(i)スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む混合物を加熱し、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下のスルフィド化剤混合物を調製する工程
(ii)工程(i)の後で、少なくともスルフィド化剤混合物、ジハロゲン化芳香族化合物存在下であり、有機極性溶媒が反応混合物中のイオウ成分1モル当たり1.25リットル以上50リットル以下となる条件で加熱する工程
以下に、本発明における環式PAS製造方法を詳述する。
【0048】
なお、本発明の環式PASの製造では、バッチ方式、及び連続方式など公知の各種重合方式、反応方式を採用することができる。
【0049】
(8−1)工程(i)
本発明における工程(i)とは、少なくとも、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含む混合物を、以下に示す条件で加熱し、スルフィド化剤混合物を調製する工程のことである。
【0050】
本発明の工程(i)では、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上0.4リットル未満の有機極性溶媒を含む。有機極性溶媒の量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上とした場合には、工程(i)の実施後に固形分が析出、沈降して不均一な系となる傾向が見られ、これを分割・移送して用いる場合には、続く工程(ii)で反応混合物のモルバランスを調整することが極めて困難となり、反応結果の再現性が低下する。一方、有機極性溶媒の量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル未満とした場合には、脱水工程の反応器として金属製反応器を用いた際に反応器からの金属溶出が多くなる傾向が見られ、得られる環式PAS中に金属不純物が入り込むことで品質の低下を招く。よって工程(i)で使用する有機極性溶媒量は、上限はスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル未満とする必要があり、0.30リットル未満が好ましく、0.25リットル未満がより好ましく、0.21リットル未満がさらに好ましい。また、下限はスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1リットル以上とする必要があり、0.12リットル以上が好ましく、0.15リットル以上がより好ましく、0.16リットル以上がさらに好ましい範囲として例示できる。上記の好ましい範囲では、均一なスルフィド化剤混合物を安定して得ることができる。
【0051】
ここで、得られるスルフィド化剤混合物は均一であることが好ましい。スルフィド化剤混合物が均一であれば、加熱して液状化したスルフィド化剤混合物を容器間移送した際に高い回収率で回収可能であり、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の回収率で回収できる。また、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分も同様に、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の回収率で回収できる。ここで、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分の回収率とは、工程(i)で仕込んだイオウ成分の量に対する、回収したスルフィド化剤混合物中に含まれるイオウ成分の量の割合のことである。そして、そのようなスルフィド化剤混合物を分割した時には、同一の組成を維持したまま分割することが可能であり、移送を行った時には、原料組成の精密調整が可能である。
【0052】
また、本発明において、工程(i)での加熱後の水分量は、スルフィド化剤のイオウ成分1モルあたり0.8モル以上6.0モル以下とする必要がある。工程(i)で加熱を行ったあとの水分量がイオウ成分1モル当たり6.0モルより多い場合では、工程(ii)における系の内圧が増大し、高価な耐圧設備が必要になる、また、金属製反応器の腐食(黒色化)が急速に進行する、といった工業的に不利な点が生じる。一方、工程(i)で加熱を行ったあとの水分量がイオウ成分1モル当たり0.8モル未満の場合では、得られたスルフィド化剤混合物の固化温度が高く、移送性が低下し、液状での取り扱いに高温が必要となる、工程(ii)実施時の原料消費率が上がりにくい傾向があり、環式PASの品質を高めるために未反応原料を取り除く精製操作が必要になる、必要以上の加熱の影響でスルフィド化剤のイオウ成分が硫化水素として飛散してロスする、といった工業化に不利な点が生じる。以上の課題を改善するため、工程(i)で加熱を行ったあとの水分量はイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下とする必要があり、好ましい上限としてはイオウ成分1モル当たり4.5モル以下、より好ましくは3.0モル以下が例示でき、好ましい下限としてはイオウ成分1モル当たり0.9モル以上、より好ましくは1.0モル以上が例示できる。上記の好ましい範囲では、工程(ii)における系の内圧をよりいっそう低く抑えることが可能となり、また、スルフィド化剤混合物の固化温度が適切な範囲となるため移送性の高いスルフィド化剤混合物を得ることが可能となる。
【0053】
工程(i)における加熱前の水分量については特に制限はなく、どのような水分量であってもかまわない。ただし、一般にスルフィド化剤、例えばアルカリ金属硫化物は、イオウ成分1モル当たり3モル以上の水を含む水和物または水性混合物の入手が容易であり、また、このような水を含むスルフィド化剤は安定性に優れ、特に酸素による劣化を受けにくい傾向もある。よって、このようなスルフィド化剤を使用することが好ましく、スルフィド化剤の水分量の好ましい下限としてはイオウ成分1モル当たり0.8モル以上、より好ましくは3.0モル以上が例示でき、好ましい上限としてはイオウ成分1モル当たり20モル以下、より好ましくは6.0モル以下が例示できる。
【0054】
上記のように、工程(i)では加熱前の水分量に制限はなく、加熱後の水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下であればよいため、工程(i)では脱水を行わない方法と脱水を行う方法のいずれの方法も採用することができるが、より好ましく採用されるのは、脱水を行う方法である。すなわち、工程(i)において、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり6.0モルより多い水分を含む混合物を加熱して脱水し、水分量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下になるまで減じる方法である。このような好ましい方法で工程(i)を行うと、一般的に入手が容易な含水率の高いスルフィド化剤を用いた時でも、適切な水分量に調節されたスルフィド化剤混合物を容易に得ることが可能となる。なお、脱水のより好ましい条件としては、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり4.5モルより多い水分を含む混合物を加熱して脱水し0.8モル以上4.5モル以下になるまで減じる方法が挙げられ、さらに好ましい方法としては、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり3.0モルより多い水分を含む混合物を加熱して脱水し0.8モル以上3.0モル以下になるまで減じる方法が挙げられる。上記の好ましい条件では、工程(ii)における系の内圧をよりいっそう低く抑えることが可能である。
【0055】
工程(i)における加熱条件は、スルフィド化剤と有機極性溶媒の組み合わせ、また、水分との比率などによっても多様に変化するため明確には指定できないが、系内水分量を前記した範囲に調整でき、かつ均一なスルフィド化剤混合物が得られる条件が好ましく採用される。すなわち温度条件として150℃以上、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上が例示できる。工程(i)における加熱温度が前記した好ましい温度より低い場合には、有機極性溶媒の量が前記した条件を満たす場合でも、工程(i)終了時に固形分が析出して系が不均一な状態になる場合が見られるが、前記した好ましい温度条件とすることで、均一なスルフィド化剤混合物を効率よく得ることが可能となる。なお、工程(i)における温度は、高温であるほどスルフィド化剤のイオウ成分が硫化水素として飛散する懸念や、原料分解の懸念が出てくるため、上限としては250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下を例示することができる。
【0056】
なお、工程(i)で原料を混合する段階での温度条件は特に制限はないが、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上が例示でき、上限として150℃以下、好ましくは100℃以下の範囲が例示できる。このような好ましい範囲で原料を混合することで、スルフィド化剤や有機極性溶媒の変質や原料成分の飛散による組成変化といった問題を抑えることが可能である。
【0057】
工程(i)における圧力条件についても特に制限はなく、常圧、減圧、加圧のいずれの条件も採用できる。ただし、工程(i)における好ましい操作である脱水を行う場合には、水分を効率よく留去するため常圧または減圧下が好ましい。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。
【0058】
また、系内雰囲気は非酸化性条件であることが望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの観点からは窒素雰囲気下がより好ましい。
【0059】
ここで、後述の工程(ii)を複数回行うため、工程(i)で調製したスルフィド化剤混合物を分割して以降の工程(ii)に使用することは、工程(i)に要する時間の短縮および工程で使用するエネルギー節約の観点から、より好ましい方法である。この場合、正確な分割を行うために、スルフィド化剤混合物の均一性と移送性が高いことが好ましい。
本発明における移送性は、工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を固化させずに移送できる温度で判断し、その固化温度がより低い場合に移送性が高いと判断する。高い移送性を有するスルフィド化剤混合物を得るためには、工程(i)で加熱を行ったあとの水分量をイオウ成分1モル当たり0.8モル以上とすることが重要である。これにより工程(i)で得られるスルフィド化剤混合物の固化温度が低下し、より低温でスルフィド化剤混合物の移送や分割操作を行えるため安全上、またエネルギーコスト上好ましい。なお、移送性を判断する温度は、用いる原料の種類や組成などにより変化するため一概には規定できないが、続く工程(ii)で得られたスルフィド化剤混合物にジハロゲン化芳香族化合物と有機極性溶媒を加えることを考えると、ジハロゲン化芳香族化合物や有機極性溶媒が飛散しない温度、すなわち、それらの沸点以下の温度であることが好ましい。例えば、ジハロゲン化芳香族化合物としてジクロロベンゼン、有機極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる場合には、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。前記した温度は、用いる原料の種類により変化するため例示的なものであるが、本発明の実施例ではジクロロベンゼンとN−メチル−2−ピロリドンを使用していることから、130℃で取り扱い評価を行っている。
【0060】
また、工程(i)で得た均一なスルフィド化剤混合物を他の反応器へ移送する場合、有機極性溶媒を工程(i)を行った反応器に加えて均一なスルフィド化剤混合物をあらかじめ希釈しておくのは好ましい方法である。この操作を行うことで、均一なスルフィド化剤混合物の流動性が上がり、移送性も向上する。これにより反応混合物の組成調整の際の計量誤差を低減することができる。この希釈操作を行えば、工程(i)で得られた均一なスルフィド化剤混合物を容器から回収する操作も、高い回収率で行うことが可能となる。この希釈操作で加える有機極性溶媒の量は、希釈率が大きいほど必要な反応器も大きくなり、また、続く工程(ii)で使用する有機極性溶媒量にも制限を受けるため、好ましい上限としては、希釈操作後の有機極性溶媒の量がイオウ成分1モル当たり50リットル以下、より好ましくは20リットル以下、さらに好ましくは15リットル以下が例示できる。一方好ましい下限としては、イオウ成分1モル当たり0.4リットル以上、より好ましくは0.8リットル以上、さらに好ましくは1.25リットル以上の条件が例示できる。なお、本発明における希釈操作は、前記した工程(i)の均一なスルフィド化剤混合物を他の反応器に移送する前だけでなく、工程(i)や工程(ii)を実施する反応器とは異なる反応器に移送した後に行ってもよく、また何段階かに分けて行ってもよい。また、本発明では工程(i)(ii)の間に有機極性溶媒を加えて希薄条件になるよう調整する工程を含むが、前記の希釈操作をその代替としてもかまわない。
【0061】
(8−2)工程(ii)
本発明における工程(ii)とは、工程(i)で得たスルフィド化剤混合物を、環式PASの製造に必要なその他の諸成分と混合して反応混合物としてから、以下に示す条件で加熱して環式PASを合成する工程のことである。この工程(ii)を反応工程と呼ぶこともある。
【0062】
工程(ii)では、まず反応混合物の調製を行う。工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物は、既にスルフィド化剤と有機極性溶媒を含む物であるため、そこに少なくともジハロゲン化芳香族化合物と、追加の有機極性溶媒を加えることで反応混合物を調製する。
【0063】
工程(ii)におけるジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、工程(ii)で第3成分として線状PASを加えない場合には、ジハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤のイオウ成分とのモルバランスで決めることができ、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり0.9モル以上の条件が例示でき、好ましくは0.92モル以上、より好ましくは0.94モル以上である。一方、上限としては、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり1.5モル以下の条件が例示でき、好ましくは1.2モル以下、より好ましくは1.15モル以下である。ジハロゲン化芳香族化合物の使用量を上記範囲とすることにより環式PASを高収率で得ることができるが、上記範囲より少ない場合には環式PASの収率が低下する傾向が見られ、また、上記範囲より多い場合には低分子量の線状PASの生成量が増加し、後述の方法で環式PASの回収を行う際、高純度で得ることが難しくなる傾向にある。なお、ここで言うジハロゲン化芳香族化合物の使用量とは、反応系に仕込んだジハロゲン化芳香族化合物の総和を意味するが、仕込んだジハロゲン化芳香族化合物が飛散などによって反応系外に除去される場合には、前記総和から除去されたジハロゲン化芳香族化合物量を差し引いた量を意味することとする。
【0064】
また、工程(ii)では第3の成分として線状PASを加えても良い。線状PASを加えた場合、使用するスルフィド化剤およびジハロゲン化芳香族化合物の量に対して生成する環式PASの収量が増加する。すなわち同量の環式PASを得るために用いるスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物の使用量を節約でき、経済的に有利であるという効果が得られる。この場合、線状PASはジハロゲン化芳香族化合物がスルフィド化剤と反応したものと同等であると見なし、ジハロゲン化芳香族化合物の使用量は加える線状PAS量を考慮した上で決めることができる。よって、線状PASを加えた場合の反応時のモルバランスは、反応混合物中の全アリーレン単位のモル数と全イオウ成分のモル数の比に注目して調整する必要がある。ここで、反応混合物中の全アリーレン単位とは、ジハロゲン化芳香族化合物に含まれるアリーレン単位と加えた線状PASに含まれるアリーレン単位の合計である。線状PASに含まれるアリーレン単位の「モル数」とはPAS分子鎖の数を意味するのではなく、全ての線状PAS成分中の「繰り返し単位の数」の合計を意味している。例えば重合度100の線状ポリフェニレンスルフィド1分子に含まれるアリーレン単位は100モルと見なす。また、反応混合物中の全イオウ成分とは、スルフィド化剤に含まれるイオウ成分と加えた線状PASに含まれるイオウ成分の合計である。ここで線状PASに含まれるイオウ成分の「モル数」とはイオウ原子1個を含むポリマーの「繰り返し単位の数」である。例えば重合度100の線状ポリフェニレンスルフィド1分子は1モルではなく100モルと計算する。なお、本発明の本質を損なわない限り、スルフィド化剤、線状PAS以外にイオウ成分を含有する化合物を反応混合物中に存在させることも可能であるが、このような本発明の反応に対して実質的に作用しないイオウ含有化合物は、イオウ成分として考慮しなくても良い。
【0065】
環式PASを高収率かつ高純度で得るための条件としては、この全アリーレン単位のモル数が、反応混合物中の全イオウ成分1モル当たり0.9モル以上の条件が例示でき、好ましくは0.92モル以上、より好ましくは0.94モル以上である。一方、上限としては、反応混合物中の全イオウ成分1モル当たり1.5モル以下の条件が例示でき、好ましくは1.2モル以下、より好ましくは1.15モル以下である。このような好ましい範囲では、得られる環式PASの収率と純度がより高くなる傾向が見られる。
【0066】
また、線状PASのスルフィド化剤のイオウ成分に対する使用量としては、下限として、スルフィド化剤由来のイオウ成分1モルに対し0モル以上が例示でき、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上である。一方、上限としては20モル以下が例示でき、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下である。このような好ましい範囲では線状PASとスルフィド化剤の反応が進行しやすくなるため、線状PASから環式PASを製造する効率をより高めることができる。
【0067】
なお、ここで加える線状PASの製造方法は特に限定はされず、いかなる製法によるものでも使用することが可能であり、PASを用いた成形品や成形屑、廃プラスチックやオフスペック品なども幅広く使用することが可能であるが、環式PASの製造過程で副生した線状PASを用いる方法が最も好ましい。環式化合物の製造では多くの線状PASが副生物として生成するため、これを無駄なく利用できるという点で、本方法は経済的に非常に好ましい方法である。
【0068】
工程(ii)を行う前の反応混合物中に含まれる線状PASの分子量には特に制限はないが、例えば重量平均分子量の下限としては、5,000以上が例示でき、7,500以上が好ましく、10,000以上がより好ましい。また、上限としては、1,000,000以下が例示でき、500,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。一般に重量平均分子量が低いほど有機極性溶媒への溶解性が高くなるため、反応に要する時間が短くできるという利点があるが、前述した範囲であれば本質的な問題なく使用可能である。また、工程(ii)を行う前の反応混合物中に含まれる線状PASの形態にも特に制限はなく、乾燥状態の粉末状、粉粒状、粒状、ペレット状でも良いし、反応溶媒である有機極性溶媒を含む状態で用いることも可能であり、また、本質的に反応を阻害しない第三成分を含む状態で用いることも可能である。この様な第三成分としては例えば無機フィラーやアルカリ金属ハロゲン化物が例示できる。なお、ここでの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0069】
工程(ii)における有機極性溶媒の使用量は、工程(i)で得たスルフィド化剤の移送前に希釈操作を実施した場合にはその使用量を考慮した上で追加量を決定し、最終的に反応混合物中のイオウ成分1モルに対し1.25リットル以上50リットル以下となるように調整する。ここで、有機極性溶媒の使用量とは、常温常圧下における溶媒の体積を基準とし、反応系内に導入した有機極性溶媒量から、反応系外に除去された有機極性溶媒量を差し引いた量を指す。有機極性溶媒の量がイオウ成分1モルに対し1.25リットル未満である場合には、環式PASの収率が大幅に低下し、また、有機極性溶媒の量がイオウ成分1モルに対し50リットルより多い場合には、単位体積当たりの反応液から得られる環式PAS量が少なくなるが、有機極性溶媒の使用量を前記の範囲とすることで、環式PASを生成率3%以上で得ることができ、本発明の好ましい条件の下では5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上、よりいっそう好ましくは8%以上、で得ることが可能となる。また、単位体積当たりの反応液から得られる環式PAS量を増やして環式PASの生産性を高めるためには、有機極性溶媒使用量の好ましい下限として、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり1.4リットル以上、より好ましくは1.65リットル以上、さらに好ましくは2.0リットル以上の条件を例示でき、好ましい上限としては、反応混合物中のイオウ成分1モル当たり、20リットル以下、より好ましくは15リットル以下の条件を例示することができる。
【0070】
なお、一般的な環式化合物の製造では、前記の範囲よりもさらに多い溶媒を必要とする場合が多く、本発明の好ましい範囲では効率よく環式化合物を得られないことが多い。後述するように、本発明では有機極性溶媒の還流温度を超えた温度を好ましい反応温度として採用するが、この場合には、一般的な環式化合物製造の場合と比べ、溶媒使用量が少ない条件、すなわち前記した溶媒使用量の下限近傍の範囲でも、効率よく環式PASが得られる傾向にある。この理由は現時点で明らかではないが、大気圧条件では到達し得ない高温で反応させた場合、極めて原料の消費速度が高くなることが環状化合物の生成に好適に作用するものと推測している。
【0071】
工程(ii)における加熱条件は、環式PASが生成する温度および時間であれば特に制限はないが、反応温度は用いた有機極性溶媒の常圧下の還流温度を超えることが好ましい。この温度は有機極性溶媒の種類によって異なり、反応混合物中の成分の種類や量によっても多様に変化するため一意的に決めることはできないが、本発明の好ましい実施形態にあっては、下限は120℃以上が例示でき、好ましくは180℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは225℃以上、よりいっそう好ましくは240℃以上である。また、上限は350℃以下が例示でき、好ましくは320℃以下、より好ましくは310℃以下、さらに好ましくは300℃以下、よりいっそう好ましくは280℃以下である。反応温度をこのような好ましい範囲とすることで、高い反応速度が得られ、効率よく環式PASが得られる傾向にある。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。なお、還流温度とは反応混合物の液体成分が沸騰と凝縮を繰り返している状態の温度である。
【0072】
本発明では反応混合物を常圧下の還流温度を超えて加熱することが好ましいが、反応混合物をこのような加熱状態に処する方法として、例えば反応混合物を常圧を超える圧力環境下で加熱する方法が挙げられ、この高圧環境を簡易に構築する方法として反応混合物を密閉した反応器内で加熱する方法が例示できる。
【0073】
また、加熱時の温度制御方法は、一定温度を維持する方法、段階的に温度を上げていく方法、あるいは連続的に温度を変化させる方法のいずれで行ってもかまわない。
【0074】
一方、反応時間についても、使用した原料の種類や量あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、好ましい下限としては、0.1時間以上、さらに好ましくは0.5時間以上が例示できる。反応時間をこの好ましい時間以上とすることにより、未反応の原料成分を十分に減少できるため、生成した環式PASの回収がしやすくなる傾向にある。また、本発明の反応方法は極めて高い反応速度が得られる特徴を有するため、40時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは10時間以内、より好ましくは6時間以内を上限として例示できる。
【0075】
工程(ii)における圧力条件は、反応混合物を構成する原料およびその組成、反応温度等により変化するため一意的に規定することはできないが、本発明における好ましい実施様態である反応混合物の常圧下における還流温度を超える温度で反応を行うためには、系の圧力を常圧を超える圧力とすることが好ましい。具体的には、ゲージ圧で下限は0.05MPa以上が好ましく例示でき、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上、よりいっそう好ましくは0.3MPa以上である。また、上限は0.8MPa以下が好ましく例示でき、より好ましくは0.7MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。このような好ましい圧力範囲では、環式PASの製造に要する時間が短くなる傾向が見られる。
【0076】
前記した好ましい圧力範囲では、高価な耐圧製造設備を必要としないため、環式PASの製造に要する設備コストを低減できる上、安全性も高い。なお、ここで言うゲージ圧とは、大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力値のことである。また、系内雰囲気は非酸化性条件であることが望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの観点からは窒素雰囲気下がより好ましい。さらに、前記好ましい圧力の上限を超えない範囲で、不活性ガスによる加圧操作を実施してもよい。
【0077】
ここで、工程(ii)を行う容器は特に限定されず、工程(i)を行った反応器と同一の反応器で行っても良いし、別々の反応器で行ってもよいが、工程(i)と工程(ii)の好ましい加熱条件、圧力条件が異なる点を考慮すると、工程(i)と工程(ii)を別々の反応器で行うことが好ましい。このように反応器を分けることで、反応に連続的なプロセスを取り入れることが可能となり、環式PASをより効率よく製造することが可能となる。また、第3の容器を別途設けて、その容器で原料の調製のみ行い、そこから工程(ii)を行う反応器に移してから工程(ii)を行っても良い。なお、反応器はどのようなものを使用してもよいが、反応は撹拌しつつ行うことが望ましいため、撹拌機を具備したものであると好ましい。
【0078】
工程(ii)における反応混合物中の水分量は、工程(i)を実施したことによる効果で、特に付加的な操作を行わない限りイオウ成分1モル当たり0.8モル以上6.0モル以下となる。この条件を満たす限り、工程(ii)実施後の原料消費率を高くできるため、水分量の再調整は基本的に必要ない。
【0079】
しかし、前記したように、さらに好ましい効果を与える水分量の好ましい上限としてはイオウ成分1モル当たり4.5モル以下、より好ましくは3.0モル以下、また好ましい下限としてはイオウ成分1モル当たり0.9モル以上、より好ましくは1.0モル以上であるため、このような範囲にするために、水分の除去や添加により水分量を再調整することも可能である。なお、本発明における反応混合物中の水分量とは、反応系に仕込んだスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒、さらにはその他成分を仕込む場合にはその成分も含め、各成分に含まれて導入された水分量の総和から、脱水操作など付加的な操作により系から除去された水分量を差し引いた水分量を指し、上記諸成分の混合及び反応過程で生成する水は考慮しない。
【0080】
なお、工程(i)における水分量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満まで低下させた場合には、工程(ii)における有機極性溶媒の使用量がイオウ成分1モル当たり2.5リットルを超える低濃度条件で、とりわけ原料が消費されにくくなる傾向が見られるが、工程(i)における水分量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上とすることで、そのような低濃度領域でも高い原料消費率を維持することが可能である。
【0081】
ここで、本発明における原料消費率とは、スルフィド化剤の転化率のことを指し、このスルフィド化剤の転化率を算出する式は、
転化率(%)=[〔スルフィド化剤仕込み量(モル)−スルフィド化剤残存量(モル)〕/〔スルフィド化剤仕込み量(モル)〕]×100%。
で表される。なお、工程(ii)で加熱を行う前の反応混合物中に線状PASを含む場合には、原料消費率の評価は、全イオウ成分の転化率で行うこととし、その算出式は
転化率(%)=[〔反応混合物中の全イオウ成分(モル)−スルフィド化剤残存量(モル)〕/〔反応混合物中の全イオウ成分(モル)〕]×100%。
で表される。ここでスルフィド化剤残存量は、イオンクロマトグラフィーなどによって測定が可能である。
【0082】
工程(ii)を行うことで生成した環式PASを、後述の(9)に例示する方法で回収した場合に、単離した環式PAS中に未反応の原料が入り込むことを防ぐため、この原料消費率は高いほど好ましいが、好ましい下限としては95%以上が例示でき、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上が例示できる。前述したように、特許文献4に示した従来の技術ではこのような好ましい範囲まで原料消費率を高めることができなかったが、本発明の実施条件を満たすことで前記の好ましい範囲とすることが可能となった。なお、上限に特に制限は無く、仕込んだ原料を全て消費する100%が最も好ましい。
【0083】
また、工程(ii)では、反応が進行し、ある程度原料が消費された随意の段階で、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物を追加してさらに反応を継続することも可能である。この追加量は、追加前の反応混合物中のスルフィド化剤の量を勘案することが重要であり、スルフィド化剤の追加操作後も、有機極性溶媒が反応混合物中のイオウ成分1モルに対して1.25リットル以上を維持することが望まれる。なお、反応混合物中のスルフィド化剤の量は、前記したスルフィド化剤の転化率の結果から算出が可能である。
【0084】
スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加は、仕込んだ原料が減少した随意の段階で行ってかまわないことは前記した通りであるが、スルフィド化剤の転化率が50%以上の段階が好ましく、70%以上の段階がより好ましく、このような段階で追加する事でより効率よく環式PASを得ることが可能となる。
【0085】
このようなスルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加を行う回数に制限は無いが、通常、反応開始時の反応系内のスルフィド化剤及び追加したスルフィド化剤の合計が、反応混合物中の有機極性溶媒1リットル当たりスルフィド化剤のイオウ原子基準で10モルまでの量が好ましい範囲として例示できる。ここでスルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加は、反応混合物中の生成物量を増大させる効果があり、単位体積当たりの環式PAS収量を増大できるため好ましい方法である。
【0086】
なお、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加により反応混合物中の水分量が変化する場合、前記した好ましい水分量となるように付加的な操作を行うことも可能であり、追加前、追加中、追加後に反応混合物から水を随意の量除去する事も望ましい方法である。なお、この水の除去に際し、水以外の成分が反応混合物から除去される場合、必要に応じてスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒をさらに追加する事も可能であり、除去された成分を再度反応混合物に戻す操作を行ってもかまわない。
【0087】
環式PAS生成率の算出は、まず環式PAS標品について高速液体クロマトグラフィー分析を行って検量線を作成しておき、その検量線を利用して環式PASのピーク面積からから環式PAS含有量を算出し、反応混合物中のイオウ成分が全て環式PASに転化すると仮定した場合の環式PAS収量に対する実際の環式PAS含有量として環式PASの生成率の算出を行った。また、工程(ii)で加熱を行う前の反応混合物中に線状PASを含む場合には、反応混合物中の全イオウ成分が全て環式PASに転化したと仮定した場合の環式PAS収量に対する実際の環式PAS含有量として環式PASの生成率の算出を行った。
【0088】
(9)環式ポリアリーレンスルフィドの回収方法
本発明の環式PASの製造においては、前記した反応により得られた反応生成物から環式PASを分離回収することも可能である。反応により得られた反応生成物には環式PAS、線状PAS及び有機極性溶媒が含まれており、その他の成分として未反応のスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、水、副生塩などが含まれる場合もある。
【0089】
この反応生成物から環式PASを回収する方法には特に制限はないが、例えば特許文献4に示される回収方法が例示できる。そのような方法を用いることで環式PASを簡便かる純度よく回収することが可能である。また、本発明の効果により、反応生成物中に含まれる未反応のスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物が従来の技術に比べて低減されているため、より一層高純度な環式PASを得ることが可能である。
【0090】
(10)本発明の環式PASの特性
かくして得られた環式PASは、通常、環式PASを50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含む純度の高いものであり、一般的に得られる線状のPASとは異なる特性を有する工業的にも利用価値の高いものである。また、本発明の製造方法により得られる環式PASは前記式(A)におけるmが単一ではなく、m=2〜50の異なるmを有する前記式(A)が得られやすいという特徴を有する。ここで好ましいmの範囲は3〜40、より好ましくは4〜30である。mがこの範囲の場合、後述するようにPASを得るための原料として環式PASを用いる場合に重合反応が進行しやすく、高分子量体が得られやすくなる傾向にある。この理由は現時点判然とはしないが、この範囲の環式PASは分子が環式であるがために生じる結合のゆがみが大きく、重合時に高分子量化が起こりやすいためと推測している。
【0091】
なお、mが単一の環式PASは単結晶として得られるため、極めて高い融解温度を有するが、本発明では環式PASは異なるmを有する混合物が得られやすく、これにより環式PASの融解温度が低いという特徴があり、このことは例えば環式PASを溶融して用いる際の加熱温度を低くできるという優れた特徴を発現することになる。
【0092】
(11)本発明の環式PASを配合した樹脂組成物
本発明で得られた環式PASを各種樹脂に配合して用いることも可能であり、このような環式PASを配合した樹脂組成物は、溶融加工時のすぐれた流動性を発現する傾向が強く、また滞留安定性にも優れる傾向にある。なお、本発明で得られる環式PASを配合した樹脂組成物を製造する方法には特に制限はないが、例えば特許文献4に示される樹脂組成物の製造方法が例示できる。
【0093】
(12)環式PASの高重合度体への転化
本発明によって製造される環式PASは(10)に述べたごとき優れた特性を有するので、ポリマーを得る際のプレポリマーとして好適に用いることが可能である。なおここでプレポリマーとしては本発明の環式PAS製造方法で得られる環式PAS単独でも良いし、所定量の他の成分を含むものでも差し障り無いが、環式PAS以外の成分を含む場合は線状PASや分岐構造を有するPASなど、PAS成分であることが特に好ましい。少なくとも本発明の環式PASを含み、以下に例示する方法により高重合度体へ変換可能なものがポリアリーレンスルフィドプレポリマーであり、以下PASプレポリマーと称する場合もある。
【0094】
環式PASの高重合度体への変換反応は、環式PASから環式PASの分子量よりも高分子量の成分が生成する条件下で行えばよく、例えば本発明の環式PAS製造方法による環式PASを含む、PASプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる方法が好ましい方法として例示できる。この加熱の温度は前記PASプレポリマーが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。加熱温度がPASプレポリマーの溶融解温度未満では分子量の高いPASを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、PASプレポリマーが溶融解する温度は、PASプレポリマーの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばPASプレポリマーを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。なお、加熱温度が高すぎるとPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるPASの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。このような好ましくない副反応の顕在化を抑制しやすい加熱温度としては、下限は180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上であり、上限は400℃以下が例示でき、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。一方、ある程度の副反応が起こっても差し障り無い場合には、下限は250℃以上が例示でき、好ましくは280℃以上であり、上限は450℃以下が例示でき、好ましくは420℃以下といった条件も選択可能である。このような好ましい範囲では、極短時間で高分子量体への転化を行えるという利点がある。
【0095】
前記加熱を行う時間は、使用するPASプレポリマーにおける環式PASの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、加熱の温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。よって加熱時間としては、下限は0.05時間以上が例示でき、好ましくは0.1時間以上である。一方、上限は100時間以下が例示でき、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。0.05時間未満ではPASプレポリマーのPASへの転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるPASの特性への悪影響が顕在化する可能性が高まるだけでなく、経済的にも不利益を生じる場合がある。
【0096】
また、PASプレポリマーには加熱による高重合度体への転化に際しては、転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としてはイオン性化合物やラジカル発生能を有する化合物が例示できる。イオン性化合物としては例えばチオフェノールのナトリウム塩やリチウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩が例示でき、また、ラジカル発生能を有する化合物としては例えば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物を例示でき、より具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が例示できる。なお、各種触媒成分を使用する場合、触媒成分は通常はPASに取り込まれ、得られるPASは触媒成分を含有するものになることが多い。特に触媒成分としてアルカリ金属及び/または他の金属成分を含有するイオン性の化合物を用いた場合、これに含まれる金属成分の大部分は得られるPAS中に残存する傾向が強い。また、各種触媒成分を使用して得られたPASは、PASを加熱した際の重量減少が増大する傾向にある。従って、より純度の高いPASを所望する場合および/または加熱した際の重量減少の少ないPASを所望する場合には、触媒成分の使用をできるだけ少なくすることが好ましく、使用しないことがより好ましい。従って、各種触媒成分を使用してPASプレポリマーを高重合度体へ転化する際には、PASプレポリマーと触媒成分を含む反応系内のアルカリ金属量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下さらに好ましくは10ppm以下であって、なおかつ、反応系内の全イオウ重量に対するジスルフィド重量が1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、さらに好ましくは0.1重量%未満になるように触媒成分の添加量を調整して行うことが好ましい。
【0097】
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常溶媒の非存在下で行うが、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒としては、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の阻害や生成したPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
【0098】
前記、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
【0099】
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとPASプレポリマー間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはPAS成分が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によってはPASプレポリマーに含まれる分子量の低い環式ポリアリーレンスルフィドが揮散しやすくなる傾向にある。
【0100】
前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下でPASプレポリマーの高重合度体への転化を行うことで、PASと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、PAS単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
【0101】
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりPASを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができなかったり、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のPASプレポリマーは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばPASと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。PASプレポリマーと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のPASの製造方法によればPASプレポリマーが高重合度体に転化するので、繊維状物質と高重合度体(ポリアリーレンスルフィド)が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
【0102】
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことは前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
【0103】
また、前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0105】
<環式ポリフェニレンスルフィドの生成率の測定>
反応生成物中の環式ポリフェニレンスルフィド化合物の生成率の測定は、HPLCを用いて実施した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:関東化学社製 Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長270nm)
【0106】
なお、HPLCで成分分割した各成分の構造決定は、LC―MSによる分析及び、分取LCでの分取物のMALDI−MS,NMR,IR測定により行った。
【0107】
環式PAS生成率の算出は、まず環式PAS標品について高速液体クロマトグラフィー分析を行って検量線を作成しておき、その検量線を利用して環式PASのピーク面積からから環式PAS含有量を算出し、反応混合物中のイオウ成分が全て環式PASに転化すると仮定した場合の環式PAS収量に対する実際の環式PAS含有量として環式PASの生成率の算出を行った。また、工程(ii)で加熱を行う前の反応混合物中に線状PASを含む場合には、反応混合物中の全イオウ成分が全て環式PASに転化したと仮定した場合の環式PAS収量に対する実際の環式PAS含有量として環式PASの生成率の算出を行った。
【0108】
<スルフィド化剤の分析>
反応混合物中や反応生成物中のスルフィド化剤の定量(例えば、水硫化ナトリウムの定量)はイオンクロマトグラフィーを用いて以下の条件にて実施した。
装置:島津製作所製 HIC−20Asuper
カラム:島津製作所製 Shim−packIC−SA2(250mm×4.6mmID)
検出器:電気伝導度検出器(サプレッサ)
溶離液:4.0mM炭酸水素ナトリウム/1.0mM炭酸ナトリウム水溶液
流速:1.0ml/分
注入量:50マイクロリットル
カラム温度:30℃
【0109】
試料中に過酸化水素水を添加して試料中に含まれる硫化物イオンの酸化を行った後に上記分析により硫酸イオンとして定量し、過酸化水素水を添加しない無処理の試料を分析した際の硫酸イオン定量値を差し引く方法で、試料中の硫化物イオン量を算出した。ここで算出した硫化物イオン量を未反応のスルフィド化剤量とし、仕込んだスルフィド化剤量との割合から、反応でのスルフィド化剤消費率、すなわち原料消費率を算出した。
【0110】
<スルフィド化剤混合物の均一性判断と固化温度測定>
スルフィド化剤混合物の固化温度測定と均一性判断は、まず、ガラス製サンプル瓶に室温のスルフィド化剤混合物を2g採取し、それを撹拌せずオイルバスで融解するまで加熱して沈降物の有無を確認した。続いて、それをオイルバスから取り出して温度センサーを差し、室温環境にて静置・冷却して目視で固化し始める温度を測定した。なお、精度は5℃刻みで実施した。この固化温度の変動幅はスルフィド化剤混合物の組成により変化するため一概には言えないが、例えば、スルフィド化剤混合物中の水分量がイオウ成分1モル当たり3モルから2.5モルに変化した場合には固化温度は5℃上昇する傾向が見られる。
【0111】
<分子量測定>
線状ポリフェニレンスルフィドの重量平均分子量Mwはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)
【0112】
[実施例1]
<工程(i)>
SUS316製の撹拌機付きオートクレーブの上部に蒸留塔を装着し、その先に冷却管および凝縮液を受ける容器を設置した。オートクレーブ内に48重量%の水硫化ナトリウム水溶液46.7g(水硫化ナトリウムとして0.400モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液35.0g(水酸化ナトリウムとして0.420モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)82.0g(0.0799リットル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は42.5g(2.36モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.90モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの有機極性溶媒量は0.200リットルであった。
【0113】
常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から180℃まで加熱し、脱水留出液が16.6g得られた段階で加熱を停止し、130℃まで冷却した。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を3.1g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、29.0g(1.610モル)であった。また、イオンクロマトグラフィーの結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0004モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.399モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり4.03モルであることがわかった。
【0114】
<工程(ii)>
工程(i)を行ったオートクレーブの原料投入口を開き、そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)59.8g(0.407モル)及びNMP945g(0.921リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.65MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0115】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0116】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は97.3%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は15.1%であった。
【0117】
また、本実施例1の工程(i)のみ別途実施し、室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、100℃に固化温度を有すること、100℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、100℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0118】
本発明の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば、環式ポリアリーレンスルフィドを高収率で得ることができ、また、原料消費率が高く原料ロスはほとんど生じなかった。
【0119】
[比較例1]
ここでは、特許文献3(特開2009−30012号公報)の実施例に準じて環式PASの製造を行った例を示す。すなわち、前記実施例1の工程(i)を省いた以外は実施例1と同等の反応容器、反応濃度、反応温度の条件にて環式PASの製造を行った例を示す。
【0120】
SUS316製の撹拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液28.1g(水硫化ナトリウム0.240モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液21.0g(水酸化ナトリウム0.252モル)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.0g(0.245モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.1g(6.21モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は25.5g(1.42モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.92モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒の量は2.50Lであった。
【0121】
反応器を室温にて窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で1.12MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0122】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0123】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は96.6%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は15.5%であった。
【0124】
このように、工程(i)を行わず、反応混合物中の水分量が多い条件で環式PASの製造を行った場合では、実施例1と比べると環式PASの収率は同等であるが、水分量の増加に伴い加熱時の反応器内の圧力が大幅に上昇することがわかる。さらに本比較例で得られた反応物中には黒色成分が多く、反応物回収後の反応器の接液部も黒色化し金属光沢は認められなかった。
【0125】
[実施例2]
ここでは、実施例1よりも工程(i)後の水分量を減らした例を示す。
【0126】
<工程(i)>
実施例1と同様にして原料を仕込み、常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から180℃まで加熱し、しばらく180℃を維持することで脱水留出液を33.6g得た。その後加熱を停止し、130℃まで冷却した。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を5.4g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、14.2g(0.791モル)であった。また、イオンクロマトグラフィーの結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0013モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.399モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり1.98モルであることがわかった。
【0127】
<工程(ii)>
工程(i)を行ったオートクレーブの原料投入口を開き、そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)59.8g(0.407モル)及びNMP947g(0.923リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.49MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0128】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0129】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は97.5%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は15.8%であった。
また、本実施例2の工程(i)のみ別途実施し、室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、120℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0130】
このように、実施例1よりも工程(i)後の水分量が、本発明のより好ましい範囲にある場合、環式ポリアリーレンスルフィドを高収率で得ることができ、また、原料消費率が高く原料ロスはほとんど生じなかった。
【0131】
[実施例3]
ここでは、工程(i)を行った後、工程(i)を行った反応器に、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上になるように有機極性溶媒を加えてスルフィド化剤混合物を希釈し、さらに工程(i)とは異なる反応器に分割・移液してから工程(ii)を行った例を示す。
【0132】
<工程(i)>
実施例2と同様の操作により、水分がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり1.96モルであるスルフィド化剤混合物を得た。続いて、内温を130℃に維持したままNMPを415g加え、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり1.20リットルになるようオートクレーブ内で希釈を行った。この操作により、低粘度なスルフィド化剤混合物が得られた。これを室温まで冷却し、ステンレス容器に回収して重量を測ると541gであった。前述の留出液量などから算出される理論収量544gに対する回収率は99.4%であった。
【0133】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を270g(イオウ成分として0.199モル、水酸化ナトリウムとして0.209モル、NMPとして0.239リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP266g(0.259リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.48MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0134】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0135】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は98.2%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は16.1%であった。
また、本実施例3の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、120℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0136】
このように、工程(i)を行った後、工程(i)を行った反応器に、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上になるように有機極性溶媒を加えてスルフィド化剤混合物を希釈し、さらに工程(i)とは異なる反応器に移送してから工程(ii)を行った場合には、実施例2と同様に反応時の低い内圧と高い原料消費率を両立することができ、収率よく環式ポリアリーレンスルフィドを得ることができた。
【0137】
[参考例1]
ここでは、実施例3で得られた反応生成物を固液分離することで、副生した線状ポリフェニレンスルフィドを有機極性溶媒を含む固形分として回収した例について示す。
【0138】
実施例3で得られた反応生成物120gを分取し、300mLのフラスコに仕込んだ。反応生成物をマグネチックスターラーで撹拌し、反応生成物のスラリーに窒素バブリングを行いながら、オイルバスで100℃に加熱した。
【0139】
ADVANTEC社製の万能型タンク付フィルターホルダーKST−90−UH(有効濾過面積約45平行センチメートル)に、直径90mm、平均細孔直径1μmのPTFE製メンブレンフィルターをセットし、タンク部分をバンドヒーターにて100℃に調温した。
【0140】
100℃に加熱した反応生成物をタンクに仕込み、タンクを密封後、窒素にて0.4MPaに加圧した。続いてタンク下部のバルブをゆっくり開き、濾過を開始した。濾液の排出がなくなったら作業を終了し、タンクを開封してメンブレンフィルター上に残存した線状ポリフェニレンスルフィド、NMP、塩化ナトリウムからなるケークを62.5g回収した。
【0141】
上記ケークを4g量り取って40gの水に分散させ、70℃で15分撹拌した後、ガラスフィルターで吸引濾過することでケーク中のNMPおよび塩化ナトリウムを除去した。この洗浄操作を計4回繰り返した。得られた固形分を真空乾燥機70℃で3時間処理して乾燥し、最初に量り取ったケークの重量に対する割合として線状ポリフェニレンスルフィドの含有率を算出すると21.3重量%であった。なお、乾燥法によってケーク中のその他の成分についても分析を行ったところ、NMPが48.7重量%、塩化ナトリウムが30.0重量%であった。なお、得られた線状ポリフェニレンスルフィドの分子量をGPCにより測定したところ、Mw=12,000であった。
【0142】
[実施例4]
ここでは、参考例1で回収した線状ポリフェニレンスルフィドを反応混合物中に含ませることで、線状ポリフェニレンスルフィドを原料として再利用した環式ポリフェニレンスルフィドの合成例について示す。
【0143】
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブを窒素置換しておき、前記実施例3の工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を33.8g(イオウ成分として0.0249モル、水酸化ナトリウムとして0.0262モル、NMPとして0.0299リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)4.58g(0.0311モル)、前記参考例1で得られたケーク成分50.6g(線状ポリフェニレンスルフィドとして0.0997モル、NMPとして24.6g(0.0240リットル)、塩化ナトリウムとして15.2g)、NMP289g(0.282リットル)を加え、反応混合物中のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.34MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0144】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0145】
また、得られた反応生成物を、加えた線状PASも原料として利用される点を考慮して、高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、反応混合物中の全イオウ成分を基準とした水硫化ナトリウムの原料消費率は98.0%、反応混合物中の全イオウ成分が環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は12.2%であった。
【0146】
このように、工程(ii)を行う前の反応混合物中に線状ポリフェニレンスルフィドが含まれる場合には、実施例1、2、3と比較して環式ポリフェニレンスルフィドの収率は低下するものの、実施例3で副生した線状ポリフェニレンスルフィドを原料として有効に利用できることがわかり、水硫化ナトリウムやジクロロベンゼンなどの原料の節約に有効であることがわかった。また、反応時の低い内圧と高い原料消費率を両立することができた。
【0147】
[比較例2]
ここでは、実施例3との比較で、工程(i)において、水分をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満まで脱水させた例について示す。
【0148】
<工程(i)>
実施例1と同様にして原料を仕込み、常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から210℃まで加熱し、脱水留出液が60.7g得られた段階で加熱を停止し、130℃まで冷却した。すると内容物が固化して撹拌が停止してしまったため、内温を150℃まで再加熱して液状を維持させた。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を22.0g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、3.8g(0.209モル)であった。また、イオンクロマトグラフィー分析の結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0036モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.396モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり0.53モルであることがわかった。
【0149】
続いて、内温を150℃に保ったままオートクレーブ内にNMPを428g加えて、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり1.20リットルになるよう希釈を行った。この操作により、低粘度なスルフィド化剤混合物が得られた。これを室温まで冷却し、ステンレス容器に回収して重量を測ると527gであった。前述の留出液量などから算出される理論収量531gに対する回収率は99.3%であった。
【0150】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を264g(イオウ成分として0.198モル、水酸化ナトリウムとして0.208モル、NMPとして0.238リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.6g(0.208モル)及びNMP264g(0.258リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.38MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0151】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0152】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は93.0%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は15.0%であった。
また、本比較例2の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、140℃に固化温度を有すること、140℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、140℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0153】
このように、工程(i)において水分をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満まで脱水すると、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は実施例1、2、3の結果と大きく変わらないものの、原料消費率は明らかに低下することがわかった。このことは、原料ロスや未反応原料混入による目的物の品質悪化といった問題につながる。また、得られるスルフィド化剤混合物の固化温度が比較的高くなり、液状を保つ必要がある場合により高温が必要となることがわかった。
【0154】
[実施例5]
ここでは、実施例3の場合より工程(i)での有機極性溶媒量を増やした例について示す。
【0155】
<工程(i)>
SUS316製の撹拌機付きオートクレーブの上部に蒸留塔を装着し、その先に冷却管および凝縮液を受ける容器を設置した。オートクレーブ内に48重量%の水硫化ナトリウム水溶液46.7g(水硫化ナトリウムとして0.400モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液35.0g(水酸化ナトリウムとして0.420モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)160g(0.156リットル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は42.5g(2.36モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.90モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの有機極性溶媒量は0.390リットルであった。
【0156】
常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から180℃まで加熱し、しばらく180℃を維持することで脱水留出液を35.6g得た。その後加熱を停止し、130℃まで冷却した。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を8.1g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、15.0g(0.833モル)であった。また、イオンクロマトグラフィー分析の結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0012モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.399モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり2.09モルであることがわかった。
【0157】
続いて、内温を130℃に保ったままオートクレーブ内にNMPを339g加えて、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり1.20リットルになるよう希釈を行った。この操作により、低粘度なスルフィド化剤混合物が得られたが、容器の底に粒子径が3〜5mm程度の赤色固形分が0.1g沈殿していることを確認した。
【0158】
内容物を室温まで冷却し、ステンレス容器に回収して重量を測ると540gであった。前述の留出液量などから算出される理論収量545gに対する回収率は99.0%であった。なお、赤色固形分を定性分析したところ、イオン性の硫黄を含む化合物であることがわかり、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分の回収率を算出すると、98.7%であった。
【0159】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を270g(イオウ成分として0.199モル、水酸化ナトリウムとして0.209モル、NMPとして0.239リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP266g(0.259リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.48MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0160】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0161】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は97.5%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は15.3%であった。
【0162】
また、本実施例5の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において粒子径が3〜5mm程度の固形分の沈降がわずかに見られることを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一ではなかった。
【0163】
このように、実施例3の場合より工程(i)での有機極性溶媒量を増やした例では、工程(i)で硫黄を含む微量の赤色固形分が生じたが、その量はわずかであり、本発明の好ましい範囲である限り原料モルバランスへの影響は軽微であり、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は実施例1、2、3と同等の結果を得ることができた。また、原料消費率が高く原料ロスはほとんど生じなかった。
【0164】
[比較例3]
ここでは、実施例3との比較で、工程(i)において、有機極性溶媒量をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上とした条件で脱水させた例について示す。
【0165】
<工程(i)>
SUS316製の撹拌機付きオートクレーブの上部に蒸留塔を装着し、その先に冷却管および凝縮液を受ける容器を設置した。オートクレーブ内に48重量%の水硫化ナトリウム水溶液46.7g(水硫化ナトリウムとして0.400モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液35.0g(水酸化ナトリウムとして0.420モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)410g(0.400リットル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は42.5g(2.36モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.90モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの有機極性溶媒量は1.00リットルであった。
【0166】
常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から180℃まで加熱し、しばらく180℃を維持することで脱水留出液を39.7g得た。その後加熱を停止し、130℃まで冷却した。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を13.0g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、15.7g(0.874モル)であった。また、イオンクロマトグラフィー分析の結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0012モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.399モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり2.19モルであることがわかった。
【0167】
続いて、内温を130℃に保ったままオートクレーブ内にNMPを94g加えて、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり1.20リットルになるよう希釈を行った。この操作により、低粘度のスルフィド化剤混合物が得られたが、容器の底に粒子径が3〜10mm程度の赤色固形分が7.1g沈殿していることを確認した。内容物を室温まで冷却し、ステンレス容器に回収して重量を測ると534gであった。前述の留出液量などから算出される理論収量546gに対する回収率は97.8%であった。なお、赤色固形分を定性分析したところ、イオン性の硫黄を含む化合物であることがわかり、スルフィド化剤混合物中のイオウ成分の回収率を算出すると、75.3%であった。
【0168】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を、半量の267gを仕込んだ。(比例計算によると、仕込んだイオウ成分の量は0.200モル、水酸化ナトリウムの量は0.210モル、NMPの量は0.240リットル含む。)そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP266g(0.259リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.48MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収したところ、反応液は乳濁液であった。これは、工程(i)で赤色固形分が大量に沈殿したためスルフィド化剤混合物が不均一となり、正確な分割が行えず、想定した原料組成で反応できなかったためと考えられる。
【0169】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0170】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は98.1%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は10.0%であった。
【0171】
また、本比較例3の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において多くの固形分が沈降していることを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は不均一であった。
【0172】
このように、工程(i)において有機極性溶媒をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.4リットル以上の条件で脱水すると、工程(i)終了時に硫黄を含む大量の赤色固形分が沈殿することがわかった。その影響でスルフィド化剤混合物の正確な分割が難しくなり、このことが工程(ii)でのモルバランスにずれを及ぼしたことで、環式ポリフェニレンスルフィドの収率が実施例1、2、3の場合と比較して大きく低下してしまったと考えられる。
【0173】
[比較例4]
ここでは、実施例3との比較で、工程(i)を行った後の水分量が、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり6.0モルより多い例について示す。
【0174】
<工程(i)>
SUS316製の撹拌機付きオートクレーブの上部に蒸留塔を装着し、その先に冷却管および凝縮液を受ける容器を設置した。オートクレーブ内に48重量%の水硫化ナトリウム水溶液46.7g(水硫化ナトリウムとして0.400モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液35.0g(水酸化ナトリウムとして0.420モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)82.0g(0.0799リットル)、水40.0gを仕込んだ。原料に含まれる水分量は82.5g(4.58モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は11.46モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの有機極性溶媒量は0.200リットルであった。
【0175】
常圧で窒素を通じて撹拌しながら室温から180℃まで加熱し、しばらく180℃を維持することで脱水留出液を38.5g得た。その後加熱を停止し、130℃まで冷却した。ここで、脱水留出液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、NMP成分を2.9g含んでおり、この情報を元に系内に残留した水分量を算出すると、46.9g(2.60モル)であった。また、イオンクロマトグラフィー分析の結果より、脱水工程中に硫化水素として飛散したイオウ成分は0.0008モルであることがわかり、これにより、系内に残存しているイオウ成分は0.399モルであることがわかった。よって系内の水分量は、イオウ成分1モル当たり6.52モルであることがわかった。
【0176】
続いて、内温を130℃に保ったままオートクレーブ内にNMPを412g加えて、有機極性溶媒がイオウ成分1モル当たり1.20リットルになるよう希釈を行った。この操作により、低粘度なスルフィド化剤混合物が得られた。これをステンレス容器に回収して重量を測ると572gであった。前述の留出液量などから算出される理論収量577gに対する回収率は99.0%であった。
【0177】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を286g(イオウ成分として0.200モル、水酸化ナトリウムとして0.210モル、NMPとして0.241リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.210モル)及びNMP266g(0.259リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を2.50リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.87MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0178】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0179】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は97.8%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は16.0%であった。
【0180】
このように、工程(i)を実施せず、反応混合物中の水分量が多い条件で環式ポリフェニレンスルフィドの製造を行った場合には、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は実施例1、2、3と同等だが、反応時の圧力が0.87MPaと実施例に比べてはるかに大きく、高い耐圧性能をもつ反応器が必要になることがわかった。さらに、反応終了後のオートクレーブ(SUS製)内壁に、実施例では確認されない腐食(黒色化)が進行した形跡があり、その黒色物が一部反応液中に混入している様子も確認された。
【0181】
[実施例6]
ここでは、実施例3の場合より工程(ii)での有機極性溶媒量を増やした例について示す。
【0182】
<工程(i)>
実施例3と同様の操作により、水分がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり1.96モルであるスルフィド化剤混合物542gを得た。理論収量544gに対する回収率は99.6%であった。
【0183】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を271g(イオウ成分として0.199モル、水酸化ナトリウムとして0.209モル、NMPとして0.239リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP437g(0.426リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を3.33リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.44MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0184】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0185】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は96.6%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は23.3%であった。
【0186】
また、本実施例6の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、120℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0187】
このように、実施例3の場合より工程(ii)での有機極性溶媒量を増やした例では、反応時の低い内圧と高い原料消費率を両立することができ、収率よく環式ポリアリーレンスルフィドを得ることができた。
【0188】
[比較例5]
ここでは、実施例6との比較で、工程(i)において、水分をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満まで脱水させた例について示す。
【0189】
<工程(i)>
比較例2と同様の操作により、水分がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.53モルであるスルフィド化剤混合物525gを得た。理論収量531gに対する回収率は98.9%であった。
【0190】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を263g(イオウ成分として0.198モル、水酸化ナトリウムとして0.208モル、NMPとして0.238リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.6g(0.208モル)及びNMP436g(0.425リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を3.33リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.34MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0191】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0192】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は89.5%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は22.8%であった。
【0193】
また、本比較例5の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、140℃に固化温度を有すること、140℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、140℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0194】
このように、工程(i)において水分をスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満まで脱水させた場合は、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は実施例6の結果とほぼ同等であるものの、原料消費率は実施例6の場合より大幅に低下する結果であった。この結果から、実施例6および比較例5で示すような工程(ii)の基質濃度が比較的薄い条件は、工程(i)での水分量を減らすことで原料消費率が極端に低下し、本発明の効果がより際立つ濃度領域であることがわかった。
【0195】
[実施例7]
ここでは、実施例3の場合より工程(ii)での有機極性溶媒量を減らした例について示す。
【0196】
<工程(i)>
実施例3と同様の操作により、水分がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり1.96モルであるスルフィド化剤混合物541gを得た。理論収量544gに対する回収率は99.4%であった。
【0197】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を270g(イオウ成分として0.199モル、水酸化ナトリウムとして0.209モル、NMPとして0.239リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP97g(0.0945リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を1.67リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.58MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0198】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0199】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は98.0%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は11.8%であった。
【0200】
また、本実施例7の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、120℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0201】
このように、実施例3の場合より工程(ii)での有機極性溶媒量を減らした例では、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は若干低下するものの、反応時の低い内圧と高い原料消費率を両立することができた。
【0202】
[実施例8]
ここでは、実施例7の場合よりさらに工程(ii)での有機極性溶媒量を減らした例について示す。
【0203】
<工程(i)>
実施例3と同様の操作により、水分がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり1.96モルであるスルフィド化剤混合物541gを得た。理論収量544gに対する回収率は99.4%であった。
【0204】
<工程(ii)>
撹拌機の付いたSUS316製のオートクレーブ(前記工程(i)で用いたものとは異なる)を、あらかじめ窒素置換しておき、前記工程(i)で得られたスルフィド化剤混合物を270g(イオウ成分として0.199モル、水酸化ナトリウムとして0.209モル、NMPとして0.239リットル)仕込んだ。そこにp−ジクロロベンゼン(p−DCB)30.8g(0.209モル)及びNMP12g(0.0114リットル)を加え、反応系内のイオウ成分1モル当たりのNMP量を1.25リットルに調整した。続いて反応器を窒素置換、密封し、400rpmで撹拌しながら25分かけて室温から200℃まで昇温し、次いで200℃から250℃まで35分かけて昇温した。その後、250℃で2時間保持することで反応混合物を加熱して反応させた。加熱が始まると徐々に内圧も上昇し、反応終了時にはゲージ圧で0.68MPaとなった。反応終了後、オートクレーブを室温近傍まで冷却し、反応生成物を回収した。
【0205】
<反応生成物分析評価>
得られた反応生成物の一部を大過剰の水に分散させることで水に不溶な成分を回収し、次いで乾燥することで固形分を得た。赤外分光分析による構造解析の結果、この固形分はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。
【0206】
また、得られた反応生成物を高速液体クロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィーにより分析した結果、スルフィド化剤として用いた水硫化ナトリウムの原料消費率は98.3%、反応混合物中のスルフィド化剤が全て環式ポリフェニレンスルフィドに転化すると仮定した場合の環式ポリフェニレンスルフィドの生成率は10.3%であった。
【0207】
また、本実施例8の工程(i)のみ別途実施し、希釈は行わずに室温まで冷却後に回収したスルフィド化剤混合物について均一性判断と固化温度測定を行ったところ、120℃に固化温度を有すること、120℃以上において固形分の沈降が見られないことを確認した。よって、このスルフィド化剤混合物は均一であり、120℃以上で高い移送性を示すことがわかった。
【0208】
このように、実施例7の場合よりさらに工程(ii)での有機極性溶媒量を減らした例では、環式ポリフェニレンスルフィドの収率は低下するものの、反応時の低い内圧と高い原料消費率を両立することができた。