(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の制御装置が搭載された四輪駆動車の概略を示す構成図である。
【0019】
(四輪駆動車100の構成)
四輪駆動車100は、駆動力伝達系101と、駆動力伝達装置11と、制御装置12と、主駆動源であるエンジン102と、トランスミッション103と、主駆動輪としての前輪104L,104Rと、補助駆動輪としての後輪105L,105Rとを備えている。なお、
図1において符号中の文字「L」は四輪駆動車100の前進方向に対する左側を示し、文字「R」は四輪駆動車100の前進方向に対する右側を示している。
【0020】
駆動力伝達系101は、前輪側駆動力伝達系101Aと、後輪側駆動力伝達系101Bと、前輪側駆動力伝達系101A及び後輪側駆動力伝達系101Bをつなぐプロペラシャフト20とを有し、四輪駆動車100の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達系101は、四輪駆動車100のトランスミッション103側から後輪105L,105Rに至る駆動力伝達経路に、フロントディファレンシャル21及びリヤディファレンシャル22と共に配置され、四輪駆動車100の図略の車体に搭載されている。
【0021】
前輪側駆動力伝達系101Aは、フロントディファレンシャル21及び駆動力断続装置23を含み、プロペラシャフト20における前輪104L,104R側に配置されている。
【0022】
フロントディファレンシャル21は、サイドギヤ211L,211Rと、一対のピニオンギヤ212と、一対のピニオンギヤ212を回転可能に支持するギヤ支持部材213と、サイドギヤ211L,211R及び一対のピニオンギヤ212を収容するフロントデフケース214とを有し、トランスミッション103に連結されている。サイドギヤ211Lは、前輪104L側のアクスルシャフト24Lに接続され、サイドギヤ211Rは、前輪104R側のアクスルシャフト24Rに接続される。一対のピニオンギヤ212は、サイドギヤ211L,211Rにギヤ軸を直交させて噛合する。
【0023】
駆動力断続装置23は、第1のスプライン歯部231と、第2のスプライン歯部232と、スリーブ233とを有するドグクラッチからなる。駆動力断続装置23は、四輪駆動車100の前輪104L,104R側に配置され、スリーブ233が図略のアクチュエータによって進退移動可能である。第1のスプライン歯部231はフロントデフケース214に、第2のスプライン歯部232はリングギヤ262に、それぞれ回転不能に接続されている。スリーブ233は、第1のスプライン歯部231及び第2のスプライン歯部232にスプライン嵌合可能に連結されている。この構成により、駆動力断続装置23は、プロペラシャフト20とフロントデフケース214とを断続可能に連結する。
【0024】
後輪側駆動力伝達系101Bは、リヤディファレンシャル22及び駆動力伝達装置11を含み、プロペラシャフト20における後輪105L,105R側に配置されている。
【0025】
リヤディファレンシャル22は、サイドギヤ221L,221Rと、一対のピニオンギヤ222と、一対のピニオンギヤ222を回転可能に支持するギヤ支持部材223と、サイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222を収容するリヤデフケース224とを有し、プロペラシャフト20に連結されている。一対のピニオンギヤ222は、サイドギヤ221L,221Rにギヤ軸を直交させて噛合する。サイドギヤ221Lは、後輪105L側のアクスルシャフト25Lに接続され、サイドギヤ221Rは、後輪105R側のアクスルシャフト25Rに駆動力伝達装置11を介して接続される。
【0026】
駆動力伝達装置11は、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結を断接可能である。リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結が遮断されると、エンジン102の駆動力が後輪105Rに伝達されなくなると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222が空回りすることにより後輪105Lにも駆動力が伝達されなくなる。
【0027】
一方、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとが連結されると、エンジン102の駆動力が後輪105Rに伝達されると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Lを介して後輪105Lにも駆動力が伝達される。これにより、四輪駆動車100が四輪駆動状態となる。
【0028】
前輪104L,104Rは、エンジン102がトランスミッション103及びフロントディファレンシャル21を介して前輪側のアクスルシャフト24L,24Rに駆動力を出力することにより駆動される。一方の後輪105Lは、エンジン102がトランスミッション103、駆動力断続装置23、プロペラシャフト20、及びリヤディファレンシャル22を介して後輪105L側のアクスルシャフト25Lに駆動力を出力することにより駆動される。他方の後輪105Rは、エンジン102がトランスミッション103、駆動力断続装置23、プロペラシャフト20、リヤディファレンシャル22、及び駆動力伝達装置11を介して後輪105R側のアクスルシャフト25Rに駆動力を出することにより駆動される。
【0029】
プロペラシャフト20の前輪104L,104R側の端部には、互いに噛合するドライブピニオン261及びリングギヤ262からなる前輪側歯車機構26が配置されている。また、プロペラシャフト20の後輪105L,105R側の端部には、互いに噛合するドライブピニオン271及びリングギヤ272からなる後輪側歯車機構27が配置されている。
【0030】
制御装置12は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶素子からなる記憶部121と、記憶部121に記憶されたプログラムに従って動作するCPU(Central Processing Unit)等を有する制御部122と、駆動力伝達装置11の電動モータ5(後述)を制御するモータ制御回路123とを有している。モータ制御回路123により電動モータ5に電流が供給されると、駆動力伝達装置11によってリヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rから後輪105R側のアクスルシャフト25Rにエンジン102の駆動力が伝達される。一方、電動モータ5に電流が供給されなくなると、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結が遮断される。
【0031】
(駆動力伝達装置11の構成)
図2は、駆動力伝達装置11の構成例を示す断面図である。
図2において、回転軸線Oよりも上側は非作動状態を示し、下側は作動状態を示している。
【0032】
この駆動力伝達装置11は、電動モータ5と、電動モータ5の出力軸500の回転を減速させる減速機構9と、第1の摩擦部材としての複数のアウタクラッチプレート81及び第2の摩擦部材としての複数のインナクラッチプレート82を有するクラッチ8と、複数のアウタクラッチプレート81と共に回転する入力回転部材13と、複数のインナクラッチプレート82と共に回転する出力回転部材14とを備えている。
【0033】
また、駆動力伝達装置11は、カム部材31及びリテーナ32を有し、電動モータ5の回転力によってクラッチ8を押圧する軸方向の推力(押圧力)を発生させるクラッチ押圧機構としてのカム機構3と、本体部41及び蓋部42からなり、入力回転部材13及び出力回転部材14をカム機構3と共に収容するハウジング4と、リテーナ32のハウジングに対する回転を規制する規制部材としての複数のガイド部材43と、複数のガイド部材43のそれぞれの外周に配置されたコイルばね44とを備えている。ハウジング4の内部には潤滑油が封入されている。
【0034】
本実施の形態では、ガイド部材43が円柱状の軸部材からなり、入力回転部材13及び出力回転部材14の回転軸線Oに沿って、ハウジング4の内部に回転軸線Oと平行に配置されている。ガイド部材43の一端部はハウジング4の本体部41に形成された嵌合穴41aに嵌合して固定され、他端部は蓋部42に形成された嵌合穴42aに嵌合して固定されている。複数のガイド部材43は、回転軸線Oの周方向に沿って等間隔に配置され、本実施の形態では3つのガイド部材43がハウジング4の内部に120°ごとに配置されている。
図2では、このうちの1つのガイド部材43のみを図示している。
【0035】
入力回転部材13は、回転軸線Oを軸線とする軸状の軸部131と、軸部131とは反対側(カム機構3側)に開口する有底円筒状の円筒部132とを一体に有している。入力回転部材13は、ハウジング4の本体部41内に針状ころ軸受133,134を介して回転可能に支持されている。軸部131は、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221R(
図1参照)にスプライン嵌合によって連結されている。軸部131の外周面とハウジング4の本体部41の内面との間は、回転軸線O方向に沿って並列する一対のシール機構135によってシールされている。
【0036】
出力回転部材14は、回転軸線Oを軸線とする軸状のボス部141と、ボス部141とは反対側(
図1に示す後輪105R側)に開口する有底円筒状の円筒部142とを一体に有している。出力回転部材14は、入力回転部材13の円筒部132内に針状ころ軸受143,144を介して回転可能に支持されている。また、出力回転部材14は、ハウジング4の蓋部42に玉軸受145を介して回転可能に支持されている。出力回転部材14には、その開口から後輪105R側のアクスルシャフト25R(
図1参照)の先端部が挿入される。後輪105R側のアクスルシャフト25Rは、出力回転部材14にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結される。
【0037】
ボス部141は、入力回転部材13における軸部131における円筒部132側の端部に形成された凹部131aに収容されている。ボス部141の外周面と凹部131aの内面との間には、針状ころ軸受143が配置されている。円筒部142における開口周辺部の外周面とハウジング4の蓋部42の内面との間は、シール部材146によってシールされている。
【0038】
クラッチ8は、入力回転部材13と出力回転部材14との間に配置されている。クラッチ8における複数のアウタクラッチプレート81と複数のインナクラッチプレート82とは、同一軸線(回転軸線O)上で相対回転可能に交互に配置され、回転軸線O方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する。
【0039】
複数のアウタクラッチプレート81は、入力回転部材13の円筒部132の内周面に形成されたストレートスプライン嵌合部132aにスプライン嵌合し、入力回転部材13に対して相対回転不能、かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結されている。
【0040】
複数のインナクラッチプレート82は、出力回転部材14の円筒部142の外周面に形成されたストレートスプライン嵌合部142aにスプライン嵌合し、出力回転部材14に対して相対回転不能、かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結されている。
【0041】
電動モータ5は、電動モータ用ハウジング50内に収容され、電動モータ用ハウジング50がハウジング4の本体部41にボルト5aによって取り付けられている。ここで、電動モータとは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機器の総称であり、限られた角度を旋回するアクチュエータも含まれる。電動モータ5の出力軸500は、減速機構9及び歯車伝達機構7を介してカム機構3に連結されている。
【0042】
歯車伝達機構7は、第1の歯車71及び第2の歯車72を有している。第1の歯車71は、減速機構9の回転軸O
1上に配置され、ハウジング4の本体部41内に玉軸受73,74を介して回転可能に支持されている。第2の歯車72は、ギヤ部720が第1の歯車71に噛合するように配置され、支持軸76に玉軸受75を介して回転可能に支持されている。歯車伝達機構7は、減速機構9で減速された電動モータ5の回転力を出力軸500から受けて、カム機構3に伝達する。出力軸500の回転軸は、減速機構9の回転軸O
1と一致している。
【0043】
(減速機構9の構成)
図3は、減速機構9の構成例を示す断面図である。
【0044】
減速機構9は偏心揺動減速機構であり、より詳しくは、少歯数差インボリュート減速機構である。減速機構9は、回転軸90と、入力部材91と、自転力付与部材92と、複数(本実施の形態では6つ)の出力部材93とを有し、減速機構用ハウジング94内に収容されている。
【0045】
回転軸90は、減速機構9の回転軸O
1から偏心量δをもって平行に偏心する軸線O
2を中心軸線とする偏心部901を有している。回転軸90は、
図2に示すように、減速機構用ハウジング94に玉軸受95を介して、また歯車伝達機構7の第1の歯車71に玉軸受96を介して、それぞれ回転可能に支持されている。
【0046】
入力部材91は、軸線O
2を中心軸とする中心孔910を有する外歯歯車からなり、中心孔910の内周面と偏心部901の外周面との間に針状ころ軸受97を介在させて、回転軸90に回転可能に支持されている。入力部材91は、電動モータ5から回転力を受けて偏心量δを持つ矢印n
1,n
2方向の円運動を行う。入力部材91には、軸線O
2回りに等間隔に並列する複数(本実施の形態では6つ)の貫通孔としてのピン挿通孔911が形成されている。入力部材91の外周面には、軸線O
2を中心軸とするピッチ円のインボリュート歯形をもつ外歯912が形成されている。
【0047】
自転力付与部材92は、回転軸O
1を中心軸とする内歯歯車からなり、入力部材91に噛合し、電動モータ5の回転力を受けて公転する入力部材91に対して矢印m
1,m
2方向の自転力を付与する。自転力付与部材92の内周面には、入力部材91の外歯912に噛合するインボリュート歯形をもつ内歯921が形成されている。
【0048】
複数の出力部材93は、略均一な外径をもつピンからなり、入力部材91のピン挿通孔911を挿通して歯車伝達機構7における第1の歯車71のピン取付孔710に取り付けられている。複数の出力部材93は、自転力付与部材92によって付与された自転力を入力部材91から受けて歯車伝達機構7の第1の歯車71に出力する。複数の出力部材93の外周面には、入力部材91におけるピン挿通孔911の内周面との間の接触抵抗を低減するための針状ころ軸受98が設けられている。
【0049】
(カム機構3の構成)
次に、カム機構3について、
図4〜
図8を参照して詳細に説明する。
【0050】
図4は、カム機構3の構成例を示す斜視図である。
図5は、カム機構3のカム部材31を示す斜視図である。
図6は、カム機構3のリテーナ32を示す斜視図である。
図7は、カム機構3の転動部材33、及び転動部材33を支持する支持部材としての支持ピン34を示す斜視図である。カム部材31は、本発明における「駆動部材」の一態様である。リテーナ32,転動部材33,及び支持ピン34は、本発明における「被駆動部材」の一態様である。
【0051】
カム機構3は、電動モータ5の回転力を受けてカム部材31がハウジング4に対して回転することにより作動し、クラッチ8を軸方向に押圧する。リテーナ32は、ハウジング4との相対回転が規制され、カム部材31の回転に伴って軸方向に移動する。つまり、カム機構3は、カム部材31がリテーナ32に対して回転することで、電動モータ5のトルクをクラッチ8を押圧する押圧力に変換する。カム部材31はカム機構3の入力部材として機能し、リテーナ32はカム機構3の出力部材として機能する。カム機構3は、出力回転部材14の円筒部142の外周側に配置されている。
【0052】
カム部材31は、
図5に示すように、環状であり、出力回転部材14を挿通させる挿通孔31aを有している。カム部材31の外周縁の一部には、径方向外方に突出した扇状の凸片311が設けられている。凸片311の外周側の端部には、歯車伝達機構7の第2の歯車72(ギヤ部720)に噛合するギヤ部311aが形成されている。第2の歯車72のギヤ部720及びカム部材31のギヤ部311aは平歯車からなり、それぞれ所定の噛み合い半径で互いに噛み合っている。カム部材31は、第2の歯車72を介して、電動モータ5の回転力を受けて回転軸線Oを中心に回転することができる。
【0053】
カム部材31の軸線方向一側の端面には、挿通孔31aの開口周縁から後輪105R(
図1参照)側に向かって突出する円筒部312が形成されている。カム部材31の軸線方向他側の端面には、クラッチ8に対向するカム面を構成する凸部316、及び凹部315が形成されている。円筒部312の内周面と出力回転部材14における円筒部142の外周面との間には、針状ころ軸受313(
図2参照)が介在している。カム部材31の軸線方向一側の端面とハウジング4の蓋部42の内面との間には、針状スラストころ軸受37(
図2参照)が介在している。
【0054】
凹部315及び凸部316は、カム部材31の周方向に交互に並列している。本実施の形態では、3つの凹部315と3つの凸部316が互いに隣接して配置されている。凹部315は、略均一な切り欠き幅をもつ一対の切り欠き側面315a,315bと、一対の切り欠き側面315a,315bの間に介在する切り欠き底面315cとを有する断面略矩形状の切り欠きによって形成されている。
【0055】
凸部316は、カム部材31の周方向に沿って傾斜した傾斜面316aと、平面316bとを有している。傾斜面316aは、凹部315側から第2の傾斜面316aに向かってカム部材31の軸線方向の厚さを漸次大きくするように傾斜している。平面316bは、カム部材31の軸線方向の厚さが略均一な平面で形成されている。
【0056】
リテーナ32は、
図6に示すように、出力回転部材14を挿通させる挿通孔320aが中心部に形成された環状の円環部320と、円環部320の内側の端面から回転軸線Oに沿って突出した筒部321と、円環部320から径方向外方に延出されてガイド部材43に係合する第1乃至第3の延出部323〜325とを有している。
【0057】
円環部320には、
図7に示す支持ピン34を挿通させる複数(本実施の形態では3つ)のピン挿通孔32aが放射状に形成されている。円環部320は、カム部材31との相対回転によるカム推力を支持ピン34から受ける。複数のピン挿通孔32aは、円環部320の周方向に等間隔に形成され、円環部320を径方向に貫通している。
【0058】
筒部321は、円環部320における軸方向の端面からクラッチ8側に向かって突出している。筒部321の外周側には、リテーナ32からの推力を受けてクラッチ8を押し付ける環板状の押付部材30(
図2参照)が配置されている。押付部材30は、入力回転部材13の円筒部132のストレートスプライン嵌合部132aにスプライン嵌合によって連結されている。押付部材30の一側端面と円環部320のクラッチ8側端面との間には、針状ころ軸受38が介在している。
【0059】
第1乃至第3の延出部323〜325は、円環部320の外周面から回転軸線Oに直交する径方向に沿って延出されている。第1乃至第3の延出部323〜325は、それぞれの基端部がピン挿通孔32aの外周側の開口部に隣接する位置に配置され、等間隔かつ放射状に形成されている。第1乃至第3の延出部323〜325の先端部には、ガイド部材43を挿通させるためのガイド挿通孔323a,324a,325aがそれぞれ形成されている。
【0060】
リテーナ32は、第1乃至第3の延出部323〜325のガイド挿通孔323a,324a,325aにガイド部材43を挿通させることにより、ガイド部材43に係合してハウジング4に対する回転が規制されると共に、回転軸線Oに沿った方向の移動が可能とされている。
【0061】
第2及び第3の延出部324,325のガイド挿通孔324a,325aは、クラッチ8側から回転軸線Oと平行に見た場合の形状が円形である。第1の延出部323のガイド挿通孔323aを同方向から見た形状は、ガイド挿通孔324a,325aと異なり、非円形である。この第1の延出部323のガイド挿通孔323aの形状の詳細については後述する。
【0062】
支持ピン34は、円筒状の転動部材33を転動可能に支持する支持部341と、支持部341よりも小径に形成された軸状の軸部342とを一体に有している。軸部342の先端部(支持部341とは反対側の端部)には、螺子部342aが形成されている。支持ピン34は、軸部342がリテーナ32のピン挿通孔32aを挿通し、リテーナ32の円環部320の外周面から突出した螺子部342aにナット35(
図2に示す)が螺合することにより、リテーナ32に取り付けられる。支持部341の外周面と転動部材33との間には、複数の針状ころ36(
図2に示す)が配置されている。
【0063】
また、支持ピン34には、その中心軸に沿って貫通孔340が形成されている。貫通孔340は、支持部341及び軸部342に亘って形成され、支持ピン34を軸方向に貫通している。
【0064】
図8は、カム機構3の動作を説明するための説明図である。カム機構3は、カム部材31の凸部316における傾斜面316aを支持ピン34に支持された転動部材33が転動することにより、クラッチ8を軸方向に押す押圧力を発生させる。
【0065】
より詳細には、転動部材33がカム部材31の凹部315に位置する非作動状態から、カム部材31がリテーナ32に対して回転すると、転動部材33がカム部材31の凸部316における傾斜面316aに乗り上げ、作動状態となる。傾斜面316aは、カム部材31の周方向に対して傾斜しているので、傾斜面316aにおける凹部315側の端部を始端部316a
1とし、傾斜面316aの始端部316a
1とは反対側(平面316b側)の端部を終端部316a
2とすると、転動部材33が始端部316a
1から終端部316a
2まで転動する間に、転動部材33及びリテーナ32が回転軸線Oに沿ってクラッチ8側に移動する。この転動部材33及びリテーナ32の移動力がクラッチ8を軸方向に押す押圧力となる。
【0066】
図8に示すように、転動部材33は、カム部材31から傾斜面316aに対して直角な方向のカム力P
0を受ける。このカム力P
0を回転軸線Oに平行な方向(
図8に示す矢印X方向)の分力P
1(クラッチ8を押す力)と、回転軸線Oに対する周方向の分力P
2(リテーナ32を回転させようとする力)に分解すると、分力P
1の大きさ(|P
1|)は、カム力P
0の大きさ(|P
0|)にcosθ(θ=傾斜面316aの傾斜角)を乗じた値となる(|P
1|=|P
0|×cosθ)。また、分力P
2の大きさ(|P
2|)は、カム力P
0の大きさ(|P
0|)にsinθを乗じた値となる(|P
2|=|P
0|×sinθ)。したがって、分力P
1の大きさ(|P
1|)は、分力P
2の大きさ(|P
2|)にtanθを除した値(|P
1|=|P
2|/tanθ)となる。すなわち、分力P
1の大きさは、分力P
2の大きさに比例するので、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力である分力P
2(|P
2|)を検出することにより、カム機構3がクラッチ8を押圧する押圧力である分力P
1(|P
1|)を求めることができる。
【0067】
なお、前述のように、リテーナ32はガイド部材43によって回転規制されているので、リテーナ32がカム部材31から分力P
2による回転力を受けても、リテーナ32はハウジング4に対して回転しない。すなわち、ガイド部材43は、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力に抗する反力を発生させる。
【0068】
本実施の形態では、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさをセンサによって検出する。より具体的には、センサによってガイド部材43の撓みを検出することにより、分力P
2の大きさを求める。次に、ガイド部材43の撓みを検出するためのセンサ(歪センサ)、及びこのセンサの取付構造について説明する。
【0069】
図9は、センサ10及びその取付構造を示し、(a)はリテーナ32の第1の延出部323におけるガイド挿通孔323aをクラッチ8側から見た平面図、(b)はガイド部材43の外周面に取り付けられたセンサ10の平面図である。
【0070】
本実施の形態では、センサ10がガイド部材43の撓みを検出する歪センサからなり、ガイド部材43の外周面に接着等の固定手段によって取り付けられている。このセンサ10は、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさに応じてその検出値が変化する。
【0071】
第1の延出部323のガイド挿通孔323aは、センサ10に対向する内面323bが他の部分における内面323cよりも大径に形成されている。これによりセンサ10と第1の延出部323との干渉を防止している。センサ10は、ガイド部材43の外周面のうち、クラッチ8を軸方向に押圧する際にガイド挿通孔323aの内面323cに当接する部位の反対側に取り付けられている。
図9(a)に示す例では、ガイド部材43の図面左右方向の両端部のうち、クラッチ8を押圧する際に左側の端部が第1の延出部323の内面323cに当接するので、センサ10は、ガイド部材43の図面右側の端部に取り付けられている。
【0072】
センサ10は、
図9(b)に示すように、樹脂等の絶縁体からなるベース111と、金属箔からなる抵抗線112と、抵抗線112の両端から引き出されたリード113a,113bとを有している。抵抗線112は、ベース111の表面上を蛇行するように配置されている。本実施の形態では、抵抗線112は、ガイド部材43の長手方向に5回折り返されている。なお、折り返された状態の抵抗線112におけるガイド部材43の長手方向の長さをゲージ長Lとする。
【0073】
転動部材33がカム部材31から受ける分力P
2によって、ガイド部材43が第1の延出部323から押圧されて撓むと、ガイド部材43の外周面に取り付けられたセンサ10の抵抗線112は、そのゲージ長Lが伸びると共に断面積が小さくなる。これにより、抵抗線112の抵抗値が増加する。センサ10のリード113a,113bは、制御装置12(
図1に示す)に接続され、抵抗線112には制御装置12から出力される電流が流れる。この電流は、例えばリード113aから抵抗線112に流れ込み、リード113bによって制御装置12に帰還する直流電流であり、抵抗線112の抵抗値が変化すると、この直流電流の電流値も変化する。すなわち、センサ10は、ガイド部材43の撓みに応じてその検出値が変化するように構成及び配置され、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力を検出するためのセンサである。
【0074】
制御装置12は、抵抗線112のゲージ長Lの変化による抵抗値の変化によってガイド部材43の撓み量を検出可能である。これにより、制御装置12は、センサ10の検出値に基づいてクラッチ8の押圧力を算出し、算出されたクラッチ8の押圧力に基づいて電動モータ5(
図2参照)を制御する。制御装置12が電動モータ5を制御する際に実行する処理の具体例については後述する。
【0075】
(駆動力伝達装置11の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置11の動作について説明する。
【0076】
プロペラシャフト20と後輪105R側のアクスルシャフト25Rとを駆動力伝達装置11により連結させるには、制御装置12から電動モータ5に電流を供給し、電動モータ5の回転力をカム機構3に付与してカム機構3を作動させる。このとき、カム機構3のカム部材31が回転軸線O回り一方向に回転する。
図8に示すように、カム部材31が回転すると、転動部材33がカム部材31の凹部315に配置された状態(非作動状態)から転動し、カム部材31の凸部316の傾斜面316aに乗り上げて始端部316a
1から終端部316a
2に向かって転動する。これにより、電動モータ5の回転力がクラッチ8を軸方向に押圧する押圧力に変換される。
【0077】
クラッチ8が軸方向に押圧されると、複数のアウタクラッチプレート81と複数のインナクラッチプレート82とが摩擦係合し、入力回転部材13と出力回転部材14との間で駆動力が伝達される。これにより、エンジン102の駆動力が、入力回転部材13から出力回転部材14に伝達され、さらに出力回転部材14から後輪105R側のアクスルシャフト25Rを介して後輪105Rに伝達されて後輪105Rが回転駆動される。後輪105Rが回転駆動されることにより、対となる後輪105Lにも駆動力が伝達され、四輪駆動状態となる。つまり、四輪駆動車100では、駆動力伝達装置11によりエンジン102の駆動力を後輪側駆動力伝達系101Bに伝達可能とし、制御装置12により駆動力の伝達量を制御している。
【0078】
(制御装置12による駆動力伝達装置11の制御方法)
図10は、制御装置12の制御部122が実行する処理内容を示すフローチャートである。制御部122は、このフローチャートに示す処理を制御周期(例えば10ms)ごとに繰り返し実行する。
図11は、出力回転部材14に伝達すべき目標トルク値と電動モータ5への指令電流値との関係を定義したマップを示すグラフである。なお、
図10及び
図11は、制御方法の一具体例として示すものであり、本発明はこの制御方法に限定されるものではない。
【0079】
制御部122は、車両走行状態に基づいて、入力回転部材13から出力回転部材14に伝達すべき目標トルク値を設定する(ステップS1)。この車両走行状態には、例えば前輪104L,104Rと後輪105L,105Rとの差動回転数や、車速が含まれる。次に、制御部122は、この目標トルク値から電動モータ5に供給すべき電流値を指令電流値として算出する(ステップS2)。次に、制御部122は、この指令電流値をモータ制御回路123に出力する(ステップS3)。
【0080】
モータ制御回路123によって指令電流値に応じた電流が電動モータ5へ供給されると、電動モータ5の回転力が減速機構9を介してカム機構3に伝達され、カム機構3で電動モータ5の回転力がクラッチ8を押圧する押圧力に変換される。制御部122は、ガイド部材43の撓みを検出したセンサ10の出力信号を取得し(ステップS4)、これに基づいて、カム機構3によるクラッチ8の押圧力を算出する(ステップS5)。次に、制御部122は、押圧力に基づいて、実際に入力回転部材13から出力回転部材14に伝達されたトルク値を算出する(ステップS6)。
【0081】
算出したトルク値が目標トルク値と一致する場合(S7:Yes)、制御部122は、
図10に示すフローチャートの処理を一旦終了する。一方、算出したトルク値が目標トルク値と異なる場合(S7:No)、制御部122は、算出したトルク値と電動モータ5への指令電流値との関係を記憶部121に記憶させ(ステップS8)、実際のトルク値が目標トルク値に一致するように電動モータ5への指令電流値を補正し(ステップS9)、補正後の指令電流値をモータ制御回路123に出力する(ステップS3)。これにより、補正後の指令電流値に基づいてモータ制御回路123によって電動モータ5へ電流が供給される。
【0082】
制御部122におけるステップS8及びステップS9の処理について、
図11を参照して、より具体的に説明する。
図11の曲線(a)は、ステップS1にて設定した目標トルク値と、ステップS2にて目標トルク値から算出された電動モータ5への指令電流値との関係を定義したマップに基づく特性曲線である。例えば、目標トルク値がT
0のとき、指令電流値はI
0である。
【0083】
ステップS3の処理によって指令電流値I
0を電動モータ5に供給したとき、ステップS6にて算出された実際のトルク値が目標トルク値T
0より小さい場合(例えばT
1)には、
図11に示す曲線(b)のようにマップを補正する。これにより、目標トルク値T
0に対してより大きな指令電流値(例えばI
1)が算出される。
【0084】
また、ステップS3の処理によって指令電流値I
0を電動モータ5に供給したとき、ステップS6にて算出された実際のトルク値が目標トルク値T
0より大きい場合(例えばT
2)には、
図11に示す曲線(c)のようにマップを補正する。これにより、目標トルク値T
0に対してより小さな指令電流値(例えばI
2)が算出される。
【0085】
以上より、ステップS9において、電動モータ5への指令電流値I
0が指令電流値I
1又はI
2に補正される。つまり、制御部122は、ステップS9にて電動モータ5への指令電流を補正する際、ステップS5にて算出されたカム推力に基づいて、入力回転部材13から出力回転部材14に伝達されるべき駆動力(入力回転部材13から出力回転部材14に伝達すべき目標トルク値)と電動モータ5への指令電流値との関係を定義したマップを補正する。
【0086】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0087】
(1)制御装置12は、カム機構3によるクラッチ8の押圧力、及びクラッチ8によって伝達されるトルク値をセンサ10の検出値に基づいて算出し、算出されたトルク値が目標トルク値に一致するように電動モータ5を制御する。これにより、カム機構3によるクラッチ8の押圧力を所望の値に近づけることが可能となる。つまり、例えば電動モータ5に供給する電流に基づいてクラッチ8の押圧力を算出する場合に比較して、クラッチ8を押圧するカム機構3の推力を精度よく検出することが可能となり、クラッチ8によって伝達されるトルクを精度よく制御することができる。
【0088】
(2)センサ10は、ガイド部材43の撓みに応じてその検出値が変化するので、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力を精度よく検出することができる。つまり、ガイド部材43の撓み量は、転動部材33がカム部材31の傾斜面316aから受けるカム力P
0の分力P
2に応じて増減するので、ガイド部材43の撓み量をセンサ10によって検出すれば、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力を精度よく検出することが可能となる。
【0089】
(3)制御装置12の制御部122は、ステップS5にて算出されたクラッチ8の押圧力に基づいて、入力回転部材13から出力回転部材14に伝達されるべき駆動力と電動モータ5への指令電流値との関係を定義したマップを補正し、補正したマップを記憶しておくことにより、次回以降の応答に対しての遅れを抑制することができる。
【0090】
なお、上記第1の実施の形態では、複数のガイド部材43のうち、第1の延出部323のガイド挿通孔323aに挿通された1つのガイド部材43にセンサ10を取り付けた場合について説明したが、これに限らず、第2の延出部324又は第3の延出部325のガイド挿通孔324a,325aに挿通されたガイド部材43にセンサ10を取り付けてもよい。また、複数(2つ又は3つ)のガイド部材43にセンサ10を取り付け、複数のセンサ10の検出値を平均化して電動モータ5の制御に用いてもよい。
【0091】
[第1の実施の形態の変形例1]
図12は、第1の実施の形態の変形例1に係るリテーナ32の第1の延出部323及びその周辺部を示し、(a)はリテーナ32の第1の延出部323におけるガイド挿通孔323aをクラッチ8側から見た平面図、(b)はガイド部材43の外周面に取り付けられたセンサ10の平面図、(c)はガイド部材43の外周面に取り付けられたセンサ10の側面図である。
【0092】
第1の実施の形態では、第1の延出部323のガイド挿通孔323aを非円形とすることで、センサ10と第1の延出部323との干渉を防止していたが、
図12に示す変形例では、円柱状のガイド部材43の一部に切り欠き部430を形成し、この切り欠き部430の平坦な底面430aにセンサ10を取り付けることで、センサ10と第1の延出部323との干渉を防止する。その他の構成は第1の実施の形態と共通である。
【0093】
本変形例によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、第1の延出部323のガイド挿通孔323aを円形に形成することができるので、その加工を容易にすることができる。
【0094】
[第1の実施の形態の変形例2]
次に、第1の実施の形態の他の変形例を変形例2として説明する。本変形例では、ガイド部材43が中空の円筒状であり、センサ10がガイド部材43の内部に配置されている。
【0095】
図13は、第1の実施の形態の変形例2に係るリテーナ32の第1の延出部323及びその周辺部を示している。
図13(a)は、リテーナ32の第1の延出部323におけるガイド挿通孔323aをガイド部材43及びセンサ10の断面と共に示す平面図であり、
図13(b)はガイド部材43の内周面431aに取り付けられたセンサ10の平面図である。
図13(c)は、駆動力伝達装置11のハウジング4におけるガイド部材43の周辺部を示す断面図である。
【0096】
図13(a),(b)に示すように、本変形例では、センサ10がガイド部材43に形成された中空部431の内周面431aに接着等の固定手段によって取り付けられている。また、ガイド部材43は、
図13(c)に示すように、クラッチ8側の一端部がハウジング4の本体部41に形成された嵌合穴41aに嵌合し、他端部がハウジング4の蓋部42に形成された貫通孔42bに嵌合している。貫通孔42bは、蓋部42を回転軸線Oと平行な方向に貫通している。ガイド部材43の両端部は、嵌合穴41a及び貫通孔42bに圧入され、これによりハウジング4内に封入された潤滑油が外部に漏れ出さないようにされている。
【0097】
センサ10のリード113a,113bは、ガイド部材43の長手方向に沿って中空部431内に延在し、蓋部42に形成された貫通孔42bからハウジング4の外部に導出されている。センサ10は、ガイド部材43の内周面431aのうち、クラッチ8を軸方向に押圧する際に第1の延出部323に当接する部位の内側に取り付けられている。
図13(a)に示す例では、ガイド部材43の図面左右方向の両端部のうち、クラッチ8を押圧する際に左側の端部が第1の延出部323に当接するので、センサ10は、ガイド部材43の内周面431aにおける図面左側の部位に取り付けられている。
【0098】
本変形例2によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、ハウジング4からのセンサ10のリード113a,113bの導出が容易となる。
【0099】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。上記した第1の実施の形態及びその変形例では、センサ10がガイド部材43の撓みを検出するように配置されていたが、本実施の形態では、センサ10がリテーナ32の延出部(第1の延出部323)の撓みを検出するように配置されている。
【0100】
図14(a)は、本実施の形態に係るリテーナ32及びセンサ10を示す斜視図である。
図14(b)は、本実施の形態に係るセンサ10を示す平面図である。
図14(a)及び(b)において、第1の実施の形態について説明したものと機能が共通する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0101】
本実施の形態に係るセンサ10は、リテーナ32の第1乃至第3の延出部323〜325のうち、1つの延出部(第1の延出部323)の周方向の端面323dに取り付けられている。
【0102】
より詳細には、センサ10は、
図14(b)に示すように、抵抗線112の長手方向が第1の延出部323の延出方向(リテーナ32の円環部320の径方向)に沿うように配置されている。また、センサ10は、第1の延出部323をその延出方向に直交する方向からリテーナ32の周方向に見た場合に、抵抗線112の一部がガイド挿通孔323aに重なり、他の一部がガイド挿通孔323aよりも内側(第1の延出部323の基端部側)に位置するように配置されている。
【0103】
以上のように構成されたカム機構3のカム部材31に電動モータ5の回転力が付与されると、第1の実施の形態と同様にリテーナ32がカム部材31から回転力を受け、この回転力によって第1の延出部323が撓む。センサ10は、第1の延出部323が撓むことによって、抵抗線112のゲージ長Lが伸びると共に断面積が小さくなる。これにより、抵抗線112の抵抗値が増加する。すなわち、センサ10は、第1の延出部323の撓みに応じてその検出値が変化する。第1の延出部323の撓みは、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさに応じて変化するので、換言すれば、センサ10は、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさに応じてその検出値が変化する。
【0104】
制御装置12は、抵抗線112のゲージ長Lの変化による抵抗値の変化によって第1の延出部323の撓み量を検出し、これに基づいてクラッチ8の押圧力を算出し、算出されたクラッチ8の押圧力に基づいて、第1の実施の形態と同様に電動モータ5を制御する。
【0105】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、センサ10をガイド部材43に取り付ける場合に比較して、センサ10を大型化することができ、センサ10における歪量の検出精度を高めることが可能となる。
【0106】
なお、センサ10は、第1の延出部323に取り付ける場合に限らず、第2の延出部324又は第3の延出部325に取り付けてもよい。また、第1乃至第3の延出部323〜325のうち、複数(2つ又は3つ)の延出部にセンサ10を取り付けてもよい。複数の延出部に取り付けたセンサ10の検出値を平均化すれば、より検出精度を高めることができる。
【0107】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、センサ10が転動部材33を支持する支持ピン34の撓みを検出するように配置されている。
【0108】
図15(a)は、本実施の形態に係る駆動力伝達装置11における支持ピン34の周辺部を示す断面図である。
図15(b)は、センサ10を支持ピン34及びその周辺の部材の断面と共に示すセンサ10の平面図である。
図15(c)は、
図15(a)におけるA−A線断面図である。
図15(a)乃至(c)において、第1の実施の形態について説明したものと機能が共通する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0109】
図15(a)乃至(b)に示すように、本実施の形態では、センサ10が支持ピン34の貫通孔340の内面340aに取り付けられている。支持ピン34の支持部341と転動部材33との間には、複数の針状ころ36が配置されている。複数の針状ころ36は、支持部341の外周面341a及び転動部材33の内周面33aを軌道面として転動し、支持ピン34の軸部342における支持部341側の端部に嵌着されたスナップリング343によって抜け止めされている。
【0110】
センサ10は、その抵抗線112の長手方向が支持ピン34の中心軸方向に沿うように配置されている。また、センサ10は、支持ピン34をその径方向から見た場合に、抵抗線112の一部が支持部341の内側における貫通孔340の内面340aに配置され、他の一部が軸部342の内側における貫通孔340の内面340aに配置されている。また、センサ10は、
図15(c)に示すように、貫通孔340の内面340aのうち、最もカム部材31に近い部位を含む範囲に配置されている。
【0111】
以上のように構成されたカム機構3のカム部材31に電動モータ5の回転力が付与されると、第1の実施の形態において
図8を参照して説明したように、転動部材33がカム部材31の傾斜面316aを転動し、傾斜面316aからカム力P
0を受ける。このカム力P
0によって転動部材33を支持する支持ピン34に撓みが発生する。センサ10は、支持ピン34が撓むことによって、抵抗線112のゲージ長Lが伸びると共に断面積が小さくなる。これにより、抵抗線112の抵抗値が増加する。すなわち、センサ10は、支持ピン34の撓みに応じてその検出値が変化する。支持ピン34の撓みは、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさに応じて変化するので、換言すれば、センサ10は、リテーナ32がガイド部材43から受ける反力の大きさに応じてその検出値が変化する。
【0112】
制御装置12は、抵抗線112のゲージ長Lの変化による抵抗値の変化によって支持ピン34の撓み量を検出し、これに基づいてクラッチ8の押圧力を算出し、算出されたクラッチ8の押圧力に基づいて、第1の実施の形態と同様に電動モータ5を制御する。
【0113】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、センサ10の抵抗線112は、支持ピン34における支持部341と軸部342との間に跨って延在しているため、支持ピン34が転動部材33及び複数の針状ころ36を介してカム力P
0を受けて撓んだ際に抵抗線112が大きく伸び、センサ10による支持ピン34の撓み量の検出精度を高めることができる。
【0114】
以上、本発明の駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の制御装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0115】
(1)上記実施の形態では、駆動力伝達装置11をリヤディファレンシャル22から右側後輪105Rに至るトルク伝達経路に配置した場合について説明したが、これに限らず、駆動力伝達装置11をプロペラシャフト20とリヤディファレンシャル22との間に配置してもよい。
【0116】
(2)減速機構9やカム機構3の構成は、上記したものに限らない。電動モータ5が高トルクを得られる、例えばDD(ダイレクトドライブ)モータ等である場合には、減速機構9を設けなくともよい。
【0117】
(3)センサ10の配置は、上記第1乃至第3の実施の形態もしくは第1の実施の形態の変形例1,2について説明した位置に限らず、リテーナ32がカム部材31から受ける回転力を検出可能な位置に配置されていればよい。