(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221349
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】可変絞り形静圧軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 32/06 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
F16C32/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-111938(P2013-111938)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231857(P2014-231857A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】新美 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】若園 賀生
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−87875(JP,A)
【文献】
特開昭56−126547(JP,A)
【文献】
特開2013−96445(JP,A)
【文献】
実開平3−49415(JP,U)
【文献】
特表2011−503887(JP,A)
【文献】
特公昭48−36847(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に設けられた静圧ポケットと、
前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、
前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、
流体貯留室と、
中央部に突起部を備えた流体供給室と、
前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの外周部が固定され、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起部と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、
前記突起部に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起部の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、
前記ダイアフラムの前記突起部に正対する面の裏面に、凸部を備え、
前記流体貯留室に前記凸部を摺動自在に収容し、前記凸部との間に液室を形成する凹部を備え、
前記凸部の外周と前記凹部の内周の間に絞りを構成する可変絞り形静圧軸受。
【請求項2】
前記凸部が前記ダイアフラムの中央部に配置される請求項1に記載の可変絞り形静圧軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受において、ダイアフラムの振動減衰性を大きくして静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路の振動を減衰するために、ダイアフラムの可動方向と垂直な面の中央部に可変絞り部を備え、ダイアフラムの外周部とダイアフラム保持部材の間に狭い隙間のギャップを設けて、ギャップに差動流体を充満しておくことでダイアフラムの振動を抑制する技術がある。(特許文献1の
図7)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−196655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術では、ダイアフラムの変位量は中央部が最大で周辺部は小さいため、振動抑制に寄与するダイアフラムの周辺部の変位量が小さく、十分な減衰性を付与することが困難な場合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、減衰性の大きなダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、軸受面に設けられた静圧ポケットと、前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、流体貯留室と、中央部に突起部を備えた流体供給室と、前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの外周部が固定され、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起部と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、前記突起部に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起部の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、
前記ダイアフラムの前記突起部に正対する面の裏面に、凸部を備え、前記流体貯留室に前記凸部を摺動自在に収容し、前記凸部との間に液室を形成する凹部を備えることである。
【0007】
さらに請求項
1に係る発明の特徴
は、前記凸部の外周と前記凹部の内周の間に絞りを構成することである。
【0008】
請求項
2に係る発明の特徴は、請求
項1に係る発明において、前記凸部が前記ダイアフラムの中央部に配置されることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、ダイアフラムの凸部と流体貯留室の凹部の間に形成された液室は、ダイアフラムの厚さ方向のダイアフラムの運動を妨げる作用を持つ。このため、静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路に振動が発生してダイアフラムがその厚さ方向に振動する場合に、ダイアフラムの振動を妨げるので、振動に対する減衰性の大きな可変絞り形静圧軸受を実現できる。また、凸部はダイアフラムの突起部に正対する面の裏面の所望の位置に配置できるので、所望の液室の振動防止特性を設定することが容易となる。
【0010】
さらに請求項
1に係る発明によれば、ダイアフラムの凸部の外周と流体貯留室の凹部の内周の間に絞りを備えているので、絞りによりダイアフラムの運動を妨げる作用が増大する。振動に対する減衰性のより大きな可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0011】
請求項
2に係る発明によれば、ダイアフラムの変位量は中央部が最大となるため、振動速度も中央部が最大となる。ダイアフラムの運動を妨げる作用は速度に比例するため、凸部が中央部に設けられことで、振動に対する減衰性のより大きな可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のスライドテーブル装置の全体構成を示す概略図である。
【
図3】
図2のB部の詳細図でダイアフラムが中立位置にある図である。
【
図4】
図2のB部の詳細図でダイアフラムが変位した位置にある図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、本発明をテーブル送り装置に使用した事例で説明する。
図1に示すように、テーブル送り装置1はベース10のスライド部にテーブル2を摺動自在に搭載し、テーブル2の両端の下部に1対の裏板5を取り付けることによりX軸方向のみに移動可能にした構造である。
図2に示すように、テーブル2のベース10に対向する面に静圧ポケット2aを下向きに2箇所、横向きに対向する1対の静圧ポケット2cを備えている。静圧ポケット2a、2cには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。給油管路4にはポンプ11(流体供給手段)が連結しており流体を供給する。
裏板5にも静圧ポケット5aを上向きに備えており、静圧ポケット5aには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。
【0014】
図3に可変絞り3の詳細を示す。可変絞り3は、流体供給室31aを備えた可変絞りベース31と流体貯留室32aを備えたキャップ32とが、流体供給室31aと流体貯留室32aが対向し、それらの間にダイアフラム33の外周部を挟むように締結した構造である。可変絞りベース31は、流体供給室31aの中央部に突起部31bと吐出口31cとを備えている。キャップ32は流体貯留室32aの中央部に円筒形の穴32b(凹部)を備えている。ダイアフラム33の流体貯留室32a側の面33b(突起部に正対する面の裏面)の中央部には、凸部33aを備えており、凸部33aは穴32bの内周に微小な隙間を備えて嵌合する。これにより、凸部33aと穴32bにより液室6が構成される。
ダイアフラム33が撓まないで中立位置にある場合は、突起部31bとダイアフラム33は隙間t
2を備えて正対する。流体貯留室32aには流路32cを経由して管路4が連通し、流体供給室31aには流路31dと流路32cを経由して管路4が連通し、吐出口31cはテーブル2の流入路2bを経由して静圧ポケット2aと連通している。
【0015】
可変絞り形軸受の作動について、
図3に基づき説明する。
管路4に流体が供給されると流路32cを経由して流体貯留室32aに流体が充満し、さらに穴32bと凸部33aの嵌合部の隙間(絞り)を経由して液室6にも流体が充満する。一方、流路32cと流路31dを経由して流体供給室31aに流体が充満し、さらに、流体供給室31a内の流体はダイアフラム33と突起部31bの間の隙間と吐出口31cを経由して静圧ポケット2aに流量Q
0で流入する。静圧ポケット2a内からは、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1から流出する流量Q
0の流体が流出する。
以上のことが、テーブル2の水平方向に設置された静圧ポケット2eと裏板5の静圧ポケット5a部においても同様に起きる。この結果として、ベース10とテーブル2は静圧ポケット2a部で間隔t
1を備えた状態で保持される。
【0016】
この時、管路4に供給される流体の圧力をP
0とすると、流体貯留室32aと流体供給室31a内の圧力はP
0となる。静圧ポケット2a内の圧力は、ダイアフラム33と突起部31bの間の隙間により絞られるため低下しP
1となる。このため
図4に示すように、ダイアフラム33は突起部31bの方向に押される力を受け変位する。ダイアフラム33と突起部31bの間の隙間は、ダイアフラム33の両面に作用する圧力P
0と吐出口31cに作用する静圧ポケット2aの圧力P
1により発生する力と、ダイアフラム33の弾性回復力とが釣り合うt
21となる。
【0017】
この状態でテーブル2に下向きの負荷が加わると、テーブル2が下方に移動するため静圧ポケット2aの間隔t
1が狭くなり、隙間t
1からの流体の流出量が減少し、静圧ポケット2a内の圧力が上昇するため、静圧ポケット2aに連通する吐出口31cの圧力も上昇する。そうすると、ダイアフラム33の吐出口31cに対向する面の受ける上向きの力が大きくなり、ダイアフラム33は上方に移動し、ダイアフラム33と突起部31bの間の隙間t
2が大きくなる。結果として、隙間t
2と吐出口31cを経由して静圧ポケット2aに流入する流量が増加する。これにより、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1から流出する流量を増加させる必要があるため、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1の減少を防止する作用が働く。つまり、負荷に対する間隔t
1の変動を少なくする(剛性を大きくする)作用が働く。
【0018】
ここで、ダイアフラム33が突起部31bの方向に変位する時、凸部33aは穴32bから抜け、液室6の体積が増加するので、穴32bと凸部33aの嵌合部の隙間(絞り)を経由して流体が液室6に流入する。また、ダイアフラム33が逆方向に変位する時は、穴32bと凸部33aの嵌合部の隙間を経由して流体が液室6から流出する。このため、ダイアフラム33は、嵌合部を流れる流体の粘性抵抗により変位速度が減速される力を受ける。
【0019】
静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路の振動が発生した場合にはダイアフラム33が振動するが、その振動を防止するように粘性抵抗が作用する、すなわち、減衰性を備えた可変絞りとなる。本実施例によれば、ダイアフラム33に減衰性を与える液室6がダイアフラム33の最大変位が生じるダイアフラム33の中央部に設けられているので、減衰性がより大きな可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0020】
以上の実施例では、穴32bと凸部33aの嵌合部の隙間を小さくした(絞りを備えた)構成について説明したが、ダイアフラム33の変位量が小さい場合は、嵌合部の隙間が大きくてもよい。この場合、穴32bの底面と凸部33aの上面の隙間をダイアフラム33の最大変位量よりわずかに大きく設定することで、いわゆるスクイズフィルムダンパを構成することができ、これにより減衰性を与えることができる。
【符号の説明】
【0021】
2:テーブル 2a:静圧ポケット 3:可変絞り 4:管路 6:液室 10:ベース 31:可変絞りベース 31a:流体供給室 31b:突起部 32:キャップ 32a:流体貯留室 32b:穴 33:ダイアフラム 33a:凸部