特許第6221365号(P6221365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221365非水電解液電池用電解液、及びこれを用いた非水電解液電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221365
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】非水電解液電池用電解液、及びこれを用いた非水電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20171023BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/0569
【請求項の数】8
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2013-120482(P2013-120482)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2015-5328(P2015-5328A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-133553(P2012-133553)
(32)【優先日】2012年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-105746(P2013-105746)
(32)【優先日】2013年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-105784(P2013-105784)
(32)【優先日】2013年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 夕季
(72)【発明者】
【氏名】久保 誠
(72)【発明者】
【氏名】森中 孝敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 建太
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−188871(JP,A)
【文献】 特開2008−288214(JP,A)
【文献】 国際公開第12/039251(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒と、
溶質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と、
第1の化合物としてジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物と、
第2の化合物として一般式(1)又は一般式(2)で示される少なくとも一つのシロキサン化合物と、
を含有し、
前記溶質の濃度が0.5mol/L以上2.5mol/L以下の範囲であり、
前記第1の化合物の添加量が非水電解液電池用電解液の総量に対して0.01〜5.0質量%の範囲であり、
前記第2の化合物の添加量が非水電解液電池用電解液の総量に対して0.01〜5.0質量%の範囲であることを特徴とする、非水電解液電池用電解液。

[一般式(1)及び一般式(2)中、R〜Rはそれぞれ互いに独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基から選ばれた基を示し、これらの基はフッ素原子及び酸素原子を有していても良い。また、一般式(1)ではnは1〜10の整数を示し、一般式(2)ではnは3〜10の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR、R、R又はRは、それぞれお互い同一であっても、異なっていても良い。]
【請求項2】
前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、炭素原子数1〜12のアルキル基及びこれらの基から誘導されるアルコキシ基、炭素原子数2〜8のアルケニル基及びこれらの基から誘導されるアルケニルオキシ基、炭素原子数2〜8のアルキニル基及びこれらの基から誘導されるアルキニルオキシ基、炭素原子数6〜12のアリール基又はこれらの基から誘導されるアリールオキシ基、及び含フッ素アルコキシ基から選ばれた基であることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解液電池用電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、ビニル基、エチニル基、アリール基、フェニルオキシ基、及び含フッ素アルコキシ基から選ばれた基であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の非水電解液電池用電解液。
【請求項4】
前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、ビニル基、エチニル基、フェニル基、フェニルオキシ基、2,2−ジフルオロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,1−トリフルオロイソプロポキシ基、及び1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ基から選ばれた基であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の非水電解液電池用電解液。
【請求項5】
前記第2の化合物が、一般式(3)又は一般式(4)で示される少なくとも一つの含フッ素アルコキシ基含有シロキサン化合物である、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の非水電解液電池用電解液。

[一般式(3)及び一般式(4)中、R、R10、R15は互いに独立して、フッ素原子を少なくとも一つ含有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基から選ばれた基を示し、これらの基は酸素原子を有していても良い。R11〜R14、R16はそれぞれ互いに独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基から選ばれた基を示し、これらの基はフッ素原子及び酸素原子を有していても良い。また、一般式(3)ではnは1〜10の整数を示し、一般式(4)ではnは3〜10の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR13、R14、R15又はR16は、それぞれお互い同一であっても、異なっていても良い。]
【請求項6】
前記非水溶媒が、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン又はスルホキシド化合物、及びイオン液体からなる群から選ばれた少なくとも一つの非水溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の非水電解液電池用電解液。
【請求項7】
前記第2の化合物として下記に記載の少なくとも一つのシロキサン化合物を用いたことを特徴とする、請求項1に記載の非水電解液電池用電解液。






【請求項8】
少なくとも正極と、負極と、非水電解液電池用電解液とを備えた非水電解液電池において、非水電解液電池用電解液が請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の非水電解液電池用電解液であることを特徴とする、非水電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期の電気容量が大きく、サイクル特性及び低温特性に優れた非水電解液二次電池を構成する非水電解液電池用電解液及びそれを用いた非水電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報関連機器、又は通信機器、即ちパソコン、ビデオカメラ、デジタルスチールカメラ、携帯電話等の小型機器で、かつ高エネルギー密度を必要とする用途向けの蓄電システムや電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車補助電源、電力貯蔵等の大型機器で、かつパワーを必要とする用途向けの蓄電システムが注目を集めている。その一つの候補としてリチウムイオン電池、リチウム電池、リチウムイオンキャパシタ等の非水電解液電池が盛んに開発されている。
【0003】
これらの非水電解液電池は既に実用化されているものも多いが、低温時の使用中又は充放電を繰り返すことで電気容量の低下や内部抵抗の上昇が起こる。このような理由のため、自動車の電源といった寒冷な環境下で長期間の使用が求められる用途では、非水電解液電池の性能には問題がある。
【0004】
これまで非水電解液電池の低温特性及び充放電を繰り返した場合の電池特性(サイクル特性)を改善する手段として、正極や負極の活物質をはじめとする様々な電池構成要素の最適化が検討されてきた。非水電解液関連技術もその例外ではなく、活性な正極や負極の表面で電解液が分解することによる劣化を種々の添加剤で抑制することが提案されている。例えば、特開2005−032714号公報(特許文献1)には、ジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを非水電解液に添加することにより、電池の内部抵抗の上昇とサイクル特性の劣化を抑制する方法が提案されているが、前記化合物を添加していない非水電解液電池に比べて初期の電気容量が低下する傾向がある。非水電解液電池は小型機器用途、大型機器用途にかかわらず、高容量化が求められていることから、初期の電気容量が低下することは好ましくない。また、特開2002−134169号公報(特許文献2)、特開2004―71458号公報(特許文献3)には、ジシロキサン化合物、シロキサン化合物、環状シロキサン化合物などのケイ素化合物を非水電解液に添加することにより、非水電解液電池のサイクル特性や、低温時の内部抵抗の増加を抑制して低温特性を向上させる方法が提案されている。さらに、特開2009−164030号公報(特許文献4)には、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンとビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを併用して非水電解液に添加することにより、非水電解液電池のサイクル特性と低温特性を改善する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−032714号公報
【特許文献2】特開2002−134169号公報
【特許文献3】特開2004―071458号公報
【特許文献4】特開2009−164030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術文献に開示されている電池により得られる初期の電気容量、サイクル特性及び低温特性は、十分に満足のいくものではない。ジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウムや、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムや、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを電解液中に添加すると、電池の内部抵抗の上昇とサイクル特性の劣化を抑制することができるものの、初期の電気容量が低下する傾向があり、これは電解液中の遊離の酸濃度が比較的短い期間に増大することが影響を及ぼした結果と考えられる。
本発明は、ジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物が添加された非水電解液電池用電解液であっても、該電解液を非水電解液電池に用いた場合に、サイクル特性の向上、内部抵抗の上昇を抑制する効果、低温特性の向上等を損なわないで、初期の電気容量が増大した非水電解液電池用電解液、及びこれを用いた非水電解液電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる問題を解決するために鋭意検討の結果、非水溶媒と溶質とを含む非水電解液電池用非水電解液に対して、ジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた化合物を添加した電解液であっても、特定の構造のシロキサン化合物を電解液に含有させることにより、電解液調製後の遊離酸濃度を低減できるという、重要な知見を見出した。
そして、この遊離酸の抑制効果に恐らく起因して、該電解液を非水電解液電池に用いた非水電解液電池は、初期の電気容量の低下が抑制できることが分かった。
該構成を有する非水電解液電池は、このような初期特性の向上の他に、保存安定性(長時間経過後の容量の維持率)の向上、サイクル特性の向上、内部抵抗の上昇を抑制する効果、若しくは、低温特性の向上、等の傾向も示し、電池全体として優れた性能を発揮することが判った。
【0008】
さらに、本発明者らは、かかる非水電解液電池用電解液において、該シロキサン化合物として、特定の「含フッ素アルコキシ基含有シロキサン」を用いる場合、上述の初期特性の向上に加え、長時間経過後のシロキサン化合物の残存量(率)に顕著な改善が見られるという知見を得た。この結果、非水電解液の保存安定性はさらに高まり、長時間充放電サイクルを行ったのちの容量維持率が一層高まることが判明した。
このように、発明者らは、優れた物性を示す非水電解液電池用電解液、及びこれを用いた非水電解液電池を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、非水溶媒と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CSO)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、及びビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C)からなる群から選ばれた少なくとも一つの溶質と第1の化合物としてジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物と、第2の化合物として一般式(1)又は一般式(2)で示される少なくとも一つのシロキサン化合物と、を含有し、前記溶質の濃度が0.5mol/L以上2.5mol/L以下の範囲であり、前記第1の化合物の添加量が非水電解液電池用電解液の総量に対して0.01〜5.0質量%の範囲であり、前記第2の化合物の添加量が非水電解液電池用電解液の総量に対して0.01〜5.0質量%の範囲であることを特徴とする、非水電解液電池用電解液(以降、単純に「非水電解液」または「電解液」と記載する場合がある)を提供するものである。
【0010】
[一般式(1)及び一般式(2)中、R〜Rはそれぞれ互いに独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基から選ばれた基を示し、これらの基はフッ素原子及び酸素原子を有していても良い。また、一般式(1)ではnは1〜10の整数を示し、一般式(2)ではnは3〜10の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR、R、R又はRは、それぞれお互い同一であっても、異なっていても良い。]
【0011】
前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、炭素原子数1〜12のアルキル基及びこれらの基から誘導されるアルコキシ基、炭素原子数2〜8のアルケニル基及びこれらの基から誘導されるアルケニルオキシ基、炭素原子数2〜8のアルキニル基及びこれらの基から誘導されるアルキニルオキシ基、炭素原子数6〜12のアリール基又はこれらの基から誘導されるアリールオキシ基、及び含フッ素アルコキシ基から選ばれた基であることが好ましい。
さらに、これらアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基の炭素の数に特段の制限があるわけではないが、原料入手の容易性などを考慮すると通常1〜6であり、とりわけ炭素数が1〜3の基を好適に用いることができる。なお、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる。
アリール基、アリールオキシ基の「アリール」部位としては、無置換のフェニル基が、入手の容易性の観点から好適であるが、該フェニル基の任意の位置に「アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基(炭素数に制限はないが、典型的な炭素数は1〜6)」から選ばれた基が置換したものも用いることができる。
なお「これらの基がフッ素原子を有する場合」とは、具体的にはこれらの基におけるH原子がF原子に置換されたものを指す。
また「これらの基が酸素原子を有する場合」とは、具体的にはこれらの基の炭素原子の間に「−O−」(エーテル結合)が介在する基が挙げられる。
【0014】
また、前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、ビニル基、エチニル基、アリール基、フェニルオキシ基、及び含フッ素アルコキシ基から選ばれた基であることが好ましい。
【0015】
また、前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基が、それぞれ互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、ビニル基、エチニル基、フェニル基、フェニルオキシ基、2,2−ジフルオロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,1−トリフルオロイソプロポキシ基、及び1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ基から選ばれた基であることが好ましい。
【0016】
また、既に述べたように、前記第2の化合物としては、一般式(3)又は一般式(4)で示される少なくとも一つの含フッ素アルコキシ基含有シロキサン化合物が特に好ましい。

[一般式(3)及び一般式(4)中、R、R10、R15は互いに独立して、フッ素原子を少なくとも一つ含有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基から選ばれた基を示し、これらの基は酸素原子を有していても良い。R11〜R14、R16はそれぞれ互いに独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基から選ばれた基を示し、これらの基はフッ素原子及び酸素原子を有していても良い。また、一般式(3)ではnは1〜10の整数を示し、一般式(4)ではnは3〜10の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR13、R14、R15又はR16は、それぞれお互い同一であっても、異なっていても良い。]
【0017】
これらアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基の炭素の数に特段の制限があるわけではないが、原料入手の容易性などを考慮すると通常1〜6であり、とりわけ炭素数が1〜3の基を好適に用いることができる。なお、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる。
アリール基、アリールオキシ基の「アリール」部位としては、無置換のフェニル基が、入手の容易性の観点から好適であるが、該フェニル基の任意の位置に「アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基(炭素数に制限はないが、典型的な炭素数は1〜6)」から選ばれた基が置換したものも用いることができる。
なお「これらの基がフッ素原子を有する場合」とは、具体的にはこれらの基におけるH原子がF原子に置換されたものを指す。
また「これらの基が酸素原子を有する場合」とは、具体的にはこれらの基の炭素原子の間に「−O−」(エーテル結合)が介在する基が挙げられる。
【0019】
また、前記非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン又はスルホキシド化合物、及びイオン液体からなる群から選ばれた少なくとも一つの非水溶媒であることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、少なくとも正極と、負極と、非水電解液電池用電解液とを備えた非水電解液電池において、非水電解液電池用電解液が上記に記載の非水電解液電池用電解液であることを特徴とする、非水電解液電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、ジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物が添加された非水電解液電池用電解液であっても、電解液調製後の遊離酸濃度を低減でき、該電解液を非水電解液電池に用いた非水電解液電池は、初期の電気容量の低下が抑制できるという効果を奏する。該構成を有する非水電解液電池は、このような初期特性の向上の他に、保存安定性(長時間経過後の容量の維持率)、低温特性等にも優れた傾向を示し、電池全体としてバランスのとれた優れた性能を発揮する。
また、シロキサン化合物として、特定の「含フッ素アルコキシ基含有シロキサン」を用いる場合、長時間経過後のシロキサン化合物の残存率にさらに顕著な改善が見られ、この結果、非水電解液の保存安定性は一層高まるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
本発明の非水電解液電池用電解液は、非水溶媒と溶質とを含む非水電解液電池用非水電解液において、第1の化合物としてジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物と、第2の化合物として上記一般式(1)又は一般式(2)で示される少なくとも一つのシロキサン化合物を電解液中に含有することを特徴とする、非水電解液電池用電解液である。
【0024】
上記一般式(1)または一般式(2)において、R〜Rで表されるアルキル基、アルコキシ基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル等の炭素原子数1〜12のアルキル基又はこれらの基から誘導されるアルコキシ基が挙げられる。アルケニル基及びアルケニルオキシ基としては、ビニル、アリル、1−プロペニル、イソプロペニル、2−ブテニル、1,3―ブダジエニル等の炭素原子数2〜8のアルケニル基またはこれらの基から誘導されるアルケニルオキシ基が挙げられる。アルキニル基及びアルキニルオキシ基としては、エチニル、2−プロピニル、1,1ジメチル−2−プロピニル等の炭素原子数2〜8のアルキニル基またはこれらの基から誘導されるアルキニルオキシ基が挙げられる。アリール基及びアリールオキシ基としては、フェニル、トリル、キシリル等の炭素原子数6〜12のアリール基またはこれらの基から誘導されるアリールオキシ基が挙げられる。また、上記の基はフッ素原子及び酸素原子を有していても良い。
【0025】
上記一般式(1)または一般式(2)で表されるシロキサン化合物としては、より具体的には、例えば以下の化合物No.1〜No.20等が挙げられる。但し、本発明で用いられるシロキサン化合物は、以下の例示により何ら制限を受けるものではない。
【0026】
化合物No.1
化合物No.2
化合物No.3
化合物No.4
化合物No.5
化合物No.6
化合物No.7
化合物No.8
化合物No.9
化合物No.10
化合物No.11
化合物No.12
化合物No.13
化合物No.14
化合物No.15
化合物No.16
化合物No.17
化合物No.18
化合物No.19
化合物No.20
【0027】
これらの例示から明らかなように、(1)のシロキサンの場合、合成上の便宜から、RとRが等しく、R、R、R、Rが全て等しい化合物の入手はより容易であることから、そのような対照構造のシロキサンは好ましい例である。但し、非対称のシロキサンであっても使用は制限されない。
【0028】
また、前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基は、ビニル基をはじめとするアルケニル基やエチニル基をはじめとするアルキニル基といった重合性の官能基を含まない基が好ましい。重合性の官能基を含む基であると、電極上に皮膜を形成した際の抵抗が比較的大きい傾向がある。前記一般式(1)のR〜Rで表された基、及び前記一般式(2)のR〜Rで表された基は、アルキル基であると前記の抵抗がより小さい傾向があるため好ましく、特にメチル基、エチル基及びプロピル基から選ばれた基であると、サイクル特性および低温特性に、より優れた非水電解液電池を得られるため好ましい。
【0029】
さらに、前述の通り、前記一般式(3)及び(4)で表される含フッ素アルコキシ基含有シロキサンを用いる場合、上述の電池特性の向上に加え、長時間経過後のシロキサン化合物の残存率に顕著な改善が見られることを、発明者らは見出した。この結果、非水電解液の保存安定性はさらに高まり、長時間充放電サイクルを行ったのちの容量維持率が一層高まる(内部抵抗の増大は抑制される)ことが判明した。電解液中のシロキサン化合物の保存安定性向上のメカニズムは明らかではないが、シロキサン化合物に電子吸引性基となるフッ素原子を含有するアルコキシ基を導入することで、ケイ素原子に挟まれた酸素原子上の電子が分散されLiPFなどの溶質との反応性が大幅に低減したことが一因と推定される。
【0030】
前記含フッ素アルコキシ基としては、上述の「アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基」(炭素数は通常1〜6)において、そのH原子の少なくとも1個がF原子に置き換わった基が挙げられる。全てのH原子がF原子に置き換わっていても良いが、その必要はなく、一部がF原子に置き換わった基も好適に採用される。そのような「含フッ素アルコキシ基」としては、2,2−ジフルオロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,1−トリフルオロイソプロポキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ基が挙げられ、特に2,2−ジフルオロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ基が好ましい。
【0031】
上記のような、一般式(3)及び(4)で表される含フッ素アルコキシ基含有シロキサンとしては、より具体的には、例えば以下の化合物No.16〜No.31等が挙げられる。
【0032】
化合物No.16
化合物No.17
化合物No.18
化合物No.19
化合物No.20
化合物No.21
化合物No.22
化合物No.23
化合物No.24
化合物No.25
化合物No.26
化合物No.27
化合物No.28
化合物No.29
化合物No.30
化合物No.31
【0033】
第1の化合物として使用されるジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムの化合物は、いずれも正極、及び負極上で分解することによりリチウムイオン伝導性の良い皮膜を正極、及び負極表面に形成する。この皮膜は、非水溶媒や溶質と活物質との間の直接の接触を抑制して非水溶媒や溶質の分解を防ぎ、電池性能の劣化を抑制する。しかし、これらの第1の化合物だけでは必ずしも十分に耐久性に優れた皮膜が形成されているとは言えない場合があり、該第1の化合物の副反応が起こり、非水電解液電池の初期の電気容量が低下する場合がある。また、第2の化合物として使用されるシロキサン化合物も正極、及び負極表面に安定な皮膜を形成し、電池の劣化を抑制する効果がある。本発明の非水電解液電池用電解液において、第1の化合物と第2の化合物を併用することにより、第1の化合物を単独で添加した場合に比べて初期の電気容量が向上するメカニズムの詳細は明らかでないが、第1の化合物と第2の化合物が共存することで、第1の化合物と第2の化合物の混合組成の良好な皮膜が形成されることにより、第1の化合物の副反応が抑制される、又は、第1の化合物によって形成された皮膜の表面を、第2の化合物によって形成された皮膜が覆うことにより、第1の化合物の副反応が抑制されるためと推測される。このように、第1の化合物と第2の化合物から形成された皮膜は、それぞれが単独で形成する皮膜に比べてリチウムイオン伝導性がよく、耐久性に優れ、その結果、それぞれ単独では達成できない電池のサイクル特性及び低温特性の向上が達成されると推測される。また電解液中に前記第2の化合物を含有することで、該電解液中の遊離酸濃度が低減される傾向があり、その結果、遊離酸の濃度が低減された電解液が得られるため好ましい。
【0034】
第1の化合物の添加量は、非水電解液の総量に対して0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、上限は5.0質量%以下、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。前記添加量が0.01質量%を下回ると該非水電解液を用いた非水電解液電池のサイクル特性を向上させ、且つ内部抵抗の上昇を抑制する効果が十分に得られ難いため好ましくない。一方、前記添加量が5.0質量%を超えると、皮膜形成に使われず余剰になった第1の化合物が皮膜形成反応以外の分解反応によりガスを発生し易く、電池の膨れや性能の劣化を引き起こし易いため好ましくない。これらの第1の化合物は、5.0質量%を超えない範囲であれば一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。
【0035】
第2の化合物の添加量は、非水電解液の総量に対して0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、上限は5.0質量%以下、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。前記添加量が0.01質量%を下回ると該非水電解液を用いた非水電解液電池の電気容量を向上させる効果が十分に得られ難いため好ましくない。一方、前記添加量が5.0質量%を超えると該非水電解液を用いた非水電解液電池の低温特性の劣化を引き起こし易いため好ましくない。これらの第2の化合物は、5.0質量%を超えない範囲であれば一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。
【0036】
本発明の非水電解液電池用電解液に用いる非水溶媒の種類は、特に限定されず、任意の非水溶媒を用いることができる。具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン等の環状エステル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン又はスルホキシド化合物等が挙げられ、また、非水溶媒とはカテゴリーが異なるがイオン液体等も挙げることができる。また、本発明に用いる非水溶媒は、一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。これらの中ではその酸化還元に対する電気化学的な安定性と熱や前記溶質との反応に関わる化学的安定性の観点から、特にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが好ましい。
【0037】
本発明の非水電解液電池用電解液に用いる前記溶質の種類は、特に限定されず、任意のフッ素を含有するリチウム塩等を用いることができる。具体例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(FSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(C、LiB(CF、LiBF(C)、LiPOなどに代表される電解質リチウム塩が挙げられる。これらの溶質は、一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。中でも、電池としてのエネルギー密度、出力特性、寿命等から考えると、LiPF、LiBF、LiN(CFSO、LiN(FSO、LiN(CSO、LiPOが好ましい。
これらのうちでも、商業的に大量に用いられているヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)は、本発明に用いる溶質として、特に好ましいものの1つである。
【0038】
これら溶質の濃度については、特に制限はないが、下限は0.5mol/L以上、好ましくは0.7mol/L以上、さらに好ましくは0.9mol/L以上であり、また、上限は2.5mol/L以下、好ましくは2.0mol/L以下、さらに好ましくは1.5mol/L以下の範囲である。0.5mol/Lを下回るとイオン伝導度が低下することにより非水電解液電池のサイクル特性、出力特性が低下する傾向があり、一方、2.5mol/Lを超えると非水電解液電池用電解液の粘度が上昇することにより、やはりイオン伝導度を低下させる傾向があり、非水電解液電池のサイクル特性、出力特性を低下させる恐れがある。
【0039】
一度に多量の該溶質を非水溶媒に溶解すると、溶質の溶解熱のため非水電解液の温度が上昇することがある。該液温が著しく上昇すると、フッ素を含有したリチウム塩の分解が促進されてフッ化水素が生成する恐れがある。フッ化水素は電池性能の劣化の原因となるため好ましくない。このため、該溶質を非水溶媒に溶解する際の非水電解液の温度は特に限定されないが、−20〜80℃が好ましく、0〜60℃がより好ましい。
【0040】
以上が本発明の非水電解液電池用電解液の基本的な構成についての説明であるが、本発明の要旨を損なわない限りにおいて、本発明の非水電解液電池用電解液に一般的に用いられる添加剤を任意の比率で添加しても良い。具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、t−ブチルベンゼン、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジフルオロアニソール、フルオロエチレンカーボネート、プロパンサルトン、ジメチルビニレンカーボネート等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果、正極保護効果を有する化合物が挙げられる。また、リチウムポリマー電池と呼ばれる非水電解液電池に使用される場合のように非水電解液電池用電解液をゲル化剤や架橋ポリマーにより擬固体化して使用することも可能である。
【0041】
次に本発明の非水電解液電池の構成について説明する。本発明の非水電解液電池は、上記の本発明の非水電解液電池用電解液を用いることが特徴であり、その他の構成部材には一般の非水電解液電池に使用されているものが用いられる。即ち、リチウムの吸蔵及び放出が可能な正極及び負極、集電体、セパレータ、容器等から成る。
【0042】
負極材料としては、特に限定されないが、リチウム金属、リチウムと他の金属との合金又は金属間化合物や種々のカーボン材料、人造黒鉛、天然黒鉛、金属酸化物、金属窒化物、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、活性炭、導電性ポリマー等が用いられる。
【0043】
正極材料としては、特に限定されないが、リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウム含有遷移金属複合酸化物、それらのリチウム含有遷移金属複合酸化物のCo、Mn、Ni等の遷移金属が複数混合したもの、それらのリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の一部が他の遷移金属以外の金属に置換されたもの、オリビンと呼ばれるLiFePO、LiCoPO、LiMnPO等の遷移金属のリン酸化合物、TiO、V、MoO等の酸化物、TiS、FeS等の硫化物、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、及びポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、カーボン材料等が使用される。
【0044】
正極や負極材料には、導電材としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、黒鉛、結着材としてポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、SBR樹脂等が加えられ、シート状に成型されることにより電極シートにすることができる。
【0045】
正極と負極の接触を防ぐためのセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、紙、及びガラス繊維等で作られた不織布や多孔質シートが使用される。
【0046】
以上の各要素からコイン形、円筒形、角形、アルミラミネートシート型等の形状の非水電解液電池が組み立てられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【0048】
[実施例1−1]
非水溶媒としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:2の混合溶媒を用い、該溶媒中に溶質としてLiPFを1.0mol/L、第1の化合物としてジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウムを0.01質量%、第2の化合物として前記化合物No.1を1質量%溶解し、表1に示すように非水電解液電池用電解液を調製した。なお、上記の調製は、電解液の温度を25℃に維持しながら行った。上記の調製1時間後の電解液中の遊離酸の濃度は54質量ppmであり、調製24時間後の電解液中の遊離酸の濃度は2質量ppmであった。なお、遊離酸の測定は滴定で行った。
【0049】
この電解液を用いてLiCoOを正極材料、黒鉛を負極材料としてセルを作成し、実際に電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を評価した。試験用セルは以下のように作成した。
【0050】
LiCoO粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、ペースト状にした。このペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより、試験用正極体とした。また、黒鉛粉末90質量%に、バインダーとして10質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、スラリー状にした。このスラリーを銅箔上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。そして、ポリエチレン製セパレータに電解液を浸み込ませてアルミラミネート外装の50mAhセルを組み立てた。
【0051】
[初期の電気容量]
作成したセルを用い、電流密度0.35mA/cmで4.2Vまで充電した後に、電流密度0.35mA/cmで3.0Vまで放電を行い、このときの初放電容量を初期の電気容量とした。尚、測定は25℃の環境温度で行った。
【0052】
[高温サイクル特性]
上記のセルを用いて、60℃の環境温度での充放電試験を実施し、サイクル特性を評価した。充電、放電ともに電流密度0.35mA/cmで行い、充電は、4.2Vに達した後、1時間4.2Vを維持、放電は、3.0Vまで行い、充放電サイクルを繰り返した。そして、500サイクル後の放電容量維持率でセルの劣化の具合を評価した(サイクル特性評価)。放電容量維持率は下記式で求めた。結果を表2に示す。
<500サイクル後の放電容量維持率>
放電容量維持率(%)=(500サイクル後の放電容量/初放電容量)×100
【0053】
[内部抵抗特性(25℃)]
サイクル試験後のセルを25℃の環境温度で、電流密度0.35mA/cmで4.2Vまで充電した後に、電池の内部抵抗を測定した。
【0054】
[低温特性評価]
−20℃の環境温度でのセルの放電容量と内部抵抗を測定した。セルの充放電は電流密度0.35mA/cm、充電終止電圧は4.2V、放電終止電圧は3.0Vとした。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
[実施例1−2〜1−37]
前記実施例1−1において、第1の化合物及び第2の化合物の種類、添加量をそれぞれ変えて非水電解液電池用電解液を調製した。この非水電解液を用いて実施例1−1と同様にセルを作成し、電池評価を行った。非水電解液の調製条件、調製1時間後及び24時間後の電解液中の遊離酸の濃度を表1に示し、該電解液を用いた電池の評価結果を表2に示す。なお、参考例1−15、1−16では、サイクル試験後のラミネートセルの膨れが、実施例1−1〜1−13のセルに比べて大きく、電池内部でのガス発生量が比較的多いことが確認された。参考例1−15、1−16のセルの電池特性は、比較例1−1のセルに比べて優れていたが、ガス発生の影響のため、実施例1−1〜1−13のセルほどの電池性能は得られなかった。
【0058】
[比較例1−1〜1−6]
比較例1−1〜1−3の電解液は、第2の化合物は添加せず、第1の化合物であるジフルオロ(ビス(オキサラト))リン酸リチウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム、またはジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを1質量%溶解すること以外は、前記実施例1−1と同様に調製した。比較例1−4〜1−5の電解液は、第1の化合物は添加せず、第2の化合物として前記の化合物No.1または化合物No.2を2質量%溶解すること以外は、前記実施例1−1と同様に調製した。比較例1−6の電解液は、第1の化合物及び第2の化合物ともに添加せずに、それ以外は、前記実施例1−1と同様に調製した。非水電解液の調製条件、調製1時間後及び24時間後の電解液中の遊離酸の濃度を表1に示し、該電解液を用いた電池の評価結果を表2に示す。
【0059】
以上の結果を比較すると、第1の化合物を添加した電解液であっても、第2の化合物をさらに添加して、それぞれを併用した電解液であると、電解液調製後の遊離酸の濃度が顕著に抑制できることが確認できる。
「初期の充放電容量」「500サイクル後の容量維持率」「25℃における内部抵抗値」「−20℃における低温特性(放電容量、内部抵抗)」についても、「第1の化合物と第2の化合物を併用した電解液」の方が優れた傾向を示しており、本発明の構成を充足する電解液によって、バランスのとれた優れた非水電解液電池が得られることが示された。
【0060】
[実施例1−38〜1−43、比較例1−7〜1−10]
実施例1−1で用いた負極体を変更し、非水電解液電池用電解液として、非水電解液No.1−8、1−20、1−32、1−38または1−42を用いて、実施例1−1と同様に、電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を評価した。なお、負極活物質がLiTi12である実施例1−38〜1−40、及び比較例1−7〜1−8において、負極体は、LiTi12粉末90質量%に、バインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電剤としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、得られたペーストを銅箔上に塗布して、乾燥させることにより作製し、電池評価の際の充電終止電圧を2.7V、放電終止電圧を1.5Vとした。また、負極活物質がケイ素(単体)である実施例1−41〜1−43、及び比較例1−9〜1−10において、負極体は、ケイ素粉末80質量%に、バインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを15質量%混合しさらにN−メチルピロリドンを添加し、得られたペーストを銅箔上に塗布して、乾燥させることにより作製し、電池評価の際の充電終止電圧と放電終止電圧は実施例1−1と同様とした。上記の電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
[実施例2−1〜2−9、比較例2−1〜2−6]
実施例1−1で用いた正極体と負極体を変更し、非水電解液電池用電解液として、非水電解液No.1−8、1−20、1−32、1−38または1−42を用いて、実施例1−1と同様に、電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を評価した。なお、正極活物質がLiNi1/3Co1/3Mn1/3である正極体は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、得られたペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより作製した。実施例1−1と同様に負極活物質が黒鉛である実施例2−1〜2−3、及び比較例2−1〜2−2において、電池評価の際の充電終止電圧を4.3V、放電終止電圧を3.0Vとした。実施例1−38と同様に負極活物質がLiTi12である実施例2−4〜2−6、及び比較例2−3〜2−4において、電池評価の際の充電終止電圧を2.8V、放電終止電圧を1.5Vとした。実施例1−41と同様に負極活物質がケイ素(単体)である実施例2−7〜2−9、及び比較例2−5〜2−6において、電池評価の際の充電終止電圧を4.3V、放電終止電圧を3.0Vとした。上記の電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を表3に示す。
【0063】
[実施例3−1〜3−6、比較例3−1〜3−4]
実施例1−1で用いた正極体と負極体を変更し、非水電解液電池用電解液として、非水電解液No.1−8、1−20、1−32、1−38または1−42を用いて、実施例1−1と同様に、電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を評価した。なお、正極活物質がLiMn1.95Al0.05である正極体は、LiMn1.95Al0.05粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、得られたペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより作製した。実施例1−1と同様に負極活物質が黒鉛である実施例3−1〜3−3、及び比較例3−1〜3−2において、電池評価の際の充電終止電圧と放電終止電圧は実施例1−1と同様とした。実施例1−38と同様に負極活物質がLiTi12である実施例3−4〜3−6、及び比較例3−3〜3−4において、電池評価の際の充電終止電圧を2.7V、放電終止電圧を1.5Vとした。上記の電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を表3に示す。
【0064】
[実施例4−1〜4−3、比較例4−1〜4−2]
実施例1−1で用いた正極体を変更し、非水電解液電池用電解液として、非水電解液No.1−8、1−20、1−32、1−38または1−42を用いて、実施例1−1と同様に、電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を評価した。なお、正極活物質がLiFePOである正極体は、非晶質炭素で被覆されたLiFePO粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、得られたペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより作製し、電池評価の際の充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.0Vとした。上記の電池の初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性を表3に示す。
【0065】
上記のように、正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn1.95Al0.05、LiFePOを用いたいずれの実施例においても、本発明の非水電解液電池用電解液を用いたラミネートセルの初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性は、それぞれの対応する比較例に比べて、全般的に優れた傾向を示していることが確認された。したがって、本発明の非水電解液電池用電解液を用いることで、正極活物質の種類によらず、優れた初期の電気容量を与え、サイクル特性、内部抵抗特性、低温特性等の物性面でも優れた非水電解液電池を得られることが示された。
【0066】
また、上記のように、負極活物質として、LiTi12、ケイ素(単体)を用いたいずれの実施例においても、本発明の非水電解液電池用電解液を用いたラミネートセルの初期の電気容量、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性は、それぞれの対応する比較例に比べて全般的に優れていることが確認された。したがって、本発明の非水電解液電池用電解液を用いることで、負極活物質の種類によらず、優れた初期の電気容量を与え、サイクル特性、内部抵抗特性及び低温特性等の物性面でも優れた非水電解液電池を得られることが示された。
【0067】
[実施例1−44、1−45]
第2の化合物として前記化合物No.16、No.17をそれぞれ用いた以外は実施例1−6と同様に、非水電解液電池用電解液を調製し、セルを作製し、電池評価を行った。非水電解液の調製条件、調製1時間後及び24時間後の電解液中の遊離酸の濃度を表4に示し、該電解液を用いた電池の評価結果を表5に示す。
【0068】
[実施例1−46〜1−48]
第2の化合物として前記化合物No.18〜No.20をそれぞれ用いた以外は実施例1−7と同様に、非水電解液電池用電解液を調製し、セルを作製し、電池評価を行った。非水電解液の調製条件、調製1時間後及び24時間後の電解液中の遊離酸の濃度を表4に示し、該電解液を用いた電池の評価結果を表5に示す。
【0069】
[比較例1−11、1−12]
比較例1−11、1−12の電解液は、第1の化合物は添加せず、第2の化合物として前記の化合物No.16または化合物No.17を0.5質量%溶解すること以外は、それぞれ、前記実施例1−44、1−45と同様に調製した。非水電解液の調製条件、調製1時間後及び24時間後の電解液中の遊離酸の濃度を表4に示し、該電解液を用いた電池の評価結果を表5に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
[実施例10−26]
表6に、非水電解液の調製条件及び電解液の保存安定性評価結果を示し、表7に、該電解液を用いた電池の評価結果を示す。なお、表7中の電池のサイクル特性、内部抵抗特性のそれぞれの値は、調製後1ヶ月静置前の電解液No.10−37を用いて作製したラミネートセルの初期の電気容量と内部抵抗の評価結果をそれぞれ100としたときの相対値である。
非水溶媒としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:2の混合溶媒を用い、該溶媒中に溶質としてLiPFを1.0mol/L、第1の化合物としてジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを1質量%、第2の化合物として前記含フッ素アルコキシ基含有シロキサンNo.16を1質量%溶解し、非水電解液電池用電解液を調製した。なお、上記の調製は、電解液の温度を20〜30℃の範囲に維持しながら行った。
【0073】
[電解液の保存安定性評価]
調製した電解液をアルゴン雰囲気下において25℃にて1か月間静置し、電解液中の前記第2の化合物(含フッ素アルコキシ基含有シロキサンNo.16)の残存量を測定した。残存量の測定にはH NMR、19F NMR法を用いた。
【0074】
[電解液の電気化学特性評価]
調製後1か月静置前の電解液と調製後1か月静置後の電解液を用いてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を正極材料、黒鉛を負極材料としてセルを作成し、実際に電池のサイクル特性、内部抵抗特性を評価した。試験用セルは以下のように作成した。
【0075】
LiNi1/3Mn1/3Co1/3粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、ペースト状にした。このペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより、試験用正極体とした。また、黒鉛粉末90質量%に、バインダーとして10質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加し、スラリー状にした。このスラリーを銅箔上に塗布して、120℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。そして、ポリエチレン製セパレータに電解液を浸み込ませてアルミラミネート外装の50mAhセルを組み立てた。
【0076】
[高温サイクル特性]
上記のセルを用いて、60℃の環境温度での充放電試験を実施し、サイクル特性を評価した。充電、放電ともに電流密度0.35mA/cmで行い、充電は、4.3Vに達した後、1時間4.3Vを維持、放電は、3.0Vまで行い、充放電サイクルを繰り返した。そして、500サイクル後の放電容量維持率でセルの劣化の具合を評価した(サイクル特性評価)。放電容量維持率は下記式で求めた。
<500サイクル後の放電容量維持率>
放電容量維持率(%)=(500サイクル後の放電容量/初放電容量)×100
【0077】
[内部抵抗特性(25℃)]
サイクル試験後のセルを25℃の環境温度で、電流密度0.35mA/cmで4.2Vまで充電した後に、電池の内部抵抗を測定した。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
[実施例10−27〜10−36]
表6に、非水電解液の調製条件及び電解液の保存安定性評価結果を示し、表7に、該電解液を用いた電池の評価結果を示す。
前記実施例10−26において、第1の化合物及び第2の化合物の種類、添加量をそれぞれ変えて非水電解液電池用電解液を調製した。この非水電解液を用いて実施例10−26と同様にセルを作成し、電池評価を行った。
【0081】
[比較例10−1、10−2、参考例10−3〜10−6]
表6に、非水電解液の調製条件及び電解液の保存安定性評価結果を示し、表7に、該電解液を用いた電池の評価結果を示す。
比較例10−1の電解液は、第1の化合物及び第2の化合物ともに添加せずに、それ以外は、前記実施例10−26と同様に調製した。比較例10−2の電解液は、第2の化合物は添加せず、第1の化合物であるジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを1質量%溶解すること以外は、前記実施例10−26と同様に調製した。参考例10−3〜10−6の電解液は、第2の化合物としてシロキサン化合物No.1、No.2又は下記のフッ素原子を含まないアルコキシ基含有シロキサンNo.32をそれぞれ0.5質量%又は1質量%添加すること以外は、前記実施例10−26と同様に調製した。
化合物No.32
【0082】
以上の結果を比較すると、第2の化合物として含フッ素アルコキシ基含有シロキサンを用いた場合、1か月静置後の第2の化合物(含フッ素アルコキシ基含有シロキサン)の残存量は90%以上を示し、含フッ素アルコキシ基を含まないシロキサン化合物に比べ電解液中での高い保存安定性を示した。
調製後1か月静置前の電解液を用いた電池評価結果では、含フッ素アルコキシ基含有シロキサンは含フッ素アルコキシ基を含まないシロキサン化合物と同等以上の優れたサイクル特性、内部抵抗特性を示した。また、調製後1か月静置前の電解液と1か月静置後の電解液を用いた電池特性を比較すると、含フッ素アルコキシ基を含まないシロキサン化合物を用いた場合では電池特性が比較的大きく変化し、含フッ素アルコキシ基を含有するシロキサン化合物を用いた場合ではほぼ違いは見られない傾向が示された。従って、第2の化合物として含フッ素アルコキシ基含有シロキサンを用いることで、調製後1か月静置後においてもバランスのとれた優れた非水電解液電池が得られることが示された。