特許第6221419号(P6221419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221419工作機械の温度測定位置決定方法およびそのための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221419
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】工作機械の温度測定位置決定方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20171023BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   B23Q15/18
   G05B19/404 K
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-137978(P2013-137978)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-9339(P2015-9339A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 康匡
(72)【発明者】
【氏名】岩井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−167966(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157687(WO,A1)
【文献】 特開2006−065716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416;19/42−19/46
B23Q 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械本体の構造体の所定位置に配置された温度センサからの温度情報に基づいて前記機械本体の構造体の熱変位を推定する熱変位推定処理を用いて、工作物の加工中に発生する前記機械本体の構造体の熱変位を補正する機能を有する工作機械に適用され、
前記所定位置を決定する温度測定位置決定方法は、
前記機械本体の構造体に基づいて作成される第一モデルに少なくとも一つの温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、前記機械本体の構造体の第一熱変位量を推定する第一構造解析工程と、
前記第一モデルを複数のブロックに分割した第二モデルを作成し、前記複数のブロックのうち一部のブロックの温度を所定温度にて均一化し、その他のブロックに前記温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、前記機械本体の構造体の第二熱変位量を推定する第二構造解析工程と、
少なくとも一つの前記機械本体の構造体の基準節点における前記第一熱変位量と前記第二熱変位量との差に基づいて、前記所定位置を決定する指標とする温度を求める最適温度演算工程と、
前記第一モデルにおける前記第二モデルの一部のブロックに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、前記最適温度演算工程によって求められた前記指標とする温度とに基づいて、前記複数の節点の位置から前記所定位置を選定する最適位置演算工程と、を備える工作機械の温度測定位置決定方法。
【請求項2】
前記第二構造解析工程は、複数の前記一部のブロックについて前記一部のブロック毎に前記第二熱変位量の推定を行うことにより、複数の前記第二熱変位量を取得し、
前記最適温度演算工程は、第一評価関数に基づいて、各々の前記一部のブロック毎に前記指標とする温度を求め、
前記第一評価関数は、前記基準節点における前記第一熱変位量と、各々の前記一部のブロックの温度を前記所定温度にて均一化した場合に得られる前記基準節点における各々の前記複数の第二熱変位量との差のすべての総和値とし、
前記最適位置演算工程は、各々の前記一部のブロックについて前記所定位置を選定する、請求項1の工作機械の温度測定位置決定方法。
【請求項3】
前記基準節点は、複数の基準節点であり、
前記最適温度演算工程は、第二評価関数に基づいて前記指標とする温度を求め、
前記第二評価関数は、各々の基準節点における前記第一熱変位量と、前記一部のブロックの温度を前記所定温度にて均一化した場合に得られる前記各々の基準節点における前記第二熱変位量との差のすべての総和値とする、請求項2の工作機械の温度測定位置決定方法。
【請求項4】
前記第一構造解析工程および前記第二構造解析工程は、前記第一熱変位量および前記第二熱変位量の推定を、異なる複数の温度分布毎に行い、
前記最適温度演算工程は、第三評価関数に基づいて前記指標とする温度を求め、
前記第三評価関数は、前記第一モデルを各々の温度分布とした場合において前記基準節点における前記第一熱変位量と、前記第二モデルの前記一部のブロックの温度を前記所定温度にて均一化した場合において、前記その他のブロックの温度を前記各々の温度分布とした場合に得られる前記基準節点における前記第二熱変位量との差のすべての総和値とする、請求項2または3の工作機械の温度測定位置決定方法。
【請求項5】
機械本体の構造体の所定位置に配置された温度センサからの温度情報に基づいて前記機械本体の構造体の熱変位を推定する熱変位推定処理を用いて、工作物の加工中に発生する前記機械本体の構造体の熱変位を補正する機能を有する工作機械に適用され、
前記所定位置を決定する温度測定位置決定装置は、
前記機械本体の構造体に基づいて作成される第一モデルに少なくとも一つの温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、前記機械本体の構造体の第一熱変位量を推定する第一構造解析部と、
前記第一モデルを複数のブロックに分割した第二モデルを作成し、前記複数のブロックのうち一部のブロックの温度を所定温度にて均一化し、その他のブロックに前記温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、前記機械本体の構造体の第二熱変位量を推定する第二構造解析部と、
少なくとも一つの前記機械本体の構造体の基準節点における前記第一熱変位量と前記第二熱変位量との差に基づいて、前記所定位置を決定する指標とする温度を求める最適温度演算部と、
前記第一モデルにおける前記第二モデルの一部のブロックに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、前記最適温度演算によって求められた前記指標とする温度とに基づいて、前記複数の節点の位置から前記所定位置を選定する最適位置演算部と、を備える工作機械の温度測定位置決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に使用される温度測定位置決定方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1および特許文献2には、温度センサにより検出される温度情報に基づいて機械本体の構造体の熱変位を推定し、加工点における熱変位を補正する工作機械において、温度センサを配置する温度測定位置の決定方法が記載されている。これらの工作機械の温度測定位置決定方法は、実機に対し、温度測定位置の候補となる複数の位置に温度センサを配置し、最適な温度測定位置を選定する。
また、特許文献1の温度測定位置を決定する方法は、補正係数を乗じた幾何計算を組み合わせて定められる関係式により熱変位の推定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−167966号公報
【特許文献2】特開2011−131371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実機に配置できる温度センサの数は制限されるため、温度センサを配置した温度測定位置の候補とした位置が最適な温度測定位置でない可能性がある。また、特許文献1に記載されている関係式は、幾何計算の組み合わせであるため、構造体の形状が複雑な場合は、推定された熱変位の精度が低くなる可能性がある。よって、最適な温度測定位置が選定されないおそれがある。最適な温度測定位置で温度測定ができない場合は、熱変位の補正精度に影響を及ぼす。
【0005】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、有限要素法による構造解析によって求められた熱変位に基づいて温度測定位置を決定することにより、より精度よく加工点の熱変位を推定できる温度測定位置を決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本手段に係る工作機械の温度測定位置決定方法は、機械本体の構造体の所定位置に配置された温度センサからの温度情報に基づいて機械本体の構造体の熱変位を推定する熱変位推定処理を用いて、工作物の加工中に発生する機械本体の構造体の熱変位を補正する機能を有する工作機械に適用され、所定位置を決定する温度測定位置決定方法は、機械本体の構造体に基づいて作成される第一モデルに少なくとも一つの温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体の構造体の第一熱変位量を推定する第一構造解析工程と、第一モデルを複数のブロックに分割した第二モデルを作成し、複数のブロックのうち一部のブロックの温度を所定温度にて均一化し、その他のブロックに前記温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体の構造体の第二熱変位量を推定する第二構造解析工程と、少なくとも一つの機械本体の構造体の基準節点における第一熱変位量と第二熱変位量との差に基づいて、所定位置を決定する指標とする温度を求める最適温度演算工程と、第一モデルにおける第二モデルの一部のブロックに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、最適温度演算工程によって求められた指標とする温度とに基づいて、複数の節点の位置から所定位置を選定する最適位置演算工程と、を備えている。
【0007】
すなわち、温度測定位置の候補は、有限要素法による構造解析の際に形成される節点とすることができるため、実機に温度センサを配置する場合に比べ、温度測定位置の候補の数を多く設定することができる。また、幾何計算の組み合わせではなく、有限要素法による構造解析により推定された熱変位に基づいて温度測定位置を決定している。これらにより、より精度よく加工点の熱変位を推定できる温度測定位置を決定することができる。また、コンピュータのソフトウエアによる演算のみによっても温度測定位置を決定することができるため、機械本体の構造体の形状に変更があった場合や、機械本体の構造体の形状が異なるモデルについても、個別に実機を用意することなく、容易に温度測定位置を決定することができる。
【0008】
(請求項2)好ましくは、第二構造解析工程は、複数の一部のブロックについて一部のブロック毎に第二熱変位量の推定を行うことにより、複数の第二熱変位量を取得し、最適温度演算工程は、第一評価関数に基づいて、各々の一部のブロック毎に指標とする温度を求め、第一評価関数は、基準節点における第一熱変位量と、各々の一部のブロックの温度を所定温度にて均一化した場合に得られる基準節点における各々の複数の第二熱変位量との差のすべての総和値とし、最適位置演算工程は、各々の一部のブロックについて所定位置を選定する。
すなわち、複数の温度測定位置を決定することにより、構造体の温度分布をより細かく把握することができるため、より精度よく加工点の熱変位を推定できる。
【0009】
(請求項3)また、基準節点は、複数の基準節点であり、最適温度演算工程は、第二評価関数に基づいて指標とする温度を求め、第二評価関数は、各々の基準節点における第一熱変位量と、一部のブロックの温度を所定温度にて均一化した場合に得られる各々の基準節点における第二熱変位量との差のすべての総和値とする。
【0010】
すなわち、複数の基準節点の変位量に基づいて温度測定位置を決定することにより、より精度よく構造体の熱変位を把握できるため、より精度よく加工点の熱変位を推定できる。
【0011】
(請求項4)また、第一構造解析工程および第二構造解析工程は、第一熱変位量および第二熱変位量の推定を、異なる複数の温度分布毎に行い、最適温度演算工程は、第三評価関数に基づいて指標とする温度を求め、第三評価関数は、第一モデルを各々の温度分布とした場合において基準節点における第一熱変位量と、第二モデルの一部のブロックの温度を所定温度にて均一化した場合において、その他のブロックの温度を各々の温度分布とした場合に得られる基準節点における各々の第二熱変位量との差のすべての総和値とする。
【0012】
すなわち、複数の温度分布に基づいて温度測定位置を決定することにより、環境の変化によって機械本体の周囲の温度が変化した場合や回転主軸等の構造体の温度が変化した場合においても、より精度よく加工点の熱変位を推定できる。
【0013】
(請求項5)また、工作機械の温度測定位置決定装置は、機械本体の構造体の所定位置に配置された温度センサからの温度情報に基づいて機械本体の構造体の熱変位を推定する熱変位推定処理を用いて、工作物の加工中に発生する機械本体の構造体の熱変位を補正する機能を有する工作機械に適用され、所定位置を決定する温度測定位置決定装置は、機械本体の構造体に基づいて作成される第一モデルに少なくとも一つの温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体の構造体の第一熱変位量を推定する第一構造解析部と、第一モデルを複数のブロックに分割した第二モデルを作成し、複数のブロックのうち一部のブロックの温度を所定温度にて均一化し、その他のブロックに前記温度分布を与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体の構造体の第二熱変位量を推定する第二構造解析部と、少なくとも一つの機械本体の構造体の基準節点における第一熱変位量と第二熱変位量との差に基づいて、所定位置を決定する指標とする温度を求める最適温度演算部と、第一モデルにおける第二モデルの一部のブロックに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、最適温度演算によって求められた指標とする温度とに基づいて、複数の節点の位置から所定位置を選定する最適位置演算部と、を備える。
【0014】
本手段に係る工作機械の温度測定位置決定装置によれば、上述した工作機械の温度測定位置決定方法における効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る工作機械の全体構成を示す斜視図である。
図2】第一実施形態の熱変位補正装置を示す図である。
図3】熱変位補正装置の動作を示すフローチャートである。
図4】コラムに対して有限要素法による構造解析を行う場合の第一モデルを示す斜視図である。
図5】コラムに対して有限要素法による構造解析を行う場合の第二モデルを示す斜視図である。
図6】温度測定位置決定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した第一実施形態について説明する。本発明が適用される工作機械の一例として、横型マシニングセンタを例に挙げ、図1を参照して説明する。工作機械は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)および鉛直方向の回転軸(B軸)を有する工作機械である。
【0017】
図1に示すように、工作機械における機械本体1は、ベッド10、コラム20、サドル30、回転主軸40、テーブル50、ターンテーブル60、温度センサ70、制御装置80および熱変位補正装置90から構成される。工作機械は、機械本体1の構造体の所定位置Pに配置された温度センサ70からの温度情報に基づいて機械本体1の構造体の熱変位を推定する熱変位推定処理を用いて、工作物Wの加工中に発生する機械本体1の構造体の熱変位を補正する機能を有するものである。
【0018】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、コラム20が摺動可能な一対のX軸ガイドレール11a,11bが、X軸方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のX軸ガイドレール11a,11bの間に、コラム20をX軸方向に駆動するための、図略のX軸ボールねじが配置され、このX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11cが配置されている。
【0019】
さらに、ベッド10の上面には、テーブル50が摺動可能な一対のZ軸ガイドレール12a,12bがX軸方向と直交するZ軸方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のZ軸ガイドレール12a,12bの間に、テーブル50をZ軸方向に駆動するための、図略のZ軸ボールねじが配置され、このZ軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12cが配置されている。
【0020】
コラム20の底面(X軸摺動面)には、一対のX軸ガイド溝21a,21bがX軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。コラム20は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能なように、一対のX軸ガイド溝21a,21bが一対のX軸ガイドレール11a,11b上にボールガイド22a,22bを介して嵌め込まれ、コラム20の底面がベッド10の上面に密接されている。
【0021】
さらに、コラム20のX軸に平行な側面(Y軸摺動面)20aには、サドル30が摺動可能な一対のY軸ガイドレール23a,23bがY軸方向(鉛直方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、コラム20には、一対のY軸ガイドレール23a,23bの間に、サドル30をY軸方向に駆動するための、図略のY軸ボールねじが配置され、このY軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ23cが配置されている。
【0022】
コラム20のY軸摺動面20aに対向するサドル30の側面30aには、一対のY軸ガイド溝31a,31bがY軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。サドル30は、コラム20に対してY軸方向に移動可能なように、一対のY軸ガイド溝31a,31bが一対のY軸ガイドレール23a,23bに嵌め込まれ、サドル30の側面30aがコラム20のY軸摺動面20aに密接されている。
【0023】
回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41により回転可能に設けられ、工具42を支持している。工具42は、回転主軸40の先端に固定され、回転主軸40の回転に伴って回転する。また、工具42は、コラム20およびサドル30の移動に伴ってベッド10に対してX軸方向およびY軸方向に移動する。なお、工具42としては、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップ等である。
【0024】
テーブル50は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能なように、一対のZ軸ガイドレール12a,12b上に設けられている。テーブル50の上面には、ターンテーブル60が鉛直方向のB軸回りで回転可能に支持されている。ターンテーブル60は、ベッド10内に収容されたB軸モータ61により回転可能に設けられ、工作物Wを磁気吸着等により固定している。
【0025】
温度センサ70は、機械本体1の各構造体、すなわちベッド10、コラム20、サドル30、回転主軸40、テーブル50およびターンテーブル60における、後述する本発明の温度測定位置決定装置100によって決定される所定位置Pに取付けられている。この温度センサ70としては、例えば、熱電対やサーミスタが用いられる。この温度センサ70により検出される温度情報は、機械本体1の各構造体の構造解析に用いる。
【0026】
制御装置80は、主軸モータ41を制御して、工具42を回転させ、X軸モータ11c、Z軸モータ12c、Y軸モータ23c、およびB軸モータ61を制御して、工作物Wと工具42とをX軸方向、Z軸方向、Y軸方向およびB軸回りに相対移動することにより、工作物Wの加工を行う。また、制御装置80は、ベッド10やコラム20などの構造体の熱変位に伴って生じる工作物Wと工具42との相対位置のずれを解消するために、熱変位補正を行う熱変位補正装置90を備えている。ただし、熱変位補正装置90は、制御装置80の内部に備えるものに限られず、外部装置として適用することもできる。
【0027】
次に、熱変位補正装置90について、図2を参照して説明する。第一実施形態においては、機械本体1の構造体の一つであるコラム20の熱変位に伴う熱変位補正を行う場合について説明する。なお、コラム20の他に、ベッド10などの他の構造体にも同様に適用できる。熱変位補正装置90は、FEM解析部91、補正値演算部92、補正部93を備えて構成される。ここで、FEM解析部91、補正値演算部92および補正部93は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0028】
FEM解析部91は、コラム20について有限要素法による構造解析(特許請求の範囲に記載の熱変位推定処理)を行い、コラム20のY軸摺動面20aの熱変位量を推定する。この構造解析の条件として、材料定数、各節点における温度情報、拘束条件、支持部におけるばね要素が必要となる。ここで、構造解析の条件のうち各節点における温度情報のみ変化するものであって、他の条件は既知である。そして、各節点における温度情報は、温度センサ70により検出される温度情報を用いる。例えば、予めコラム20の温度勾配を把握しておくことで、温度センサ70により検出された温度情報に基づいて、各節点の温度を算出できる。
【0029】
補正値演算部92は、FEM解析部91にて得られるコラム20のY軸摺動面20aの熱変位量に基づいて加工指令位置に対する補正値を求める。補正部93は、補正値演算部92にて得られる補正値により加工指令位置を補正する。
【0030】
ここで、加工指令位置とは、加工や計測などを行うためのNCプログラムによって指令される機械本体1の移動体の位置指令値である。例えば、加工指令位置および補正値は、工作物Wに対する回転主軸40の先端位置の指令値、すなわち工作物Wに対する工具42の先端位置の指令値である。また、加工指令位置は、各軸モータに対する指令位置として捉えることもできる。この加工指令位置は、第一実施形態の工作機械においては、X軸,Y軸,Z軸,B軸座標にて表される。なお、補正値は、X軸,Y軸,Z軸に対する補正を行うため、X軸,Y軸,Z軸座標として表す。
【0031】
次に、熱変位補正装置90による処理について、図3を参照して説明する。この熱変位補正装置90による処理は、機械本体1に電源が投入された後に行われる。例えば、工作物Wの加工中、タッチプローブ(図示せず)などによる工作物Wの計測時において、熱変位補正処理が行われる。
【0032】
図3に示すように、機械本体1の電源が投入されると(ステップST1)、FEM解析部91にて、温度センサ70からコラム20の温度情報を入力し(ステップST2)、有限要素法による構造解析を実行する(ステップST3)。そして、FEM解析部91は、得られたコラム20のY軸摺動面20aの熱変位量の推定値を記憶する(ステップST4)。続いて、補正値演算部92にて、Y軸摺動面20aの熱変位量の推定値に基づいて、回転主軸40の先端の指令位置に対する補正値を演算する(ステップST5)。例えば、現在のサドル30のY軸位置と、当該Y軸位置に対応するY軸摺動面20aの熱変位量の推定値とに基づいて、回転主軸40の先端位置の熱変位量を算出する。このようにして算出された回転主軸40の先端位置の熱変位量が、回転主軸40の先端の指令位置に対する補正値となる。
【0033】
そして、演算した補正値により回転主軸40の先端の指令位置を補正する(ステップST6)。つまり、補正値により制御装置80が出力する指令位置を補正指令位置に補正する。そして、制御装置80により熱変位補正を実行し(ステップST7)、機械本体1の電源が切断されるまで継続する(ステップST8)。すなわち、機械本体1の電源が切断されていなければ、ステップST2に戻って上述の処理を繰り返し、機械本体1の電源が切断された場合に熱変位補正プログラムを終了する。
【0034】
次に、温度測定位置決定装置100について説明する。温度測定位置決定装置100は、上述した工作機械に適用されるものであり、温度センサ70を配置する所定位置Pを決定するものである。
【0035】
温度測定位置決定装置100は、例えば汎用のパーソナルコンピュータが用いられ、所定位置Pを決定するためのソフトウエアを実行する。本実施形態においては、コラム20における温度センサ70を配置する所定位置Pを1つ決定する場合について説明する。なお、コラム20の他に、ベッド10などの他の構造体にも同様に適用できる。
【0036】
温度測定位置決定装置100は、第一構造解析部110、第二構造解析部120、最適温度演算部130および最適位置演算部140を備えている。ここで、第一構造解析部110と、第二構造解析部120と、最適温度演算部130と、最適位置演算部140は、ソフトウエアにより構成することもできるし、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできる。
【0037】
第一構造解析部110は、機械本体1の構造体に基づいて作成される第一モデルM1に少なくとも一つの温度分布Dを与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体1の構造体の第一熱変位量αを推定する。
【0038】
第一モデルM1は、機械本体1の構造体に基づいて作成され、有限要素法による構造解析を行うために形成されるモデルである。本実施形態においては、コラム20の形状に基づいて、第一モデルM1を作成する。図4に示すように、第一モデルM1は、太線L1がコラム20の形状線を表している。また、細線L2が有限要素法による構造解析における要素の境界線を表し、各細線L2の頂点を節点とする。つまり、図4において、各要素は、四面体一次要素としている。なお、各要素の形状は、四面体一次要素に限らず、四面体二次要素、六面体一次要素などを適用することもできる。
【0039】
温度分布Dは、第一モデルM1を熱解析することにより求められる。具体的には、温度分布Dは、熱伝導率等のコラム20を構成する材料固有の物性値の他、境界条件Kに基づいて、有限要素法による熱伝導解析により求められる。
【0040】
例えば、第一境界条件K1としては、機械本体1の周囲の温度が20℃の場合であって、回転主軸40を所定回転数にて回転させた後に、回転主軸40の温度が安定したときのコラム20の表面における温度を設定する。そして、第一境界条件K1に基づいて第一モデルM1を熱伝導解析することにより、第一温度分布D1が求められる。
【0041】
第一構造解析部110が推定する第一熱変位量αは、式(1)により表される有限要素法による構造解析の基本式と、式(2)により表される節点温度に応じた節点力の関係式とから導かれる式(3)により求められる。ここで、{α}は、各節点における第一熱変位量αを表す熱変位量ベクトルである。[K]は剛性マトリックスであり、[F]は節点力マトリックスであり、[K]および[F]は、コラム20の材料定数およびコラム20の形状により得られる既知の値である。また、{Tα}は、温度分布Dにより得られる各節点の温度ベクトルである。なお、各式において、行数および列数、もしくは成分数を示す表記としている。また、本明細書に用いるベクトルは、すべて列ベクトルを意味する。
【0042】
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
【0045】
第二構造解析部120は、第一モデルM1を複数のブロックBに分割した第二モデルM2を作成し、複数のブロックBのうち一部のブロックBの温度を所定温度Tにて均一化し、その他のブロックBに温度分布Dを与え、有限要素法による構造解析を行い、機械本体1の構造体の第二熱変位量βを推定する。
【0046】
第二モデルM2は、機械本体1の構造体に基づいて作成され、有限要素法による構造解析を行うために形成されるモデルである。また、第二モデルM2は、第一モデルM1を複数のブロックBに分割したものである。図5に示すコラム20における第二モデルM2は、第一モデルM1と同様に、太線L1がコラム20の形状線を表している。また、細線L2が有限要素法による構造解析における要素の境界線を表し、各細線L2の頂点を節点とする。ここで、第二モデルM2は、第一モデルM1を複数のブロックBに分割したものであるため、第一モデルM1および第二モデルM2の各要素の形状並びに、各節点の個数および位置は同じである。
【0047】
そして、極太線L3は、各ブロックBの分割線を表している。各ブロックBの大きさは、有限要素法による構造解析における各要素の大きさよりも大きく設定されている。したがって、1つのブロックBには、多数の要素が含まれており、複数の節点が含まれている。また、例えば、図5に示すように、各ブロックBは、コラム20が以下のように分割されて形成される。すなわち、コラム20を、コラム20においてサドル30をY軸方向に摺動させるY軸摺動面20a側とY軸摺動面20aの反対側(裏面側)とに(Z軸方向に)分割すると共に、コラム20のX軸ガイド溝21a,21b側(コラム20自身がベッド10に対して摺動するX軸摺動面側)とX軸摺動面の反対側とに(Y軸方向に)分割する。ここでは、コラム20を24個のブロックBに分割する。
【0048】
第二構造解析部120が推定する第二熱変位量βは、式(1)および式(2)により導かれる式(4)によって表される。式(4)の式(3)と異なる部分ついて説明する。{β}は、各節点における第二熱変位量βを表す熱変位量ベクトルである。また、{Tβ}は、各節点の温度ベクトルである。ここで、{Tβ}は、所定温度Tにて温度を均一化する一部のブロックBの各節点における成分の値をすべて所定温度Tとし、その他の成分の値を温度分布Dにより与えられる値とする。また、温度を均一化する一部のブロックBは、温度測定する候補とする位置を含むブロックBを含んで設定する。
【0049】
【数4】
【0050】
所定温度Tは、所定温度範囲H内の温度である。所定温度範囲Hは、第一モデルM1における第二モデルM2の温度を均一化する一部のブロックBに相当する範囲内に存在するすべての節点の温度を含む温度範囲である。所定位置Pを決定する指標とする温度は、最適温度演算部130により求められる。
【0051】
最適温度演算部130は、少なくとも一つの機械本体1の構造体の基準節点Sにおける第一熱変位量αと第二熱変位量βとの差に基づいて、所定位置Pを決定する指標とする温度(以下、指標温度Tpとする。)を求める。
【0052】
基準節点Sは、指標温度Tpを求める場合に、基準とする節点である。例えば、基準節点Sを、コラム20が密接するY軸摺動面20aに存在する節点に設定する。ここで、第二モデルM2は、第一モデルM1をブロックBに分割したものであるため、それぞれのモデルに設定される基準節点Sの位置は同じである。
【0053】
指標温度Tpは、所定温度範囲H内において、式(5)に示す関係式f(T)が極小となる所定温度Tの値である。f(T)は、基準節点Sにおける第一熱変位量αと第二熱変位量βとの差を表している。ここで、所定温度Tを変数として扱うため、第二熱変位量βをβ(T)と表す。これにより、第一熱変位量αと、第二熱変位量βとの差を極小とする指標温度Tpを求めることができる。
【0054】
【数5】
【0055】
最適位置演算部140は、第一モデルM1における第二モデルM2の一部のブロックBに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、最適温度演算部130によって求められた指標温度Tpとに基づいて、複数の節点の位置から所定位置Pを選定する。
【0056】
具体的には、温度分布Dが与えられた第一モデルM1における第二モデルM2の温度を均一化する一部のブロックBに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、指標温度Tpとの差をそれぞれ演算し、差が最も小さい温度を有する第一モデルM1の節点の位置を所定位置Pとして選定する。
【0057】
次に、温度測定位置決定装置100による処理について、図6を参照して説明する。この温度測定位置決定装置100による処理は、例えば工作機械の開発段階において行われる。以下、コラム20における温度センサ70を配置する所定位置Pを1つ決定する場合について説明する。なお、コラム20の他に、ベッド10などの他の構造体にも同様に適用できる。
【0058】
図6に示すように、第一構造解析部110にて、コラム20の形状に基づいて、第一モデルM1が作成される(ステップST200)。そして、開発者等が設定した境界条件Kに基づいて第一モデルM1を用いて熱解析を行い、温度分布Dを演算する(ステップST210)。本実施形態においては、境界条件Kとして、第一境界条件K1を1つ設定する。これにより、温度分布Dとして、第一温度分布D1を取得する。続いて、第一モデルM1に第一温度分布D1を与え、式(3)によって演算することにより、第一熱変位量αを取得する(ステップST220)。
【0059】
そして、第二構造解析部120にて、コラム20の形状に基づいて、第二モデルM2が作成される(ステップST230)。続いて、一部のブロックBに対し所定温度Tを、その他のブロックBに対して第一温度分布D1を与え(ステップST240)、式(3)によって演算することにより、第二熱変位量β(T)を取得する(ステップST250)。本実施形態においては、温度を均一化する一部のブロックBとして、図5に示す第一ブロックB1のみを設定する。
【0060】
そして、最適温度演算部130にて、基準節点Sにおける演算した第一熱変位量αおよび第二熱変位量β(T)に基づいて、式(5)が所定温度範囲H内にて極小となる指標温度Tpを取得する(ステップST260)。本実施形態においては、基準節点Sは、図5に示す第一基準節点S1のみを設定する。
【0061】
続いて、最適位置演算部140にて、第一温度分布D1が与えられた第一モデルM1における第一ブロックB1に相当する範囲内に存在する節点の中から、指標温度Tpとの差が最も小さい温度を有する節点を、所定位置Pとして選定する(ステップST270)。
【0062】
これにより、熱変位補正装置90が所定位置Pに配置された温度センサ70により検出される温度情報に基づいて有限要素法による構造解析を行ったときは、温度を均一化した第一ブロックB1内における他の位置に温度センサ70を配置した場合に比べ、第一基準節点S1における熱変位の誤差が最も小さい。したがって、コラム20において、選定された所定位置Pに配置された温度センサ70により検出される温度に基づいて熱変位処理を行うことにより、コラム20の熱変位を精度よく推定することができる。
【0063】
本実施形態によれば、温度測定位置すなわち所定位置Pの候補は、有限要素法による構造解析の際に形成される節点とすることができるため、実機に温度センサ70を配置する場合に比べ、所定位置Pの候補の数を多く設定することができる。また、幾何計算の組み合わせではなく、有限要素法による構造解析により推定された熱変位に基づいて所定位置Pを決定している。これらにより、より精度よく加工点の熱変位を推定できる所定位置Pを決定することができる。また、コンピュータのソフトウエアによる演算のみによっても所定位置Pを決定することができるため、機械本体1の構造体の形状に変更があった場合や、機械本体1の構造体の形状が異なるモデルについても、個別に実機を用意することなく、容易に所定位置Pを決定することができる。
【0064】
次に、第二実施例について、第一実施形態と異なる部分について説明する。第一実施例では1つの所定位置Pを決定したが、第二実施例ではコラム20に複数の温度センサ70を配置するために、複数の所定位置Pを決定する。
【0065】
本実施形態においては、第二構造解析部120は、複数の一部のブロックBについて一部のブロックB毎に第二熱変位量βの推定を行うことにより、複数の第二熱変位量βを取得する。本実施形態においては、全てのブロックBについて、一つのブロックB毎にブロックBの温度を所定温度Tにて均一化を行う。
【0066】
ここで、各々のブロックBである第一ブロックB1、第二ブロックB2・・・・をブロックBiと表し、ブロックBiに対応する所定温度Tを所定温度Tiとして表す。iは各ブロックBの番号を表す添え字であり、具体的には、i=1,2,3・・・,bnとする。bnはブロックBの総数である。
【0067】
そして、最適温度演算部130は、式(6)に示す第一評価関数F1に基づいて、各々のブロックBi毎に指標温度Tpの値を求める。ここで、ブロックBiに対応する指標温度Tpを指標温度Tpiとして表す。また、第一評価関数F1は、基準節点Sにおける第一熱変位量αと、各々のブロックBiの温度を所定温度Tiにて均一化した場合に得られる基準節点Sにおける各々の複数の第二熱変位量βとの差のすべての総和値とする。
【0068】
【数6】
【0069】
本実施形態においては、第一熱変位量αは、第一モデルM1に第一温度分布D1が与えられた場合において、第一基準節点S1における熱変位量である。また、第二熱変位量βは、第二モデルM2の一つのブロックBiの温度を所定温度Tiとした場合に、その他のブロックBを第一温度分布D1としたときにおいて第一基準節点S1における熱変位量である。
【0070】
また、本実施形態において、指標温度Tpiは、第一評価関数F1が極小となる各々のブロックBiにおける所定温度Tiの値である。具体的には、所定温度Tiに対するそれぞれの所定温度範囲Hの値(以下、所定温度範囲Hiとする。)を設定し、所定温度範囲Hiにおいて、例えば0.1℃刻みにて所定温度Tiを標本化する。そして、最適温度演算部130は、第一評価関数F1が極小となる所定温度Tiの値(すなわち、指標温度Tpi)の組み合わせを算出する。
【0071】
ここで、指標温度Tpiの組み合わせを算出する処理としては、既知の人工知能または統計処理がある。人工知能としては、例えば、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム等のパターン認識があり、統計処理としては、例えば、重回帰、クラスター分析等の統計処理がある。
【0072】
そして、最適位置演算部140により、第一モデルM1における第二モデルM2のブロックBiに相当する範囲内に存在する複数の節点の温度と、算出されたブロックBiにおける指標温度Tpiとの差をそれぞれ演算し、差が最も小さい温度を有する第一モデルM1の節点の位置を各々のブロックBiにおける所定位置P(以下、所定位置Piとする。)として選定する。
【0073】
これにより、熱変位補正装置90が各々のブロックBiごとに選定された複数の所定位置Piに配置された複数の温度センサ70により検出される温度情報に基づいて有限要素法による構造解析を行ったときは、温度センサ70を一つだけ配置した場合に比べ、第一基準節点S1における熱変位の誤差が小さい。したがって、コラム20の熱変位をより精度よく推定することができる。
【0074】
本実施形態によれば、複数の所定位置Piを決定することにより、構造体の温度分布をより細かく把握することができるため、より高精度に加工点の熱変位を推定できる。
【0075】
次に、第三実施例について、第二実施形態と異なる部分について説明する。第二実施例では1つの基準節点Sに基づいて指標温度Tpiを決定したが、第三実施例では複数の基準節点Sを設定する。
【0076】
例えば、基準節点Sを、コラム20のY軸摺動面20aに存在する複数の節点に設定する。例えば、図4および図5に示す位置に、第一基準節点S1〜第四基準節点S4までを設定する。ここで、設定した複数の基準節点Sを基準節点Sjと表す。jは各々の基準節点Sの番号を表す添え字であり、具体的には、j=1,2,3・・・,snとする。snは設定した基準節点Sの総数である。
【0077】
そして、最適温度演算部130は、式(7)に示す第二評価関数F2に基づいて指標温度Tpiを求める。指標温度Tpiは、第二評価関数F2が極小となる所定温度Tiの値である。すなわち、最適温度演算部130は、第二評価関数F2が極小となる指標温度Tpiの組み合わせを算出する。そして、算出された指標温度Tpiに基づいて、最適位置演算部140によって、所定位置Piが決定する。第二評価関数F2は、各々の基準節点Sjにおける第一熱変位量αjと、各々のブロックBiの温度を所定温度Tiにて均一化した場合に得られる各々の基準節点Sjにおける各々の第二熱変位量βjとの差のすべての総和値とする。
【0078】
【数7】
【0079】
本実施形態において、第一熱変位量αjは、第一モデルM1に第一温度分布D1が与えられた場合において、基準節点Sjにおける熱変位量である。また、第二熱変位量βjは、第二モデルM2のブロックBiの温度を所定温度Tiとした場合に、その他のブロックBを第一温度分布D1としたときにおいて基準節点Sjにおける熱変位量である。
【0080】
これにより、熱変位補正装置90が複数の基準節点Sjを設定して決定した複数の所定位置Piにそれぞれ配置された温度センサ70により検出される温度情報に基づいて有限要素法による構造解析を行ったときは、基準節点Sを1つだけ設定して複数の所定位置Piを決定した場合に比べ、複数の基準節点Sjにおける熱変位の誤差が小さい。したがって、コラム20の熱変位をより精度よく推定することができる。
本実施形態によれば、複数の基準節点Sjの変位量に基づいて所定位置Piを決定することにより、より精度よく構造体の熱変位を把握できるため、より高精度に加工点の熱変位を推定できる。
【0081】
次に、第四実施例について、第三実施形態と異なる部分について説明する。第三実施例では1つの温度分布Dに基づいて指標温度Tpiを決定したが、第四実施例では複数の温度分布Dを用いる。すなわち、複数の境界条件Kを設定する。
【0082】
例えば、境界条件Kを、機械本体1の周囲の温度が変化した場合や、回転主軸40の温度が変化した場合等を考慮して決定する。そして、複数の境界条件Kに基づいて、複数の温度分布Dが求められる。ここで、複数の温度分布Dを温度分布Dkと表す。kは各温度分布Dの番号を表す添え字であり、具体的には、k=1,2,3・・・,dnとする。dnは設定した温度分布Dの総数である。
【0083】
そして、第一構造解析部110および第二構造解析部120は、第一構造解析部110および第二構造解析部120は、第一熱変位量αおよび第二熱変位量βの推定を、異なる複数の温度分布D毎について行う。
【0084】
また、最適温度演算部130は、式(8)に示す第三評価関数F3に基づいて、指標温度Tpiを求める。指標温度Tpiは、第三評価関数F3が極小となる所定温度Tiの値である。すなわち、最適温度演算部130は、第三評価関数F3が極小となる指標温度Tpiの組み合わせを算出する。そして、算出された指標温度Tpiに基づいて、最適位置演算部140によって、所定位置Piが決定する。
【0085】
第三評価関数F3は、第一モデルM1を各々の温度分布Dkとした場合において基準節点Sjにおける第一熱変位量αkjと、第二モデルM2の各々のブロックBiの温度を所定温度Tiにて均一化した場合において、各々のその他のブロックBiの温度を各々の温度分布Dkとした場合に得られる基準節点Sjにおける各々の第二熱変位量βkjとの差のすべての総和値とする。
【0086】
【数8】
【0087】
ここで、第一熱変位量αkjは、第一モデルM1に温度分布Dkが与えられた場合において、基準節点Sjにおける熱変位量である。また、第二熱変位量βkjは、第二モデルM2のブロックBiの温度を所定温度Tiとした場合に、その他のブロックBiを温度分布Dkとしたときにおいて基準節点Sjにおける熱変位量である。
【0088】
これにより、熱変位補正装置90が複数の温度分布Dkを設定して決定した所定位置Piにそれぞれ配置された温度センサ70により検出される温度情報に基づいて有限要素法による構造解析を行ったときは、温度分布Dを1つだけ設定して複数の所定位置Piを決定した場合に比べ、複数の基準節点Sjにおける熱変位の誤差が小さい。したがって、コラム20の熱変位をより精度よく推定することができる。
【0089】
本実施形態によれば、複数の温度分布Dkに基づいて所定位置Piを決定することにより、環境の変化によって機械本体1の周囲の温度が変化した場合や回転主軸40等の構造体の温度が変化した場合においても、より精度よく加工点の熱変位を推定できる。
【符号の説明】
【0090】
1…機械本体、10…ベッド、20…コラム、20a…軸摺動面、70…温度センサ、80…制御装置、90…熱変位補正装置、100…温度測定位置決定装置、110…第一構造解析部、120…第二構造解析部、130…最適温度演算部、140…最適位置演算部、B…ブロック、D…温度分布、F1…第一評価関数、F2…第二評価関数、F3…第三評価関数、M1…第一モデル、M2…第二モデル、P…所定位置、S…基準節点、T…所定温度、Tp…指標温度、α…第一熱変位量、β…第二熱変位量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6