【実施例1】
【0014】
本発明にかかる縦型超接合MOSFETの素子活性部の要部断面図を
図1(a)に示す。同図(b)、(c)、(d)は(a)に示す超接合MOSFETの深さを縦軸に対応させ、横軸にライフタイムをとったキャリアライフタイム分布図であり、ライフタイム制御される領域の深さ範囲がそれぞれ異なるが、いずれも本発明にかかる好ましい超接合MOSFETである。
【0015】
この超接合MOSFETは高濃度のn
+型半導体基板(n
+ドレイン層1)上にn型ドリフト領域4aより高濃度のn型第2バッファ層2とドリフト領域4aと同じか低濃度のn型第1バッファ層3を備え、n型第1バッファ層3の上に並列pn層4を備える。この並列pn層4の、基板表面に平行な面で切断した横断面パターンはストライプ状である。これに限らず格子形状であってもよい。このn型第2バッファ層2は、超接合MOSFETの逆回復動作時にキャリア溜めとしての機能を有し、キャリアの排出時間を長くすることにより、逆回復時間を長くしてソフトリカバリ波形にする効果を有する。
【0016】
なお、実施例1では耐圧600Vクラスの縦型超接合MOSFETについて以下詳細に説明する。各層、領域の寸法及び不純物濃度等の概略を以下に示す。並列pn層4の深さ方向の厚さ(以降厚さとは基板の深さ方向の距離とする)を36.0μm、並列pn層4のピッチ幅は12.0μmとし、n型ドリフト領域とp型仕切り領域の幅はそれぞれ6.0μm、前記各領域の不純物濃度は3.0×10
15cm
−3とする。並列pn層4直下にあるn型第1バッファ層3の厚さは9μm、不純物濃度は前記n型ドリフト領域より低濃度の1.0×10
15cm
−3とした。さらにその下にn型第2バッファ層2を設け、逆回復動作時にも空乏層が広がりきらないように厚さは15μm、不純物濃度は前記n型ドリフト領域より高い1.0×10
16cm
−3に設定した。また、n
+ドレイン層1の不純物濃度は2.0×10
18cm
−3とした。
【0017】
図1(b)から
図1(d)に示すキャリアライフタイムの概略の分布図では、いずれの場合においても、n型第2バッファ層2のキャリアライフタイムは制御しないかもしくは並列pn層4および第1バッファ層3に比べて短くならないようにする。第2バッファ層2以外のいずれかまたはすべての領域のキャリアライフタイムを局部的に短くしている。基本となる電子のライフタイムは1.0×10
−5 秒、正孔ライフタイムは3.0×10
−6 秒とし、キャリアライフタイムを短くしたときの最低値は、電子キャリアライフタイムを1.0×10
−7 秒、正孔キャリアライフタイムを3.0×10
−8 秒とした。逆回復動作時にn型第2バッファ層2にキャリアが十分に保持されていれば良いので、キャリアライフタイムが長い
図1(b)から
図1(d)のいずれの分布においてもソフトリカバリ波形が得られる。
【0018】
図1(b)、(c)のキャリアライフタイム分布はプロトンなどを基板の裏面から照射し、熱処理することにより、任意の深さ(例えば、(b)では、並列pn層の表面側の深さを、(c)では、並列pn層の裏面側の深さを、それぞれピークとするように、プロトンなどをイオン注入して局所的にライフタイム制御することにより作成できる。このようにドレイン層側からプロトンなどをイオン注入する場合は、第2バッファ層2にもライフタイムキラーが導入される。しかし、濃度のピークが第2バッファ層2に位置しないように形成するようにして、第2バッファ層2に極力ライフタイムキラーが導入されないようにすればよい。ライフタイムキラーとして白金を用いて拡散させると、白金は基板の表面側に偏析し易いので、(d)に示すように表面側のキャリアライフタイムが最も短い傾斜を有する分布が得られる。
【0019】
ここで、本発明の効果を明らかにするために、前述した従来の超接合MOSFETと実施例1の超接合MOSFETとについて、
図2(b)〜(e)に示すようなキャリアライフタイム分布の状態(A1〜E1)とリカバリ波形の関係について調べた。その結果得られたリカバリ波形(A〜E)を
図3に示す。
図2と
図3のキャリアライフタイム分布はそれぞれ対応している。
図3は、前記超接合MOSFETのそれぞれについて、電源電圧400V、順方向電流20A、逆方向電流の時間変化を100A/μsとして、逆回復動作の電流波形をミュレーションした結果である。
【0020】
キャリアライフタイム分布の状態A1〜E1の詳細を以下説明する。A1は並列pn層とn型第1バッファ層のみを有する従来の超接合MOSFETの場合で、
図2(b)のライフタイム制御が全く行われないライフタイム分布である。
図3で、A1に対応するAとして2nd bufなしとあるのは、第2バッファ層無しの意味である。B1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、
図2(b)のライフタイム制御が全く無しのライフタイム分布を有する場合である。
図3でB1に対応するBとしてLT減なしとあるのはライフタイム制御無しの意味である。C1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、
図2(c)の基板表面から並列pn層の下端面までの範囲が局部的にライフタイム制御される場合であり、
図3のCに対応する。D1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、基板表面から第1バッファ層までの範囲が局部的にライフタイム制御されている場合であり、
図3のDに対応する。また、前記C1、D1は
図1の(b)、(c)に相当するライフタイム分布と同じ分布である。E1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、基板の全領域のライフタイム制御が行われる場合であり、
図3のEに対応する。
【0021】
図3より、Aは、逆回復電流のピークIrp1、逆回復時間trr1とも大きく、波形が急峻に立ち上がるハードリカバリ波形を示し、大きく振動した波形となっている。その理由は第2バッファ層がないため、順阻止状態に入る際に、逆回復時に空乏層が広がるにつれてキャリアが枯渇し易くなるためである。
【0022】
Bは、並列pn層中のドリフト領域より高濃度な第2バッファ層を備えるので、が逆回復動作時のキャリア溜めとして機能する。この場合は、キャリアの総量が増えるため、逆回復電流(Irp)が増加し、リカバリ波形はソフトになるが、キャリアの排出に時間を要するので、逆回復時間が長くなり、高速スイッチング要件を満たさない。
【0023】
Cは、基板表面から並列pn層の下端の深さまでライフタイムを制御して短くすると、前記Bよりは逆回復電流(Irp)が少なくなるとともに、ソフトリカバリ波形を維持することができ、逆回復時間も短くなるので好ましい。
【0024】
Dは、表面から第1バッファ層の下端の深さまでライフタイムを制御して短くすると、さらに逆回復電流(Irp)Cよりもさらに減らすとともに、ソフトリカバリ波形を維持することができ、逆回復時間もさらに短くなるので好ましい。
【0025】
Eは、基板のすべての層、領域のライフタイムを制御して短くするとキャリア溜めの効果が小さくなり、逆回復電流(Irp2)と逆回復時間(trr2)がともに小さくなり過ぎて、ハードリカバリ波形を示すようになり、振動波形が発生するおそれが生じるので好ましくない。
【0026】
従って、
図3に示すA〜Eのキャリアライフタイム分布から、CとDのように、基板表面から並列pn層まで、または第1バッファ層までのライフタイムが制御された超接合MOSFETのリカバリ波形が最も好ましく、高速スイッチングおよび低逆回復損失が得られることが分かる。
【0027】
以上の結果より、実施例1においては超接合MOSFETの逆回復動作の高速化と損失低減を図るとともに、ソフトリカバリ波形化を両立した構造を実現している。
なお、実施例1においては並列pn層の基板断面パターン形状を連続的なpnのストライプ状パターンが交互に接する形状としたが、基板面内に格子状の非連続な断面パターンに配置された並列pn層(言いかえると柱状のpn層が交互に接する形状)としてもよい。
【0028】
また、本発明の実施例1では、高濃度のn
+ドレイン層1上に、n型第2バッファ層2とn型第1バッファ層3を形成した後、並列pn層4を、多数回のエピタキシャル成長とフォリリソグラフィ技術を繰り返し行ない、同パターンで順次並列pn層を積み上げて所要の厚さにする多段エピ方式にて形成した。また、高濃度n
+ドレイン層1上に、n型第2バッファ層2とn型第1バッファ層3と所要の厚さのドリフト層をエピタキシャル成長させた後、異方性エッチングにより、並列pn層の厚さに相当する深さの垂直トレンチを形成し、このトレンチにp型シリコン層をエピタキシャル成長させて並列pn層4を形成するトレンチ埋め込み方式としてもよい。前述のいずれかの方式で作成した並列pn層の表面側に、MOSゲート構造、ソース電極および裏面側のドレイン電極を形成することにより、本発明にかかる実施例1の超接合MOSFETのウェハプロセスがほぼ完成する。また、前述の並列pn層の形成方法、その後のウェハプロセスについても、それらの製造方法は従来公知の製造方法を利用することができる。
【0029】
通常、電力用ダイオードにおいては、キャリアライフタイムを短くする方法として、AuやPtなどの重金属の添加または電子線やプロトンなどの荷電粒子の照射などによりバンドギャップ内に敢えて準位を形成するライフタイムキラーの導入法が一般に用いられる。このようなライフタイムキラーを導入することにより、逆回復動作時にダイオード中のキャリアの消滅を促進し、逆回復時のピーク電流Irpや逆回復時間trrを低減させ逆回復時の損失を低減させることができるからである。超接合MOSFETにおいても、ダイオードを内蔵しているためライフタイムキラーを導入して前記
図1(b)から
図1(d)に示すキャリアライフタイム分布とすることが高速動作および逆回復損失の低減に有効となる。
【0030】
しかし、超接合MOSFETはその構造上、順阻止状態時にはドリフト層が完全に空乏化してキャリアが枯渇するため、逆回復波形の立ち上がりが急峻となりハードリカバリ波形になりやすい。従来のようなキャリアライフタイムの制御によれば、逆回復損失を低減させることができるが、その場合、リカバリ波形の立ち上がりはさらに急峻になるので、振動波形の発生は解消されない。
【0031】
そこで、本発明の実施例1の超接合MOSFETでは、第1バッファ層の下部に、並列pn層のn型ドリフト領域4aより高濃度の第2バッファ層を形成する。さらにこの第2バッファ層のキャリアライフタイムより第1バッファ層および並列pn層のキャリアライフタイムを短く調整する。キャリアライフタイムをこのように調整することで、初めてハードリカバリ波形の立ち上がりを緩やかに抑えソフトリカバリ波形とすることができる。
【0032】
局所的にライフタイムを制御する方法としては、金や白金などの重金属の添加またはプロトンなどの荷電粒子の照射により行うことができる。ソース領域側の表面から重金属のイオン注入と熱処理により第1バッファ層まで添加することができる。また、ソース電極を形成した後、基板の反対側をグラインドにより研削し、第1バッファ層および第2バッファ層を形成し、その第2バッファ層の表面から重金属のイオンや荷電粒子を照射することができる。また、これらの局所的なライフタイム制御と電子線照射のようなライフタイムが一様になる制御を組み合せることもできる。
【0033】
第2バッファ層の不純物濃度と厚さを調整して、超接合MOSFETの順阻止状態のときでもn
+ドレイン層1に空乏層が到達しないようなキャリア溜めとすることにより、逆回復動作時にもドリフト層内のキャリアが枯渇することなく、逆回復波形の立ち上がりを緩やかにすることが可能となる。
【0034】
さらに、
図8(a)は、前述の
図1(a)の超接合MOSFETに逆並列接合される別個のpinダイオード402を備える複合半導体装置400の要部断面図である。
このような複合半導体装置とすることによっても、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失を得ることもできる。その場合、pinダイオード402は、ドリフト層401の不純物濃度3.0×10
14cm
−3、厚さを60.0μmとし、キャリアライフタイム分布を同図(b)に示すように、金や白金のような重金属の添加により、表面側のキャリアライフタイムが短い分布とした。白金を用いると、白金は基板の表面側に偏析し易いので、
図8(b)のような表面側のキャリアライフタイムが最も短いような傾斜を有する分布が得られるので好ましい。
このように、別個のpinダイオード402を備える複合半導体装置400とすることにより、pinダイオード402を、超接合MOSFET50の内蔵ダイオード(5−4a)に比べて、設計上の制約を無くすることができる。そのため、内蔵ダイオード(5−4a)よりスイッチング速度が高速であってオン抵抗の小さいpinダイオード402とすることが容易にできるので、前述のような高速スイッチングおよび低逆回復損失を有する本発明の複合半導体装置400が得られる。
【0035】
図4は実施例(
図8(a))の複合半導体装置および従来構造(
図5(a))の超接合MOSFETの逆回復波形図であり、電源電圧400V、順方向電流20A、逆方向電流の時間変化を100A/μsとして、逆回復動作の電流波形をシミュレーションした結果である。なお、
図8(a)の複合半導体装置のライフタイムキラーは、Heを用いて並列pn層のソース側の表面から8μmの深さをピークとした濃度プロファイルと設定した。また、
図8(a)のpinダイオード402の活性領域の面積と超接合MOSFET50の活性領域の面積を同じ面積とした。
【0036】
従来構造では、逆回復電流(Irp)、逆回復時間(trr)とも大きく、波形が急峻に立ち上がっているため大きく振動した波形となっている。一方、実施例においては、従来構造に比べ逆回復電流(Irp)、逆回復時間(trr)とも小さく抑えられており、逆回復損失も低減されていることがわかる。また、波形の立ち上がりが緩やかになっているため立ち上がり後にリンギングが発生していない。
【0037】
このように、逆回復動作の高速化と損失低減およびソフトリカバリ化を実現した複合半導体装置を得ることができた。
さらに、前述のpinダイオードに変えて、
図9に示すようなショットキーバリアダイオードを超接合MOSFETに並列接合した複合半導体装置とすることによっても、前述のような、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失が得られる。