特許第6221436号(P6221436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221436超接合MOSFETとその製造方法およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221436
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】超接合MOSFETとその製造方法およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20171023BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01L29/78 652H
   H01L29/78 658H
   H01L29/06 301D
   H01L29/06 301V
   H01L29/78 657D
   H01L29/91 J
   H01L21/322 L
   H01L21/322 K
   H01L29/48 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-144654(P2013-144654)
(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-18913(P2015-18913A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆博
(72)【発明者】
【氏名】大西 泰彦
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−101022(JP,A)
【文献】 特開平03−259537(JP,A)
【文献】 特開平08−227895(JP,A)
【文献】 特開2003−318412(JP,A)
【文献】 特開2006−024690(JP,A)
【文献】 特開2012−142330(JP,A)
【文献】 特開2013−051346(JP,A)
【文献】 特開2003−338624(JP,A)
【文献】 特開2012−186353(JP,A)
【文献】 特開2004−022716(JP,A)
【文献】 特開2009−004668(JP,A)
【文献】 特開2008−258313(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0025124(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/872
H01L 29/04
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドレイン層の第1主面上に垂直方向に伸びる相互に平行な複数のpn接合を有し、該pn接合に挟まれる第1導電型のドリフト領域と第2導電型の仕切り領域とが交互に接して並ぶ並列pn層と、前記並列pn層の第1主面側にMOSゲート構造を有し、前記並列pn層の第2主面と前記ドレイン層との間に第1導電型の第1バッファ層と第2バッファ層とがこの順に設けられ、前記第2バッファ層は前記ドレイン層に隣接して設けられ、前記第1バッファ層の不純物濃度は前記ドリフト領域と同程度以下の低濃度であり、前記第2バッファ層の不純物濃度は前記ドリフト領域より高濃度であり、前記第2バッファ層よりも前記並列pn層方がキャリアライフタイムが短く、前記第2バッファ層よりも前記第1バッファ層の方がキャリアライフタイムが短いことを特徴とする超接合MOSFET。
【請求項2】
前記第2バッファ層はライフタイムを調整されていないことを特徴とする請求項1に記載の超接合MOSFET。
【請求項3】
前記並列pn層のキャリアライフタイムを重金属の添加または荷電粒子の照射により前記第2バッファ層より短くすることを特徴とする請求項1に記載の超接合MOSFETの製造方法。
【請求項4】
前記並列pn層および前記第1バッファ層のキャリアライフタイムを重金属の添加または荷電粒子の照射により前記第2バッファ層より短くすることを特徴とする請求項1記載の超接合MOSFETの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の超接合MOSFETに内蔵するpnダイオードより高速であってオン抵抗の小さいpinダイオードが、前記超接合MOSFETに逆並列接続されていることを特徴とする複合半導体装置。
【請求項6】
請求項1記載の超接合MOSFETに内蔵するpnダイオードより高速であってオン抵抗の小さいショットキーバリアダイオードが、前記超接合MOSFETに逆並列接続されていることを特徴とする複合半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型MOSFET(絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示すインバータ回路1000用に使用される高耐圧スイッチング素子として、IGBT101が広く普及している。IGBT101は、バイポーラトランジスタの高耐圧かつ低オン電圧といった特長や、MOSFETよりは低速ながら、高速動作が可能といった優れた特長を有しており、現在のパワーエレクトロニクスを支える重要な半導体素子である。
【0003】
しかし、図7(a)の要部断面図に示すIGBT101は、同図(b)に示すMOSFET301と異なり、逆耐圧接合(コレクタ接合103)を有するため、通常は逆方向(エミッタEを正極、コレクタCを負極とするバイアス方向)に電流を流すことができない。IGBT101が導通状態から順阻止状態になる際に、回路内のインダクタンス成分により逆方向に高電圧のサージ電圧が発生することがある。このサージ電圧がIGBT101に印加されると、通常、逆耐圧が保護されていないIGBT101は破壊のおそれがあるが、インバータ回路に使用される際には、IGBT101のターンオフ時ごとに発生するL負荷電流を還流させるために逆並列に接続されているダイオード401(図6)により保護される。
【0004】
近年、インバータの高周波化への要求の高まりを受け、前述のようなIGBT101と通常の還流用ダイオード401の並列接続ではスイッチングの高速化に限界があるため、IGBT101を図5(a)に示す超接合MOSFET201へ置き換えることが検討されている。 置き換えが検討されている超接合MOSFET201(図5)は、ドリフト層205中に、主面に垂直方向に狭い間隔で平行なpn接合を複数並べるスーパージャンクション構造からなる並列pn層202を有する。並列pn層202の内部領域をn型ドリフト領域202aとp型仕切り領域202bとする。この超接合MOSFET201では、前記並列pn層202内のn型ドリフト領域202aを耐圧に見合う通常の不純物濃度より高濃度にしても、前記並列pn層202のピッチ幅を狭くすることにより、並列pn層202のすべてを低電圧で空乏化することができるため、ユニポーラ型にもかかわらず、高耐圧で低オン抵抗となる特徴を有する。さらに、ユニポーラデバイスに由来する高速スイッチングが可能であるほか、逆方向のダイオード構造(図5(a)の符号203と202a)を内蔵しているため、図6のインバータ回路の並列ダイオード401を新たに接続する必要がなく、装置の小型化が期待できるメリットも有する。
【0005】
この超接合MOSFET201において、内蔵ダイオードの逆回復時のキャリアライフタイム(キャリア寿命時間)は、制御されていない場合同図(b)に示すように基板表面から深さ方向にかけて一定である。
【0006】
このような超接合MOSFETに関する文献として、ドリフト層205に、並列pn層からなるスーパージャンクション(以降SJ)構造と、その下層に不純物濃度を2段階に変化させたn型バッファ層を設けることにより、オン抵抗を下げ、内蔵ダイオードの逆回復特性をソフトリカバリ波形にすることを記載したものが公開されている(特許文献1)。ドレイン、ソース間のリーク電流を増大させずに逆回復時間を短縮するスーパージャンクションMOS構造を備える半導体装置については既に知られている(特許文献2)。また、SJ構造を備えるショットキーバリアダイオードにSJ−MOSFETを接続することにより、ソフトスイッチング方式に適した半導体装置を可能にすることが記載されている(特許文献3)。SJ構造を備えるショットキーバリアダイオードの全体にライフタイム制御領域を設け、逆電流を低減し、逆回復特性を向上させることが示されている(特許文献4)。逆回復特性をソフトリカバリ波形にするための、ライフタイム制御方法についての記載がある(特許文献5)。過剰少数キャリアのライフタイム制御方法についていろいろ書かれている(特許文献6)。さらに、従来の素子に比べて、耐圧及びターンオフ特性を向上させることができる半導体装置に関する記述が開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−101022号公報(図11、段落0077から0079)
【特許文献2】特再公表2010−24433号公報(要約)
【特許文献3】特開2006−24690号公報(要約の課題と解決手段)
【特許文献4】特開2008−258313号公報(要約)
【特許文献5】特開2007−59801号公報(要約)
【特許文献6】特開平7−226405号公報(課題)
【特許文献7】特開2001−102577号公報(課題)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記図5に示す超接合MOSFET201では、順阻止状態には、空乏層が低耐圧で並列pn層内の各カラム内に広がりきり完全に空乏化する。その際、内蔵ダイオード(符号203−202a)は順方向電流(還流電流)が流れている状態から、内蔵ダイオードのpn接合の逆バイアス阻止状態(即ち逆回復状態)に遷移する。しかしながら、この内蔵ダイオードはユニポーラ構造のため少数キャリアがほとんど無く逆回復電流Irpが小さい上、電流波形および電圧波形が急峻に立ち上がるいわゆるハードリカバリ波形になり易い。逆回復動作がハードリカバリ波形になると、図4の従来の超接合MOSFETの逆回復波形図に示すように、リンギング(振動波形)が発生しノイズの発生原因となることが問題となる(この図4では振動波形部分が重なり黒くつぶれた状態になり見難くなっている。)。なお、図4の従来構造の波形は、図5(a)に示す従来構造の縦型超接合MOSFETについて、電源電圧400V、順方向電流20A、逆方向電流の時間変化を100A/μsとして、逆回復動作の電流波形をミュレーションした結果である。
【0009】
本発明は以上説明した点を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失を得ることのできる超接合MOSFETとその製造方法およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記目的を達成するために、第1導電型のドレイン層の第1主面上に垂直方向に伸びる相互に平行な複数のpn接合を有し、該pn接合に挟まれる第1導電型のドリフト領域と第2導電型の仕切り領域とが交互に接して並ぶ並列pn層と、前記並列pn層の第1主面側にMOSゲート構造を有し、前記並列pn層の第2主面と前記ドレイン層の第1主面との間に、前記並列pn層の第2主面側から第1導電型の第1バッファ層と第2バッファ層とがこの順に設けられ、前記第2バッファ層は前記ドレイン層に隣接して設けられ、前記第1バッファ層の不純物濃度は前記ドリフト領域と同程度以下の低濃度であり、前記第2バッファ層の不純物濃度は前記ドリフト領域より高濃度であり、前記第2バッファ層よりも前記並列pn層の方がキャリアライフタイムが短く、前記第2バッファ層よりも前記第1バッファ層の方がキャリアライフタイムが短い超接合MOSFETとする。前記並列pn層および第1バッファ層のキャリアライフタイムを重金属の添加または荷電粒子の照射により前記第2バッファ層より短くする超接合MOSFETの製造方法とすることが好ましい。前記超接合MOSFETに内蔵するpnダイオード構成より高速であってオン抵抗の小さいpinダイオードが、前記超接合MOSFETに並列接続されていることが好ましい。超接合MOSFETに内蔵するpnダイオードより高速であってオン抵抗の小さいショットキーバリアダイオードが、前記超接合MOSFETに並列接続されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失を得ることのできる超接合MOSFETとその製造方法およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1にかかる超接合MOSFETの要部断面図(a)と、(a)に対応する基板内のキャリアライフタイム分布図(b)、(c)、(d)である。
図2】従来および本発明にかかる超接合MOSFETの要部断面図(a)と、(a)に対応する基板内のそれぞれ異なるキャリアライフタイム分布図である。
図3図2の超接合MOSFETのキャリアライフタイム分布図に対応するそれぞれの逆回復電流波形図である。
図4】従来と本発明の実施例の超接合MOSFETの逆回復波形図である。
図5】従来の超接合MOSFETの要部断面図(a)とその基板内のキャリアライフタイム分布図である。
図6】インバータ回路図である。
図7】通常のIGBT(a)とMOSFET(b)の基板の要部断面図である。
図8】本発明にかかるpinダイオードを並列接続させた超接合MOSFETの要部断面図と、pinダイオードの基板内のキャリアライフタイム分布図である。
図9】本発明にかかるショットキーバリアダイオードを並列接続させた超接合MOSFETの要部断面図と、その基板内のキャリアライフタイム分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の超接合MOSFETとその製造方法およびダイオードを並列接続させた複合半導体装置にかかる実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれ相対的に不純物濃度が高いまたは低いことを意味する。なお、以下の実施例の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、実施例で説明される添付図面は、見易くまたは理解し易くするために正確なスケール、寸法比で描かれていない。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
本発明にかかる縦型超接合MOSFETの素子活性部の要部断面図を図1(a)に示す。同図(b)、(c)、(d)は(a)に示す超接合MOSFETの深さを縦軸に対応させ、横軸にライフタイムをとったキャリアライフタイム分布図であり、ライフタイム制御される領域の深さ範囲がそれぞれ異なるが、いずれも本発明にかかる好ましい超接合MOSFETである。
【0015】
この超接合MOSFETは高濃度のn型半導体基板(nドレイン層1)上にn型ドリフト領域4aより高濃度のn型第2バッファ層2とドリフト領域4aと同じか低濃度のn型第1バッファ層3を備え、n型第1バッファ層3の上に並列pn層4を備える。この並列pn層4の、基板表面に平行な面で切断した横断面パターンはストライプ状である。これに限らず格子形状であってもよい。このn型第2バッファ層2は、超接合MOSFETの逆回復動作時にキャリア溜めとしての機能を有し、キャリアの排出時間を長くすることにより、逆回復時間を長くしてソフトリカバリ波形にする効果を有する。
【0016】
なお、実施例1では耐圧600Vクラスの縦型超接合MOSFETについて以下詳細に説明する。各層、領域の寸法及び不純物濃度等の概略を以下に示す。並列pn層4の深さ方向の厚さ(以降厚さとは基板の深さ方向の距離とする)を36.0μm、並列pn層4のピッチ幅は12.0μmとし、n型ドリフト領域とp型仕切り領域の幅はそれぞれ6.0μm、前記各領域の不純物濃度は3.0×1015cm−3とする。並列pn層4直下にあるn型第1バッファ層3の厚さは9μm、不純物濃度は前記n型ドリフト領域より低濃度の1.0×1015cm−3とした。さらにその下にn型第2バッファ層2を設け、逆回復動作時にも空乏層が広がりきらないように厚さは15μm、不純物濃度は前記n型ドリフト領域より高い1.0×1016cm−3に設定した。また、nドレイン層1の不純物濃度は2.0×1018cm−3とした。
【0017】
図1(b)から図1(d)に示すキャリアライフタイムの概略の分布図では、いずれの場合においても、n型第2バッファ層2のキャリアライフタイムは制御しないかもしくは並列pn層4および第1バッファ層3に比べて短くならないようにする。第2バッファ層2以外のいずれかまたはすべての領域のキャリアライフタイムを局部的に短くしている。基本となる電子のライフタイムは1.0×10−5 秒、正孔ライフタイムは3.0×10−6 秒とし、キャリアライフタイムを短くしたときの最低値は、電子キャリアライフタイムを1.0×10−7 秒、正孔キャリアライフタイムを3.0×10−8 秒とした。逆回復動作時にn型第2バッファ層2にキャリアが十分に保持されていれば良いので、キャリアライフタイムが長い図1(b)から図1(d)のいずれの分布においてもソフトリカバリ波形が得られる。
【0018】
図1(b)、(c)のキャリアライフタイム分布はプロトンなどを基板の裏面から照射し、熱処理することにより、任意の深さ(例えば、(b)では、並列pn層の表面側の深さを、(c)では、並列pn層の裏面側の深さを、それぞれピークとするように、プロトンなどをイオン注入して局所的にライフタイム制御することにより作成できる。このようにドレイン層側からプロトンなどをイオン注入する場合は、第2バッファ層2にもライフタイムキラーが導入される。しかし、濃度のピークが第2バッファ層2に位置しないように形成するようにして、第2バッファ層2に極力ライフタイムキラーが導入されないようにすればよい。ライフタイムキラーとして白金を用いて拡散させると、白金は基板の表面側に偏析し易いので、(d)に示すように表面側のキャリアライフタイムが最も短い傾斜を有する分布が得られる。
【0019】
ここで、本発明の効果を明らかにするために、前述した従来の超接合MOSFETと実施例1の超接合MOSFETとについて、図2(b)〜(e)に示すようなキャリアライフタイム分布の状態(A1〜E1)とリカバリ波形の関係について調べた。その結果得られたリカバリ波形(A〜E)を図3に示す。図2図3のキャリアライフタイム分布はそれぞれ対応している。図3は、前記超接合MOSFETのそれぞれについて、電源電圧400V、順方向電流20A、逆方向電流の時間変化を100A/μsとして、逆回復動作の電流波形をミュレーションした結果である。
【0020】
キャリアライフタイム分布の状態A1〜E1の詳細を以下説明する。A1は並列pn層とn型第1バッファ層のみを有する従来の超接合MOSFETの場合で、図2(b)のライフタイム制御が全く行われないライフタイム分布である。図3で、A1に対応するAとして2nd bufなしとあるのは、第2バッファ層無しの意味である。B1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、図2(b)のライフタイム制御が全く無しのライフタイム分布を有する場合である。図3でB1に対応するBとしてLT減なしとあるのはライフタイム制御無しの意味である。C1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、図2(c)の基板表面から並列pn層の下端面までの範囲が局部的にライフタイム制御される場合であり、図3のCに対応する。D1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、基板表面から第1バッファ層までの範囲が局部的にライフタイム制御されている場合であり、図3のDに対応する。また、前記C1、D1は図1の(b)、(c)に相当するライフタイム分布と同じ分布である。E1は並列pn層とn型第1、第2バッファ層とを備える超接合MOSFETであって、基板の全領域のライフタイム制御が行われる場合であり、図3のEに対応する。
【0021】
図3より、Aは、逆回復電流のピークIrp1、逆回復時間trr1とも大きく、波形が急峻に立ち上がるハードリカバリ波形を示し、大きく振動した波形となっている。その理由は第2バッファ層がないため、順阻止状態に入る際に、逆回復時に空乏層が広がるにつれてキャリアが枯渇し易くなるためである。
【0022】
Bは、並列pn層中のドリフト領域より高濃度な第2バッファ層を備えるので、が逆回復動作時のキャリア溜めとして機能する。この場合は、キャリアの総量が増えるため、逆回復電流(Irp)が増加し、リカバリ波形はソフトになるが、キャリアの排出に時間を要するので、逆回復時間が長くなり、高速スイッチング要件を満たさない。
【0023】
Cは、基板表面から並列pn層の下端の深さまでライフタイムを制御して短くすると、前記Bよりは逆回復電流(Irp)が少なくなるとともに、ソフトリカバリ波形を維持することができ、逆回復時間も短くなるので好ましい。
【0024】
Dは、表面から第1バッファ層の下端の深さまでライフタイムを制御して短くすると、さらに逆回復電流(Irp)Cよりもさらに減らすとともに、ソフトリカバリ波形を維持することができ、逆回復時間もさらに短くなるので好ましい。
【0025】
Eは、基板のすべての層、領域のライフタイムを制御して短くするとキャリア溜めの効果が小さくなり、逆回復電流(Irp2)と逆回復時間(trr2)がともに小さくなり過ぎて、ハードリカバリ波形を示すようになり、振動波形が発生するおそれが生じるので好ましくない。
【0026】
従って、図3に示すA〜Eのキャリアライフタイム分布から、CとDのように、基板表面から並列pn層まで、または第1バッファ層までのライフタイムが制御された超接合MOSFETのリカバリ波形が最も好ましく、高速スイッチングおよび低逆回復損失が得られることが分かる。
【0027】
以上の結果より、実施例1においては超接合MOSFETの逆回復動作の高速化と損失低減を図るとともに、ソフトリカバリ波形化を両立した構造を実現している。
なお、実施例1においては並列pn層の基板断面パターン形状を連続的なpnのストライプ状パターンが交互に接する形状としたが、基板面内に格子状の非連続な断面パターンに配置された並列pn層(言いかえると柱状のpn層が交互に接する形状)としてもよい。
【0028】
また、本発明の実施例1では、高濃度のnドレイン層1上に、n型第2バッファ層2とn型第1バッファ層3を形成した後、並列pn層4を、多数回のエピタキシャル成長とフォリリソグラフィ技術を繰り返し行ない、同パターンで順次並列pn層を積み上げて所要の厚さにする多段エピ方式にて形成した。また、高濃度nドレイン層1上に、n型第2バッファ層2とn型第1バッファ層3と所要の厚さのドリフト層をエピタキシャル成長させた後、異方性エッチングにより、並列pn層の厚さに相当する深さの垂直トレンチを形成し、このトレンチにp型シリコン層をエピタキシャル成長させて並列pn層4を形成するトレンチ埋め込み方式としてもよい。前述のいずれかの方式で作成した並列pn層の表面側に、MOSゲート構造、ソース電極および裏面側のドレイン電極を形成することにより、本発明にかかる実施例1の超接合MOSFETのウェハプロセスがほぼ完成する。また、前述の並列pn層の形成方法、その後のウェハプロセスについても、それらの製造方法は従来公知の製造方法を利用することができる。
【0029】
通常、電力用ダイオードにおいては、キャリアライフタイムを短くする方法として、AuやPtなどの重金属の添加または電子線やプロトンなどの荷電粒子の照射などによりバンドギャップ内に敢えて準位を形成するライフタイムキラーの導入法が一般に用いられる。このようなライフタイムキラーを導入することにより、逆回復動作時にダイオード中のキャリアの消滅を促進し、逆回復時のピーク電流Irpや逆回復時間trrを低減させ逆回復時の損失を低減させることができるからである。超接合MOSFETにおいても、ダイオードを内蔵しているためライフタイムキラーを導入して前記図1(b)から図1(d)に示すキャリアライフタイム分布とすることが高速動作および逆回復損失の低減に有効となる。
【0030】
しかし、超接合MOSFETはその構造上、順阻止状態時にはドリフト層が完全に空乏化してキャリアが枯渇するため、逆回復波形の立ち上がりが急峻となりハードリカバリ波形になりやすい。従来のようなキャリアライフタイムの制御によれば、逆回復損失を低減させることができるが、その場合、リカバリ波形の立ち上がりはさらに急峻になるので、振動波形の発生は解消されない。
【0031】
そこで、本発明の実施例1の超接合MOSFETでは、第1バッファ層の下部に、並列pn層のn型ドリフト領域4aより高濃度の第2バッファ層を形成する。さらにこの第2バッファ層のキャリアライフタイムより第1バッファ層および並列pn層のキャリアライフタイムを短く調整する。キャリアライフタイムをこのように調整することで、初めてハードリカバリ波形の立ち上がりを緩やかに抑えソフトリカバリ波形とすることができる。
【0032】
局所的にライフタイムを制御する方法としては、金や白金などの重金属の添加またはプロトンなどの荷電粒子の照射により行うことができる。ソース領域側の表面から重金属のイオン注入と熱処理により第1バッファ層まで添加することができる。また、ソース電極を形成した後、基板の反対側をグラインドにより研削し、第1バッファ層および第2バッファ層を形成し、その第2バッファ層の表面から重金属のイオンや荷電粒子を照射することができる。また、これらの局所的なライフタイム制御と電子線照射のようなライフタイムが一様になる制御を組み合せることもできる。
【0033】
第2バッファ層の不純物濃度と厚さを調整して、超接合MOSFETの順阻止状態のときでもnドレイン層1に空乏層が到達しないようなキャリア溜めとすることにより、逆回復動作時にもドリフト層内のキャリアが枯渇することなく、逆回復波形の立ち上がりを緩やかにすることが可能となる。
【0034】
さらに、図8(a)は、前述の図1(a)の超接合MOSFETに逆並列接合される別個のpinダイオード402を備える複合半導体装置400の要部断面図である。
このような複合半導体装置とすることによっても、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失を得ることもできる。その場合、pinダイオード402は、ドリフト層401の不純物濃度3.0×1014cm−3、厚さを60.0μmとし、キャリアライフタイム分布を同図(b)に示すように、金や白金のような重金属の添加により、表面側のキャリアライフタイムが短い分布とした。白金を用いると、白金は基板の表面側に偏析し易いので、図8(b)のような表面側のキャリアライフタイムが最も短いような傾斜を有する分布が得られるので好ましい。
このように、別個のpinダイオード402を備える複合半導体装置400とすることにより、pinダイオード402を、超接合MOSFET50の内蔵ダイオード(5−4a)に比べて、設計上の制約を無くすることができる。そのため、内蔵ダイオード(5−4a)よりスイッチング速度が高速であってオン抵抗の小さいpinダイオード402とすることが容易にできるので、前述のような高速スイッチングおよび低逆回復損失を有する本発明の複合半導体装置400が得られる。
【0035】
図4は実施例(図8(a))の複合半導体装置および従来構造(図5(a))の超接合MOSFETの逆回復波形図であり、電源電圧400V、順方向電流20A、逆方向電流の時間変化を100A/μsとして、逆回復動作の電流波形をシミュレーションした結果である。なお、図8(a)の複合半導体装置のライフタイムキラーは、Heを用いて並列pn層のソース側の表面から8μmの深さをピークとした濃度プロファイルと設定した。また、図8(a)のpinダイオード402の活性領域の面積と超接合MOSFET50の活性領域の面積を同じ面積とした。
【0036】
従来構造では、逆回復電流(Irp)、逆回復時間(trr)とも大きく、波形が急峻に立ち上がっているため大きく振動した波形となっている。一方、実施例においては、従来構造に比べ逆回復電流(Irp)、逆回復時間(trr)とも小さく抑えられており、逆回復損失も低減されていることがわかる。また、波形の立ち上がりが緩やかになっているため立ち上がり後にリンギングが発生していない。
【0037】
このように、逆回復動作の高速化と損失低減およびソフトリカバリ化を実現した複合半導体装置を得ることができた。
さらに、前述のpinダイオードに変えて、図9に示すようなショットキーバリアダイオードを超接合MOSFETに並列接合した複合半導体装置とすることによっても、前述のような、逆回復動作時のハードリカバリ波形を緩和して逆回復電流(Irp)と逆回復時間(trr)を低減し、高速スイッチングおよび低逆回復損失が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1 nドレイン層 高濃度第1導電型半導体基板
2 第2バッファ層
3 第1バッファ層
4 並列pn層
4a n型ドリフト領域
4b p型仕切り領域
5 pベース領域
6 pn接合
50 超接合MOSFET
101 IGBT
103 コレクタ接合
201 超接合MOSFET
301 MOSFET
401 ダイオード
402 ライフタイム制御されたダイオード
403 ショットキーバリアダイオード
1000 インバータ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9