(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトを備えるステアリングコラムと、前記ステアリングシャフトに操舵補助力を伝達するウォームを備える減速装置と、前記ウォームを回転する電動モータと、を備え、
前記電動モータは、
一端が開口した筒状であって、開口側の端部を外周の外側へ拡げた端面であるケースフランジを備え、モータロータを内蔵しているモータケースと、
前記モータロータと連動して回転し、前記ウォームに回転軸と同軸で連結される入出力シャフトと、
前記ケースフランジに固定され、かつ前記入出力シャフトが貫通して前記モータケースから露出させるフランジ部材と、を備え、
前記ケースフランジと前記フランジ部材とが少なくとも2つの第1固定領域でケース固定機構により固定されており、
変形可能な弾性体を含み、前記フランジ部材に一部が埋め込まれた弾性部材が、前記第1固定領域とは異なる位置で、前記フランジ部材と対向する前記ケースフランジの対向面に当接し、
前記フランジ部材は、前記減速装置側の対向面から前記電動モータ側の対向面まで突き抜けた貫通孔を備えており、
前記弾性部材は、前記貫通孔に挿入されている、電動パワーステアリング装置。
前記貫通孔は、前記減速装置側の対向面または前記電動モータ側の対向面に露出する外形が、前記貫通孔の外形よりも大きな、前記弾性体の逃げ空間と繋がっている、請求項1から3のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
前記減速装置と前記フランジ部材とが少なくとも2つの第2固定領域でギヤボックス固定機構により固定されており、前記第2固定領域は、前記第1固定領域と異なる位置にある請求項1から4のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
前記回転軸と平行な方向において前記ケースフランジと前記フランジ部材とが重なり合う範囲であり、かつ周方向にみて前記第1固定領域同士の間に、複数の前記弾性部材が配置されている請求項1から6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
前記減速装置と前記フランジ部材とが少なくとも2つの第2固定領域でギヤボックス固定機構により固定されており、前記第2固定領域は、前記第1固定領域と異なる位置にある請求項10から13のいずれか1項に記載の電動モータ。
前記回転軸と平行な方向において前記ケースフランジと前記フランジ部材とが重なり合う範囲であり、かつ周方向にみて前記第1固定領域同士の間に、複数の前記弾性部材が配置されている請求項10から15のいずれか1項に記載の電動モータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1の電動パワーステアリング装置のウォーム減速機構は、ウォームの歯打音抑制のため、モータ結合部側軸受を支点として、ウォームが一方向(上下方向)に動くようにウォームをホイールに当接させている。ウォームの動きにより、ウォームとモータ側との結合部、例えばスプライン嵌合、またはカップリング接続部にも同じ一方向(上下方向)の力が作用する。このため、フランジ部材を支点として、モータ内のリヤ側軸受に対して上述したウォームの一方向(上下方向)の動きと連動する力がモータに発生する。このように、電動モータがステアリングシャフトに操舵補助力を伝達する際、ウォーム減速機構のウォーム及びウォームホイールの噛合い反力が、出力軸を介して電動モータのモータケースに内蔵されたモータロータに振れ回り力として伝達される。
【0005】
特許文献1に開示された技術は、モータケースがフランジ部材に固定され、取付けケースフランジ間でモータ中心軸に線対称配置され、かつ、当接ケースフランジが取付けケースフランジと同一平面で、モータケースの開口部端面で外方に膨出し、前記フランジ部材に当接する。モータケースが、2つの固定領域のケース固定機構を支点として倒れようとしても、当接フランジがモータケースの倒れ挙動を抑制する。したがって、モータケースの倒れ挙動が抑制されることからモータケース内のモータロータの回転動作に与える影響が小さくなる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、モータケースの倒れ挙動をより抑制することが望まれている。例えば、モータケースの固定力が一番小さい位置にモータケースを揺する力が作用する場合、フランジ部材とケースフランジとの間の隙間が変化し、モータケース端面とフランジ端面との当接が発生する可能性がある。その結果、モータケース端面とフランジ端面との当接音(異音)が発生する可能性がある。モータケース端面とフランジ端面との当接音(異音)を抑制するため、モータケースとフランジとのケース固定機構の数を3点以上にすると、部品点数が増え、モータ周囲の空間の占有率が増加し搭載性が低下するとともに、組み立て工数の増加を招く可能性がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、減速装置とモータとの結合部で一方向に力が作用する場合、モータケース端面とフランジ端面との当接音を抑制できる電動パワーステアリング装置及び電動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、電動パワーステアリング装置は、操舵トルクが伝達されるステアリングシャフトを備えるステアリングコラムと、前記ステアリングシャフトに操舵補助力を伝達するウォームを備える減速装置と、前記ウォームを回転する電動モータと、を備え、前記電動モータは、一端が開口した筒状であって、開口側の端部を外周の外側へ拡げた端面であるケースフランジを備え、モータロータを内蔵しているモータケースと、前記モータロータと連動して回転し、前記ウォームに回転軸と同軸で連結される入出力シャフトと、前記ケースフランジに固定され、かつ前記入出力シャフトが貫通して前記モータケースから露出させるフランジ部材と、を備え、前記ケースフランジと前記フランジ部材とが少なくとも2つの第1固定領域でケース固定機構により固定されており、変形可能な弾性体を含み、前記フランジ部材に一部が埋め込まれた弾性部材が、前記第1固定領域とは異なる位置で、前記フランジ部材と対向する前記ケースフランジの対向面に当接していることを特徴とする。
【0009】
弾性部材がある位置では、ラジアル方向のモータ固定力の分布が変わる。これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ全体が倒れる挙動が発生し、モータケースの固定力が一番小さい位置にモータケースを揺する力が作用する場合、フランジ部材とケースフランジとの間の隙間が変化しても、弾性部材がある位置でケースフランジとフランジ部材とが当接することを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置は、ケース固定機構を追加しなくても、フランジ部材とケースフランジとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制できる。その結果、電動パワーステアリング装置は、作動音が低減し、操作者に対して快適な操舵感を与えることができる。
【0010】
また、電動モータは、第1固定領域として、ケースフランジの面積を広げる箇所を低減できるので、電動モータの周囲の部材の干渉を抑制できる。このため、電動パワーステアリング装置は、車両への搭載性を高めることができる。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、電動モータは、モータロータと連動して回転し、ウォームホイールと噛合わされたウォームに回転軸と同軸で連結される入出力シャフトを有する電動モータであって、一端が開口した筒状であって、開口側の端部を外周の外側へ拡げた端面であるケースフランジを備え、前記モータロータを内蔵しているモータケースと、前記ケースフランジに固定され、かつ前記入出力シャフトが貫通して前記モータケースから露出させるフランジ部材と、を備え、前記ケースフランジと前記フランジ部材とが少なくとも2つの第1固定領域でケース固定機構により固定されており、変形可能な弾性体を含み、前記フランジ部材に一部が埋め込まれた弾性部材が、前記第1固定領域とは異なる位置で、前記フランジ部材と対向する前記ケースフランジの対向面に当接していることを特徴とする。
【0012】
弾性部材がある位置では、ラジアル方向のモータ固定力の分布が変わる。これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ全体が倒れる挙動が発生し、モータケースの固定力が一番小さい位置にモータケースを揺する力が作用する場合、フランジ部材とケースフランジとの間の隙間が変化しても、弾性部材がある位置でケースフランジとフランジ部材とが当接することを抑制することができる。このため、電動モータは、ケース固定機構を追加しなくても、フランジ部材とケースフランジとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制できる。また、電動モータは、第1固定領域として、ケースフランジの面積を広げる箇所を低減できるので、電動モータの周囲の部材の干渉を抑制できる。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記フランジ部材は、前記減速装置側の対向面から前記電動モータ側の対向面まで突き抜けた貫通孔を備えており、前記弾性部材は、前記貫通孔に挿入されていることが好ましい。これにより弾性部材は、減速装置側の対向面及び電動モータ側の対向面の両方に押圧力を加えることができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記貫通孔に挿入する前の前記弾性部材の長さは、前記減速装置側の対向面から前記電動モータ側の対向面までの前記フランジ部材の長さよりも大きいことが好ましい。
【0015】
これにより、弾性部材がフランジ部材のモータ側面とケースフランジとで圧縮されると、フランジ部材とケースフランジとが当接する前に、弾性部材が反発し、フランジ部材とケースフランジとを離すことができる。その結果、フランジ部材とケースフランジとの間の隙間が変化しても、弾性部材がある位置でケースフランジとフランジ部材とが当接することを抑制することができる。
【0016】
本発明の望ましい態様として、前記弾性部材は、前記回転軸と平行な方向に垂直な面で切った断面において、周方向の長さが、径方向の長さよりも長いことが好ましい。これにより、弾性体は、弧状または長方形になる。そして、電動モータは、フランジ部材とケースフランジの径方向の大きさを抑制しても、弾性体の周方向の長さを確保することで、弾性体が生じる弾性力の大きさを確保することができる。
【0017】
本発明の望ましい態様として、前記貫通孔は、前記減速装置側の対向面または前記電動モータ側の対向面に露出する外形が、前記貫通孔の外形よりも大きな、前記弾性体の逃げ空間と繋がっていることが好ましい。
【0018】
これにより、弾性部材は、減速装置ハウジングとフランジ部材との間、またはフランジ部材とケースフランジとの間で、弾性体がつぶされ、変形する。逃げ空間は、弾性体の変形を許容し、減速装置ハウジングとフランジ部材との間、またはフランジ部材とケースフランジとの間に、変形した弾性体の一部が入り込み余計な隙間をかえって生じる可能性を抑制することができる。
【0019】
本発明の望ましい態様として、前記減速装置と前記フランジ部材とが少なくとも2つの第2固定領域でギヤボックス固定機構により固定されており、前記第2固定領域は、前記第1固定領域と異なる位置にあることが好ましい。これにより、ギヤボックス固定機構により固定されることで、弾性部材は、減速装置側の対向面及び電動モータ側の対向面の両方に押圧力を加えることができる。
【0020】
本発明の望ましい態様として、前記フランジ部材は、周方向に複数の前記貫通孔を備え、前記ケースフランジと同一平面で、前記第1固定領域同士を結ぶ第1仮想線が前記回転軸を通過し、かつ複数の前記貫通孔のうち少なくとも一対の貫通孔同士を結ぶ第2仮想線が前記回転軸を通過し、前記第1仮想線と前記第2仮想線とが直交していることが好ましい。
【0021】
これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ全体が倒れる挙動を抑制する効果を高めることができる。
【0022】
本発明の望ましい態様として、前記回転軸と平行な方向において前記ケースフランジと前記フランジ部材とが重なり合う範囲であり、かつ周方向にみて前記第1固定領域同士の間に、複数の前記弾性部材が配置されていることが好ましい。
【0023】
これにより、フランジ部材とケースフランジとの間の隙間を抑制し、弾性部材がある位置でケースフランジとフランジ部材とが当接することを抑制することができる。
【0024】
本発明の望ましい態様として、前記フランジ部材は、周方向に複数の前記貫通孔を備え、前記ケースフランジと同一平面で、前記第2固定領域同士を結ぶ第3仮想線が前記回転軸を通過し、かつ複数の前記貫通孔のうち少なくとも一対の貫通孔同士を結ぶ第4仮想線が前記回転軸を通過し、前記第3仮想線と前記第4仮想線とが直交していることが好ましい。
【0025】
これにより、2つの第2固定領域の固定点を支点として電動モータ全体が倒れる挙動を抑制する効果を高めることができる。
【0026】
本発明の望ましい態様として、複数の前記弾性部材のうち、前記第1固定領域までの距離が大きい弾性部材は、前記第1固定領域までの距離が小さい弾性部材よりも弾性力が大きいことが好ましい。これにより、2つの固定領域の固定点を支点として電動モータ全体が倒れる挙動を抑制する効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、減速装置とモータとの結合部で一方向に力が作用する場合、モータケース端面とフランジ端面との当接音を抑制できる電動パワーステアリング装置及び電動モータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0030】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電動モータを備える電動パワーステアリング装置の構成図である。
図2は、電動モータの周囲の操舵力アシスト機構を模式的に示す説明図である。
図3は、
図2に示す操舵力アシスト機構の内部構造を模式的に示す説明図である。
図4は、実施形態1に係る電動モータ及び減速装置の一例を説明する説明図である。
図3及び
図4は、構造の一部を部分的に断面として示してある。
図1から
図4を用いて、電動モータ10を備える電動パワーステアリング装置80の概要を説明する。
【0031】
<電動パワーステアリング装置>
電動パワーステアリング装置80は、操舵者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ステアリングギヤ88と、タイロッド89とを備える。また、電動パワーステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ91aとを備える。車速センサ91bは、車両に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU90に入力する。
【0032】
ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを含む。入力軸82aは、一方の端部がステアリングホイール81に連結され、他方の端部がトルクセンサ91aを介して操舵力アシスト機構83に連結される。出力軸82bは、一方の端部が操舵力アシスト機構83に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、鉄等の磁性材料から形成される。
【0033】
ロアシャフト85は、一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87は、一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0034】
ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを含む。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ラックアンドピニオン形式として構成される。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。タイロッド89は、ラック88bに連結される。
【0035】
操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ(モータ)10とを含む。なお、電動モータ10は、いわゆる、ブラシレスモータを例示して説明するが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備える電動モータであってもよい。減速装置92は、出力軸82bに連結される。電動モータ10は、減速装置92に連結され、かつ、補助操舵トルクを発生させる電動機である。なお、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングシャフト82と、トルクセンサ91aと、減速装置92とによりステアリングコラムが構成されている。電動モータ10は、ステアリングコラムの出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、本実施形態の電動パワーステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0036】
コラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置80は、操作者と電動モータ10との距離が比較的近く、電動モータ10が車室内の運転者の足元近くに配置されているので、制御ユニットの筐体が、電動モータ10近傍で生じる音を増幅し、操舵者に影響を与える可能性がある。このため、電動パワーステアリング装置80では、電動モータ10近傍で生じる音を抑制することが、より快適なアシスト操作に寄与することになる。
【0037】
図2及び
図3に示すように、電動パワーステアリング装置80の操舵力アシスト機構83は、ECU90及び電動モータ10などの各部を支持する機構として、ステアリングコラム51と、アッパ取り付けブラケット52と、ロア取り付けブラケット54と、を有する。ステアリングコラム51は、入力軸82aを回転自在に内装する。ステアリングコラム51は、減速装置92との連結部にコラプス時の衝撃エネルギーを吸収して所定のコラプスストロークを確保する内管及び外管で構成された2重管構造となっている。
【0038】
アッパ取り付けブラケット52は、ステアリングコラム51の外管及び減速装置92の鉛直方向上側に配置されている。アッパ取り付けブラケット52は、車体に取付けられ、ステアリングコラム51の外管及び減速装置92を支持している。アッパ取り付けブラケット52は、車体側部材(図示せず)に取付けられる取付板部と、この取付板部に一体に形成された方形枠状支持部と、ステアリングコラム51の外管を支持するチルト機構と、を備えている。チルト機構は、方形枠状支持部に形成されている。
【0039】
アッパ取り付けブラケット52の取付板部は、車体側部材に取付けられる左右一対のカプセルと、これらカプセルに樹脂インジェクションによって固定された摺動板部と、で構成されている。取付板部は、衝突時にステアリングコラム51を車体前方に移動させる衝撃力が作用することにより、カプセルに対して摺動板部が車体前方に摺動して樹脂インジェクションが剪断され、その剪断荷重がコラプス開始荷重となるように構成されている。
【0040】
チルト機構のチルトレバー53を回動させることにより、支持状態が解除される。この操作により、ステアリングコラム51をロア取り付けブラケット54の枢軸を中心として上下にチルト位置が調整可能とされている。
【0041】
ロア取り付けブラケット54は、ステアリングコラム51の外管及び減速装置92の鉛直方向下側に配置されている。ロア取り付けブラケット54は、車体に取付けられ、ステアリングコラム51の外管及び減速装置92を支持している。ロア取り付けブラケット54は、車体側部材(図示せず)に取付けられる取付板部と、この取付板部の下面に所定間隔を保って平行に延長する一対の支持板部と、で形成されている。そして、ロア取り付けブラケット54は、支持板部の先端が、減速装置92の減速装置ハウジング93の下端側即ち車体前方側に形成された部分に枢軸を介して回動自在に連結されている。
【0042】
また、電動モータ10は、減速装置92の側面(ステアリングシャフト82の回転軸に平行かつ鉛直方向に平行な面)に設けられており、減速装置92の減速装置ハウジング93に固定されている。
【0043】
ステアリングシャフト82は、
図2及び
図3に示すように、入力軸82aと、出力軸82bと、入力軸82aと出力軸82bとを連結する連結軸(トーションバー)82cと、を有する。ステアリングシャフト82は、入力軸82aに入力された回転が、連結軸82cを介して出力軸82bに伝達する。
【0044】
(減速装置)
図3及び
図4に示すように、減速装置92は、ウォーム減速装置であり、減速装置ハウジング93と、ウォーム94と、玉軸受95aと、玉軸受95bと、ウォームホイール96と、ホルダ97とを備える。
【0045】
ウォーム94は、電動モータ10の入出力シャフト21にスプライン、または弾性カップリングで結合する。ウォーム94は、玉軸受95aと、ホルダ97に保持された玉軸受95bとで回転自在に減速装置ハウジング93に保持されている。ウォームホイール96は、減速装置ハウジング93に回転自在に保持される。ウォーム94の一部に形成されたウォーム歯94aは、ウォームホイール96に形成されているウォームホイール歯96aに噛み合う。
【0046】
減速装置ハウジング93は、減速ギヤボックスと呼ばれ、高熱伝導性を有する材料例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金の何れか1つを例えばダイキャスト成型されている。
【0047】
電動モータ10の回転力は、ウォーム94を介してウォームホイール96に伝達されて、ウォームホイール96を回転させる。減速装置92は、ウォーム94及びウォームホイール96によって、電動モータ10のトルクを増加する。そして、減速装置92は、
図1に示すステアリングコラムの出力軸82bに補助操舵トルクを与える。減速装置92は、ウォーム94の歯打音抑制のため、後述するモータ結合部側軸受を支点として、ウォーム94が一方向、つまり
図2に示すウォーム変位方向FWに動くようにウォーム94をウォームホイール96に当接させている。ウォームホイール96の動きにより、ウォーム94とモータ側との結合部、例えばスプライン嵌合、または弾性カップリングにも同じ一方向(上下方向)の力が作用する。このため、後述するフランジ部材を支点として、電動モータ10内のリヤ側軸受に対して上述したウォーム変位方向FWの動きと連動する力が電動モータ10に発生する。
【0048】
図1に示すトルクセンサ91aは、ステアリングホイール81を介して入力軸82aに伝達された運転者の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ91bは、電動パワーステアリング装置80が搭載される車両の走行速度(車速)を検出する。ECU90は、電動モータ10と、トルクセンサ91aと、車速センサ91bと電気的に接続される。
【0049】
(制御ユニット:ECU)
ECU90は、電動モータ10の動作を制御する。また、ECU90は、トルクセンサ91a及び車速センサ91bのそれぞれから信号を取得する。すなわち、ECU90は、トルクセンサ91aから操舵トルクTを取得し、かつ、車速センサ91bから車両の車速信号Vを取得する。ECU90は、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置(例えば車載のバッテリ)99から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクTと車速信号Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ10へ供給する電力値Xを調節する。ECU90は、電動モータ10から誘起電圧の情報または後述するレゾルバ等のロータの回転の情報を動作情報Yとして取得する。
【0050】
ステアリングホイール81に入力された操舵者(運転者)の操舵力は、入力軸82aを介して操舵力アシスト機構83の減速装置92に伝わる。この時に、ECU90は、入力軸82aに入力された操舵トルクTをトルクセンサ91aから取得し、かつ、車速信号Vを車速センサ91bから取得する。そして、ECU90は、電動モータ10の動作を制御する。電動モータ10が作り出した補助操舵トルクは、減速装置92に伝えられる。
【0051】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してロアシャフト85に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、操舵輪を転舵させる。次に、電動モータ10について説明する。
【0052】
<電動モータ>
図4に示す、実施形態1に係る電動モータ10は、回転軸を含む仮想断面で切った場合の模式的な断面が示されている。
図4に示すように、電動モータ10は、モータケース11と、リヤ側軸受13と、レゾルバ14と、モータロータ20と、電動モータ用ステータとしてのステータ30とを備える。
【0053】
実施形態1に係る電動モータ10は、筒状ハウジング11aと、フランジ部材12とを含む。フランジ部材12は、略円板状に形成されて筒状ハウジング11aの一方の開口端部を閉塞するように筒状ハウジング11aの端部のケースフランジ11bと対向させて取り付けられる。実施形態1に係る電動モータ10の筐体であるモータケース11は、筒状ハウジング11aと、フランジ部材12とは反対側の端部に、この端部を閉塞するように底部が形成される。底部は、例えば、筒状ハウジング11aと一体に形成される。筒状ハウジング11aを形成する磁性材料としては、例えばSPCC(Steel Plate Cold Commercial)等の一般的な鋼材や、電磁軟鉄等が適用できる。また、フランジ部材12は、電動モータ10を所望の機器(実施形態1では減速装置92)に取り付ける役割を果たしている。
【0054】
リヤ側軸受13は、筒状ハウジング11aの内側であって、底部の略中央部分に設けられる。リヤ側軸受13は、筒状ハウジング11aの内側に配置されたモータロータ20の一部である入出力シャフト21の一端を回転可能に支持する。これにより、入出力シャフト21は、回転軸Zrを中心に回転する。筒状ハウジング11aの内側であって、フランジ部材12の略中央部分には、フロント側軸受(図示省略)が設けられてもよい。フロント側軸受は、入出力シャフト21を回転可能に支持する。
【0055】
ステータ30は、筒状ハウジング11aの内部にモータロータ20を包囲するように筒状に設けられる。ステータ30は、筒状ハウジング11aの内周面11dに例えば嵌合されて取り付けられる。ステータ30の中心軸は、モータロータ20の回転軸Zrと一致する。ステータ30は、筒状のステータコア31と、励磁コイル37とを含む。ステータ30は、ステータコア31に励磁コイル37が巻きつけられる。電動モータ10とECU90とは、電気導電性を有する金属の板状部材で構成したバスバーを介して電気的に接続されている。そして、バスバーは、ECU90の制御信号に応じた電力を励磁コイル37に供給する端子台15を介して供給している。
【0056】
ステータコア31は、電磁鋼板などの磁性材料で形成され、略同形状に形成された複数のコア片が回転軸Zr方向に積層されて束ねられる複数の分割コアを含む。複数の分割コアは、回転軸Zrを中心とした周方向に等間隔で並んで配置される。以下、回転軸Zrを中心とした周方向を単に周方向という。そして、ステータコア31が筒状ハウジング11a内に圧入されることで、ステータ30は、環状の状態で筒状ハウジング11aの内部に設けられる。筒状ハウジング11aは、プレス加工(深絞り加工)により形成されており、ステータコア31が筒状ハウジング11a内に圧入されても、ステータコア31に生じる歪みが抑制されるよう、筒状ハウジング11aの厚みがステータコア31のバックヨークの厚み以下であり、例えば、板厚が1mm以上5mm以下であることが好ましい。ケースフランジ11bは、筒状ハウジング11aとともに、プレス加工(深絞り加工)により形成され、板厚が5mm以下に制限される。このため、ケースフランジ11bは、板厚が制約されるので、剛性には上限がある。また、ケースフランジ11bは、切削を加えて端面部の精度を高めても、ステータコア31が筒状ハウジング11a内に圧入されて生じる加工応力により、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間に隙間を生じる可能性がある。この隙間は、例えば数十μm程度である。なお、ステータコア31と筒状ハウジング11aとは、圧入の他に接着、焼き嵌めまたは溶接等によって固定されてもよい。
【0057】
励磁コイル37は、線状の電線である。励磁コイル37は、ステータコア31の外周に励磁コイルインシュレータ37aを介して集中巻きされる。この構成により、磁極数を低減でき、かつ分布巻きに比較してコイルエンドが短くなることからコイル量を低減できる。その結果、コストを低減でき、電動モータ10をコンパクトとすることができる。励磁コイル37は、分割コアのティースの複数の外周に分布巻きされていてもよい。この構成により、磁極数が増え、磁束の分布が安定することからトルクリップルを抑制することができる。励磁コイル37は、分割コアのバックヨークの外周にトロイダル巻きされていてもよい。
【0058】
励磁コイルインシュレータ37aは、励磁コイル37とステータコア31とを絶縁するための部材であり、耐熱部材で形成される。このように、ステータ30は、モータロータ20を包囲できる形状となる。つまり、ステータコア31は、後述するロータヨーク22の外側に所定の間隔を有して環状に配置される。
【0059】
モータロータ20は、筒状ハウジング11aに対して回転軸Zrを中心に回転できるように、筒状ハウジング11aの内部に設けられる。モータロータ20は、入出力シャフト21と、ロータヨーク22と、マグネット23とを含む。入出力シャフト21は、筒状に形成される。ロータヨーク22は、筒状に形成される。なお、ロータヨーク22は、外周が円弧状である。
【0060】
ロータヨーク22は、電磁鋼板、冷間圧延鋼板などの薄板が、接着、ボス、カシメなどの手段により積層されて製造される。ロータヨーク22は、順次金型の型内で積層され、金型から排出される。ロータヨーク22は、例えばその中空部分に入出力シャフト21が圧入されて入出力シャフト21に固定される。なお、入出力シャフト21とロータヨーク22とは、一体で成型されてもよい。
【0061】
マグネット23は、ロータヨーク22の外周に周方向に沿って埋め込まれ、複数設けられている。マグネット23は、永久磁石であり、S極及びN極がロータヨーク22の周方向に交互に等間隔で配置される。
【0062】
レゾルバ14は、モータロータ20(入出力シャフト21)の回転位置を検出する。レゾルバ14は、レゾルバロータ14aと、レゾルバステータ14bとを備える。レゾルバロータ14aは、例えば入出力シャフト21の円周面に圧入等で取り付けられる。レゾルバステータ14bは、レゾルバロータ14aに所定間隔の空隙を介して対向して配置される。レゾルバステータ14bは、電磁鋼板などの磁性材料で形成され、略同形状に形成された複数のコア片が回転軸Zr方向に積層されて束ねられる複数相のレゾルバステータコアと、レゾルバステータコアを巻回するレゾルバコイルと、レゾルバステータコアとレゾルバコイルとを絶縁するレゾルバインシュレータと、を含む。
【0063】
レゾルバロータ14aは、電磁鋼板などの磁性材料で形成された円環状のロータ鉄心を有している。そして、レゾルバロータ14aは、ロータ鉄心の内径中心が回転軸Zrと一致している。レゾルバロータ14aは、ロータ鉄心の外径中心がロータ鉄心の内径中心から一定の偏心量だけ偏心するようにロータ鉄心の外径を変化させている。ロータ鉄心が回転すると、所定位置でのレゾルバステータ14bのレゾルバステータコアの内径と、ロータ鉄心の外径との距離が変化する。これにより、ロータ鉄心の外径とレゾルバステータコアとの空隙の距離が変化する。その結果、ロータ鉄心の回転は、ロータ鉄心とステータ鉄心とのリラクタンスを変化させる。このレゾルバロータ14aと、レゾルバステータ14bとのリラクタンスの変化を利用して回転位置を検出するレゾルバ装置は、バリアブルリラクタンス型レゾルバと呼ばれ、リラクタンスの変化に応じて電流値が変化したレゾルバ信号が出力される。このレゾルバ信号がモータロータ20の回転の情報となり、上述した動作情報Y(
図1参照)となる。ECU90は、レゾルバ信号からモータロータ20の回転角または回転回数を演算することができる。
【0064】
フランジ部材12は、高熱伝導性を有する材料例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム及びマグネシウム合金の何れか1つを例えばダイキャスト成型されている。なお、フランジ部材12は、樹脂で成形されていてもよい。フランジ部材12は、筒状ハウジング11aの内側に挿入可能なインロー12aを備えており、モータ側対向面12bよりも突出した形状が周方向に環状になっている。インロー12aは、筒状ハウジング11aの内側に挿入されることで、フランジ部材12と筒状ハウジング11aとの位置を規制する位置決め部である。インロー12aは、周方向に環状な突出部でなくてもよく、例えば、複数のインロー12aが、周方向に点在していてもよい。複数のインロー12aが、周方向に点在する場合、インロー12aは等間隔で配置されていることが好ましい。この構造により、フランジ部材12と筒状ハウジング11aとの位置を規制する力を均一にすることができる。
【0065】
上述したように、実施形態1に係る電動モータ10は、フランジ部材12と、ケースフランジ11bと対向させて取り付けられる。フランジ部材12と、ケースフランジ11bとの間には、弾性部材40が挟まれている。
図5は、実施形態1に係る電動モータのモータケースの底部側からみて、第1固定領域及び第2固定領域の位置を模式的に示す平面図である。
図7に示すように、ケースフランジ11bは、筒状ハウジング11aがテーパ部11cを介して、フランジ部材12のモータ側対向面12bと出来るだけ平行になるように、外形が広がるように延在している。
【0066】
図6は、実施形態1に係る電動モータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図7は、実施形態1に係るフランジ部材の貫通孔を模式的に示す断面図である。
図6に示す電動モータ10の製造方法は、電動モータ10のモータケース11と、フランジ部材12とを用意し、電動モータのケースフランジ11bと、フランジ部材12とを対向させ、固定する工程を行う(ステップS1)。
図5に示すように、フランジ部材12は、モータケース11と、ケース固定機構H1で固定されている。ケース固定機構H1は、例えば、ケースフランジ11bの取付孔を貫通し、フランジ部材12の雌ねじと、当該雌ねじと螺合結合する雄ねじとを含む、締結構造である。ケース固定機構H1は、ケースフランジ11bと、フランジ部材12とを固定できればよく、例えばカップリング結合でもよい。
【0067】
図7に示すようにフランジ部材12は、減速装置92側の対向面12cから電動モータ側のモータ側対向面12bまで突き抜けた貫通孔12hを備えている。
図8は、実施形態1に係るフランジ部材の貫通孔に弾性体を挿入した状態を模式的に示す断面図である。
図9は、実施形態1に係るフランジ部材と減速装置の減速装置ハウジングとを固定した状態を模式的に示す断面図である。
図10は、実施形態1に係る電動モータ側からみて、弾性部材の位置を模式的に示す平面図である。
図4に示す位置Qは、
図10に示す弾性部材40の位置に相当する。
【0068】
図6に示すように、実施形態1に係る電動モータの製造方法は、次に、弾性体41を貫通孔12hへ、減速装置92側の対向面12cから挿入する(ステップS2)。
図4、
図8、
図9及び
図10に示すように、実施形態1に係る弾性部材40の弾性体41は、例えばゴム材料またはエラストマー材料で成形されている。ゴム材料またはエラストマー材料は、例えば、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴムなどである。
【0069】
実施形態1に係る弾性部材40は、貫通孔12hに挿入する前の弾性部材の長さD2は、減速装置側の対向面12cから電動モータ側のモータ側対向面12bまでのフランジ部材12の長さD1よりも大きい。そして、
図10に示すように、実施形態1に係る弾性部材40は、フランジ部材12の回転軸Zrの中心に点対称の位置に2箇所穿つように設けられている。弾性部材40は、
図7に示す貫通孔12hに弾性体41の一部が埋め込まれている。
【0070】
図10に示すように、弾性体41は、回転軸Zrと平行な方向に垂直な面で切った断面において、周方向の長さが、径方向の長さよりも長い。これにより、弾性体41は、弧状または長方形になる。そして、電動モータ10は、フランジ部材12とケースフランジ11bの径方向の大きさを抑制しても、弾性体41の周方向の長さを確保することで、弾性体41が生じる弾性力の大きさを確保することができる。なお、弾性体41は、回転軸Zrと平行な方向に垂直な面で切った断面において、円形、楕円、正方形、六角形などの多角形であってもよい。
【0071】
図6及び
図9に示すように、実施形態1の電動モータ10の製造方法は、減速装置とフランジ部材12とを少なくとも2つの第2固定領域でギヤボックス固定機構H3により固定する(ステップS3)。これにより、フランジ部材12の減速装置側の対向面12cが減速装置ハウジング93の電動モータ側の対向面93aと密着する。
【0072】
なお、フランジ部材12は、ケース固定機構H1(第1固定領域)とは重ならない位置に、ギヤボックス固定機構H3を備えている。ギヤボックス固定機構H3も、減速装置ハウジング93に設けられた雌ねじと、フランジ部材12を貫通する取付孔を介して、当該雌ねじと螺合結合する雄ねじとを含む、締結構造である。ギヤボックス固定機構H3は、減速装置ハウジング93とフランジ部材12とを固定できれば、カップリング結合でもよい。ギヤボックス固定機構H3は、減速装置ハウジング93とフランジ部材12とを固定することで、弾性体41を圧縮する。
【0073】
実施形態1に係る弾性部材40は、貫通孔12hに挿入する前の弾性体41(弾性部材)の長さD2が、減速装置側の対向面12cから電動モータ側のモータ側対向面12bまでのフランジ部材12の長さD1よりも大きいので、減速装置ハウジング93とフランジ部材12との間に弾性体41の押圧力(弾性力)が作用するとともに、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間にも弾性体41の押圧力(弾性力)が作用する。
【0074】
図5に示すように、ケース固定機構H1が固定する2つの第1固定領域と回転軸Zrとを結んだケース固定剛性ラインL1は、ケースフランジ11bと、フランジ部材12を固定する固定力が強く作用する、第1仮想線となる。回転軸Zrを通過し、かつケース固定剛性ラインL1と直交するケース固定剛性ラインL2では、ケース固定機構H1の固定する力が作用しにくい傾向にある。そして、上述したように、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間の隙間が、
図2に示すウォーム変位方向FWに動くことでフランジ部材12とケースフランジ11bとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性がある。例えば、コラムへのモータ搭載位置によって、ケース固定機構H1が固定する2つの第1固定領域と回転軸Zrとを結んだケース固定剛性ラインL1と、ウォーム94の動きのウォーム変位方向FWとが略直交する場合、モータケース11の固定力が一番小さい位置にモータケースを揺する力がより大きく作用する可能性がある。そこで、実施形態1に係る電動モータ10は、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間に、弾性部材40を介在させ、
図2に示すウォーム変位方向FWに動くことでフランジ部材12とケースフランジ11bとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制している。
【0075】
図9に示すように、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間の隙間に配置され、弾性部材40は、弾性を有する材料で形成される。弾性体41がフランジ部材12のモータ側対向面12bとケースフランジ11bとで圧縮されると、フランジ部材12とケースフランジ11bとが当接する前に、弾性体41が反発し、フランジ部材12とケースフランジ11bとを離すことができる。2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ10全体が倒れる挙動が発生し、モータケース11の固定力が一番小さい位置にモータケース11を揺する力が作用する場合、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間の隙間が変化しても、弾性部材40が変化を抑制できる。このため、
図5に示すケース固定機構H2を追加しなくても、実施形態1に係る電動モータ10は、フランジ部材12とケースフランジ11bとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制できる。その結果、部品点数を抑制し、電動モータ10の周囲の空間の占有率が減少して、電動パワーステアリング装置80の車両への搭載性が向上する。そして、電動パワーステアリング装置80は、組み立て工数が抑制され、低コストになる。
【0076】
上述したように、実施形態1に係る電動パワーステアリング装置80は、操舵トルクが伝達されるステアリングシャフト82を備えるステアリングコラム51と、ステアリングシャフト82に操舵補助力を伝達するウォーム94を備える減速装置と、ウォーム94を回転する電動モータ10と、を備えている。実施形態1に係る電動モータ10は、一端が開口した筒状であって、開口側の端部を外周の外側へ拡げた端面であるケースフランジ11bを備え、モータロータ20を内蔵しているモータケース11と、モータロータ20と連動して回転し、ウォーム94に連結される入出力シャフト21と、ケースフランジ11bに固定され、かつ入出力シャフト21が貫通してモータケース11から露出させるフランジ部材12と、を備えている。ケースフランジ11bとフランジ部材12とは、少なくとも2つの第1固定領域の位置でケース固定機構H1により、固定されている。弾性部材40は、変形可能な弾性体41を含み、フランジ部材12に一部が埋め込まれ、ケース固定機構H1がある第1固定領域とは異なる位置で、フランジ部材12と対向するケースフランジ11bの対向面に当接している。
【0077】
弾性部材40の弾性体41が当接する位置では、ラジアル方向のモータ固定力の分布が変わる。これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ10全体が倒れる挙動が発生し、モータケース11の固定力が一番小さい位置にモータケース11を揺する力が作用する場合、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間の隙間が変化しても、弾性部材40の弾性体41がある位置でケースフランジ11bとフランジ部材12とが当接することを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、ケース固定機構H2を追加しなくても、フランジ部材12とケースフランジ11bとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制できる。
【0078】
また、電動モータ10は、第1固定領域として、ケースフランジの面積を広げる箇所を低減できるので、電動モータ10の周囲の部材の干渉を抑制できる。このため、電動パワーステアリング装置80は、車両への搭載性を高めることができる。
【0079】
図7に示すように、上述した貫通孔12hは、減速装置側の対向面12cまたは電動モータ側のモータ側対向面12bに露出する外形が、貫通孔12hの外形よりも大きな、弾性体41の逃げ空間12nと繋がっている。弾性部材40は、減速装置ハウジング93とフランジ部材12との間、またはフランジ部材12とケースフランジ11bとの間で、弾性体41がつぶされ、変形する。逃げ空間12nは、弾性体41の変形を許容し、減速装置ハウジング93とフランジ部材12との間、またはフランジ部材12とケースフランジ11bとの間に、変形した弾性体41の一部が入り込み余計な隙間をかえって生じる可能性を抑制することができる。
【0080】
上述したように、フランジ部材12は、周方向に複数の貫通孔12hを備え、ケースフランジ11bと同一平面で、ケースフランジ11bと同一平面で、前記第1固定領域同士を結ぶ第1仮想線である、ケース固定剛性ラインL1が回転軸Zrを通過し、かつ複数の弾性体41(貫通孔12h)のうち少なくとも一対の弾性体41(貫通孔12h)同士を結ぶ第2仮想線である、ケース固定剛性ラインL2が回転軸Zrを通過し、ケース固定剛性ラインL1とケース固定剛性ラインL2とが直交していることが好ましい。これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ10全体が倒れる挙動を抑制する効果を高めることができる。
【0081】
電動パワーステアリング装置80は、上述した電動モータ10により補助操舵トルクを得る。また、電動パワーステアリング装置80は、電動モータ10の周囲の異音を低減することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、操舵者が違和感を抑制した状態で、車両を操作させることができる。その結果、電動パワーステアリング装置80は、作動音が低減し、操作者に対して快適な操舵感を与えることができる。
【0082】
(実施形態2)
図11は、実施形態2に係る電動モータ側からみて、弾性部材の位置を模式的に示す平面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0083】
図11に示すように、フランジ部材12には、回転軸Zrと平行な方向においてケースフランジ11bとフランジ部材12とが重なり合う範囲であり、かつ2つの固定機構H1で固定する固定領域同士の間に、複数の弾性部材40であって、弾性体41a、41b及び41cが埋め込まれている。弾性体41a、41b及び41cは、上述した弾性体41と同じ構造を有している。
図11に示す弾性体41a、41b及び41cの位置には、上述した
図7に示すフランジ部材12の貫通孔12hがある。
【0084】
図11に示すように、ケース固定剛性ラインL1と直交するケース固定剛性ラインL2が、弾性体41a(貫通孔12h)、回転軸Zrを通っている。
【0085】
弾性体41a、41b及び41cとフランジ部材12とが当接する力の分布は、実施形態2に係る弾性体41a、41b及び41cは、実施形態1に係る弾性体41よりも多い。このため、実施形態2に係る弾性部材40は、実施形態1に係る弾性部材40よりも、弾性体41a、41b及び41cがフランジ部材12のモータ側対向面12bとケースフランジ11bとで圧縮されると、フランジ部材12とケースフランジ11bとが離れるように反発する挙動を調整されている。その結果、部品点数を抑制し、電動モータ10の周囲の空間の占有率が減少して、電動パワーステアリング装置80の車両への搭載性が向上する。そして、電動パワーステアリング装置80は、組み立て工数が抑制され、低コストになる。
【0086】
実施形態2に係る弾性体41aは、弾性体41b及び41cよりも弾性力が大きいことが好ましい。これにより、ケース固定剛性ラインL1を支点として電動モータ10全体が倒れる挙動が発生しても、ケース固定機構H1の固定する力が作用しにくいケース固定剛性ラインL2の弾性力を高めることができる。
【0087】
弾性体41a、41b及び41cを比較すると、弾性体41b及び41cは、ケース固定機構H1が固定する固定領域までの距離が小さく(近く)、弾性体41aは、ケース固定機構H1が固定する固定領域までの距離が大きい(遠い)。そこで、 弾性体41a、41b及び41cは、弾性体41aの長さD2を、弾性体41b及び41cの長さD2よりも大きくする。その結果、実施形態2に係る弾性体41aは、弾性体41b及び41cよりも弾性力が大きくなる。そして、ケース固定剛性ラインL2において、フランジ部材12とケースフランジ11bとの距離を一定に保ちやすくなり、実施形態2に係る電動モータ10は、実施形態1に係る電動モータ10よりも、当接音を抑制することができる。
【0088】
(実施形態3)
図12は、実施形態3に係る電動モータ側からみて、弾性部材の位置を模式的に示す平面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0089】
図12に示すように、ギヤボックス固定機構H3が固定する2つの第2固定領域と回転軸Zrとを結んだ固定剛性ラインL3は、減速装置ハウジング93と、フランジ部材12とを固定する固定力が強く作用する、フランジ部材12は、周方向に複数の貫通孔12hを備え、ケースフランジ11bと同一平面で、ケースフランジ11bと同一平面で、前記第1固定領域同士を結ぶ第1仮想線である、ケース固定剛性ラインL1が回転軸Zrを通過し、かつ複数の弾性体41a、41b(貫通孔12h)のうち少なくとも一対の弾性体41b(貫通孔12h)同士を結ぶ第2仮想線である、ケース固定剛性ラインL2が回転軸Zrを通過し、ケース固定剛性ラインL1とケース固定剛性ラインL2とが直交していることが好ましい。また、第3仮想線となる。回転軸Zrを通過し、かつ固定剛性ラインL3と直交する固定剛性ラインL4では、ギヤボックス固定機構H3の固定する力が作用しにくい傾向にある。複数の弾性体41a、41b(貫通孔12h)のうち少なくとも一対の弾性体41a(貫通孔12h)同士を結ぶ第4仮想線である、固定剛性ラインL4が回転軸Zrを通過し、固定剛性ラインL3と固定剛性ラインL4とが直交していることが好ましい。そして、上述したように、
図2に示すウォーム変位方向FWに動くことで減速装置ハウジング93と、フランジ部材12とが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性がある。例えば、コラムへのモータ搭載位置によって、ギヤボックス固定機構H3が固定する2つの第2固定領域と回転軸とを結んだ固定剛性ラインL3と、ウォーム94の動きのウォーム変位方向FWとが略直交する場合、フランジ部材12の固定力が一番小さい位置にフランジ部材12を揺する力がより大きく作用する可能性がある。そこで、実施形態3に係る電動モータ10は、減速装置ハウジング93と、フランジ部材12との間に、弾性部材40を介在させ、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制している。
【0090】
(実施形態4)
図13は、実施形態4に係るフランジ部材の有底穴を模式的に示す断面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0091】
図13に示すように、フランジ部材12の有底穴12uは、、減速装置側の対向面12c側に有底を備え、電動モータ側のモータ側対向面12b側に開口を備えている。上述した弾性部材40は、上述した弾性体41を有底穴12uに挿入し、フランジ部材12に一部が有底穴12uに埋め込まれる。この弾性部材40は、ケース固定機構H1がある第1固定領域とは異なる位置で、フランジ部材12と対向するケースフランジ11bの対向面に当接している。有底穴12uに挿入する前の弾性部材の長さD2は、有底穴12uの深さ方向の長さD3よりも大きい。なお、有底穴12uは、電動モータ側のモータ側対向面12bに露出する外形が、有底穴12uの外形よりも大きな、弾性体41の逃げ空間12nと繋がっている。
【0092】
このため、弾性部材40の弾性体41が当接する位置では、ラジアル方向のモータ固定力の分布が変わる。これにより、2つの第1固定領域の固定点を支点として電動モータ10全体が倒れる挙動が発生し、モータケース11の固定力が一番小さい位置にモータケース11を揺する力が作用する場合、フランジ部材12とケースフランジ11bとの間の隙間が変化しても、弾性部材40の弾性体41がある位置でケースフランジ11bとフランジ部材12とが当接することを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、ケース固定機構H2を追加しなくても、フランジ部材12とケースフランジ11bとが当接し、当接音(異音)を発生させる可能性を抑制できる。
【0093】
以上のように、本実施形態の電動パワーステアリング装置80は、コラムアシスト方式を例にして説明しているが、ピニオンアシスト方式及びラックアシスト方式についても上述した電動モータ10及び減速装置92を適用することができる。本実施形態に係る電動モータとして電動モータ10を例に説明し、右ハンドル車に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、左ハンドル車に適用する場合には、電動モータ10及び減速装置92の配置をステアリングコラムの中心軸を通る垂直面を挟んで面対称の右側に配置すればよい。