(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において多孔質フィルムとは多孔フィルムと多孔層とで構成された積層フィルムをいう。
【0009】
本発明において多孔フィルムとは、樹脂(B)を含む、透気性を有する微多孔膜であり、多孔質フィルムの基材として用いる。この樹脂(B)は、多孔フィルム中の主成分であることが好ましい。ここで主成分とは多孔フィルムを構成する原料の80質量%以上を占めることをいう。
【0010】
本発明において多孔層は、耐熱粒子と樹脂(A)とを含んでいる。
【0011】
上記の多孔フィルムは樹脂(B)を含み、好ましくは主成分として構成され、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する微細な貫通孔を多数有している。
【0012】
多孔フィルムに含まれる樹脂(B)としては、オレフィン系樹脂やフッ素系樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができるが、オレフィン系樹脂が加工のしやすさやコストといった製造面が優れる点と高いイオン伝導度を両立する観点から好ましい。
【0013】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などの単一ポリオレフィン樹脂や、これら樹脂の混合物、さらには、単量体同士をランダム共重合やブロック共重合した樹脂を用いることができる。
【0014】
多孔フィルムは、耐熱性の観点で融点が110℃以上であることが好ましい。融点が110℃未満であると多孔層を多孔フィルム上に積層する際に多孔フィルムが寸法変化してしまう場合がある。多孔フィルムの融点は、単一の融点を示す場合はもちろんその融点をいうが、例えば多孔フィルムがポリオレフィンの混合物から構成されるなど、複数の融点を有している場合は、そのうち最も高温側に現れる融点を多孔フィルムの融点とする。多孔フィルムの融点は、より好ましくは耐熱性の観点から130℃以上である。また、上記したように、多孔フィルムが複数の融点を示す場合は、それら全てが上記範囲内にあることが好ましい。
【0015】
多孔フィルムに用いる樹脂としては前述した耐熱性の観点と、フィルムの厚み方向に貫通孔を形成するための加工性を両立する観点から、後述する種類のポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
本発明において基材に用いる多孔フィルムは、その中に含まれる樹脂(B)がβ晶形成能を有することが好ましい。樹脂(B)がβ晶形成能を有すると、後述するβ晶法によるフィルムの多孔化により多孔フィルムを製造することができる。β晶法によって得られる多孔フィルムは、生産性に優れ、多孔層を積層した際にアンカー効果による高い接着性を発現するのに適した表面の開孔径(表面孔径)を持つことから、多孔質フィルムの基材として好適に用いることができる。
【0017】
本発明においてβ晶法とは、β晶形成能を有する樹脂をシート化した後、延伸によってフィルムに貫通孔を形成する手法をいう。
【0018】
本発明において多孔フィルムに用いる樹脂(B)にβ晶形成能を付与する手法としては、樹脂の結晶種のうちβ晶を選択的に形成できる核剤(β晶核剤)を含有せしめることで達成できる。ポリプロピレン樹脂のβ晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン樹脂全体を100質量部とした場合、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.3質量部であればより好ましい。
【0019】
本発明において、β晶形成能とは以下の条件で測定される、一定条件下におけるポリプロピレン樹脂中のβ晶の存在比率を示しており、β晶をどれだけ形成する能力があるのかを示す値である。β晶形成能の測定は、ポリプロピレン樹脂あるいはポリプロピレンフィルム5mgを、示差走査熱量計を用いて窒素雰囲気下で室温から240℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観察される融解ピークについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、それぞれ融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。
【0020】
β晶形成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)〕×100
本発明において基材に用いる多孔フィルムを構成する(含まれる)ポリプロピレン樹脂(樹脂(B))のβ晶形成能は高い空孔率と好適な透気抵抗を発現せしめる観点から、40〜90%であることが好ましい。β晶形成能が40%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。また、β晶形成能が90%を超える場合は、粗大孔が形成され、蓄電デバイス用セパレータとしての機能を有さなくなる場合がある。β晶形成能を40〜90%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用し、かつ、上述のβ晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては45〜80%であればより好ましい。
【0021】
本発明において多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂はメルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが上記した好ましい範囲を外れると延伸フィルムを得ることが困難となる場合がある。より好ましくは、MFRが3〜20g/10分である。
【0022】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%であれば好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い透気性を達成するのが困難な場合がある。アイソタクチックポリプロピレン樹脂は市販されている樹脂を用いることができる。
【0023】
多孔フィルムにはホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下の範囲で共重合してもよい。なお、ポリプロピレンへのコモノマーの導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0024】
また、上記のポリプロピレン樹脂は0.5〜5質量%の範囲で高溶融張力ポリプロピレンを含有させることが製膜性向上の点で好ましい。高溶融張力ポリプロピレンとは高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂であるが、中でも長鎖分岐成分を共重合させたポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。この高溶融張力ポリプロピレンは市販されており、たとえば、Basell社製ポリプロピレン樹脂PF814、PF633、PF611やBorealis社製ポリプロピレン樹脂WB130HMS、Dow社製ポリプロピレン樹脂D114、D206を用いることができる。
【0025】
多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂には、延伸時の空隙形成効率を高め、孔径が拡大することで透気性が向上することから、ポリプロピレン樹脂にエチレン・α−オレフィン共重合体を1〜10質量%含有せしめることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合したエチレン・オクテン−1共重合体を好ましく用いることができる。このエチレン・オクテン−1共重合体は市販されている樹脂を用いることができる。
【0026】
本発明において基材に用いる多孔フィルムは少なくとも一軸方向に延伸されていることが好ましい。未延伸のフィルムを用いた場合、フィルムの空孔率や機械強度が不十分となる場合がある。多孔フィルムを少なくとも一軸方向に延伸する方法としては、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよいが、生産性の観点から、逐次二軸延伸が好ましい。
【0027】
本発明において基材に用いる多孔フィルムには、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリオレフィン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して酸化防止剤を0.01〜0.5質量部含有せしめることは好ましいことである。
【0028】
本発明において多孔質フィルムの基材に用いる多孔フィルムの透気抵抗は50〜500秒/100mlであることが好ましい。透気抵抗が50秒/100ml未満ではセパレータとした際に絶縁を保つことが困難となる場合がある。また、500秒/100mlを超えると、多孔質フィルムの基材として用いた際、多孔質フィルムの透気抵抗が大きく、セパレータとして用いた場合の電池特性が悪化する傾向にある。多孔フィルムの透気抵抗は、より好ましくは80〜400秒/100ml、さらに好ましくは100〜300秒/100mlである。
【0029】
本発明に用いる多孔フィルムは空孔率が50%以上80%未満であることが好ましく、65%以上75%未満であることがより好ましい。50%未満では表面の孔の数が少なくなるため、多孔層を積層した際に多孔フィルムとの接着性が不十分となる場合がある。80%以上の場合はセパレータ特性、および強度の観点から不十分となる場合がある。多孔フィルムの空孔率は多孔フィルムの比重(ρ)と樹脂(B)の比重(d)より下記式より求めることができる。
【0030】
空孔率(%)=〔(d−ρ)/d〕×100
貫通孔、透気抵抗および空孔率をかかる好ましい範囲に制御する方法としては、樹脂(B)にポリプロピレン樹脂を用いた場合、エチレン・α−オレフィン共重合体を前述した特定比率で混合した樹脂を用いることで達成できる。さらに、後述する特定の二軸延伸条件を採用することにより効果的に達成することができる。
【0031】
本発明に用いる多孔フィルムは、表面孔径について、0.01μm以上0.5μm未満の孔径の孔の数(A)と0.5μm以上10μm未満の孔径の孔の数(B)の比率である(A)/(B)の値が0.1〜4であることが好ましく、0.4〜3であることがより好ましい。(A)/(B)の値が0.1より小さいと、多孔フィルムの表面に大径の開孔部分多すぎ、塗工時に塗剤が開孔部に入り込みすぎるため透気性が低下する場合がある。また(A)/(B)の値が4を超えると、多孔フィルムの表面に小径の開孔部の比率が多すぎ、塗工・乾燥時に後述する樹脂(A)の一部が開孔部分に入り込みにくいため十分な接着性が発現しない場合や、孔の閉塞により透気性が低下する場合がある。
【0032】
表面孔径をかかる好ましい範囲に制御する方法としては、上述のβ晶核剤を添加したポリプロプレン樹脂を延伸・多孔化することで達成することができる。
【0033】
多孔フィルムの表面孔径は走査型電子顕微鏡を用いて表面画像を撮影し、画像解析を行うことで確認できる。
【0034】
次に、上記のようにして得た多孔フィルムの少なくとも片面に多孔層を形成するが、その前に多孔フィルムと多孔層との接着性を向上させる目的で、多孔フィルム表面にコロナ放電処理など、易接着化のための表面処理を行うことが好ましい。表面処理としては、空気中、酸素雰囲気、窒素雰囲気などでのコロナ放電処理や、プラズマ処理等を挙げることができるが、簡便なコロナ放電処理が好ましい。
【0035】
本発明の多孔質フィルムは、上記した多孔フィルムの少なくとも片面に、耐熱粒子と樹脂(A)とを含む多孔層が設けられている。多孔層を有することにより、多孔フィルムのみでは達成できない、高温での耐熱性を発現することができる。以下に当該多孔層について、詳しく説明する。
【0036】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる耐熱粒子とは、粒子の形状が少なくとも200℃まで保持される粒子をいう。形状が保持されるとは、常温での粒子のアスペクト比や平均粒子径が200℃においても変化しないことを意味する。より好ましくは300℃まで形状が保持され、さらに好ましくは330℃まで形状が保持される。すなわち粒子の融点、軟化点、熱分解温度、または体積変化を伴う相転移が上記温度まで起こらないことが好ましい。具体的には、融点を示さずかつ少なくとも330℃までは形状が保持される粒子として、無機化合物であればアルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、ガラス繊維、酸化チタン(ルチル型)、炭酸カルシウム(カルサイト、アラゴナイト)等や、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂または実質的に融点を示さない樹脂、たとえばポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォンや、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどの窒化芳香族化合物の繊維状物が挙げられる。耐熱粒子は複数種を用いてもよく、その場合、同一種の粒子で異なる径や形状のものおよび/または異なる種類の粒子で異なる径や形状のものを用いてもよいが、同一種の粒子を複数種用いることが樹脂(A)との結着性の観点からより好ましい。これらの中でも、電気化学的安定性および透気抵抗を好ましい範囲にできるといった観点から炭酸カルシウム、アルミナ、シリカが好ましく、分散性および樹脂(A)との接着性の観点から炭酸カルシウムがより好ましい。
【0037】
本発明の多孔層に用いる耐熱粒子の平均粒子径は、表面積を増加させ、結着性を向上させる観点から、0.05〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.0μmであり、さらに好ましくは0.1〜1.0μmである。平均粒子径が0.05μm未満では、耐熱粒子が多孔フィルムの開孔表面からフィルム内部に入り込み、多孔フィルムの透気性が低下する場合がある。一方、平均粒子径が10μmを超えると、耐熱粒子の表面積が小さくなるため結着性が劣る場合やが多孔層の厚みを制御できなくなる場合がある。
【0038】
なお、耐熱粒子の平均粒子径は多孔質フィルム中の耐熱粒子を測定することにより得られる値をいう。具体的には、多孔質フィルムの表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することで確認できる。
【0039】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に含まれる上記耐熱粒子の濃度は60質量%以上95質量%未満であることが好ましく、80質量%以上95質量%未満であることがより好ましい。60質量%未満であると、多孔層の耐熱性が十分に発現せず、多孔質フィルムとした際に収縮が著しくなる場合や、多孔層形成による透気抵抗の悪化が著しくなり電池の出力特性が劣る場合がある。また、95質量%以上の場合、耐熱粒子に対して後述する樹脂(A)の量が少なくなり、十分に耐熱粒子同士を接着できず、平面性や耐熱性が悪化する場合がある。本発明の多孔質フィルムの多孔層に含まれる上記耐熱粒子の濃度は、多孔質フィルムより多孔層を剥離・回収し、これを粉末X線解析し耐熱粒子種を同定した後、燃焼分析により有機成分を除去後の質量から無機元素の含有量を算出することで求めることができる。
【0040】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる耐熱粒子は、アスペクト比(耐熱粒子の長径/耐熱粒子の短径)が1以上1.5未満であることが好ましく、1以上1.3未満であることがより好ましい。アスペクト比が1.5未満の粒子を用いることで、多孔層中単位体積当りの耐熱粒子の充填率が高くなることから、耐熱粒子間の距離を短くでき、樹脂(A)による耐熱粒子間の結着性を向上できる。また、単位体積当りの表面積も増加することから樹脂(A)と耐熱粒子間の結着性も改善できることから、多孔層からの粒子の脱落や基材からの多孔層の剥離を抑制することができる。また、結着性の改善により、多孔層の強度が増すことから、多孔質フィルムが加熱された際の耐熱性も向上する。上述する範囲のアスペクト比の耐熱粒子を用いる場合、耐熱粒子の種類としては同一種または2種以上の何れでもよいが、同一種であることが樹脂(A)との結着性の観点からより好ましい。
【0041】
多孔層中の耐熱粒子のアスペクト比は後述する手法を用いて確認することができる。
【0042】
耐熱粒子間および多孔層−基材間の結着性は後述する手法にて評価することができる。
【0043】
本発明の多孔質フィルムの多孔層の厚み(塗工により形成する場合の塗工厚み(塗工・乾燥後の厚み))は、多孔質フィルムに耐熱性を付与する観点から1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは3〜25μmであり、さらに好ましくは5〜20μmである。厚みが1μm未満であると、多孔質フィルムとした際に耐熱性が低くなる場合がある、また、厚みが30μmを超えると、多孔質フィルムを折り曲げた際に、亀裂や剥離が生じやすくなる。
【0044】
厚みをかかる好ましい範囲に制御する方法としては、後述する塗工方法を用いた際の塗剤の塗出量や搬送速度等を制御することで達成することができる。
【0045】
多孔層の厚みは接触式の厚み計や多孔質フィルムの断面観察を行うことで確認することができる。
【0046】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる樹脂(A)とは、他の材料間(耐熱粒子間、耐熱粒子−基材間など)を結着させることができる材料(結着剤)を指す。
【0047】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる樹脂(A)は、耐熱粒子間ならびに耐熱粒子−基材間の結着性を向上させる観点から、変性ポリオレフィンを用いる。変性ポリオレフィンを用いることで結着する界面の濡れ性を改善することができ、より強い結着性を発現することができる。ここで変性ポリオレフィンとは、オレフィン骨格としてプロピレン、エチレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン類にアクリレート共重合体や不飽和カルボン酸骨格を導入した樹脂を指す。中でも不飽和カルボン酸骨格を導入した変性ポリオレフィンが高い結着性を示す観点からより好ましい。不飽和カルボン酸骨格としては分子内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。樹脂(A)としては上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の多孔質フィルムは各材料間(耐熱粒子間、耐熱粒子−基材間など)が樹脂(A)の溶融により結着されていることが好ましい。樹脂(A)の溶融によりこれらの材料間が結着されることで、多孔層と多孔フィルムの一部が一体化して強い結着力を示す。上記の効果により多孔層からの耐熱粒子の脱落や多孔層が多孔フィルムから剥離するのを抑制することができ、本発明の多孔質フィルムをセパレータとして用いた際に、電池の組立時に耐熱粒子の脱落による工程汚染や、フィルム走行時の多孔層の剥がれによる欠点が発生するのを抑制でき、電池の品位向上が可能となる。また、他の材料間が強固に決着することにより多孔層の耐熱性を向上させることができる。
【0049】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる樹脂(A)は溶融による結着性を発現させる観点から、融点または軟化点は70〜120℃であることが好ましく、80〜110℃であることがより好ましい。融点または軟化点が70℃より低いと多孔層に樹脂(A)を添加して使用した際に、多孔質フィルムの耐熱性が低下する場合がある。また、融点または軟化点が120℃より高いと樹脂(A)によって耐熱粒子間ならびに耐熱粒子−基材間を溶融結着させる際に高い温度での加工が必要となるため、多孔フィルムの収縮を引き起こし透気抵抗や平面性といった特性を悪化させる場合がある。樹脂(A)の融点または軟化点は後述する手法にて確認することができる。
【0050】
本発明の多孔質フィルムの多孔層に用いる樹脂(A)の多孔層中の濃度は、接着性の観点から耐熱粒子100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、5〜15質量部がさらに好ましい。樹脂(A)の濃度が1質量部を下回ると、耐熱粒子間および多孔層と基材間の接着力が不足し、粒子の脱落や多孔層の剥離が起きる場合がある。また、30質量部を上回ると多孔層内部の孔を閉塞するため透気性が低下する場合がある。
【0051】
本発明の多孔質フィルムにおいて、多孔層を形成するために使用する塗液には塗剤の粘度を塗工可能な範囲にする増粘効果と、耐熱粒子表面に吸着して塗料組成物中で耐熱粒子を分散安定化する機能を付与できる観点から、多孔層にセルロースおよび/またはセルロース塩を含むことが好ましい。セルロースおよび/またはセルロース塩の具体例としてはヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。なかでも、カルボキシメチルセルロース、その塩、ヒドロキシエチルセルロースおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0052】
本発明の多孔質フィルムの耐熱粒子間の結着性は、多孔層の表面をロールと接触するようにしてフィルム走行試験を実施した際の摩擦係数μkの変化率Δμkによって評価できる。
【0053】
本発明において、多孔層の表面をロールと接触するようにしてフィルム走行試験を実施した際の摩擦係数μkの変化率Δμkは500%未満が好ましく300%未満がより好ましい。摩擦係数μkはテープ走行性試験機でフィルムを走行させ、下記式より算出する。
【0054】
μk=2/πln(T2/T1)
ここで、T1は入側張力、T2は出側張力である。
【0055】
摩擦係数μkの変化率K(%)はフィルム走行1回目と50回目の摩擦係数μkを下記式に代入し、算出する。
【0056】
変化率K(%)=(走行50回目の摩擦係数/走行1回目の摩擦係数)×100
変化率Kが500%以上になると、フィルム走行時に耐熱粒子の脱落が生じ、白粉が発生することがある。耐熱粒子の脱落は多孔質フィルムをセパレータとして使用した際、電池の組立工程の歩留まりや異物混入などの不良を引き起こす場合がある。
【0057】
変化率Kを好ましい範囲とするためには、後述する結着剤を用いることで達成できる。
【0058】
本発明の多孔質フィルムの多孔層−多孔フィルム間の結着性は、多孔質フィルムを多孔層/多孔フィルム界面にて剥離した際の剥離強度で評価できる。
【0059】
この剥離強度は、多孔フィルムと多孔層の結着力の指標であり、剥離強度が高いほど樹脂(A)による耐熱粒子−基材間ならびに多孔層中の耐熱粒子間の結着力が高いことを示す。剥離強度は後述する方法にて評価できる。
【0060】
本発明の多孔質フィルムは多孔層/多孔フィルム界面にて剥離することができる。多孔層/多孔フィルム界面にて剥離した際の剥離強度は25〜500g/25mm幅であることが好ましく、50〜500g/25mm幅であることがより好ましい。剥離強度が25g/25mm未満では、多孔質フィルムより多孔層が剥離しやすく、多孔質フィルムをセパレータとして使用した際に、切断・スリット工程において部分的な剥がれが発生する場合がある。剥離強度が500g/25mm幅を超えると、多孔質フィルムをセパレータとして使用した電池が発熱した際に、多孔フィルムと多孔層の結着性が強すぎるため、多孔フィルムの収縮・溶融により多孔層の形状維持が困難になる場合がある。
【0061】
剥離強度を好ましい範囲とするためには、表面孔径を好ましい範囲とすること、および/または後述する結着剤を用いることで達成できる。
【0062】
本発明において多孔質フィルムの透気抵抗は50〜500秒/100mlであることが好ましい。透気抵抗が50秒/100ml未満では電極間の絶縁が十分に保てず、安全性に劣る場合がある。また、500秒/100mlを超えると多孔質フィルムをセパレータとして用いた際の電池の出力特性が悪化する傾向にある。多孔質フィルムの透気抵抗は、用途にもよるが、好ましくは80〜450秒/100ml、より好ましくは80〜350秒/100ml、特に好ましくは80〜250秒/100mlである。多孔質フィルムの透気抵抗を上記の範囲にする方法としては、多孔層に前述する耐熱粒子用いること、前述する多孔フィルムを基材として用いることで効率的に達成できる。透気抵抗は後述する手法にて評価できる。
【0063】
本発明の多孔質フィルムにおいて、多孔層を形成する方法として、耐熱粒子や樹脂(A)およびその他の組成物を含有する塗液を塗布する方法が好ましく採用される。塗布する方法としては、一般に行われるどのような方法を用いてもよいが、例えば、オキシラン環含有化合物をイオン交換水などに分散させて作成した塗液をリバースコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などの塗布方法によりフィルム上に塗布し、乾燥して多孔層とすればよい。また、塗液を調製する際には多孔層における耐熱粒子の偏在を防止するために分散剤などを適宜添加してもよい。
【0064】
本発明の多孔質フィルムにおいて、多孔層を形成する塗工工程における乾燥温度は、樹脂(A)を溶融結着させる観点から樹脂(A)の融点または軟化点+5℃以上120℃未満が好ましく、樹脂(A)の融点または軟化点+10℃以上120℃未満がより好ましい。樹脂(A)の融点または軟化点+5℃を下回ると、樹脂(A)が溶融または軟化しないため結着性に劣る場合や、多孔層の残存水分率が高くなり、電池のセパレータとして使用した際に不具合を生じる場合がある。また、120℃を超えると、基材の主成分である樹脂(B)の収縮が起こるため、平面性や透気性が低下する場合がある。
【0065】
本発明の多孔質フィルムの多孔層は、熱分析において70〜120℃に吸熱ピークが検出できる。上記の範囲に吸熱ピークが検出されることで、多孔層中に溶融による結着が可能な樹脂(A)が含まれることが確認できる。吸熱ピークのより好ましい範囲は80〜110℃である。
【0066】
本発明の多孔質フィルムの多孔層は、熱分析において70〜120℃に検出される吸熱ピークの融解熱量(ΔH)が0.01J/g以上10J/g未満である。吸熱ピークは樹脂(A)の融点または軟化点を示し、ΔHは樹脂(A)濃度に比例する。ΔHを上記の範囲にすることで、塗工の乾燥工程で樹脂(A)を十分に溶融し耐熱粒子や多孔フィルムと結着せしめることができるとともに、溶融して多孔層および基材である多孔フィルム表面の開孔部を閉塞することがなく優れた透気性を維持することができる。ΔHが0.01J/g未満であると樹脂(A)の溶融による結着性が十分に発揮されず、耐熱粒子の脱落や多孔フィルムからの多孔層の剥離が起きる場合がある。また、10J/g以上であると、塗工の乾燥工程において樹脂(A)が溶融した際に、樹脂(A)の濃度が高いため多孔層および/または多孔フィルム表面の開孔部を閉塞する場合がある。吸熱ピークのより好ましい範囲は0.01J/g以上8J/g未満、さらに好ましくは0.1J/g以上5J/g未満であり、さらに好ましくは0.1J/g以上3J/g未満である。ΔHを上記の範囲にするには上述する樹脂(A)を上述する濃度で用いることで達成できる。
【0067】
吸熱ピークおよび融解熱量(ΔH)は後述する手法にて評価することができる。
【0068】
本発明の多孔質フィルムは170℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値は1%より大きく25%以下であることが好ましく、1%より大きく15%以下であることがより好ましく、1%より大きく10%以下であることがさらに好ましい。170℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値が25%より大きいと電池のセパレータとして使用した際に、発生した熱によって基材である樹脂(B)が溶融破断した場合に基材に追従し収縮しやすいことを示すことから、多孔層の機能である短絡抑制の効果が低く、電池の安全性を保てない場合がある。また、収縮率は小さいほど好ましいが、熱可塑性樹脂を用いる場合、1%以下は実現が困難である。170℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値を上記の範囲にするには前述する粒子と樹脂(A)を多孔層に含有させることで効果的に達成できる。
【0069】
170℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値は後述する手法により評価できる。
【0070】
本発明の多孔質フィルムは多孔層と多孔フィルムの接合部の一部が界面を持たず一体化していることが好ましい。換言すると、多孔層と多孔フィルムとが界面を形成することなく一体化している部分が存在していることが好ましい。一体化しているとは、電子顕微鏡等で観察した際に明確な境界をもたず接着されている状態をさす。接合部の一部が一体化することで結着性を高めることができ、多孔フィルムからの多孔層の剥離を抑制することができる。多孔質フィルムは多孔層と多孔フィルムの接合部の一部が界面を持たず一体化させるためには、上述する樹脂(A)を上述する条件にて加熱乾燥し溶融・結着させることで達成できる。多孔層と多孔フィルムの接合部は後述する手法にて確認することができる。
【0071】
本発明において、多孔層を形成するための塗剤とは、多孔層の組成物である耐熱粒子や樹脂(A)などを分散媒に分散させたものを指す。ここで分散媒とは、水や有機溶媒を指す。有機溶媒としては、アセトンやエタノール、イソプロパノールなど、沸点が100℃未満のものが好ましい。また、分散媒としては水や有機溶媒を単独で用いてもよいが、複数の有機溶媒を混合しても、水と有機溶媒を混合したものを用いてもよい。
【0072】
上記塗剤の調合方法としては、多孔層の組成物と分散媒を分散装置にて混合・分散する方法が挙げられる。分散装置の具体的な例としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザー、超音波分散機など挙げられるが、何れの手法を用いてもかまわない。
【0073】
上記塗剤は、105℃で乾燥した際に得られる固形物の熱分析において70〜120℃に検出される吸熱ピークの融解熱量(ΔH)が0.01J/g以上10J/g未満であることが好ましい。塗剤を乾燥した際に得られる固形物(不揮発成分)の吸熱ピークおよび融解熱量は、多孔層の耐熱ピークおよび融解熱量と一致する。ΔHを上記の範囲にすることで、塗剤を塗工した後の乾燥工程で樹脂(A)を十分に溶融し耐熱粒子や多孔フィルムと結着せしめるとともに、優れた透気性を発現する塗剤となる。吸熱ピークのより好ましい範囲は0.01J/g以上8J/g未満、さらに好ましくは0.1J/g以上5J/g未満であり、さらに好ましくは0.1J/g以上3J/g未満である。
【0074】
以下に本発明の多孔質フィルムを構成する多孔フィルムの製造方法、および、多孔質フィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明の多孔質フィルムの基材に用いる多孔フィルムの製造方法はこれに限定されるものではないが、β晶法によるポリプロピレン多孔フィルムを例として説明する。
【0075】
ポリプロピレン樹脂として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂94質量部、同じく市販のMFR2.5g/10分高溶融張力ポリプロピレン樹脂1質量部、さらにメルトインデックス18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂5質量部にN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.2質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合した原料を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。
【0076】
次に、上記の混合原料を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。この際、キャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、キャストフィルムのβ晶形性能を高く制御する観点から好ましい。また、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。なお、シート全体のドラム上への密着状態から必要に応じて全面にエアーナイフを用いて空気を吹き付ける方法や、静電印加法を用いてキャストドラムにポリマーを密着させてもよい。
【0077】
次に得られた未延伸シートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0078】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸する温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては90〜135℃、さらに好ましくは100〜120℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては3〜6倍、より好ましくは4〜5.5倍である。次に、いったん冷却後、ステンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは140〜155℃に加熱して幅方向に5〜12倍、より好ましくは6〜10倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては300〜5,000%/分で行うことが好ましく、500〜3,000%/分であればより好ましい。ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は横延伸温度以上160℃以下が好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を5〜35%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0079】
上記製造方法によって作製した多孔フィルムに、耐熱粒子として炭酸カルシウム(アスペクト比1.2、平均粒子径0.5μm)15質量%、樹脂(A)として変性ポリエチレンエマルジョン(固形分濃度20質量%)7.5質量%と、カルボキシメチルセルロース0.65質量%と、イソプロピルアルコール10質量%、イオン交換水66.85質量%をジェットミルにて混合・分散し、塗液を調製する。
【0080】
この塗液を4時間攪拌した後にダイコーターを用いた塗布方法により多孔フィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥させて、積層厚みが8〜30μmの多孔層とする。
【0081】
本発明の多孔質フィルムは、優れた耐熱性、透気性、層間結着性を有していることから、蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用することができる。
【0082】
ここで、蓄電デバイスとしては、各種電池、特にリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明の多孔質フィルムをセパレータとして使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0084】
(1)多孔フィルムまたは多孔質フィルムに含まれる樹脂(B)のβ晶形成能
多孔フィルムまたは多孔質フィルムに含まれる樹脂(B)、または、多孔質フィルムおよび多孔フィルムそのもの5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から280℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0085】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
上記で算出されたβ晶形成能について下記基準にて評価した。
【0086】
A:β晶形成能が40〜90%
B:β晶形成能が40%未満
(2)多孔質フィルム、多孔フィルム、多孔層の厚み
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した多孔質フィルムを、フィルム長手方向の断面がみえるようにスパッタリング装置を用いて減圧度10
−3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施して断面を切削した後、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率3,000倍にて観察した。
【0087】
観察により得られた画像より多孔質フィルム、多孔フィルム、多孔層の厚みを計測した。厚みの測定に用いるサンプルは長手方向に少なくとも5cm間隔で任意の場所の合計10箇所を選定し、10サンプルの計測値の平均をそのサンプルの多孔質フィルムの厚み(la)、多孔フィルムの厚み(lb)、多孔層厚み(lc)とした。
【0088】
(3)多孔フィルムの空孔率(Pa)
多孔フィルムを50mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0089】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率(Pa)を算出した。
【0090】
空孔率(Pa)(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(4)多孔フィルムの表面孔径および表面孔径比
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した多孔フィルムの表面を、スパッタリング装置を用いて金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率10,000倍にて観察した。得られた観察像について画像解析装置を用いて表面の孔による空隙部分の形状の中での最大長さおよび最小長さを求め、その平均値をその孔の孔径とした。上記の操作で観察像中の100個の孔について孔径を求めた。
【0091】
求めた孔径のうち0.01μm以上0.5μm未満の孔径の孔の数を(A)、0.5μm以上10μm未満の孔径の孔の数を(B)とし、下記式に当てはめ、そのサンプルの表面孔径比を算出した。
【0092】
表面孔径比=(A)/(B)
(5)多孔フィルムおよび多孔質フィルムの透気抵抗
多孔フィルムまたは多孔質フィルムの1辺の長さ150mmの正方形を切取り試料とし、JIS P 8117(2009)のB形のガーレー試験機を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間を任意の3箇所について測定した。3箇所の透過時間の平均値を多孔フィルムまたは多孔質フィルムの透気抵抗とした。
【0093】
(6)耐熱粒子の平均粒子径
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した多孔質フィルムの表面をスパッタリング装置を用いて金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡SEMを用いて無作為に抽出した耐熱粒子を観察倍率20,000倍の写真を撮影する。その写真を画像解析ソフトウェア((株)マウンテック製、MacView ver4.0)を用いて、耐熱粒子の断面投影像を作成した。
【0094】
撮影した写真と断面投影像より、個々の耐熱粒子の形状の中での最大長さと最小長さを求め、下記式で定義される平均粒子径を算出した。平均粒子径は粒子100個について求め、その平均を耐熱粒子の平均粒子径とした。
【0095】
平均粒子径=(最大長さ+最小長さ)/2
(7)耐熱粒子のアスペクト比
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した多孔質フィルムの表面をスパッタリング装置を用いて金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡SEMを用いて無作為に抽出した耐熱粒子を観察倍率20,000倍の写真を撮影する。その写真を画像解析ソフトウェア((株)マウンテック製、MacView ver4.0)を用いて、耐熱粒子の断面投影像を作成した。
【0096】
撮影した写真と断面投影像より、個々の耐熱粒子の形状の中での最大長さと最小長さを求め、下記式で定義されるアスペクト比を算出した。アスペクト比は粒子100個について求め、その平均を耐熱粒子のアスペクト比とした。
【0097】
アスペクト比=最大長さ/最小長さ
(8)熱特性(多孔層の吸熱ピークおよび融解熱量(ΔH))
多孔質フィルムの多孔層を積層した面を金属ヘラでこすり多孔層を剥離させ回収する。回収した多孔層を、5mgを秤量し、試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて窒素雰囲気下で25℃から200℃まで10℃/分で昇温し10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却し、融解曲線を得た。得られた曲線で昇温過程に観測される融解ピークにについて、70〜120℃の温度領域に存在するピークを樹脂(A)の融解ピークとした。またこの融解ピークの高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から融解熱量(ΔH)を求めた。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0098】
(9)耐熱性(170℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値)
セイコーインスツルメント社製TMA/SS6000を用いて、下記温度プログラムにて多孔質フィルムまたは多孔フィルムのフィルム長手方向および横手方向の収縮曲線を求め、得られた収縮曲線より170℃における収縮率を読み取った。測定は各方向についてn=3で測定しその平均値を各々の方向の熱収縮率とした。
【0099】
得られた各方向の熱収縮率を下記式に当てはめ、長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値を算出し、下記基準にて評価した。
【0100】
フィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率の平均値=
(フィルム長手方向の熱収縮率+フィルム横手方向の熱収縮率)/2
温度プログラム:25℃→(5℃/min)→200℃(hold 5min)
荷重:2g
サンプルサイズ:サンプル長15mm×幅4mm
評価基準
AA:10%以下
A:10%より大きく15%以下
B:15%より大きく25%以下
C:25%より大きい
(10)耐熱粒子の脱落
多孔質フィルムを幅1cmのテープ状にスリットしたものをテープ走行性試験機TBT−300((株)横浜システム研究所製)を使用し、23℃、50%RH雰囲気で走行させ、摩擦係数μkを求めた。サンプルは多孔層側がガイドに接触するように設置した、ガイド径は6mmφであり、ガイド材質はSUS27(表面粗度0.2S)、巻き付け角は90°走行速度は3.3cm/秒、繰り返し1〜50回である。この測定によって得られた繰り返し回数1回目の摩擦係数(K1)と繰り返し回数50回目の摩擦係数(K50)を下記式に当てはめて算出した摩擦係数の変化率K(%)から繰り返し試験によるフィルム走行性を下記の基準で評価し、AおよびBを合格とした。
【0101】
摩擦係数の変化率K(%)=
繰り返し回数50回目の摩擦係数(K50)/繰り返し回数50回目の摩擦係数(K1)×100
評価基準
A:変化率300%未満
B:変化率300%以上500%未満
C:変化率500%以上。
【0102】
(11)剥離強度
多孔質フィルムをフィルム長手方向に200mm、フィルム幅方向に25mmの短冊状にサンプリングし、その一端Aをテープ等で剥離した後、100mmまで手で剥離し、剥離した2枚の端Aを引っ張り試験機(島津製作所製“AG−100A”)のチャックにJIS K−7127(1999)に準じて固定し、速度100mm/minで剥離させた時の、荷重を読み取るとともに、剥離箇所の破壊形態を目視にて確認した。上記測定を1つのサンプルにつき5点測定し、その平均について下記基準にて評価した。
【0103】
AA:剥離強度が50〜500g/25mm幅かつ多孔層と多孔フィルムの界面で剥離
A:剥離強度が25g/25mm幅以上50g/mm幅未満かつ多孔層と多孔フィルムの界面で剥離
B:剥離強度が25g/25mm幅以上50g/mm幅未満かつ多孔層の層内で破壊が発生
C:剥離強度が25g/25mm幅未満で多孔層の層内で破壊が発生
(12)多孔フィルムと多孔層の接合部の構造
走査型電子顕微鏡の試料台に固定した多孔質フィルムを、フィルム長手方向の断面がみえるようにスパッタリング装置を用いて減圧度10
−3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施して断面を切削した後、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡を用いて倍率25,000倍にて多孔フィルムと多孔層の接合部の構造を観察した。
【0104】
切削は1サンプルについて5点のサンプリングを行い、その5点について観察を行った。
【0105】
5点の観察像の内、
図1のように多孔フィルムと多孔層の一部が一体化している箇所があるサンプルをA、一体化している箇所がないサンプルをBと評価した。
【0106】
(実施例2〜7、9、
参考例1)
多孔フィルムの原料として、ポリプロピレン(住友化学(株)製、FLX80E4)を94.45質量%、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分、以下、単にPE−1と表記)を5質量%に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を、各々0.15、0.1質量%をこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0107】
このチップ原料を単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして厚み200μm、幅250mmの未延伸シートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4.5倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に延伸した。そのまま、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で6秒間の熱処理を行い、厚み15μmの多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムの透気抵抗は200s/100ml、空孔率は70%であった。
【0108】
次に、表2−1に示す処方にて組成物を計量・混合し、多孔層形成用の塗剤を調製した。これを上記多孔フィルムの片面(溶融押出時にドラムに接触した面、以下D面と表記)に、ダイコーターを用いて乾燥後の積層厚みが8μmになるように塗液を塗布し、100℃で1分間乾燥させて多孔層を形成し、多孔質フィルムを作製した。
【0109】
(実施例8)
表2−1に示す処方にて組成物を計量・混合し、多孔層形成用の塗剤を調製した。実施例2の多孔フィルムの片面(溶融押出時にドラムに接触した面、以下D面と表記)に、ダイコーターを用いて乾燥後の積層厚みが8μmになるように塗液を塗布し、60℃で1分間乾燥させて多孔層を形成し、多孔質フィルムを作製した。
【0110】
(比較例1)
実施例2で多孔層を形成する前の多孔フィルムをそのまま評価した。
【0111】
(比較例2〜4)
表2−2に示す処方にて組成物を計量・混合し、多孔層形成用の塗剤を調製した。実施例2の多孔フィルムの片面(溶融押出時にドラムに接触した面、以下D面と表記)に、ダイコーターを用いて乾燥後の積層厚みが8μmになるように塗液を塗布し、100℃で1分間乾燥させて多孔層を形成し、多孔質フィルムを作製した。
【0112】
(塗剤に使用した組成物)
(粒子)
A:炭酸カルシウム 宇部マテリアルズ(株)製“CS−4N A”、平均粒子径0.5μm、アスペクト比1.2
B:炭酸カルシウム 宇部マテリアルズ(株)製“CS−3N C”、平均粒子径1.5μm、アスペクト比1.2
C:シリカ 電気化学工業(株)製“SFP−30”、平均粒子径0.7μm、アスペクト比1
D:アルミナ キンセイマテック(株)製“セラフ 2025”、平均粒子径2.0μm、アスペクト比10
(結着剤)
A:変性ポリエチレン水分散体、三井化学製、“ケミパールM−200”、固形分濃度20質量%水希釈品、樹脂の軟化点 90℃
B:変性ポリエチレン水分散体、三井化学製、“ケミパールS−200”、固形分濃度20質量%水希釈品、樹脂の軟化点 75℃
C:変性ポリエチレン水分散体、中京油脂(株)製、固形分濃度20質量%、樹脂の軟化点 95℃
D:スチレンブタジエンラバー水分散体、JSR(株)製“TRD2001”、固形分濃度20質量%水希釈品、樹脂の軟化点 125℃
E:PVDF/アクリル分散体、アルケマ社製“カイナーアクアテック”、固形分濃度
20質量%、樹脂の融点 160℃
F:ポリビニルアルコール水分散体、クラレ(株)“PVA−117”、固形濃度分20質量%、樹脂の融点 150℃
(増粘剤)
カルボキシメチルセルロース(CMC) ダイセルファインケム(株)製“ダイセルCMC2200”
実施例2〜
9、参考例1、比較例1〜4のサンプルについての評価結果を表3−1、3−2に示す。
【0113】
【表1-1】
【0114】
【表1-2】
【0115】
【表2-1】
【0116】
【表2-2】
【0117】
【表3-1】
【0118】
【表3-2】