(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膨張行程気筒に燃料を供給しこの燃料に点火して発生した燃焼圧力で内燃エンジンをクランキングするとともに、前記内燃エンジンに対してクラッチを介して連結された電動機でクランキングをアシストして前記内燃エンジンを始動する膨張行程燃焼始動モードを有する前記内燃エンジンの始動を制御する内燃エンジン始動制御装置であって、
前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定する着火性判定部と、
前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であれば前記クラッチを膨張行程燃焼始動モード用の伝達トルク容量にし、前記膨張行程気筒が着火性良好な状態でなければ前記内燃エンジンの燃焼圧力を利用しなくても前記内燃エンジンを始動できる回転トルクを前記電動機から伝達できるように前記クラッチを通常始動用の伝達トルク容量にする伝達トルク容量調整部と、
を含み、
前記着火性判定部は、筒内圧力及び筒内ガス温度に基づいて、前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定し、前記筒内圧力及び前記筒内ガス温度が上昇する場合と下降する場合とで、異なる基準により前記判定を実行する、
内燃エンジン始動制御装置。
膨張行程気筒に燃料を供給しこの燃料に点火して発生した燃焼圧力で内燃エンジンをクランキングするとともに、前記内燃エンジンに対してクラッチを介して連結された電動機でクランキングをアシストして前記内燃エンジンを始動する膨張行程燃焼始動モードを有する前記内燃エンジンの始動を制御する内燃エンジン始動制御方法であって、
前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定する着火性判定手順と、
前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であれば前記クラッチを膨張行程燃焼始動用の伝達トルク容量にし、前記膨張行程気筒が着火性良好な状態でなければ前記内燃エンジンの燃焼圧力を利用しなくても前記内燃エンジンを始動できる回転トルクを前記電動機から伝達できるように前記クラッチを通常始動用の伝達トルク容量にする伝達トルク容量調整手順と、
を含み、
前記着火性判定手順では、筒内圧力及び筒内ガス温度に基づいて、前記膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定し、前記筒内圧力及び前記筒内ガス温度が上昇する場合と下降する場合とで、異なる基準により前記判定を実行する、
内燃エンジン始動制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による内燃エンジン始動制御装置を搭載するハイブリッド車両のパワートレインの一例を示す図である。
【0012】
車両10は、内燃エンジン1及びモータージェネレーター5によって駆動輪2を駆動するいわゆるハイブリッド車両(Hybrid Electric Vehicle)である。
図1には、フロントエンジン・リヤホイールドライブのハイブリッド車両10を例示する。
【0013】
図1に示されたハイブリッド車両10のパワートレインは、内燃エンジン1と、オートマチックトランスミッション(自動変速機)3と、モータージェネレーター5と、を含む。
【0014】
オートマチックトランスミッション3は、通常の後輪駆動車と同様に内燃エンジン1の車両前後方向後方にタンデムに配置される。
【0015】
モータージェネレーター5は、内燃エンジン1及びオートマチックトランスミッション3の間に配置される。モータージェネレーター5は、内燃エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転をオートマチックトランスミッション3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合される。モータージェネレーター5は、車両10の運転状態に応じてモーターとして作用するとともにジェネレーター(発電機)としても作用する。
【0016】
内燃エンジン1及びモータージェネレーター5の間、より詳しくは、エンジンクランクシャフト1aと軸4との間には、第1クラッチCL1が介挿される。第1クラッチCL1は、伝達トルク容量を連続的又は段階的に変更可能である。このようなクラッチとしては、たとえば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチがある。伝達トルク容量がゼロになった状態が、第1クラッチCL1が完全に切り離された状態であり、内燃エンジン1及びモータージェネレーター5の間が完全に切り離された状態である。
【0017】
第1クラッチCL1が完全に切り離されると、内燃エンジン1の出力トルクは駆動輪2に伝わらず、モータージェネレーター5の出力トルクだけが駆動輪2に伝わる。この状態で走行するモードが電気走行モード(EVモード)である。一方、第1クラッチCL1が接続されると、内燃エンジン1の出力トルクも、モータージェネレーター5の出力トルクとともに、駆動輪2に伝わる。この状態で走行するモードがハイブリッド走行モード(HEVモード)である。このように第1クラッチCL1の断続によって走行モードが切り替えられる。
【0018】
モータージェネレーター5及びディファレンシャルギヤ装置6の間、より詳しくは、軸4とトランスミッション入力軸3aとの間には、第2クラッチCL2が介挿される。なお第2クラッチCL2をオートマチックトランスミッション3の内部に配置してもよく、また、たとえば、オートマチックトランスミッション3の内部に既存する前進シフト段選択用の摩擦要素又は後退シフト段選択用の摩擦要素を流用することで実現してもよい。第2クラッチCL2も第1クラッチCL1と同様に、伝達トルク容量を連続的又は段階的に変更可能である。このようなクラッチとしては、たとえば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量及びクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチがある。伝達トルク容量がゼロになった状態が、第2クラッチCL2が完全に切り離された状態であり、モータージェネレーター5及びディファレンシャルギヤ装置6の間が完全に切り離された状態である。内燃エンジンを始動するときには、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくしてスリップ制御する。すると内燃エンジン1を始動するときのショックが駆動輪2に伝わりにくくなる。
【0019】
オートマチックトランスミッション3は、入力軸3aとともに回転するオイルポンプを内蔵しており、このオイルポンプのオイル圧によって複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、摩擦要素の締結・解放組み合わせによって伝動系路(シフト段)を決定するものとする。したがってオートマチックトランスミッション3は、入力軸3aからの回転を選択シフト段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置6によって左右の駆動輪2へ分配して伝達され、車両10の走行に供される。ただしオートマチックトランスミッション3は、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
【0020】
上述した
図1のパワートレインにおいては、停車状態からの発進などを含む低負荷・低車速で走行するときは、主として電気走行モード(EVモード)で走行する。電気走行モード(EVモード)では、内燃エンジン1からの動力が不要であるので、内燃エンジン1を停止する。そして、第1クラッチCL1を解放する。また第2クラッチCL2を締結する。さらにオートマチックトランスミッション3を動力伝達状態にする。この状態でモータージェネレーター5を駆動する。するとモータージェネレーター5からの出力回転のみがトランスミッション入力軸3aに達する。オートマチックトランスミッション3は、入力軸3aから入力した回転を選択中のシフト段に応じ変速して、トランスミッション出力軸3bから出力する。トランスミッション出力軸3bから出力された回転は、その後、ディファレンシャルギヤ装置6を経て駆動輪2に至る。このようにして、車両10は、モータージェネレーター5のみによって電気走行(EVモード走行)する。
【0021】
高負荷・高車速で走行するときは、主としてハイブリッド走行モード(HEVモード)で走行する。ハイブリッド走行モード(HEVモード)では、内燃エンジン1を始動し、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2をともに締結し、オートマチックトランスミッション3を動力伝達状態にする。この状態では、内燃エンジン1からの出力回転及びモータージェネレーター5からの出力回転がトランスミッション入力軸3aに達する。オートマチックトランスミッション3は、入力軸3aから入力した回転を選択中のシフト段に応じ変速して、トランスミッション出力軸3bから出力する。トランスミッション出力軸3bから出力された回転は、その後、ディファレンシャルギヤ装置6を経て駆動輪2に至る。このようにして、車両10は、内燃エンジン1及びモータージェネレーター5によってハイブリッド走行(HEVモード走行)する。またHEVモード走行中に、内燃エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合がある。このような場合には、余剰エネルギーによってモータージェネレーター5を作動させて余剰エネルギーを電力に変換し、この電力をモータージェネレーター5のモーター駆動に用いるよう蓄電する。このようにすることで、内燃エンジン1の燃費が向上する。
【0022】
EVモードからHEVモードに移行するときは、内燃エンジン1を始動する必要がある。そこで、第1クラッチCL1の伝達トルク容量を上げてモータージェネレーター5の回転トルクを内燃エンジン1に伝達して、モータージェネレーター5でクランキングする。
【0023】
しかしながら、このようにしては、モータージェネレーター5によるクランキングトルクを確保してたうえで、余剰のトルクで走行しなければならず、モータージェネレーター5が本来出力可能なトルクよりも小さなトルクでしか走行できない。したがって、EVモードの走行域が狭められてしまい、EV走行による燃費向上効果が低下してしまう。
【0024】
そこで、本実施形態では、膨張行程の気筒に燃料を供給しこの燃料に点火して発生した燃焼圧力で内燃エンジン1をクランキングできる場合には、このクランキングを優先する。そして、さらにモータージェネレーター5の回転トルクを内燃エンジン1に伝達して、モータージェネレーター5でクランキングをアシストする(膨張行程燃焼始動モード)。このようにすれば、モータージェネレーター5によるクランキングトルクを小さくでき、その分、EVモードの走行域を広げることができ、EV走行による燃費向上効果が大きくなる。
【0025】
ところで、内燃エンジン1の燃焼圧力によるクランキング始動を試みたが、内燃エンジンが始動(完爆)しない事態も想定される。このような場合に、内燃エンジンが始動(完爆)しないことを受けて、第1クラッチCL1の伝達トルク容量をさらに上げてモータージェネレーター5による始動トルクを増大することも考えられる。
【0026】
しかしながら、このようにしては、内燃エンジンを実際に始動できるまでに時間を要することとなるので、運転性に悪影響を与えてしまう。
【0027】
そこで、発明者らは、鋭意研究し、内燃エンジン1の燃焼圧力を利用するクランキング始動が可能であるか否かを正確に判定し、可能であるときにのみ燃焼圧力を利用するクランキング始動を試みるようにした。このようにすることで、無用に燃焼圧力を利用するクランキング始動を試みてしまって、実際に失敗してから始動モードを変える事態にならず、運転性に悪影響を与えてしまうことを防止できるのである。具体的な内容は、以下で説明される。
【0028】
図2は、着火性判定部の内容を示すブロック図である。
【0029】
着火性判定部100は、膨張行程の気筒に供給された燃料が着火可能な混合気を形成するか否かを判定する。着火性判定部100は、筒内ガス温度判定部110と、筒内圧判定部120と、乗算器130と、を含む。
【0030】
筒内ガス温度判定部110は、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを、筒内ガス温度に基づいて判定する。筒内ガス温度が低ければ燃料が気化しにくく、着火しにくくなる。そこで、筒内ガス温度判定部110は、筒内ガス温度が温度閾値A0を超えるか否かを判定する。筒内ガス温度判定部110は、筒内ガス温度が温度閾値A0を超えればイチを出力し、超えなければゼロを出力する。なお筒内ガス温度を直接検出することは、困難である。そこで、冷却水温などに基づいて推定する。温度閾値A0は、良好な着火性が得られる筒内ガス温度の基準値である。これらの具体的な設定方法については後述する。
【0031】
筒内圧判定部120は、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを、筒内圧に基づいて判定する。内燃エンジン1は、直噴エンジンであり、筒内圧が高いほど、筒内に噴射された燃料が筒内で分散せず点火プラグ周辺で濃混合気状態を形成し、着火性が向上する。そこで、筒内圧判定部120は、筒内圧が筒内圧閾値B0を超えるか否かを判定する。筒内圧判定部120は、筒内圧が筒内圧閾値B0を超えればイチを出力し、超えなければゼロを出力する。なお筒内圧閾値B0は、良好な着火性が得られる燃圧の基準値であるが、具体的な設定方法については後述する。
【0032】
乗算器130は、筒内ガス温度判定部110の出力と、筒内圧判定部120の出力とを乗算する。これによって、乗算器130は、筒内ガス温度が温度閾値A0を超えかつ筒内圧が筒内圧閾値B0を超える場合にはイチを出力して膨張行程燃焼始動を許可する。筒内ガス温度が温度閾値A0を超えない又は筒内圧が筒内圧閾値B0を超えない場合にはゼロを出力して膨張行程燃焼始動を許可しない。
【0033】
図3は、筒内ガス温度推定部の内容を示すブロック図である。
【0034】
筒内ガス温度推定部200は、筒内ガス温度を推定する。筒内ガス温度推定部200は、壁温算出部210と、加算器220と、出力切替スイッチ部230と、を含む。
【0035】
壁温算出部210は、冷却水温を入力してシリンダーボアの壁温を算出する。具体的には、予め演算マップが設定されており、この演算マップに冷却水温を適用して壁温を求める。なお演算マップの具体的な内容については後述する。
【0036】
加算器220は、壁温に、壁温→ガス温度変換係数を加算して、推定筒内ガス温度を出力する。なお壁温→ガス温度変換係数の具体的な内容については後述する。
【0037】
出力切替スイッチ部230は、膨張行程燃焼を実行する条件が成立しているか否かによって出力を切り替える。この条件について例を挙げるとたとえば以下である。エンジン冷却水温が低く、暖機が完了していなければ、膨張行程燃焼を実行できないので、条件が不成立である。また何らかの理由によって、エンジン冷却水温が異状上昇する場合がある。このような場合にも、膨張行程燃焼を実行できない。また気圧が低ければ空気密度が下がるので、燃焼圧力が十分に得られないおそれがある。そこで、気圧が基準気圧よりも低ければ、膨張行程燃焼を実行できない。また寒地などで外気温が低いことがある。このような場合には筒内に噴射された燃料が十分に気化できないおそれがある。このような場合にも、膨張行程燃焼を実行できない。このように、エンジン冷却水温、気圧、外気温の少なくともいずれかひとつに基づいて、膨張行程燃焼を実行できるか否かを判定する。なお、エンジン冷却水温、気圧、外気温の条件を適宜組み合わせて判定してもよい。また他の条件によって判定してもよい。上述のように、着火性判定部100が、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定するが、そのような判定をすることなく、膨張行程気筒が着火できないことが明らか場合がある。ここではそのような大まかな事前判定を行っているのである。
【0038】
出力切替スイッチ部230は、膨張行程燃焼を実行する条件が成立していれば、加算器220の出力(推定筒内ガス温度)を出力する。膨張行程燃焼を実行する条件が成立しなければ、ゼロを出力し、加算器220の出力(推定筒内ガス温度)を出力しない。
【0039】
図4は、壁温算出部210の演算マップについて説明する図である。
【0040】
演算マップは、実測データに基づいて設定されている。
図4は実測データの一例を示す。
図4の横軸は水温、縦軸は壁温である。シリンダーボアの上部、中部、下部の冷却水温と壁温との相関をプロットした。いずれの箇所でも、冷却水温の上昇に対して一定勾配で壁温が上昇することが判る。この関係を利用して、壁温算出部210は、冷却水温を入力してシリンダーボアの壁温を算出する。具体的には、冷却水温に対して所定の変換温度を加算してシリンダーボアの壁温を算出すればよい。
【0041】
図5は、壁温→ガス温度変換係数について説明する図である。
図5(A)の横軸は内燃エンジンが停止してからの経過時間、縦軸が温度である。図中、破線が壁温Twall、実線がピストンがTDCにあるときの筒内ガス温Tgas_TDC、一点鎖線がピストンがBDCにあるときの筒内ガス温Tgas_BDCである。また
図5(B)の横軸は内燃エンジンが停止してからの経過時間であって
図5(A)の一部にあたる時間を取りだした。縦軸が壁温との温度差である。図中、実線がピストンがTDCにあるときの筒内ガス温と壁温との温度差ΔTgas_TDC(=Tgas_TDC − Twall)、一点鎖線がピストンがBDCにあるときの筒内ガス温と壁温との温度差ΔTgas_BDC(=Tgas_BDC − Twall)である。
【0042】
図5(A)から判るように、壁温Twallは、時間の経過につれて徐々に低下する。筒内ガス温Tgas_TDCは、初期は、壁温Twallよりも高温であるが、時間の経過につれて低下し、壁温Twallに一致する。筒内ガス温Tgas_BDCは、初期は、筒内ガス温Tgas_TDCと同じであるが、筒内ガス温Tgas_TDCよりも温度変化が遅いものの、やがて壁温Twallに一致する。
【0043】
温度差を見ると、
図5(B)から判るように、初期は、温度差ΔTgas_TDCが大きいものの、やがてゼロに収束する。温度差ΔTgas_BDCは、温度差ΔTgas_TDCに比べれば温度変化が遅いものの、やがてゼロに収束する。
【0044】
壁温→ガス温度変換係数は、このような傾向に沿って設定される。すなわち、内燃エンジンが停止してからの時間が経過するほどゼロに近づくように設定されたり、さらにピストン位置に応じて温度変化を設定すればよい。なお
図5は、ピストン位置が上死点及び下死点の場合のデータであるが、それらの間の位置については、上死点のデータ及び下死点のデータに基づいて補間すればよい。
【0045】
なおゼロの収束するまで要する時間は、数秒から十数秒であり短時間である。また大きさもさほど大きくないので、壁温算出部210がシリンダーボアの壁温を算出するときの誤差範囲内であると考えることもできる。そこで、簡易的には、壁温→ガス温度変換係数をゼロとしても良い。
【0046】
図6は、温度閾値A0の設定方法の一例を示す図である。
図6の横軸が筒内ガス温度、縦軸が着火率である。なお着火率とは、着火を試みた回数のうち実際に着火した回数の割合である。着火率100%とは、100回着火を試みて100回とも実際に着火する状態である。筒内ガス温度が低いときには、着火率が下がる。所定温度A0で着火率100%になる。本実施形態では、この温度A0を温度閾値として設定した。
【0047】
図7は、筒内圧推定部の内容を示すブロック図である。
【0048】
筒内圧推定部300は、筒内圧を推定する。筒内圧推定部300は、補正係数演算部310と、加算器320と、乗算器330と、出力切替スイッチ部340と、を含む。
【0049】
補正係数演算部310は、内燃エンジンを停止してからの経過時間に基づいて補正係数を演算する。十分時間が経過していれば筒内圧は大気圧に収束しているので、そのときは、乗算器330から大気圧相当の圧力が出力されるように、補正係数演算部310は、補正係数を演算する。なお簡易的には、経過時間にかかわらず、乗算器330から大気圧相当の圧力が出力されるように、補正係数演算部310が補正係数を演算してもよい。
【0050】
加算器320は、大気圧検出値と筒内圧初期値とを加算する。なお筒内圧初期値は、より精度を上げるには、クランクアングルを考慮して設定すればよい。しかしながら、内燃エンジンが停止するときのクランクアングルは、内燃エンジンの仕様によって定まる各気筒の筒内圧バランスによって、略一定に落ち着く。そこで、簡易的には予め設定されている定数を用いてもよい。
【0051】
乗算器330は、加算器320から出力される圧力に、補正係数演算部310から出力される補正係数を乗算する。上述のように、内燃エンジンを停止してから十分時間が経過していれば筒内圧は大気圧に収束しているので、そのときは、乗算器330から大気圧相当の圧力が出力される。
【0052】
出力切替スイッチ部340は、膨張行程燃焼を実行する条件が成立しているか否かによって出力を切り替える。具体的な内容は、出力切替スイッチ部230と同じであるので、詳細を省略する。出力切替スイッチ部340は、膨張行程燃焼を実行する条件が成立していれば、乗算器330の出力(推定筒内圧)を出力する。膨張行程燃焼を実行する条件が成立しなければ、ゼロを出力し、乗算器330の出力(推定筒内圧)を出力しない。
【0053】
図8は、筒内圧閾値B0の設定方法の一例を示す図である。
図8の横軸が筒内圧、縦軸が着火率である。
【0054】
筒内圧が低いときには、着火率が下がる。所定圧力B0で着火率100%になる。本実施形態では、この圧力B0を筒内圧閾値として設定した。
【0055】
以上の内容をまとめると、ようするに本実施形態では
図9に示されるように、筒内ガス温度が温度閾値A0よりも高く、かつ筒内圧が筒内圧閾値B0よりも高い場合に、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるとして、膨張行程燃焼を許可しているのである。
【0056】
図10は、第1クラッチCL1の伝達トルク容量の設定方法について説明するフローチャートである。
【0057】
ステップS100においてコントローラーは、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定する。具体的な内容は、着火性判定部100と同じである。
【0058】
ステップS101においてコントローラーは、第1クラッチCL1の伝達トルク容量を、膨張行程燃焼始動モード用の伝達トルク容量にする。
【0059】
ステップS102においてコントローラーは、内燃エンジンの燃焼圧力を利用しなくても内燃エンジンを始動できる回転トルクをモータージェネレーター5から伝達できるように、第1クラッチCL1の伝達トルク容量を、通常始動モード用の伝達トルク容量にする。
【0060】
以上、説明した実施形態によれば、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定して、着火性良好な状態であればクラッチを膨張行程燃焼始動モード用の伝達トルク容量にし、着火性良好な状態でなければクラッチを通常始動モード用の伝達トルク容量にして、内燃エンジンを始動するようにした。もし、このようにしなければ、実際に膨張行程燃焼始動に失敗してから、燃焼圧力を利用しなくても内燃エンジンを始動できるモードに変更して、モータージェネレーター5でクランキングする必要がある。しかしながら、このようにしては、内燃エンジンを実際に始動できるまでに時間を要することとなるので、運転性に悪影響を与えてしまう。しかしながら、本実施形態では、燃焼圧力を利用したクランキングに失敗することを事前に回避できるので、実際に失敗してから始動モードを変える事態にならず、運転性に悪影響を与えてしまうことを防止できるのである。
【0061】
また本実施形態では、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを、筒内圧及び筒内ガス温度に基づいて判定する。このようにしたので、正確に判定できる。
【0062】
また本実施形態では、筒内ガス温度を、少なくとも既知の冷却水温に基づいて推定する。このようにしたので、コストの無用な増大を招かない。また内燃エンジンを停止してからの経過時間を考慮すればさらに正確に推定できる。
【0063】
また本実施形態では、筒内圧を、少なくとも大気圧(雰囲気圧)に基づいて推定する。この点でも、コストの無用な増大を招かない。また内燃エンジンを停止してからの経過時間を考慮すればさらに正確に推定できる。
【0064】
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態の着火性判定部の内容を示すブロック図である。
【0065】
この第2実施形態では、筒内ガス温度が上昇する場合と下降する場合とで、温度閾値を別の値に設定する。また筒内圧が上昇する場合と下降する場合とで、筒内圧閾値を別の値に設定する。つまり、第1実施形態の
図9に示される閾値が、本実施形態では、筒内ガス温度が上昇する場合と下降する場合とで別の値に設定されるとともに、筒内圧が上昇する場合と下降する場合とで別の値に設定される。このように設定されることで、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを、一層精緻に判定できるのである。
【0066】
(第3実施形態)
図12は、第3実施形態の判定マップの一例を示す図である。
【0067】
この第3実施形態では、着火性判定部は、予め設定された判定マップに筒内圧及び筒内ガス温度を適用して、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを判定する。このようにしても、膨張行程気筒が着火性良好な状態であるか否かを、精緻に判定できるのである。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0069】
たとえば、
図1に示された車両は一例に過ぎず、他のタイプのハイブリッド車両であってもよい。また走行モーターを用いないコンベンショナルな内燃エンジン車両であってもよい。
【0070】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。