(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、本発明にかかる振動波モータ1の第1実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の振動波モータ1をレンズ鏡筒100に搭載した例を示した図である。
振動波モータ1はギアユニットモジュール101に取り付けられ、ギアユニットモジュール101はレンズ鏡筒100の固定筒102に取り付けられている。
振動波モータ1の出力ギア2は、ギアユニットモジュール101の減速ギア103を介して、カム環104に回転運動が伝達され、カム環104は回転駆動する。
カム環104には、周方向に対して斜めにキー溝105が切られており、そのキー溝105に固定ピン106が挿入されたAF環107は、カム環104が回転駆動することにより、光軸方向に直進方向に駆動され、所望の位置に停止できる。
回路108は、レンズ鏡筒100の外側固定筒102Aと内側固定筒102Bの間に設けられ、振動波モータ1の駆動、制御、回転数の検出等を行う。
【0009】
図2は、第1実施形態の振動波モータ1を説明する図である。
第1実施形態では振動子3側を固定とし、相対運動部材4(移動子)を駆動する。
振動子3は、後で説明する様に電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子等を例とした電気−機械変換素子(以下、圧電体5と称する)と、圧電体5を接合した弾性体6とを備え、振動子3には振動波が発生する。
【0010】
弾性体6は、共振先鋭度が大きな金属材料から成っている。
図3は弾性体6の形状を説明する図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。図示するように弾性体6は円環形状となっている。
弾性体6はベース部7と突起部8とを有する。
突起部8は、ベース部7の上面に円周方向に対して等分に6箇所設けられており、突起部8の先端面が駆動面8aとなり相対運動部材4に加圧接触される接触部である。また、ベース部7の下面の突起部8が無い面に圧電体5が接合される。
【0011】
ベース部7には内径側にフランジ7aが延伸され、フランジ7aの最内径部にて固定部材9により固定されている。なお、
図3はフランジ7aを省略した図となっている。
弾性体6の突起部8の駆動面8aには摺動部材として塗装膜や潤滑メッキが施されている。
弾性体6のベース部7には、後で説明する様に、周方向に沿って二種類の面外曲げ3次振動が発生する。
一つの振動は、突起部8の位置が振動の腹部になる振動で、もう片方の振動は、突起部8の位置が振動の節部になる振動であり、突起部8から突起部8までの距離がこの曲げ振動の1/2波長分にあたる。
【0012】
圧電体5は、PZTと呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛、または、環境問題から鉛フリーの材料であるニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、カリウムチタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナト2リウム、チタン酸ビスマスカリウム等から構成してもよい。
圧電体5の表面には、後で詳細を説明するが、電極が配置され、それは円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に分かれている。各相においては、1/2波長毎に交互に分極されている。
圧電体5の弾性体6の接着面側との反対面には、駆動信号を伝達するためにフレキシブルプリント基板(FPC)10が接合され、回路108に伸びている。
相対運動部材4は、アルミニウムといった軽金属からなり、摺動面の表面には耐摩耗性向上のための表面処理が成されている。
【0013】
出力軸11は、ゴム部材12と軸のDカットにはまるように挿入されたストッパー部材13を介して相対運動部材4に結合されている。
出力軸11とストッパー部材13はEクリップ14等により固定され、相対運動部材4と一体に回転する。ストッパー部材13と相対運動部材4との間のゴム部材12は、ゴムによる粘着性で相対運動部材4とストッパー部材13と結合する機能があり、かつ相対運動部材4からの振動を出力軸11へ伝えないための振動吸収との機能があるブチルゴム等が好適である。
【0014】
加圧部材15は、出力軸11の出力ギア2とベアリング16の間に設けられている。この様な構造をとることで、相対運動部材4が振動子3の駆動面8aに加圧接触する。
【0015】
図4は圧電体5および電極パターンを説明する図である。
圧電体5の片面側は、
図4の様な電極パターンが設けられている。本実施形態では、図示する面5aは、弾性体6との接合面5bと反対側の面となっている。
一方、弾性体6の接合面5bは、全面電極となっており、弾性体6がGNDになる様にされている。
【0016】
電極パターンは、面外曲げ振動の波長の1/4波長の大きさで、周方向に配置され、A相が入力される電極Aと、B相が入力される電極Bとが交互に配置されている。
電極Aは、円周方向に対して、電極の真ん中が突起部8に位置する様になっており、電極Bは、円周方向に対して、突起部8と突起部8との間に電極の真ん中が位置する。
【0017】
電極Aだけ見ると、円周方向に沿って(+)(−)と交互に分極されている。また、電極Bだけ見ると、円周方向に沿って(+)(−)と交互に分極されている。
【0018】
本実施形態で圧電体5は、d31圧電現象を利用している。
これは、分極方向(3方向)に電圧を印加すると、円周方向(1方向)に変位が生じる現象である。圧電体5の厚さ方向に電圧を加えると、圧電体5には伸び変位、縮み変位が発生し、これにより弾性体6ベース部7が曲げ変位が生じる。駆動信号を交流電圧とすると、ベース部7には面外曲げ振動(定在波)が発生する。
【0019】
従って、電極AへのA相の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の腹部に位置する振動が生じ、電極BへのB相の入力により、弾性体6ベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の節部に位置する振動が生じる。
【0020】
図5は、本実施形態の振動波モータ1の駆動装置20を説明するブロック図である。まず、振動波モータ1の駆動/制御について説明する。
【0021】
発振部22は、制御部21の指令により所望の周波数の駆動信号を発生する。
移相部23は、該発振部22で発生した駆動信号を90°位相の異なる2つの駆動信号に分ける。
増幅部24は、移相部23によって分けられた2つの駆動信号をそれぞれ所望の電圧に昇圧する。
増幅部24からの駆動信号は、振動波モータ1に伝達される。振動波モータ1では、この駆動信号の印加により振動子3に振動が発生し、その振動により相対運動部材4が駆動される。
【0022】
位置・速度検出部25は、光学式エンコーダや磁気エンコ−ダ等により構成され、相対運動部材4の駆動によって駆動された駆動物の位置や速度を検出し、検出値を電気信号として制御部21に伝達する。
制御部21は、レンズ鏡筒100内またはカメラ本体のCPUからの駆動指令を基に振動波モータ1の駆動を制御する。制御部21は、位置・速度検出部25からの検出信号を受け、その値を基に、位置情報と速度情報を得て、目標位置に位置決めされるように発振部22の周波数を制御する。
【0023】
図6を用いて、第1実施形態の振動波モータ1の動作を説明する。
図6(a)は加圧方向の振動を示し、(b)は駆動方向の振動を示す。
制御部21から駆動指令が発令されると、発振部22からは駆動信号が発生される。その駆動信号は位相部により90度位相の異なる2つの駆動信号(A相、B相)に分割され、増幅部24により所望の電圧に増幅される。
図7は、駆動信号を示すグラフであり、(a)はA相、(b)はB相を示す。
【0024】
圧電体5の電極パターンは、上述の
図4の説明のようにA相の駆動信号が入力される電極Aと、B相の駆動信号が入力される電極Bとに分けられている。
電極AへのA相の駆動信号の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の腹部に位置する3次モード振動(定在波)が発生する(
図6(a))。
それとともに、電極BへのB相の駆動信号の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の節部に位置する3次モード振動(定在波)が発生する(
図6(b))。
【0025】
突起部8が面外曲げ振動の腹部に位置する振動は、突起部8を上下方向即ち加圧方向に変位する振動となる(
図6(a))。
突起部8が面外曲げ振動の節部に位置する振動は、突起部8を回転運動させ、即ち駆動方向に変位する振動となる(
図6(b))。
【0026】
図8は、突起部8(81,82)の時系列的な動きを説明する図である。(a)は突起部81、(b)は突起部81の隣に配置される突起82の動きを示す。
突起部81は、
t=1の時は、上側へ運動し、
t=2の時は、右側へ運動し、
t=3の時は、下側へ運動し、
t=4の時は、左側へ運動し、
t=5の時は、上側へ運動、即ちt=1の時に戻る。
この様に突起部81の駆動面81aは楕円運動を発生する。
【0027】
突起部81の隣の突起部82は、
t=1の時は、下側へ運動し、
t=2の時は、左側へ運動し、
t=3の時は、上側へ運動し、
t=4の時は、右側へ運動し、
t=5の時は、下側へ運動、即ちt=1の時に戻る。
この様に突起部82の駆動面82aも楕円運動を発生する。
突起部81と突起部82とは、交互に位置しており、お互いの楕円運動は180度位相がずれたようになっている。
【0028】
本発明においては、ベース部7に突起部8(81,82)を配置し、1枚の圧電体5の接合といった構成により、振動子3の構造が非常に単純となる。
これにより駆動に必要な振動のみを励起させることが可能となり、従来の構造よりも駆動力や駆動効率を大幅に向上させることが可能となる。
また、部品点数が非常に少なくなり、組立工数も大幅に削減したため、大幅なコストダウンも達成することが出来る。
本発明の振動波モータ1は、A相入力で加圧方向の振動を発生させ、B相の入力で駆動方向の振動を発生させる方式であるが、この方式の振動波モータ1は、楕円運動の大きさや形状をコントロールできる。
【0029】
比較として、進行波型振動波モータを例について説明すると、速度制御は主に周波数や電圧によって行うが、速度を下げるため、周波数を高くする(または電圧を小さくする)と、楕円運動の駆動方向だけではなく、加圧方向も小さくなってしまう。
このため、低速時に駆動面8aの面粗さや平面度の状態によっては、回転ムラが大きくなったり、急激停止したりする場合がある。
【0030】
速度を上げるため、周波数を低くする(または電圧を大きくする)と、楕円運動の駆動方向だけではなく、加圧方向も大きくなってしまい、低加圧方向の振動が大きくなりすぎる故に異音が発生したり、消費電力が大きくなったりする場合がある。
【0031】
これに対し、この方式の振動波モータ1は、速度を下げる時には、A相の電圧を維持し、B相の電圧を下げていけば、加圧方向の振幅は確保しながら、駆動方向の振幅を小さくする状態が可能となり(この状態は楕円が縦長形状となっている)、超低速度の駆動が可能となる。
また、速度を上げる時には、A相の電圧を維持し、B相の電圧を上げていけば、駆動方向の振幅のみを大きくする状態が可能となり(この状態は楕円が横長形状となっている)、進行波型と比較して高回転でも異音の発生が生じず、消費電力も抑えることが可能となる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は第1実施形態に対して、圧電体5Aの電極パターンが異なる。
図9は第2実施形態の圧電体5Aおよび電極パターンを説明する図である。振動波モータの外観、レンズ鏡筒100に組み込んだ外観や駆動回路108については、第1実施形態と同様なため説明は省略する。
【0033】
圧電体5Aの片面側は、
図9の様な電極パターンが設けられている。
第2実施形態では、図示する面5Aaは、弾性体6との接合面とは反対面となっている。
一方、弾性体6の接合面は、第1実施形態と同様に全面電極となっており、弾性体6がGNDになる様にされている。
【0034】
電極パターンは、面外曲げ振動の波長の1/2波長の大きさで、A相が入力される電極Aが内側に、B相が入力される電極Bが外側に配置されている。
電極Aは、円周方向に対して、電極の真ん中が突起部8Aに位置する。
電極Bは、円周方向に対して、突起部8Aと突起部8Aとの間に電極の真ん中が位置する。
【0035】
電極Aだけ見ると、円周方向に沿って(+)(−)と交互に分極されていて、電極Bだけ見ると、円周方向に沿って(+)(−)と交互に分極されている。
【0036】
電極AへのA相の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の腹部に位置する振動が生じ、電極BへのB相の入力により、弾性体6ベース部7には、突起部8が面外曲げ振動の節部に位置する振動が生じる。
なお、第2実施形態においても、d31圧電現象を利用している。
【0037】
図10を用いて、第2実施形態の振動波モータの動作を説明する。
図10(a)は加圧方向の振動を示し、(b)は駆動方向の振動を示す。
第1実施形態と同様に、制御部21から駆動指令が発令されると、発振部22からは駆動信号が発生される。その駆動信号は移相部23により90度位相の異なる2つの駆動信号(A相、B相)に分割され、増幅部24により所望の電圧に増幅される。駆動信号A相、B相は、第1実施形態の
図7と同様である。
【0038】
圧電体5Aは上述のようにA相の駆動信号が入力される電極Aと、B相の駆動信号が入力される電極Bとに分けられている。
駆動信号A相、B相はそれぞれ圧電体5Aの電極Aと電極Bとに印加される。すると、電極AへのA相の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8A1が面外曲げ振動の腹部に位置する3次モード振動が発生する。電極BへのB相の入力により、弾性体6のベース部7には、突起部8A2が面外曲げ振動の節部に位置する3次モード振動が発生する。
突起部8が面外曲げ振動の腹部に位置する振動は、突起部8を上下方向即ち加圧方向に変位する振動となる(
図10(a))。突起部8が面外曲げ振動の節部に位置する振動は、突起部8を回転運動させ、即ち駆動方向に変位する振動となる(
図10(b))。
【0039】
本実施形態においても、ベース部7に突起部8A(8A1,8A2)を配置し、1枚の圧電体5の接合といった構成により、振動子3の構造が非常に単純となり、これにより駆動に必要な振動のみを励起させることが可能となる。これにより、従来の構造よりも駆動力や駆動効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0040】
また、部品点数が非常に少なくなり、組立工数も大幅に削減したため、大幅なコストダウンも達成することが出来る。
第1実施形態においては、円周方向に対して、電極パターンは1/4波長となっているが、第2実施形態では、A相、B相とも円周方向に対して、電極パターンを1/2波長を確保することができる。このため、第1実施形態よりも曲げ振動の励起が有利になることから、駆動力を向上させることが可能である。
また、第1実施形態と同様に、A相入力で加圧方向の振動を発生させ、B相の入力で駆動方向の振動を発生させる方式であるが、この方式の振動波モータ1は、楕円運動の大きさや形状をコントロールできる。
【0041】
以上、上述の実施形態において、突起部8,8Aは6箇所で、面内3次曲げ振動モードを例として説明した。しかし、この組み合わせに限定されない。例えば、駆動性能面では劣るが、突起部8を3箇所で、面内3次曲げ振動モードでも駆動可能となる。
【0042】
突起部8,8Aは、相対運動部材4の摺動面との接触を確保するためには、3箇所以上が好適である。
【0043】
また、駆動性能面では、(突起部数÷2)の次数の曲げ振動が好適である。例えば、突起部数が8なら、4次曲げ振動が好適である。突起部数が10なら、5次曲げ振動が好適である。3次の曲げ振動は、振幅が大きく出来るため、振動次数が大きい場合よりも有利である。
【0044】
実施形態では突起部8,8Aを設け、その突起部8,8Aの駆動面8aが相対運動部材4の摺動面と接触するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、突起部8,8Aを設けず、ベース部7の表面が直接、相対運動部材4の摺動面と接触する構成であってもよい。